説明

魚肉ねり製品の日持ち向上方法

【課題】 有機酸を使用せず、したがって有機酸による味覚やテクスチャーに対する影響を完全に無くすことができ、特にかまぼこ等の魚肉ねり製品に効果的に適用できる日持ち向上方法を提供する。
【解決手段】 主原料である魚肉すり身に水および副原料を添加して撹拌混合することによりすり身ペーストを調製し、このすり身ペーストを所定形状に成形して加熱処理を行うことにより魚肉ねり製品を製造する方法において、すり身ペースト調製時にHLB3以下のショ糖脂肪酸エステルの有効量を添加する。ショ糖脂肪酸エステルの添加量としては、すり身ペーストに対して0.3〜1質量%とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、かまぼこ、ちくわ、はんぺん等の魚肉ねり製品の日持ちを向上させる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
かまぼこ、ちくわ、はんぺん等、魚肉のすり身を利用した魚肉ねり製品は、その製造過程で加熱されるので、比較的日持ちがよいと考えられているが、実際は、店頭に陳列されると菌の汚染による腐敗変質が早く、食品の衛生管理の上から問題となっている。
【0003】
魚肉ねり製品の日持ち向上には、従来から日持ち向上剤と称されるソルビン酸やクエン酸などの有機酸を原料すり身に添加する方法が行われている。しかしながら有機酸を日持ち向上剤として使用した場合には、製品のpHを低下させ、味覚やテクスチャーにマイナスの影響を与える傾向が認められる。
【0004】
本発明者らは、これら有機酸による食品類のpH低下を防ぐ目的で、平均置換度が2以上のショ糖脂肪酸エステルで有機酸類をコーティングした食品用日持ち向上剤を開発した(特許文献1)。この日持ち向上剤によれば、製品のpH低下を防止して味覚への影響を少なくできるとともに、製品の日持ち向上効果も向上できる。ショ糖脂肪酸エステルのエステル置換度は、高いほど親水性を示し、低いほど親油性を示す。親水性と親油性のバランスの尺度は一般にHLB値で表すことができ、上記した平均置換度2以上のショ糖脂肪酸エステルのHLBは約3以下といった比較的低いHLBを有する。
【0005】
【特許文献1】特許第2924903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1で提案されている日持ち向上剤は、有機酸をショ糖脂肪酸エステルでコーティングする工程が必要となるとともに、有機酸を使用するため食品の味覚やテクスチャーに対する影響を完全に無くすことはできない。
【0007】
そこで本発明は、有機酸を使用せず、したがって有機酸による味覚やテクスチャーに対する影響を完全に無くすことができ、特にかまぼこ等の魚肉ねり製品に効果的に適用できる日持ち向上方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記した特許文献1で提案した日持ち向上剤の効果が、コーティングされた有機酸による効果であるのか、コーティングに使用した低HLB(HLB3以下)の親油性ショ糖脂肪酸エステル自体の静菌作用による効果であるのか、さらに検討を続けた過程で、低HLBの親油性ショ糖脂肪酸エステルと、従来から缶コーヒー等の静菌剤として広く使用されている高HLB(HLB16)の親水性ショ糖脂肪酸エステルについて、かまぼこに対する日持ち効果を比較した。その結果、従来から静菌剤として用いられている高HLBの親水性ショ糖脂肪酸エステルに比べて、低HLBの親油性ショ糖脂肪酸エステルの方が日持ち向上効果が大きいことを見出し、本発明を完成させたものである。
【0009】
すなわち本発明の魚肉ねり製品の日持ち向上方法は、主原料である魚肉すり身に水および副原料を添加して撹拌混合することによりすり身ペーストを調製し、このすり身ペーストを所定形状に成形して加熱処理を行うことにより魚肉ねり製品を製造する方法において、すり身ペースト調製時にHLB3以下のショ糖脂肪酸エステルの有効量を添加することを特徴とするものである。
【0010】
ショ糖脂肪酸エステルの添加量としては、すり身ペーストに対して0.3〜1質量%を添加することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、有機酸を使用することなく、HLB3以下のショ糖脂肪酸エステルのみを魚肉ねり製品の原料すり身に添加混合するだけで、ねり製品の日持ち向上効果を発現させることができる。したがって、有機酸による味覚やテクスチャーに対する影響を完全に無くすことができるとともに、有機酸をショ糖脂肪酸エステルでコーティングする工程も不要となる。
【0012】
HLB3以下の親油性ショ糖脂肪酸エステルが、従来から缶コーヒー等の静菌剤として広く使用されている高HLB(HLB16)の親水性ショ糖脂肪酸エステルよりも、魚肉ねり製品の日持ち向上効果が優れていることは、全く予想し得ない効果といえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明においては、HLB3以下の親油性のショ糖脂肪酸エステルを日持ち向上剤として使用する。魚肉ねり製品の一般的製造方法は、主原料である魚肉すり身に、水、各種副原料(食塩、砂糖、デンプン等)および各種添加物(調味料、保存料等)を添加し、撹拌混合してすり身ペーストを調製した後、このすり身ペーストを所定形状に成形して加熱処理を行うことにより製品とされる。
【0014】
加熱処理の方法はねり製品の種類により異なり、たとえば、かまぼこは蒸煮、焼きちくわは焙焼、はんぺんは湯煮等の加熱操作が施される。本発明においては、加熱処理前のすり身ペースト調製時に、原料すり身に水、副原料、添加物等とともにショ糖脂肪酸エステルを添加し十分に撹拌混合してすり身ペーストを調製した後に、所定の加熱処理を施す。
【0015】
ショ糖脂肪酸エステルの添加量は、最終的に得られた魚肉ねり製品について所望の日持ち向上効果が発現する有効量であればよい。好ましい添加量は、すり身ペーストの質量に対して0.3〜1質量%の範囲である。
【0016】
ショ糖脂肪酸エステルの他に、pHに影響を与えない程度の少量の有機酸、グリシン、リゾチーム等の従来から慣用されている日持ち向上剤を必要に応じて併用してもよい。
【実施例】
【0017】
アラスカ産タラの冷凍すり身(−30℃で保存)を約1時間解凍して室温とした後、フードプロセッサーを用いて1分間らい潰した。次いで、水分含量が80質量%となるように水を加えてさらにらい潰した後、食塩を最終濃度で2.5質量%となるように加えて、すべての成分が十分混合するようにさらに4分間らい潰した。低HLBの親油性ショ糖脂肪酸エステル(HLB2のショ糖ステアリン酸ポリエステル)は、最終濃度で0.5質量%となるように食塩と一緒に添加した。
このようにして得られたすり身ペーストを、5℃に維持した室内でステンレス鋼製型に充填した後、30℃で30分加熱した後、さらに90℃で20分加熱する2段階加熱処理を施して凝固させ、かまぼこを製造した。
【0018】
得られたかまぼこ製品を5℃および20℃で保蔵し、臭い、可食性、ネト、pHおよび生菌数の変化を調べた。5℃で4週間保蔵したときの1週間毎の変化を表1に、20℃で4日間保蔵したときの1日毎の変化を表2に、それぞれ示す。
【0019】
なお、低HLBのショ糖脂肪酸エステルに代えて、高HLBの親水性ショ糖脂肪酸エステル(HLB16のショ糖ステアリン酸モノエステル)を添加して、上記と同様にして製造したかまぼこ製品を比較例とし、ショ糖脂肪酸エステルを添加せずに、上記と同様にして製造したかまぼこ製品を対照として、同様に5℃および20℃で保蔵したときの変化を、表1および表2に併記する。
【0020】
〈臭いの官能検査〉
「臭いがない」を5、「腐敗臭がした」を1として5段階評価した。
〈可食性の官能検査〉
「良好に食することができる」を5、「食することができない」を1として5段階評価した。
〈ネトの検査〉
「ネトの発生なし」を5、「ネトが多量に発生した」を1として5段階評価した。
【0021】
〈pHの測定〉
試料5gを蒸留水45mLに採り、ホモジナイザーを用いて8000rpmでホモジナイズしたものを、pHメーターで測定した。
〈生菌数の測定〉
寒天培地を用いる混釈平板法により測定した。中温菌(mesophilic bacteria)の場合は37℃で3日間、低温菌(psychrophilic bacteria)の場合は5℃で7日間、それぞれ培養した後の生菌数(菌数/g)を測定した。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
表1および表2からわかるように、5℃の保蔵においては1週間、20℃の保蔵においては1〜2日の日持ち向上効果が認められた。この結果は、低HLBのショ糖脂肪酸エステルが、かまぼこ等の魚肉ねり製品に対する日持ち向上剤として有効であることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主原料である魚肉すり身に水および副原料を添加して撹拌混合することによりすり身ペーストを調製し、このすり身ペーストを所定形状に成形して加熱処理を行うことにより魚肉ねり製品を製造する方法において、すり身ペースト調製時にHLB3以下のショ糖脂肪酸エステルの有効量を添加することを特徴とする魚肉ねり製品の日持ち向上方法。
【請求項2】
ショ糖脂肪酸エステルの添加量を、すり身ペーストに対して0.3〜1質量%とすることを特徴とする魚肉ねり製品の日持ち向上方法。

【公開番号】特開2007−53945(P2007−53945A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−242073(P2005−242073)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(598104274)株式会社 徳倉 (4)
【Fターム(参考)】