説明

麻酔システムおよび麻酔システムの運転方法

【課題】 従量制御時の換気量のロスを補償することができる麻酔システムを提供する。
【解決手段】 麻酔システム1は、ベローズトップ6cがベローズ6aを包むチャンバ6bの天井から下方へ移動する距離を測定するベローズ位置センサ6dと、予めベローズ6aとチャンバ6bの間の空間へ所定量の駆動ガスを注入するとき、前記ベローズトップの移動量と、該所定量をベローズトップ6cの該移動量で除した機能的断面積のデータを制御ソフトウェアが参照可能なデータテーブル又は近似計算式として記憶するメモリと、該移動量と機能的断面積のデータと、患者気道に接続する前に駆動ガスを送ることによって生じる呼吸回路内圧の変化に基づいて、リーク量を含むシステムコンプライアンスを求める制御部7と、患者気道に接続後、前記システムコンプライアンスで失われる換気量を予め上乗せした駆動ガスをベローズインチャンバ6に供給する駆動ガス発生器5とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麻酔システムおよび麻酔システムの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、全身麻酔において患者呼吸管理を担う麻酔用ベンチレータには、大別して、(1)ガス駆動ベローズインチャンバ型ベンチレータ、(2)電気駆動ピストン型ベンチレータの二種類がある。ベローズインチャンバ型のベンチレータの従来技術として特許文献1に記載のものが提案されている。
【0003】
前者が駆動ガス量を制御するのに対し、後者はピストンの移動距離を制御する。
それぞれに特徴があるが、特に呼吸回路の圧−容量コンプライアンス、以下臨床の慣例に従い「システムコンプライアンス」と呼ぶ、の影響によって生じる一回換気量ロスに対する補償方法が大きく異なっている。
【特許文献1】特開2000−325480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、今日麻酔用ベンチレータとして主に用いられているベローズインチャンバは、呼気相でベローズが上昇する倒立型と呼ばれるタイプであり、(1)ベローズの動きが直視可能でベンチレータ動作の正常性モニタとして機能する、(2)呼吸回路のリークやガス不足が生じてもすぐには換気動作異常とならず、しかもその状態を発見しやすい、(3)ベローズは患者呼気を受けて受動的に上昇するため患者との同調性に優れる、(4)ベローズは駆動ガスによって駆動されるので従量制御・従圧制御どちらにも無理なく対応できる、などの利点を有する。他方、ベローズは元来安定した断面積を有しないため駆動量を正確に測定できない。そのため他の手段、例えば精度的に限界のある差圧検出型のフローセンサなどに頼る他なく、システムコンプライアンスの測定に限界があった。このため、従量制御時のシステムコンプライアンスによる換気量のロスを十分な精度で補償することが困難であるという問題があった。
【0005】
他方ピストン型のベンチレータでは、駆動量=断面積×移動距離であり、システムコンプライアンスの測定は比較的容易であり信頼性も高い。しかし、ピストン型のベンチレータは通常電気モータで駆動され、(1)患者呼気との同調性がないこと、(2)呼吸回路にリークがあっても一見正常に動作するので、気づいた時には回路内ガス不足により大きな陰圧を生じること、(3)ピストンの質量が大きいので流量の俊敏な制御が必要な従圧制御には向かないことなどの欠点があった。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、ベローズインチャンバ型のベンチレータを用いた場合であっても、従量制御時のシステムコンプライアンスによる換気量のロスを十分な精度で補償することができる麻酔システムおよび麻酔システムの運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の麻酔システムは、吸気量に新鮮ガス定常流が加算されないようにする新鮮ガス開閉弁と、ベローズインチャンバとを備えた循環式呼吸回路を含む麻酔システムにおいて、前記ベローズトップが前記ベローズを包むチャンバの天井から下方へ移動する距離を測定する測定手段と、
前記ベローズと前記チャンバの間の空間へ所定量の駆動ガスを注入し、前記ベローズトップの移動量と、該駆動ガス所定量を前記ベローズトップの移動量で除した機能的断面積の、制御ソフトウェアが参照可能なデータテーブル又は近似計算式として、工場出荷以前に予め記憶するメモリと、そこから参照されるデータと、患者気道に接続する前に駆動ガスを送ることによって生じる呼吸回路内圧の変化とからリーク量を含むシステムコンプライアンスを求める演算手段と、患者気道に接続後に、前記リーク量を含むシステムコンプライアンスによって失われる換気量を予め上乗せした駆動ガスを前記ベローズインチャンバに供給する供給手段とを有する。
【0008】
本発明によれば、リーク量を含むシステムコンプライアンスで失われる換気量の一部を予め上乗せして送ることで、ベローズインチャンバ型のベンチレータを用いた場合であっても、前記ベローズインチャンバ型のベンチレータの利点をそのままに、従量制御時の換気量ロスを十分な精度で補償することができる。
【0009】
また上記発明において、前記演算手段は、患者気道に接続する前に患者接続端を閉じた状態で、駆動ガスでチャンバ内を加圧し、呼吸回路内圧が一定の圧Pplで安定したときのベローズトップの移動量をDB、その加圧を解放し前記ベローズが前記チャンバの天井に接して安定しているときの圧をPEEP、前記DBに対応する値として前記データテーブル又は近似計算式から参照されるベローズ駆動量と機能的断面積をVB、SBとするとき、リーク量を含むシステムコンプライアンスCSを次式によって求め、特にこれを初期システムコンプライアンスCSiと呼ぶ。
・CSi=VB/(Ppl−PEEP)=(SB×DB)/(Ppl−PEEP)
前記供給手段は、患者接続端を患者気道に接続し、駆動ガスVBでベローズインチャンバを駆動したとき、吸気プラトー圧Ppl、呼気終末圧PEEPであるとすると、前記CSiにPplとPEEPの差を乗じた量、CSi×(Ppl−PEEP) を上乗せした駆動ガス量として供給するものである。
【0010】
また上記発明において、前記演算手段は、前記駆動ガスVBでチャンバ内を加圧した時の呼吸回路内圧Pplを維持する時間を所定時間継続し、前記呼吸回路の膨張が終了した後もさらに所定時間T(秒)加圧を続け、その間の前記ベローズトップの移動量DBの変化量ΔDBから、前記呼吸回路の毎分リーク量VL=SB×ΔDB×60/Tを求め、表示することができる。
【0011】
また本発明の麻酔システムの運転方法は、吸気量に新鮮ガス定常流が加算されないようにする新鮮ガス開閉弁と、ベローズインチャンバとを備えた循環式呼吸回路を含む麻酔システムの運転方法において、前記ベローズトップが前記ベローズを包むチャンバの天井から下方へ移動する距離を測定手段によって測定する測定ステップと、該駆動ガス所定量を前記ベローズトップの移動量で除した機能的断面積と前期ベローズトップの移動量のデータテーブル又は近似計算式を制御ソフトウェアが参照する参照ステップと、前記の参照データと、患者気道に接続する前に駆動ガスを送ることによって生じる呼吸回路内圧の変化とに基づいて、リーク量を含むシステムコンプライアンスを求める演算ステップと、患者気道に接続後、前記リーク量を含むシステムコンプライアンスで失われる換気量を予め上乗せした駆動ガスを前記ベローズインチャンバに供給する供給ステップと、を有する。
【0012】
本発明によれば、リーク量を含むシステムコンプライアンスで失われる換気量の一部を予め上乗せして送ることで、従量制御時の換気量ロスを補償することができる。
【0013】
上記発明において、前記演算ステップでは、患者気道に接続する前に患者接続端を閉じた状態で、前記駆動ガスVBでチャンバ内を加圧した時の呼吸回路内圧をPpl、その加圧を解放し前記ベローズが前記チャンバの天井に接して安定しているときの圧をPEEP、前記機能的断面積をSB、前記ベローズトップの移動量DBとするとき、リーク量を含むシステムコンプライアンスCSを次式によって求め、特にこれを初期システムコンプライアンスCSiと呼ぶ。
・CSi=VB/(Ppl−PEEP)=(SB×DB)/(Ppl−PEEP)
前記供給ステップでは、患者接続端を患者気道に接続し、前記駆動ガスVBでチャンバ内を加圧した時の呼吸回路内圧をPpl、その加圧を解放し前記ベローズが前記チャンバの天井に接して安定しているときの圧をPEEPであるとすると、前記CSiにPplとPEEPの差を乗じた量、CSi×(Ppl−PEEP) を上乗せした駆動ガス量として供給する。
【0014】
また上記発明において、前記駆動ガスVBでチャンバ内を加圧した時の呼吸回路内圧Pplを維持する時間を所定時間継続し、前記呼吸回路の膨張が終了した後もさらに所定時間T(秒)加圧を続け、その間の前記ベローズトップの移動量DBの変化量ΔDBから、前記呼吸回路の毎分リーク量VL=SB×ΔDB×60/Tを求め、表示するステップをさらに含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ベローズインチャンバ型のベンチレータを用いた場合であっても、前記ベローズインチャンバ型のベンチレータの利点をそのままに、従量制御時の換気量のロスを十分な精度で補償することができる麻酔システムおよび麻酔システムの運転方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】配管系統を中心に本発明の実施の形態を示す麻酔システム全体の構成図である。
【図2】ベローズインチャンバにおける吸気と呼気の動作を説明するための図である。
【図3】初期システムコンプライアンス測定の原理を説明するための簡易図である。
【図4】機能的断面積SBとベローズトップの移動量DBのデータテーブル又は近似計算式の取得方法とデータ例である。
【図5】初期システムコンプライアンスCSiと毎分リーク量VLの測定方法を具体的に説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の最良の実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、配管系統を中心に本発明の実施の形態を示す麻酔システム全体の構成図である。図1に示すように、麻酔システム1は、麻酔ガス供給部2、ベローズインチャンバ6を含む循環式の呼吸回路3、余剰ガス排出回路4、駆動ガス発生器5、を有する。
なお、ベローズインチャンバ6は、駆動ガス発生器5と並んでベンチレータ(人口呼吸器)の主な構成要素であるが、ベローズインチャンバ6の内部を呼吸気が通過することから呼吸回路3の一部でもあり、本出願ではこの考え方により以下の説明を行う。
【0019】
麻酔ガス供給部2は、酸素(O2)又は、酸素(O2)に亜酸化窒素ガス(N2O)又は空気のいずれか一方を加え、これに気化器26において揮発性麻酔薬を気化させたガスを混合し新鮮ガスとして呼吸回路3へ供給する。呼吸回路3は循環式呼吸回路であり、麻酔ガス供給部2から供給される新鮮ガスと、患者Aの呼気から二酸化炭素を吸収除去した後の循環気を混合し、吸気として患者Aに送る。余剰ガス排出回路4は、余剰ガス排出弁32を出た余剰ガスを、余剰ガスインタフェース33を介して、室内に漏らさないように、また呼吸回路3に有害な吸引圧が及ばないようにして吸引源へ排出する。
【0020】
麻酔ガス供給部2は、酸素(O2)、亜酸化窒素ガス(N2O)、空気(AIR)それぞれの減圧弁16・18・20と、流量調節弁13・14・15、流量計21・22・23、揮発性麻酔薬の気化器26、O2フラッシュ弁27を有する。気化器26は、酸素(O2)、亜酸化窒素ガス(N2O)、空気(AIR)の混合ガスを導入し、これに揮発性麻酔薬、例えばハロタン、エンフルラン、イソフルラン、セボフルラン、デスフルラン等を気化させて混合する。O2フラッシュ弁27は、前記減圧弁、流量調節弁・流量計と気化器26を経ずに、酸素を呼吸回路3に供給可能に設けられている。
【0021】
酸素(O2)減圧弁16には、既設のO2供給配管から酸素ガス(O2)を利用する場合、またはボンベ減圧弁17を介してO2ボンベから酸素ガス(O2)を利用する場合のそれぞれに対応する供給配管が接続されている。また亜酸化窒素ガス(N2O)減圧弁18には、既設のN2O供給配管から亜酸化窒素ガス(N2O)を利用する場合、またはボンベ減圧弁19を介してN2Oボンベから亜酸化窒素ガス(N2O)を利用する場合のそれぞれに対応する供給配管が接続されている。空気(AIR)減圧弁20には、既設のAIR供給配管から空気を導入する供給配管が接続されている。
【0022】
呼吸回路3は、患者への吸気のみを通す吸気弁10、患者からの呼気のみを通す呼気弁11、二酸化炭素吸収キャニスタ12、新鮮ガス開閉弁28、呼吸回路切換弁29、APL弁30などを含む循環式呼吸回路である。またベローズインチャンバ6にも吸気・呼気が通過するので呼吸回路3に含まれる。
【0023】
二酸化炭素吸収キャニスタ12は、患者Aの呼気から二酸化炭素を吸収除去し、その二酸化炭素を含まない再生呼気を循環使用するためのものである。二酸化炭素吸収キャニスタ12の内部には、ソーダライムなどの二酸化炭素吸収剤が充填されている。新鮮ガス開閉弁28は、吸気量に新鮮ガス定常流が加算されないようにする開閉弁であって、麻酔ガス供給部2から送られる新鮮ガスを、吸気時には呼吸バッグに導入し、呼気時には呼吸回路3に導入するためのものである。
【0024】
ベローズインチャンバの動作説明を図2に示す。6は、ベローズインチャンバであって、内部のガスを呼吸回路3に供給する上下に伸縮可能なベローズ6aを、透明な圧力容器であるチャンバ6b内に配したものである。ベローズ6aは通常肉薄の軟質ゴムなどで作られており、その内と外(チャンバ内)の圧力差によって、極めて敏感に伸縮動作が可能な構造になっている。
【0025】
ベローズ6aの内と外(チャンバ内)とは、二つのガス出入口を持つポップオフ弁6eを介して接続されており、またポップオフ弁6eの内部にはチャンバ内の圧力を受けて前記ガス流入口を開閉するダイアフラムが備えられている。
吸気相においては、図2(a)に示すように余剰ガス排出弁32が閉じられ、駆動ガス発生器5から送られる駆動ガスの圧力によって、前記ポップオフ弁6eのダイアフラムがベローズ6a内外の流通を遮断し、チャンバ内へ流入した駆動ガスによってベローズ6aが収縮させられ、呼吸回路3へ吸気ガスが押し出される。
呼気相においては、同図(b)に示すように余剰ガス排出弁32が開かれ、余剰ガスが呼吸回路3から排出され、前記ポップオフ弁6eを通過する際に、そのダイアフラムが抵抗となりベローズ6aの内外に一定の差圧、例えば2hPa程度を生じさせる。これによってベローズ6aは膨らみ上昇する。
【0026】
このベローズインチャンバ6には、測定手段としてのベローズ位置センサ6dが設けられている。ベローズ位置センサ6dは、ベローズトップ6cがそれを包むチャンバ6bの天井から下方へ移動する距離DBを測定し、測定した移動量のデータを制御部7へ送る。ベローズ位置センサ6dは、例えばワイヤー式リニアエンコーダー、超音波又は光学式位置センサ、磁歪式変位センサ等によって構成されている。
【0027】
呼吸バッグ33は患者Aへ手動で吸気を送り込むための圧縮可能な袋状のものであり、麻酔システム1ではベンチレータ使用中には、吸気時に新鮮ガスを一時的に貯留しておくリザバーの役目もする。この呼吸バッグ33は患者Aへ送る吸気の供給量に応じて種々の大きさのものが用意されていて適宜交換可能となっている。
【0028】
呼吸回路切換弁29は、麻酔システム1の運転状態を、ベローズインチャンバ6を駆動するガスを供給する駆動ガス発生器5を用いる自動運転(ベンチレータ運転)、または呼吸バッグ33を用いる手動運転に切り換える。APL弁30は呼吸回路3から余剰ガス排出回路4に向かう流路に設けられ、手動運転時の呼吸回路3内の圧力調節に用いられる。
【0029】
制御部7は演算手段として機能し、麻酔システム1の運転状態を制御する。この制御部7は、信号入出力部、ヒューマンインタフェース、マイクロプロセッサ・CPU・MPU等の演算処理手段と、記憶部としてのメモリとを少なくとも有している。制御部7は、ベンチレータ機能とモニタ機能のコントローラとして、ヒューマンインタフェース及びフローセンサ8、ベローズ位置センサ6dからの信号を処理し、余剰ガス排出弁32、新鮮ガス開閉弁28、呼吸回路切換弁29、駆動ガス発生器5などを制御する。また制御部7は、麻酔ガス供給部2において信号入出力を有し制御可能なデバイスを使用すれば、流量計測と流量調節を担うこともできる。
【0030】
呼吸回路3と余剰ガス排出回路4の間には、余剰ガス排出弁32を有する。余剰ガス排出弁32は、前記自動運転つまりベンチレータ使用中の吸気時に閉じ、呼気時に開く。余剰ガス排出弁32の開閉は制御部7によって制御される。また余剰ガス排出弁32を通して排出されたガスは、吸引源によって吸引された後、そのまま大気に放出されるか、あるいは必要に応じて麻酔薬や亜酸化窒素ガス等を分解および/または吸着してから大気に放出される。
【0031】
循環式呼吸回路3に存在する吸気弁10は、患者Aへのガスの流れ(吸気)は許容するものの、その逆の流れは規制するように作動する。同様に呼気弁11は、患者Aからのガスの流れ(呼気)は許容するものの、その逆の流れは規制するように作動する。呼気の一部は二酸化炭素吸収キャニスタ12に運ばれ、残りの一部は余剰ガスとして排出される。
駆動ガス発生器5は、換気量を制御対象とした従量制御と、換気圧力を制御対象とした従圧制御の何れも選択可能であり、制御部7によって制御される。
【0032】
図3は、特にベンチレータ使用時のシステムコンプライアンスを説明するために必要な要素を記したものであり、図4は、特にベローズインチャンバ6における駆動量VB、移動量DB、機能的断面積SBの関係を記すデータテーブル又は近似計算式の取得法を説明するものである。
以下、[機能的断面積SBの決定と保存]、[システムコンプライアンスCSの測定と換気量ロスの補償]、[呼吸回路の毎分リーク量の測定]、それぞれについての原理的な説明を加える。
【0033】
[機能的断面積SBの決定と保存]
図4において、ベローズ6aとチャンバ6bの間の空間へ、使用範囲の最小量から最大量まで、校正された容積目盛を有するシリンジ(駆動ガス発生器5)で空気量VBを注入するとき、ベローズトップ6cは下方へDB移動する。このときのVBをベローズトップ6cの移動量DBで除した値を機能的断面積SBと定義する。
つまり、機能的断面積SBは次式によって示される。
・SB=VB/DB
上記の方法で得られた、ベローズトップの移動量DBと機能的断面積SBのデータテーブル、又はその近似計算式は、制御部7内のメモリに保存され、制御ソフトウェアによって制御上必要な時に参照される。
また上記シリンジで注入されたVBは、実際に駆動ガス発生器5によってベローズインチャンバ6を動作させる際には、測定されたDBの値を元に前記メモリ内から対応するSBを呼び出し、ベローズ駆動量VB=SB×DBとして計算され表示される。
【0034】
[システムコンプライアンスCSの測定と換気量ロスの補償]
図3において、駆動ガスVBでチャンバ6b内を加圧した時の呼吸回路3の内圧をPpl、その加圧を解放しベローズ6aがチャンバ6b天井に接して安定しているときの圧をPEEPとするとき、制御部7は、上記機能的断面積SBのデータに基づいて、リーク量を含むシステムコンプライアンスCSを次式によって求める。
・CS=(VB−VI)/(Ppl−PEEP)=(SB×DB−VI)/(Ppl−PEEP)
図3に示すように、患者気道に接続する前にフローセンサ8の患者接続端を閉じた状態では、吸気量VI=0となり、特にこのときのシステムコンプライアンスを初期システムコンプライアンスと呼びCSiと表し、
・CSi=VB/(Ppl−PEEP)=(SB×DB)/(Ppl−PEEP)となる。
制御部7は、駆動ガス発生器5を制御して、初期システムコンプライアンスCSiで失われる換気量の一部CSi×(Ppl−PEEP)を予め上乗せした駆動ガスをベローズインチャンバ6に送ることで、従量制御時の換気量ロスを補償することができる。
【0035】
[呼吸回路の毎分リーク量の測定]
さらに、制御部7は、上記Pplを維持する時間を十分に延長し、呼吸回路3の膨張が終了した後もさらに一定時間T(秒)加圧を続け、その間のベローズトップ6cの移動量DBの変化量ΔDBから、呼吸回路3の毎分リーク量VL=SB×ΔDB×60/Tを求め、不図示のディスプレイに表示することができる。
【0036】
次に図3・図5によって動作について説明する。
(1)まず、図3に示すように呼吸回路3のフローセンサ8の患者接続端を閉じる。
(2)駆動ガス発生器5から、チャンバ6b内へ駆動ガスを送り、ベローズ6aを加圧する。
(3)図5に示すように、呼吸回路3の内圧がPplとなるように加圧するとき、空気圧縮と回路材質の膨張によって、ベローズトップ6cは下方へDB移動する。また、加圧を解放した後の呼吸回路3の安定した内圧PEEPを記録する。
このとき移動量DBはベローズトップ6cに取り付けられたベローズ位置センサ6dによって測定され、制御部7は、該DBに対応する値として前記データテーブル又は近似計算式から機能的断面積SBとベローズ駆動量VBを入手する。
【0037】
(4)次に、制御部7は、前記(1)〜(3)の結果から、呼吸回路3の初期システムコンプライアンスを、CSi=VB/(Ppl−PEEP)によって求める。
(5)一定の一回換気量を送る従量制御で人工呼吸するとき、システムコンプライアンスによる一回換気量のロスはCSi×(Ppl−PEEP)であるから、事前にこのロス分を駆動ガスに上乗せしてベローズインチャンバ6を駆動することにより、望む一回換気量が得られる。
【0038】
(6)(3)のとき、駆動ガスVBでチャンバ6b内を加圧した時の呼吸回路3の内圧Pplを維持する時間を十分に延長し、呼吸回路3の膨張が終了した後もさらに一定時間T(秒)加圧を続け、その間のDBの変化量ΔDBから、呼吸回3路の毎分リーク量VL=SB×ΔDB×60/T が得られる。
【0039】
さらに図5を用いて、初期システムコンプライアンスCSi・毎分リーク量VLの測定方法の一例をより具体的に説明する。呼吸回路の吸気圧Pplを一定に、例えば30hPaに維持する従圧制御で、例えば三回呼吸動作させる。一回目は均し運転であり、その直前に図5(a)に示すように、最初の時間t1の期間、ベローズトップ6cがチャンバ6b内天井に達して安定していることを確認し、原点校正DB=0を行う。次の二、三回目の吸気相の前半、例えばt2=4秒の期間、空気圧縮と回路材質の膨張が安定し呼吸回路3全体の圧力が均等化する期間に、同図(b)に示すように、リーク量を含む呼吸回路3の初期システムコンプライアンスCSiを測定する。これに続く吸気相の後半、例えばt3=6秒の期間、同図(c)に示すように、リークがあると30hPaを維持するためにベローズ6aがさらに下へ駆動される。この6秒間の低下量を一分間の量VLに換算する。以上二、三回目それぞれの結果を平均化し、初期システムコンプライアンスCSi、毎分リーク量VLを得ることができる。
【0040】
本実施形態によれば、機構的にはベローズインチャンバ型のベンチレータを基本としながら、ベローズの位置を測定するデバイスの追加によって、ピストン型ベンチレータの距離制御を実現することで、両者の短所を改善することができる。
【0041】
以上、本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。本発明の麻酔システムの運転方法は麻酔システム1によって実現され、測定ステップ、記憶ステップ、演算ステップ、供給ステップは所定のプログラムを実行する制御部7より制御される。
【符号の説明】
【0042】
1 麻酔システム
2 麻酔ガス供給部
3 呼吸回路
4 余剰ガス排出回路
5 駆動ガス発生器
6 ベローズインチャンバ
6a ベローズ
6b チャンバ
6c ベローズトップ
6d ベローズ位置センサ
6e ポップオフ弁
7 制御部
8 フローセンサ
10 吸気弁
11 呼気弁
12 二酸化炭素吸収キャニスタ
26 気化器
28 新鮮ガス開閉弁


【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気量に新鮮ガス定常流が加算されないようにする新鮮ガス開閉弁と、ベローズインチャンバとを備えた循環式呼吸回路を含む麻酔システムにおいて、
前記ベローズトップが前記ベローズを包むチャンバの天井から下方へ移動する距離を測定する測定手段と、
前記ベローズと前記チャンバの間の空間へ所定量の駆動ガスを注入するとき、前記ベローズトップの移動量と、該所定量を該移動量で除した機能的断面積のデータを制御ソフトウェアが参照可能なデータテーブル又は近似計算式として、工場出荷以前に予め記憶するメモリと、
前記移動量と機能的断面積のデータテーブル又は近似計算式と、患者気道に接続する前に、駆動ガスを送ることによって生じる呼吸回路内圧の変化に基づいて、リーク量を含むシステムコンプライアンスを求める演算手段と、
患者気道に接続後、前記リーク量を含むシステムコンプライアンスで失われる換気量を予め上乗せした駆動ガスを前記ベローズインチャンバに供給する供給手段と、を有することを特徴とする麻酔システム。
【請求項2】
前記演算手段は、患者気道に接続する前に患者接続端を閉じた状態で、駆動ガスで前記チャンバ内を加圧し、前記呼吸回路内圧が一定の圧Pplで安定したときのベローズトップの移動量をDB、その加圧を解放し前記ベローズが前記チャンバの天井に接して安定しているときの圧をPEEP、前記DBに対応する値として前記データテーブル又は近似計算式から参照されるベローズ駆動量と機能的断面積をVB、SBとするとき、リーク量を含むシステムコンプライアンスCSを次式によって求め、特にこれを初期システムコンプライアンスCSiと呼び、
・CSi=VB/(Ppl−PEEP)=(SB×DB)/(Ppl−PEEP)
前記供給手段は、患者気道に接続後、前記上乗せする駆動ガスをCSi×(Ppl−PEEP)とすることを特徴とする請求項1に記載の麻酔システム。
【請求項3】
前記演算手段は、前記駆動ガスVBでチャンバ内を加圧した時の呼吸回路内圧Pplを維持する時間を所定時間継続し、前記呼吸回路の膨張が終了した後もさらに所定時間T(秒)加圧を続け、その間の前記ベローズトップの移動量DBの変化量ΔDBから、前記呼吸回路の毎分リーク量VL=SB×ΔDB×60/Tを求め、表示することができることを特徴とする請求項2に記載の麻酔システム。
【請求項4】
吸気量に新鮮ガス定常流が加算されないようにする新鮮ガス開閉弁と、ベローズインチャンバとを備えた循環式呼吸回路を含む麻酔システムの運転方法において、
前記ベローズトップが前記ベローズを包むチャンバの天井から下方へ移動する距離を測定手段によって測定する測定ステップと、
前記ベローズと前記チャンバの間の空間へ所定量の駆動ガスを注入するとき、前記ベローズトップの移動量と、該所定量を該移動量で除した機能的断面積のデータを制御ソフトウェアが参照可能なデータテーブル又は近似計算式として、工場出荷以前に予め記憶する記憶ステップと、
前記移動量と機能的断面積のデータテーブル又は近似計算式と、患者気道に接続する前に、駆動ガスを送ることによって生じる呼吸回路内圧の変化に基づいて、リーク量を含むシステムコンプライアンスを求める演算ステップと、
患者気道に接続後、前記システムコンプライアンスで失われる換気量を予め上乗せした駆動ガスを前記ベローズインチャンバに供給する供給ステップと、を有することを特徴とする麻酔システムの運転方法。
【請求項5】
前記演算ステップは、患者気道に接続する前に患者接続端を閉じた状態で、駆動ガスで前記チャンバ内を加圧し、前記呼吸回路内圧が一定の圧Pplで安定したときのベローズトップの移動量をDB、その加圧を解放し前記ベローズが前記チャンバの天井に接して安定しているときの圧をPEEP、前記DBに対応する値として前記データテーブル又は近似計算式から参照されるベローズ駆動量と機能的断面積をVB、SBとするとき、リーク量を含むシステムコンプライアンスCSを次式によって求め、特にこれを初期システムコンプライアンスCSiと呼び、
・CSi=VB/(Ppl−PEEP)=(SB×DB)/(Ppl−PEEP)
前記供給ステップは、前記上乗せした駆動ガスをCSi×(Ppl−PEEP)とすることを特徴とする請求項4に記載の麻酔システムの運転方法。
【請求項6】
前記駆動ガスVBでチャンバ内を加圧した時の呼吸回路内圧Pplを維持する時間を所定時間継続し、前記呼吸回路の膨張が終了した後もさらに所定時間T(秒)加圧を続け、その間の前記ベローズトップの移動量DBの変化量ΔDBから、前記呼吸回路の毎分リーク量VL=SB×ΔDB×60/Tを求め、表示するステップをさらに含むことを特徴とする請求項5に記載の麻酔システムの運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−45593(P2011−45593A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197550(P2009−197550)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000200677)泉工医科工業株式会社 (56)