説明

麦類の種子から得られた麦芽を含む食品及びその製造方法

本発明は、麦類の麦芽を食品の原料の一部に使用することで、オリゴ糖の含有量を高めた食品及びその製造方法を提供することを目的とする。
麦類の種子を水又は温水に所定時間浸漬させ、発芽処理を行うことによって得た麦芽を食品の原料の一部に使用することで、オリゴ糖自体を添加することなしに、例えば、高機能性オリゴ糖である、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース等のオリゴ糖の含有量を高めた食品及びその製造方法を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麦類の種子を発芽させて得た麦芽を含む食品に関し、より詳細には、原料の一部に麦類の種子を水又は温水に所定時間浸漬させ、発芽処理を行って得た麦芽を使用することで、オリゴ糖を添加することなしに、オリゴ糖の含有量を高めた食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、食品に様々な有効成分を添加した機能性食品が市販されてきた。
【0003】
特に、近年は消費者の健康志向が高まり、機能性成分としてのアミノ酸、食物繊維などを添加した食品や清涼飲料水が開発されている。例えば、遊離アミノ酸の一種であるγ−アミノ酪酸、いわゆるギャバは、生体内において、抑制系の神経伝達物質として作用することが知られており、また、血圧降下作用、精神安定作用、腎、肝機能改善作用、アルコール代謝促進作用などが知られている。したがって、ギャバを添加した機能性食品は、今日注目される一つの機能性食品である。
【0004】
また、β−グルカンなどが代表的である食物繊維は整腸作用や血糖値の上昇抑制作用など様々な機能性を有し、食物繊維を配合した飲料水等が製品化されている。
【0005】
さらにまた、オリゴ糖も近年の食品産業における、重要な機能性成分の一種であり、従来から様々な研究が行われている。
【0006】
デンプンの酵素分解により得られるデンプン糖もしくはオリゴ糖については、様々な特性を有することが報告されており、一般的に高分子になるほど保水性が上昇し、結晶防止効果が高くなることが報告されている。(非特許文献1を参照。)。
【0007】
例えば、マルトテトラオースは、砂糖と比較して保湿性や溶解性に優れ、デンプンの老化を低減できるとともに、消化性・吸収性に優れた特性を有するため、エネルギー補給用糖質として各種スポーツ飲料、栄養剤などの清涼飲料水にも使用され、機能性を持つ糖質としても注目されている(非特許文献2を参照。)
このように、オリゴ糖を含む食品は優れた特性を有することが期待されるが、従来の技術では、オリゴ糖を含む清涼飲料水や食品を製造するために、主としてオリゴ糖自体を食品添加物として清涼飲料水や食品に添加する方法が採用されている。
【非特許文献1】インターネット<URL:www.hayashibara.co.jp/h_shoji/knowledge_suger/#11>
【非特許文献2】インターネット<URL:www.hayashibara.co.jp/hotnews/press/1997/malto.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明は上述に鑑みてなされたものであり、麦類(大麦、小麦、ライ麦、えん麦、ライ小麦)の種子を水又は温水に所定時間浸漬後、発芽処理を行うことによって得た麦芽を原料の一部に使用することで、オリゴ糖を添加することなしに、食品中のオリゴ糖含有量を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、上記目的は、請求項1に記載されるが如く、麦類の種子を水又は温水に所定時間浸漬後、発芽処理を行うことによって得られる麦芽をオリゴ糖供給源として原料の一部に含むことを特徴とする食品の製造方法により達成される。
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、麦類の種子を水又は温水に所定時間浸漬後、発芽処理を行うことによって得られる麦芽をオリゴ糖供給源として原料の一部に含むことで、オリゴ糖を添加することなしに、食品中のオリゴ糖含有量を高めた食品の製造方法を提供でき、結果として、オリゴ糖含有量を高めた食品を提供できる。
【0011】
請求項2にかかる発明は、請求項1の発明において、前記麦芽の配合比を制御することによって、該麦芽中のオリゴ糖含有量を調整したことを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、食品原料中の前記麦芽の配合比を制御することによって、該麦芽中のオリゴ糖含有量を調整できる食品の製造方法が提供でき、結果として、オリゴ糖を添加することなしに、食品中のオリゴ糖含有量を高めた食品が提供できる。
【0013】
請求項3にかかる発明は、請求項2の発明において、前記オリゴ糖は、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオースであることを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、オリゴ糖自体を添加することなしに、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオースの含有量を高めた食品の製造方法を提供でき、結果として、それらオリゴ糖の含有量を高めた食品を提供できる。
【0015】
請求項4にかかる発明は、請求項1乃至3に記載の製造方法によって得られる食品を提供する。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1乃至3に記載の製造方法を使用することによって、オリゴ糖自体を添加することなしに、オリゴ糖の含有量を高めた食品を提供できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、麦類の種子を水又は温水に所定時間浸漬させ、発芽処理を行うことによって得た麦芽を食品の原料の一部に使用することで、オリゴ糖自体を添加することなしに、オリゴ糖の含有量を高めた食品及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】強力粉及び麦芽粉の各種糖組成を示す図である。
【図2】パン製造工程における糖組成の変化を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明者らは、麦類の種子を水又は温水に所定時間浸漬させ、発芽処理を行うことによって得た麦芽、例えば、大麦麦芽を原料の一部として食品を製造することにより、食品中のギャバやその他の遊離アミノ酸含有量が高められることを既に知見して報告している。そこで、麦芽を原料の一部に使用することにより、食品中の糖組成がどのような影響を受けるかについて検討実験を実施した。
【0020】
まず、強力粉と麦芽粉の各種糖組成を測定した。ビールや発泡酒の原料となる大麦麦芽の製造工程(以下「製麦工程」という)によって、麦芽を製造した。
【0021】
一般に、製麦工程とは、浸麦、発芽、焙燥工程からなり、具体的には、大麦を水又は温水に浸漬し水分を吸収させ(浸麦)、次に当該浸麦大麦を発芽処理し(発芽)、その過程で酵素の生合成と貯蔵物質の一部の分解を行わせた後、乾燥加熱(焙燥)して麦芽にするまでの工程をいう。なお、本発明者の検討によると、焙燥工程は加熱処理であるため、遊離アミノ酸、食物繊維等の機能性成分含有量が変化することが確認されており、オリゴ糖についても変化の可能性が考えられるため、加熱乾燥ではなく、凍結乾燥等麦芽中のオリゴ糖含有量が変化しないよう処理しても良い。次に、当該麦芽を粉砕し麦芽粉とし、強力粉と比較して糖組成を測定した結果、マルトース含有量はサンプル間でほとんど差がなかったが、検出されたその他の糖含有量は麦芽粉の方が高いことが判明した。一方、マルトテトラオース以上のオリゴ糖は、いずれのサンプルでも検出できなかった。
【0022】
さらに、強力粉に麦芽粉を配合して食品を製造して、製造工程における糖組成の変化を測定した。様々な配合比で製造したロールパンの糖組成を比較したところ、特定のオリゴ糖、例えば、マルトトリオースは配合比率に応じて増加し、さらに原料中と発酵直後の生地中では検出されなかったマルトテトラオーズ、マルトペンタオース、マルトヘキサオース等のオリゴ糖が、焼き上げ工程後に相当量増加した。
【0023】
本実施態様の結果、大麦麦芽を原料に配合した食品の製造工程において、原料には含まれないオリゴ糖が生成されることが明かとなり、また麦芽の配合比率を高めるほど、これらのオリゴ糖の生成量が高くなることが明かになった。
【0024】
したがって、本発明により、麦類の種子を発芽させて得た麦芽、例えば、大麦麦芽を原料として利用することにより、食品中のオリゴ糖含有量を高めることが可能となる。
【0025】
以下に実施例を示して本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0026】
強力粉及び麦芽粉の各種糖組成
強力粉と麦芽粉の糖組成を比較測定した。麦芽粉の原料となった麦芽(品種:はるな二条)は、サッポロビール標準法に従い、パイロット製麦により製造した。発芽工程で発芽日数6日目の麦芽を粉砕し麦芽粉を製造した。サンプルを20mg/800μl蒸留水にて一晩(5℃)振とうし、糖組成分析装置(DIONEX製)を用いて糖組成を測定した(図1)。図1は、強力粉及び麦芽粉の各種糖組成を示すグラフである。図1から、マルトース含有量はサンプル間でほとんど差が見られなかったが、検出されたその他の糖含有量は麦芽粉の方が高かった。またマルトテトラオース以上の分子量が高いオリゴ糖は、いずれのサンプルでも検出できなかった。
【実施例2】
【0027】
製造工程における糖組成の変化
実施例1と同様の麦芽粉を強力粉に0%、0.36%、10%、20%の比率で配合し、ロールパンを製造した。配合率0.36%は、従来からパン製造時に一般的に使用される、最も一般的な麦芽粉配合率である(Briggs, Malts and Malting, 1998, p.9)。これらの原料をもとにパンを製造し、パン製造工程における糖組成の変化を測定した(図2)。図2はパン製造工程における糖組成の変化を示す。
【0028】
麦芽粉添加区では、麦芽粉0%区と比較すると、いずれもパン中(焼き上げ後)でマルトース含有量の増加傾向が認められたが、麦芽粉の配合比率には大きな影響を受けなかった。一方、パン中のマルトトリオースは、麦芽粉の配合比率に応じて増加した。またマルトテトラオーズ、マルトペンタオース、マルトヘキサオースは、原料中と発酵直後の生地中では検出限界以下であったが、麦芽粉配合比率が0.36%を大きく上回る10%、20%配合区では、焼き上げ工程後のパン中で検出された。
【0029】
以上の結果から、麦芽粉を従来の製造方法よりも高い配合比率で使用することにより、食品中のオリゴ糖含有量を高められることが明かとなった。
【0030】
以上本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦類の種子を水又は温水に所定時間浸漬後、発芽処理を行うことによって得られる麦芽をオリゴ糖供給源として原料の一部に含むことを特徴とする食品の製造方法。
【請求項2】
前記麦芽の配合比を制御することによって、該麦芽中のオリゴ糖含有量を調整したことを特徴とする請求項1に記載の食品の製造方法。
【請求項3】
前記オリゴ糖は、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオースであることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3に記載の製造方法によって得られる食品。

【図1】
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【図2】
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【国際公開番号】WO2005/063045
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【発行日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516585(P2005−516585)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019070
【国際出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(303040183)サッポロビール株式会社 (150)
【Fターム(参考)】