高電圧のためのDCケーブル
高電圧のためのDCケーブルは、絶縁レイヤ(10)で周囲を取り囲まれた内側の導電体(8)を、少なくとも有し、この絶縁レイヤは、内側の導電体とケーブルの周囲との間に掛けられる電圧に耐えるように構成されている。前記絶縁レイヤは、隔離された金属の領域(13)をその上面にそれぞれ有する絶縁材料の、重ね合わせられた複数のフィルム状のレイヤ(12)により形成されている。連続するそのようなフィルム状のレイヤの金属領域は、ケーブルの径方向に見たとき、少なくとも部分的に互いに重複し、それによって、ケーブルの前記絶縁レイヤの中に多数の小さなキャパシタを作り出すようになっている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧のためのDCケーブルに係り、このDCケーブルは、絶縁レイヤにより周囲を取り囲まれた内側の導電体を、少なくとも有し、この絶縁レイヤは、導電体とケーブルの周囲との間に掛けられる電圧に耐えるように構成されている。
【背景技術】
【0002】
“高電圧”とは、少なくとも10kVの電圧レベルを意味しているが、しばしば、例えば、数100kVのように、遥かに高い場合もある。この電圧は、前記絶縁レイヤにより、耐えられなければならない。その理由は、ケーブルの導電体は高電位にあり、他方、ケーブルの周囲は接地電位になければならないからであり、そして、前記絶縁レイヤは、そのために、通常、半導体の薄い遮蔽レイヤにより周囲を取り囲まれている。これは、絶縁レイヤに絶縁ストレスを生じさせるので、絶縁レイヤは、このストレスに信頼性高く耐えるために、寸法が定められていなければならない。
【0003】
更にまた、高電圧の直流(HVDC)により電力を伝送するとき、損失は、電圧を増大させたときに減少する。このために、前記電圧を増大させることに対する要望がある。
【0004】
本発明を明らかにするため、しかしながら、いかなるやり方にせよ本発明を限定する目的ではなく、HVDC伝送のためのこのタイプのケーブルの使用が、図1の中に、非常に概略的に示されている。そこに示された電力を伝送するためのプラントは、二つのステイション4,5を互いに接続するため、二つの前記ケーブル2,3を有するHVDCのための直流電圧ネット・ワーク1を有している。これらのケーブルは、直流電圧ネット・ワーク1と交流電圧ネット・ワーク6,7との間で電力を伝送するように構成され、ここでは、三相を有していて、個々のステイションに接続されている。これらのケーブルの内の一つ2は、直流電圧ネット・ワークの直流電圧の半分の正の電位にあるように意図され、これに対して他のケーブル3は直流電圧の半分の負の電位にあるように意図されている。従って、このプラントは、バイポーラ直流電圧ネット・ワークを有しているが、帰還電流がアース電極を通って流れるモノポーラネット・ワークもまた考えられる。
【0005】
HVDC伝送において今日可能であるものと比べて、より多くの電力を伝送することに対する要求があるが、800MWより高い電力のためのケーブルは、未だ開発されていない。もし、ケーブルの寸法(今日既に巨大で且つ伝送限界に近い)を増大させることなく、これが実現されるとしたら、より高い導電率を備えた導電体により電流が増大されるか、あるいは、前記絶縁レイヤに対するより高いストレスにより電圧が増大されなければならない。
【0006】
導電体の導電率は、導電体材料、即ち、銅及びアルミニウムにより制限され、それは、改良されることが可能でないし、また、他の導電体も、予想可能な未来の中で入手可能でないか、あるいは、現実的な選択肢を構成するために余りにも高価過ぎる(超導電体)。このようにして、そのような伝送による電力を増大させるための他のやり方は、絶縁材料を改良することによるもので、それが、電力を実質的に増大するため最も見込みのあるやり方であると考えられ、また、電圧を増大させることにより得られる損失の減少のためにも、好ましい。
【0007】
既知の二つのタイプのHVDCケーブルがあり、それは、マス含浸(mass impregnated)ケーブル(通常油を含浸させた紙により形成された厚い絶縁レイヤ)、及び押出しケーブル(ボリマー・ベース上に絶縁レイヤを有している)である。これらのケーブルに対して許容可能な平均の電場は、マス含浸ケーブルに対して、ミリメータ当り約30kV、他方、押出しケーブルに対して、ミリメータ当り約20kVである。マス含浸ケーブルは、紙の一部または全てをプラスチック・フィルムで交換することにより改良される場合があるが、それは、含浸をより困難にするであろう。更にまた、押出しケーブルは、改良された材料を使用することにより、増大された電場を有する可能性を、恐らく未だ有している、その中で、一つ目標は、絶縁ストレスを二倍にしてミリメータ当り40kVまでにすることである。
【0008】
添付されている図2は、既知の押出しケーブルを示していて、この押出しケーブルは、薄い半導体のレイヤ9により周囲を取り囲まれた内側の導電体8を有し、このレイヤ9は、電場を均一化する性質を有していて、その外側に、例えば、架橋重合されたポリエチレンのような、ボリマー・ベースの厚い絶縁レイヤ10を有し、外側の薄い半導体の遮蔽レイヤ11もまた、電場を均一化に寄与している。そのようなケーブルは、EP 0 868 002からも知られている。
【0009】
US 6 509 527は、このタイプのケーブルに対する絶縁ストレスを増大することを可能にする、ケーブル絶縁レイヤの使用を開示している。
【0010】
DCケーブルを製造するための上記の二つの技術は、ケーブルの寿命(即ち、40年)の間に、絶縁の欠陥が生じてはいけないと言う設計基準を有している。これは、デザインの信頼性に対して非常に厳しい要求を課していて、電圧ストレスが、もし、より頻度の高い欠陥が許容される場合の値と比べて、遥かに低くなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】欧州特許出願公開EP−0,868,002号明細書
【特許文献2】米国特許第US−6,509,527号明細書
【発明の概要】
【0012】
本発明の目的は、増大された許容可能な絶縁ストレスを備えた、前記絶縁レイヤを有する高電圧のためのDCケーブルを提供することにあり、それによって、既に知られているそのようなケーブルと比べて、ケーブルの寸法を増大させることなく、前記電圧レベルの増大を可能にすることにある。
【0013】
この目的は、本発明によれば、以下のようなケーブルを設けることにより得られる。このケーブルにおいて、前記絶縁レイヤは、隔離された金属の領域をその上面にそれぞれ有する、絶縁材料の重ね合わせられた複数のフィルム状のレイヤにより形成され、また、このケーブルにおいて、連続するそのようなフィルム状のレイヤの前記金属領域は、ケーブルの径方向に見たとき、少なくとも部分的に互いに重複し、それにより、ケーブルの前記絶縁レイヤの中に多数の小さなキャパシタを作り出すようになっている。
【0014】
前記絶縁レイヤのそのような構造は、ミリメータ当り少なくとも50kVの、前記絶縁レイヤに対する絶縁ストレスを許容することを可能にし、その値は、例えば、ミリメータ当り50〜150kVであり、更には100〜150kV/ミリメータであり、または、恐らくは更に一層高くなる。これに対する説明は、DCキャパシタ技術の性質からなされ、本発明は、この技術がDCケーブルを改善するために使用される場合があると言う理解に基づいている。
【0015】
DCキャパシタは、電極を形成する金属の非常に薄いレイヤで部分的に覆われたプラスチック・フィルムを使用して製造される。このデザインは、欠陥が非常に小さいボリュームの中にとどめられるので、欠陥を許容する。これは、電極の遮蔽効果、プラス、欠陥エネルギーもまた金属レイヤを溶融させて欠陥の周りに絶縁領域を作り出すと言う事実に起因している。これは、キャパシタ自身の機能に影響を及ぼすことなく、数千の欠陥が許容されることが可能であると言うことを意味している。DCキャパシタに対する設計値は、典型的に、ミリメータ当り200kVである。
【0016】
本発明のアイディアは、既に知られているそのようなケーブルとは反対に、個々の欠陥を許容する絶縁レイヤを備えたケーブルを製造するために、この技術を使用することが、その全寿命の間、ケーブルの適切な機能を損なうことなく、その絶縁レイヤに掛かる絶縁ストレス実質的に増大させることを可能にすると言うことである。前記金属領域を使用することにより、前記フィルム状のレイヤの中の欠陥が、金属被覆されていないフィルム状のレイヤの中の欠陥の場合とは異なり、周囲に高い電場を生じさせることがない。
【0017】
その理由は、ケーブルが多数の小さなキャパシタにより作り上げられ、それが、一つのフィルム状のレイヤの中の欠陥にも拘らず、電圧を安定に維持することになると言うことである。欠陥領域自体のみに注目すると、それが、DCケーブルであるかあるいはDCキャパシタであるかによって、相違はない。このようにして、金属領域が電場を広げることになり、それによって、局所的な欠陥が、次のフィルム状のレイヤの中を通って伝播することがなくなることになる。
【0018】
このようにして、本発明は、電圧を増大させることを可能にし、それによって、所定の厚さのDCケーブルの中を通って伝達される電力を増大させることを可能にする。しかしながらまた、本発明は、所定の電力のためのDCケーブルを、以前可能であったものと比べてより薄くすることをも可能にし、それは、一部の用途において興味深い。
【0019】
本発明の実施形態によれば、前記絶縁レイヤの重ね合わせられた前記フィルム状のレイヤの数は、100より多く、または、500より多く、または、1,000より多く、例えば、200〜10,000である。従って、前記フィルム状のレイヤは、非常に薄くなければならず、本発明の他の実施形態の中のように、例えば、0.5〜100μm、または、1〜20μm、または、1〜10μmであり、それによって、多数の小さなキャパシタが、前記絶縁レイヤの厚さに亘って形成されることになり、、その一またはそれ以上のフィルム状のレイヤの中に発生する欠陥にも拘わらず、その運転の高い信頼性が得られることになる。
【0020】
本発明の他の実施形態によれば、前記各金属領域は、200nm以下、100nm以下、1nm〜50nm、または、1〜10原子レイヤの厚さを有している。従って、金属領域の厚さは、フィルム状のレイヤの厚さと比べて、無視し得る程度であり、それによって、フィルム状のレイヤは、前記金属領域の存在にも拘わらず、互いの上に強く密着されることが可能になり、絶縁レイヤの厚さは、実質的に全体的に絶縁材料により形成されることになる。このようにして、金属領域がたった数原子レイヤの厚さを有していると言うことが、事実、十分に可能である。
【0021】
本発明の他の実施形態によれば、前記金属領域の厚さは、個々の前記フィルム状のレイヤ厚さの、1/5k以下,1/10以下、または、1/50以下である。フィルム状のレイヤの厚さと金属領域の厚さとの間の、これらの比率、あるいは更に大きな相違も、選択されたフィルム状のレイヤの厚さに依存して可能である。
【0022】
本発明の他の実施形態によれば、前記各金属領域は、10cm2以下、または、1mm2〜5cm2の面積を有している。これらは、そのような隔離された金属領域の適切な領域であって、その中で、1cm2が、その典型的に適切な面積であろう。
【0023】
本発明の他の実施形態によれば、前記金属領域は、個々の前記フィルム状のレイヤの上に島を形成し、隣接するそのような島の間の距離は、そのような島の幅と実質的に同一またはそれより小さく、例えば前記幅の0.1〜1倍である。これらは、より高い絶縁ストレスを掛けることを可能にするため、前記絶縁レイヤの中に適切な多数の前記小さなキャパシタを得るために、隣接する前記金属領域を分ける適切な距離である。
【0024】
本発明の他の実施形態によれば、連続する二つのフィルム状のレイヤの前記金属領域は、ケーブルの径方向に見たとき、互いに位置がずれている。そのようなずれを設けて前記金属領域を配置することにより、障害発生した場合に、短絡がケーブルの厚さを貫通して伝播するそれぞれのリスクが、効果的に取り除かれる。
【0025】
本発明の他の実施形態によれば、前記絶縁レイヤは、プラスチック・フィルムのウェブにより形成され、このウェブは、ケーブルの前記導電体の周りに、重ね合わされた複数のレイヤの状態で巻き付けられた隔離された金属被覆領域を備え、これは、本発明に基づくケーブルが実現される適切なやり方である。
【0026】
本発明の他の実施形態によれば、前記プラスチック・フィルムのウェブは、ケーブルの長手方向に対して互いに隣り合わせに配置されて、巻き付けられたフィルムの重複無しで、巻き付けられる。前記ターンを、エッジからエッジまでの間について、重複無しで、且つ厳しい許容範囲で、そのように正確な巻付けることにより、電場の集中のリスクを伴う、巻き付けられた絶縁層の中のウエッジが、取り除かれることがある。
【0027】
本発明の他の実施形態によれば、前記フィルム・ウェブは、ケーブルの長手方向に対して、フィルム・ウェブの連続するターンの部分的な重複を有する状態で巻き付けられ、フィルム部分が重複されたエッジに作り出されたボイドが、ゲル状の絶縁材料で満たされる。これを行うことにより、前記正確に巻付けることが省略されることがあり、空気ボイドに接続されたウエッジの中での高い電場の問題が解決されることがある。
【0028】
本発明の他の実施形態によれば、前記フィルム・ウェブは、ケーブルの長手方向に対して、フィルム・ウェブの連続するターンの部分的な重複を有して巻き付けられ、巻き付けられたフィルム・ウェブの横方向外側のエッジは、面取りされ、ケーブルの長手方向に見たとき、連続する巻き付けられたフィルムは、互いに対して強く押し合いながら重複される。これは、ボイドについての問題を避けるために正確に巻付けることへの要求を避ける他のやり方である。
【0029】
本発明はまた、高電圧のためのDCケーブルを製造するための方法に係り、この方法は、隔離された金属の領域をその上面に有する絶縁材料のフィルム状のウェブを、導電体の周りに、重ね合わされた複数のレイヤの状態で巻き付けるステップを有し、それにより、連続するそのようなフィルム状のレイヤの前記金属領域が、ケーブルの径方向に見たときに、少なくとも部分的に互いに重複し、それにより、ケーブルの前記絶縁レイヤの中に多数の小さなキャパシタを作り出すようになっている。高い絶縁ストレスが許容されるDCケーブルが、この方法により得られることがある。
【0030】
本発明はまた、電力を伝送するための、本発明に基づくケーブルの使用に係り、その電力は、その中を通る高電圧の直流の形態で、例えば、500〜1,500MW、800〜1,500MW、または、800〜1,200MWである。そのような大電力を伝送するための、本発明に基づくケーブルの使用は、好ましいであろう、その理由は、それが、過大なケーブルの寸法必ずしも必要としないからである。これはまた、電力の伝送のための、本発明に基づくケーブルの使用のために適用可能であって、その場合に、前記電圧は、10kV〜1,500kV、100kV〜1,500kV、400kV〜1,500kV、または、800kV〜1,500kVである。前記電力は、その場合、好ましくは、前記ケーブルの中を流れる500A〜7kA、1kA〜7kA、または、2kA〜5kAの電流により伝送される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本発明に基づくケーブルが使用されることがあるプラントを示す非常に概略的なブロック図である。
【図2】図2は、高電圧DCケーブルの一般的な構造を示す単純化された断面図である。
【図3】図3は、本発明に基づく、DCケーブルの絶縁レイヤの一部の、非常に単純化された断面図である。
【図4】図4は、図3に対応する図であって、前記絶縁レイヤの中での局所的な欠陥の発生を示している。
【図5】図5は、本発明に基づくDCケーブルの径方向での単純化された図であって、その絶縁レイヤの二つの重ね合わせられたフィルム状のレイヤの部分を示している。
【図6】図6は、ケーブルの図3に対応する図であって、その中で、その絶縁レイヤのフィルム状のレイヤは、図5に基づいて巻き付けられている。
【図7】図7は、前記絶縁レイヤの中のフィルム状のレイヤが重複して巻き付けられたとき、どのようにしてボイドが作り出されるかについて示す非常に単純化された図である。
【図8】図8は、図7に対応する図であって、前記フィルム状のレイヤを正確に巻付けることを示している。
【図9】図9は、図7に示されたボイドが、どのようにしてゲル状の材料で満たされることがあるかについて示す図である。
【図10】図10は、図7に示されたボイドが、どのようにして、ゲル状の材料で満たされることがあるかについて示す図である。
【図11】図11は、図7に対応する図であって、前記フィルム状のレイヤを重複させて巻付けるとき、空気で満たされたボイドを避ける代替的なやり方を示している。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の更なる優位性並びに好ましい特徴は、以下の説明から明らかになるであろう。
添付図面を参照しながら、以下に、例として記載された本発明の実施形態の説明が続く。
【0033】
本発明の実施形態に基づく、DCケーブルの絶縁レイヤ10の小さな領域が、図3の中に示されている。絶縁レイヤは、互いの上に巻き付けられた、金属被覆されたプラスチック・フィルムの、例えば200〜10,000などの、多数のレイヤ12により形成されている。プラスチック・フィルムは、例えば、架橋重合されたポリエチレンのような、適切な絶縁性を備えた材料で作られ、ここでは、1〜10μmのオーダーの厚さを有している。金属被覆は、厚さがプラスチック・フィルムの厚さと比べて無視可能な程度に小さい、隔離された金属領域13により実現され、これらの金属領域の厚さは、それらをとにかく見ることを可能にするために、これらの図の中で大きく誇張されている。
【0034】
このようにして、これらの金属領域の厚さは、数原子レイヤと同程度に小さいことがある。これらの金属領域は、典型的に、1cm2のオーダーの面積を有している、それらの間の距離は、これらの領域の幅以下である。これらの領域は、フィルムの表面に対して垂直の方向に見たとき、如何なる形状を有していても良いが、この実施形態においては、矩形である(図5参照方)。プラスチック・フィルム・レイヤ12の厚さと金属領域13の厚さとの関係のために、連続するプラスチック・フィルム・レイヤが、互いの上に強く押し合うことになる。
【0035】
多数の小さなキャパシタが、このようにして、絶縁レイヤの内側に形成される。これは、絶縁レイヤの内側の電場が、絶縁レイヤの内側に実質的に均一に分布されることになると言うことを意味している。
【0036】
図4は、もし、絶縁レイヤの中のスポット14に欠陥が生じた場合に、何が起こるかについて示している。絶縁レイヤのデザインは、欠陥を非常に小さいボリュームの中に維持することになり、欠陥エネルギーは、欠陥スポット14で金属レイヤを溶融して、問題の金属領域の中に孔を作り出すことになり、それによって、絶縁された領域が、欠陥の周りに作り出されことになる。これは、ケーブルの限られた長さ(例えば、1メーターのような)の中で、多数の欠陥が、ケーブルの絶縁レイヤの適切な機能に影響を与えることなく、事実上、許容されることがあると言うことを意味している。
【0037】
図5は、どのようにして、二つのプラスチック・フィルム・レイヤ12,12’が、好ましくも重ね合わせられ、それによって、その金属領域13,13’が、ケーブルの径方向に見たとき互いに位置がずれているようになるかについて示している。これを行うことにより、欠陥の結果として、ケーブルによる隔離を通る短絡の、それぞれのリスクが取り除かれる。
【0038】
図6は、図5に基づいてデザインされた、ケーブルの部分の断面を示す、この中にもまた、内側の導電体8が示されている。
【0039】
このようにデザインされたDCケーブルの絶縁レイヤは、DCキャパシタと同様な機能を有しているが、幾つかの相違がある。一つの相違は、キャパシタにおいては、チャージの電流が、キャパシタの中へ及び外へ移動されなければならないと言うことであり、それは、ケーブルの場合には当てはまらず、この点で、ケーブル・デザインの場合の方を容易にする。しかしながら、他の相違は、キャパシタは、全てのプラスチック・フィルムまたはフォイルが互いに積み重ねられていると言うことであって、それは、終端の問題が生じないので、キャパシタの場合の方を容易にする。
【0040】
図7は、プラスチック・フィルムのウェブ(恐らくは、約20mmの幅及び5μmの厚さを備えている)が、ケーブルの長手方向に対して互いに隣り合わせに配置された、巻き付けられたフィルムが重複する状態で、重ね合わされたレイヤ12,12’及び12’’の状態で巻き付けられたときに、何が起こるかについて示している。これは、重複領域に形成されるウエッジ16の中に、空気ボイド15を生じさせることがある。
【0041】
そのようなボイドの発生の問題に対処する一つのやり方は、非常に薄いプラスチック・フィルムを使用することであろう。これらのプラスチック・フィルムは、ボイドを非常に薄くして、その耐電圧を、パッツェンの法則(Paschen Law)に基づいて、十分なものにすることになる。計算によれば、5μmより薄いプラスチック・フィルムが、ミリメータ当り200kVの電圧強度に到達するために十分であろうと言うことが示されている。
【0042】
しかしながら、そのようなボイドの問題に対処する他のやり方もある。その一つが、図8の中に示されていて、それは、プラスチック・フィルムのウェブ17,17’,17’’,18,18’を、エッジからエッジまでの間、重複無しで、且つ、厳しい許容範囲で、正確に巻付けることから構成される。
【0043】
図9及び10は、図7の中に示されている巻付けプロセスの間に、重複の発生を許容する他の代替形態を示している。ボイドは、この場合には、巻付けプロセスの間、ゲル状の(従って、半液体の)絶縁材料19で満たされ、その際に、インクジェット・プリンターで使用されているものと同一の技術が使用され、この場合に、“インクジェット”は、概略的に示されたノズル20から発射される。このアイディアは、新しいボイドが生ずるリスクを避けるために、ゲルの体積がボイドより大きくなければならないと言うことである。
【0044】
図11は、ボイドが生じないように、巻付けの前に、プラスチック・フィルムのウェブのエッジを機械的に形成することにより、ボイドの問題を避けることの他の可能性を示していて、この成形は、ここでは、前記フィルム・ウェブの横方向のエッジにチャンファ21を設けることにより、従って、巻付けの前にこれらのエッジを機械的に鋭くすることにより行われ、それによって、フィルム状のレイヤが、重複領域の中であっても、互いに対して強く押し合っていることになる。
【0045】
本発明は、当然ながら、いかなるやり方にせよ、上記の実施形態のみに限定されることはなく、その変更に対する多くの可能性は、添付された特許請求の範囲の中で規定されている本発明の範囲から逸脱すること無く、当業者にとって明らかであろう。
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧のためのDCケーブルに係り、このDCケーブルは、絶縁レイヤにより周囲を取り囲まれた内側の導電体を、少なくとも有し、この絶縁レイヤは、導電体とケーブルの周囲との間に掛けられる電圧に耐えるように構成されている。
【背景技術】
【0002】
“高電圧”とは、少なくとも10kVの電圧レベルを意味しているが、しばしば、例えば、数100kVのように、遥かに高い場合もある。この電圧は、前記絶縁レイヤにより、耐えられなければならない。その理由は、ケーブルの導電体は高電位にあり、他方、ケーブルの周囲は接地電位になければならないからであり、そして、前記絶縁レイヤは、そのために、通常、半導体の薄い遮蔽レイヤにより周囲を取り囲まれている。これは、絶縁レイヤに絶縁ストレスを生じさせるので、絶縁レイヤは、このストレスに信頼性高く耐えるために、寸法が定められていなければならない。
【0003】
更にまた、高電圧の直流(HVDC)により電力を伝送するとき、損失は、電圧を増大させたときに減少する。このために、前記電圧を増大させることに対する要望がある。
【0004】
本発明を明らかにするため、しかしながら、いかなるやり方にせよ本発明を限定する目的ではなく、HVDC伝送のためのこのタイプのケーブルの使用が、図1の中に、非常に概略的に示されている。そこに示された電力を伝送するためのプラントは、二つのステイション4,5を互いに接続するため、二つの前記ケーブル2,3を有するHVDCのための直流電圧ネット・ワーク1を有している。これらのケーブルは、直流電圧ネット・ワーク1と交流電圧ネット・ワーク6,7との間で電力を伝送するように構成され、ここでは、三相を有していて、個々のステイションに接続されている。これらのケーブルの内の一つ2は、直流電圧ネット・ワークの直流電圧の半分の正の電位にあるように意図され、これに対して他のケーブル3は直流電圧の半分の負の電位にあるように意図されている。従って、このプラントは、バイポーラ直流電圧ネット・ワークを有しているが、帰還電流がアース電極を通って流れるモノポーラネット・ワークもまた考えられる。
【0005】
HVDC伝送において今日可能であるものと比べて、より多くの電力を伝送することに対する要求があるが、800MWより高い電力のためのケーブルは、未だ開発されていない。もし、ケーブルの寸法(今日既に巨大で且つ伝送限界に近い)を増大させることなく、これが実現されるとしたら、より高い導電率を備えた導電体により電流が増大されるか、あるいは、前記絶縁レイヤに対するより高いストレスにより電圧が増大されなければならない。
【0006】
導電体の導電率は、導電体材料、即ち、銅及びアルミニウムにより制限され、それは、改良されることが可能でないし、また、他の導電体も、予想可能な未来の中で入手可能でないか、あるいは、現実的な選択肢を構成するために余りにも高価過ぎる(超導電体)。このようにして、そのような伝送による電力を増大させるための他のやり方は、絶縁材料を改良することによるもので、それが、電力を実質的に増大するため最も見込みのあるやり方であると考えられ、また、電圧を増大させることにより得られる損失の減少のためにも、好ましい。
【0007】
既知の二つのタイプのHVDCケーブルがあり、それは、マス含浸(mass impregnated)ケーブル(通常油を含浸させた紙により形成された厚い絶縁レイヤ)、及び押出しケーブル(ボリマー・ベース上に絶縁レイヤを有している)である。これらのケーブルに対して許容可能な平均の電場は、マス含浸ケーブルに対して、ミリメータ当り約30kV、他方、押出しケーブルに対して、ミリメータ当り約20kVである。マス含浸ケーブルは、紙の一部または全てをプラスチック・フィルムで交換することにより改良される場合があるが、それは、含浸をより困難にするであろう。更にまた、押出しケーブルは、改良された材料を使用することにより、増大された電場を有する可能性を、恐らく未だ有している、その中で、一つ目標は、絶縁ストレスを二倍にしてミリメータ当り40kVまでにすることである。
【0008】
添付されている図2は、既知の押出しケーブルを示していて、この押出しケーブルは、薄い半導体のレイヤ9により周囲を取り囲まれた内側の導電体8を有し、このレイヤ9は、電場を均一化する性質を有していて、その外側に、例えば、架橋重合されたポリエチレンのような、ボリマー・ベースの厚い絶縁レイヤ10を有し、外側の薄い半導体の遮蔽レイヤ11もまた、電場を均一化に寄与している。そのようなケーブルは、EP 0 868 002からも知られている。
【0009】
US 6 509 527は、このタイプのケーブルに対する絶縁ストレスを増大することを可能にする、ケーブル絶縁レイヤの使用を開示している。
【0010】
DCケーブルを製造するための上記の二つの技術は、ケーブルの寿命(即ち、40年)の間に、絶縁の欠陥が生じてはいけないと言う設計基準を有している。これは、デザインの信頼性に対して非常に厳しい要求を課していて、電圧ストレスが、もし、より頻度の高い欠陥が許容される場合の値と比べて、遥かに低くなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】欧州特許出願公開EP−0,868,002号明細書
【特許文献2】米国特許第US−6,509,527号明細書
【発明の概要】
【0012】
本発明の目的は、増大された許容可能な絶縁ストレスを備えた、前記絶縁レイヤを有する高電圧のためのDCケーブルを提供することにあり、それによって、既に知られているそのようなケーブルと比べて、ケーブルの寸法を増大させることなく、前記電圧レベルの増大を可能にすることにある。
【0013】
この目的は、本発明によれば、以下のようなケーブルを設けることにより得られる。このケーブルにおいて、前記絶縁レイヤは、隔離された金属の領域をその上面にそれぞれ有する、絶縁材料の重ね合わせられた複数のフィルム状のレイヤにより形成され、また、このケーブルにおいて、連続するそのようなフィルム状のレイヤの前記金属領域は、ケーブルの径方向に見たとき、少なくとも部分的に互いに重複し、それにより、ケーブルの前記絶縁レイヤの中に多数の小さなキャパシタを作り出すようになっている。
【0014】
前記絶縁レイヤのそのような構造は、ミリメータ当り少なくとも50kVの、前記絶縁レイヤに対する絶縁ストレスを許容することを可能にし、その値は、例えば、ミリメータ当り50〜150kVであり、更には100〜150kV/ミリメータであり、または、恐らくは更に一層高くなる。これに対する説明は、DCキャパシタ技術の性質からなされ、本発明は、この技術がDCケーブルを改善するために使用される場合があると言う理解に基づいている。
【0015】
DCキャパシタは、電極を形成する金属の非常に薄いレイヤで部分的に覆われたプラスチック・フィルムを使用して製造される。このデザインは、欠陥が非常に小さいボリュームの中にとどめられるので、欠陥を許容する。これは、電極の遮蔽効果、プラス、欠陥エネルギーもまた金属レイヤを溶融させて欠陥の周りに絶縁領域を作り出すと言う事実に起因している。これは、キャパシタ自身の機能に影響を及ぼすことなく、数千の欠陥が許容されることが可能であると言うことを意味している。DCキャパシタに対する設計値は、典型的に、ミリメータ当り200kVである。
【0016】
本発明のアイディアは、既に知られているそのようなケーブルとは反対に、個々の欠陥を許容する絶縁レイヤを備えたケーブルを製造するために、この技術を使用することが、その全寿命の間、ケーブルの適切な機能を損なうことなく、その絶縁レイヤに掛かる絶縁ストレス実質的に増大させることを可能にすると言うことである。前記金属領域を使用することにより、前記フィルム状のレイヤの中の欠陥が、金属被覆されていないフィルム状のレイヤの中の欠陥の場合とは異なり、周囲に高い電場を生じさせることがない。
【0017】
その理由は、ケーブルが多数の小さなキャパシタにより作り上げられ、それが、一つのフィルム状のレイヤの中の欠陥にも拘らず、電圧を安定に維持することになると言うことである。欠陥領域自体のみに注目すると、それが、DCケーブルであるかあるいはDCキャパシタであるかによって、相違はない。このようにして、金属領域が電場を広げることになり、それによって、局所的な欠陥が、次のフィルム状のレイヤの中を通って伝播することがなくなることになる。
【0018】
このようにして、本発明は、電圧を増大させることを可能にし、それによって、所定の厚さのDCケーブルの中を通って伝達される電力を増大させることを可能にする。しかしながらまた、本発明は、所定の電力のためのDCケーブルを、以前可能であったものと比べてより薄くすることをも可能にし、それは、一部の用途において興味深い。
【0019】
本発明の実施形態によれば、前記絶縁レイヤの重ね合わせられた前記フィルム状のレイヤの数は、100より多く、または、500より多く、または、1,000より多く、例えば、200〜10,000である。従って、前記フィルム状のレイヤは、非常に薄くなければならず、本発明の他の実施形態の中のように、例えば、0.5〜100μm、または、1〜20μm、または、1〜10μmであり、それによって、多数の小さなキャパシタが、前記絶縁レイヤの厚さに亘って形成されることになり、、その一またはそれ以上のフィルム状のレイヤの中に発生する欠陥にも拘わらず、その運転の高い信頼性が得られることになる。
【0020】
本発明の他の実施形態によれば、前記各金属領域は、200nm以下、100nm以下、1nm〜50nm、または、1〜10原子レイヤの厚さを有している。従って、金属領域の厚さは、フィルム状のレイヤの厚さと比べて、無視し得る程度であり、それによって、フィルム状のレイヤは、前記金属領域の存在にも拘わらず、互いの上に強く密着されることが可能になり、絶縁レイヤの厚さは、実質的に全体的に絶縁材料により形成されることになる。このようにして、金属領域がたった数原子レイヤの厚さを有していると言うことが、事実、十分に可能である。
【0021】
本発明の他の実施形態によれば、前記金属領域の厚さは、個々の前記フィルム状のレイヤ厚さの、1/5k以下,1/10以下、または、1/50以下である。フィルム状のレイヤの厚さと金属領域の厚さとの間の、これらの比率、あるいは更に大きな相違も、選択されたフィルム状のレイヤの厚さに依存して可能である。
【0022】
本発明の他の実施形態によれば、前記各金属領域は、10cm2以下、または、1mm2〜5cm2の面積を有している。これらは、そのような隔離された金属領域の適切な領域であって、その中で、1cm2が、その典型的に適切な面積であろう。
【0023】
本発明の他の実施形態によれば、前記金属領域は、個々の前記フィルム状のレイヤの上に島を形成し、隣接するそのような島の間の距離は、そのような島の幅と実質的に同一またはそれより小さく、例えば前記幅の0.1〜1倍である。これらは、より高い絶縁ストレスを掛けることを可能にするため、前記絶縁レイヤの中に適切な多数の前記小さなキャパシタを得るために、隣接する前記金属領域を分ける適切な距離である。
【0024】
本発明の他の実施形態によれば、連続する二つのフィルム状のレイヤの前記金属領域は、ケーブルの径方向に見たとき、互いに位置がずれている。そのようなずれを設けて前記金属領域を配置することにより、障害発生した場合に、短絡がケーブルの厚さを貫通して伝播するそれぞれのリスクが、効果的に取り除かれる。
【0025】
本発明の他の実施形態によれば、前記絶縁レイヤは、プラスチック・フィルムのウェブにより形成され、このウェブは、ケーブルの前記導電体の周りに、重ね合わされた複数のレイヤの状態で巻き付けられた隔離された金属被覆領域を備え、これは、本発明に基づくケーブルが実現される適切なやり方である。
【0026】
本発明の他の実施形態によれば、前記プラスチック・フィルムのウェブは、ケーブルの長手方向に対して互いに隣り合わせに配置されて、巻き付けられたフィルムの重複無しで、巻き付けられる。前記ターンを、エッジからエッジまでの間について、重複無しで、且つ厳しい許容範囲で、そのように正確な巻付けることにより、電場の集中のリスクを伴う、巻き付けられた絶縁層の中のウエッジが、取り除かれることがある。
【0027】
本発明の他の実施形態によれば、前記フィルム・ウェブは、ケーブルの長手方向に対して、フィルム・ウェブの連続するターンの部分的な重複を有する状態で巻き付けられ、フィルム部分が重複されたエッジに作り出されたボイドが、ゲル状の絶縁材料で満たされる。これを行うことにより、前記正確に巻付けることが省略されることがあり、空気ボイドに接続されたウエッジの中での高い電場の問題が解決されることがある。
【0028】
本発明の他の実施形態によれば、前記フィルム・ウェブは、ケーブルの長手方向に対して、フィルム・ウェブの連続するターンの部分的な重複を有して巻き付けられ、巻き付けられたフィルム・ウェブの横方向外側のエッジは、面取りされ、ケーブルの長手方向に見たとき、連続する巻き付けられたフィルムは、互いに対して強く押し合いながら重複される。これは、ボイドについての問題を避けるために正確に巻付けることへの要求を避ける他のやり方である。
【0029】
本発明はまた、高電圧のためのDCケーブルを製造するための方法に係り、この方法は、隔離された金属の領域をその上面に有する絶縁材料のフィルム状のウェブを、導電体の周りに、重ね合わされた複数のレイヤの状態で巻き付けるステップを有し、それにより、連続するそのようなフィルム状のレイヤの前記金属領域が、ケーブルの径方向に見たときに、少なくとも部分的に互いに重複し、それにより、ケーブルの前記絶縁レイヤの中に多数の小さなキャパシタを作り出すようになっている。高い絶縁ストレスが許容されるDCケーブルが、この方法により得られることがある。
【0030】
本発明はまた、電力を伝送するための、本発明に基づくケーブルの使用に係り、その電力は、その中を通る高電圧の直流の形態で、例えば、500〜1,500MW、800〜1,500MW、または、800〜1,200MWである。そのような大電力を伝送するための、本発明に基づくケーブルの使用は、好ましいであろう、その理由は、それが、過大なケーブルの寸法必ずしも必要としないからである。これはまた、電力の伝送のための、本発明に基づくケーブルの使用のために適用可能であって、その場合に、前記電圧は、10kV〜1,500kV、100kV〜1,500kV、400kV〜1,500kV、または、800kV〜1,500kVである。前記電力は、その場合、好ましくは、前記ケーブルの中を流れる500A〜7kA、1kA〜7kA、または、2kA〜5kAの電流により伝送される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本発明に基づくケーブルが使用されることがあるプラントを示す非常に概略的なブロック図である。
【図2】図2は、高電圧DCケーブルの一般的な構造を示す単純化された断面図である。
【図3】図3は、本発明に基づく、DCケーブルの絶縁レイヤの一部の、非常に単純化された断面図である。
【図4】図4は、図3に対応する図であって、前記絶縁レイヤの中での局所的な欠陥の発生を示している。
【図5】図5は、本発明に基づくDCケーブルの径方向での単純化された図であって、その絶縁レイヤの二つの重ね合わせられたフィルム状のレイヤの部分を示している。
【図6】図6は、ケーブルの図3に対応する図であって、その中で、その絶縁レイヤのフィルム状のレイヤは、図5に基づいて巻き付けられている。
【図7】図7は、前記絶縁レイヤの中のフィルム状のレイヤが重複して巻き付けられたとき、どのようにしてボイドが作り出されるかについて示す非常に単純化された図である。
【図8】図8は、図7に対応する図であって、前記フィルム状のレイヤを正確に巻付けることを示している。
【図9】図9は、図7に示されたボイドが、どのようにしてゲル状の材料で満たされることがあるかについて示す図である。
【図10】図10は、図7に示されたボイドが、どのようにして、ゲル状の材料で満たされることがあるかについて示す図である。
【図11】図11は、図7に対応する図であって、前記フィルム状のレイヤを重複させて巻付けるとき、空気で満たされたボイドを避ける代替的なやり方を示している。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の更なる優位性並びに好ましい特徴は、以下の説明から明らかになるであろう。
添付図面を参照しながら、以下に、例として記載された本発明の実施形態の説明が続く。
【0033】
本発明の実施形態に基づく、DCケーブルの絶縁レイヤ10の小さな領域が、図3の中に示されている。絶縁レイヤは、互いの上に巻き付けられた、金属被覆されたプラスチック・フィルムの、例えば200〜10,000などの、多数のレイヤ12により形成されている。プラスチック・フィルムは、例えば、架橋重合されたポリエチレンのような、適切な絶縁性を備えた材料で作られ、ここでは、1〜10μmのオーダーの厚さを有している。金属被覆は、厚さがプラスチック・フィルムの厚さと比べて無視可能な程度に小さい、隔離された金属領域13により実現され、これらの金属領域の厚さは、それらをとにかく見ることを可能にするために、これらの図の中で大きく誇張されている。
【0034】
このようにして、これらの金属領域の厚さは、数原子レイヤと同程度に小さいことがある。これらの金属領域は、典型的に、1cm2のオーダーの面積を有している、それらの間の距離は、これらの領域の幅以下である。これらの領域は、フィルムの表面に対して垂直の方向に見たとき、如何なる形状を有していても良いが、この実施形態においては、矩形である(図5参照方)。プラスチック・フィルム・レイヤ12の厚さと金属領域13の厚さとの関係のために、連続するプラスチック・フィルム・レイヤが、互いの上に強く押し合うことになる。
【0035】
多数の小さなキャパシタが、このようにして、絶縁レイヤの内側に形成される。これは、絶縁レイヤの内側の電場が、絶縁レイヤの内側に実質的に均一に分布されることになると言うことを意味している。
【0036】
図4は、もし、絶縁レイヤの中のスポット14に欠陥が生じた場合に、何が起こるかについて示している。絶縁レイヤのデザインは、欠陥を非常に小さいボリュームの中に維持することになり、欠陥エネルギーは、欠陥スポット14で金属レイヤを溶融して、問題の金属領域の中に孔を作り出すことになり、それによって、絶縁された領域が、欠陥の周りに作り出されことになる。これは、ケーブルの限られた長さ(例えば、1メーターのような)の中で、多数の欠陥が、ケーブルの絶縁レイヤの適切な機能に影響を与えることなく、事実上、許容されることがあると言うことを意味している。
【0037】
図5は、どのようにして、二つのプラスチック・フィルム・レイヤ12,12’が、好ましくも重ね合わせられ、それによって、その金属領域13,13’が、ケーブルの径方向に見たとき互いに位置がずれているようになるかについて示している。これを行うことにより、欠陥の結果として、ケーブルによる隔離を通る短絡の、それぞれのリスクが取り除かれる。
【0038】
図6は、図5に基づいてデザインされた、ケーブルの部分の断面を示す、この中にもまた、内側の導電体8が示されている。
【0039】
このようにデザインされたDCケーブルの絶縁レイヤは、DCキャパシタと同様な機能を有しているが、幾つかの相違がある。一つの相違は、キャパシタにおいては、チャージの電流が、キャパシタの中へ及び外へ移動されなければならないと言うことであり、それは、ケーブルの場合には当てはまらず、この点で、ケーブル・デザインの場合の方を容易にする。しかしながら、他の相違は、キャパシタは、全てのプラスチック・フィルムまたはフォイルが互いに積み重ねられていると言うことであって、それは、終端の問題が生じないので、キャパシタの場合の方を容易にする。
【0040】
図7は、プラスチック・フィルムのウェブ(恐らくは、約20mmの幅及び5μmの厚さを備えている)が、ケーブルの長手方向に対して互いに隣り合わせに配置された、巻き付けられたフィルムが重複する状態で、重ね合わされたレイヤ12,12’及び12’’の状態で巻き付けられたときに、何が起こるかについて示している。これは、重複領域に形成されるウエッジ16の中に、空気ボイド15を生じさせることがある。
【0041】
そのようなボイドの発生の問題に対処する一つのやり方は、非常に薄いプラスチック・フィルムを使用することであろう。これらのプラスチック・フィルムは、ボイドを非常に薄くして、その耐電圧を、パッツェンの法則(Paschen Law)に基づいて、十分なものにすることになる。計算によれば、5μmより薄いプラスチック・フィルムが、ミリメータ当り200kVの電圧強度に到達するために十分であろうと言うことが示されている。
【0042】
しかしながら、そのようなボイドの問題に対処する他のやり方もある。その一つが、図8の中に示されていて、それは、プラスチック・フィルムのウェブ17,17’,17’’,18,18’を、エッジからエッジまでの間、重複無しで、且つ、厳しい許容範囲で、正確に巻付けることから構成される。
【0043】
図9及び10は、図7の中に示されている巻付けプロセスの間に、重複の発生を許容する他の代替形態を示している。ボイドは、この場合には、巻付けプロセスの間、ゲル状の(従って、半液体の)絶縁材料19で満たされ、その際に、インクジェット・プリンターで使用されているものと同一の技術が使用され、この場合に、“インクジェット”は、概略的に示されたノズル20から発射される。このアイディアは、新しいボイドが生ずるリスクを避けるために、ゲルの体積がボイドより大きくなければならないと言うことである。
【0044】
図11は、ボイドが生じないように、巻付けの前に、プラスチック・フィルムのウェブのエッジを機械的に形成することにより、ボイドの問題を避けることの他の可能性を示していて、この成形は、ここでは、前記フィルム・ウェブの横方向のエッジにチャンファ21を設けることにより、従って、巻付けの前にこれらのエッジを機械的に鋭くすることにより行われ、それによって、フィルム状のレイヤが、重複領域の中であっても、互いに対して強く押し合っていることになる。
【0045】
本発明は、当然ながら、いかなるやり方にせよ、上記の実施形態のみに限定されることはなく、その変更に対する多くの可能性は、添付された特許請求の範囲の中で規定されている本発明の範囲から逸脱すること無く、当業者にとって明らかであろう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電圧のためのDCケーブルであって、
絶縁レイヤ(10)で周囲を取り囲まれた内側の導電体(8)を、少なくとも有し、
この絶縁レイヤは、内側の導電体とケーブルの周囲との間に掛けられる電圧に耐えるように構成されている、
DCケーブルにおいて、
前記絶縁レイヤは、隔離された金属の領域(13)をその上面にそれぞれ有する絶縁材料が重ね合わせられた複数のフィルム状のレイヤ(12)により形成されていること、及び、
連続するそのようなフィルム状のレイヤの前記金属領域は、ケーブルの径方向に見たとき、少なくとも部分的に互いに重複し、それによって、ケーブルの前記絶縁レイヤの中に、多数の小さなキャパシタを作り出すようになっていること、
を特徴とするDCケーブル。
【請求項2】
下記特徴を有する請求項1に記載のケーブル、
前記絶縁レイヤが重ね合わせられた前記フィルム状のレイヤ(12)の数は、100より多く、または、500より多く、または、1,000より多く、例えば、200〜10,000の範囲内である。
【請求項3】
下記特徴を有する請求項1または2に記載のケーブル、
前記各フィルム状のレイヤ(12)の厚さは、0.5〜100μm、または、1〜20μm、または、1〜10μmの範囲内である。
【請求項4】
下記特徴を有する請求項1から3の何れか1項に記載のケーブル、
前記各金属領域(13)は、200nm未満、100nm未満、1nm〜50nmの範囲内の厚さ、または、1〜10原子レイヤの厚さを有している。
【請求項5】
下記特徴を有する請求項1から4の何れか1項に記載のケーブル、
前記金属領域の厚さ(13)は、個々の前記フィルム状のレイヤの厚さの、1/5以下、1/10以下、または、1/50以下である。
【請求項6】
下記特徴を有する請求項1から5の何れか1項に記載のケーブル、
前記各金属領域(13)は、10cm2以下、または、1mm2〜5cm2の範囲内の面積を有している。
【請求項7】
下記特徴を有する請求項1から6の何れか1項に記載のケーブル、
前記金属領域(13)は、個々の前記フィルム状のレイヤの上に島を形成し、互いに隣接するそのような島の間の距離は、実質的に、そのような島の幅と同一またはそれよりも短く、例えば、前記幅の0.1〜1倍の範囲内である。
【請求項8】
下記特徴を有する請求項1から7の何れか1項に記載のケーブル、
連続する二枚のフィルム状のレイヤ(12,12’)の前記金属領域(13,13’)は、ケーブルの前記径方向に見たとき、互いに位置がずれている。
【請求項9】
下記特徴を有する請求項1から8の何れか1項に記載のケーブル、
前記絶縁レイヤは、プラスチック・フィルム(12)のウェブにより形成され、隔離された金属被覆領域(13)が、ケーブルの前記導電体(8)の周りに、重ね合わされた複数のレイヤの状態で巻き付けられている。
【請求項10】
下記特徴を有する請求項9に記載のケーブル、
前記プラスチック・フィルムのウェブ(17,17’,17’’,18,18’)は、ケーブルの長手方向に対して互いに隣り合わせに配置された、フィルムのターンが重複しない状態で、巻き付けられている。
【請求項11】
下記特徴を有する請求項9に記載のケーブル、
前記フィルム・ウェブ(17)は、ケーブルの長手方向に対して連続するフィルム・ウェブのターンが、部分的に重複する状態で巻き付けられ、且つ、
フィルム部分が重複するエッジに作り出されるボイド(15)が、ゲル状の絶縁材料(19)で満たされている。
【請求項12】
下記特徴を有する請求項1から9の何れか1項に記載のケーブル、
前記フィルム・ウェブ(17)は、ケーブルの長手方向に対して連続するフィルム・ウェブのターンが、部分的に重複する状態で巻き付けられ、且つ、
巻き付けられたフィルム・ウェブの横方向外側のエッジは、面取りされ(21)、且つ、
ケーブルの長手方向に見たとき、連続する巻き付けられたフィルムは、互いに対して密着して重複されている。
【請求項13】
高電圧のためのDCケーブルを製造するための方法であって、
絶縁材料のフィルム状のウェブ(17)を、導電体(8)の周りに、隔離された金属の領域(13)をその上面に有する重ね合わされた複数のレイヤ(12)の状態で、巻き付けるステップを有し、
それによって、連続するそのようなフィルム状のレイヤの前記金属領域が、ケーブルの径方向に見たとき、少なくとも部分的に互いに重複して、ケーブルの前記絶縁レイヤの中に多数の小さなキャパシタを作り出すようになっていること、
を特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1から12の何れか1項に記載のケーブルの使用であって、
例えば、500〜1,500MW、800〜1,500MW、または、800〜1,200MWの範囲内の電力を、その中を通る高電圧の直流形態で伝送するための使用。
【請求項15】
請求項1から12の何れか1項に記載のケーブルの使用であって、
前記電圧が10kV〜1,500kV、100kV〜1,500kV、400kV〜1,500kV、または、800kV〜1,500kVの範囲内の電力の伝送のための使用。
【請求項16】
請求項14または15に記載のケーブルの使用であって、
前記電力が、前記ケーブルの中を流れる500A〜7kA、1kA〜k7kA、または、2kA〜5kAの範囲内の電流により伝送される使用。
【請求項1】
高電圧のためのDCケーブルであって、
絶縁レイヤ(10)で周囲を取り囲まれた内側の導電体(8)を、少なくとも有し、
この絶縁レイヤは、内側の導電体とケーブルの周囲との間に掛けられる電圧に耐えるように構成されている、
DCケーブルにおいて、
前記絶縁レイヤは、隔離された金属の領域(13)をその上面にそれぞれ有する絶縁材料が重ね合わせられた複数のフィルム状のレイヤ(12)により形成されていること、及び、
連続するそのようなフィルム状のレイヤの前記金属領域は、ケーブルの径方向に見たとき、少なくとも部分的に互いに重複し、それによって、ケーブルの前記絶縁レイヤの中に、多数の小さなキャパシタを作り出すようになっていること、
を特徴とするDCケーブル。
【請求項2】
下記特徴を有する請求項1に記載のケーブル、
前記絶縁レイヤが重ね合わせられた前記フィルム状のレイヤ(12)の数は、100より多く、または、500より多く、または、1,000より多く、例えば、200〜10,000の範囲内である。
【請求項3】
下記特徴を有する請求項1または2に記載のケーブル、
前記各フィルム状のレイヤ(12)の厚さは、0.5〜100μm、または、1〜20μm、または、1〜10μmの範囲内である。
【請求項4】
下記特徴を有する請求項1から3の何れか1項に記載のケーブル、
前記各金属領域(13)は、200nm未満、100nm未満、1nm〜50nmの範囲内の厚さ、または、1〜10原子レイヤの厚さを有している。
【請求項5】
下記特徴を有する請求項1から4の何れか1項に記載のケーブル、
前記金属領域の厚さ(13)は、個々の前記フィルム状のレイヤの厚さの、1/5以下、1/10以下、または、1/50以下である。
【請求項6】
下記特徴を有する請求項1から5の何れか1項に記載のケーブル、
前記各金属領域(13)は、10cm2以下、または、1mm2〜5cm2の範囲内の面積を有している。
【請求項7】
下記特徴を有する請求項1から6の何れか1項に記載のケーブル、
前記金属領域(13)は、個々の前記フィルム状のレイヤの上に島を形成し、互いに隣接するそのような島の間の距離は、実質的に、そのような島の幅と同一またはそれよりも短く、例えば、前記幅の0.1〜1倍の範囲内である。
【請求項8】
下記特徴を有する請求項1から7の何れか1項に記載のケーブル、
連続する二枚のフィルム状のレイヤ(12,12’)の前記金属領域(13,13’)は、ケーブルの前記径方向に見たとき、互いに位置がずれている。
【請求項9】
下記特徴を有する請求項1から8の何れか1項に記載のケーブル、
前記絶縁レイヤは、プラスチック・フィルム(12)のウェブにより形成され、隔離された金属被覆領域(13)が、ケーブルの前記導電体(8)の周りに、重ね合わされた複数のレイヤの状態で巻き付けられている。
【請求項10】
下記特徴を有する請求項9に記載のケーブル、
前記プラスチック・フィルムのウェブ(17,17’,17’’,18,18’)は、ケーブルの長手方向に対して互いに隣り合わせに配置された、フィルムのターンが重複しない状態で、巻き付けられている。
【請求項11】
下記特徴を有する請求項9に記載のケーブル、
前記フィルム・ウェブ(17)は、ケーブルの長手方向に対して連続するフィルム・ウェブのターンが、部分的に重複する状態で巻き付けられ、且つ、
フィルム部分が重複するエッジに作り出されるボイド(15)が、ゲル状の絶縁材料(19)で満たされている。
【請求項12】
下記特徴を有する請求項1から9の何れか1項に記載のケーブル、
前記フィルム・ウェブ(17)は、ケーブルの長手方向に対して連続するフィルム・ウェブのターンが、部分的に重複する状態で巻き付けられ、且つ、
巻き付けられたフィルム・ウェブの横方向外側のエッジは、面取りされ(21)、且つ、
ケーブルの長手方向に見たとき、連続する巻き付けられたフィルムは、互いに対して密着して重複されている。
【請求項13】
高電圧のためのDCケーブルを製造するための方法であって、
絶縁材料のフィルム状のウェブ(17)を、導電体(8)の周りに、隔離された金属の領域(13)をその上面に有する重ね合わされた複数のレイヤ(12)の状態で、巻き付けるステップを有し、
それによって、連続するそのようなフィルム状のレイヤの前記金属領域が、ケーブルの径方向に見たとき、少なくとも部分的に互いに重複して、ケーブルの前記絶縁レイヤの中に多数の小さなキャパシタを作り出すようになっていること、
を特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1から12の何れか1項に記載のケーブルの使用であって、
例えば、500〜1,500MW、800〜1,500MW、または、800〜1,200MWの範囲内の電力を、その中を通る高電圧の直流形態で伝送するための使用。
【請求項15】
請求項1から12の何れか1項に記載のケーブルの使用であって、
前記電圧が10kV〜1,500kV、100kV〜1,500kV、400kV〜1,500kV、または、800kV〜1,500kVの範囲内の電力の伝送のための使用。
【請求項16】
請求項14または15に記載のケーブルの使用であって、
前記電力が、前記ケーブルの中を流れる500A〜7kA、1kA〜k7kA、または、2kA〜5kAの範囲内の電流により伝送される使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2012−512511(P2012−512511A)
【公表日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541103(P2011−541103)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【国際出願番号】PCT/EP2008/067742
【国際公開番号】WO2010/069370
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(505063441)アーベーベー・テヒノロギー・アーゲー (96)
【公表日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【国際出願番号】PCT/EP2008/067742
【国際公開番号】WO2010/069370
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(505063441)アーベーベー・テヒノロギー・アーゲー (96)
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