説明

高表面積ナノ多孔性触媒の製造方法および触媒支持構造物

本発明は、高表面積でナノ多孔性のセラミック酸化物触媒構造物の製造方法およびその工程から得られる触媒構造物を提供する。本発明の方法の見地からは、高表面積でナノ多孔性のセラミック酸化物触媒構造物の製造方法が得られる。この方法は、a)水性の供給原料(feedstock)溶液を作る。ここで、この溶液は、第1の金属塩と第2の金属塩とを含んでおり、該第1の金属塩は熱に対して不安定な金属塩であり、該第2の金属塩は水溶性であり熱に対して安定な金属塩であり(典型的には、アルカリ金属塩である)、上記供給原料溶液を噴霧乾燥(spray drying)し、第1の中間生成物を生成する。c)上記第1の中間生成物を焼成し、第2の中間生成物を生成する。d)上記第2の中間生成物を洗浄し、上記第2の金属塩を除去して第3の中間生成物を生成する。e)上記第3の中間生成物を濾過して乾燥させることにより、高表面積で、ナノ多孔性で、中空の球形形態を有するセラミック酸化物触媒構造物を得る。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、高表面積でナノ多孔性のセラミック酸化物触媒構造物の製造方法およびその工程から得られる触媒構造物に関する。
【0002】
〔背景技術〕
触媒性能は、利用可能な表面積と関係がある。したがって、科学者や研究者は、利用可能な表面積の増大を主に二つの異なる方法で追求してきた。1つめは、ハチの巣、ビーズ、繊維のような支持構造物上に触媒を載置することに関する。これは、単に露出した頂上表面からではなく、異なった角度からの触媒の利用を提供する。2つめでは、研究者は、触媒そのものに着目し、全表面積が著しく増大するように、小さなサイズの材料あるいは多孔性の高い材料を形成してきた。
【0003】
ある者は、ナノサイズの粒子としての単体あるいは酸化物の混合物の製造を通して、表面積問題を処理してきた。例えば、米国特許6,440,383は、チタンを含む溶液、特にチタン塩化物溶液から、超微粒子すなわちナノサイズの二酸化チタンを製造する、湿式冶金(湿式製錬)(hydrometallurgical)工程を議論している。この工程は、溶液の沸点より高く、かつ、結晶が著しく成長する温度より低い温度で、溶液の完全な蒸発によって行われる。粒子サイズを制御するために、化学的な制御添加物を添加してもよい。焼成後、ナノサイズの要素粒子が形成される。
【0004】
米国特許6,548,039は、チタンを含む溶液から顔料級の二酸化チタンを製造する湿式冶金工程を報告している。この工程は、温度を良好に制御しながら、完全な蒸発により溶液を加水分解し、特性のはっきりした酸化チタンを形成する工程を含んでいる。加水分解は、噴霧乾燥器(spray dryer)中での噴霧加水分解(spray hydrolysis)によって行える。加水分解後、酸化チタンは焼成され、好ましい様態の二酸化チタンへと変化する。二酸化チタンは、アナタース形二酸化チタンまたはルチル形二酸化チタンとすることができる。焼成後、二酸化チタンを製粉機にかけ、所望の粒子サイズ域のものを供給し、終了する。
【0005】
米国特許6,689,716では、触媒支持体として使用可能なミクロ多孔性の構造物を製造する工程を議論している。この工程は、金属塩の水溶液と、低濃度の化学制御剤とを混合し、中間の溶液を生成する。この溶液は、沈殿物がないほうが好ましい。ミクロ多孔性の構造物は、高多孔性と、高い熱安定性とを有し、高い機械強度と比較的高い表面積とを併せ持っている。
【0006】
本発明の目的は、高表面積でナノ多孔性のセラミック酸化物触媒構造物の新規な製造方法を提供することにある。さらなる目的は、その工程を用いて製造されたセラミック酸化物の触媒構造物を提供することにある。
【0007】
〔発明の開示〕
本発明は、高表面積でナノ多孔性のセラミック酸化物触媒構造物の製造方法およびその工程から得られる触媒構造物を提供する。
【0008】
本発明の方法の見地からは、高表面積でナノ多孔性のセラミック酸化物触媒構造物の製造方法が得られる。この方法は、
a)水性の供給原料(feedstock)溶液を作る。該溶液は、第1の金属塩と第2の金属塩とを含んでおり、該第1の金属塩は熱に対して不安定な金属塩であり、該第2の金属塩は水溶性であり熱に対して安定な金属塩であり(すなわち、約1000℃まで安定である)、典型的には、アルカリ金属塩である。
b)上記供給原料溶液を噴霧乾燥(spray drying)して第1の中間生成物を生成する。
c)上記第1の中間生成物を焼成して第2の中間生成物を生成する。
d)上記第2の中間生成物を洗浄し、上記第2の金属塩を除去して第3の中間生成物を生成する。
e)上記第3の中間生成物を濾過して乾燥させることにより、高表面積でナノ多孔性のセラミック酸化物触媒構造物を得る。
【0009】
本発明の製造物の見地からは、ナノ多孔性のセラミック酸化物触媒が得られる。一実施形態では、触媒は、チタン、錫、モリブデン、銅、シリカ、ゲルマニウム、アルミニウム、ガリウム、バナジウム、ハフニウム、イットリウム、ニオブ、タンタル、ビスマス、鉛、セリウム、タングステン、コバルト、マンガン、ヒ素、ジルコニウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムとその混合物から構成される。触媒のマクロ構造は、ほぼ球形であり、一般に1mmないし500mm大の主要な粒子から構成され、触媒粒子の表面積は、50m2/gないし300m2/gの場合が多い。
【0010】
〔発明の詳細な説明〕
本発明の一般的方法を図1に示す。熱に不安定な金属塩(2)と不活性な金属塩(4)とを混合する。なお、反応性の高い塩(6)を添加してもよい。この混合により供給原料溶液(10)が得られる。供給原料溶液(10)は、噴霧乾燥処理(20)に付され、その結果、固体の酸化物材料(30)が焼成される。焼成された材料(40)は洗浄される。典型的には、水溶液で洗浄される。それにより不活性塩を除去する。次いで濾過(50)に付され、乾燥させて、本発明の構成物を得る。この方法について、以下でより詳細に述べる。
【0011】
ひとつのケースとして、本発明に用いられる供給原料溶液は、熱に不安定な金属塩(すなわち「不安定塩」)と熱的に不活性な金属塩(すなわち「不活性塩」)とを、適切な溶媒中で混合することによって得られる。この溶媒は、典型的には、水か希酸である。上記不安定塩は、噴霧乾燥処理の間に熱分解して非晶質の酸化物を生成する塩であればどのようなものでもよい。このような塩の例としては、これに限定されないが、以下の金属の、塩化物、酸塩化物、硝酸塩、亜硝酸塩、硫酸塩、オキシ硫酸塩(oxysulfates)を含む。すなわち、チタン、錫、モリブデン、銅、シリカ、ゲルマニウム、アルミニウム、ガリウム、バナジウム、ハフニウム、イットリウム、ニオブ、タンタル、ビスマス、鉛、セリウム、タングステン、コバルト、マンガン、ヒ素、ジルコニウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムとその混合物である。このような塩のその他の例は、水溶性の、酢酸塩、クエン酸塩や、酸化環境下で用いられたときに熱的に不安定なその他の有機化合物である。
【0012】
不活性塩は、溶液中で熱に不安定な金属塩と反応して沈殿物を生成せず、本発明の熱処理の間に分解せず、本発明に用いられる温度でセラミック酸化物と反応しない水溶性無機化合物であればどのようなものでもよい。この塩は、処理の終わりにリサイクルすることさえできる。このような塩の例は、これに限定されないが、アルカリ塩やその混合物を含む。この塩は、好ましくは、以下のものから選択される。すなわち、NaCl、KCl、LiCl、Na2SO4、K2SO4、Li2SO4である。
【0013】
供給原料溶液中の不活性塩の濃度は典型的には熱分解で生じた酸化物の5ないし500重量パーセントである。好ましくは、上記塩は、10ないし100重量パーセントであり、より好ましくは、15ないし30重量パーセントである。本発明に用いられる熱安定塩の陰イオンは、熱不安定塩の陰イオンと同じであることが多い。なかでも、塩化物と塩化物との組み合わせが好ましい。
【0014】
供給原料溶液中で用いられる不活性塩は、添加するのではなくin situで生成するような場合もありうる。例えば、塩化ナトリウムは、TiOCl2を含有する溶液中で炭酸ナトリウムと過剰の塩酸との反応で生成する。
【0015】
供給原料溶液は、オプションとして、不安定塩と反応して金属塩の混合物を生成できる第3の金属塩(すなわち「反応塩」)を含んでもよい。この反応塩は、典型的にはMxyの式で表される。この式中、要素は以下の通りである。すなわち、Mは一般にはアルカリ土類金属(Be、Mg、Ca、Sr、Ba)、スカンジウム、イットリウム、クロム、鉄、ニッケル、または亜鉛である。Aは、一般には陰イオンである。xは一般には0ないし5の整数である。yは一般には0ないし5の整数である。
【0016】
【化1】

上記反応塩の好ましい例は、Y23とZrO2との酸化物の混合物を生成するZrOCl2系においては、YCl3である。他の反応塩の例としては、これに限定されないが、CuCl2、FeCl3、ZnCl2、NiCl2、LaCl3を含む。高温でこの目的に用いられるものとして、リチウム塩も使用可能である。このようなリチウム塩の例は、これに限定されないが、硝酸リチウムと酢酸リチウムを含む。これらは、TiOCl2系における500℃以上でTiO2を生成する際に容易に反応する。
【0017】
供給原料溶液中の金属濃度は、典型的には10ないし200g/Lである。
【0018】
供給原料溶液は、典型的には、熱い表面に接触させるか、熱い気体流中に噴霧するかで、ほぼ全体が蒸発し、中間生成物を生成する(すなわち噴霧乾燥)。噴霧乾燥は、不安定塩が分解して水に溶解しない酸化固体を生成することができる温度範囲で行われる。噴霧乾燥は、明確な結晶格子中に組織されたセラミック酸化物粒子を生成するのに必要な温度よりも低い温度で行われる。典型的には、噴霧乾燥処理は、150℃ないし350℃の温度で行われ、好ましくは200℃ないし250℃の温度である。
【0019】
噴霧乾燥処理で得られる生成物は、中空の、薄膜でできた球体または球体の一部から成る。球体の大きさは約0.1μmないし100μmで様々であり、好ましくは5μmないし50μmである。中間生成物は、非晶質の酸化物と不活性塩とのホモジーニアスな混合物である。噴霧乾燥された材料は、典型的には、次の工程すなわち焼成工程で消失する1ないし30重量パーセントの揮発分を含んでいる。
【0020】
焼成処理により、主要な粒子と酸化物の結晶物とが生成される。不安定塩の結晶と不活性塩の結晶とは、並んで(互いに隣り合って)融合し、不活性塩と酸化物との混合物からなる、より大きな粒子を生成する。酸化物粒子の特定の大きさや、特定の表面積や、結晶相と多孔性とを得るために、温度調節を用いることができる。焼成後、酸化物粒子は、スポンジのような構造物の内部で連結する。
【0021】
焼成工程は一般に250℃ないし1100℃で行われ、典型的には500℃ないし1000℃で行われる。好ましくは、焼成は、熱安定塩の融点より低い温度で行う。
【0022】
図5は、昇温に伴うYSZ粒子の大きさが増大するのを示すXRDパターンを表している。図5の表は、粒子の大きさの増大に関連する他のパラメータも示す。このようなパラメータには、熱安定塩の融点(KClでは771℃)より高い二つの温度が含まれる。多くの場合、噴霧乾燥した材料の表面積は約5m2/gであるが、焼成後は同じ材料が2次等級分(two orders of magnitude)も大きい表面積を示すようになる可能性がある。
【0023】
焼成中に粒子の、中空の球形のマクロ形状を維持することもできる。これは、熱安定塩の融点より低い温度のトレイで焼成するか、回転式焼器(rotary calciner)で焼成するかにより行える。熱安定塩の融点より高い温度で焼成する必要があるならば、中空の球形の構造を維持するには、回転式焼器か流動床を用いる必要がある。
【0024】
焼成された材料の表面積は、典型的には5ないし50m2/gの範囲である。しかしながら、脱イオン水または他の適切な溶媒(例えば、弱酸性水溶液や弱アルカリ性水溶液)で粒子を洗浄することによって、この値を実質的に増加させることができることが多い。焼成後の材料においては、酸化物と不活性塩とからなる膜は小型である。材料を適切な溶媒に置くことによって、熱安定塩の結晶が溶解する。これにより材料内に穴が空き、その結果表面積が増大する。
【0025】
洗浄されて塩が除去された酸化物触媒構造物は、中空の球形のマクロ構造へのダメージを防ぐため、比較的圧力のかからないやり方で濾過される。この処理には、典型的には、濾紙や膜を用いる重力濾過で十分である。あるいは、単一の工程に濾過と洗浄とを結合させることもできる。
【0026】
次いで材料は乾燥され、さらなる使用または処理の準備ができる。乾燥は、どのような適切な方法で行ってもよい。例えば、湿った材料を乾燥オーブンの中の棚に置いてもよい。あるいは、移動させながらベルトオーブンやプッシャーオーブン(pusher oven)を通過させてもよい。乾燥装置の別の例としては、回転式窯がある。酸化物材料を乾燥させるには、噴霧乾燥も用いることができる。
【0027】
本発明の構成物は、金属酸化物または酸化物の混合物である。この構成物が単一の金属酸化物の場合、典型的には、以下のリストから選ばれる少なくとも一つの金属成分を含んでいる。すなわち、チタン、錫、モリブデン、銅、ベリリウム、マグネシウム、シリカ、ゲルマニウム、アルミニウム、ガリウム、バナジウム、ハフニウム、イットリウム、ニオブ、タンタル、ビスマス、鉛、セリウム、タングステン、コバルト、マンガン、ヒ素、ジルコニウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムおよびそれらの混合物である。また、この構成物は、オプションとして、リチウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、スカンジウム、イットリウム、クロム、鉄、ニッケル、または亜鉛を含んでいる。
【0028】
この構成物が金属酸化物の混合物の場合、典型的には、以下のリストから選ばれる少なくとも一つの金属成分を含んでいる。すなわち、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、チタン、錫、モリブデン、銅、ベリリウム、マグネシウム、シリカ、ゲルマニウム、アルミニウム、ガリウム、バナジウム、ハフニウム、イットリウム、ニオブ、タンタル、ビスマス、鉛、セリウム、タングステン、コバルト、マンガン、ヒ素、ジルコニウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムおよびそれらの混合物である。また、この構成物は、オプションとして、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、スカンジウム、イットリウム、クロム、鉄、ニッケル、または亜鉛を含んでいる。
【0029】
本発明の構成物の表面積は、一般的には1m2/gないし300m2/gの範囲である。典型的には、5m2/gないし200m2/gの範囲である。多くの適用に対して好ましい表面積は、50m2/gないし200m2/gの範囲である。
【0030】
構成物の全体的な多孔性は、典型的には70パーセントより大きい。多孔性が90ないし98パーセントのことも多い。マクロ的な多孔性は、空きスペースの約40ないし約95パーセントの範囲で制御可能である。酸化物構造物のミクロ的な多孔性は、特定の表面積で表され、一般に、1ないし300m2/gであり、典型的には5ないし200m2/gである。
【0031】
大きさと形状については、構成物は、薄膜または殻を有する、中空で、ほぼ球形(または部分的に球形)の粒子として存在する傾向がある。球の大きさは、0.1μmないし100μm、好ましくは5μmないし40μmで、様々な値をとりうる。
【0032】
本発明の工程を用いて製造された多孔性で中空の球形の構成物は、典型的には、その体積の95パーセントまで液体を吸着できる。
【0033】
本発明の構成物は、一般的には、空気供給または水供給において有機汚染物質を光触媒的に破壊するのに用いられる。この触媒の他の使用例は、有機合成のフォグプルーフ(fog proof)のための、あるいは殺虫剤・防かび剤としての、触媒支持構造物の製造を含む。
【0034】
その他のもののうち、YSZ構造物は、熱に安定な触媒支持構造物として働くことができる。
【0035】
〔実施例〕
〔実施例1〕
TiOCl2水溶液にNaCl水溶液を加えて、約50gのTi(TiO2換算で83g)を含有する透明溶液を得た。次いで、NaClを添加して、約21gのNaCl/Lを含有する最終的な溶液を得た(最終的な溶液は、約104gの純粋な固体を含有している)。NaCl/TiO2の重量割合は0.25である。この溶液を噴霧乾燥に付して、12m2/gの表面積を有する中空の球形固体を得た。TiO2材料は、スポンジ状の薄膜へ組織され、酸化物の体積中にNaClが均一に分布していた。この固体を脱イオン水で洗浄し、酸化物からNaClを実質的に除去した。これにより、表面積が65m2/gへと増加した材料が得られた。材料の至る所でナノ穴が空いた。洗浄前後の材料のXRDパターンを図2ないし図4に示す。図2のXRDパターン(線2)は、塩に少し追い蒔き(overseeding with the salt)されていることを示している。顕著なTiO2結晶相は存在しない。示されるように、洗浄後にNaClパターンは消失し(線1)、ほとんど非晶質の酸化物のナノ塊を残すのみである。
【0036】
〔実施例2〕
塩化ナトリウムで種まき(sodium chloride-seeded)された、実施例1からの噴霧乾燥における排出物を500℃で5時間焼成した(図3、線3)。そして粒子を脱イオン水で洗浄してNaClを除去した(図3、線4)。焼成の間に、表面積は12m2/gから30m2/gに増加した。焼成した材料を脱イオン水で洗浄して粒子からNaClを除去したところ、表面積が62m2/gに増加した。図4に示すXRDパターンは、焼成前のほぼ非晶質状態のTiO2(線6)と比べて、焼成後のTiO2の、結晶性の発達(線5)を示している。比較として、NaCl無しで、500℃で5時間焼成した、同等のTiO2材料の典型的な表面積は15ないし20m2/gである。
【0037】
〔実施例3〕
TiOCl2水溶液にLiCl水溶液を加えて、約50gのTiを含有するやや黄色い液を得た。次いで、LiClを加えて、Li/Tiのモル比を4:5にした。液を噴霧乾燥し、次いで300℃で5時間焼成した。塩を脱イオン水で洗浄し、触媒構造物を乾燥させて、表面積205m2/gの材料を得た(図5のXRDパターン参照)。不溶性のTiO2材料を、多孔性の、中空の球形の薄膜に組織した。洗浄された塩は、酸化物膜の至る所で、スポンジ状の多孔性を有する、多くの孔が複雑に入り組んだものであった。焼成の間に、径およそ7nmのアナタース形結晶粒子が生成した。構造物は、酸化物の主要な粒子のサイズと同様の大きさの孔を有している。
【0038】
〔実施例4〕
TiOCl2水溶液にLiNO3水溶液を加えて、約40gのTiを含有する透明溶液を得た。次いで、LiNO3を加えて、Li/Tiのモル比を4:5にした。溶液を噴霧乾燥し、次いで300℃で5時間焼成した。塩を脱イオン水で洗浄し、触媒構造物を乾燥させて、表面積147m2/gの材料を得た。不溶性のTiO2材料を、多孔性の、中空の球形の薄膜に組織した。これにより、薄膜を通った効果のように、多くの孔が複雑に入り組んだものが生成した。焼成中にアナタース形の結晶相が発達し、すべての孔は空いて、利用可能であった。材料は、400℃で4時間、また、塩無しで、500℃で3時間焼成した。これにより、粒子が大きくなるにつれて、147m2/gから30m2/gへと表面積が顕著に減少する結果となった。しかしながら、酸化物のメソ多孔性(mesoporous character)は維持された。
【0039】
〔実施例5〕
TiOCl2水溶液にKCl水溶液を加えて、約70gのTi(を含有する溶液を得た。次いで、KClを添加して、KCl/TiO2の重量割合を0.25にした。溶液を噴霧乾燥に付して、300℃で焼成し、14m2/gの表面積を有する粒子を得た。粒子を脱イオン水で洗浄し、得られた粉末を乾燥させた。生成物の表面積は、14m2/gから207m2/gへと増加した。分析したところ、生成物中に約500ppmのカリウムがあった。
【0040】
〔実施例6〕
110gのTi/Lを含有するチタン酸塩化物溶液をNaCl−KCl−LiCl共晶構成物で処理した。塩構成物の融点は346℃であった。加えた塩構成物の総量は、溶液中のTi量の20重量パーセントであった。この量は、TiO2、すなわち、処理中に溶液から生成するTiO2における等価量の12重量パーセントに相当する。溶液を250℃で噴霧乾燥させて蒸発させ、チタン塩、すなわち無機非晶質中間生成物を得た。中間生成物を300℃、7時間で焼成した。洗浄後、特定の140m2/gの表面積を有するTiO2粒子が得られた。
【0041】
〔実施例7〕
ZrOCl2水溶液にKCl水溶液を加えて、約50gのZrを含有する溶液を得た。次いで、KClを添加して、KCl/ZrO2の重量割合を0.25にした。溶液を250℃で噴霧乾燥し、固形の非晶質の中間生成物を得た。中間生成物を500℃、600℃、700℃、800℃、900℃で焼成し、得られた粒子を脱イオン水で洗浄した。塩ではない材料(unsalted material)を使った以外は同じ条件で焼成したものと逐一(side-by-side)比較すると、焼成した材料に対する多孔性に違いがみられた。600℃とそれより高い温度では、粒子サイズは非常に小さかったが、立方から単斜晶系へのZrO2の早期相変換がみられた。分子間距離からナノ粒子を成長させる場合は、塩の結晶は、結晶粒子の酸化物分子を組織するためのテンプレートとして働く。
【0042】
〔実施例8〕
ZrOCl2とYCl3との水溶液を、ZrO2中8モルパーセントのY23の二段燃焼率(stoichiometric ratio)とし、KCl水溶液と混合した。最終的な溶液は約50gZr/Lを含有していた。ZrO2含量に基づき25重量パーセントのKClを加えた。溶液を噴霧乾燥して、500℃で7時間、600℃で6時間、700℃で5時間、800℃で4時間、900℃で3時間、焼成した。次いで粒子を脱イオン水で洗浄した。焼成材料の表面積は、それぞれ、77m2/g、63m2/g、54m2/g、51m2/g、28m2/gであった。結晶性と粒子サイズの発達は、図6および図7のXRDグラフから明らかであり、データを以下の表1に示す。材料は、塩無しで作成した材料と比べて、優れたミリング(milling)特性を有していた。材料は主要な粒子へと製粉(mill)された。製粉された材料にはもはや中空の球形構造物は存在しなかった。粒子はほぼ完璧に製粉され、分散された。
【0043】
【表1】

【0044】
〔実施例9〕
130gのTi/Lを含有するチタン酸塩化物溶液をNa2SO4塩で処理した。熱に安定で不活性な塩共晶構成物を、全部で、溶液中のTiO2量に対して20重量パーセントだけ加えた。溶液を250℃で、噴霧乾燥で蒸発させ、塩として、二酸化チタンの無機非晶質中間生成物を得た。さらに、中間生成物を、300℃、400℃、500℃、600℃、700℃、800℃で焼成した。800℃では、ルチル形結晶相は存在しなかった。図8に示す材料の対応するXRDパターンは、結晶相と粒子の発達の存在を示した。図9は、表面積数で表される、開いた多孔性の発達と粒子サイズの成長との程度を表している。TiO2粒子は、特定の表面積119m2/g(300℃で焼成し、洗浄した)のものが得られた。
【0045】
〔実施例10〕
ZrOCl2とYCl3との水溶液を、ZrO2中8モルパーセントのY23の二段燃焼率(stoichiometric ratio)とし、YSZ中8モルパーセントのNiOの率でニッケル塩の水溶液と混合した。25重量パーセントのKClを加えた。溶液を250℃で噴霧乾燥して、700℃と900℃とで焼成した。粒子を脱イオン水で洗浄してKCl塩を除去した。EDX分析がYSZ相とNiO相との分離を示したので、材料を塩酸で浸出(leach)し、再度洗浄した。浸出処理後の材料の表面積は、19m2/gから21m2/gへ(700℃)、8m2/gから9.5m2/gへ(900℃)と、少し増加した。浸出処理後のYSZ中の残留Ni濃度は500ppmより低く、相の分割が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る高表面積でナノ多孔性のセラミック酸化物触媒構造物の、製造方法の一般的な見地のフローチャートである。
【図2】実施例1に係る構成物の、洗浄前後のXRDを示す図である。
【図3】実施例1に係る構成物の、500℃での焼成後の、洗浄前後のXRDを示す図である。
【図4】実施例1に係る構成物の、500℃での焼成および洗浄の前後のXRDを示す図である。
【図5】噴霧乾燥したLiClで処理したTiOCl2溶液の、300℃、5時間での焼成後の、洗浄後のXRDパターンを示す図である。
【図6】不活性塩としてKClが用いられた中空球体の薄膜に組織されたYSZ粒子の発達を記述するXRDパターンを示す図である。
【図7】500℃、600℃、700℃、800℃、900℃での、KCl塩中間生成物におけるYSZ結晶性の発達を示す広域XRDパターンを示す図である。
【図8】Na2SO4で処理したTiOCl2溶液が噴霧乾燥に付されて、非晶質の二酸化チタンとNa2SO4とからなる粉体を生成し、300℃、400℃、500℃、600℃、700℃で焼成されたものにおける結晶相の発達を示すXRDパターンを示す図である。
【図9】図8に示す材料の、焼成の間の、多孔性の発達を示すグラフである。
【図10】本発明に係る、ZrO2に基づく構成物の開放多孔性(open porosity)の程度を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高表面積でナノ多孔性のセラミック酸化物触媒構造物の製造方法であって、
a)水溶液である供給原料溶液を作り、該溶液は、第1の金属塩と第2の金属塩とを含んでおり、該第1の金属塩は熱に対して不安定な金属塩であり、該第2の金属塩は水溶性であり熱に対して安定な金属塩であり、
b)上記供給原料溶液を酸化雰囲気中で噴霧乾燥して第1の中間生成物を生成し、
c)上記第1の中間生成物を酸化雰囲気中で焼成して第2の中間生成物を生成し、
d)上記第2の中間生成物を洗浄し、上記第2の金属塩を除去して第3の中間生成物を生成し、
e)上記第3の中間生成物を濾過して乾燥させることにより、高表面積でナノ多孔性のセラミック酸化物触媒構造物を得る、製造方法。
【請求項2】
上記第1の金属塩が、以下の金属すなわちチタン、錫、モリブデン、銅、シリカ、ゲルマニウム、アルミニウム、ガリウム、バナジウム、ハフニウム、イットリウム、ニオブ、タンタル、ビスマス、鉛、セリウム、タングステン、コバルト、マンガン、ヒ素、ジルコニウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムとその混合物の、塩化物、酸塩化物、硝酸塩、亜硝酸塩、硫酸塩、オキシ硫酸塩からなる可溶金属塩のグループから選ばれる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
上記第2の金属塩が、熱的に安定なアルカリ金属塩またはその混合物である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
上記供給原料溶液は、第3の金属塩を含み、該第3の金属塩がMxyの式で表され、この式中の要素は、Mがスカンジウム、イットリウム、クロム、鉄、ニッケル、または亜鉛であり、Aが陰イオンであり、xは0ないし5の整数であり、yは0ないし5の整数である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
上記噴霧乾燥処理において蒸発工程が行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
上記焼成工程が、250℃ないし1000℃の温度で行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
上記噴霧乾燥工程が、200℃ないし250℃の温度で行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
上記供給原料溶液中の上記第2の金属塩の濃度は15ないし30重量パーセントである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
上記供給原料溶液中の金属濃度が1g/Lないし200g/Lである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
上記第2の金属塩が、NaCl、KCl、LiCl、Na2SO4、K2SO4、Li2SO4からなる金属塩のグループから選択される、請求項2に記載の製造方法。
【請求項11】
蒸発工程が、200℃ないし250℃の温度で行われる、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
上記焼成工程が、500℃ないし1000℃の温度で行われる、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
上記供給原料溶液中の上記第2の金属塩の濃度が15ないし30重量パーセントである、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
上記第1の金属塩がチタン塩またはジルコニウム塩である、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
ナノ多孔性のセラミック酸化物触媒であって、チタン、錫、モリブデン、銅、シリカ、ゲルマニウム、アルミニウム、ガリウム、バナジウム、ハフニウム、イットリウム、ニオブ、タンタル、ビスマス、鉛、セリウム、タングステン、コバルト、マンガン、ヒ素、ジルコニウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムとその混合物から選ばれ、上記触媒はほぼ球形であり、0.1μmないし100μmのサイズであり、触媒粒子の表面積が1m2/gないし300m2/gである、触媒。
【請求項16】
上記触媒の全体的な多孔性が、40ないし98パーセントである、請求項15に記載の触媒。
【請求項17】
上記触媒の構造が中空である、請求項15に記載の触媒。
【請求項18】
上記触媒の構造物のミクロ的な多孔性が、1ないし300m2/gである、請求項15に記載の触媒。
【請求項19】
上記触媒が、チタンまたはジルコニウムを含んでいる、請求項15に記載の触媒。
【請求項20】
上記触媒の粒子の表面積が5m2/gないし300m2/gである、請求項19に記載の触媒。
【請求項21】
上記触媒の全体的な多孔性が、40ないし98パーセントである、請求項20に記載の触媒。
【請求項22】
上記触媒の構造物のミクロ的な多孔性が、5ないし200m2/gである、請求項21に記載の触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2009−516589(P2009−516589A)
【公表日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−542508(P2008−542508)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【国際出願番号】PCT/US2006/061115
【国際公開番号】WO2007/062356
【国際公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(501495330)アルテアナノ インコーポレイテッド (10)
【Fターム(参考)】