説明

魚釣用電動リール

【課題】動力伝達状態の切換えをスムーズ、かつ確実に行うことができる魚釣用電動リールを提供する。
【解決手段】速度切換スイッチ60の操作に連動して作動する切換部材50と、機械式変速装置210に備わる変速用回転体219と、を備え、切換部材50は、変速用回転体219に非係合状態となる第1の位置から変速用回転体219に係合する第2の位置に向けて付勢手段により回動可能に付勢されており、第1の位置には、切換部材50に反発力を付与する反発部材55が配置されており、反発部材55は、速度切換スイッチ60の操作により第1の位置から第2の位置に向けて回動した切換部材50が、変速用回転体219の被係合部に弾かれて第1の位置に跳ね返ったときに、第2の位置へ向けた反発力を切換部材50に付与する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚釣用電動リールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、魚釣用電動リールにおける変速は、主として電動モータの電流の流量を制限することで行われている。ところで、電動モータの出力は、電流値に比例することとなるので、例えば、ギヤ比を高速巻取りが可能となるように設定しておくと、低速回転時に電動モータのトルク不足が生じてしまう。
また、電動モータの最高回転数は、ある程度限界があるので、低速回転時のトルク不足を補うべくギア比を低く設定した場合には、高速巻取りができなくなるので、仕掛けの回収に非常に時間がかかってしまう。
このように、一種類のギヤ比の設定では、状況によって無理が生じてしまうことがある。
【0003】
そこで、特許文献1のように、魚釣用電動リールの電動モータからの駆動力伝達部に遊星歯車機構を用いて、ギヤ比の異なる二種類の歯車結合部を有する変速切換部を用いた技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3159637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、魚釣用電動リールに用いられる電動モータは、より高性能化しており、回転速度も高くなってきている。そのため、特許文献1に開示された変速切換部では、例えば、切換部材の係合により遊星歯車機構の動力伝達状態を切換えるシンプルな構成とした場合には、電動モータの高性能化により高速で回転する被係合部に切換部材をうまく係合させることができないおそれがある。
具体的には、速度切換スイッチの操作後に、動力伝達状態がすぐに切換わらなかったり、切換えの最中に異音が発生する等の現象を生じるおそれがあった。
【0006】
本発明は、動力伝達状態の切換えをスムーズ、かつ確実に行うことができる魚釣用電動リールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決する本発明の魚釣用電動リールは、リール本体に回転可能に支持されたスプールを巻取り駆動する電動モータと、前記スプールの駆動系に装着され、当該スプールへの前記電動モータの動力伝達状態を、高速動力伝達状態と低速動力伝達状態とに切換え可能な遊星歯車機構を有する機械式変速装置と、前記リール本体に設けられた速度切換スイッチと、前記速度切換スイッチの操作に連動して作動する切換部材と、前記機械式変速装置に備わり、前記切換部材の係合により回転を停止して当該機械式変速装置の動力伝達状態を切換える変速用回転体と、を備えた魚釣用電動リールであって、前記切換部材は、前記変速用回転体に非係合状態となる第1の位置から前記変速用回転体に係合する第2の位置に向けて付勢手段により回動可能に付勢されており、第1の位置には、前記切換部材に反発力を付与する反発部材が配置されており、前記反発部材は、前記速度切換スイッチの操作により第1の位置から第2の位置に向けて回動した前記切換部材が、前記変速用回転体の被係合部に弾かれて第1の位置に跳ね返ったときに、第2の位置へ向けた反発力を当該切換部材に付与することを特徴とする。
【0008】
この魚釣用電動リールによれば、速度切換時に、速度切換スイッチを操作すると、この操作に連動して、切換部材が第1の位置から第2の位置に向けて回動し、変速用回転体の被係合部に係合する。これにより、変速用回転体の回転が停止して機械式変速装置の動力伝達状態が切換えられる。このような切換時に、第1の位置から第2の位置に向けて回動した切換部材が、変速用回転体の被係合部に弾かれて第1の位置に跳ね返される現象が生じると、第1の位置に配置された反発部材に対して切換部材が勢いよく当接し、反発部材により、第2の位置へ向けた反発力が切換部材に付与される。これにより、切換部材が勢いを増して第2の位置に向けて回動し、これが変速用回転体の被係合部に(即座に)係合する確率が高くなる。
【0009】
また、本発明は、前記反発部材は、前記リール本体を形成する材料よりも弾性率の高い材料からなることを特徴とする。
【0010】
この魚釣用電動リールによれば、リール本体を形成する材料よりも弾性率の高い材料からなる反発部材によって、第2の位置へ向けた大きな反発力を切換部材に付与することができる。
【0011】
また、本発明は、前記変速用回転体には、前記切換部材に噛み合う爪部が周部に一箇所のみ設けられていることを特徴とする。
【0012】
この魚釣用電動リールによれば、変速用回転体が高速で回転している場合にも、爪部が切換部材の近傍を通過してから次に通過するまでの時間(一周する時間)を、周部の複数箇所に爪部が設けられている場合に比べて長くとることができる。
【0013】
また、本発明は、前記変速用回転体に、回転バランス調整用の質量調整部が設けられていることを特徴とする。
【0014】
この魚釣用電動リールによれば、切換部材が係合する被係合部(爪部)の存在により変速用回転体の回転バランスが崩れ易くなっていても、そのバランスの崩れを、質量調整部によって好適に吸収することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、第1の位置から第2の位置に向けて回動した切換部材が、変速用回転体の被係合部に弾かれて第1の位置に跳ね返される現象が生じたとしても、反発部材により切換部材が勢いを増して変速用回転体に向けて回動し、変速用回転体の被係合部に係合する確率が高くなるので、変速用回転体の回転が好適に停止するようになり、機械式変速装置の動力伝達状態が好適に切換えられるようになる。したがって、従来のように、速度切換スイッチの操作後に、動力伝達状態がすぐに切換わらなかったり、切換えの最中に異音が発生する等の現象が生じ難くなり、動力伝達状態の切換えをスムーズ、かつ確実に行うことができるようになる。
【0016】
また、反発部材が、リール本体を形成する材料よりも弾性率の高い材料からなる構成では、反発部材によって、第2の位置へ向けた大きな反発力を切換部材に付与することができるので、切換部材が、より勢いを増して変速用回転体に向けて回動することとなり、変速用回転体の被係合部に係合する確率がより高まる。したがって、機械式変速装置の動力伝達状態がより一層確実に切換えられるようになり、動力伝達状態の切換えをスムーズ、かつ確実に行うことができる。
なお、反発部材は、切換部材を形成する材料と同系の材料とすることにより、両者の固有振動数を近付け易くなり、より反発力を高めることが可能となる。
【0017】
また、変速用回転体に、切換部材に噛み合う爪部が周部に一箇所のみ設けられている構成では、変速用回転体が高速で回転している場合にも、爪部が切換部材の近傍を通過してから次に通過するまでの時間(一周する時間)を、複数箇所に爪部が設けられている場合に比べて長くとることができるので、変速用回転体の爪部に対して係合する確率がより高くなる。したがって、機械式変速装置の動力伝達状態がより一層確実に切換えられるようになり、動力伝達状態の切換えをスムーズ、かつ確実に行うことができる。
【0018】
また、変速用回転体に、回転バランス調整用の質量調整部が設けられている構成では、変速用回転体の回転バランスが崩れ易くなっていても、そのバランスの崩れを、質量調整部によって好適に吸収することができるので、変速用回転体のスムーズな回転を実現することができ、変速用回転体に振動等が生じるのを好適に防止することができる。これにより、機械式変速装置の動力伝達状態がより一層確実に切換えられるようになり、動力伝達状態の切換えをスムーズ、かつ確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る魚釣用電動リールを示す図であり、(a)は正面図、(b)は上面図である。
【図2】(a)は左側面図、(b)は右側面図である。
【図3】(a)は左フレームに装着される部材を示した側面図、(b)は右フレームに装着される部材を示した側面図である。
【図4】内部構造を示す説明図である。
【図5】第1の減速機構を示す拡大断面図である。
【図6】(a)は速度切換スイッチと切換部材の支持構造を示す説明図、(b)は要部の右側面図である。
【図7】(a)〜(f)は作用説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る魚釣用電動リールの実施形態について図面を参照して説明する。ここで、以下の説明において、「前後」「左右」「上下」を言うときは、図1に示した方向を基準とする。
【0021】
図1(a)(b)に示すように、魚釣用電動リールは、フレーム2と、このフレーム2を覆うように配設される側板3と、を備えたリール本体1を有している。リール本体1の上面前部には、表示手段としてのカウンターケース8が配置されている。
【0022】
フレーム2は、リール本体1の骨格をなす部分であり、左フレーム2a、右フレーム2b、およびスプール5の前方に配設される前フレーム2c(図1(a)、図4参照)を備えてなる。これらの左フレーム2a、右フレーム2b、前フレーム2cは、全体として一体に形成されている。なお、各左フレーム2a、右フレーム2b、前フレーム2cを別体に形成して、固定手段等により一体化してもよいし、部分的に一体に形成してもよい。
【0023】
左右フレーム2a,2bは、複数の図示しない支柱を介して一体化されており、図1(a)に示すように、下方の支柱2dには、図示しない釣竿のリールシートに装着されるリール脚2eが設けられている。
このような左右フレーム2a,2b、前フレーム2cからなるフレーム2は、例えば、アルミニウム合金、マグネシウム合金等の金属材で形成することができる。
【0024】
側板3は、左フレーム2aを覆う左側板3aと、右フレーム2bを覆う右側板3bと、前フレーム2cを覆う前板3cと、を備え、釣人の手によって握持されたり、保持されたりする部分(釣人の手が接触する部分)となる。
左側板3a、右側板3b、および前板3cは、個々に一体形成されており、左フレーム2a、右フレーム2b、および前フレーム2cにそれぞれ装着されて、全体として一体化される。なお、左側板3a、右側板3b、および前板3cは、一体形成されていてもよいし、部分的に一体形成されて、全体として一体化されていてもよい。また、一部において、フレーム2を露出させた構成であってもよい。
【0025】
左側板3aには、図2(a)に示すように、巻取り操作される手動ハンドル7が設けられており、図4に示すように、左右フレーム2a,2b間には、釣糸が巻回されるスプール5が回転自在に支持されている。
また、スプール5の前方には、電動モータMが配置されており、スプール5は、手動ハンドル7の巻取り操作、および電動モータMの回転駆動によって、後記する駆動力伝達機構をなす第1の減速機構20(図4参照)等を介して釣糸巻取り方向に回転駆動される。
【0026】
スプール5は、図4に示すように、釣糸が巻回される釣糸巻回胴部5dを備えており、その両端には、巻回される釣糸を規制するフランジ5e,5fが形成されている。スプール5は、スプール軸5cに軸受5a,5bを介して左右側板3a,3b間に回転可能に支持されている。
【0027】
スプール5は、電動モータMの巻取り駆動、あるいは手動ハンドル7の巻取り操作で回転するように構成されており、スプール5には、第1の減速機構20および左フレーム2aに設けられた第2の減速機構40を介して駆動力が伝達されるようになっている。
第1の減速機構20は、右フレーム2b側に設けられており、電動モータMの出力を減速する。第1の減速機構20により減速された回転駆動力は、動力伝達部30を介してスプール軸5cに伝達される。
また、第2の減速機構40は、左フレーム2b側に設けられており、スプール軸5cの回転駆動力を減速してスプール5に伝達するようになっている。
【0028】
第1の減速機構20は、図5に示すように、電動モータMの出力軸(駆動軸)M1と右フレーム2bとの間に設置される遊星歯車機構200と機械式変速装置210とを備えている。
遊星歯車機構200は、出力軸M1に回り止め支持される(出力軸M1と一体回転する)太陽歯車201と、第1壁部202と第2壁部203と前フレーム2cで区画された収納部の内周に形成された内歯(金属材で別体形成して、前フレーム2c内に一体化することが好ましい)204と、この内歯204および太陽歯車201に噛合する複数の遊星歯車205とで構成されている。
【0029】
遊星歯車205は、支軸206を介して遊星歯車支持体207に回転可能に支持され、この遊星歯車支持体207は、ベアリング208を介して前フレーム2cに回転可能に支持されている。遊星歯車支持体207の内側には、後段に配置される機械式変速装置210における遊星歯車支持体211の基端部211aが固着されている。
【0030】
機械式変速装置210は、遊星歯車支持体207に接続されて回転する遊星歯車支持体211と、この遊星歯車支持体211に一方向クラッチ213kを介して接続される出力軸213と、出力軸213に一体的に設けられた内歯歯車214と、遊星歯車支持体211のカバー部211bに支軸215aを介して設けられた遊星歯車215と、を備え、内歯歯車214の内歯214aと遊星歯車215とが噛合するように設けられている。
また、遊星歯車215には、切換用歯車218が接続され、切換用歯車218には変速用回転体219が接続されている。
【0031】
遊星歯車支持体211は、第2壁部203にベアリング211cを介して回転可能に支持されており、遊星歯車支持体207の回転を受けて回転するようになっている。
【0032】
出力軸213は、左端の小径部213aが一方向クラッチ213kに支持され、右端213bが、右フレーム2b(図1(b)参照)に取り付けられた支持板2b1にベアリング216を介して回転可能に支持されている。
出力軸213の右端(出力端)には出力歯車217が固着されている。
【0033】
切換用歯車218は、出力軸213にベアリング218aを介して回転可能に支持されており、遊星歯車215により回転駆動されるようになっている。
【0034】
変速用回転体219は、後記する切換部材50(図3(b)参照)の係合により回転を停止して機械式変速装置210の動力伝達状態を切換える部材である。
変速用回転体219は、図3(b)に示すように、切換用歯車218に噛合する内歯歯車であり、その外周面には、径方向に突出する被係合部としての爪部230が設けられている。この爪部230に対して、右フレーム2bに支持された切換部材50の係合部52を係合させることで、変速用回転体219の回転が停止されるように構成されている。
爪部230は、変速用回転体219の周部に一箇所のみ設けられており、切換部材50の係合部52が係合する、鋭角に形成された角部230aを有している。
変速用回転体219には、爪部230の径方向内側となる部位に有底丸形の孔部231が形成されている。孔部231は、回転バランス調整用の質量調整部として機能する。なお、孔部231の大きさや形状は、回転バランスを考慮して適宜設定することができる。
【0035】
ここで、変速用回転体219が回転可能な状態、つまり、変速用回転体219に対して切換部材50が非係合とされている状態では、図5に示した切換用歯車218および遊星歯車215が回転可能となって、遊星歯車215に噛み合う内歯214aを介して出力軸213が低速で回転するようになっている。
また、変速用回転体219が回転を停止する状態、つまり、変速用回転体219に対して切換部材50が係合する状態では、切換用歯車218および遊星歯車215のうち切換用歯車218の回転が停止して、遊星歯車215に噛み合う内歯214aを介して出力軸213が高速で回転するようになっている。
【0036】
動力伝達部30は、図4に示すように、スプール軸駆動歯車31と、このスプール軸駆動歯車31と機械式変速装置210の出力歯車217との間に配置されて、これらに噛合する第1の連結歯車32と、第2の連結歯車33とで構成されている。なお、出力歯車217や、これらの第1の連結歯車32、第2の連結歯車33、スプール軸駆動歯車31を支持する支持板2b1は、右フレーム2bに沿ってフラットな形状とされている。
【0037】
また、第2の連結歯車33は、支持板2b1に支軸33aを介して取り付く一方向クラッチ33bの外輪に回り止め嵌合されて、一方向に回転可能に支持されており、手動ハンドル7の巻取り操作時に、一方向クラッチ33bの楔作用で第2の連結歯車33の回転が阻止されるようになっている。すなわち、電動モータM側へのハンドル7の駆動力が伝達不能とされており、その反力で手動ハンドル7の駆動力が、後記する第2の減速機構40からスプール5に伝達されてスプール5が巻取り方向に回転するようになっている。
【0038】
一方、スプール軸5cは、スプール5の中央を貫通してその左端側が左側板3a内に突出し、その突出端に、電動モータMの駆動力と手動ハンドル7の操作の回転力とをスプール5に伝達させる第2の減速機構40が装着されている。
【0039】
第2の減速機構40は、スプール軸5cの突出端に回り止め嵌合された太陽歯車41とこれに噛合する複数の遊星歯車42、スプール5の左端に装着された内歯歯車43を備え、内歯歯車43と太陽歯車41に遊星歯車42が噛合している。そして、遊星歯車42は支軸42aを介して遊星歯車支持体44に取り付けられており、遊星歯車支持体44はスプール5に取り付けたブラケット45に嵌合し、軸受5aを介してピニオン軸46に回転可能に支持されている。
【0040】
また、釣糸巻取り操作用の手動ハンドル7は、左側板3aに回動可能に挿着したハンドル軸7cの突出端に連結されており、ハンドル軸7cの挿入側先端にラチェット7dが固着され、さらにドライブギヤ7eが回転可能に取り付けられている。そして、ドライブギヤ7eとハンドル軸7cは、ハンドル軸7cに装着した周知のドラグ7fで摩擦結合されており、手動ハンドル7とともにハンドル軸7cに装着したドラグ力調節レバー7gの操作で、ドラグ7fのドラグ力が調節できるようになっている。
【0041】
そして、手動ハンドル7の巻取り操作時に、一方向クラッチ33bの楔作用でスプール軸駆動歯車31に噛合する連結歯車33の回転が阻止されるため、手動ハンドル7の回転力が第2の減速機構40からスプール5に伝達されて、スプール5が巻取り方向へ回転するようになっている。
【0042】
また、ラチェット7dには、図示しないばねで付勢された図示しない係止爪が係止しており、ラチェット7dにこの係止爪が係止してスプール5の逆転止めが図られている。そして、このラチェット7dに図示しないクラッチ復帰用突部が設けられて、手動ハンドル7の回転による周知のクラッチ復帰機構が構成されている。さらに、ハンドル軸7と左側板3aとの間に一方向クラッチ7hが装着されて、ハンドル軸7の逆転防止機構を構成している。
【0043】
そして、左フレーム2aの後部には、図3(a)に示すように、従来周知のクラッチ機構130が設けられている。クラッチ機構130は、スプール5に対する電動モータMや手動ハンドル7の回転駆動力を伝達、遮断する機構であり、回動自在に設けられたクラッチレバー131、振分けばね132で振り分けられたクラッチ駆動部材133、ピニオン134、ヨーク135等から構成されている。
【0044】
また、左フレーム2aの前部には、図3(a)に示すように、端部カバー140が装着されている。この端部カバー140は、予め一つのユニットとして構成されており、その内側には、整流子141(図4参照)に接触して電流を流すブラシや、このブラシを保持するブラシホルダ等が組み込まれている。ブラシホルダには、端子142が一体的に組み込まれており、リード線144を介して外部電源に接続されるようになっている。
【0045】
図3(a)に示すように、端部カバー140の上部には、速度切換スイッチ60が設けられている。速度切換スイッチ60は、機械式変速装置210の速度を切換えるためのスイッチであり、支軸61(固定ねじ)を中心として振分ばね62により前後方向に回動可能に支持されている。速度切換スイッチ60の後部には、長孔60aが形成されており、その長孔60aにピン63aが挿通されて、接続ロッド63の前端が連結されている。接続ロッド63の後端は、連結ロッド64に接続されている。
【0046】
連結ロッド64は、図6(a)に示すように、左右フレーム2a,2bに形成された挿孔2a2,2b2に挿通されて、軸回りに回動可能に支持されており、その右端には、作動部材65が取り付けられている。作動部材65は、連結ロッド64の回動により前後方向に回動可能に設けられており、前部には、図6(b)に示すように、フック部65aが形成されている。このフック部65aは、作動部材65の前方に配置されている切換部材50の後端突部51に係合可能となっている。
【0047】
ここで、速度切換スイッチ60を、図3(a)に示すように、矢印X1方向に回動操作する(前方向に押し込むように回動操作する)と、接続ロッド63の前端部が上動し、連結ロッド64が、図6(a)に示すように、軸回りに矢印X2方向に回動する。そうすると、図6(b)に示すように、作動部材65が連結ロッド64を中心として矢印X2方向に回動し、フック部65aが切換部材50の後端突部51から外れる(係合が解除される)ようになっている。
また、速度切換スイッチ60を、図3(a)に示すように、矢印X2方向に回動操作する(後方向に押し込むように回動操作する)と、接続ロッド63の後端部が下動し、連結ロッド64が、図6(a)に示すように、軸回りに矢印X1方向に回動する。そうすると、図6(b)に示すように、作動部材65が連結ロッド64を中心として矢印X1方向に回動し、フック部65aが切換部材50の後端突部51に係合する。
【0048】
切換部材50は、図6(a)(b)に示すように、右フレーム2bに装着された支軸部材53に支持されて右フレーム2bの右側面に回動可能に設けられている。切換部材50は、円筒状のボス部50aと、ボス部50aから後方へ向けて突設された後端突部51と、ボス部50aから前方へ向けて突設された係合部52と、を有しており、係合部52の回動軌跡上には、変速用回転体219が位置している。
後端突部51には、作動部材65のフック部65aが係脱可能であり、また、係合部52は、変速用回転体219の爪部230に係脱可能である。
なお、右側板3bの内側面には、ボス部3b1が設けられており、支軸部材53は、ボス部3b1の装着孔3b3に取り付けられた螺合部材3b2にカラー3b4を介して螺合されるようになっている。
【0049】
切換部材50には、ボス部50aの周りに付勢手段としてばね部材54が装着されている。切換部材50は、このばね部材54によって、変速用回転体219に非係合状態となる第1の位置(図7(a)参照)から変速用回転体219に係合する第2の位置(図6(b)参照)との間において、第1の位置から第2の位置に向け回動可能に付勢されている。
ここで、切換部材50は、その後端突部51に作動部材65のフック部65aが係合した状態で、第1の位置に保持されるようになっており、係合部52が変速用回転体219から離間して爪部230に対し非係合状態で保持されるようになっている。
一方、切換部材50は、その後端突部51から作動部材65のフック部65aが外れると(係合状態が解除されると)、ばね部材54により第1の位置から第2の位置に回動し、係合部52が変速用回転体219の周部(爪部230)に当接するようになっている。
また、作動部材65のフック部65aが後端突部51に係合することで、切換部材50は第2の位置から第1の位置に回動して戻されるようになっている。
【0050】
第1の位置において、切換部材50の係合部52の上側には、係合部52に当接可能に反発部材55が設けられている。反発部材55は、円柱状を呈しており、右フレーム2bに設けられた取付穴2b3に取り付けられ、右フレーム2bの側方へ突出されている。反発部材55は、リール本体1を形成する材料(例えば、アルミニウム合金)よりも弾性率の高い材料、例えば、ステンレス材(SUS303,304)、ベータチタン合金等からなり、後記するように、切換部材50が第1の位置に向けて弾かれた際に切換部材50に当接して、第2の位置へ向けた反発力を切換部材50に対して付与する役割をなす。
【0051】
次に、速度切換スイッチ60を操作した際の作用について説明する。
まず、速度切換スイッチ60が、図3(a)に示すように、矢印X2方向に回動操作された状態では、図7(a)に示すように、作動部材65のフック部65aが切換部材50の後端突部51に係合して、切換部材50が第1の位置に保持されている。これにより、変速用回転体219は回転可能であり、図5に示した切換用歯車218および遊星歯車215が回転可能となって、遊星歯車215に噛み合う内歯214aを介して出力軸213が低速で回転する。これにより、スプール5が低速で回転する。
【0052】
次に、速度切換スイッチ60が、図3(a)に示すように、矢印X1方向に回動操作されると、図7(b)に示すように、連結ロッド64を介して作動部材65が図中矢印X2方向に回動し、作動部材65のフック部65aが切換部材50の後端突部51から外れる。そうすると、ばね部材54の付勢力によって、切換部材50が図中矢印X3方向に回動し第1の位置から第2の位置に向けて移動する。これにより、図7(g)に示すように、切換部材50の係合部52が変速用回転体219の周部に当接して、回転してきた爪部230に係合する。これにより、変速用回転体219の回転が停止され、図5に示した遊星歯車215に噛み合う内歯214aを介して出力軸213が高速で回転する。これにより、動力伝達状態が切換えられてスプール5が高速で回転する。
【0053】
ここで、図7(c)に示すように、第1の位置から第2の位置に向けて回動した切換部材50が、変速用回転体219の爪部230に当接して弾かれて、図7(d)に示すように、第1の位置に跳ね返される現象が生じることがある。
このような現象が生じると、図7(e)に示すように、第1の位置に配置された反発部材55に対して切換部材50の係合部52が勢いよく当接する。そうすると、反発部材55により、第2の位置へ向けた反発力が切換部材50(係合部52)に付与されることとなり、図7(f)に示すように、切換部材50が勢いを増して第2の位置に向けて回動する。これにより、切換部材50が変速用回転体219の周部に当接する。
【0054】
したがって、図7(g)に示すように、回転によって係合部52に再び近付いてきた爪部230に、係合部52が確実に係合する。これにより、変速用回転体219の回転が停止され、図5に示した遊星歯車215に噛み合う内歯214aを介して出力軸213が高速で回転する。これにより、動力伝達状態が確実に切換えられてスプール5が高速で回転する。
【0055】
その後、速度切換スイッチ60が、図3(a)に示すように、矢印X2方向に回動操作されると、作動部材65が、図7(a)に示すように、矢印X1方向に回動し、フック部65aが後端突部51に係合する。これにより、切換部材50は第2の位置から第1の位置に回動して戻され、変速用回転体219が回転可能状態にされる。これにより、スプール5が再び低速で回転する。
【0056】
以上説明した本実施形態の魚釣用電動リールによれば、第1の位置から第2の位置に向けて回動した切換部材50が、変速用回転体219の爪部230に弾かれて第1の位置に跳ね返される現象が生じたとしても、反発部材55により切換部材50が(最初のばね付勢による回動に対し)勢い(速度)を増して変速用回転体219に向けて回動し、変速用回転体219の爪部230に即座に係合する確率が高くなるので、変速用回転体219の回転が好適に停止するようになり、機械式変速装置210の動力伝達状態が好適に切換えられるようになる。したがって、従来のように、速度切換スイッチ60の操作後に、動力伝達状態がすぐに切換わらなかったり、切換えの最中に異音が発生する現象が生じ難くなり、動力伝達状態の切換えをスムーズ、かつ確実に行うことができるようになる。
【0057】
また、反発部材55が、リール本体1を形成する材料よりも弾性率の高い材料からなるので、反発部材55によって、第2の位置へ向けた大きな反発力を切換部材50に付与することができ、切換部材50が、より勢いを増して変速用回転体219に向けて回動することとなる。これにより、変速用回転体219の爪部230に切換部材50が係合する確率がより高くなる。したがって、機械式変速装置210の動力伝達状態がより一層確実に切換えられるようになり、動力伝達状態の切換えをスムーズ、かつ確実に行うことができる。
なお、反発部材55を、切換部材50を形成する材料と同系の材料とすることにより、両者の固有振動数を近付け易くなり、より反発力を高めることが可能となる。
【0058】
また、変速用回転体219には、切換部材50に噛み合う爪部230が周部に一箇所のみ設けられているので、変速用回転体219が高速で回転している場合にも、爪部230が切換部材50の近傍を通過してから次に通過するまでの時間(一周する時間)を、複数箇所に爪部230が設けられている場合に比べて長くとることができ、変速用回転体219の爪部230に対して係合する確率(爪部230が高速回転する係合部52間に入り込む確率)がより高くなる。したがって、機械式変速装置210の動力伝達状態がより一層確実に切換えられるようになり、動力伝達状態の切換えをスムーズ、かつ確実に行うことができる。
【0059】
また、変速用回転体219に、回転バランス調整用の孔部231が設けられているので、変速用回転体219の回転バランスが崩れ易くなっていても、そのバランスの崩れを、孔部231によって好適に吸収することができる。したがって、変速用回転体219のスムーズな回転を実現することができ、変速用回転体219に振動等が生じるのを好適に防止することができる。これにより、機械式変速装置210の動力伝達状態がより一層確実に切換えられるようになり、動力伝達状態の切換えをスムーズ、かつ確実に行うことができる。
【0060】
前記爪部230の形状は、切換部材50の係合部52が係合することができるものであればよく、鉤形形状等、種々の形状のものを採用することができる。
変速用回転体219に設ける爪部230の周方向の長さ(幅)は、爪部230が高速回転する係合部52間に入り込む時間を長くするためには、短くするのが好ましく、全周に対し10%以下(36°以下)の範囲が好ましい。特に好ましくは、変速用回転体219を本体部材(フレーム2等)より高強度材料を用いて5%以下(18°以下)の範囲とするのがよい。なお、あまり短くしすぎると耐久性に問題が生じるおそれがあり、0.5%以上が好ましい。
【0061】
また、反発部材55は、円柱状を呈するものを示したが、これに限られることはなく、円筒状や板状等、種々の形状のものを採用することができる。
本発明は、電動モータMの回転数が高いとき(高性能電動モータの使用や電動モータの出力を大きくしたとき)に、特に有効である。
【符号の説明】
【0062】
1 リール本体 60 速度切換スイッチ
2 フレーム 219 変速用回転体
5 スプール 210 機械式変速装置
M 電動モータ 230 爪部(被係合部)
50 切換部材 231 孔部(質量調整部)
55 反発部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リール本体に回転可能に支持されたスプールを巻取り駆動する電動モータと、
前記スプールの駆動系に装着され、当該スプールへの前記電動モータの動力伝達状態を、高速動力伝達状態と低速動力伝達状態とに切換え可能な遊星歯車機構を有する機械式変速装置と、
前記リール本体に設けられた速度切換スイッチと、
前記速度切換スイッチの操作に連動して作動する切換部材と、
前記機械式変速装置に備わり、前記切換部材の係合により回転を停止して当該機械式変速装置の動力伝達状態を切換える変速用回転体と、を備えた魚釣用電動リールであって、
前記切換部材は、前記変速用回転体に非係合状態となる第1の位置から前記変速用回転体に係合する第2の位置に向けて付勢手段により回動可能に付勢されており、
第1の位置には、前記切換部材に反発力を付与する反発部材が配置されており、
前記反発部材は、前記速度切換スイッチの操作により第1の位置から第2の位置に向けて回動した前記切換部材が、前記変速用回転体の被係合部に弾かれて第1の位置に跳ね返ったときに、第2の位置へ向けた反発力を当該切換部材に付与することを特徴とする魚釣用電動リール。
【請求項2】
前記反発部材は、前記リール本体を形成する材料よりも弾性率の高い材料からなることを特徴とする請求項1に記載の魚釣用電動リール。
【請求項3】
前記変速用回転体には、前記切換部材に噛み合う爪部が周部に一箇所のみ設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の魚釣用電動リール。
【請求項4】
前記変速用回転体には、回転バランス調整用の質量調整部が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の魚釣用電動リール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−27318(P2013−27318A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163637(P2011−163637)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000002495)グローブライド株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】