説明

高速差動ケーブル

【課題】伝送特性に優れた高速差動ケーブルを提供すること。
【解決手段】高速差動ケーブル1は、内部導体11の外周に第1誘電体層12を設けた信号線を2芯平行配置し、2芯信号線の外周に第2誘電体層13を設け、第2誘電体層の外側であって2芯信号線の両側それぞれにドレイン線14を信号線と平行配置し、第2誘電体層およびドレイン線の外周に絶縁側を外側にし導体側を内側にした外部導体15を縦沿えに設け、該外部導体の外周に外被16を設け、ドレイン線が配置される第2誘電体層の外周部分に、少なくともドレイン線の円周の一部が嵌め合わせ可能なドレイン線用溝部17を設ける。これにより、信号線とドレイン線とを高精度に対称配置可能となるため、信号線の2芯の電気的バランスを良好にでき、優れた電気的特性および伝送特性を得ることができる。また、外部導体を縦沿えに設けたので、高周波数領域において減衰量のサックアウトの発生を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2芯の信号線を用いて信号の差動伝送を行う高速差動ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、データ伝送が高速ビットレートで行われる場合に用いられる伝送線路として、高速差動ケーブルがある。このような高速差動ケーブルは、特許文献1に示されており、この特許文献1には、内部導体の外周に絶縁体層(誘電体層)を設けて信号線とし、この信号線を2芯平行に並べそれらの両外側にドレイン線を配置し、4芯フラット構造を保持しつつアルミポリエステルテープを金属面内側で縦沿え若しくは螺旋巻きして外部導体を形成し、この外部導体の外周に外被を設けた構成の高速差動ケーブルが開示されている。この高速差動ケーブルによれば、ドレイン線が2芯の信号線の両側に配置された4芯フラット構造とされているのでケーブルの屈曲性の自由度が高いと共にアセンブリ性も良好であるためケーブルの取り扱い性に優れ、さらに、信号線2芯のグランドに対する電気的平衡度から見れば、良好な伝送特性が得られ理想的であるが、実際にこのような4芯フラット構造の差動ケーブルを製造する際、信号線の両外側に配置される各ドレイン線は、これらの線を結ぶ線上からずれて移動し、信号線およびドレイン線が平衡かつフラット状に位置することが極めて困難であった。その結果、線上からずれて移動したドレイン線により、電気的バランスが崩れ、特性インピーダンスなどの電気的特性が劣化するという問題点があった。また、外部導体を形成するためのアルミポリエステルテープを螺旋巻きにした場合には、高周波数領域において減衰量の急激な落ち込み(所謂、サックアウト(ドロップアウト))が発生する。さらに、この特許文献1に開示されている高速差動ケーブルでは、外部導体は完全導体ではないため、2芯の信号線間の電位差のある導体電位が外部導体上に誘導されて電位差が生じ、この結果、外部導体上に電流が流れて損失が生じるので減衰量が大きく低下する。また、絶縁体層の比誘電率に差があるときはスキューが大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−358841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した種々の問題を解決するために、本発明者は、鋭意、研究、開発を続けた結果、4芯フラット構造によりケーブルの取り扱い性を維持し、かつ高周波数領域における減衰量のサックアウトの発生を防止しつつ、周波数の増加に伴う減衰量の低下を抑えることができ、スキューを小さくでき、特性インピーダンス等の劣化を抑えることができる高速差動ケーブルの構成を見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0005】
本発明は、上記のような課題に鑑みなされたものであり、その目的は、伝送特性に優れ、さらにはケーブルの取り扱い性が良好な電気的特性および伝送特性に優れた高速差動ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的達成のため、本発明の高速差動ケーブルでは、内部導体の外周に第1の誘電体層を設けた信号線を2芯平行に配置し、前記2芯の信号線の外周に第2の誘電体層を設け、前記第2の誘電体層の外側であって前記2芯の信号線の両側それぞれにドレイン線を前記信号線と平行になるように配置し、前記第2の誘電体層および前記ドレイン線の外周に絶縁側を外側にし導体側を内側にした外部導体を縦沿えに設け、該外部導体の外周に外被を設け、前記ドレイン線が配置される前記第2の誘電体層の外周部分に、少なくとも前記ドレイン線の円周の一部が嵌め合わせ可能なドレイン線用溝部を設けたことを特徴としている。
【0007】
これにより、信号線とドレイン線とを高精度に対称配置することが可能となるため、信号線の2芯の電気的バランスを良好なものとすることができ、優れた電気的特性および伝送特性を得ることができる。また、外部導体を縦沿えに設けたので、高周波数領域において減衰量のサックアウトの発生を防止することができる。また、第2の誘電体層により2芯の信号線が覆われ、外部導体層内側の導体側にドレイン線が接触することになるので、2芯の信号線間の電位差のある導体電位は外部導体上に誘導されず、この結果、外部導体上に発生する電流を抑えて損失を少なくすることができ、減衰量の低下を抑えることができる。さらに、対の内部導体の結合度を高めることができ、スキューを小さくすることができる。また、ドレイン線は2芯の信号線の両側に配置されることになるためケーブルの取り扱い性に優れ、配線作業の効率を高めることができる。
【0008】
また、前記ドレイン線用溝部は、嵌め合わされた前記ドレイン線が前記2芯の信号線の中心軸を結ぶ線の延長線上に中心軸が位置するように設けられていることを特徴としている。これにより、信号線とドレイン線とをさらに高精度に対称配置することが可能となるため、信号線の2芯の電気的バランスをさらに良好なものとすることができ、優れた電気的特性および伝送特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係る高速差動ケーブルの軸と直交する方向の図である。
【図2】実施例および比較例の高速差動ケーブルの周波数と減衰量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に説明する実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の成立に必須であるとは限らない。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る高速差動ケーブルの軸と直交する方向の図である。この高速差動ケーブル1は、中心導体11(内部導体)の外周に第1の誘電体層12を形成した信号線10を2芯平行に配置し、2芯の信号線10の外周に第2の誘電体層13を形成する。この第2の誘電体層13を形成するとき、第2の誘電体層13の外側であって2芯の信号線10の両側に、少なくともドレイン線14の円周の一部が嵌め合わせ可能なドレイン線用溝部17を形成する。このドレイン線用溝部17は、嵌め合わされたドレイン線14が2芯の信号線10の中心軸10Cを結ぶ線Lの延長線上に中心軸14Cが位置するように形成される。このドレイン線用溝部17にドレイン線14を平行配置し、第2の誘電体層13およびドレイン線14の外周に後述するシールド層15の絶縁側を外側にし導体側を内側にしたシールド層(外部導体層)15を形成する。そして、シールド層15の外周にジャケット(外被)16を形成した構成となっている。
【0012】
中心導体11は、例えば銀めっき軟銅線が使用可能である。第1の誘電体層12には、例えば多孔質ポリテトラフルオロエチレン(EPTFE)、発泡のテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素樹脂が使用可能である。第2の誘電体層13には、例えば発泡のFEP等のフッ素樹脂が使用可能である。ドレイン線14には、例えば銀めっき軟銅線が使用可能である。シールド層15には、ALPET、即ちアルミ箔とポリエチレンテレフタレート(PET)とを、接着層としてポリ塩化ビニル(PVC)を介して積層してテープ状に形成した金属化テープが使用可能である。シールド層15は、導体側であるアルミの面15bが第2の誘電体層13およびドレイン線14と接触する態様で、第2の誘電体層13およびドレイン線14を包囲するように外周に縦沿い(いわゆる、シガレット巻き)で設けられる。ジャケット16には、例えばポリエステル(PE)が使用可能である。
【0013】
このような構成の高速差動ケーブル1は以下の手順により作製される。先ず、1本の中心導体11の外周にEPTFEのテープを巻回して第1の誘電体層12を形成した単線の信号線10を作製する。もちろん、この第1の誘電体層12は、押出機(図示せず)を用いて誘電体を押出し形成しても良い。次に、2本の信号線10を第1の誘電体層12が軸方向に接触するように平行に配置し、2芯の信号線10の第1の誘電体層12の外周を包囲するように押出機を用いて誘電体を押出し被覆してドレイン線用溝部17を有する第2の誘電体層13を形成する。そして、ドレイン線用溝部17にドレイン線14を配置し、第2の誘電体層13およびドレイン線14の外周を包囲するように金属化テープをPET面15aを外側にしアルミ面15bを内側にして縦沿えに巻回(シガレット巻き)してシールド層15を形成する。最後に、シールド層15の外周に絶縁テープを巻き付けて、もしくはシールド層15の外周に押出機を用いて絶縁体を押出し被覆してジャケット16を形成する。以上により、高速差動ケーブル1が完成する。
【0014】
以上のような構成の高速差動ケーブル1によれば、信号線10とドレイン線14とを高精度に対称配置することが可能となるため、信号線10の2芯の電気的バランスを良好なものとすることができ、優れた電気的特性および伝送特性を得ることができる。また、シールド層15を縦沿えに設けたので、高周波数領域において減衰量のサックアウトの発生を防止することができる。また、第2の誘電体層13により2芯の信号線10が覆われ、シールド層15内側のアルミ面15bにドレイン線14が接触することになる。このため、2芯の信号線10間の電位差のある導体電位はシールド層15上に誘導されないので、シールド層15上に発生する電流を抑えて損失を少なくすることができ、減衰量の低下を抑えることができる。さらに、対の中心導体11の結合度を高めることができ、スキューを小さくすることができる。また、ドレイン線14が2芯の信号線10の両側に配置されているため、ケーブルの屈曲性の自由度が高いと共にアセンブリ性も良好であるためケーブルの取り扱い性に優れ、配線作業の効率を高めることができる。
【0015】
次に、実施例1、2として本実施形態の高速差動ケーブル1および比較例として従来の高速差動ケーブルを作製し、それらの減衰量およびスキューを測定したので、これらの測定結果について図2を参照して説明する。ここで、測定に使用した実施例1の高速差動ケーブル1は、以下のようにして作製されている。中心導体11として外径0.511mmの銀めっき軟銅線を用意し、この中心導体11の外周に外径0.9mmとなるように多孔質PTFEのテープを巻回して第1の誘電体層12を形成し信号線10とする。2本の信号線10を第1の誘電体層12が軸方向に接触するように平行に配置し、2本の信号線10の第1の誘電体層12の外周を包囲するように、厚さ0.45mmとなるように発泡のFEPを被覆して第2の誘電体層13を形成する。
【0016】
そして、ドレイン線用溝部17に外径0.254mmの銀メッキ軟銅線をドレイン線14として平行配置し、第2の誘電体層13およびドレイン線14の外周を包囲するように、厚さ10μmのアルミ箔と厚さ12μmのPETとを厚さ2〜3μmのPVC(接着層)を介して積層してなるALPETを、アルミ面15bが密着するように縦沿えに巻回してシールド層15を形成する。最後に、シールド層15の外周を包囲するように、厚さ0.008mmのPEテープを巻き付けてジャケット16を形成する。また、測定に使用した実施例2の高速差動ケーブル1は、実施例1の高速差動ケーブル1と比較して、第1の誘電体層12が発泡のFEPで形成され、第2の誘電体層13の厚さが0.5mmに形成されている点を除いて同一構成となっている。
【0017】
一方、測定に使用した比較例の高速差動ケーブルは、以下のようにして作製されている。中心導体として外径0.511mmの銀めっき軟銅線を用意し、この中心導体の外周に外径1.25mmとなるように多孔質PTFEのテープを巻回して誘電体層を形成し信号線とする。2本の信号線を誘電体層が軸方向に接触するように平行に配置し、2本の信号線の誘電体層の外周を包囲するように、厚さ10μmのアルミ箔と厚さ12μmのPETとを厚さ2〜3μmのPVC(接着層)を介して積層してなるALPETを、PET面が密着するように螺旋状に巻回(いわゆる、スパイラル巻き)してシールド層を形成する。シールド層の外側であって信号線の一側に外径0.254mmの銀メッキ軟銅線をドレイン線として平行配置し、最後に、シールド層およびドレイン線の外周を包囲するように、厚さ0.05mmとなるようにFEPを被覆してジャケットを形成する。
【0018】
図2は、実施例1、2の高速差動ケーブル1および比較例の高速差動ケーブルに対し、周波数(GHz)を0〜20GHzまで変化させたときの減衰量(dB/m)の変化を示す図である。図2から明らかなように、比較例の高速差動ケーブルでは、周波数が11〜16GHzにかけてサックアウトが発生しているのに対し、実施例1、2の高速差動ケーブル1ではサックアウトの発生を防止できる。
【0019】
また、例えば周波数が1.0GHz、2.0GHz、3.125GHz、5.0GHz、6.0GHzのとき、比較例の高速差動ケーブルの減衰量は、0.757dB/m、1.001dB/m、1.221dB/m、1.653dB/m、1.845dB/mであるのに対し、実施例1の高速差動ケーブル1の減衰量は、0.603dB/m、0.732dB/m、0.887dB/m、1.164dB/m、1.311dB/m、実施例2の高速差動ケーブル1の減衰量は、0.586dB/m、0.758dB/m、0.967dB/m、1.262dB/m、1.389dB/mとなり、比較例の高速差動ケーブルの減衰量と比べて実施例1、2の高速差動ケーブル1の減衰量の低下を抑えることができる。また、比較例の高速差動ケーブルのスキューが、9.0ps/10mであったのに対し、実施例1の高速差動ケーブル1のスキューは、2ps/10mと小さくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の高速差動ケーブルは、高速ビットレートで長距離のデータ伝送を行う機器、例えば、コンピュータ、計算機、携帯電話等の電子機器に適用可能であり、更に、自動車、飛行機等の制御回路にも適用可能である。
【符号の説明】
【0021】
1 高速作動ケーブル、11 中心導体(内部導体)、12 第1の誘電体層、13 第2の誘電体層、14 ドレイン線、15 シールド層(外部導体層)、15a PET面、15b アルミ面、16 ジャケット(外被)、17 ドレイン線用溝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部導体の外周に第1の誘電体層を設けた信号線を2芯平行に配置し、前記2芯の信号線の外周に第2の誘電体層を設け、前記第2の誘電体層の外側であって前記2芯の信号線の両側それぞれにドレイン線を前記信号線と平行になるように配置し、前記第2の誘電体層および前記ドレイン線の外周に絶縁側を外側にし導体側を内側にした外部導体を縦沿えに設け、該外部導体の外周に外被を設け、
前記ドレイン線が配置される前記第2の誘電体層の外周部分に、少なくとも前記ドレイン線の円周の一部が嵌め合わせ可能なドレイン線用溝部を設けたことを特徴とする高速差動ケーブル。
【請求項2】
前記ドレイン線用溝部は、嵌め合わされた前記ドレイン線が前記2芯の信号線の中心軸を結ぶ線の延長線上に中心軸が位置するように設けられていることを特徴とする請求項1に記載の高速差動ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−218741(P2010−218741A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61119(P2009−61119)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000145530)株式会社潤工社 (71)
【Fターム(参考)】