説明

鰹節の製造方法

【課題】
香りや味が良いだし液を作るために用いられる良質な鰹節を得るための鰹節の製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明の鰹節の製造方法は、常温で荒節または裸節にカビを培養し、その後、殺虫・殺菌を行うカビ付け工程と、このカビ付け工程を行った後、常温よりも低い温度で荒節または裸節を熟成し、その後、殺虫・殺菌を行う熟成工程と、を有し、カビ付け工程および熟成工程は、それぞれ1回または2回以上繰り返して行うものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鰹節の製造方法に係り、特に、常温で荒節または裸節にカビを培養した後、常温よりも低い温度で熟成させ、得られた鰹節のだし液において、香りや味を向上させるものに関する。
【背景技術】
【0002】
鰹節の製造にあっては、従来、図5に示したような工程順で行われるもので、とりわけカビ付け工程S6にあっては、例えば、非特許文献1の第41頁〜第42頁に示されているように、荒節または裸節にカビ粉末を付着させ、25℃〜28℃の環境下でカビを培養した後、日乾などにより殺虫・殺菌を行うカビ付け工程を行い、このカビ付け工程を複数回繰り返し、製品となる鰹節を製造していた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】和田俊著「かつお節−その伝統からEPA・DHAまで−」幸書房 1999年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鰹節は、栄養価の高い食品であり、保存性に優れ、昔から非常食や携帯食品として利用されてきた一方で、縁起物でもあり、結納、結婚、出産、新築などの慶事の贈答品として、より香りや味が良いものが望まれてきた。
【0005】
本発明は、この要望に応えるためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、常温で荒節または裸節にカビを培養し、その後、殺虫・殺菌を行うカビ付け工程と、このカビ付け工程を行った後、前記常温よりも低い温度で前記荒節または裸節を熟成し、その後、殺虫・殺菌を行う熟成工程と、を有し、前記カビ付け工程および熟成工程は、それぞれ1回または2回以上繰り返して行う鰹節の製造方法である。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の鰹節の製造方法において、熟成工程における熟成は、0℃〜15℃で行うものである。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1または2記載の鰹節の製造方法において、熟成工程における熟成は、少なくとも2週間以上行うものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の鰹節の製造方法によれば、常温で荒節または裸節にカビを培養し、その後、殺虫・殺菌を行うカビ付け工程と、このカビ付け工程を行った後、前記常温よりも低い温度で前記荒節または裸節を熟成し、その後、殺虫・殺菌を行う熟成工程と、を有し、前記カビ付け工程および熟成工程は、それぞれ1回または2回以上繰り返して行うため、得られた鰹節のだし液において、酸味を抑えつつ、旨味と濃厚感を引き立たせることができ、加えて、カビ臭の発生を抑えつつ、肉質香および枯節香を高めることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1記載の鰹節の製造方法の効果に加え、熟成工程における熟成は、0℃〜15℃で行うため、得られた鰹節のだし液において、肉質香、枯節香を維持しつつ、カビ臭の発生を抑制し、より一層香りを良くすることができる。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1または2記載の鰹節の製造方法の効果に加え、熟成工程における熟成は、少なくとも2週間以上行うため、得られた鰹節のだし液において、確実かつ安定して香りを良くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の鰹節の製造方法に係る工程のフローチャートを示した図である。
【図2】実施例1および比較例1の香りについて、官能評価の結果を示した図である。
【図3】実施例1および比較例1の味について、官能評価の結果を示した図である。
【図4】実施例2の香りについて、官能評価の結果を示した図である。
【図5】従来の鰹節の製造方法に係る工程のフローチャートを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の鰹節の製造方法に係る一実施例を、図1を参照して説明する。図1は、本発明の鰹節の製造工程のフローチャートを示したものであり、図1において、荒節または裸節を得るまでの工程は従来のものと同様であるため、その同様な工程については概略についてのみ説明する。
【0014】
すなわち、まず、卸し工程S1において、原料となる生の鰹を卸すもので、例えば、頭切りを行い、内臓を除去し、背ビレを取り、三枚卸しをし、中骨を除去し、身割りを行って適当な大きさの肉塊を得る。
【0015】
そして、卸し工程S1を行った後、煮熟工程S2において、前述の肉塊を籠に詰め、釜に入れて湯中92〜98℃で1時間〜2時間30分程度煮熟し、その後、釜から取り出して水を切り、室温まで空冷して生利節を得る。
【0016】
そして、煮熟工程S2を行った後、骨抜き工程S3において、いわゆる七本骨と呼ばれる長い骨を生利節から抜き取る。
【0017】
そして、骨抜き工程S3を行った後、焙乾工程S4において、骨抜きをした生利節を乾燥させるもので、例えば、生利節を蒸籠にいれ、薪を燃やしてその熱で水分を蒸発させ、煙で香味を付けて荒節を得る。なお、この焙乾は、1日あたり4時間〜8時間程度薪を燃やし、1週間〜3週間継続して行われる。
【0018】
そして、必要に応じ、焙乾工程S4で生利節の表面に付いたタール分やその他の揮発性成分を除去するために削り工程S5を行うもので、削り落としたものは表面が滑らかとなり、裸節が形成される。
【0019】
その後、焙乾工程S4で生成した荒節や削り工程S5で生成した裸節に対してカビ付け工程S6を行うもので、荒節または裸節に所定のカビ菌(例えば、特公平1−31858号公報の特許請求の範囲に記載のカビ菌であり、以下、単に「カビ」ともいう)を噴霧して付着させ、常温、相対湿度70%〜95%の環境下で2週間〜4週間前述のカビを培養する。なお、本発明において、常温とは、カビの繁殖に適した温度、すなわち、20℃〜35℃の環境温度をいうものとする。
【0020】
カビ付け工程S6では、カビの培養後、その都度殺虫・殺菌を行うが、殺虫・殺菌は、日乾、加熱、紫外線照射、その他公知の殺虫・殺菌方法のいずれであってもよく、これらを組み合わせて用いてもよい。このカビ付け工程S6は、1回または2回以上繰り返して行われるが、2回目以降は上述した所定のカビ菌を噴霧せず、自然発生するカビ菌を用いるようにしてもよい。
【0021】
そして、カビ付け工程S6を行った後、熟成工程S7において、カビの培養が行われた荒節または裸節の熟成を行うもので、熟成させる温度(以下、「熟成温度」ともいう)は、香り(肉質香、枯節香、カビ臭)および味(旨味、濃厚感、酸味)を考慮し、前記常温よりも低い温度(カビの繁殖が抑えられる温度)、すなわち、20℃よりも低い温度、より好ましくは0℃〜15℃で行い、その後、カビ付け工程S6と同じ方法で殺虫・殺菌を行う。この熟成工程S7は、1回または2回以上繰り返して行われる。
【0022】
上述した熟成工程S7を設けることにより、得られた鰹節のだし液において、カビ臭の発生を抑えて肉質香および枯節香を高めることができ、加えて、酸味を抑えつつ旨味と濃厚感を引き立たせることができる。
【0023】
なお、製品(鰹節)は、カビ付け工程S6を行った回数と熟成工程S7を行った回数との合計回数n(nは2以上の自然数)を用いて、「n番カビ品」ともいう。
【0024】
ところで、熟成させる期間(以下、「熟成期間」ともいう)は、少なくとも2週間以上行うのが好ましい。これは、得られた鰹節のだし液において、2週間経過した以降は肉質香、枯節香、カビ臭共に安定化する傾向にあるためであり、香りを確実に良くすることができる。
【0025】
次に、官能評価の結果を以下に示した。
【0026】
(1)熟成温度に対する香味の官能評価
[実施例1]
裸節にカビを噴霧し、温度25℃〜30℃、相対湿度70%〜95%の培養庫中で4週間カビを培養した後、加熱器中で50℃〜60℃にて48時間加熱して殺虫・殺菌を行い、以上の工程を2回繰り返した(カビ付け工程)。
そして、環境温度を−20℃、−5℃、0℃、5℃、10℃、15℃の各温度に設定した恒温槽中で4週間熟成させた後、50℃〜60℃で48時間加熱して殺虫・殺菌をし(熟成工程)、供試用の鰹節を得た。
次に、得られた鰹節を40μm厚に削りだし、その35gを1000mlの沸騰水中に投入して3分間煮出し、だし液を濾過して試験サンプルを作製した。
[比較例1]
実施例1と同じカビ付け工程を行い、その後、環境温度を20℃、30℃の各温度に設定した恒温槽中で4週間熟成させた後、50℃〜60℃で48時間加熱して殺虫・殺菌をして鰹節を得た。なお、この得られた鰹節からの試験サンプルの作製手法は、実施例1と同じである。
【0027】
以下に、実施例1および比較例1で得られただし液の官能評価を示した。
[官能評価1]
実施例1および比較例1で作製した試験サンプル(だし液)を用い、7人のパネラーにより、合計6項目(香り3項目(肉質香、枯節香、カビ臭)と味3項目(旨味、濃厚感、酸味))について官能評価を行った。なお、官能評価は、熟成温度20℃の試験サンプルを基準とした相対的な評価であり、この基準に対し、「非常に弱い」を−3、「弱い」を−2、「やや弱い」を−1、「同等又はどちらとも言えない」を0、「やや強い」を1、「強い」を2、「非常に強い」を3とし、パネラー7人の評価の算術平均値をもって官能評価結果とした。表1および図2、図3は、その評価結果を示している。
【0028】
【表1】

【0029】
表1および図2、図3から判るように、香りについては、常温(20℃、30℃)よりも低い温度で熟成させたものの方が、肉質香、枯節香共に強く、特に、0℃〜15℃で熟成させたものにあっては、カビ臭の発生も少ない結果であった(図2参照)。また、味については、常温(20℃、30℃)よりも低い温度で熟成させたものの方が、旨味、濃厚感共に強く、酸味も抑えられている(図3参照)。
【0030】
(2)熟成期間に対する香味の官能評価
[実施例2]および[比較例2]
実施例1と同じカビ付け工程を行い、その後、環境温度を5℃に設定した恒温槽中で0週間(熟成無し)、1週間、2週間、4週間、6週間、8週間(これらの内、2週間〜8週間は実施例2、0週間と1週間は比較例2である)の各期間熟成させ、それら各々を50℃〜60℃で48時間加熱して殺虫・殺菌をし、供試用の鰹節を得た。なお、この得られた鰹節からの試験サンプルの作製手法は、実施例1と同じである。
【0031】
以下に、実施例2で得られただし液の官能評価を示した。
[官能評価2]
実施例2で作製した試験サンプル(だし液)を用い、7人のパネラーにより、香り3項目(肉質香、枯節香、カビ臭)について官能評価を行った。なお、官能評価は、比較例2の熟成期間0週間(熟成無し)の試験サンプルを基準とした相対的な評価であり、この基準に対し、「非常に弱い」を−3、「弱い」を−2、「やや弱い」を−1、「同等又はどちらとも言えない」を0、「やや強い」を1、「強い」を2、「非常に強い」を3とし、パネラー7人の評価の算術平均値をもって官能評価結果とした。表2および図4は、その評価結果を示している。
【0032】
【表2】

【0033】
表2および図4から判るように、香り(肉質香、枯節香、カビ臭)については、熟成期間が2週間経過した以降でその変化は僅少となり、安定となる結果が得られた。
【符号の説明】
【0034】
S6 カビ付け工程
S7 熟成工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温で荒節または裸節にカビを培養し、その後、殺虫・殺菌を行うカビ付け工程と、
このカビ付け工程を行った後、前記常温よりも低い温度で前記荒節または裸節を熟成し、その後、殺虫・殺菌を行う熟成工程と、を有し、
前記カビ付け工程および熟成工程は、それぞれ1回または2回以上繰り返して行うことを特徴とする鰹節の製造方法。
【請求項2】
熟成工程における熟成は、0℃〜15℃で行うことを特徴とする請求項1記載の鰹節の製造方法。
【請求項3】
熟成工程における熟成は、少なくとも2週間以上行うことを特徴とする請求項1または2記載の鰹節の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−5387(P2012−5387A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142443(P2010−142443)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(392027988)株式会社柳屋本店 (1)