説明

魚卵捕集具

【課題】 人手を要することがなく、養殖魚が産卵したことを簡単に確認することができる魚卵捕集具を提供する。
【解決手段】 魚卵捕集具1は、一端部2と他端部3とに開口部4,5が形成されて一端部2から他端部3に向って収束し、水を通過させかつ魚卵を通過させない素材からなり水中で浮遊する魚卵を捕集する捕集部材6と、一端部に魚卵が通過する通過孔8が形成され、捕集部材6の他端部3に形成される開口部5に通過孔8を連通させるようにして捕集部材6に装着され、捕集部材6によって捕集される魚卵を収容する収容容器9と、収容容器9に装着されて水に対して浮力を有する浮き部材10とを含む。この魚卵捕集具1は、生け簀中で養殖魚が産卵した卵と同様に潮風にのって浮遊し、産卵された魚卵を捕集する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば養殖魚が産卵した卵を捕集する魚卵捕集具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、天然資源保護があらゆる分野で提唱されており、海、川、湖沼資源に依存する漁業も、種々の魚について捕る漁業から栽培する漁業への転換である養殖が試みられている。養殖漁業の中でも採卵−受精−ふ化−稚魚−成魚の工程を経る完全養殖においては、いずれの工程も重要であるが、魚として育てるべき卵がなければ完全養殖は成立たないので、特に採卵工程は重要である。
【0003】
採卵は、たとえば鮭のように親魚の腹中から取出することができる場合には比較的容易であるけれども、魚の種類によっては自然産卵した卵を収集しなければならないことも多い。親魚から自然産卵された卵は、産卵後迅速に捕集しないと、成魚に食べられる恐れがあり、また受精させた後のふ化率が低下する。
【0004】
このような問題に対応する先行技術として、産卵された卵が成魚に食べられることを防止し、効率的に卵を捕集することのできる採卵用養魚水槽が提案される(特許文献1参照)。特許文献1では、水槽本体内に卵が通過可能で成魚が通過不可能な中仕切り板と、傾斜された底面の最下部近傍から外部へ延設されて集まった魚卵を外部へ取出し可能な採卵用通路とを設けることによって、成魚に食べられることの防止と効率的捕集とを実現している。
【0005】
しかしながら、特許文献1は、水槽に収容可能な観賞用の小さな魚、たとえばゼブラフィッシュなどを対象としているので、生け簀のような広大な空間でなければ養殖できない、たとえばクロマグロなどの大きい魚に対して特許文献1のような採卵用養魚水槽を用いることは不可能である。クロマグロは常に高速で広大な水中空間を泳ぎ回るので、クロマグロを収容するためには、巨大な水槽が必要になる。このようなクロマグロを収容することができる程度の水槽を作製するとすれば、その設備費用が巨額になるので、クロマグロに対して採卵用養魚水槽を適用することは全く非現実的である。
【0006】
生け簀のような広大な空間で養殖する魚を対象とする場合、まず海上に設けられる生け簀内における魚の行動、たとえば追尾行動、産卵行動などを、数時間掛けて目視観察し、また魚を網で掬い上げて魚体観察して産卵時期を推定することを併用し、産卵行動が認められたときに、卵を採集する作業を行っている。
【0007】
魚の産卵は、夜間に行われることが多く、また人手を掛けて夜間に数時間もの目視観察を行っても、常に産卵行動が有る訳ではないので、多大な人的労力の浪費を強いられているのが実情である。したがって、人手を要することなく、養殖魚が産卵したことを簡単に確認できるようにすることが強く求められている。
【0008】
【特許文献1】特開2001−120110号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、人手を要することがなく、養殖魚が産卵したことを簡単に確認することができる魚卵捕集具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、魚が水中で産卵した卵を捕集する魚卵捕集具において、
一方の端部と他方の端部とに開口部が形成されて一方の端部から他方の端部に向って収束するように形成される捕集部材であって、水を通過させかつ魚卵を通過させないように形成されて水中で浮遊する魚卵を捕集する捕集部材と、
一方の端部に魚卵が通過する通過孔が形成され、捕集部材の他端部に形成される開口部に通過孔を連通させるようにして捕集部材に装着され、捕集部材によって捕集される魚卵を収容する収容容器と、
収容容器に装着され、水に対して浮力を有する浮き部材とを含むことを特徴とする魚卵捕集具である。
【0011】
また本発明は、捕集部材は、一方の端部側に錘部材が装着され、水中で一方の端部側を鉛直方向における下部側にして円錐形状に開く網であることを特徴とする。
【0012】
また本発明は、網の目開きが、400μm以上、1000μm以下であることを特徴とする。
また本発明は、収容容器が、透明素材からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の魚卵捕集具によれば、魚によって水中に産卵されて浮遊する卵が、捕集部材によって捕集され、捕集部材の他端部の開口部を介して、浮き部材によって水面部に浮く収容容器に収容される。したがって、養殖魚の居る生け簀内に魚卵捕集具を投入しておき、予め定める時間経過後に、収容容器内における魚卵の有無を観察するだけで、魚による産卵行動の有無を簡単に判定することができるので、魚の行動を目視観察する労力を省くことが可能になる。
【0014】
また本発明によれば、捕集部材は、一方の端部側に錘部材が装着され、水中で一方の端部側を鉛直方向における下部側にして円錐形状に開く網で構成されるので、たとえばクロマグロの卵のように品質の良いものは海水に浮くという性質を利用し、特別な装置を用いることなく、網の中に入った魚卵を、一方の端部側である円錐形状の底面側から、他方の端部側に装着されて浮き部材によって水面部に在る収容容器へと移動させることが可能になる。
【0015】
また本発明によれば、網の目開きが、400μm以上、1000μm以下であるので、たとえばクロマグロの卵を確実に捕集することができる。
【0016】
また本発明によれば、収容容器が透明素材からなるので、収容容器中に魚卵が捕集されているか否かを、収容容器を取外して見るまでもなく、簡単に判別することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、本発明の実施の一形態である魚卵捕集具1の構成を簡略化して示す斜視図である。魚卵捕集具1は、一方の端部2と他方の端部3とに開口部4,5がそれぞれ形成されて一方の端部2から他方の端部3に向って収束するように形成される捕集部材6であって、水を通過させかつ魚卵7を通過させないように形成されて水中で浮遊する魚卵7を捕集する捕集部材6と、一方の端部に魚卵7が通過する通過孔8が形成され、捕集部材6の他端部3に形成される開口部5に通過孔8を連通させるようにして捕集部材6に装着され、捕集部材6によって捕集される魚卵7を収容する収容容器9と、収容容器9に装着され、水に対して浮力を有する浮き部材10とを含む。
【0018】
浮き部材10は、本実施の形態ではリング形状を有するように形成される。浮き部材10の素材は、水に対して浮力を有するものであればよく、特に限定されるものではないが、発泡ポリスチレンなどが好適に用いられる。リング形状を有する浮き部材10の中央空隙部分に収容容器9が配置される。
【0019】
収容容器9は、有底円筒形状を有し、底部の反対側に開口部が形成され、該開口部が通過孔8を構成する。収容容器9の素材は、透明であることが好ましく、透明であれば無色透明または有色透明のいずれであってもよい。収容容器9の素材としては、特に限定されるものではないが、たとえばポリエチレンテレフタレート、アクリル樹脂などが挙げられる。
【0020】
収容容器9は、通過孔8が鉛直方向の下方に臨み、前述のように浮き部材10の中央空隙部分に配置される。浮き部材10は、装着部材11によって収容容器9に装着される。本実施の形態では、装着部材11は、ロープで構成される。ロープ11によって浮き部材10を捕縛し、その反対側の端を収容容器9に固着することによって、浮き部材10が収容容器9に装着される。なお、装着部材11であるロープは、複数箇所(本実施形態では4箇所)で浮き部材10を収容容器9に装着する。
【0021】
本実施形態において、捕集部材6は、一方の端部2側に錘部材12が装着され、水中で一方の端部2側を鉛直方向における下部側にして円錐形状に開く網である。捕集部材6を構成する網は、特にその素材が限定されるものではないけれども、たとえばポリアミド系合成繊維からなるプランクトンネットなどが好適に用いられる。また網の目開きは、水を通過させて魚卵を通過させない条件が満たされれば良く、捕集する魚卵のサイズに応じて、適宜設定されて良い。ただし、捕集対象が、たとえばクロマグロの卵であるときには、クロマグロの卵のサイズがおおよそ1.0mmであるので、目開きは400μm以上、1000μm以下であることが好ましい。
【0022】
捕集部材6の一方の端部2の開口部4を形成する部分には、錘部材12が装着される。本実施形態の錘部材12は、リング状の形状を有するものが用いられる。錘部材12は、比重が海水よりも大きく、水に浸漬された状態で良好な耐食性を有する素材、たとえばステンレス鋼が好適に用いられる。
【0023】
捕集部材6を構成する網は、一端部2にリング状の錘部材12が装着され、他端部3には浮き部材10が装着された収容容器9が設けられるので、魚卵捕集具1が水中に投入されるとき、一端部2側を鉛直方向における下部側にして水中に垂下し、円錐形状、より厳密には円錐台形状に開いた状態になる。本実施形態の魚卵捕集具1では、水中に垂下させたときの捕集部材6の高さhが約1mであり、捕集部材6の一端部2における開口部4の直径dが約60cmである。
【0024】
このように構成される魚卵捕集具1を、たとえばクロマグロの卵を捕集するために生け簀の海中に投入すると、捕集具6が海水中に垂下して円錐形状に開き、魚卵捕集具1が、収容容器9を海面付近に保持した状態で浮き部材10の浮力によって海水に浮遊する。海水に浮遊する魚卵捕集具1は、潮風および潮風によって海面近傍に生じる海水の流れにのって移動する。
【0025】
一方生け簀中のクロマグロが産卵したとき、産卵された卵は、良質のものが海水に浮くので、浮上の途中で魚卵捕集具1と同じように潮風によって海面近傍に生じる海水の流れにのって移動する。魚卵捕集具1と産卵された卵とが、同一の挙動をするので、産卵された卵は、浮上の過程において魚卵捕集具1の捕集部材6の一端部2の開口部4で捕集され、捕集部材6中をさらに浮上して他端部3の開口部5および通過孔8を通過して収容容器9に収容される。
【0026】
したがって、クロマグロの産卵時間、たとえば17時〜21時の時間帯に魚卵捕集具1を生け簀に投入しておき、所定時間経過後、透明素材からなる収容容器9の中に魚卵が視認されるか否かによって、クロマグロの産卵があったか否かを判定することができる。
【0027】
このことによって、産卵を確認するために人手をさいて追尾行動、産卵行動などを目視観察する必要がなくなり、所定時間だけ魚卵捕集具1を生け簀中に投入しておき、その後収容容器9内の魚卵の有無を目視観察するという簡単かつ省力化された手段によって産卵確認することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の一形態である魚卵捕集具1の構成を簡略化して示す斜視図である。
【符号の説明】
【0029】
1 魚卵捕集具
2 一方の端部
3 他方の端部
4,5 開口部
6 捕集部材
7 魚卵
8 通過孔
9 収容容器
10 浮き部材
11 装着部材
12 錘部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚が水中で産卵した卵を捕集する魚卵捕集具において、
一方の端部と他方の端部とに開口部が形成されて一方の端部から他方の端部に向って収束するように形成される捕集部材であって、水を通過させかつ魚卵を通過させないように形成されて水中で浮遊する魚卵を捕集する捕集部材と、
一方の端部に魚卵が通過する通過孔が形成され、捕集部材の他端部に形成される開口部に通過孔を連通させるようにして捕集部材に装着され、捕集部材によって捕集される魚卵を収容する収容容器と、
収容容器に装着され、水に対して浮力を有する浮き部材とを含むことを特徴とする魚卵捕集具。
【請求項2】
捕集部材は、
一方の端部側に錘部材が装着され、水中で一方の端部側を鉛直方向における下部側にして円錐形状に開く網であることを特徴とする請求項1記載の魚卵捕集具。
【請求項3】
網の目開きが、400μm以上、1000μm以下であることを特徴とする請求項2記載の魚卵捕集具。
【請求項4】
収容容器が、透明素材からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の魚卵捕集具。

【図1】
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【公開番号】特開2006−109753(P2006−109753A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−300218(P2004−300218)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(504224681)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】