説明

高速打ち込み試験に用いる球形ゼラチンの製造方法

【課題】高速打ち込み試験で形状を崩しにくいゼラチンの製造方法を提供する。
【解決手段】高速打ち込み試験に用いる衝突用飛翔体をゼラチン塊で形成するに際し、湯1Lに対してゼラチン粉末360〜600gを溶かして液状ゼラチンとし、これを球形に成形するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジェットエンジンの衝撃試験などの高速打ち込み試験に用いる球形ゼラチンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ジェットエンジンに鳥が吸い込まれた際の耐衝撃性を確認するための試験として、鳥の代わりにゼラチン塊を試験用銃を用いて発射する方法(高速打ち込み試験)が採られる場合がある。
【0003】
このとき、ゼラチン塊は、例えば円柱状にしたものをサボーと呼ばれる中空円筒形の筒に入れて発射され、対象とする構造物(ジェットエンジンのファンブレードなど)に衝突させる。このときの構造応答を調べることで、対象物の耐衝撃性が評価される。
【0004】
従来、この試験では、円柱形に成形したゼラチン塊を用いていた(例えば、特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−9961号公報
【特許文献2】特開2004−177270号公報
【特許文献3】特開2004−77323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、従来の試験状況を高速度カメラなどで観察したところ、従来のゼラチン塊は、サボーから発射されるとき、その形状が崩れてしまう場合が多いことが分かった。これは、ゼラチン塊が軟質であり、変形しやすいためである。
【0007】
ゼラチン塊が対象物に衝突したときの荷重は、ゼラチン塊の衝突時の形状の影響を受けるため、ゼラチン塊の衝突時の形状の崩れは試験結果にばらつきを生じさせる問題がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、高速打ち込み試験で形状を崩しにくいゼラチンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、高速打ち込み試験に用いる衝突用飛翔体をゼラチン塊で形成するに際し、湯1Lに対してゼラチン粉末360〜600gを溶かして液状ゼラチンとし、これを球形に成形する高速打ち込み試験に用いる球形ゼラチンの製造方法である。
【0010】
請求項2の発明は、上下の型枠の合わせ面に複数の半円球の窪みを形成すると共に、前記上下の型枠のいずれかの窪みにゼラチン注入口と空気抜き穴を形成し、その上下の型枠を合わせて型枠内に球状の成型用キャビティを形成し、その成型用キャビティに前記液状ゼラチンを注入し、これを冷却して球形ゼラチンを成形する請求項1に記載の高速打ち込み試験に用いる球形ゼラチンの製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ゼラチン塊を形成する際に、ゼラチン粉末の量を多くし、かつ球状に成形することで、形状が崩れにくく、球状を保持したまま対象物に高速打ち込みすることができる球形ゼラチンを得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1(a)、(b)は、本実施の形態で用いた型枠を示す図である。
【図2】湯1Lに対してのゼラチン粉末量を360gとした球形ゼラチンが対象物に衝突する様子を高速度カメラで撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0014】
本発明者らは、従来、高速打ち込み試験では円柱状のゼラチン塊が用いられているため、発射時にゼラチン塊の形状が変形してしまい試験の結果にばらつきを生じさせてしまう問題があることに注目した。
【0015】
発射時に円柱状のゼラチン塊の形状が変形しやすいのは、ゼラチン塊を対象物に発射するサボーとゼラチン塊との間の接触面積が大きいので摩擦力が作用し、ゼラチン塊の形状が保持しにくいためである。
【0016】
また、円柱状のゼラチン塊では、回転の影響が打ち込み対象物(ジェットエンジンのファンブレードなど)の構造応答に出てしまう。
【0017】
そこで、本発明者らは、発射時に摩擦の影響を受けにくく、また回転の影響が打ち込み対象物(ジェットエンジンのファンブレードなど)の構造応答に出にくくするために、ゼラチン塊の形状を球形とすることを思いついた。
【0018】
ゼラチン塊の形状を球形とした球形ゼラチンは、その背面を押し出すように発射できるため形状保持がしやすい点と、回転しても対象物の構造応答に出にくい点に利点がある。
【0019】
球形ゼラチンを得るためにその製造方法を検討した。その結果、本発明の高速打ち込み試験に用いる球形ゼラチンの製造方法を見出した。
【0020】
本発明の高速打ち込み試験に用いる球形ゼラチンの製造方法は、湯1Lに対してゼラチン粉末360〜600gを溶かして液状ゼラチンとし、これを球形に成形する方法である。
【0021】
湯1Lに対してゼラチン粉末量を360g以上とするのは、概ね200m/s程度までの高速打ち込みに対し形状を保持できるような硬度を確保するためであり、600gを限界とするのは、湯1Lに対して溶かすことのできる限界値が600gだからである。
【0022】
このゼラチン粉末の湯への溶解は、水を湯煎した状態で60〜90℃に保ってゼラチン粉末を溶かしながら撹拌して液状ゼラチンとする。この際、液状ゼラチンには、空気が混入しやすくなるため、空気の混入をなくすように溶かし込む。
【0023】
液状ゼラチンを球形に成形する際には型枠を用い、型枠に液状ゼラチンを注入し、これを冷却、固化させて球形ゼラチンを成形する。
【0024】
液状ゼラチンを球形に成形する際に用いる型枠の一例を図1(a)、(b)に示す。図1(a)に示す型枠を型枠A、図1(b)に示す型枠を型枠Bと呼称する。
【0025】
図1(a)に示すように、型枠Aは、型枠の合わせ面に複数の半円球の窪み1を形成すると共に、窪み1にゼラチン注入口2(空気抜き穴3)を形成したものであり、型枠を合わせた際に合わせ面がズレないようにボルト締めするための穴4が形成されている。
【0026】
図1(b)に示すように、型枠Bは、型枠の合わせ面に複数の半円球の窪み1を形成したものであり、型枠Aと同様にボルト締めのための穴4が形成されている。
【0027】
例えば、窪み1の大きさとしては直径25mm、ゼラチン注入口2、穴4の大きさとしては直径5mmとし、型枠A,B共に窪み1以外の角部は面取りするとよい。
【0028】
型枠A,Bの材質は、伝熱性の高いアルミニウムなどであるとよい。これにより、熱を効率よく伝達でき短時間で効率よく球形ゼラチンを製造することができる。
【0029】
この型枠A,BをA(上),B(下)もしくはA(上),A(下)の組み合わせで用い、それぞれの合わせ面を合わせると、型枠内に球状の成型用キャビティ5が形成される。A(上),B(下)の組み合わせで上下の型枠を構成する場合には、ゼラチン注入口2が空気抜き穴3を兼ねる。
【0030】
この上下の型枠の成型用キャビティ5にゼラチン注入口2から液状ゼラチンを注入し、これを冷却することで球形ゼラチンを成形することができるが、液状ゼラチンを注入する際には、予め上下の型枠の窪み1に離型剤を塗布しておくと液状ゼラチンが固化したときに取り出しやすいので好ましい。離型剤としては、テフロン(登録商標)スプレー又はシリコンスプレーなどを用いることができる。
【0031】
液状ゼラチンを注入するときは100℃以下に加温するとよい。これにより、気泡がなく密度の均一な球形ゼラチンを成形することができる。
【0032】
また、液状ゼラチンを注入する際には、上下の型枠をバイブレータで振動させながら注入することで、空気抜き穴3から成型用キャビティ5内の空気を効率よく抜くことができる。
【0033】
最後に、成形された球形ゼラチンの表面に、高速打ち込み試験の際の形状変化、回転などを観察できるように、90°交差した経線と緯線を付けると球形ゼラチンが完成する。
【0034】
本発明の高速打ち込み試験に用いる球形ゼラチンの製造方法によれば、湯1Lに対してゼラチン粉末360〜600gを溶かして液状ゼラチンとし、これを球形に成形することで、衝突時に形状を崩しにくい球形ゼラチンを得られる。なお、硬いゼラチンを用いても試験結果に悪影響はないことが分かっている。
【0035】
上述したアルミニウムからなる専用の型枠を用いることで、一度に多数の同じ球形ゼラチンを効率よく成形することができる。
【0036】
また、上下の型枠の窪み1に予めテフロン(登録商標)スプレー又はシリコンスプレーなどの離型剤を塗布しておくと、液状ゼラチンが固化したときに取り出しやすくなり、製造効率を向上できる。
【0037】
型枠に液状ゼラチンを注入する際に、上下の型枠をバイブレータで振動させながら注入することで、空気抜き穴3から成型用キャビティ5内の空気を効率よく抜くことができ、気泡がなく密度の均一な球形ゼラチンを成形することができる。また、液状ゼラチンを注入する際に、100℃以下で加温することで、気泡がなく密度の均一なゼラチンを成形することができる。
【0038】
さらに、成形した球形ゼラチンの表面に、90°交差した経線と緯線を付けることで、高速打ち込み試験の際の形状変化、回転を観察できる。
【0039】
上述の実施の形態においては、成形された球形ゼラチンの表面に、高速打ち込み試験の際の形状変化、回転などを観察できるように、90°交差した経線と緯線を付けたが、これに限らず、ゼラチンの形状変化、回転が分かれば他の模様でもよい。
【実施例】
【0040】
湯1Lに対してのゼラチン粉末量を360gとして、球形ゼラチンを成形し、これを対象物に衝突させた。
【0041】
図2は、湯1Lに対してのゼラチン粉末量を360gとした球形ゼラチンが対象物に衝突する様子を高速度カメラで撮影した写真である。
【0042】
図2に示すように、球形ゼラチンが対象物に衝突する際にも、しっかりと球形を保持している。また、対象物に衝突したときにも圧力が均一にかかっていることが分かる。
【0043】
以上より、湯1Lに対してゼラチン粉末を360g溶かして球形ゼラチンを成形することにより、サボーから発射されても球形を保つことが確認できた。
【0044】
また、ゼラチン粉末360gは下限値であり、湯1Lに対して溶かすことが可能な600gまで溶かし込むことで、硬度の異なる球形ゼラチンとすることが可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 窪み
2 ゼラチン注入口
3 空気抜き穴
4 穴
5 成型用キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速打ち込み試験に用いる衝突用飛翔体をゼラチン塊で形成するに際し、湯1Lに対してゼラチン粉末360〜600gを溶かして液状ゼラチンとし、これを球形に成形することを特徴とする高速打ち込み試験に用いる球形ゼラチンの製造方法。
【請求項2】
上下の型枠の合わせ面に複数の半円球の窪みを形成すると共に、前記上下の型枠のいずれかの窪みにゼラチン注入口と空気抜き穴を形成し、その上下の型枠を合わせて型枠内に球状の成型用キャビティを形成し、その成型用キャビティに前記液状ゼラチンを注入し、これを冷却して球形ゼラチンを成形する請求項1に記載の高速打ち込み試験に用いる球形ゼラチンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−164476(P2010−164476A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−7836(P2009−7836)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】