説明

魚釣用リール

【課題】 本発明は魚釣用リールに関し、仕掛けの再投入後の巻き上げ操作時の取り込み作業を、最適な釣糸の繰出し量で円滑に行うことができる魚釣用リールを提供することを目的とする。
【解決手段】 リール本体に回転可能に支持されたスプールと、釣糸の繰出しや巻取りで回転する回転体の回転数と回転方向を検出する回転検出手段の検出値を基に糸長を計測する糸長計測手段と、釣糸の巻取り操作時に於ける所定の糸長設定値を記憶した記憶手段と、釣糸の繰出し後の巻取り操作時に、糸長計測手段で計測された計測値が糸長設定値に達した時に警報を発する警報手段とを備えた魚釣用リールに於て、記憶手段に、スプールの釣糸繰出し方向の所定回転条件を設定,記憶すると共に、所定回転条件の検出手段を備え、検出手段が前記所定回転条件を検出したとき、スプールの繰出し回転開始点での糸長を前記糸長設定値として記憶していく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は魚釣用リールに係り、詳しくは釣糸の巻き上げ操作時に釣糸の糸長が所定の糸長設定値に達したときに、警報(アラーム報知や自動巻き上げ停止等)を行う魚釣用リールに関する。
【背景技術】
【0002】
正確な棚取りを行って釣果の向上を図るため、近年、多くの魚釣用リールには、回転検出手段で検出されたスプール等の回転数に基づき釣糸の糸長(繰出し長さ)を計測して、計測値をリール本体に設けた表示器に表示する糸長計測装置が備えられており、釣人は表示器に表示された計測値を基に、仕掛けを所定の棚位置まで繰り出すことができるようになっている。
【0003】
また、従来、釣糸の巻き上げに伴う竿先保護を考慮して、魚釣用電動リールにあっては、糸長計測装置の計測値を基に、仕掛けが所定の糸長設定値まで巻き上げられた処で、自動的にスプール駆動モータを停止させて巻き上げ停止を行う自動停止装置(船べり自動停止装置)が装備され、手動の魚釣用リールでは、仕掛けが糸長設定値まで巻き上げられると、音や光,振動等でアラーム報知して、釣人に巻き上げ操作の停止を促すようにしたものが知られている。
【0004】
そして、特許文献1には、実釣時に、釣竿を立てた状態で仕掛けが釣人の手元に位置するように釣糸の繰出し長さを決めてこの状態を所定時間継続すると、この繰出し長さが次回の電動巻き上げ時に於ける船べり近傍の自動停止長さ、即ち、既述した所定の糸長設定値として自動的に記憶手段に記憶されるように構成して、魚の取り込みや餌の付け替え等の作業性の向上を図った魚釣用リールが開示されている。
【特許文献1】特許第3526593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、実釣時に魚が掛かって取り込む場合は、通常、手元に仕掛けが来る位置より魚が掛かっている分長くなることがあり、釣人は手元に魚が来るように多少巻き上げ量を調整して取り込み作業を行うことが多い。
このため、前記特許文献1の従来例では、斯様に手元に魚が来るように巻き上げ量を調整して取り込み作業を所定時間継続して行っていると、この釣糸の繰出し長さが、次回の電動巻き上げ時に於ける自動停止長さと認識されて記憶手段に記憶されることとなる。
【0006】
しかし乍ら、実釣時に於ては、魚の取り込み作業の際には、通常の取り込み作業に適した繰出し量以外で長時間停止した状態で作業する(例えば、餌の交換や釣場の移動)ことも多く、所定時間経過で新たな自動停止長さとして記憶手段に記憶してしまう特許文献1の従来例では、次回投入後の巻き上げ作業時に、巻き込み過ぎや巻き込み不足といった繰出し長さの不具合が発生してしまうことがあった。
【0007】
本発明は斯かる実情に鑑み案出されたもので、仕掛けの再投入後の巻き上げ操作時の取り込み作業を、最適な釣糸の繰出し量で円滑に行うことができる魚釣用リールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
斯かる目的を達成するため、請求項1に係る発明は、リール本体に回転可能に支持されたスプールと、釣糸の繰出しや巻取りで回転する回転体の回転数と回転方向を検出する回転検出手段の検出値を基に糸長を計測する糸長計測手段と、釣糸の巻取り操作時に於ける所定の糸長設定値を記憶した記憶手段と、釣糸の繰出し後の巻取り操作時に、前記糸長計測手段で計測された計測値が前記糸長設定値に達した時に警報を発する警報手段とを備えた魚釣用リールに於て、前記記憶手段に、スプールの釣糸繰出し方向の所定回転条件を設定,記憶すると共に、当該所定回転条件の検出手段を備え、当該検出手段が前記所定回転条件を検出したとき、スプールの繰出し回転開始点での糸長を前記糸長設定値として記憶していくことを特徴とする。
【0009】
そして、請求項2に係る発明は、請求項1に記載の魚釣用リールに於て、前記リール本体にスプールを巻取り駆動するスプール駆動モータを備え、前記警報手段は、糸長計測手段で計測された計測値が糸長設定値に達した時に、スプール駆動モータの駆動を停止させる停止手段であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
各請求項に係る発明によれば、現在の糸長設定値が設定されている場合に、仕掛けを再投入して検出手段が所定回転条件を検出すると、この仕掛けの再投入動作に連動して新たなスプールの繰出し回転開始点での糸長が再投入後の糸長設定値として記憶設定されるため、再投入後の巻き上げ操作時の取り込み作業が、最適な繰出し長さで円滑且つ容易に行える利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1及び図2は請求項1及び請求項2に係る発明を魚釣用電動リールに適用した一実施形態を示し、図1に於て、1はフレーム、3,5は当該フレーム1の左右に取り付く側板で、フレーム1と両側板3,5とによって魚釣用電動リール7のリール本体9が形成されている。そして、両側板3,5間に軸受を介してスプール軸が支持され、当該スプール軸にスプール11が回転可能に支持されている。
【0012】
スプール11は、スプール駆動モータ(図2中、符号13)の駆動やハンドル15の巻取り操作で回転して釣糸が巻回されるようになっており、スプール駆動モータ13は、周知のように、スプール11前方のフレーム1に一体成形されたモータケース内に収納、または、スプール11内のリール本体に設けられている。
そして、ハンドル15側の側板5の側部前方に突設された筒状部17に、特許第2977978号公報で開示された魚釣用電動リールと同様、スプール駆動モータ13のモータ出力を調節するレバー形状のモータ出力調節体(以下、「パワーレバー」という)19が、リール本体9の前後方向へ所定の角度に亘って回転操作可能に取り付けられている。
【0013】
パワーレバー19は、筒状部17に内蔵されたポテンショメータ(図2中、符号21)に連結されており、パワーレバー19の回転操作によるポテンショメータ21の抵抗値の変化が、リール本体9上部の制御ボックス23内に装着したマイクロコンピュータ(図2中、符号25)に入力されている。そして、マイクロコンピュータ25のCPUは、パワーレバー19の操作量に応じたパルス信号のデューティ比としてスプール駆動モータ13への駆動電流通電時間率を可変制御して、スプール駆動モータ13のモータ出力をモータ停止状態から高出力値まで連続的に増減調節するようになっている。
【0014】
一方、図1に示すように側板5の側部後方には、側板5内に装着された周知のクラッチ機構を操作するクラッチレバー27が回転操作可能に取り付けられており、当該クラッチレバー27の回転操作で、クラッチ機構がクラッチONからクラッチOFFに切り換わるようになっている。
そして、このクラッチOFF状態でハンドル15を巻取り方向へ回転させると、周知の復帰機構を介してクラッチ機構がクラッチONに復帰するように構成されており、このクラッチ機構のクラッチON/OFFの切換えでスプール11が巻取り可能状態とスプールフリー状態とに切り換わって、スプール11へのスプール駆動モータ13やハンドル15の動力が伝達/遮断されるようになっている。
【0015】
また、図1中、29はスプール11の回転数とその回転方向を検出する回転検出手段で、当該回転検出手段29は、フレーム1に装着された一対のホール素子31と、これらに対向してスプール11の一端側に固着されたマグネット33とで構成されており、図2に示すようにホール素子31はマイクロコンピュータ25に接続されている。そして、マイクロコンピュータ25は、ホール素子31から出力される回転パルス信号をCPUに取り込むことで、内蔵のアップ・ダウンカウンタをアップカウントまたはダウンカウント状態にセットして、取り込まれるスプール11の回転パルス信号をカウントするようになっている。
【0016】
而して、マイクロコンピュータ25のROM(記憶手段)には、特開平5−103567号公報で開示された魚釣用電動リールと同様、糸長計測装置の糸長計測プログラムが組み込まれており、CPUは、スプール11の回転パルス信号の計数値を基に釣糸の糸長を演算して、その計測値を制御ボックス23の操作パネル35上に設けた表示器37に表示させるようになっている。そして、当該表示器37に近接して操作パネル35上にリセットスイッチ39が設けられている。
【0017】
そして、本実施形態に係る魚釣用電動リール7も、釣糸の巻き上げに伴う竿先保護を考慮して、糸長計測装置の計測値を基に、仕掛けが所定の糸長設定値まで巻き上げられた処で、自動的にスプール駆動モータ13を停止させて巻き上げ停止を行う自動停止装置(警報手段)が装備されているが、本実施形態は、マイクロコンピュータ25のROMに、スプール11の釣糸繰出し方向の「所定回転条件」を設定,記憶し、実釣時に当該「所定回転条件」が検出されると、スプール11の繰出し回転開始点での糸長を、以降、巻き上げ停止を行う新たな糸長設定値としてこれをRAM(記憶手段)に記憶,更新していくことを特徴とする。
【0018】
以下、これを図3及び図4のフローチャートで説明すると、図中、「糸長表示X」は、スプール11の繰出し回転開始点での糸長、即ち、スプール11が繰出し方向へ回転したことを回転検出手段29が検出した時に表示器37に表示されている釣糸の繰出し長さをいう。
そして、マイクロコンピュータ25のROMには、前記「所定回転条件」として、例えば「10回転以上繰出し方向へ連続回転」が設定,記憶されており、CPU(検出手段)は回転検出手段29から取り込まれるスプール11の回転パルス信号を基に、スプール11が10回転以上連続して繰出し方向へ回転したことを検出すると、「釣人による仕掛けの投入開始」を認識するようになっている。
【0019】
尚、前記「所定回転条件」に代え、例えば「連続して2秒以上繰出し方向へ回転」を「所定回転条件」としてROMに設定,記憶させてもよく、適宜、設計仕様により設定される。
既述したように釣糸の繰出しや巻き上げに伴い、糸長が計測されて表示器37に表示されるが、実釣開始に当たり、釣糸が竿先から水面まで繰り出された処で釣人がリセットスイッチ39を操作すると、CPUは表示器35の表示値(糸長)を「0.0m」にリセットすると共に(水面0設定)、基準となる船べり停止位置として基準糸長設定値2.0mを設定する(ステップS1,2)
即ち、魚釣用電動リール7には、釣人が船べり設定をしないで釣りを行ってしまう場合を考慮して、予め工場出荷段階に於て、船べり停止位置として「初期値5.0m+0.2m」の初期糸長設定値がマイクロコンピュータ25のROMに設定,記憶されている。この0.2mの値は、初期値5.0mでの電動巻き上げ,モータ停止時のオーバーランを見込んで加算したもので、CPUはスプール駆動モータ13の停止手段として、釣糸が水深5.2mまで巻き上げられた処でスプール駆動モータ13の駆動を停止して巻き上げ停止を行うようになっている。
【0020】
従って、ステップS1に於て、釣人がリセットスイッチ39を操作して水面0設定を行わない場合には、工場出荷段階に於ける5.2mの初期糸長設定値が保持されるようになっている(ステップS3)。
一方、既述したように釣人がリセットスイッチ39を操作してステップS2で水面0設定が行われると、次に、ステップS4に於て、CPUは、糸長表示X≦10.0mであるか否かを判定するようになっている。
【0021】
この判定は、ポイント付近での誘い動作と仕掛け投入動作を判別するもので、実釣時に図3及び図4のルーティンは繰り返されるため、水深10.0mよりも深いポイントで誘い動作をしてスプール11が繰出し方向へ回転した場合をステップS4で排除しており、糸長表示Xが10.0mよりも大であると判定すると、CPUは、スプール11の動きは誘い動作であるとしてステップS5に移行し、前回の糸長設定値(船べり停止位置)を保持するようになっている。
【0022】
そして、ステップS4で糸長表示Xが10m以下であると判定すると、スプール11の繰出し方向の回転は仕掛け投入動作であるとしてステップS6に移行し、CPUは、スプール11が繰出し回転開始点から連続して何回転したかを、回転検出手段29から取り込まれるスプール11の回転パルス信号を基に判定する。
既述したようにROMには、「所定回転条件」として「10回転以上繰出し方向へ連続回転」が設定,記憶されており、CPUはスプール11の回転パルス信号を基に、スプール11が10回転以上連続して繰出し方向へ回転したことを検出して「所定回転条件」に達したと判定すると、「釣人による仕掛けの投入開始」を確定し、また、未だ「所定回転条件」に達していないと判定すると、ステップS7に進んで前記基準糸長設定値を保持するようになっている。
【0023】
而して、斯様に「所定回転条件」に達したと判定すると、CPUはステップS8〜13に移行し、糸長表示Xが1.0m未満の場合、1.0mにモータ停止時のオーバーランを見込んで0.2mを加算した1.2mを糸長設定値(船べり停止位置)に設定し(ステップS8,9)、糸長表示Xが1.0m以上5.0m以下の場合は、表示値(糸長表示X)にオーバーランを見込んで0.2mを加算した値を糸長設定値(船べり停止位置)に設定するようになっている(ステップS10,11)。そして、糸長表示Xが5.0mよりも大きく10.0以下であるときに、CPUは、5.0mにオーバーランを見込んで0.2mを加算した5.2mを糸長設定値(船べり停止位置)として、RAMの基準糸長設定値を新たに書き換えて記憶していくようになっている(ステップS12,13)。
【0024】
そして、既述したように実釣時に図3及び図4のルーティンは繰り返され、糸長設定値は順次記憶されていくようになっている。
本実施形態はこのように構成されているから、例えば現在の糸長設定値(船べり停止位置)が2.0mに設定されている場合に、糸長表示X=3.0mで仕掛けを再投入してスプール11が10回転以上連続して繰出し方向へ回転すると、この仕掛けの再投入動作に連動して新たな「3.2m」が、再投入後の糸長設定値(船べり停止位置)として設定されることとなる(ステップS1〜8,S10,11)。
【0025】
従って、本実施形態によれば、再投入後の巻き上げ操作時の取り込み作業が、最適な繰出し長さで円滑且つ容易に行えることとなる。
また、本実施形態は、糸長設定値の設定に当たり、特に魚釣用電動リールに適用する場合、モータ停止時のオーバーランを見込んだ値を、基準となる糸長設定値に加算して自動停止する警報位置とすることにより、オーバーラン現象の影響を回避して、スプール駆動モータ13の駆動自動停止後に於ける取り込み作業を、糸長を調整することなく最適な繰出し長さで直ちに行える利点を有する。
【0026】
尚、上記実施形態は、仕掛けが所定の糸長設定値まで巻き上げられた処で、自動的にスプール駆動モータを停止させて巻き上げ停止を行う自動停止装置を備えた魚釣用電動リールに本発明を適用したが、仕掛けが糸長設定値まで巻き上げられた処で音や光,振動等でアラーム報知する手動の魚釣用リールに適用することも可能であり、この場合、オーバーラン加算値は省略される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】請求項1及び請求項2の一実施形態に係る魚釣用電動リールの平面図である。
【図2】魚釣用電動リールの制御ブロック図である。
【図3】魚釣用電動リールの動作を示すフローチャートである。
【図4】魚釣用電動リールの動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0028】
1 フレーム
3,5 側板
7 魚釣用電動リール
9 リール本体
11 スプール
13 スプール駆動モータ
15 ハンドル
19 パワーレバー
23 制御ボックス
25 マイクロコンピュータ
27 クラッチレバー
29 回転検出手段
31 ホール素子
35 操作パネル
37 表示器
39 リセットスイッチ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リール本体に回転可能に支持されたスプールと、
釣糸の繰出しや巻取りで回転する回転体の回転数と回転方向を検出する回転検出手段の検出値を基に糸長を計測する糸長計測手段と、
釣糸の巻取り操作時に於ける所定の糸長設定値を記憶した記憶手段と、
釣糸の繰出し後の巻取り操作時に、前記糸長計測手段で計測された計測値が前記糸長設定値に達した時に警報を発する警報手段とを備えた魚釣用リールに於て、
前記記憶手段に、スプールの釣糸繰出し方向の所定回転条件を設定,記憶すると共に、
当該所定回転条件の検出手段を備え、
当該検出手段が前記所定回転条件を検出したとき、スプールの繰出し回転開始点での糸長を前記糸長設定値として記憶していくことを特徴とする魚釣用リール。
【請求項2】
前記リール本体にスプールを巻取り駆動するスプール駆動モータを備え、
前記警報手段は、糸長計測手段で計測された計測値が糸長設定値に達した時に、スプール駆動モータの巻取り駆動を停止させる停止手段であることを特徴とする請求項1に記載の魚釣用リール。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−319143(P2007−319143A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−156529(P2006−156529)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(000002495)ダイワ精工株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】