説明

麹培養エキスの水抽出による蜜

【課題】 白米を精製する過程で作られる米糠や豆腐を製造する過程で出るおからは、いずれも栄養素が高く、腸内の清掃作用や糖の吸収作用を持つ繊維質も豊富であるが、現状ではほとんどが廃棄され、逆にその処理処分にお金がかかり、焼却処理したときなどは環境に付加を与えるものになっている。そこで、これらを基質として、麹菌を培養してその過程で付加されるビタミンや酵素の豊富な健康補助食品や食品を作り、食品廃棄物の資源化、循環利用に寄与することが目的である。
【解決手段】糠やおからを基質とした蜜作りは、最初から水溶液中で麹菌を培養増殖するのではなく、空気中に於いてそうした基質の水分と送風量などの調整をしながら麹培養を行い、これを水に浸漬してエキス抽出し、その水溶液に糖を混入させて蜜を作るという方法で行った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は健康補助食品及び健康増進機能を持つ食品に関する。
【背景技術】
【0002】
我々が食べる穀類の食べ方は、栄養面での活用方法や利用率という点から言うと必ずしも合理的な方法となってはいない。例えば、お米については通常主食としては胚芽と表皮部分を米糠として取り去り、残りの白米部分を食べている。ところが、お米の栄養素はこの米糠の中にほとんど含まれていることが知られている。米糠はいわゆるぬか味噌用の基材として利用される以外はほとんどが廃棄される。
【0003】
また、大豆を使った豆腐作りは今なお街のどこかにお豆腐屋さんがあるという形で続けられている。ところが、ここでも使用した大豆から豆腐として利用できるのは豆乳として取り出される分のみであり、約半分量はおからとして捨て去られる。おからもこれまでは飼料として活用されることが多かったが、畜産が郊外へ郊外へと追いやられ、集約化される中でこうした毎日できるおからを飼料として回収し、畜産業の下に届けるという事業が成り立たなくなりつつある。「廃棄物」を有効利用する循環型の社会機構がなくなりつつある。
[特許文献1]特開平8−40
[特許文献2]特開平6−303936
[特許文献3]特開平8−256721
[特許文献4]特開平10−262591
[特許文献5]特開2002−27929
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自由市場経済社会は、ある産業から出る廃棄物が別の産業の資材として利用できる場合、それを積極的に活用する。そうした経済的合理性をもっている。しかし、諸要因の変化によって、そうした受け渡しによる循環利用ができなくなると廃棄物は資源として活用される道を失い、文字通り廃棄物となる。ここで問題となっている食品廃棄物の場合、新しい活用方法や保存性などを考えないと焼却や埋立ての処理によって処分されることになり、大気や土壌、水を汚すことになった。
【0005】
そこで、本願では、米糠やおからという栄養価が高く、現在注目される繊維質に富む有機性の基質に、米糠を培養し、培養過程で生み出される酵素も活用できる保存性の良い新たな健康補助食品を提供し、これまで廃棄されて来た米糠やおからなどの活用を計ることが目的である。
【0006】
本願出願人は、先に特願2003−104618で、米糠に麹菌接種し、麹菌を培養し、保存性に富む米糠麹ならぬ玄米麹の麹培養方法と玄米麹を提案した。そこでは、従来米糠という取り扱いにくい素材を粒状に処理することによって麹培養を可能にした。米糠が持つ栄養素に加え、麹菌がこの栄養素を自らのエサとして分解するために吐き出す分解酵素が実は私達が食べ物を食べ消化分解する上での分解酵素として役立っていく点を利用し、豊富な栄養素に加え、酵素を含む健康補助食品として提案した。
【0007】
本願ではこの考え方を更に進め、毎日食べる食品、具体的にはこの米糠麹のエキスを抽出した水溶液で蜜を作り、パンなどにつけるとともに、煮物などに使う糖類として利用できるようにした。こうして米糠の新しい活用方法を提供し、同時にそれが利用者にとって健康増進に寄与するようにした。
【0008】
また、本願では有機性の素材として、米糠だけでなくおからに注目し、これに麹菌を接種し、麹菌培養を実現するように試みた。麹菌を培養することによって保存性を高め、長距離移送や保管を容易にし、家畜にとっての健康補助飼料とするとともに、植物性たんぱく質をベースとした人間にとっても役立つ健康補助食品を作るようにした。また、玄米麹同様このエキスを抽出し、ここからも蜜を作るようにした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
通常、蜜は液体がベースであり、これに糖類を投入し、加湿して馴染ませることによって作る。従って、直接的には液状の培地で麹菌を働かせることが考えられる。例えば、「特公平8−10」には米麹や大豆類を水の中に投入し、液状の培地で納豆菌などを働かせて菌の培養を計ることが記載されている。好気性雰囲気下で培養したとあり、麹菌を働かせることも可能かと考えられるが、ここには具体的方法は示されていない。酒作りの場合は米2:麹3:水6という割合で酒母を作り、そこで麹菌と酵母菌を同時に働かせ、互いの菌が補完的に働き、酵母菌の出す酵素の供給を受け麹菌が嫌気の液中でも働き、でんぷんをアルコールと糖に分解するという奇跡の平行複合発酵が行われている。
【0010】
しかし、液状状態で麹菌を働かせることは酒作りの例を見るまでもなく、その制御管理が大変なことである。そこで、本願では▲1▼通常の空気中に於いて基質である米糠やおからなどの有機物に麹菌を接種し、麹菌を増殖培養する条件を整え、基質を白く覆うぐらいに麹培養を行った。▲2▼これを水中に浸漬し、基質及び麹、麹の生成物を水中にエキスとして抽出するようにし、▲3▼このエキスを含む水に糖類を混ぜて適度に加湿し、蜜を作るようにした。
【0011】
また、おからの麹菌の培養に当たっては▲1▼粒状に加工し、この粒状を保ちながら蒸し、粒状を保つことによって一方では保水性を高めるとともに、空気の流通性を良くし、麹菌を働き易くした。▲2▼粒状加工にあたっておからの場合、水分を60〜70%含んでいるため、酢だけ使用し、pH値を下げ、また高温で短時間蒸すことによって雑菌対策を行い、麹菌が増殖培養し易くした。▲3▼麹菌が最も働き易い温度で維持できるように空気を送って制御できるようにした。
【発明の効果】
【0012】
米糠やおからなどのこれまでは廃棄され、その処分にお金がかかっているものを麹菌を接種培養することによって、その素材の持つ豊富な栄養素に加え、麹菌の働きで作られるビタミン・酵素などが付加され、従来にない健康補助食品に作り代えることができた。また、これを利用して作った蜜は更に利用頻度が高く、使用量も多い食品であるため、この利用による社会的意義は計り知れない。
【0013】
この蜜は米糠やおからの素材の味覚をそのままエキスとして移し持っているため、従来にない味わいをもつ自然食品として提供できることになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下の図面に基づき、本発明を詳細に説明する。図1は本発明による米糠を基質とする蜜の製造方法の一実施例のブロック図である。(2)は玄米の発芽と表皮からなる米糠で、粉末状のものである。(4)は水、(6)は酢、(8)は米糠の粉末を粒子状にするための造粒工程、(10)は蒸し工程、(11)は冷却工程、(12)は種麹菌、(14)は米糠の基質に種麹菌を接種し、混合撹拌する工程、(16)はむろでの培養工程、この(2)〜(16)までの工程が米糠を基質とした麹培養工程1である。(18)はエキス抽出工程、(20)は加湿工程、(21)は黒砂糖、もしくは白砂糖、三温糖、黒糖の混入工程、(22)は加熱、(23)は容器への封入工程である。
【0015】
玄米を白米にする過程で生み出される米糠(2)は、胚芽と表皮が混在したものであり、10〜数100μmの粉末状にある。この米糠を100とし、40〜50重量%の水(4)と、20〜30重量%の酢を投入し、造粒工程(8)で粒子状に造粒する。粒子の大きさは略2〜4mm(直径)の大きさである。この造粒工程(8)で多量の酢(pH2前後)を使用するのは、米糠に付着している雑菌の増殖を抑えることが目的である。粒子状に造粒し、形を保持するためには水分量の調整が大切であるが、その時の湿度状態などにも大きく左右されるため、調節しながら水分量の増減を計る。にんにくをこの過程で投入することもある。これは、にんにくの殺菌力と米糠にはふくまれていない栄養素面、強精作用を考えて投入している。投入量は5重量%である。
【0016】
造粒工程(8)で、粒子状にした上で蒸し工程(10)で100℃から120℃の蒸気で20〜30分米糠を蒸す。粒子状にしているため、平均的に熱がまわり蒸すことができ、胚芽と表皮が充分水分を含む状態になる。従ってまた麹菌によって分解し易くなる。蒸しあがったものを冷却工程(11)で35℃前後に冷却した上で、種麹菌(12)をこの蒸しあがった粒子状の米糠に投入し、撹拌工程(14)で撹拌する。この時点での米糠のpHは「5」以下で、酸性を示し、腐敗を抑える働きを持たせるようにしている。ここでは、アスペルギルスオリーゼ菌(Aspergillus oryzae)を使ったが、その他の麹菌を使用しても良い。
【0017】
培養工程(16)は、室温を35℃前後に保ったむろの中で行う。このむろの中には、図2に示したような培養床(24)が設けてある。この培養床(24)は、5〜7cm位の間隔に複数の仕切り部材(26)を配置し、奥行きは1.5〜2m位ある複数の部屋に仕切っている。この培養床(24)の床(28)はファン(30)を働かせた時は送風されてくる空気が流れるようにしている。この仕切り部材(26)は図3にみるように固定用の金具(32)とそれを包むメッシュの大きい布(34)でできていて、図2のファン(30)から送られてくる空気はこの仕切り部材からも図3の矢印のように各部屋の中に送り込まれるようにしている。
【0018】
蒸し工程(10)を経て蒸し上がり、適度に冷却工程(11)で冷却した粒子状の米糠は、種麹菌(12)を接種されて、この培養工程(16)で、培養床(24)の各部屋に厚さ約10cmの高さに静置される。粒子状となり、水分をたっぷりと保水した米糠をこの培養床で8〜14時間静置すると麹菌が働き、静置するときは20℃前後だった温度がその働きで、37〜38℃へと上がってくる。このとき、粒子状に造粒していなければ水分が偏在し、空気の流通が悪くなり、麹菌の繁殖にむらが起こるが、粒子状にしているためほぼ均一に繁殖する。
【0019】
培養床(24)にいれた米糠の温度が略38℃になると、ファン(30)によって送風を始める。この温度域を超えると麹菌の働きが弱まり、種麹に付着していた酵母や雑菌が繁殖を強めることになる。酵母が中心に働いた時には、麹菌によって糖化が進んでいる部分をアルコール発酵させ、甘酒のような匂いがすることになる。その他の腐敗菌が働くと、悪臭を発しながら腐敗に進むことになる。そのため米糠の温度をその38℃までに保ちながら酸素を送り、麹菌の働きを強める。ここでも、この状態で8〜12時間すると米糠の表面が少し白くなり始める。この状態での空気の供給は麹菌の働きを強める。粒子状にしているため、送られた空気が万遍なく行き渡る事を可能にする。また、空気が送られても1つ1つの粒子がその中に水を保水しているため、菌の働きが弱まることはない。
【0020】
この後、豆腐作りで1丁1丁の大きさに着るように培養床(24)から5〜7cm幅で長さ15cmくらいの大きさのブロックを取り出し、むろの中で静置と送風を繰り返し、そのブロックの表面が繁殖した麹菌によって真白になるまで培養する。培養工程(16)では、この3つの工程を経て培養を終える。この工程で麹菌はでんぷん、たんばく質、脂質からなる米糠を、ブドウ糖やアミノ酸に分解するとともに、その過程で産出されるビタミンや酵素にあふれた生成物がつくりだされることになる。
【0021】
こうして作り出された生成物は網目の詰まった布袋の中にいれ、水の中に浸漬する。この状態を数時間続けることによって基質及び麹及び麹生成物などのエキス分を水の中に溶出させる形で抽出する。これがエキス抽出工程(18)である。
【0022】
この後、加湿(20)し、糖類(果糖や黒砂糖、三温糖、白砂糖など)をおよそ、水分量と同量近いかそれ以上投入(21)する。この状態で一定時間間隔で撹拌して、糖分を馴染ませ、2〜3日置く。糖の濃度が薄いとすぐ腐敗系に走ることになるが、見た感じやかき回した感じで粘りが出ている時には糖濃度が高く、浸透作用で微生物の水分を取り、微生物の多くを死滅させることになる。容器への封入(23)直前に数秒間高温加熱(22)し、雑菌を取り除く。
【0023】
以上、本発明による米糠を基質とした麹培養方法と蜜の製造について説明を行ってきた。粉体としての米糠を基質にして、そのまま麹菌を働かせようと思っても、混入する水分量や麹菌の投入量の調節が難しい。麹菌は、好気菌であるからといって送風して酸素を供給し、乾燥してしまえば菌自体が働きを弱めることになる。そうした問題を粒状にすることにより保水性と通気性をよくし、それを基本に説明してきたような工夫をしたのが本発明による培養方法である。
【0024】
おからを基質とした麹菌の培養は図4のような製造上の流れとなる。ここで図1と同じ番号は図1と同じ製造方法をとることとなる。基本としては、米糠の培養と同じであるが、おから(40)では元々60〜70%水分を含んでいるため、造粒工程(8)では投入するのは酢(6)だけでよい。また、蒸す(10)時の温度は100〜120℃で、これも同じだが、時間は生の大豆を蒸すわけではなく、豆腐の製造工程で1度煮ているため雑菌対策として蒸すので数分でよい。
【0025】
培養(16)を終えた麹菌で白く覆われたおからは、乾燥(42)させるが、常温でおよそ水分量20%近くまで乾燥させることのできる乾燥機を使用するなどして乾燥させれば菌を生きたまま仮死状態で確保したおから麹となる。乾燥(42)の後、粉砕(44)し、おから麹(46)が完成する。これをベースにした蜜作りは図1と同様にして作ることができる。
【0026】
米糠をベースにした玄米麹、おからをベースにしたおから麹とも基質の素材は豊富な栄養素を持ち、麹の培養によってこの栄養素がビタミンや酵素の面でより豊富となり、そのエキスを抽出して作った蜜もそうした栄養素を持つ食品として作られ、両方とも健康補助食品としても得がたいものである。
【0027】
なお、本発明の実施例は、あくまで1実施例であり、本発明は、その実施例に捉われるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】は本願発明による米糠を基質とした蜜の製造方法を示すブロック図である。
【図2】は図1に示した培養工程(16)の培養床と送風システムを示す概略断面図である。
【図3】はその培養床の仕切部材の構造と送風の流れを示す概略図である。
【図4】はおからを基質としたおから麹の製造方法を示すブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
米糠やおからなどの有機性の基質に種麹を接種し、適度の水分と空気を与えることにより、該基質を分解する形で該種麹を増殖培養した後、該基質と培養した麹を水溶液に浸漬し、該基質と麹を該水溶液中にてエキスを抽出し、その上で黒砂糖、白砂糖、三温糖、果糖などの糖類を加え、加熱し、安定化する形で作成した該抽出したエキスを含む蜜
【請求項2】
前記種麹を増殖培養する工程は、米糠の粉末に水分を加え粒子状に加工する第1工程と、該粒子状になった米糠に蒸気をあて蒸す第2工程と、該蒸した米糠に種麹を接種し、むろに於いて培養する第3工程とからなることを特徴とする請求項1に示した蜜
【請求項3】
前記種麹を増殖培養する工程はおからに蒸気をあて、雑菌除去する第1工程と、該蒸したおからに種麹を接種し、むろに於いて培養する第2工程とからなることを特徴とする請求項1に示した蜜

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−67986(P2006−67986A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−290738(P2004−290738)
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【出願人】(503130585)有限会社万成食品 (1)
【Fターム(参考)】