説明

魚釣用リール

【課題】遠心ブレーキ方式のバックラッシュ防止装置を組み込んだ魚釣用リールにおいて、制動力が作用する際に、環状制動体に対して制動部材が安定して接触することを目的とする。
【解決手段】魚釣用リールは、リール本体1に回転自在に支持され釣糸が巻回されるスプール5aを装着したスプール軸5と共に一体的に回転する複数の制動部材21と、リール本体1に取り付けられた環状制動体23と、を有し、制動部材21を環状制動体23の制動面23aに摺接させることによって、スプール5aの回転に制動力を付与するバックラッシュ防止装置20を組み込んでいる。制動部材21は、中心に穴が形成され、その穴にスプール軸5から径方向に延びるピン軸25が挿通された状態でピン軸に沿って移動可能に保持されており、かつ、環状制動体23に対してピン軸25上で接触する凸形状を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚釣用リールに関し、特に、釣糸放出操作時におけるスプールの過回転を防止する制動装置を備えた魚釣用に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、魚釣用リール、特に、両軸受型リールには、キャスティング時及び実釣時のスプールの過回転を防止するための制動装置、いわゆるバックラッシュ防止装置が組み込まれており、このようなバックラッシュ防止装置として、例えば、特許文献1に開示されているような遠心ブレーキ方式が知られている。
【0003】
一般的な遠心ブレーキ方式のバックラッシュ防止装置は、特許文献1に開示されているように、リール本体側に固定された環状制動体に対して、スプールと共に回転する制動部材を当接させることによって、スプールの回転に対して所望の制動力を発生させる構成となっている。具体的には、前記制動部材の中心には、貫通孔が形成されており、制動部材は、前記貫通孔にスプール軸から径方向外方に延びるピン軸が挿入されることでピン軸方向に移動可能に保持されており、スプール軸が回転することで、制動部材は、ピン軸方向の外方に移動して環状制動体に摺接するようになっている。このため、スプール軸の回転速度が速くなれば、制動部材に対する遠心力が高まり、制動部材は、環状制動体の内周面に強い力で当接し、制動力が高められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平4−100383号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した構成の制動部材は、ピン軸が挿通するように、その中心部分に貫通孔が形成されているため、制動力が発生する際には、環状制動体の内周面に対して、貫通孔を中心とした両側が接触する状態(断面視した際に2点接触する状態)となる。一方、ピン軸と制動部材の貫通孔は、ピン軸に対する制動部材の摺動性を良くするために、適度な隙間が必要とされる。従って、制動部材が移動して環状制動体と摺接した際、制動部材はピン軸に対して傾きが発生し易く、貫通孔を中心として一方側が接触する(断面視した際に1点接触する)ようになる。この場合、接点は、ピン軸の中心(制動部材の貫通孔の中心)に対して少し離れた位置になってしまうことから、制動部材の姿勢が安定せずに暴れてしまい、これにより、振動や異音、ブレーキ効率の低下、スプール回転速度と制動力の関係が不安定、制動部材の偏った摩耗、等の原因となっている。
【0006】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、遠心ブレーキ方式のバックラッシュ防止装置を組み込んだ魚釣用リールにおいて、制動力が作用する際に、環状制動体に対して制動部材が安定して接触することが可能な魚釣用リールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本発明は、リール本体に回転自在に支持され釣糸が巻回されるスプールを装着したスプール軸と共に一体的に回転する複数の制動部材と、前記リール本体に取り付けられた環状制動体と、を有し、前記制動部材を環状制動体の制動面に摺接させることによって、スプールの回転に制動力を付与するバックラッシュ防止装置を組み込んだ魚釣用リールであって、前記制動部材は、中心に穴が形成され、その穴に前記スプール軸から径方向に延びるピン軸が挿通された状態でピン軸に沿って移動可能に保持されており、かつ、前記環状制動体に対して前記ピン軸上で接触する凸形状を有することを特徴とする。
【0008】
上記した魚釣用リールの構成によれば、キャスティング操作時等、スプールが過回転すると、スプール軸に設けられるピン軸に沿って制動部材が移動し、リール本体に設けられた環状制動体の制動面に摺接して制動力が付与される。この場合、制動部材は、環状制動体に対してピン軸上で接触する凸形状を有していることから、実際にスプール軸が高速で回転して制動部材がピン軸に沿って径方向外方に移動して環状制動体に接触した際、制動部材の安定した接触状態が維持されるようになる。
【0009】
なお、上記した構成において、ピン軸上とは、ピン軸の径(ピン軸が円柱形状の場合、その直径)の範囲内の領域を意味しており、ピン軸の径の範囲内で接触可能な凸形状となっていれば良い。この場合、ピン軸の中心軸上で接触するような凸形状に形成されていることが好ましく、このような凸形状にすることで、制動部材は、より安定した状態を維持して環状制動体に接触することが可能となる。また、凸形状の表面(接触する部位)は、ピン軸の中心軸上で点接触するような湾曲面となっていることが好ましく、これにより、制動部材は、偏った摩耗が生じることも抑制される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、遠心ブレーキ方式のバックラッシュ防止装置を組み込んだ魚釣用リールにおいて、制動力が作用する際に、環状制動体に対して制動部材が安定して接触することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る魚釣用リールの一実施形態を示す図であり、内部構造を示す平面図。
【図2】バックラッシュ防止装置部分の拡大図。
【図3】図2に示す構成において、制動部材と環状制動体が接触する前の状態を示す図。
【図4】図2に示す構成において、制動部材と環状制動体が接触した状態を示す図。
【図5】ピン軸に対する制動部材の抜け止め状態を示す図。
【図6】制動部材の第1の変形例を示す図。
【図7】制動部材の第2の変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る魚釣用リールの実施形態について説明する。
図1から図5は、本発明に係る魚釣用リールの一実施形態を示す図であり、図1は内部構造を示した平面図、図2はバックラッシュ防止装置部分の拡大図、図3は図2に示す構成において、制動部材と環状制動体が接触する前の状態を示す図、図4は図2に示す構成において、制動部材と環状制動体が接触した状態を示す図、そして、図5はピン軸に対する制動部材の抜け止め状態を示す図である。
【0013】
本実施形態に係る魚釣用リール(両軸受型リール)のリール本体1は、左右側板(左右カバー)2a,2bと、両側板2a,2bによって覆われた左右フレーム3a,3bと、を有している。前記両側板(左右フレーム)間には、スプール軸5が軸受7を介して回転自在に支持されており、スプール軸5には、釣糸が巻回されるスプール5aが一体的に装着されている。
【0014】
前記右フレーム3bから突出するスプール軸5の端部には、スプール軸5の軸方向に沿って移動可能なピニオンギヤ8が取り付けられている。このピニオンギヤ8は、図示しない公知の切換手段によって、スプール軸5と係合してスプール軸5と一体に回転する係合位置(動力伝達状態)と、スプール軸5との係合状態が解除される非係合位置(動力遮断状態)との間で移動される。また、ピニオンギヤ8には、ハンドル軸9に支持されたドライブギヤ10が噛合しており、ハンドル軸9の端部に装着されたハンドル9aを回転操作すると、前記ドライブギヤ10、及びピニオンギヤ8を介して、スプール軸5が回転駆動され、それに伴ってスプール5aが回転される。
【0015】
なお、前記ハンドル軸9とドライブギヤ10との間には、公知のドラグ機構12が設置されており、魚が掛かって釣糸が繰り出された場合等、スプール5aに対して所望の制動力を付与できるようになっている。
【0016】
前記左側板2a側には、釣糸放出操作(主にキャスティング操作)の際に、スプール5aの過回転を防止する制動装置(バックラッシュ防止装置)20が組み込まれている。このバックラッシュ防止装置20は、遠心力の作用によって、回転するスプール5aに対して制動力を付与する構成となっており、前記スプール軸5と共に一体的に回転する複数の制動部材21と、リール本体1に取り付けられた環状制動体23と、を有している。
【0017】
前記環状制動体23は、リング状に形成されており、リール本体1を構成する左側板2aの環状嵌合部2dに保持されている。なお、この環状嵌合部2dは、左フレーム3aに形成された開口3dに嵌まり込んで、左フレーム3aに対して左側板2aを位置決め固定する部分であり、前記複数の制動部材21は、そのように保持された環状制動体23の内周面(制動面)23aに摺接可能となっている。
【0018】
前記制動部材21は、本実施形態では2つ設けられており、スプール軸5に対して径方向に延出するように一体化された一対のピン軸25に対して、径方向に移動可能となるように保持されている。すなわち、前記一対のピン軸25は、スプール軸5に対して、直径方向に延出するように圧入固定されており、各ピン軸25は、同一の構成で、制動部材21を移動可能に保持している。
【0019】
具体的には、前記ピン軸25は、円柱形状で、環状制動体23の内周面23aの近傍まで延出しており、その先端に、前記制動部材21が軸方向に沿って移動可能に保持されている。前記制動部材21の中心には、ピン軸25が挿通されるように、ピン軸に対して多少の遊度を持って穴21aが形成されており、本実施形態の制動部材21は、ピン軸25に対して抜け止めされた状態で軸方向に移動可能に保持されている。
【0020】
前記制動部材21は、例えば、ポリアミドやポリアセタール等の合成樹脂によって形成されており、その外形状は、環状制動体23に対してピン軸25上で接触する凸形状を有している。本実施形態の凸形状は、ピン軸25の中心軸X上で接触する尖った形状となっており、その先端21bは、中心軸X上で接触するようなR面(湾曲面)によって構成されている。この場合、先端21bのR面は、環状制動体23の内周面23aの曲率半径に対して十分小さく形成されており、その曲率半径は、環状制動体23の内周面23aの曲率半径に対して1/10以下となるように形成しておくことが好ましい。このような接触関係にすることで、両者は略点状に接触(制動部材として1点で接触)する状態となる。
【0021】
また、本実施形態の制動部材21は、複数の部品、具体的には、前記穴21aが形成されると共に、前記湾曲面で構成された先端21bを有する内側部品21Aと、このような内側部品21Aに対して被着される円筒状の外側部品21Bによって構成されている。外側部品21Bには、前記ピン軸25が挿通される貫通孔21f、及び、前記内側部品21Aの円筒部21cを圧入して固定した際、径方向内側に突出するように抜け止め部21gが形成されている。
【0022】
このように、制動部材21を複数の部品によって構成することで、ピン軸25に形成されたフランジ部25aに係合する抜け止め部21gを容易に設けることができ、制動部材21の脱落を防止(制動部材21の紛失を防止)することが可能となる(図5参照)。
【0023】
上記した魚釣用リールの構成によれば、キャスティング操作時等、スプール5aが過回転すると、図3に示す状態から図4に示す状態のように、制動部材21は、スプール軸5に設けられるピン軸25に沿って移動し、環状制動体23の内周面23aに摺接してスプールに対して制動力が付与される。上記したように、制動部材21は、その先端21bが環状制動体23の内周面23aに対してピン軸25上(中心軸X上)で1点接触するような凸形状(湾曲面)を有していることから、内周面23aに接触した際、制動部材21は安定した接触状態が維持されるようになる。すなわち、制動部材21は、ピン軸25に対して遊度を持って保持されるものの傾きが発生することなく、図4に示すように、断面視した際、安定して1点接触が維持されるため、振動や異音、ブレーキ効率の低下、制動部材の偏った摩耗、等が抑制される。また、スプールの回転速度と制動力の関係も安定するようになる。
【0024】
また、上記した構成では、内周面23aに対する制動部材の摺接する面積を小さく(集中する)ことができるので、キャスティング時における振動音が軽減され、クリアーな軽快音が得られる。また、これに伴って制動力の増加も図れるため、本実施形態のように、制動部材21を、スプール軸5を対称として2つ設けるだけで十分な制動力が得られ、部品点数の削減が図れると共に、制動力の調整も容易に行えるようになる(制動力の設定が簡素化される)。
【0025】
さらに、上記したように、制動部材21は複数の部品で構成することも可能であることから、例えば、図6に示すように、外側部品21Bを多少、肉厚にすることで制動部材21の重量を容易に増加(調整)することができる。すなわち、重量付加によって遠心力が大きくなり、より大きい制動力が得られるため、例えば、図1及び図2に示したように、制動部材21の数を減らすことも可能となる。
【0026】
なお、制動部材21を複数の部品で構成する場合、その組み合わせ状態については適宜変形することが可能である。例えば、図7に示すように、円筒状で貫通孔21hが形成された円筒部品21C、円筒部品21Cの先端側に被着される先端部品21D、円筒部品21Cの基端側に被着される基端部品21Eの3つの部品によって構成することが可能である。この場合、先端部品21Dには、前記湾曲面で構成された先端21bが形成されており、基端部品21Eには、図3から図6に示した構成と同様、径方向内側に突出するように抜け止め部21gが形成されている。また、3つの部品21C〜21Eは、一体化されることで、中心に穴21aを有する制動部材21となり、その穴にピン軸25が挿通された状態でピン軸25に沿って移動可能に保持される。
【0027】
このような構成によれば、円筒部品21Cを異種金属、例えば、比重の重い金属にすることができ、これにより、容易に制動力を調整することが可能となる。
【0028】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記した実施形態に限定されることはなく、種々変形することが可能である。例えば、制動部材21は、ピン軸25の径D(図3参照)の範囲内の領域で、内周面23aに対して、より広い面で接触するような凸形状となっていても良い。或いは、ピン軸25の径の範囲内の領域で、ピン軸25の中心軸Xを中心としてリング状に接触するような凸形状であっても良い。或いは、図4で示すような点接触するのではなく、紙面と垂直方向に沿って線接触するような構成であっても良い。
【0029】
また、上記した制動部材21は、ピン軸25に対して抜け止めされることなく保持される構成であっても良い。これにより、制動部材やピン軸の加工を容易に行うことが可能となる。また、制動部材21は、単一体として構成しても良く、スプール軸に対して3つ以上設けられていても良い。さらに、環状制動体23については、傾斜面を有する構成であっても良く、リール本体1に対する装着方法についても適宜変形することが可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 リール本体
5 スプール軸
5a スプール
20 制動装置(バックラッシュ防止装置)
21 制動部材
21a 穴
21b 先端
23 環状制動体
23a 内周面(制動面)
25 ピン軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リール本体に回転自在に支持され釣糸が巻回されるスプールを装着したスプール軸と共に一体的に回転する複数の制動部材と、前記リール本体に取り付けられた環状制動体と、を有し、前記制動部材を環状制動体の制動面に摺接させることによって、スプールの回転に制動力を付与するバックラッシュ防止装置を組み込んだ魚釣用リールであって、
前記制動部材は、中心に穴が形成され、その穴に前記スプール軸から径方向に延びるピン軸が挿通された状態でピン軸に沿って移動可能に保持されており、かつ、前記環状制動体に対して前記ピン軸上で接触する凸形状を有することを特徴とする魚釣用リール。
【請求項2】
前記制動部材は、複数の部品から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の魚釣用リール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−157332(P2012−157332A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21025(P2011−21025)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000002495)グローブライド株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】