説明

高速炉の最適構成

【課題】液体金属または溶融塩冷却材を有する改良型原子炉を提供する。
【解決手段】
原子炉は液体金属または溶融塩冷却材を有し、円筒状の格納容器134は立上り空間130'、原子炉容器120'、少なくとも2個、好ましくは3個乃至9個のローブ121を有し、各ローブ121はそれ以外のローブと相互接続され、各ローブは高速炉の炉心116'、116''、116'''、116''''を収納する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高速炉、特に液体金属または溶融塩冷却型原子炉の新規で改良型の原子炉炉心設計に係る。
【発明の背景】
【0002】
ウエスチングハウス社の米国特許第4,949,363号(発明者:Tupper et al.)に記載されるように、液体金属冷却型原子炉(LMR)は他の原子炉と同様に最高538℃(1000°F)の温度で動作し、燃料要素の形に製造され原子炉容器の炉心内に集合体として配置された核物質の分裂により熱を発生する。LMRが発生する熱を用いて発電が行なわれる。
【0003】
液体ナトリウムは優れた熱伝達特性、また、エネルギー発生に係る温度で低い蒸気圧を有し、豊富で、受け入れ可能な純度のものの入手が容易であり、比較的安価であることから、LMRの原子炉冷却材として格好の媒体である。しかしながら、水と激しく反応する性質のため、ナトリウム−水蒸気型ボイラーの設計にはいろいろ問題がある。加えて、高速炉における核プロセスの制御は軽水型熱動炉と比べると本質的に容易でない。主要な冷却材循環ラインの1つが破裂して起こる冷却材喪失リスクを最小限に抑えるために、ループ型でなくてプール型の原子炉が好まれる。
【0004】
プール型高速炉の容器を従来技術として図1及び1Aの概略図に示すが、これはHunsbedt et al.の米国特許第5,043,135号に記載されたものである。図1に示す受動冷却型液体原子炉10の一タイプは熱伝達用としてナトリウム金属またはナトリウム/カリウムのような液体金属冷却材のプール14を収納する円形の原子炉容器12を有し、このプールには核分裂性燃料を含む原子炉炉心16が浸漬されている。核分裂作用の速度は原子炉炉心16からまたは該炉心内へ移動する総括的に18で示す中性子吸収制御棒により制御される。原子炉容器12は同心的な格納容器20内に離隔関係で包囲されるが、これら全部はコレクターシリンダ22内にある。例えばコンクリート製サイロ24が図示のようにコレクターシリンダ22を収納する。図1及び1Aに示すように、循環する流体の流路を区分するこの同心型構成により一連の環状立下り隔壁28及び立上り隔壁30が形成される。体積部32は冷たい周囲空気34を含むが、この空気は加熱されると、図1及び1Aの矢印で示すように、格納容器のコレクターシリンダ22の底部を回って環状ライザー隔壁30を上昇し、36で総括的に示す出口へ流れる自然対流を誘起する。このように、冷却系統は完全に受動形であり、対流及び熱放射により連続動作する。この従来技術の標準型設計は地上33に配置可能である。
【0005】
従来型原子炉はCacheraの米国特許第3,968,653号のように原子炉から熱を除去するために多種多様の巧妙なエネルギー駆動式冷却系統を利用する。モジューラータイプのような液体金属冷却型原子炉が米国特許第4,508,677号に記載されているが、これはナトリウムまたはナトリウム−カリウムを冷却材として利用する。
【0006】
高速炉の受動的安全性は原子炉容器を介する崩壊熱の除去に基づくものである。核分裂型原子炉が停止した後でも炉心から熱が引続き発生する。この崩壊熱(原子炉の残留熱/核分裂生成物の崩壊熱)を事故または故障状態の発生による原子炉の運転停止後も常に除去できることが重要である。受動冷却型高速炉システムは主として、流体の自然対流、伝導及び熱放射のプロセスにより継続的に動作する。このシステムでは、崩壊熱は熱を発生する原子炉の燃料炉心から原子炉容器へ、一次冷却回路ループを介する冷却材の自然対流作用により移送される。この熱は原子炉容器の壁を、そして、原子炉容器と格納容器との
間の空気が充満した空間を介して伝導され、周囲雰囲気中に送られるが、これは自然対流する周囲空気への自然対流と、部分的には熱放射による。
【0007】
受動的安全性の重要なパラメータは、炉心16の体積に対する原子炉容器の外壁12の表面積の比率である。高速炉の炉心は非常にコンパクトであるため、この事実は、受動冷却型炉心を依然として維持しながら得られる最大出力を約1000MW(メガワット)の熱出力に制限する。かかるタイプの原子炉の一例はHunsbedtの米国特許第5,021,211号に記載されるように、金属冷却材の大部分の温度を安全限界以下の温度に維持しようとする。出力レベルが高くなればなるほど高速炉の資本及び運転コストが減少するはずであるが、炉心を介する液体金属冷却材の流れが停止すると燃料炉心の温度が高いピークを呈する可能性が高くなる。従って、燃料炉心からの崩壊熱の除去は、主として、それを取り囲む恐らく全部で8インチのステンレス鋼の厚い質量体を介する熱伝導によるものとなり、炉心領域内から外部領域への熱の移送に、互いに反対の表面側で約700°F(371℃)の温度差が必要となる。この分野の他の特許には、例えばTupper et al.の米国特許第4,859,402号及び米国特許第5,043,136号が含まれる。
【0008】
従来技術を示す図2を参照して、従来型原子炉構成の一般的で単純化した断面図に示す原子炉炉心116は中心117を有し、液体金属または塩冷却材114は燃料及び原子炉容器120と格納容器122の内壁と接触し、空気冷却材は環状立上り空間130内に含まれ、そこで入来する冷たい空気が原子炉容器の外壁と接触する。炉心の中心から格納容器のコレクターシリンダ122の内壁までの半径は1.0に等しい。冷たい空気の接触点134をシリンダ122上に示す。
【0009】
再言すると、
1.LMRは高いエネルギー密度(高速スペクトル)を有し、液体金属または溶融塩のような高効率の冷却材を必要とする。
2.LMRへの冷却材の流れを喪失すると、水冷型原子炉と比べて潜在的に問題が非常に深刻になる。
3.従って、LMRは主冷却系(蒸気発生器)を失った場合に備えて補助的冷却系を必要とする。
4.LMR構成には2種あるが、1つはPRWと同様なループ型、もう1つはBWRと同様なプール型である。
5.プール型は冷却材喪失時の除熱効率が高いが、その理由は液体金属が炉心から容器の壁へ熱を伝導し、容器の壁から放射または対流により熱を除去できるからである。
6.プール型構成による除熱の重要なパラメータは体積(炉心)に対する表面積(容器の内壁)の比率である。即ち、原子炉炉心の体積(立法メートル)に対する容器の内壁の表面積(平方メートル)の比率である。この比率が大きくなればなるほど除熱効率が増加する。
7.パラメータの解析によると1000メガワットがプール型原子炉にとって最適であることがわかっている。出力を小さくなると経済性が低下し、出力を大きくなると安全の問題が深刻になる。
8.何れの設計も炉心から外方に同心の体積部を設けることを教示している。
【0010】
従って、除熱効率を最大限にし、コスト性能及び商業性が良い、新型で単純且つ革新的なLMR設計が求められている。本発明の主要な目的はLMRのための新型で革新的且つ単純な炉心設計を提供することにある。
【発明の概要】
【0011】
上記需要の充足及び上記目的の達成は、広義の実施例において、少なくとも2つのローブを有する多ローブ型原子炉容器がほぼ円筒形の格納容器内にあり、各ローブはそれ以外
のローブと相互接続され、高速炉炉心を収納する、液体金属または溶融塩冷却型原子炉を提供することにより可能となる。ローブの数を3乃至9個、好ましくは3乃至6個、最も好ましくは4または5個にすることができる。これは革命的な設計であり、原子炉の概念としては前例がなく自明でないと考えられる。
【0012】
本発明はまた、多ローブ型原子炉容器が円筒壁を有し底部が閉じた格納容器内にあって、液体金属または溶融金属塩の冷却材のプールを保持し、多ローブ型原子炉容器は少なくとも2つのローブを有し、各ローブはそれ以外のローブと相互接続され、高速炉炉心を収納する液体金属または溶融塩冷却型原子炉にある。これらの炉心は単一ユニットとして、即ち全部一緒に、またはそれぞれ独立して、運転することが可能である。このアプローチは原子炉炉心の体積に対する外側の原子炉容器の内壁の表面積の比率を増加させ、格納容器の所与の体積内における有意に高い熱出力を可能にするため、資本コストが減少する。底部を閉じた容器は、空気により冷却される立上り部分/隔壁により取り囲まれた同心の格納容器内に収納される。一般的に、格納容器は円筒壁を有する。液体ナトリウムが好ましいが、ナトリウムの代替物としてナトリウムとカリウム、鉛/ビスマス合金のような液体溶融金属、NaF、KFのような溶融塩及び他の溶融塩が含まれる。しかしながら、これらに限定されない。
【0013】
円筒状以外の設計の試行を示唆するものは従来技術に存在しないように思われる。従来技術は本発明の劇的に異なるローブ設計については反対方向の教示をしているように思える。これらのローブは設計機能でなく原子炉効率の劇的な増加に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本発明は添付図面を参照するとよく理解できるであろう。
【図1】図1は液体金属または塩冷却型原子炉の底部を断面で示す概略図である。
【図1A】図1の一部の概略図であり、環状の冷却ライザー隔壁を溶融金属または塩冷却材に関連して示す。
【図2】図2は従来技術の構成を断面図で示す一般的で単純化して概略図であり、外方の原子炉の半径を炉心の中心に関連して示す。
【図3】図3は3つのローブを有する高速炉の一般的で単純化した概略的な断面図であり本発明を最も良く示すものである。
【図4】図4は4つのローブを備えた高速炉の構成を示す一般的で単純化した概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明につき、図3は3つのローブを備えた高速炉の構成を示す。図示の番号は、例えば134'と134のように図2と同様である。図3において、炉心の共通の中心117'から格納容器シリンダ122'の内壁までの半径は2.15に等しい。この設計は3つの炉心116'、116''、116'''を有し、液体金属または塩冷却材は各炉心の燃料を含むローブ121と接触する。原子炉容器を120'で示すが、共通の立上り空間130'には空気冷却材が含まれ、流入する冷たい空気がポイント134'において格納シリンダ122'と接触する。通常の状況下において、各炉心が発生する残留熱はそれ自身の独立した冷却装置により除去される。炉心がその冷却装置を喪失しても、炉心は相互接続されているため他の炉心の独立した冷却装置へアクセス可能であり、立上り空間130'内の空気は3つの炉心領域と接触しているため原子炉容器を冷却するための表面積が大きい。図3において、*は乗算を意味する。図4は4つのローブまたは原子炉116'乃至116''''を有する本発明の好ましい実施例を示す。それ以外の好ましい実施例として5つのローブまたは原子炉を含むものがある。
【0016】
提案された新しい原子炉構成では、原子炉プールを相互接続したものを用い、各プール
はそれ自身の炉心を有し、その炉心は1つのグループとしてまたはそれぞれ独立して運転可能であり、それら全ては単一の格納建屋内に配置する。そのアプローチは、原子炉の体積に対する表面積の比率を事実上増加させるため、所与の体積の格納容器内で有意に高い熱出力が可能となり、資本コストが減少する。この概念は図3及び4並びに以下の計算により示される。3つまたは4つのローブを有する円形構成がコストで相対的に有利なことを分析した。R=原子炉の半径、H=原子炉の高さ、*=乗算記号

X個のローブ(X個の原子炉)を有する構成の解析
格納容器(単一のローブ)の体積=3.14*H*(R)2
格納容器(X個のローブ)の体積=3.14*H*(1/cosine 90−180/X)+1)2
容器及び構造体のコストスケーリングに常用される0.7のスケール係数を用いると、
コスト比率 X/1ローブ =[(1/cosine(90−180/X)+1)20.7=(1/cosine(90−180/X)+1)1.4
出力比率 Xローブ/1ローブ =X/1=X
出力/コスト比率 Xローブ/1ローブ =(X/(1/cosine 90−180/X)+1)1.4
【0017】
この解析結果を下表に示す。少なくとも3つのローブ及び最大9個のローブでは、出力/コスト比率は単一原子炉のものより大きいことに注意されたい。従って、構造の複雑さに応じて、3個乃至6個のローブが最も有用であるが、その理由はローブの数が増加すると原子炉容器の製造がより複雑になり、利点の大部分はローブが6個になるまで得られるからである。

【0018】
本明細書に示す計算は本願に記載した概念がコストの面で有利なことを示すものである。多ローブシステムでは、単一原子炉システムと比べて格納容器の資本コストの改善されるだけでなく別の利点が得られる。これらは、
1.タービン、発電機、変圧器、制御系統、復水器、安全系統及び認可のような発電所の残りのコストに関する経済性が優れている。
2.格納容器内であるが原子炉容器の外側の空間は事故発生時の熱シンクとして動作可
能である。これらの領域は大きな格納容器へ熱を伝達する働きもする。かかる材料の例には、非ナトリウム冷却型原子炉の水(または氷)もしくはナトリウム冷却型原子炉の硫酸ナトリウム十水和物のような物質が含まれる。
3.設計想定事象時において影響を受けなかった原子炉の安全系統を影響を受けた原子炉のバックアップ安全系統として使用できる。
【0019】
本発明を特許法令の必要条件に従って詳しく且つ完全に説明したが、添付の特許請求の範囲の発明思想または範囲から逸脱することなく変形例または設計変更が可能であることを理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ほぼ円筒形の格納容器が少なくとも2つのローブを備えた多ローブ型原子炉容器を有し、各ローブはそれ以外のローブと相互接続され、各ローブが高速炉の炉心を収納する液体金属または溶融塩冷却型原子炉。
【請求項2】
ローブはほぼ円形である請求項1の液体金属または溶融塩冷却型原子炉。
【請求項3】
ローブが3個乃至9個ある請求項1の液体金属または溶融塩冷却型原子炉。
【請求項4】
ローブが3個乃至6個ある請求項1の液体金属または溶融塩冷却型原子炉。
【請求項5】
液体金属または溶融塩冷却材は、本質的にナトリウム、ナトリウム及びカリウム、鉛、鉛及びビスマス、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム及びフッ化カリウム並びにその混合物及び他の溶融塩より成る群から選択した熱伝達物質である請求項1の液体金属または溶融塩冷却型原子炉。
【請求項6】
少なくとも3つのローブを有する原子炉容器が円筒壁を有し底部が閉じた格納容器内にあって、液体金属または溶融金属塩の冷却材のプールを保持し、原子炉容器の各ローブはそれ以外のローブと相互接続され、高速炉炉心を収納する、少なくとも3つのローブを有する液体金属または溶融塩冷却型原子炉。
【請求項7】
ローブはほぼ円形である請求項6の液体金属または溶融塩冷却型原子炉。
【請求項8】
ローブが3個乃至9個ある請求項6の液体金属または溶融塩冷却型原子炉。
【請求項9】
ローブが4個乃至5個ある請求項6の液体金属または溶融塩冷却型原子炉。
【請求項10】
液体金属または溶融塩冷却材は、本質的にナトリウム、ナトリウム及びカリウム、鉛、鉛及びビスマス、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム及びフッ化カリウム並びにその混合物及び他の溶融塩より成る群から選択した熱伝達物質である請求項6の液体金属または溶融塩冷却型原子炉。
【請求項11】
冷却材の液体金属はナトリウムである請求項6の液体金属または溶融塩冷却型原子炉。
【請求項12】
ローブの炉心は全て一緒にまたはそれぞれ独立して動作可能である請求項6の液体金属または溶融塩冷却型原子炉。
【請求項13】
格納容器は円筒壁と4個のローブを有する請求項6の液体金属または溶融塩冷却型原子炉。
【請求項14】
格納容器は円筒壁と5個のローブを有する請求項6の液体金属または溶融塩冷却型原子炉。

【図1】
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【図1A】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−141304(P2012−141304A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−281168(P2011−281168)
【出願日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【出願人】(501010395)ウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニー・エルエルシー (78)