説明

高速炉炉心

【課題】異なる同位体組成比を持つPuを用いて高速炉の炉心特性を低下させず、特に制御棒による出力分布のひずみを緩和して、長期サイクル運転・高燃焼度化や、冷却材炉心出口温度増大を図る。
【解決手段】高速炉炉心は、プルトニウム燃料と劣化ウランの混合物からなる燃料を装荷した複数の燃料集合体と、燃料集合体全体を取り囲む複数のブランケット集合体10と、複数の調整制御棒4と、複数の安全制御棒5と、を有する。調整制御棒4に隣接する燃料集合体26,36の燃料に装荷されるPu241とPu240の全プルトニウム中の存在割合の比は、他の燃料集合体27,28,37,38,39に装荷されたPu241とPu240の全プルトニウム中の存在割合の比よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は高速炉炉心に関し、特に、プルトニウム燃料と劣化ウランの混合物からなる燃料を装荷した複数の燃料集合体を有する高速炉炉心に関する。
【背景技術】
【0002】
高速炉の立ち上げまでには、軽水炉使用済み燃料からの取り出しプルトニウムとして、燃焼度や冷却期間がさまざまな使用済み燃料からのプルトニウムが蓄積する。すなわち、一般に軽水炉の燃焼度が増大するほど、生成するPuのうち核分裂性Pu割合が減ること、また、再処理までの冷却期間や再処理後の装荷までの期間により、Pu241がAm241へ崩壊することで同位体組成比(同位元素比)が大きく変動することが知られている。
【0003】
これら履歴の異なる使用済み燃料からのプルトニウムはその同位体組成比(同位元素比)が異なっており、同位体ごとの核特性がそれぞれ他と異なるため、異なる同位体組成比のプルトニウムを高速炉炉心へ装荷すると炉心特性が影響を受ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平7−60192号公報
【特許文献2】特開平9−325195号公報
【特許文献3】特開平6−3475号公報
【特許文献4】特開平3−39695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高速炉の開発が遅れており、軽水炉使用済み燃料は貯蔵されてきているため、その燃焼度や炉心取り出しからの冷却期間に応じて種々のPu同位体組成比のPuが蓄積している。ウラン燃料の軽水炉使用済み燃料から再処理して取り出されたPuの主要な同位体であるPu238、Pu239、Pu240、Pu241、Pu242の存在比は全体を100として、燃焼度45GWd/tで再処理後の冷却期間が約10年の場合、おおよそそれぞれ、〜3、〜55、〜25、〜9、〜8である。このなかで、たとえば冷却期間が変われば、半減期が約14年と短いPu241の存在比は冷却期間の間に大きく変動し、プルトニウム組成比を大きく変動させる。
【0006】
また、燃料コスト低減のために軽水炉燃料の燃焼度は増大する傾向にあり、燃焼度が増大するほどPu同位体組成としては、核分裂性のPu(Pu239とPu241の合計)の割合が減少することが知られている。傾向としては、Pu239の減少が大きく、他のPu241,Pu242などは増大する傾向である。さらに、これらのPuを軽水炉にてリサイクルするとさらにPu同位体組成は変動する。傾向としては、軽水炉燃料の燃焼度増加と同様にPu239の減少が大きく、他のPu241,Pu242などは増大する傾向である。ただし、これらの変化は、燃焼後の冷却期間の違いによる変化に比べて小さい。
【0007】
次に、本発明が対象とする高速炉炉心の課題を説明する。図5に高速炉炉心の従来例を示す。高速炉炉心は、プルトニウム燃料と劣化ウランの混合酸化物(MOX)燃料からなる燃料を装荷した炉心燃料集合体として、プルトニウム燃料の割合が小さい内側炉心燃料集合体2、プルトニウム燃料の割合が大きい外側炉心燃料集合体3と、これらの燃料集合体の間に分散して配置された制御棒4、5、プルトニウムを増殖するために劣化ウランからなり炉心燃料集合体を取り囲むように配置されたブランケット集合体10、遮蔽体11から構成されている。
【0008】
外側炉心では内側炉心よりも中性子漏れが大きいので、同一のPu富化度(PuO/(PuO+劣化UO)の重量比)では外側炉心での出力が低下する。そのため、外側炉心で、より高いPu富化度としており、内側炉心、外側炉心でそれぞれ、15%、17%となっている。また、プルトニウム燃料は前記のウラン燃料の軽水炉使用済み燃料から再処理して取り出されたPuで、燃焼度45GWd/tで再処理後の冷却期間が約10年のものが、炉心全体に装荷されている。すなわち、プルトニウム同位体組成比は全炉心にわたり単一である。
【0009】
制御棒4、5には調整制御棒4と安全制御棒5があり、前者はサイクル初期に挿入されて余剰反応度を抑制し、末期には引き抜かれる。後者は炉停止用であり、運転時は常時引抜き状態である。
【0010】
サイクル初期の調整制御棒の挿入は出力分布の歪みを生じさせる。調整制御棒に隣接した燃料の出力は特に抑制されるが、安全制御棒に隣接した燃料の出力は逆に増大する傾向がある。一方、末期では調整制御棒は引き抜かれるため、それに隣接する燃料は初期よりも出力が増大する傾向があり、逆に、安全制御棒に隣接した燃料の出力は初期よりも減少する傾向がある。これを図6に示す。
【0011】
図6に示すように、初期では挿入される調整制御棒に隣接した燃料の出力は、調整制御棒に隣接しない燃料の出力よりも10%程度小さくなっており、末期では調整制御棒が引き抜かれるため、調整制御棒に隣接する燃料は初期よりも出力が増大、調整制御棒に隣接しない燃料の出力は初期よりも低下している。なお、図6では代表的な燃料の出力を示しており、図5のすべての燃料で出力の絶対値は異なるが、初期と末期の出力変動は同様となっている。
【0012】
したがって、調整制御棒に隣接する燃料、安全制御棒に隣接する燃料ともにサイクルにおける出力変動が大きくなる傾向があり、これによって最大線出力が増加し、各燃料の冷却材流量を増大させるため、長期サイクル運転・高燃焼度化や、冷却材流量の低減による炉心出口温度の高温化を妨げ、最終的には経済性向上の妨げとなる。
【0013】
なお、多様なプルトニウム組成比に対処するための従来技術としては、特許文献1ないし4に記載された技術が知られている。しかし、上記課題を解決するための基礎になりうる技術を記載したものはない。
【0014】
この発明は、異なる同位体組成比を持つPuを用いて高速炉の炉心特性を低下させず、逆に改善する方法、特に制御棒による出力分布のひずみを緩和して、長期サイクル運転・高燃焼度化や、冷却材炉心出口温度増大等を図ることを目的としている。さらに、たとえば、高速炉の立ち上げが遅れている事情のもとにあって、長い間冷却されており、特に半減期が14年のPu241が減少したプルトニウムの有効利用を図ることを可能ならしめることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明に係る高速炉炉心は、プルトニウム燃料と劣化ウランもしくはトリウム燃料との混合物からなる燃料を装荷した複数の炉心燃料集合体と、主として劣化ウランからなる燃料が装荷されて前記複数の燃料集合体全体を取り囲むように配置された複数のブランケット集合体と、前記複数の燃料集合体の間に分散して配置され、燃料交換後のサイクル初期に余剰反応度を抑えるために炉心に挿入される複数の調整制御棒と、前記調整制御棒に隣接しないで前記複数の燃料集合体の間に分散して配置され、緊急時および通常時の炉停止操作のみに使われて通常の運転時は炉心から引き抜かれている複数の安全制御棒と、を有する高速炉炉心であって、前記調整制御棒に隣接する燃料集合体の少なくとも一部の燃料に装荷されるPu241とPu240の全プルトニウム中の存在割合の比が、その他の燃料集合体に装荷されたPu241とPu240の全プルトニウム中の存在割合の比よりも大きいこと、を特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、異なる同位体組成比のプルトニウムを高速炉炉心へ装荷した場合に、高速炉の炉心特性、特に出力分布や反応度に影響を与えないこと、逆に、特に制御棒による出力分布のひずみを緩和して、長期サイクル運転・高燃焼度化や、冷却材炉心出口温度増大等、経済性の向上を図ることができる。同時に、高速炉の立ち上げが遅れている事情がある場合において、使用済み燃料が長い間冷却されている場合に、特に半減期が14年のPu241が減少したプルトニウムを有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る高速炉炉心の実施形態の中心角120度部分を示す1/3横断面図である。
【図2】本発明に係る高速炉炉心の第1の実施形態における燃焼による反応度の燃焼変化を示すグラフである。
【図3】本発明に係る高速炉炉心の第1の実施形態における燃料集合体の出力変動を示すグラフである。
【図4】本発明に係る高速炉炉心の第6の実施形態における燃料仕様を示す表である。
【図5】従来技術による高速炉炉心を示す横断面図である。
【図6】従来技術による高速炉炉心における燃焼による反応度の燃焼変化を示すグラフである。
【図7】従来技術による高速炉炉心における燃料仕様を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明に係る高速炉炉心の実施形態について説明する。ここで、先に説明した従来技術と同一または類似の部分には共通の符号を付して重複説明は省略する。
【0019】
[第1の実施形態]
図1は、本発明に係る高速炉炉心の第1の実施形態の中心角120度部分を示す1/3横断面図である。本発明に係る高速炉炉心の第1の実施形態では、複数の燃料集合体、制御棒、遮へい体などがそれぞれほぼ同じ形状・寸法の六角注状であって、それらが鉛直方向に立設され、水平方向には稠密に配列されている。また、炉中心軸を通って互いに中心角で60度ずつ離れた3個の対称面X−X、Y−Y、Z−Zに対して面対称となっている。
【0020】
前述の従来技術(図5)による場合とほぼ同様に、高速炉炉心は、プルトニウム燃料と劣化ウランの混合酸化物燃料からなる燃料を装荷した炉心燃料集合体と、燃料の間に分散して配置された制御棒4、5、プルトニウムを増殖するために劣化ウランからなり炉心燃料集合体を取り囲むように配置されたブランケット集合体10と、遮蔽体11とから構成されている。炉心燃料集合体は、プルトニウム燃料の割合が小さい内側炉心燃料と、プルトニウム燃料の割合が大きい外側炉心燃料とからなっている。また、制御棒4、5は、調整制御棒4と安全制御棒5からなっている。なお、制御棒4、5は互いに隣接せず、ブランケット集合体10とも隣接していない。
【0021】
第1の実施形態では、内側炉心燃料集合体26、27、28と外側炉心燃料集合体36、37、38、39はそれぞれ単一構成ではなく、調整制御棒4に隣接する内側炉心燃料集合体26、36に装荷されるプルトニウムの同位体Pu241とPu240の存在割合は全体を100として、それぞれ約14、約24であり、その比は約0.58である。これに対して、その他の燃料集合体27、28、37、38、39に装荷されたプルトニウムの同位体Pu241とPu240の存在割合は従来例と同じくそれぞれ約9、約25であり、その比は約0.36となっている。すなわち、この実施形態では、従来例において、燃料集合体26、36に装荷されるプルトニウムのみをPu241とPu240の存在割合の比の大きなものに置換したことに相当する。
【0022】
また、これら2種類のプルトニウムは濃縮ウランを燃料とする軽水炉から取り出されたものであり、その燃焼度はおおよそ45GWd/t、再処理前の冷却期間が燃料集合体26、36に装荷されるプルトニウムでは2年、その他のプルトニウムでは従来例の10年である。
【0023】
なお、ここでは燃料集合体26、36と、その他の燃料ではそれぞれが単一のプルトニウム組成の場合を示したが、それぞれが複数のプルトニウム組成でもかまわない。
【0024】
次に、この実施形態により前記課題が解決することを説明する。
【0025】
高速炉においてもPu241はPu239よりも核分裂断面積が大きいために、Pu241の存在割合が多いプルトニウムでは燃料として反応度が大きい傾向を持つ。ただし、燃焼とともにPu241は減少する。その存在割合の燃焼変化は、Pu241の中性子吸収および自然崩壊による減少と、Pu240の中性子捕獲による生成のバランスで決まるが、Pu241の存在割合が多いPuでは、Pu241減少が勝るため、燃焼による反応度低下が大きいことがわかっている。逆にPu241の存在割合が少ない組成ではPu241自体の減少が少ないので、燃焼による反応度低下は少ないものとなる。これらはPu240の存在割合がPu241の多少に関わらず大きく変動しないことにもよっている。
【0026】
図2は第1の実施形態における燃焼による反応度の燃焼変化を示すグラフである。このグラフは末期での反応度がそれぞれ1となるようにPu富化度を調整した結果を示しており、初期ではPu241の存在割合が大きいPu組成の反応度が他のPuよりも大きくなっている。すなわち、Pu241の存在割合が大きいPu組成では燃焼による反応度低下が大きい傾向がある。
【0027】
図3は第1の実施形態における燃料集合体の出力変動を示すグラフである。第1の実施形態では、図3に示すように、調整制御棒4に隣接する燃料集合体26、36では従来例よりも初期の出力が増大する。また、安全制御棒5に隣接する燃料集合体27、37や制御棒4、5に隣接しない燃料集合体28、38、39では、従来例よりも初期で出力が低下する。これは燃料集合体26、36の出力が増大する状況において、炉心全体の出力を一定に保っているため、相対的に他の燃料集合体の出力が低下することによる。これによって、これらの燃料集合体では初期から末期にかけての出力変動が従来例の5%程度から3%程度へと低減している。この結果として、各燃料集合体の最大出力も従来例の1.05から本実施形態の1.02へ3%程度低減している。
【0028】
これらにより、各燃料集合体の冷却材最高温度、被覆管最高温度を制限値以下とするための炉心全体の冷却材流量を低減できる。それは、各燃料集合体の冷却材流量は初期から末期までの最大出力で決定されるからである。これにより、炉心出口温度を向上でき、発電効率を上げることができる。
【0029】
なお、調整制御棒4に隣接する燃料集合体26、36に割り当てられるPu241割合の大きいプルトニウム組成は、燃料集合体26、36のすべてに装荷するだけの量がなければ、燃料集合体26、36の一部のみへ装荷することが考えられる。この場合でも、全部の燃料の出力変動抑制は得られないものの、これを装荷した燃料集合体26、36については出力変動の抑制が得られるために、部分的に発明の効果を得ることができる。
【0030】
本実施形態において、Pu組成としてPu241に対してPu240との比を取っている理由を以下に述べる。Pu241は原子炉内の照射によって存在比が大きく変動し、かつ、その変動は初期組成比に依存するとともに、その初期組成は、装荷前の冷却期間において半減期14.4年で大きく変動するため、本実施形態の効果をもたらす重要な核種である。一方、Pu240はおおむね安定な核種であるが、原子炉内ではPu241はPu240から生成する。そのため、Pu241が原子炉内で増加するか、減少するかはPu241/Pu240の比が大きく影響する。すなわち、装荷時にPu241/Pu240の比が相対的に大きければ、Pu241の核分裂や中性子捕獲による減少がPu240の中性子捕獲による増大に勝ってPu241は減少し、逆に小さければPu241は増大する。よって、Pu241とPu240の比を、本実施形態の構成要件としている。
【0031】
なお、Pu241の1個あたりの核分裂や中性子捕獲の確率は、Pu240の1個あたりの中性子捕獲の確率よりも小さい。このため、第1の実施形態のようにPu241/Pu240が0.5程度の場合はPu241の減少が勝る。一方、Pu241/Pu240が0.2程度ではPu241が若干増大する傾向を示す。
【0032】
なお、本実施形態では、濃縮ウランを燃料とする軽水炉から取り出された2種類のプルトニウムの燃焼度はともに45GWd/tであって、再処理前の冷却期間のみが、2年と10年という違いがあったが、それぞれが取り出された軽水炉燃料の燃焼度は異なっていてもよい。たとえば、燃焼度60GWd/tで冷却期間2年、燃焼度45GWd/tで冷却期間10年の組み合わせでもよい。これは、Pu241とPu240の比が、燃焼度よりも冷却期間に支配されるためである。
【0033】
[第2の実施形態]
本発明に係る高速炉炉心の第2の実施形態は第1の実施形態の変形であって、安全制御棒5に隣接する燃料集合体27、37と、これに加えて調整制御棒4および安全制御棒5のどちらにも隣接しない燃料集合体28、38、39に装荷されるプルトニウムの同位体Pu241とPu240の存在比が、全体を100として、それぞれ約5と約27であり、その比は約0.19である。一方、調整制御棒4に隣接する燃料集合体26、36に装荷されたプルトニウムの同位体Pu241とPu240の存在比は、従来例と同じ約9、約25であり、その比は0.36と、燃料集合体27、37、28、38、39よりも大きくなっている。
【0034】
従来例では調整制御棒4が挿入されたサイクル初期では常時引き抜き状態にある安全制御棒5に隣接した燃料集合体27、37や燃料集合体28、38、39の出力が大きく増大していたが、第2の実施形態では、安全制御棒5に隣接した燃料集合体27、37や他の燃料集合体28、38、39の出力がサイクル初期では抑制される。逆に調整制御棒4に隣接した燃料集合体26、36のサイクル初期の出力は、炉心全体の出力を一定に保っているために従来例よりも増大するため、第1の実施形態と同様な効果を期待することができる。
【0035】
また、これら2種類のプルトニウムは濃縮ウランを燃料とする軽水炉から取り出されたものであり、その燃焼度はおおよそ45GWd/t、再処理前の冷却期間は、燃料集合体27、37、28、38、39へ装荷されるものが30年、他のプルトニウムでは従来例と同じ10年である。ここでは燃料集合体27、37、28、38、39やその他の燃料ではそれぞれ単一のプルトニウム組成の場合を示したが、それぞれが複数のプルトニウム組成でもかまわない。
【0036】
なお、燃料集合体27、37、28、38、39に割り当てられるPu241割合の小さいプルトニウム組成は、燃料集合体27、37、28、38、39のすべてに装荷するだけの量がなければ、各サイクルの燃料交換時に、これらの燃料集合体の一部のみへ装荷することが考えられる。この場合でも、全燃料の出力変動抑制は得られないものの、これを装荷した燃料集合体については出力変動の抑制が得られるために、部分的に発明の効果を得ることができる。
【0037】
[第3の実施形態]
本発明に係る高速炉炉心の第3の実施形態は第2の実施形態の変形である。ブランケット集合体10に隣接する燃料集合体39に装荷されるプルトニウムの同位体組成比は、第2の実施形態と異なり、たとえば、Pu241とPu240の存在比がそれぞれ、従来例と同じ約9、約25である。他の構成は第2の実施形態と同様である。ブランケット集合体10に隣接した燃料では出力が低いために、サイクル初期から末期にかけての出力変動が及ぼす効果が小さい傾向がある。そこで、プルトニウム組成比を従来のものとしても、全体としては第2の実施形態と大きくは変わらない効果が期待できる。
【0038】
[第4の実施形態]
本発明に係る高速炉炉心の第4の実施形態は、上記第1ないし第3の実施形態に組み合わせて適用可能である。第4の実施形態では、調整制御棒4に隣接する燃料集合体26、36のプルトニウム組成がMOX燃料装荷軽水炉から再処理によって取り出されたプルトニウムであり、再処理前後での冷却期間は10年である。また、安全制御棒5に隣接する燃料集合体27、37、これに加えて調整制御棒4および安全制御棒5のどちらにも隣接しない燃料集合体28、38、39に装荷されるプルトニウム組成が、ウラン燃料装荷軽水炉から再処理にて取り出されたプルトニウムであり、再処理前後での冷却期間は30年である。この場合でも、冷却期間が長い後者のプルトニウム組成のPu241の存在割合は、前者のプルトニウム組成のPu241の存在割合よりも大幅に小さくなっている。このため、第1ないし第3の実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0039】
[第5の実施形態]
本発明に係る高速炉炉心の第5の実施形態では、第1の実施形態とプルトニウム組成は同様で、複数のプルトニウム組成を用いているが、各プルトニウム組成には再処理時にプルトニウムとともに回収されたアメリシウムが付随している。このこと自体はPu241とPu240の存在割合の比には影響しないが、Pu241割合が小さいプルトニウムでは冷却期間が長いためアメリシウムが多く付随している傾向があり、アメリシウムはサイクル初期の反応度を抑制し、サイクル末期には核分裂性物質へ転換して反応度を回復させること、Pu241の存在割合が大きいプルトニウムではその逆の傾向を有しているため、それぞれのプルトニウム組成の傾向を助長させ、各燃料の出力変動の抑制に有効である。このことは第1および第2の実施形態と同様である。
【0040】
[第6の実施形態]
本発明に係る高速炉炉心の第6の実施形態では、第2の実施形態とプルトニウム組成は同様で、複数のプルトニウム組成を用いている。さらに、炉心中心領域である内側炉心では、燃料集合体26、27、28が装荷され、外側炉心では燃料集合体36、37、38、39が装荷されている。本実施形態では、プルトニウム組成の違いに応じてそれぞれの燃料のPu富化度(PuO/(PuO+劣化UO)の重量比)を調整する。従来例ではPu富化度と、Pu241/Pu240組成比は図7に示すとおりである。
【0041】
これに対して、第6の実施形態では、図4に示すように、調整制御棒4に隣接する燃料集合体26、36ではPu241/Pu240の比およびPu富化度ともに従来例と同じであるが、それ以外の燃料集合体27、37、28、38、39では、Pu241/Pu240の比が0.19と小さくPu241存在割合が小さいプルトニウム組成を装荷している。さらに、そのPu富化度が内側炉心燃料集合体27、28では16%、外側炉心燃料集合体37、38、39では18%と従来例よりも1%高くなっている。第6の実施形態にてPu富化度のみを従来と同じとしても、本実施形態が目的とする各燃料集合体の出力変動を抑制することは可能であるが、燃料集合体27、37、28、38、39ではPu241が従来例よりも少ないために、サイクル末期の実効増倍率が従来例よりも低下する。反応度余裕の度合いにもよるが、原子炉が臨界とならない可能性がある。そのような場合には、この実施形態のように、内側炉心燃料集合体27、28では16%、外側炉心燃料集合体37、38、39では18%と従来例よりもPu富化度を高くしてサイクル末期の原子炉の臨界性を確保することが可能である。
【0042】
[他の実施形態]
以上説明した実施形態は単なる例示であって、本発明はこれらに限定されるものではない。たとえば、各実施形態の特徴を種々に組み合わせることもできる。
【0043】
また、以上の実施形態において、燃料は酸化物燃料を前提としたが、金属燃料や窒化物燃料等であっても同様な効果が得られることはもちろんである。さらに、プルトニウムとウランの混合酸化物燃料を前提としているが、プルトニウムとトリウムの混合酸化物燃料や金属燃料等であっても同様な効果が得られる。
【符号の説明】
【0044】
2 内側炉心燃料集合体
3 外側炉心燃料集合体
4 調整制御棒
5 安全制御棒
10 ブランケット集合体
11 遮蔽体
26,27,28,36,37,38,39 燃料集合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プルトニウム燃料と劣化ウランもしくはトリウム燃料との混合物からなる燃料を装荷した複数の炉心燃料集合体と、
主として劣化ウランもしくはトリウム燃料からなる燃料が装荷されて前記複数の燃料集合体全体を取り囲むように配置された複数のブランケット集合体と、
前記複数の燃料集合体の間に分散して配置され、燃料交換後のサイクル初期に余剰反応度を抑えるために炉心に挿入される複数の調整制御棒と、
前記調整制御棒に隣接しないで前記複数の燃料集合体の間に分散して配置され、緊急時および通常時の炉停止操作のみに使われて通常の運転時は炉心から引き抜かれている複数の安全制御棒と、
を有する高速炉炉心であって、
前記調整制御棒に隣接する燃料集合体の少なくとも一部の燃料に装荷されるPu241とPu240の全プルトニウム中の存在割合の比が、その他の燃料集合体に装荷されたPu241とPu240の全プルトニウム中の存在割合の比よりも大きいこと、
を特徴とする高速炉炉心。
【請求項2】
前記安全制御棒に隣接する燃料集合体の少なくとも一部の燃料に装荷されるPu241とPu240の存在割合の比と、前記調整制御棒および安全制御棒のいずれにも隣接しない燃料集合体の少なくとも一部の燃料に装荷されるPu241とPu240の全プルトニウム中の存在割合の比の双方が、前記調整制御棒に隣接する燃料集合体に装荷されたPu241とPu240の全プルトニウム中の存在割合の比よりも小さいこと、を特徴とする請求項1に記載の高速炉炉心。
【請求項3】
前記安全制御棒に隣接してしかも前記ブランケット集合体に隣接しない燃料集合体の少なくとも一部の燃料に装荷されるPu241とPu240の存在割合の比と、前記調整制御棒および安全制御棒のいずれにも隣接しないでしかも前記ブランケット集合体に隣接しない燃料集合体の少なくとも一部の燃料に装荷されるPu241とPu240の全プルトニウム中の存在割合の比の双方が、前記調整制御棒に隣接する燃料集合体に装荷されたプルトニウムの同位体Pu241とPu240の全プルトニウム中の存在割合の比よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の高速炉炉心。
【請求項4】
前記燃料集合体の燃料の少なくとも一部が、原子炉での燃焼によって得られた使用済み燃料を再処理して冷却して得たものであって、再処理前後での通算の冷却期間が異なることによって前記Pu241とPu240の全プルトニウム中の存在割合の比が異なるように構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の高速炉炉心。
【請求項5】
前記燃料集合体のプルトニウムは、すべてがウラン燃料装荷軽水炉の使用済み燃料から取り出されたプルトニウムであるか、すべてがMOX燃料装荷軽水炉の使用済み燃料から取り出されたプルトニウムであるか、ウラン燃料装荷軽水炉の使用済み燃料から取り出されたプルトニウムとMOX燃料装荷軽水炉の使用済み燃料から取り出されたプルトニウムの組み合わせのいずれかであること、を特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の高速炉炉心。
【請求項6】
前記燃料集合体のプルトニウムは、原子炉での燃焼によって得られた使用済み燃料からマイナーアクチニドとともに回収されたものであること、を特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の高速炉炉心。
【請求項7】
前記燃料集合体のプルトニウムの富化度が、炉心中心領域および外側領域の領域ごとにサイクル末期において同一の反応度を持つように設定されていること、を特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の高速炉炉心。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−73172(P2012−73172A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219401(P2010−219401)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)