説明

高速飛しょう体

【課題】 二次燃焼室へ取入れる空気の流れによって生じるガス気流で断熱材が局所的に損傷するのを抑制できる高速飛しょう体を提供すること。
【解決手段】 ラムジェットエンジン推進の高速飛しょう体を初期加速させるための推進薬を装填する筒状の二次燃焼室2と、この二次燃焼室2に空気20を取入れる空気取入口1と、この二次燃焼室2の内面を保護する断熱材11とを備え、前記空気取入口1は、前記二次燃焼室2の径方向断面の軸心に対して、取入れる空気20が合流して一方向に流れるように対称配置されており、前記二次燃焼室2の断熱材11は、前記空気取入口1から取入れた空気20が合流した気流21が衝突する部分で、この気流21を拡散する偏肉部12を具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速で飛行することにより空気取入口から圧縮された空気を取入れ、この空気を酸化剤として燃料と混合させて燃焼させる空気吸入式エンジンを備えた高速飛しょう体に関する。
【背景技術】
【0002】
飛しょう体が飛行するためには、この飛しょう体に作用する重力、あるいは空気抵抗に見合うだけの推力を発生する必要がある。音速以上の高速で飛行する高速飛しょう体の主な推力発生源としては、ロケットエンジンと空気吸入式エンジンとがある。空気吸入式エンジンは、多くの酸化剤を飛しょう体に搭載する必要が無いので、ロケットエンジンと比較して飛しょう体システムを軽量化することができる。
【0003】
代表的な空気吸入式エンジンには、ラムジェットエンジンがある。ラムジェットエンジンは、液体燃料、若しくは固体燃料と吸入した空気との混合ガスを燃焼させることで推力を発生する。このラムジェットエンジンの燃焼室は、例えば、2000K程度の超高温となる過酷な環境である。このようなラムジェットエンジンの一つに、ダクテッドロケットエンジンがあり、このタグテッドロケットエンジンを搭載した高速飛しょう体(タグテッドロケット)がある。
【0004】
図4は、このような高速飛しょう体を軸方向に切断して示す縦断面図であり、図5(a) 〜(c) は、図4に示す高速飛しょう体の二次燃焼までの過程を示す説明図である。図4に示すように、高速飛しょう体100は、構造体としてのラム燃焼器(以下、「二次燃焼室」という)102と、この二次燃焼室102内に設けられたインテグラルブースタ用推進薬103と、ガス発生器(以下、「一次燃焼室」という)104に設けられてインテグラルブースタ用推進薬103の燃焼に続いて着火され、可燃性ガスを発生するサステーナ用ガス発生剤105(以下、「燃料」ともいう)と、上記可燃性ガスを二次燃焼室102内に噴出させるガスノズル106と、二次燃焼室102に設けた空気取入口101(図4においては左右2つ)に接続され、上記可燃性ガスを燃焼させるための空気を圧縮した状態で二次燃焼室102内に取り入れる空気取入ダクト107と、インテグラルブースタ用推進薬103の燃焼時に空気取入口101を閉塞すると共にインテグラルブースタ用推進薬103の燃焼終了に合わせて空気取入口101を開放する取入口カバー108と、インテグラルブースタ用推進薬103の燃焼により生じた高温ガスを外部に噴射するブースタノズル109と、上記圧縮された空気とサステーナ用ガス発生剤105が着火して生じた可燃性ガスとの混合物(燃料ガス)が燃焼して発生した高温ガスを外部に噴射するラムノズル110とを備えている。
【0005】
また、二次燃焼室102は、その内部にインテグラルブースタ用推進薬103があるときにはインテグラルブースタとして利用され、インテグラルブースタ用推進薬103の燃焼が終了した際にはその内部空間を二次燃焼室として利用される構造となっている。
【0006】
そして、図5(a) に示すように、高速飛しょう体100は、まず、二次燃焼室102内のインテグラルブースタ用推進薬103に着火して、その燃焼により生じた高温ガスをブースタノズル109を通じて外部に噴出することにより発射し、その後のラム圧による作動に必要な設定マッハ数に到達するまで加速する。
【0007】
次いで、図5(b) に示すように、設定マッハ数に近付いてインテグラルブースタ用推進薬103の燃焼が終了すると、ラムノズル110の内側に取り付けられているブースタノズル109を、図示しない分離機構を作動させて二次燃焼室102から外部に排出する。
【0008】
ブースタノズル109が分離されると、続いて、左右の取入口カバー108を開放して空気取入口101を開口させ、それぞれの空気取入ダクト107を通じて二次燃焼室102内に圧縮空気を取り入れる。これに合わせて、図5(c) に示すように、一次燃焼室104内の燃料105に着火して、これにより発生する可燃性ガスをガスノズル106を通じて二次燃焼室102内に噴射する。そして、この可燃性ガスと取り入れた圧縮空気とを混合して二次燃焼室102内で連続燃焼反応(ラム燃焼)を起こさせ、これによって生じる高温ガスを既に露出した状態となっているラムノズル110を通じて外部に噴出することによりさらなる推力を得るようになっている。
【0009】
このように、高速飛しょう体100(タグテッドロケット)は、まず、二次燃焼室102内の推進薬103を燃焼させ、ロケットを加速する。次に、空気取入ダクト107を通じて導入した空気と、一次燃焼室104内の燃料105を化学反応させて発生させた燃焼ガスとを二次燃焼室102内で混合させて、これに着火させることによって強力な推力を得るようになっている。
【0010】
そのため、二次燃焼室102は、初期加速用の推進薬103を装填するために必要な体積を確保した上で、上記二次燃焼時には高温、高圧のガスが燃焼しても耐えうるように断熱材(インシュレータ)が内面に設けられている。
【0011】
この種のタグテッドロケットの二次燃焼室内に使用される断熱材としては、例えば、本出願人が先に出願した、熱防御・耐損耗複合機能材料層と化学的安定材料層とを備えた熱防御・耐損耗複合機能構造体がある(特許文献1参照)。
【0012】
また、ラムジェットエンジンに関するものとして、ダクトの上流部位に燃料噴射ノズルを配設すると共に下流部位に保炎器を配設して構成のコンパクト化を図ったものがある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第3965175号公報
【特許文献2】特開2002−317699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、上記したような高速飛しょう体100の二次燃焼室102に空気を取入れる空気取入口101の配置としては、径方向断面の軸心に対して180°で2つを対向配置したものや、90°の間隔で4つを配置したもの、90°の角度で2つを偏って配置したもの等がある。そして、高速飛しょう体100の上部を発射台等の構成に保持する場合には、径方向断面の軸心に対して、下部に偏って2つの空気取入口101を90°で対称配置する場合が多い。
【0015】
図6は、上記図4に示す高速飛しょう体の二次燃焼室を径方向に切断した断面図であり、上記したように空気取入口101が90°の角度で2つ配置された例である。これらの空気取入口101は、図示する状態で二次燃焼室102の鉛直軸線Vに対して左右位置で対称、水平軸線Hに対して上下位置で非対称となるように配置されている。このように空気取入口101が90°の角度で配置された場合、これらの空気取入口101から二次燃焼室102内に取入れられた空気120は中央部で合流し燃料と混合されて反取入口側に流れることとなる。
【0016】
しかしながら、このように空気取入口101を90°の角度で偏って対称配置した場合、空気取入口101から取入れられた空気120と燃焼した燃料とによる高温のガス気流121が反取入口側の断熱材111に局所的に集中して当ることとなり、その気流集中部に局所的に大きな動圧が発生し、その部分の断熱材111(ゴムや樹脂等)を大きく損耗させてしまう。この図ではガス気流121を模式的に示しており、このガス気流121は、反取入口側に流れて断熱材111に衝突した後、この断熱材111の内面に沿うように分れて後方へ流れている。
【0017】
図7は、上記図6に示す高速飛しょう体の二次燃焼室内における空気と燃料の流れを数値流体力学(CFD)で解析した結果を示す画像データであり、(a) は空気取入口側の斜め上方向から見た画像データ、(b) は同方向から見た斜視の画像データである。これらの画像データは、断熱材の内部における流れを、空気400本、燃料40本で解析しており、空気120を濃色で示し、燃料105を淡色で示している。図6に示す構成と共に説明する。
【0018】
図示するように、空気取入口101から取入れられた空気120は、二次燃焼室102内の中央部で合流し、燃料105と共に反取入口側(図の上側)に流れて断熱材111に衝突した後、この断熱材111の内面に沿って左右に分れて後方へと流れている。そのため、この空気120と共に燃料105が衝突する断熱材111の部分(図の上部)では局部的に大きな動圧が発生し、空気120に混合されて燃料105が燃焼した高温・高圧のガス気流121が集中して衝突する部分(図の上部)では、上記したように断熱材111が抉られるように局部的に早期損耗してしまう。
【0019】
しかも、特に、燃料105が固体推進薬の場合には化学分解させて半ガス化した状態で燃焼させるが、燃焼ガス中に保炎する金属粉などの微小デブリが含まれ、この微小デブリが断熱材111に衝突することによって更に断熱材111が抉られて損耗を早める。
【0020】
このように、初期加速用の推進薬を必要量装填するための必要体積を確保するように所定の一定厚で形成された断熱材111は、空気取入口101から取入れられて合流したガス気流が集中して衝突する部分に局所的に大きな動圧が発生し、その部分の断熱材が早期に大きく損耗してしまう。その上、上記ガス気流の集中により燃料噴射部分において酸素不足が生じ、未燃焼が発生することもある。これらの点は、上記特許文献1,2でも解決することはできない。
【0021】
そこで、図8に示す高速飛しょう体の二次燃焼室における変形例を示す径方向の断面図のように、断熱材111の厚みを厚くして上記ガス気流の集中による損耗に対処することが考えられる。しかしながら、断熱材111を厚くすると二次燃焼室102の体積が小さくなって初期加速のために使用する推進薬の装填量が減るため、十分な加速が得られないおそれがあり、高速飛しょう体が飛行するために必要な要求速度を満たさなくなる場合がある。
【0022】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、二次燃焼室へ取入れる空気の流れによって生じるガス気流で断熱材が局所的に損傷するのを抑制できる高速飛しょう体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的を達成するために、本発明は、ラムジェットエンジン推進の高速飛しょう体を初期加速させるための推進薬を装填する筒状の二次燃焼室と、該二次燃焼室に空気を取入れる空気取入口と、該二次燃焼室の内面を保護する断熱材とを備えた高速飛しょう体であって、前記空気取入口は、前記二次燃焼室の径方向断面の軸心に対して、取入れる空気が合流して一方向に流れるように対称配置されており、前記二次燃焼室の断熱材は、前記空気取入口から取入れた空気が合流した気流が衝突する部分で該気流を拡散する偏肉部を具備している。この明細書及び特許請求の範囲の書類中における「偏肉部」は、空気の流れを拡散させて局所的に集中するのを抑制できる形状で偏肉(厚肉等)に形成されていればよい。このようにすれば、空気取入口から取入れられた空気が合流した気流を偏肉部で分散させて断熱材に局所的な動圧が発生するのを抑制し、断熱材損耗量を低減させることができると共に、燃料噴射部へ取入れられた空気を循環させてラム燃焼性能の向上を図ることが可能となる。しかも、偏肉部を断熱材の周方向の一部に限定的に具備させるので、初期加速のために使用する推進薬の装填量が減少するのを抑え、高速飛しょう体を高速飛行させるために十分な加速を得ることはできる。
【0024】
また、前記偏肉部からその偏肉部と連なる断熱材の内面に、前記気流を断熱材内面に沿うように流す曲面部を具備していてもよい。このようにすれば、偏肉部で拡散させた気流によってその偏肉部と連なる断熱材内面との角部が損耗するのを抑制することができる。
【0025】
さらに、前記偏肉部は、前記二次燃焼室の内径の2倍〜4倍で軸方向に具備されていてもよい。このようにすれば、空気取入口から取入れられて燃料と混合された高温の気流を効果的に分散させて局所的な損耗を抑えつつ、二次燃焼室内の体積減少を抑えることができる。
【0026】
また、前記空気取入口は、前記二次燃焼室の径方向断面の軸心に対して90°の角度で配置されていてもよい。これにより、空気取入口を配置していない部分で高速飛しょう体を発射台等の構成に安定して保持することができると共に、空気取入口から90°の角度で取入れられた空気によって生じる気流を分散させて断熱材の局所的な損耗を抑制することができる。
【0027】
さらに、前記高速飛しょう体がタグテッドロケットであれば、長時間の高速飛行が可能なタグテッドロケットを構成することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、以上説明したような手段により、ラムジェットエンジンに取入れた空気によって生じるガス気流を分散させて断熱材の局所的な損耗を抑制し、長時間の飛行ができる高速飛しょう体を構成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施の形態に係る高速飛しょう体の二次燃焼室を径方向に切断した断面図である。
【図2】図1に示す高速飛しょう体の二次燃焼室部分を軸方向に切断して模式的に示す縦断面図である。
【図3】図1に示す高速飛しょう体の二次燃焼室内における空気と燃料の流れを数値流体力学(CFD)で解析した結果を示す画像データであり、(a) は空気取入口側の斜め上方向から見た画像データ、(b) は同方向から見た斜視の画像データである。
【図4】高速飛しょう体を軸方向に切断して示す縦断面図である。
【図5】(a) 〜(c) は、図4に示す高速飛しょう体の二次燃焼までの過程を示す説明図である。
【図6】図4に示す高速飛しょう体の二次燃焼室を径方向に切断した断面図である。
【図7】図6に示す高速飛しょう体の二次燃焼室内における空気と燃料の流れを数値流体力学(CFD)で解析した結果を示す画像データであり、(a) は空気取入口側の斜め上方向から見た画像データ、(b) は同方向から見た斜視の画像データである。
【図8】図6に示す高速飛しょう体の二次燃焼室における変形例を示す径方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の一実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係る高速飛しょう体の二次燃焼室を径方向に切断した断面図であり、図2は、図1に示す高速飛しょう体の二次燃焼室部分を軸方向に切断して模式的に示す縦断面図である。以下の説明では、図1に示す状態における上下方向と、左右方向とに基いて説明する。また、図2では、左側に前部、右側に後部を示し、上述した図4と同一の構成には同一符号を付して説明する。
【0031】
図1に示すように、この実施の形態の高速飛しょう体10における二次燃焼室2への空気取入口1としては、高速飛しょう体10の上部が発射台等の構成に保持されるので、下部に配置されている。この空気取入口1は、二次燃焼室2の径方向断面の軸心に対して90°の角度で下部に配置され、図示する状態で二次燃焼室2の鉛直軸線Vに対して左右位置で対称、水平軸線Hに対して上下位置で非対称となる配置となっている。
【0032】
そして、二次燃焼室2の内面には断熱材11が設けられ、この断熱材11には、図示する径方向断面における反空気取入口側(図示する上部)に偏肉部12が具備されている。この偏肉部12は、空気取入口1から取入れられた空気20が燃料と混合されたガス気流21が衝突する部分に設けられている。従って、二次燃焼室2の下部に配置された空気取入口1から取入れられた空気20は、二次燃焼室2の中央部で合流して燃料と混合されてガス気流21となり偏肉部12に向けて流れる。
【0033】
この偏肉部12は、この実施の形態では、断熱材11を厚くした厚肉部によって形成されており、その内面は平面に形成されている。また、この平面に連続する断熱材11との内面は、この平面から筒状の断熱材内面にスムーズに連なる曲面部(この図では微小曲面部)で形成されている。なお、この偏肉部12の内面は平面形状に限らず、中央部が厚くなった楕円曲面形状であってもよい。
【0034】
このような偏肉部12により、空気取入口1から取入れられた空気20と燃料とが混合されたガス気流21は、偏肉部12に達する前に鉛直軸線Vから左右に分れて断熱材11の内面に沿うように大きく曲がって二次燃焼室2の内面に沿うような流れとなる。これにより、このガス気流21が反取入口側に位置する断熱材11の偏肉部12に局部的に衝突し、その部分の断熱材11を損耗させるのを抑制することができる。
【0035】
つまり、断熱材11のガス気流21が衝突する部分に偏肉部12を具備させることにより、空気取入口1から取入れられた空気20によって生じるガス気流21を拡散させ、反取入口側の断熱材11にガス気流21が集中して衝突することによって生じる局所的な大きな動圧を抑えて、断熱材11が大きく損耗するのを抑制している。
【0036】
図2に示すように、上記偏肉部12を具備させる二次燃焼室2内の断熱材11としては、この二次燃焼室2の空気取入口1が設けられた前部(ガスノズル106側)の一部に偏肉部12が形成され、後部のラムノズル110が設けられた位置までの他の部分は上記図6に示す断熱材11と同じ所定厚で形成され、偏肉部12とそれに連なる断熱材11の部分との接続部は滑らかに連続するような斜面13に形成されている。このように断熱材11の一部に形成する偏肉部12の範囲としては、空気取入口1が設けられる位置等によって異なるが、例えば、二次燃焼室2の直径の約2倍〜約4倍程度の長さ範囲の部分に形成され、約3倍程度がガス気流21の集中防止と二次燃焼室2の体積確保との面から好ましい。
【0037】
この二次燃焼室2に設けられる断熱材11(インシュレータ)としては、例えば、上記した本出願人の先願に係る特許第3965175号「熱防御・耐損耗複合機能構造体」等が用いられる。この断熱材11としては、特許第3965175号に係るもの以外であってもよく、熱防御機能と、耐損耗機能とを具備したものであれば、上記断熱材11に限定されるものではない。
【0038】
図3は、上記図1に示す高速飛しょう体の二次燃焼室内における空気と燃料の流れを数値流体力学(CFD)で解析した結果を示す画像データであり、(a) は空気取入口側の斜め上方向から見た画像データ、(b) は同方向から見た斜視の画像データである。これらの画像データは、断熱材の内部における流れを、空気400本、燃料40本で解析しており、空気20を濃色で示し、燃料5を淡色で示している。図1に示す構成と共に説明する。
【0039】
図3(a) に示すように、空気取入口1から取入れられた空気20は、二次燃焼室2内の中央部で合流して燃料5と共に反取入口側(図の上側)に設けられた偏肉部12に向けて流れるが、偏肉部12によってガス気流21が左右に拡散されると共に前後にも拡散されて局部的に集中することが抑制され、このガス気流21は二次燃焼室2内で拡散されながら後方へと流れている。
【0040】
また、図3(b) に示すように、上記偏肉部12によるガス気流21の拡散により、空気取入口1から流入した空気20がガスノズル106側(図の左側)においても拡散されるので、この空気20の拡散によっても燃料5が大きく拡散されており、これにより空気20と燃料5との混合がスムーズに行われることが分る。そのため、断熱材11に偏肉部12を具備させることにより、空気20、燃料5及びガス気流21が拡散されて二次燃焼室2内での燃焼効率を向上させることができることが分る。
【0041】
以上のように、上記高速飛しょう体10によれば、二次燃焼室2内の初期加速用の推進薬量を確保して高速飛行のための初期加速を得ることができると共に、空気取入口1から取入れて二次燃焼室2内で合流して燃料と混合されて反取入口側に流れる高温・高圧のガス気流21を偏肉部12で拡散させて断熱材11が局所的に損耗するのを抑制することができるので、十分な初期加速で高速に達し、二次燃焼室2内でのラム燃焼による断熱材11の損耗量を抑制した長距離の高速飛行が可能となる。
【0042】
なお、上記実施の形態では、空気取入口1を二次燃焼室2の径方向断面の軸心に対して90°の角度で配置した例を説明したが、空気取入口1の配置は90°の配置に限定されるものではなく、二次燃焼室2の径方向断面の軸心に対して、取入れる空気20が合流して一方向に流れるように対称配置された構成であれば同様の作用効果が得られ、空気取入口1の配置は上記実施の形態に限定されるものではない。
【0043】
また、上記実施の形態では、断熱材11の偏肉部12における気流衝突部分を平面に形成しているが、ガス気流21の速度や二次燃焼室2内の温度等に応じて偏肉部12の表面を最適な形状として局所的な動圧の発生を抑制するようにしてもよい。
【0044】
さらに、上述した実施の形態は一例を示しており、本発明の要旨を損なわない範囲での種々の変更は可能であり、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係る高速飛しょう体は、初期加速に要する推進薬を装填する二次燃焼室の体積を確保すると共に、二次燃焼室内での燃焼時にガス気流で断熱材が局部的に損耗するのを抑制したいタグテッドロケット等に利用できる。
【符号の説明】
【0046】
1…空気取入口
2…二次燃焼室
5…燃料
10…高速飛しょう体
11…断熱材
12…偏肉部
20…空気
21…ガス気流
V…鉛直軸線
H…水平軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラムジェットエンジン推進の高速飛しょう体を初期加速させるための推進薬を装填する筒状の二次燃焼室と、該二次燃焼室に空気を取入れる空気取入口と、該二次燃焼室の内面を保護する断熱材とを備えた高速飛しょう体であって、
前記空気取入口は、前記二次燃焼室の径方向断面の軸心に対して、取入れる空気が合流して一方向に流れるように対称配置されており、
前記二次燃焼室の断熱材は、前記空気取入口から取入れた空気が合流した気流が衝突する部分で該気流を拡散する偏肉部を具備していることを特徴とする高速飛しょう体。
【請求項2】
前記偏肉部からその偏肉部と連なる断熱材の内面に、前記気流を断熱材内面に沿うように流す曲面部を具備している請求項1に記載の高速飛しょう体。
【請求項3】
前記偏肉部は、前記二次燃焼室の内径の2倍〜4倍で軸方向に具備されている請求項1又は請求項2に記載の高速飛しょう体。
【請求項4】
前記空気取入口は、前記二次燃焼室の径方向断面の軸心に対して90°の角度で配置されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の高速飛しょう体。
【請求項5】
前記高速飛しょう体がタグテッドロケットである請求項1〜4のいずれか1項に記載の高速飛しょう体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−47130(P2012−47130A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191158(P2010−191158)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(390014306)防衛省技術研究本部長 (169)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【出願人】(500302552)株式会社IHIエアロスペース (298)