説明

魚類のエドワジェラ症及び連鎖球菌症用ワクチン

【課題】魚類のエドワジェラ症及び連鎖球菌症ワクチンの提供。
【解決手段】(A)エドワジェラ・タルダの対象魚類由来株の不活化菌体、(B)前記対象魚類以外の魚類由来のエドワジェラ・タルダの不活化菌体であって、(A)が定型エドワジェラ・タルダである場合は非定型エドワジェラ・タルダの不活化菌体を、逆の場合は定型エドワジェラ・タルダの不活化菌体を含有する対象魚類のエドワジェラ症用ワクチン、又はこれらに加えて(C)ストレプトコッカス・イニエ及び/又はストレプトコッカス・パラウベリスの不活化菌体を含有する魚類のエドワジェラ症及び/又は連鎖球菌症用ワクチン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類のエドワジェラ症用ワクチン及び連鎖球菌症用ワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、魚類の養殖漁業は著しく発展したが、それに伴ってウイルス病や細菌病が多発し、大きな経済的被害をもたらしている。
【0003】
このうち、細菌病の治療薬としては、抗生物質や合成抗菌剤が用いられているが、このような抗菌性物質に対して耐性菌が出現しており、充分な治療効果が得られていない。また、治療薬として用いる薬剤の魚体内残留による公衆衛生上の問題が生じており、抗菌性物質に依存しない魚病対策の確立が強く望まれている。
【0004】
かかる観点から、ワクチンの開発は重要である。ウイルス病については、ブリ、カンパチ、マダイなどのイリドウイルス病による被害が大きかったが、これらのウイルス病に対するワクチンが市販されたことによって病気の発生が少なくなっている。細菌病については、ブリの連鎖球菌症、ヒラメの連鎖球菌症、ヒラメのエドワジェラ症、タイのエドワジェラ症などによる被害が大きい。このうち、ブリの連鎖球菌症に対しては、ワクチンが開発されたことによって、病気の発生率が減少しはじめている。
【0005】
ところが、ヒラメやタイの細菌病に対するワクチンは、未だ充分とは言えない。すなわち、経済的被害の大きなヒラメのエドワジェラ症については、古くからワクチンの開発が試みられてきた(非特許文献1)。しかし、病原菌であるエドワジェラ・タルダ(Edwardsiella tarda)のヒラメ由来株のホルマリン死菌をワクチンとして投与すると、ヒラメの血液中に抗体が産生され、白血球が盛んにE. tardaを貪食するものの、白血球による殺菌作用に対して病原菌が抵抗し、白血球内で生存し続けるために、ワクチンによる予防効果は認められず、今日に到るまで有効なワクチンは開発されていない。また、同様の理由により、タイのエドワジェラ症についても、ワクチンが開発されていない。
【0006】
一方、ヒラメの連鎖球菌症は、ストレプトコッカス・イニエ(Streptococcus iniae)、ストレプトコッカス・パラウベリス(S. parauberis)、及びラクトコッカス・ガルビエ(Lactococcus garvieae)によって起る病気の総称であり、ストレプトコッカス・イニエ感染症に対するワクチンが開発された現在においては、ストレプトコッカス・パラウベリスによる連鎖球菌症が多発し、大きな被害をもたらしており、完全なワクチンの開発が望まれている。また、養殖現場におけるエドワジェラ症と連鎖球菌症とが混合感染症として同時に発生することが多いことから、これらの二疾病に対して的確な効果を発揮する混合ワクチンの開発が期待されている。
【非特許文献1】馬久地ら;魚病研究、30(4)、251−256:1995
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、ヒラメやタイ等の魚類のエドワジェラ症に有効なワクチン及び連鎖球菌症に有効なワクチンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者は、エドワジェラ・タルダのヒラメ由来の不活化菌体に、マダイ、チダイなどの魚類由来の非定型エドワジェラ・タルダの不活化菌体を混合してヒラメに投与したところ、そのヒラメから分離したマクロファージとリンパ球の混在下において、エドワジェラ・タルダのヒラメ由来株の生菌をマクロファージが貪食するだけでなく、速やかに殺滅することを見出した。また、これらのワクチンを投与したヒラメをエドワジェラ・タルダで攻撃したところ、高い防御効果を有することを見出した。さらに、このワクチンに、ストレプトコッカス・イニエ及び/又はストレプトコッカス・パラウベリスの全体を併用すれば、ヒラメのエドワジェラ症と連鎖球菌症に有効な混合ワクチンが得られることも見出した。さらに、ヒラメだけでなく、タイ、その他の魚類でも、エドワジェラ・タルダの対象魚類の不活化菌体に、定型又は非定型エドワジェラ・タルダの不活化菌体を混合して投与すると、対象魚類のエドワジェラ・タルダに対する高い防御効果が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、(A)エドワジェラ・タルダの対象魚類由来株の不活化菌体、並びに(B)前記対象魚類以外の魚類のエドワジェラ・タルダの不活化菌体であって、(A)が定型エドワジェラ・タルダである場合は非定型エドワジェラ・タルダの不活化菌体を、逆の場合は定型エドワジェラ・タルダの不活化菌体を含有する対象魚類のエドワジェラ症用ワクチンを提供するものである。
【0010】
また、本発明は、(A)エドワジェラ・タルダの対象魚類由来株の不活化菌体、(B)前記対象魚類以外の魚類のエドワジェラ・タルダの不活化菌体であって、(A)が定型エドワジェラ・タルダである場合は非定型エドワジェラ・タルダの不活化菌体を、逆の場合は定型エドワジェラ・タルダの不活化菌体、並びに(C)ストレプトコッカス・イニエ及び/又はストレプトコッカス・パラウベリスの不活化菌体を含有する対象魚類のエドワジェラ症及び/又は連鎖球菌症用ワクチンを提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
現在、養殖魚類に多くの感染症が発生し、甚大な経済的被害をもたらしており、本発明のワクチンを用いれば、ワクチンが開発されていなかった魚類のエドワジェラ症が確実に予防できる。また、本発明のワクチンを用いれば、魚類のエドワジェラ症と連鎖球菌症の混合感染に対しても確実に予防できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の魚類のエドワジェラ症用ワクチンは、(A)エドワジェラ・タルダの対象魚類由来株の不活化菌体と、(B)前記対象魚類以外の魚類由来のエドワジェラ・タルダの不活化菌体であって、(A)が定型エドワジェラ・タルダである場合は非定型エドワジェラ・タルダの不活化菌体を、逆の場合は定型エドワジェラ・タルダの不活化菌体とを含有するものである。ここで対象魚類とは、ワクチン投与の対象となる魚類を意味する。
【0013】
本発明において対象魚類としては、エドワジェラ・タルダに感染する魚類であれば特に制限されないが、ヒラメ、ウナギ、ナマズ、テラピア等の定型エドワジェラ・タルダに感染する魚類、及びタイ、チダイ、ブリ等の非定型エドワジェラ・タルダに感染する魚類の養殖対象魚類が挙げられる。このうち、エドワジェラ・タルダによる感染被害の大きいヒラメ、ウナギ、ナマズ、タイが好ましい。
【0014】
本発明において、定型エドワジェラ・タルダとは、鞭毛(周毛)を持ち、運動性のある菌であり、ヒラメ、ウナギ、ナマズ、テラピアに感染することが知られている。一方、非定型エドワジェラ・タルダとは、エドワジェラ・タルダに分類されているが、鞭毛(周毛)を持たず、運動性がない点で、定型エドワジェラとは相違する菌であり、マダイ、チダイ、ブリ等に感染することが知られている。
【0015】
本発明において、ヒラメには、ヒラメ・カレイ類に属するカレイ目・カレイ亜目の養殖対象魚類が含まれる。具体的には、ヒラメ(Paralichthys olivaceus),ターボット(Scophthalmus maximus),マツカワ(Verasper moseri),ホシガレイ(Verasper variegatus)などが含まれる。また、タイには、スズキ目、スズキ亜目、タイ科の養殖魚類が含まれる。具体的には、マダイ(Pagus major)、クロダイ(Acanthopagrus schlegeli)、チダイ(Evynnis japonica)、キダイ(Taius fumifrons)などが含まれる。また、テラピアには、ナイルテラピア(Oreochromis niloticus)、テラピアモザンビカ(Oreochromis mossambicus)、レッドテラピア(O. mossambicusとO. urolepis hornorumの交配種)が、ブリにはブリ(Seriola quinqueradiata)、カンパチ(Seriola dumerili)、ヒラマサ(Seriola lalandi)が、ウナギにはニホンウナギ(Anguilla japonica)、ヨーロッパウナギ(Anguilla anguilla)が、ナマズにはアメリカナマズ(Ictalurus punctatus)等が含まれる。
【0016】
(A)エドワジェラ・タルダの対象魚類由来株としては、エドワジェラ・タルダに感染した対象魚類から常法に従って分離したものが挙げられる。例えば(A)エドワジェラ・タルダのヒラメ由来株としては、OA−3株、EH−5株、UH−2株等が挙げられる。また、エドワジェラ・タルダのマダイ由来株としては、UT−1株、UT−4株、YK−1株等が挙げられる。エドワジェラ・タルダのウナギ由来株としては、NES−2株、SE−6株が挙げられる。
【0017】
これらのエドワジェラ・タルダの対象魚類由来株の不活化菌体としては、ホルマリン処理死菌体、加熱処理死菌体、フェノール処理死菌体、紫外線照射死菌体等が挙げられるが、ホルマリン処理死菌体が好ましい。ホルマリン処理は、通常菌体含有液に対して、0.3〜0.7%となるようにホルマリンを添加すればよい。
【0018】
(A)エドワジェラ・タルダの対象魚類由来株の不活化菌体は、108〜1011 CFU/mLの濃度とするのが好ましい。
【0019】
(B)前記対象魚類以外の魚類由来のエドワジェラ・タルダの不活化菌体であって、(A)が定型エドワジェラ・タルダである場合は非定型エドワジェラ・タルダの不活化菌体を、逆の場合は定型エドワジェラ・タルダの不活化菌体とは、例えば対象魚類がヒラメの場合は(A)は定型エドワジェラ・タルダであるので、(B)は非定型のエドワジェラ・タルダの不活化菌体であればよく、例えばタイ由来のエドワジェラ・タルダの不活化菌体でよい。対象魚類がタイの場合には、(A)は非定型エドワジェラ・タルダであるので、(B)は定型のエドワジェラ・タルダの不活化菌体であればよく、例えばヒラメ由来のエドワジェラ・タルダの不活化菌体でよい。これらはエドワジェラ・タルダに感染した魚類から常法に従って分離して得られる。当該株の不活化方法は、前記エドワジェラ・タルダの対象魚類由来株の場合と同様である。
【0020】
(B)のエドワジェラ・タルダの不活化菌体は、108〜1011 CFU/mLとするのが好ましい。
【0021】
また、(A)エドワジェラ・タルダの対象魚類由来株の菌数と(B)のエドワジェラ・タルダの菌数とは、(A):(B)=1:0.1〜1、特に1:0.5〜1が好ましい。
【0022】
本発明の魚類のエドワジェラ症及び/又は連鎖球菌症ワクチンは、前記の(A)及び(B)の不活化菌体に加えて、(C)ストレプトコッカス・イニエ及び/又はストレプトコッカス・パラウベリスの不活化菌体を含有する。当該ワクチンの場合には、(A)がエドワジェラ・タルダのヒラメ由来の不活化菌体であり、(B)が非定型エドワジェラ・タルダの不活化菌体であるのが好ましい。すなわち、ヒラメのエドワジェラ症及び/又は連鎖球菌症用ワクチンであるのが好ましい。
【0023】
ストレプトコッカス・イニエの不活化菌体としては、一般に入手可能な菌株、例えばKH−2株、ES−1株、MK−1株、EY−5株等の不活化菌体を用いることができる。また、ストレプトコッカス・パラウベリスの不活化菌体としては、一般に入手可能な菌株、例えばAM−1株、AM−4株、AK−3株、US−6株等の不活化菌体を用いることができる。これらの菌株の不活化方法は前記エドワジェラ・タルダの対象魚類由来株と同様である。
【0024】
これらのストレプトコッカス・イニエの不活化菌体とストレプトコッカス・パラウベリスの不活化菌体とは併用するのが好ましい。これらの不活化菌体は、それぞれ108〜1011 CFU/mLとするのが好ましい。
【0025】
魚類のエドワジェラ症及び/又は連鎖球菌症用のワクチンとしては、(A)エドワジェラ・タルダの対象魚類由来株と、(B)前記(B)のエドワジェラ・タルダの不活化菌体と、(C1)ストレプトコッカス・イニエ及び(C2)ストレプトコッカス・パラウベリスの4種を組み合せるのが特に好ましい。
【0026】
上記4種の不活化菌体の菌数は、(A):(B):(C)=1:(0.1〜1):(1〜10)、特に1:(0.5〜1):(1〜3)が好ましい。ここで(C)は、2種の株のそれぞれの菌数である。前記(A)と(B)と(C1)と(C2)の組み合せの場合には、(A):(B):(C1):(C2)=1:(0.1〜1):(1〜10):(1〜10)、特に1:(0.5〜1):(1〜3):(1〜3)が好ましい。
【0027】
本発明のワクチンは、各不活化菌体成分をそれぞれ別個の製剤にしてキットとしてもよいが、各不活化菌体を含有する一の製剤として使用するのが、投与するうえで好ましい。
【0028】
本発明のワクチンは、注射剤の形態でもよいし、経口投与の形態でもよい。注射剤とする場合には、前不活化菌体以外に、生理食塩水を配合してもよい。また、経口投与とする場合には、各種賦形剤を添加して粉末や顆粒状としてもよいし、飼料に混和する等して製造することができる。
【0029】
本発明のワクチンの使用法としては、体重が100g程度の対象魚類の筋肉内に約0.1mLを接種することが望ましい。対象魚類の体重が上記よりも大きく異なる場合は、その割合に応じて接種量を増減する。これらのワクチンを経口投与する場合は、対象魚類の体重kgあたりの1日量として1〜10mLを、モイストペレット飼料に混和するか、又は飼料
重量の5〜10%量の水にワクチンを懸濁して固形飼料に噴霧するなどの方法で5〜10日間投与することが望ましい。
【0030】
本発明のワクチンの作用機序は、明確ではないが、エドワジェラ・タルダの対象魚類由来株をはじめ、各菌株がもつ特殊な抗原性によるものではなく、対象魚類以外の魚類由来の定型又は非定型エドワジェラ・タルダが対象魚類由来のエドワジェラ・タルダとの共存下でのみ発揮する、食細胞の殺菌能に対するリンパ球をも動員しての活性化によるものであると考えられる。
【実施例】
【0031】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0032】
(実施例1) 本発明のワクチンを接種したヒラメの白血球の貪食活性
試験方法:平均体重310gのヒラメを10尾ずつの3群(1〜3区)に分け、水温23℃で飼育した。本発明の1区には、エドワジェラ・タルダ(E. tarda)のヒラメ由来OA−3株及びマダイ由来UT−1株をトリプトソーヤブイヨンで25℃、30時間培養し、そのホルマリン死菌の各々を等量混合した液(およその菌数:ヒラメ由来株1.8×109、マダイ由来株1.2×109 CFU/mL)を、2区には対照として、同様に培養したE. tardaのヒラメ由来OA−3株のホルマリン死菌(およその菌数:3.6×109 CFU/mL)を、3区には対照として、トリプトソーヤブイヨンに0.5%の割合でホルマリンを加えた液を、ヒラメの胸鰭上方の筋肉内に0.1mLずつ接種した。接種30日後に尾部血管よりヘパリンナトリウムで処理した注射器を用いて各区5尾ずつ採血し、以下の実験に供した。
【0033】
あらかじめ、生理食塩水に懸濁したヒラメ由来のE. tarda OA−3株を60℃、10分間静置したのちに遠心し、菌数が約2×1010 CFU/mLとなるように蒸留水に懸濁した。この菌液2mLを直径6cmのプラスチックシャーレに加えて1時間静置後、上清をパスツールピペットで除去し、ドライヤーで乾燥させた。このシャーレにワクチンを接種した上記のヒラメの血液を1.5mLずつ重層し、23℃で30分間静置後、パスツールピペットで血液を除去し、表面を生理食塩水で洗浄した。シャーレをドライヤーで乾燥させ、メタノールで固定後ギムザ染色を施したのち、R1PP2を用い、顕微鏡下で食菌プラーク部分の面積を測定した。実施例1、2における試験区分を表1に示した。
【0034】
【表1】

【0035】
試験結果:本発明区及び対照区におけるヒラメ白血球のE. tardaヒラメ由来株に対する貪食活性を10視野中のプラーク数、プラーク1個あたりの面積及び全プラークの総面積として表2に示した。細菌を貪食した白血球の数を示すプラーク数は、各種菌体を接種した1、2区が培地を注射した3区に比べて多く、特にE. tardaのヒラメ及びマダイ由来株を接種した1区が他の区に比べて有意に多かった(p < 0.05,0.01)。個々の白血球の貪食能を示すプラーク1個あたりの面積は、E. tardaのヒラメ及びマダイ由来株を接種した1区が他の区に比べて有意に大きかった(p < 0.05,0.01)。また、細菌を貪食する白血球の総合能力を評価するプラーク総面積については、1、2区の順で大きく、特に1区が2、3区と比べて有意に大きかった(p < 0.05,0.01)。このように、本発明のE. tardaヒラメ由来株及びマダイ由来株のホルマリン死菌をヒラメに接種することによって、E. tardaに対する白血球の貪食活性が有意に高まることが明らかとなった。また、E. tardaヒラメ由来株のみのホルマリン死菌を接種した場合においても、ヒラメ白血球の貪食活性が高まる傾向が認められた。
【0036】
【表2】

【0037】
(実施例2) 本発明のワクチンを接種したヒラメのマクロファージの殺菌活性
試験方法:実施例1において用いた表1の各区10尾ずつのヒラメのうち、残りの5尾から同様に採血し、パーコール連続密度勾配遠心法によってマクロファージとリンパ球を分離後、これらの濃度が約1.5×105細胞/mLずつとなるように、またマクロファージのみが上記濃度となる検体をも設けて、各々をハンクス液に浮遊させ、その浮遊液0.2mLをカバーグラスに載せ、CO2濃度5%、25℃で1時間培養した。培養後、白血球と由来が同じヒラメの血清でオプソニン化したE. tardaのヒラメ由来OA−3株の懸濁液(菌数:約3×106 CFU/mL)を0.1mL加え、上記条件で1時間反応させた。反応終了後、リンパ球及び貪食されていない細菌を除去し、1部の検体にはアクリジン・オレンジ染色を行い、他のカバーグラスには、さらに培養を続けて2、3、4時間後ごとに同様の染色を施し、蛍光顕微鏡でマクロファージ内における殺菌の有無を観察した。
【0038】
試験結果:本発明区及び対照区におけるヒラメマクロファージのE. tardaヒラメ由来株に対する殺菌活性を殺菌率(%)として表3に示した。本発明の1及び2区、すなわちE. tardaのヒラメ及びマダイ由来株ホルマリン死菌を接種した区の殺菌活性が2、3区のそれらに比べて高く、特に反応時間2時間後以降においては、1区と2、3区との間に有意な差が見られた(p < 0.05,0.01)。すなわち、本発明の1区におけるヒラメのマクロファージは、細菌を貪食後、速やかに殺菌することが明らかとなった。また、1区において、マクロファージのみの場合にくらべ、マクロファージとリンパ球の共存条件下における殺菌活性が有意(p < 0.05)に高かったことから、E. tardaのヒラメ由来株にマダイ由来株を加えることによって、リンパ球のマクロファージに及ぼす機能が高まることが示唆された。
【0039】
【表3】

【0040】
(実施例3) 本発明のワクチンを経口投与したヒラメのマクロファージの殺菌活性
試験方法:平均体重375gのヒラメを5尾ずつの2群(1、2区)に分け、水温24℃で飼育した。本発明の1区には、E. tardaヒラメ由来OA−3株及びマダイ由来UT−1株をトリプトソーヤブイヨンで25℃、24時間培養し、そのホルマリン死菌の各々を等量混合した液(およその菌数:ヒラメ由来株3.4×1010、マダイ由来株3.0×1010 CFU/mL))を、2区には対照として、同様に培養したE. tardaのヒラメ由来OA−3株のホルマリン死菌(およその菌数:6.8×1010 CFU/mL)を、ヒラメ1尾あたりの1日量として1mLとなるようにモイストペレットに混和して、ビニール細管を装着した注射器で7日間経口投与した。経口投与終了30日後に尾部血管よりヘパリンナトリウムで処理した注射器を用いて各区5尾ずつ採血し、実施例2に記載の方法によってマクロファージの殺菌活性を調べた。実施例3における試験区分を表4に示した。
【0041】
【表4】

【0042】
試験結果:本発明区及び対照区のワクチン経口投与後におけるヒラメマクロファージのE. tardaヒラメ由来株に対する殺菌活性を殺菌率(%)として表5に示した。本発明の1区、すなわちE. tardaのヒラメ及びマダイ由来株のホルマリン死菌を経口投与した区の殺菌活性がE. tardaヒラメ由来株のホルマリン死菌のみを経口投与した2区に比べて高く、特に反応時間2時間後以降においては、1区と2区との間に有意な差(p < 0.05,0.01)が見られた。すなわち、本発明の1区におけるヒラメのマクロファージは、細菌を貪食後、速やかに殺菌することが明らかとなった。また、1区において、マクロファージのみの場合に比べ、マクロファージとリンパ球の共存下における殺菌活性が有意(p < 0.05)に高かったことから、E. tardaのヒラメ由来株にマダイ由来株を加えることによって、リンパ球のマクロファージに及ぼす機能が高まることが示唆された。
【0043】
【表5】

【0044】
(実施例4) ヒラメのエドワジェラ症に対する本発明のワクチンの予防効果−適正抗原量の検討
試験方法:平均体重96gのヒラメをFRP製水槽(2.5×1.5×1.0(高さ)m)8槽に1群60尾ずつの8群(1〜8区)に分け、成長とともに分養し、水温19〜25℃で10ヵ月間飼育した。本発明の1〜3区にはE. tardaのヒラメ由来OA−3株及びマダイ由来UT−1株の各々をトリプトソーヤブイヨンで25℃、30時間培養後、表6に示す菌数となるように調整してホルマリン死菌とし、混合した。対照としての4〜6区にはE. tardaのヒラメ由来OA−3株を、7区にはマダイ由来UT−1株を同様に培養後、表6に示す菌数となるように調整し、ホルマリン死菌とした。対照としての8区には上記の培地に0.5%の割合でホルマリンを加えた。
これらのワクチンをヒラメの胸鰭上方の筋肉内に0.1mLずつ接種し、接種1、6、10ヵ月後に各区20尾に対して、上記と同様の方法で培養したE. tarda OA−3株を懸濁した海水(およその菌数:8.5×107 CFU/mL)に30分間浸漬して攻撃した。攻撃後30日間観察して生残率を求めた。
【0045】
【表6】

【0046】
試験結果:本発明区及び対照区におけるワクチン接種1、6、10ヵ月後に攻撃したのちの生残率を表7に示した。本発明の1〜3区、すなわちE. tardaのヒラメ及びマダイ由来株のホルマリン死菌をワクチンとして接種した区のうち、ワクチンの菌数を108〜1010 CFU/mLとした2及び3区においては、ワクチン接種1、6、10ヵ月後に攻撃したのちの生残率が対照区(4〜8区)に比べて有意(p < 0.05,0.01)に高かった。また、本発明区のうち、2及び3区と1区の生残数にも有意(p < 0.05)な差が見られた。これらの結果から、E. tardaのヒラメ由来株のみ、又はマダイ由来株のみを投与した場合においては、予防効果は認められず、ヒラメ由来株とマダイ由来株のホルマリン死菌を混合し、投与することによって、ヒラメのE. tardaの感染に対する防御能が高まり、本病を予防できることが明らかとなった。また、ワクチンとして用いる場合の適当な抗原量は、E. tardaのヒラメ由来株及びマダイ由来株ともに108〜1010 CFU/mL程度であると考えられた。
【0047】
【表7】

【0048】
(実施例5) ヒラメのエドワジェラ症に対する本発明のワクチンの予防効果−ワクチンに用いる2菌種(株)の混合割合の検討
試験方法:平均体重125gのヒラメをFRP製水槽(2.5×1.5×10(高さ)m)6槽に1群40尾ずつの6群(1〜6区)に分け、水温20〜25℃で6ヵ月間飼育した。本発明の1〜4区にはE. tardaのヒラメ由来OA−3株及びマダイ由来UT−1株の各々をトリプトソーヤブイヨンで25℃、30時間培養後、表8に示す菌数となるように調整してホルマリン死菌とし、混合した。対照としての5区はE. tardaのヒラメ由来OA−3株を同様にして培養後、ホルマリン死菌とし、6区はトリプトソーヤブイヨンに0.5%の割合でホルマリンを加えた。
これらのワクチンをヒラメの胸鰭上方の筋肉内に0.1mLずつ接種し、接種1及び6ヵ月後に各区20尾ずつに対して、上記と同様の方法で培養したE. tarda OA−3株を懸濁した海水(およその菌数:8.3×107 CFU/mL)に30分間浸漬して攻撃した。攻撃後30日間観察して生残率を求めた。
【0049】
【表8】

【0050】
試験結果:本発明区及び対照区におけるワクチン接種1、6ヵ月後に攻撃したのちの生残率を表9に示した。本発明の1〜4区、すなわちE. tardaのヒラメ及びマダイ由来株のホルマリン死菌をワクチンとして接種した区のうち、ヒラメ由来株の菌数が109 CFU/mLに対して、マダイ由来株の菌数がやや下回るか108 CFU/mLにした2、3区においては、ワクチン接種1、6ヵ月後に攻撃したのちの生残率が対照区(5、6区)に比べて有意(p < 0.05,0.01)に高かった。しかし、マダイ由来株の菌数がヒラメ由来株のそれを1オーダー上回ったり、107 CFU/mLレベルまで少なくした場合には、生残率が低かった。
これらの結果から、本発明のワクチンの効果発現には、E. tardaのヒラメ由来株の菌数とマダイ由来株の菌数との混合割合が重要であることが明らかとなった。
【0051】
【表9】

【0052】
(実施例6) ヒラメのエドワジェラ症に対する本発明の経口ワクチンの予防効果
試験方法:平均体重108gのヒラメをFRP製水槽(2.5×1.5×1.0(高さ))5槽に1群60尾ずつ5群(1〜5区)に分け、水温18〜26℃で10ヵ月間飼育した。本発明の1〜3区にはE. tardaのヒラメ由来OA−3株及びマダイ由来UT−1株を、また対照区としての4区には、E. tardaのヒラメ由来OA−3株を、いずれも実施例4、5と同様の方法でホルマリン死菌とし、ヒラメ1尾あたりの1日量として表10に示す菌量となるように、モイストペレットに混和して、ビニール細管を装着した注射器で7日間経口投与した。対照としての5区には培地を混和したモイストペレットを与えた。ワクチンを経口投与したのち、1、6、10ヵ月後に各区20尾ずつをE. tardaを懸濁した海水(およその菌数:7.4×10 CFU/mL)に30分間浸漬して攻撃した。攻撃後30日間観察して生残率を求めた。
【0053】
【表10】

【0054】
試験結果:本発明区及び対照区におけるワクチンの経口投与1、6、10ヵ月後に攻撃したのちの生残率を表11に示した。本発明の1〜3区、すなわちE. tardaのヒラメ及びマダイ由来株のホルマリン死菌を経口投与した区においては、ワクチンの投与終了1、6、10ヵ月後に攻撃したのちの生残率が対照区(4、5区)に比べて有意(p < 0.05,0.01)に高かった。また、ワクチンとしての投与菌量が多いほど生残率が高い傾向が見られた。これらの結果から、本発明のワクチンは経口投与法においても、ヒラメのエドワジェラ症に対して予防効果を有することが明らかとなった。
【0055】
【表11】

【0056】
(実施例7) ヒラメのエドワジェラ症及び連鎖球菌症に対する本発明のワクチンの予防効果
試験方法:平均体重105gのヒラメをFRP製水槽(2.5×1.5×1.0(高さ)m)5槽に1群60尾ずつの5群(1〜5区)に分け、成長ととともに分養し、水温18〜25℃で10ヵ月間飼育した。本発明の1〜3区のワクチンとして、E. tardaのヒラメ由来株OA−3株及びマダイ由来UT−1株の各々を実施例4〜6と同様の方法でホルマリン死菌とし、さらにヒラメ由来のStreptococcus iniae KH−2株及びS. parauberis AM−1株の各々をブレインハートインヒュージョンで25℃、20時間培養後のホルマリン死菌を加えた。対照としての4区にはE. tardaのヒラメ由来OA−3株、S. iniae KH−2株、S. parauberis AM−1株のホルマリン死菌混合液を用いた。ワクチンとして用いた上記細菌の菌数を表12に示した。また、5区は無処置の対照区とした。
これらのワクチンをヒラメの胸鰭上方の筋肉内に0.1mLずつ接種し、接種1、6、10ヵ月後に各区20尾ずつに対して、S. iniae KH−2株、S. parauberis AM−1株の培養菌を、それぞれ6.7×104 CFU/kg(体重)となるように筋肉内に接種し、さらに6時間後にE. tardaのヒラメ由来OA−3株の培養菌を懸濁した海水(菌数7.2×107 CFU/mL)に30分間浸漬して攻撃した。攻撃後30日間観察して生残率を求めるとともに、死亡魚から細菌を分離して病原菌の種の同定を行った。
【0057】
【表12】

【0058】
試験結果:本発明区及び対照区におけるワクチン接種1、6、10ヵ月後に攻撃したのちの生残率を表13に示した。本発明の1〜3区、すなわちE. tardaのヒラメ由来株、マダイ由来株、S. iniae,S. parauberisのホルマリン死菌をワクチンとして接種した区においては、接種1、6、10ヵ月後に攻撃したのちの生残率がE. tardaのヒラメ由来株、S. iniae、S. parauberisのホルマリン死菌を接種した4区及び無処置の5区に比べて有意(p < 0.05,0.01)に高かった。また、E. tardaのマダイ由来株を除く3種の細菌の菌数が本発明の3区と同一の4区においては、死亡魚の多くから、E. tardaのみならず、S. iniae及びS. parauberisが分離された。しかし、ワクチンとして用いた4種の細菌の菌数が最も少なかった1区と2、3区の間に有意(p < 0.05)な差が認められた。
これらの結果から、E. tardaのヒラメ由来株、マダイ由来株、S. iniae, S. parauberisのホルマリン死菌の混合液は、ヒラメのエドワジェラ症及び連鎖球菌症のワクチンとして優れた予防効果を有することが明らかとなった。また、本発明区と4区との生残率及び各種病原菌の分離頻度に顕著な差が認められたことから、ワクチンの中にマダイ由来の非定型E. tardaを加えることによって、エドワジェラ症のみならず連鎖球菌症に対する予防効果を高めることが明らかとなった。しかし、的確な効果を発現させるに必要な菌数は、各菌種ともに約108 CFU/mL以上であると判断された。
【0059】
【表13】

【0060】
(実施例8) ヒラメのエドワジェラ症及び連鎖球菌症に対する本発明の経口ワクチンの予防効果
試験方法:平均体重92gのヒラメをFRP製水槽(2.5×1.5×1.0(高さ)m)6槽に1群60尾ずつの6群(1〜6区)に分け、成長とともに分養し、水温19〜25℃で10ヵ月間飼育した。本発明の1〜4区のワクチンとして、実施例7と同様にS. parauberis AM−1株の各々を表14に示した菌数となるように調整したのちホルマリン死菌とした。5区はE. tardaのマダイ由来株を含まないワクチンの対照区とし、6区は無処置の対照区とした。
これらのワクチンを、ヒラメ1尾あたり1日の菌量が表14の菌数となるように、飼料重量の10%量の蒸留水に懸濁し、固形配合飼料に噴霧したのち、2時間静置して吸着させ、1日あたりの給餌量が、魚体重の2%となるように、5又は10日間与えた。ワクチンの投与終了1、6、10ヵ月後に各区20尾ずつに対して、S. iniae KH−2株、S. parauberis AM−1株を、それぞれ5.6×104、6.8×104 CFU/kg(体重)となるように筋肉内に接種し、さらに6時間後にE. tarda OA−3株の培養菌を懸濁した海水(菌数8.1×107 CFU/mL)に30分間浸漬して攻撃した。攻撃後30日間観察して生残率を求めるとともに、死亡魚から細菌を分離して病原菌の種の同定を行った。
【0061】
【表14】

【0062】
試験結果:本発明区及び対照区におけるワクチン接種1、6、10ヵ月後に攻撃したのちの生残率を表15に示した。本発明の1〜4区、すなわちE. tardaのヒラメ由来株、マダイ由来株、S. iniae, S. parauberisのホルマリン死菌をワクチンとして5又は10日間経口投与した区においては、投与終了後1、6、10ヵ月後に攻撃したのちの生残率が対照区(5、6区)に比べて有意(p < 0.01)に高かった。これらの結果から、E. tardaのヒラメ由来株、マダイ由来株、S. iniae,S. parauberisのホルマリン死菌の混合液は、経口投与した場合においても、ヒラメのエドワジェラ症及び連鎖球菌症のワクチンとして優れた効果を有することが明らかとなった。また、本発明区と5区との生残率及び各種病原菌の分離頻度に顕著な差が認められたことから、ワクチンの中にE. tardaのマダイ由来株を加えることによって、エドワジェラ症のみならず連鎖球菌症に対する予防効果を高めることが明らかとなった。
【0063】
【表15】

【0064】
(実施例9) ヒラメのエドワジェラ症及び連鎖球菌症に対する本発明のワクチンの予防効果−供試菌株の抗原性と効果の検討
試験方法:平均体重95gのヒラメをFRP水槽(2.5×1.5×1.0(高さ)m)5槽に1群60尾ずつの5群(1〜5区)に分け、成長とともに分養し、水温17〜26℃で10ヵ月間飼育した。供試菌株の抗原性と予防効果の関係を明らかにするために、本発明の1〜3及び5区にはE. tardaヒラメ由来の抗原性の異なるOA−3、EH−5、UH−2株を、同様にE. tardaマダイ由来のUT−1、UT−4、YK−1を、またS. iniae KH−2、ES−1、MK−1株及びS. parauberis AM−1、AM−4、AK−3株を実施例7、8と同様の方法で培養し、表16に示した菌数となるように調整し、ホルマリン死菌としたのち混合した。対照としての4区にはE. tardaのマダイ由来株を除いた3菌種のホルマリン死菌を、6区にはS. iniae ES−1株及びS. parauberisAM−4株のホルマリン死菌をワクチンとし、7区は無処置の対照区とした。
これらのワクチンをヒラメの胸鰭上方の筋肉内に0.1mLずつ接種し、接種1、6、10ヵ月後に各区20尾ずつを用いて、実施例7と同様の方法によって人為感染による攻撃とワクチン効果の評価を行った。また、5及び6区に対してはS. iniaeとS. parauberisによる人為感染を行った。
【0065】
【表16】

【0066】
試験結果:本発明区及び対照区におけるワクチン接種1、6、10ヵ月後に攻撃したのちの生残率を表17に示した。本発明の1〜3区、すなわちE. tardaヒラメ由来株、マダイ由来株、S. iniae及びS. parauberisの抗原性の異なる菌株のホルマリン死菌を組み合わせワクチンとして接種した区においては、接種1、6、10ヵ月後に攻撃したのちの生残率が、マダイ由来のE. tardaを混合しなかった4区及び無処置の対照区に比べて有意(p < 0.05, 0.01)に高かった。またE. tardaマダイ由来株を除く3種の細菌を接種した4区及び無処置対照区においては、死亡魚からE. tardaのみならず、S. iniae及びS. parauberisが高頻度に分離された。さらに、連鎖球菌症の原因菌(S. iniae、S. parauberis)のみで攻撃した5及び6区においては、5区の生残率が有意に高く、マダイ由来の非定型E. tardaのホルマリン死菌を混合することによって連鎖球菌症に対する予防効果も高まることが明らかとなった。
これらの結果から、本発明のワクチンの効果は、ヒラメ由来のE. tardaをはじめとする4種の細菌の各菌株がもつ特殊な抗原性によるものではなく、マダイ由来のE. tardaがヒラメ由来E. tardaと共存したときにのみ発揮される作用によるものであることが明らかとなった。
【0067】
【表17】

【0068】
(実施例10) タイのエドワジェラ症に対する本発明のワクチンの予防効果−適正抗原量の検討
試験方法:平均体重84gのマダイをFRP水槽(2.5×1.5×1.0(高さ)m)7槽に1群0尾ずつの7群(1〜7区)に分け、成長とともに分養し、水温18〜27℃で10ヶ月間飼育した。本発明の1〜3区にはE. tardaのヒラメ由来OA−3株及びマダイ由来UT−1株の各々を実施例4と同様の方法で培養後、表18に示す菌数となるように調整してホルマリン死菌とし、混合した。対照としての4〜6区にはE. tardaのマダイ由来UT−1株のみを同様に培養後、表18に示す菌数となるように調整し、ホルマリン死菌とした。7区は無処置の対照区とした。
これらのワクチンをマダイの腹腔内に0.1mLずつ接種し、接種1、6、10ヵ月後に各区20尾に対して、マダイ由来の非定型E. tarda UT−1株の培養菌を7.3×105CFU/kg(体重)となるように腹腔内に接種し、接種後30日間観察して生残率を求め、ワクチンの有効性について評価した。
【0069】
【表18】

【0070】
試験結果:本発明区及び対照区におけるワクチン接種1、6、10ヵ月後に攻撃したのちの生残率を表11に示した。本発明の1〜3区、すなわちE. tardaのヒラメ及びマダイ由来株のホルマリン死菌をワクチンとして接種した区のうち、ワクチンの菌数を108〜1010CFU/mLとした2及び3区においては、ワクチン接種1、6、10ヵ月後に攻撃した後の生残率がマダイ由来の非定型E. tardaのみを接種した4〜6区及び無処置の7区に比べて有意(p<0.05、0.01)に高かった。また、本発明のうち、2及び3区と1区のワクチン接種10ヵ月後における生残率に有意(p<0.05)な差が認められた。
これらの結果から、マダイのエドワジェラ症においてもヒラメのエドワジェラ症と同様に、当該魚種の本来の病原菌を単独で用いたワクチンでは的確な効果は得られず、マダイ由来の非定型E. tardaとヒラメ由来のE. tardaの共存下でのみ、食細胞の殺菌能が活性化して優れた予防効果を発揮することが示唆された。また、ワクチンとして用いる場合の適当な抗原量は、E. tardaのヒラメ由来株及びマダイ由来株ともに、およそ108〜1010CFU/mLであると考えられた。
【0071】
【表19】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エドワジェラ・タルダの対象魚類由来株の不活化菌体、並びに(B)前記対象魚類以外の魚類由来のエドワジェラ・タルダの不活化菌体であって、(A)が定型エドワジェラ・タルダである場合は非定型エドワジェラ・タルダの不活化菌体を、逆の場合は定型エドワジェラ・タルダの不活化菌体を含有する対象魚類のエドワジェラ症用ワクチン。
【請求項2】
対象魚類が、ヒラメ又はタイである請求項1記載のワクチン。
【請求項3】
不活化菌体の菌数が、(A):(B)=1:0.1〜1である請求項1又は2記載のワクチン。
【請求項4】
注射剤又は経口投与剤の形態である請求項1〜3のいずれか1項記載のワクチン。
【請求項5】
(A)エドワジェラ・タルダの対象魚類由来株の不活化菌体、(B)前記対象魚類以外の魚類由来のエドワジェラ・タルダの不活化菌体であって、(A)が定型エドワジェラ・タルダである場合は非定型エドワジェラ・タルダの不活化菌体を、逆の場合は定型エドワジェラ・タルダの不活化菌体、並びに(C)ストレプトコッカス・イニエ及び/又はストレプトコッカス・パラウベリスの不活化菌体を含有する対象魚類のエドワジェラ症及び/又は連鎖球菌症用ワクチン。
【請求項6】
対象魚類が、ヒラメである請求項5記載のワクチン。
【請求項7】
不活化菌体の菌数が、(A):(B):(C)=1:(0.1〜1):(1〜10)である請求項5又は6記載のワクチン。
【請求項8】
注射剤又は経口投与剤の形態である請求項5〜7のいずれか1項記載のワクチン。


【公開番号】特開2008−50300(P2008−50300A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−228159(P2006−228159)
【出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(591024638)川崎三鷹製薬株式会社 (5)
【出願人】(599045545)
【Fターム(参考)】