説明

鳥コクシジウム症に対するDNAワクチン

【課題】 鳥コクシジウム感染症を予防するためのワクチンの提供。
【解決手段】 鳥コクシジウム原虫(Eimeria)が発現する蛋白質の内、少なくともミクロネーム1、ミクロネーム2、ミクロネーム5、及びアピカルメンブレン抗原1の4種類の蛋白質を発現するDNAベクターを含む鳥コクシジウム症に対するDNAワクチン。これらのDNAベクターはクそれぞれ鶏体内で機能するプロモーター制御下に配置されたDNAベクターであるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鳥コクシジウム症の感染予防に有用な抗原遺伝子を発現するDNAベクターを構成成分とするDNAワクチン及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
コクシジウム症は腸に異常が起きる疾病であり、鶏などの家禽飼育において、軽症では下痢や飼料の肉転換率低下、重症では急性死亡など多様な問題を引き起こす。
この病気はアイメリア(Eimeria)属の寄生虫によって引き起こされる。この属には、E.アッセルブリナ(E.acervulina)、E.テネラ(E.tenella)、E.マキシマ(E.maxima)、E.ネカトリクス(E.necatrix)、E.ブルネッチ(E.brunetti)、E.ミチス(E.mitis)及びE.パラエコックス(E.praecox)が含まれる。この他に、E.ミバチ(E.mivati)及びE.ハガニ(E.hagani)種をメンバーに加える研究者もいる。これらは全て類似の生活環を有するが、組織特異性や病原性を異にする。E.アッセルブリナ(E.acervulina)またはE.マキシマ(E.maxima)による鳥の感染は、飼料の消化に大きな役割を果たす小腸部分に感染するので、特にブロイラーに大きな損害をもたらす。
【0003】
コクシジウム症は抗コクシジウム剤の投与で対処されうるが、薬剤耐性株が頻繁に出現し、新しい薬剤の開発には多くのコストが必要である。更に、これら薬剤の多くは肉に残留し、それが消費者に問題を起こす可能性もある。
アイメリア属の弱毒株あるいは不活化した虫体を鳥に免疫して病気を予防する試みがなされてきた。早熟株のような弱毒生ワクチン株は野生型のアイメリア属各種のオーシストを鳥に感染させ、糞便に再びオーシストが排出されるまでの時間が短くなった虫を集めることによって得られる(非特許文献1)。しかしながら、このような弱毒ワクチンで免疫した鳥においても寄生虫は増殖し、病変が検出されるのである。一方、不活化ワクチンの防御レベルは充分には程遠い。更に、これらワクチンを大量生産するにはたくさんの鳥が必要であり、生産コストが高くなるという欠点がある。
【0004】
ところで一般に遺伝子組換え技術により得られる組み換え体をワクチンとして用いることも広く検討されている。組み換え技術によるワクチンでは抗原蛋白質やその遺伝子の探索が重要となってくる。
鳥コクシジウムに関しても、今までに、多数の防御抗原候補の遺伝子が報告されてきた。例えば、M.C.Jenkinsらはアッセルブリナの膜画分抽出物で免疫した兎血清を用いてスクリーニングした250kDaのメロゾイト表面蛋白質の一部をコードするcDNAについて記載している(非特許文献2、特許文献1)。或いは、アイメリア原虫に対するモノクローナル抗体を使って、アイメリア原虫の抗原遺伝子がスクリーニングされた(特許文献2〜7)。ミクロネーム2(特許文献8)、GAPDH(特許文献9)、アピカルメンブレン抗原1(特許文献10)なども有望なワクチン抗原として知られている。
【0005】
しかしながら、今までに報告された抗原候補は、組み換え蛋白質として、あるいは抗原を発現する組み換えウイルスとして鳥に接種した場合でも、いずれも部分的な防御効果を示すにとどまっていた。そのため、より一層感染防御能のある、実用性のあるワクチンが求められていた。
【0006】
【特許文献1】米国特許第5122471号公報
【特許文献2】米国特許第5028694号公報
【特許文献3】米国特許第5279960号公報
【特許文献4】米国特許第5387414号公報
【特許文献5】米国特許第5449768号公報
【特許文献6】米国特許第5602033号公報
【特許文献7】米国特許第5814320号公報
【特許文献8】特開2005−287422号公報
【特許文献9】特開2005−073699号公報
【特許文献10】特開2005−346085号公報
【0007】
【非特許文献1】J. Parasitol. 1975, 61:1083-1090
【非特許文献2】Exp. Parasitol. 1988, 66: 96-107
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
かかる従来技術の下で、本発明者らは、鳥コクシジウム原虫に対して有効なワクチンを開発すべく種々検討した結果、鳥コクシジウム原虫(Eimeria)が発現する蛋白質の内、ミクロネーム1、ミクロネーム2、ミクロネーム5、及びアピカルメンブレン抗原1の4種類の蛋白質を発現するDNAベクターを含むDNAワクチンが、これらの蛋白質の内1種或いは任意の2〜3種を発現するDNAベクターを含むDNAワクチンに比べ、飛躍的に高い感染防御能を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かくして本発明によれば、鳥コクシジウム原虫(Eimeria)が発現する蛋白質の内、少なくともミクロネーム1(以下、MIC1という)、ミクロネーム2(以下、MIC2という)、ミクロネーム5(以下、MIC5という)、及びアピカルメンブレン抗原1(以下、AMA1という)の4種類の蛋白質を発現するDNAベクターを含む鳥コクシジウム症に対するDNAワクチンが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明を詳述する。
本発明のDNAワクチンは、鳥コクシジウム原虫(Eimeria)の、少なくともMIC1、MIC2、MIC5、及びAMA1の蛋白質を発現するDNAベクターを含むものである。本発明のDNAワクチンを構成するDNAベクターは、上記4種の蛋白質を発現する1種類のDNAベクターのみからなるものでもよいし、上記4種の内1〜3種の蛋白質を発現するDNAベクターと、これが発現する蛋白質とは異なる上記4種の内1〜3種の蛋白質を発現するDNAベクターとの組み合わせであってもよい。もちろん、各1種の蛋白質を発現するようにしたDNAベクターを4種類混合してもよい。DNAベクター内での、上記4種の蛋白質をコードするDNAの安定性の観点から、上記4種の内1〜2種の蛋白質を発現するDNAベクターを組み合わせて用いるのが好ましい。
【0011】
[A]ミクロネーム1及びそれをコードする遺伝子
本発明において、ミクロネーム1(MIC1)は、前述のアイメリア属に属する原虫のミクロネームという器官の中の一蛋白であり、Tomleyらが最初に報告した(Mol.Biochem.Parasitol.、49(2),277−288,1991)。この蛋白質をコードする遺伝子の情報は、GeneBankのアクセッション番号AF032905として登録されている。MIC1をコードするcDNA配列、及びアミノ酸配列もこの情報の中に含まれている。本発明に用いるMIC1は必ずしも登録された配列のものに限定されず、1又は複数のアミノ酸の付加、欠失及び/又は置換により修飾されていてもMIC1の抗原性を有する限り、本発明に含まれる。その一具体例としては配列番号1のアミノ酸配列を有する蛋白質が挙げられる。ここで、修飾の対象となるアミノ酸残基の数は、好ましくは全配列に対して10%以下、より好ましくは5%以下であり、特に好ましくは10個未満である。
【0012】
[B]ミクロネーム2の蛋白質及びそれをコードする遺伝子
本発明において、ミクロネーム2(MIC2)もまた、アイメリア原虫のミクロネームという器官の中の一蛋白であり、この蛋白質をコードする遺伝子の情報は、GeneBankのアクセッション番号AF111839及びAF111702として2種類のイソフォームがそれぞれ登録されている。本発明に用いるMIC2は必ずしも登録されたものに限定されず、1又は複数のアミノ酸の付加、欠失及び/又は置換により修飾されていてもMIC2の抗原性を有する限り、本発明に含まれる。その一具体例としては配列番号2のアミノ酸配列を有する蛋白質が挙げられる。ここで、修飾の対象となるアミノ酸残基の数は、好ましくは全配列に対して10%以下、より好ましくは5%以下であり、特に好ましくは10個未満である。
【0013】
[C]ミクロネーム5の蛋白質及びそれをコードする遺伝子
本発明において、ミクロネーム5(MIC5)もまた、アイメリア原虫のミクロネームという器官の中の一蛋白であり、Brown P.J.らによって報告された(Mol.Biochem.Parasitol.、107,91−102,2000)。この蛋白質をコードする遺伝子の情報は、GeneBankのアクセッション番号AJ245536として登録されている。本発明のMIC5は必ずしも登録されたものに限定されず、1又は複数のアミノ酸の付加、欠失及び/又は置換により修飾されていてもMIC5の抗原性を有する限り、本発明に含まれる。その一具体例としては配列番号3のアミノ酸配列を有する蛋白質が挙げられる。ここで、修飾の対象となるアミノ酸残基の数は、好ましくは全配列に対して10%以下、より好ましくは5%以下であり、特に好ましくは10個未満である。
【0014】
[D]アピカルメンブレン抗原1の蛋白質及びそれをコードする遺伝子
本発明において、アピカルメンブレン抗原1(AMA1)蛋白質は、アイメリア原虫のミクロネームという器官からアピカルという器官に移動し、更にその後、虫の表層に発現する蛋白である。AMA1蛋白質のアミノ酸配列は特開2006−180872号公報の配列番号4として開示されている。本発明のAMA1蛋白質は必ずしもこれに限定されず、1又は複数のアミノ酸の付加、欠失及び/又は置換により修飾されていてもAMA1蛋白質の抗原性を有する限り、本発明に含まれる。ここで、修飾の対象となるアミノ酸残基の数は、好ましくは全配列に対して10%以下、より好ましくは5%以下であり、特に好ましくは10個未満である。
【0015】
MIC1、MIC2、及びMIC5をコードする遺伝子をそれぞれ得る方法としては、GeneBankに登録されている遺伝子情報(AF032905、AF111839又はAF111702、AJ245536)を使ってアイメリアのcDNAライブラリーからポリメラーゼ・チェイン・リアクション(PCR)で目的のcDNAを増幅して得る方法が挙げられる。AMA1をコードするDNAを得る方法は、特開2006−180872号公報に記載されている。
【0016】
[E]ベクター
本発明のDNAワクチンの有効成分であるDNAベクターは、鳥コクシジウム原虫(Eimeria)のMIC1、MIC2、MIC5、AMA1の少なくとも1つの蛋白質をコードするDNAをベクターに組み込んだDNAベクターである。ベクターとしては、ウイルスベクターや非ウイルスベクターが挙げられるが、安全性の観点から非ウイルスベクターが好ましい。非ウイルスベクターとしては、プラスミド、コスミド、ファージなどのような目的の蛋白質をコードするDNAを組み込むDNA導入型非ウイルスベクター;カチオン性リポソームやカチオン性ポリマーなどのような目的の蛋白質をコードするDNAと複合体を形成するタイプの非ウイルスベクター;などが挙げられる。中でも、安全性・操作性の観点からDNA導入型非ウイルスベクターが好適に用いられる。具体的には、pBR322、pBR325、pUC7、pUC8、pUC18、pUC19、pBluescript、pGEMなどのプラスミド、λファージ、M13ファージなどのファージ、pHC79などのコスミドなどが挙げられる。また、これらのプラスミドに必要に応じてクローニングサイト、プロモーター、転写終結シグナルなどを挿入した修飾プラスミドを用いることもできる。
DNA導入型非ウイルスベクターを用いて本発明に用いるDNAベクターを得るには、ベクターを適当な制限酵素で切断し、必要に応じてリンカーなどを介して目的の蛋白質をコードするDNAや後述するプロモーターを挿入する、一般的な組み換えベクターの構築方法を採用すればよい。
【0017】
[F]鶏体内で発現するプロモーター
本発明に用いるDNAベクター中のMIC1、MIC2、MIC5及び/又はAMA1をコードする遺伝子の上流に、これらの遺伝子が制御下になるように、鶏体内で機能するプロモーターを配置することができる。鶏体内で機能するプロモーターとしては、鶏の構成蛋白質(例えばβ−アクチン)のプロモーターや鶏に感染するウイルス由来のプロモーターが好適に用いられ、具体的には鶏β−アクチンプロモーター(Nucleic Acid Res.、11,8287−8301,1983)、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、特開2001−000188号公報で開示されているPecプロモーターなどが例示される。
【0018】
[G]DNAワクチン
本発明のDNAワクチンは、上述した少なくとも4種類の蛋白質を発現するDNAベクターを有効成分として含んだものであり、通常、保存安定剤など薬理学的に問題のない成分を、燐酸バッファー(PBS)などの溶媒に可溶化して用いることができる。
【0019】
更に、ワクチン効果を高めるため、細胞表層にあるトール様レセプターに認識されて細胞性免疫を活性化することが知られているオリゴヌクレオチド(いわゆるCpG)を添加することもできる。
CpGの添加量に格別な制限は無いが、DNAベクター総量に対して、通常5〜100重量%、好ましくは10〜30重量%である。
【0020】
本発明のDNAワクチンの投与方法に格別の制限はなく、筋肉注射、静脈注射、腹腔内注射、卵内接種などの方法が一般的な方法として挙げられる。接種量は、鶏1羽当り、有効成分であるDNAベクター量で通常0.1〜10mg/ml、好ましくは0.5〜5mg/mlの濃度の注射液50μl程度である。また、筋肉への接種に当たっては、市販のエレクトロ・ポレーターや遺伝子銃などを使用してDNAワクチンを体内へ導入する効率を高めることが好ましい。
【実施例】
【0021】
本発明のプラスミドの構築は特に記載がない限り、Molecular Cloning: A Laboratory Manual(第3版)(Cold Spring Harbor Laboratory. Cold Spring Harbor. N.Y. 2001年)記載の標準的な分子生物学手法を用いて行った。尚、制限酵素で切断したDNA断片はアガロースゲル電気泳動後、ゲルからQIAquick Gel Extraction Kit(キアゲン社、製品番号:28704)を用いて精製した。文中で特に断らない限り、ポリメラーゼ・チェイン反応(PCR)は、Ex Taqポリメラーゼ(タカラバイオ社、製品番号:RR001A)を用い、変性条件を94℃にて1分、アニーリング条件を55℃にて2分、伸張反応条件を72℃にて3分として、30サイクル反応させた。
【0022】
1.MIC1の蛋白質をコードする遺伝子のクローニング
1.1 アイメリア・テネラのcDNAライブラリーの調製
アイメリア・テネラの日本野外分離株(財団法人 畜産生物科学安全研究所より分与)のオーシスト1×10個からスポロゾイトを常法に従って調製し、PBSで洗浄後、リシスバッファー(4M グアニジンチオシアネート、25 mMクエン酸ナトリウム、0.5%ラウロイルサルコシン酸ナトリウム、0.1M β−メルカプトエタノール)0.5mlで溶解させた。この液をオリゴdTカラム(Fast−Track mRNA分離キット、Invitrogen社)に通してmRNAを精製した。
相補DNA(cDNA)はcDNA合成キット(タカラバイオ社、製品番号:6120)を用いて合成した。二本鎖DNAを合成した後、cDNAライブラリーキット(タカラバイオ社、製品番号:6119)に包含されているカセットアダプターを用いて、マニュアルに従ってcDNAライブラリーを調製した。
【0023】
1.2 MIC1の蛋白質をコードするcDNA断片のクローニング
アイメリア・テネラのMIC1蛋白のゲノム配列及びcDNA配列は、前述の如く、既に発表されている(Mol. Biochem. Parasitol.(1991)49,277−288)ので、その情報を基にPCRでcDNA断片をクローニングすることができる。使用したPCRプライマーは、M1F1(配列番号5)、M1F2(配列番号6)、M1F3(配列番号7)、M1F4(配列番号8)、M1F5(配列番号9)、M1F6(配列番号10)、M1R1(配列番号11)、M1R2(配列番号12)、M1R3(配列番号13)、M1R4(配列番号14)、M1R5(配列番号15)、M1R6(配列番号16)である。1.1で調製したアイメリア・テネラcDNAライブラリーを鋳型にして、M1F1とM1R1、M1F2とM1R2、M1F3とM1R3、M1F4とM1R4、M1F5とM1R5、M1F6とM1R6の各プライマーセットを使ってPCRを実施した。
【0024】
その結果、約0.5〜0.6kbの大きさのバンドがそれぞれ増幅された。次に、M1F3とM1R3のプライマーセットで増幅されたDNA断片と、M1F4とM1R4のプライマーセットで増幅されたDNA断片を各々1ngずつ加えて新しい鋳型として、M1F3とM1R4のプライマーセットでPCRを実施し、1.1kbのDNA断片が増幅した。同様に、M1F5とM1R5のプライマーセットで増幅されたDNA断片と、M1F6とM1R6のプライマーセットで増幅されたDNA断片を各々1ngずつ加えて新しい鋳型として、M1F5とM1R6のプライマーセットでPCRを実施し、約1.1kbのDNA断片を増幅した。
【0025】
さらに、M1F1とM1R1のプライマーセットで増幅された0.6kbpのDNA断片と、M1F3とM1R4のプライマーセットで増幅された1.1kbpのDNA断片を各々1ngずつ加えて新しい鋳型として、M1F1とM1R4のプライマーセットでPCRを実施し、1.6kbのDNA断片が増幅した。この断片と、M1F5とM1R6のプライマーセットで増幅させた約1.1kbのDNA断片を各々1ngずつ加えて新しい鋳型として、M1F1とM1R6のプライマーセットでPCRを実施し、約2.4kbのDNA断片を増幅させた。
【0026】
この約2.4kbpDNA断片をPCR Script Ampクローニング キット(ストラタジーン社、製品番号:211188)に入っているプラスミドベクターに、製品添付マニュアルに従いライゲーションして、キット内に含まれているコンピテントセルに導入した。そして得られた複数の形質転換株から候補プラスミドを調製し、それらのインサートDNAをシーケンスした。その結果、GeneBankアクセッション番号AF032905として登録されているMIC1蛋白のオープン・リーディング・フレーム(ORF)を完全に含む2442bpのDNAが挿入されたプラスミドpPCR−MIC1が得られた。
【0027】
2.MIC2の蛋白質をコードする遺伝子のクローニング
アイメリア・テネラのMIC2蛋白質をコードする遺伝子のクローニングは、特開2005−287422号の実施例(特に段落0031と図1及び2)に示された方法で調製し、NCBI遺伝子バンクに登録されているMIC2の遺伝子配列AF111839と同一のDNA配列を有するcDNAであるpPCR−EtMIC2を得た。II
【0028】
3.MIC5の蛋白質をコードする遺伝子のクローニング
アイメリア・テネラのMIC5蛋白のcDNA配列は、前述の如く、既に発表されている(Mol. Biochem. Parasitol.、107,91−102,2000)ので、その情報を基にPCRでcDNA断片をクローニングすることができた。使用したPCRプライマーは、EtM5−F(配列番号17)、EtM5−R(配列番号18)、EtM5−1F(配列番号19)、EtM5−2R(配列番号20)、EtM5−3F(配列番号21)、EtM5−4R(配列番号22)、EtM5−5F(配列番号23)、EtM5−6F(配列番号24)、EtM5−7R(配列番号25)、EtM5−8R(配列番号26)である。実施例1.1で調製したアイメリア・テネラcDNAライブラリーを鋳型にして、EtM5−5FとEtM5−7R、EtM5−6FとEtM5−8R、EtM5−1FとEtM5−2R、EtM5−FとEtM5−R、EtM5−3FとEtM5−4Rの各プライマーセットを使ってPCRを実施した。
【0029】
その結果、約0.5〜1.0kbの大きさのバンドがそれぞれ増幅された。次に、EtM5−6FとEtM5−8Rのプライマーセットで増幅されたDNA断片と、EtM5−1FとEtM5−2Rのプライマーセットで増幅されたDNA断片を各々1ngずつ加えて新しい鋳型として、EtM5−6FとEtM5−2RのプライマーセットでPCRを実施し、1.3kbのDNA断片が増幅した。同様に、EtM5−FとEtM5−Rのプライマーセットで増幅されたDNA断片と、EtM5−3FとEtM5−4Rのプライマーセットで増幅されたDNA断片を各々1ngずつ加えて新しい鋳型として、EtM5−FとEtM5−4RのプライマーセットでPCRを実施し、約0.9kbのDNA断片を増幅した。
【0030】
さらに、EtM5−6FとEtM5−2Rのプライマーセットで増幅された1.3kbpのDNA断片と、EtM5−FとEtM5−4Rのプライマーセットで増幅された0.9kbpのDNA断片を各々1ngずつ加えて新しい鋳型として、EtM5−6FとEtM5−4RのプライマーセットでPCRを実施し、2.1kbのDNA断片が増幅した。この断片と、EtM5−5FとEtM5−7Rのプライマーセットで増幅させた約0.8kbのDNA断片を各々1ngずつ加えて新しい鋳型として、EtM5−5FとEtM5−4RのプライマーセットでPCRを実施し、約2.8kbのDNA断片を増幅させた。
【0031】
この約2.8kbpDNA断片をPCR Script Ampクローニング キット(ストラタジーン社、製品番号:211188)に入っているプラスミドベクターに、製品添付マニュアルに従いライゲーションして、キット内に含まれているコンピテントセルに導入した。そして得られた複数の形質転換株から候補プラスミドを調製し、それらのインサートDNAをシーケンスした。その結果、GeneBankアクセッション番号AJ245536として登録されているMIC5蛋白のオープン・リーディング・フレーム(ORF)を完全に含む2812bpのDNAが挿入されたプラスミドpPCR−MIC5を得た。
【0032】
4. AMA1蛋白質をコードするcDNAのクローニング
アイメリア・テネラのAMA1蛋白質をコードするcDNAは、特開2006−180872号公報の実施例1に記載されている方法に従って得た。
【0033】
5. その他の遺伝子のクローニング
5.1 ミクロネーム3をコードする遺伝子のクローニング
PCRプライマーMIC3g(配列番号27)とMIC3b(配列番号28)を使って、前記1.1で調製したアイメリア・テネラcDNAライブラリーを鋳型にしてPCRを行ったところ、約400bpのPCR断片が増幅された。この増幅断片をシークエンスしたところ、381bpであり、Neospora caninumのmicroneme−associated protein (38%)やToxoplasma gondiiのミクロネーム (34%)とホモロジーがあった。この増幅断片をPCR DIG Probe synthesis kit (Roche Molecular Biochemicals)を用いてDIG標識した。このDIG標識されたPCR産物をプローブとして、アイメリア・テネラcDNAライブラリー(前記1.1のcDNAライブラリーをStratagene社のLambda ZAP II Vector Kitで作製したライブラリー)をスクリーニングした。その結果、2619bpの挿入領域を有し865個のアミノ酸をコードするアイメリア・テネラ由来の遺伝子を有するクローン(λZAPクローン)を得た。この865個のアミノ酸配列について、NCBIのBLASTサーチをしたところ、やはりNeospora caninumのmicroneme−associated protein(NcMIC1)やToxoplasma gondiiのミクロネームと相同性があることがわかった。従ってこのアミノ酸配列はアイメリア・テネラのミクロネーム3(以下、MIC3という)に相当すると判断した。
【0034】
5.2 ミクロネーム4をコードする遺伝子のクローニング
MIC4遺伝子全長をクローニングすることは出来なかったが、MIC4の一部分(図4中のa、b、cで表される領域)のみが、以下の方法によりクローニングされた。
PCRプライマーM4−2R(配列番号29)とM4−3F(配列番号30)を使って、前記1.1で調製したアイメリア・テネラcDNAライブラリーを鋳型にしてPCRを行ったところ、約480bpのPCR断片が増幅された(このDNA断片は図4のcに示す領域に相当し、MIC4cと命名)。また、M4−1F(配列番号31)とM4−1R(配列番号32)のプライマーセットで増幅DNAが得られ(このDNA断片は図4のaに示す領域に相当し、MIC4aと命名)、更にM4−6F(配列番号33)とM4−7R(配列番号34)のプライマーセットで増幅DNAが得られ(このDNA断片は図4のbに相当し、MIC4bと命名)、これら3断片をそれぞれpPCR Script ベクター(STRATAGENE社)にクローニングしたベクターをpPCR−M4a、pPCR−M4b、pPCR−M4cと命名し、シークエンスで挿入DNA配列を確認した。
【0035】
6. DNAベクターの調製
DNAワクチン用のベクターとして、特開2004−000111号公報の実施例で開示したプラスミドpNZ45/46BacpAを用いた。このプラスミドは、pUC18を用いて構築されたものであり、鶏β−アクチンプロモーターを有する。このプロモーターの制御下に上記1から5でクローニングされた各遺伝子を挿入してDNAベクターを調製した。
以下、具体的に記載する。
【0036】
6.1 p45BacEtMIC1の調製
前記1.1で得られたpPCR−MIC1を制限酵素XbaIとSalIで切断して挿入DNAを切り出し、同じくXbaI/SalIで切断したpNZ45/46BacpAとライゲーションして、p45BacEtMIC1(図1)を作製した。
【0037】
6.2 p45BacEtMIC2の調製
特開2005−287422号の実施例2の記載に従って、p45BacEtMIC2を得た。
【0038】
6.3 p45BacEtMIC5の調製
前記3で得られたpPCR−MIC5を制限酵素XbaIとSalIで切断して挿入DNAを切り出し、同じくXbaI/SalIで切断したpNZ45/46BacpAとライゲーションして、p45BacEtMIC5(図2)を作製した。
【0039】
6.4 p45BacEtMAM1の調製
特開2006−180872号の実施例5の記載に従って、p45BacEtAMA1を得た。
【0040】
6.5 p45BacEtMIC3の調製
前記5.1でMIC3のDNAと判断されたDNAが挿入されていたλZAPクローンから制限酵素EcoRIとXhoIで切断して挿入DNAを切り出し、EcoRI/SalIで切断したpNZ45/46BacpAとライゲーションしてp45BacEtMIC3(図3)を作製した。
【0041】
6.6 p45BacEtMIC4abcの調製
実施例5.2で得られたMIC4a、MIC4b、及びMIC4cの3DNA断片をインフレームで発現するベクターp45BacEtMIC4abcを構築する為、MIC4aのN末端に制限酵素サイトと翻訳開始コドンを、MIC4cDNA断片の両末端に制限酵素サイトをPCRで導入する必要があった。pPCR−M4cを鋳型にしてPCRプライマーM4Cstop−F(配列番号35)とM4C3−R(配列番号36)でPCRを行い、制限酵素EcoRIとSalIで切断して約0.4kbpのDNA断片を回収した。また、pPCR−M4aを鋳型にしてPCRプライマーATGM4A−F(配列番号37)とM4−1RのプライマーセットでPCRを行い制限酵素XbaIとBglIIで切断して、約0.4kbpのDNA断片を回収した。更に、pPCR−M4bを制限酵素BglIIとEcoRIで切断して、約0.7kbpのDNA断片を回収した。回収したこの3DNA断片をXbaI/SalIで切断したプラスミドpNZ45/46BacpAのXbaI/SalIサイトにT4DNAライゲースを用いて挿入して出来たプラスミドをp45BacMIC4abcと命名した。MIC4abcのオープン・リーディング・フレーム(ORF)の塩基配列とアミノ酸配列とは、それぞれ配列番号38と39のとおりである。pPCR−MIC4abcを制限酵素XbaIとSalIで切断して挿入DNAを切り出し、同じくXbaI/SalIで切断したpNZ45/46BacpAとライゲーションして、p45BacEtMIC4abc(図5)を作製した。
【0042】
実施例1,2、比較例1〜5 DNAワクチンの効果試験
・混合DNAワクチンの調製
DNAワクチンサンプルは、燐酸バッファー(PBS)1ml当たり1mgになるように調製するが、混合DNAワクチンの場合は、DNAワクチン全体で1mgになるように、表1中の○で示した各DNAベクターを等量ずつ混合した。また、アジュバントとしてCpG(配列番号43)とCpG−30(配列番号44)もそれぞれ0.1mgずつ含むように調製した。
【0043】
・鶏免疫法及びコクシジウム(アイメリア・テネラ)攻撃試験方法
SPF卵(日本生物科学研究所)から孵化した鶏(LineM)が2週齢の時に、上記(実施例7.1)のようにして調製されたDNAワクチンサンプルを、50μl/羽ずつ後肢筋肉に注射した後、直ちに接種部位にエレクトロ・ポレーター(Gentronics社、モデルECM830)を使って電気刺激(50V、20μ秒、1秒間隔で3回、更に電極を逆にして3回)した。1週間後、同様にして同量のDNAワクチンを接種した。DNAワクチン接種2週後(38日齢)にDNAワクチン接種群及び攻撃対照群の鶏のそ嚢内に、アイメリア・テネラの日本野外分離株の胞子形成オーシスト1000個を単回強制経口投与することにより攻撃を行なった。また、攻撃しない鶏を非攻撃対照群とした。攻撃後8日目に各鶏を解剖し腸の病変を観察し、病変に応じて0(正常)、1(軽度の病変)、2(中軽度の病変)、3(中度の病変)または4(重度の病変)のスコアを付けた。各群毎にスコアを集計して、統計処理を行った。
【0044】
・コクシジウム攻撃試験結果
125羽のSPF鶏を9群に分け、その内の7群に混合DNAワクチンを接種し、残る2群(20羽)には、ワクチンを接種しなかった。混合DNAワクチンに含まれるDNAベクターは、表1に記載した。7.2に記載した方法に従って、混合ワクチン接種群(7群)と接種しなかった2群の内の1群にアイメリア・テネラのオーシストを経口投与した。残る1群は非攻撃対照群としてコクシジウム攻撃もしなかった。この攻撃試験結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1に示したように、p45BacEtMIC1、p45BacEtMIC2、p45BacEtMIC5、p45BacEtAMA1からなる混合DNAワクチンを接種した6群、及び更にp45BacEtMIC3やp45BacEtMIC4abcをも含む混合DNAワクチンを接種した1群の鶏が統計上の有意差を持って、病変の程度が低かった。それに対し、1群の6種からp45BacEtAMA1を欠いた5種を接種した2群や、p45BacEtMIC5を欠いた3群、p45BacEtMIC2を書いた4群、p45BacEtMIC1を欠いた5群では、攻撃対照群(8群)と比べて統計上の有意差は無かった。また6群のp45BacEtMIC2の代わりにp45BacEtMIC4abcにした混合DNAワクチンを接種した7群も有意差のあるワクチン効果が見られなかった。
【0047】
表1の結果より、少なくともMIC1、MIC2、MIC5、AMA1の蛋白質を発現するDNAベクター4種を含む混合DNAワクチンが鳥コクシジウム症に対するワクチンとして効果があり、このうちのどれか1つを欠いても効果が低下することがわかった。
【0048】
実施例3 DNAワクチンの効果試験(その2)
・CMVプロモーターを利用したDNAベクターの調製
CMVプロモーターを含む市販プラスミドpBK−CMV(Stratagene社;カタログ#:212209)を鋳型としてPCRプライマーCMVBglI−F(配列番号40)とCMVXba−R(配列番号41)でCMVプロモーターの5’端にSfiIサイト、3’端末にXbaIサイトを導入してプロモーター部分を増幅させ、pPCR Script Amp ベクターにクローニングして、pPCR−CMVを得た。クローニングされたCMVプロモーターをシーケンスして配列を確認した。この確認されたCMVプロモーター配列を配列番号42に記載する。先に得られたp45BacEtMIC1、p45BacEtMIC2、p45BacEtMIC5、p45BacEtAMA1のβーアクチンプロモーター部分を、pPCR−CMVから制限酵素BglIとXbaIで切断して得たCMVプロモーターで置換したプラスミドをそれぞれ構築して、p45cmvEtMIC1、p45cmvEtMIC2、p45cmvtMIC5、p45cmvEtAMA1と命名した。
【0049】
・混合DNAワクチンの調製
実施例3で使用するDNAワクチンサンプルは、PBS 1ml当たり、混合するDNAベクターp45cmvEtMIC1、p45cmvEtMIC2、p45cmvEtMIC5、p45cmvEtAMA1をそれぞれ0.25mgずつ混合した。また、アジュバントとしてCpGとCpG−30もそれぞれ0.1mgずつ含むように調製した。
【0050】
・鶏免疫法及びコクシジウム(アイメリア・アッセルブリナ)攻撃試験方法
SPF卵(日本生物科学研究所)から孵化した鶏(LineM)が2週齢の時に、実施例8.1の混合DNAワクチンを、実施例7.2と同様な方法で接種した。1週間後、同様にして同量のDNAワクチンを追加接種した。DNAワクチン接種2週後(38日齢)にDNAワクチン接種群及び攻撃対照群の鶏のそ嚢内に、アイメリア・アッセルブリナの日本野外分離株の胞子形成オーシスト5000個を単回強制経口投与することにより攻撃を行なった。また、攻撃しない鶏を非攻撃対照群とした。攻撃後4日目に各鶏を解剖し腸の病変を観察し、病変に応じて0(正常)から4(重度の病変)のスコアを付けた。群毎にスコアを集計して、統計処理を行った。
【0051】
・コクシジウム(アイメリア・アッセルブリナ)攻撃試験結果
40羽のSPF鶏を3群に分け、その内の1群に混合DNAワクチンを接種し、残る2群には、ワクチンを接種しなかった。8.2に記載した方法に従って、混合ワクチン接種群(1群)と接種しなかった2群の内の1群(2群)にアイメリア・アッセルブリナのオーシストを経口投与した。残る1群は非攻撃対照群としてコクシジウム攻撃をしなかった。この攻撃試験結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
表2に示したように、p45cmvEtMIC1、p45cmvEtMIC2、p45cmvtMIC5、p45cmvEtAMA1からなる混合DNAワクチンを接種した1群の鶏は有意に病変の程度が低かった。この結果より、少なくともMIC1、MIC2、MIC5、AMA1の蛋白質を発現するDNAベクター4種を含む混合DNAワクチンがアイメリア・アッセルブリナによる攻撃に対しても有効であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、DNAベクター p45BacEtMIC1の制限酵素地図である。
【図2】図2は、DNAベクター p45BacEtMIC5の制限酵素地図である。
【図3】図3は、DNAベクター p45BacEtMIC3の制限酵素地図である
【図4】図4は、アイメリア・テネラのMIC4蛋白のcDNAとクローニング領域である。
【図5】図5は、DNAベクター p45BacEtMIC4abcの制限酵素地図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鳥コクシジウム原虫(Eimeria)が発現する蛋白質の内、少なくともミクロネーム1、ミクロネーム2、ミクロネーム5、及びアピカルメンブレン抗原1の4種類の蛋白質を発現するDNAベクターを含む鳥コクシジウム症に対するDNAワクチン。
【請求項2】
ミクロネーム1、ミクロネーム2、ミクロネーム5、アピカルメンブレン抗原1がそれぞれ配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4のアミノ酸配列からなるものである請求項1のDNAワクチン
【請求項3】
ミクロネーム1、ミクロネーム2、ミクロネーム5、アピカルメンブレン抗原1をコードする遺伝子が、それぞれ鶏体内で機能するプロモーター制御下に配置されたDNAベクターを含む請求項1又は2記載の鳥コクシジウム症に対するDNAワクチン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−133200(P2008−133200A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−318511(P2006−318511)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】