説明

麻酔システム

【課題】灯芯型気化器とインジェクション型気化器とを備えた麻酔システムにおいて、一の気化器が使用中の場合に、確実に他の気化器の作動を停止することができる麻酔システムを提供する。
【解決手段】ダイヤル11の回転と連動して進退するピン13、14とを有する灯芯型気化器10と、インジェクション型気化器20とを備えた麻酔システムにおいて、灯芯型気化器10のピン13の前進を検出するセンサ21と、灯芯型気化器10のピン14の前進を阻止する移動阻止手段22と、センサ21がピン13の移動を検出した際にインジェクション型気化器20の作動を阻止し、インジェクション型気化器20が作動した際には移動阻止手段22にピン13の移動を阻止させる制御部28とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の気化器を配置した麻酔装置において、これらの複数の気化器の同時使用を防止するための安全装置を備えた麻酔システムに関する。
【背景技術】
【0002】
主に手術室において患者に麻酔をかけるために用いられる麻酔システムには、充填された麻酔薬の気化と、麻酔ガスにおける麻酔薬濃度調整とを行うための気化器が組み込まれている。このような気化器としては灯芯型気化器及びインジェクション型気化器が一般に用いられており、これらは流入口から新鮮ガスを取り込み、麻酔薬を気化して該新鮮ガスに添加させて、麻酔ガスとして呼吸回路へと送る働きをしている。
【0003】
灯芯型気化器においては、流入口において取り込んだ新鮮ガスは、麻酔薬で新鮮ガスを飽和するための気化室を通過するキャリアガスと、この気化室を通らないバイパスガスに分離される。そして、キャリアガスとバイパスガスとは流出口で再び混合されて一体となり、この混合割合を調節することによって麻酔薬濃度が調整されて、麻酔ガスとして呼吸回路へ送られる。
【0004】
一方、インジェクション型気化器はその動作が電気的に制御されており、流入口において取り込まれた新鮮ガスには、麻酔薬濃度設定値に応じた液量の麻酔薬が添加され、これによって麻酔薬濃度が調整される。そして、この麻酔薬が気化されて、新鮮ガスと混合されて一体となり、呼吸回路へ送られる。
【0005】
ところで、麻酔薬はその種類によって患者に及ぼす作用が異なるため、医師は患者の状態に応じて最善となる麻酔薬を選択して投与することになる。従って、麻酔システムには、種類の異なる麻酔薬が充填された複数の気化器が搭載されているものがあり、これにより気化器の取り外しを行うことなく、麻酔薬の種類の変更を行うことが可能とされている。
【0006】
しかし、複数備えた気化器のうち一つの気化器が作動して患者に麻酔ガスを供給している際には、他の気化器が作動して麻酔ガスの混合が生じるようなことがあってはならない。そこで、一般に気化器を複数備えた麻酔システムにおいては、一の気化器が使用されている場合には、他の気化器を使用できないようにする安全装置が備えられている。
【0007】
特許文献1には、灯芯型気化器を複数備えるとともに安全装置を備えた麻酔システムが開示されている。図4にこの麻酔システムの模式図を示す。図4(a)に示すように、2つの灯芯型気化器1a、1bは、それぞれダイヤル2a、2bによって麻酔薬濃度調整が行われ、該ダイヤル2a、2bを回転させると、ダイヤル2a、2bの上部に設けられた直動カム3a、3bが連動し、ダイヤル2a、2bの上側に向かって直線的に動作するようになっている。
【0008】
また、直動カム3a、3bの上端部には、図4の左右方向を長手方向として配置され、ダイヤル2a、2bがオフの状態で当接するそれぞれ一対のピン4aとピン5a、ピン4bとピン5bが設けられており、直動カム3a、3bの上側への動作に連動して、該一対のピン4aとピン5a、ピン4bとピン5bがそれぞれ左右方向に移動して離間するようになっている。
【0009】
これら2つの灯芯型気化器1a、1bはそれぞれのピン4a、4b、5a、5bの長手方向が同軸上になるように並設されており、図4(b)に示すように、一方の気化器1aのダイヤル2aがオン側に回転されると、直動カム3aが上側に移動し、これに連動してピン4a、5aが左右方向に移動し、他方の灯芯型気化器1b側のピン5aが、他方の気化器1bのピン4bに当接して、このピン4bの移動が阻止されるようになっている。
【0010】
ピン4bの移動が阻止された他方の灯芯型気化器1bは、ダイヤル2bをオンとしようとしても、ピン4bの移動が阻止されているために直動カム3bが移動することができず、該直動カム3bと連動するダイヤル2bを回すことができないため、ダイヤル2bをオンとすることはできない。これによって一方の灯芯型気化器1aが作動しているときは、他方の灯芯型気化器1bが作動することはないため、安全性を確保することができるようになっている。
【特許文献1】特開平8−281001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、麻酔システムに搭載されている複数の気化器の種類が灯芯型気化器のみの場合は、上述のように、一の灯芯型気化器のダイヤルと、他の灯芯型気化器のダイヤルとを機械的に互いにロックすることができるが、灯芯型気化器とインジェクション型気化器との両方が搭載された麻酔システムにおいては、これら2種類の気化器はその構造が異なるため、上記構成の安全装置を適用することはできない。
【0012】
即ち、灯芯型気化器はダイヤルを回すといった機械的手法によって作動するのに対して、インジェクション型気化器は電気的な制御を行うことによって作動するため、上述のような麻酔システムでは、一方が使用されている際に他方の使用をロックすることができないという問題があった。
【0013】
この発明は、このような事情に鑑みて、灯芯型気化器とインジェクション型気化器とを備えた麻酔システムにおいて、一の気化器が使用中の場合に、確実に他の気化器の作動を停止する安全装置を備えた麻酔システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するため、この発明は以下の手段を提案している。
即ち、本発明に係る麻酔システムは、麻酔薬濃度調整を行うダイヤルと、前記ダイヤルの回転と連動して進退するピンとを有する灯芯型気化器と、麻酔薬濃度の設定値に応じた液量の麻酔薬を添加することにより麻酔薬濃度調整を行うインジェクション型気化器とを備えた麻酔システムであって、灯芯型気化器とインジェクション型気化器とが同時に作動するのを防止する安全装置を備え、前記灯芯型気化器の前記ピンの前進を検出するセンサと、前記灯芯型気化器の前記ピンの前進を阻止する移動阻止手段と、前記センサが前記ピンの移動を検出した際に前記インジェクション型気化器の作動を阻止し、前記インジェクション型気化器が作動した際には前記移動阻止手段に前記ピンの移動を阻止させる制御部とを、備えたことを特徴としている。
【0015】
二つの気化器を使用していない状態において、灯芯型気化器を使用するためにダイヤルをオン側に回転させると、それに連動してピンが前進し、これがセンサによって検出される。すると、該センサが制御部に検出信号を送出し、これに基づいて制御部はインジェクション型気化器が作動しないように制御する。これによって灯芯型気化器が使用されている際にはインジェクション型気化器を作動しないようにする。
【0016】
また、この状態で灯芯型気化器のダイヤルをオフ側に回転させると、ピンが後退して元の状態に戻り、センサは検出信号を送出しなくなるため、制御部はインジェクション型気化器を停止する制御をしなくなり、これによってインジェクション型気化器を使用することができるようになる。
【0017】
一方、インジェクション型気化器が使用された際には、該インジェクション型気化器が制御部に信号を送出し、制御部はこの信号に基づいて移動阻止手段に対して灯芯型気化器のピンの前進を阻止させる信号を送信する。この灯芯型気化器においては、ダイヤルをオン側に回転させることとピンの移動とは連動しているため、ピンの移動が阻止されることによってダイヤルをオン側に回転させることができなくなり、灯芯型気化器の作動がロックされる。従って、インジェクション型気化器が使用されている際には灯芯型気化器が作動することはない。
【0018】
また、この状態でインジェクション型気化器の使用を停止すれば、制御部はインジェクション型気化器から信号を受けなくなるため、移動阻止手段に対しての信号の送出も停止される。従って、ピンが移動可能とされて、灯芯型気化器のダイヤルをオン側に回転することができるようになるため、灯芯型気化器を作動させることが可能となる。
【0019】
また、本発明に係る麻酔システムは、前記ピンは、前記センサにより検出される一方のピンと、前記移動阻止手段により前進が阻止される他方のピンとからなる一対のピンからなることを特徴としている。
【0020】
これら一対のピンは、ともにダイヤルの回転と連動しているため、該一対のピンの進退は互いに連動している。そして、一方のピンをセンサの検出対象とし、他方のピンを移動阻止手段の阻止対象とすることによって、一つのピンが検出対象と阻止対象の両方を担う場合に比べて、センサと阻止手段とをスペースに余裕を持たせて配置することができるようになり、設計の幅を広げることができる。
【0021】
また、本発明に係る麻酔システムは、前記灯芯型気化器と前記インジェクション型気化器とは、ガス流路に互いに並列に接続されるとともに、これら気化器の上流のガス流路にはいずれか一方の気化器のみへ新鮮ガスを送る切換弁が設けられおり、該切換弁は使用される一の気化器に対してのみ新鮮ガスを送るように制御されていることを特徴としている。
【0022】
これにより、万一、故障等により複数の気化器が同時に使用される事態に陥っても、切換弁の働きによって、並列に配置された複数の気化器のうち一の気化器のみに新鮮ガスが供給されるため、複数の気化器から麻酔ガスが生成されることはない。従って、複数の種類の麻酔ガスが混合して呼吸回路に送られることはないため、安全性を確保することができる。
【0023】
また、本発明に係る麻酔システムにおいては、前記切換弁は、新鮮ガスを前記灯芯型気化器に送る位置がノーマル位置であることが望ましい。これにより、電気的不具合が生じて、インジェクション型気化器の作動を停止することができなくなった場合でも、灯芯型気化器にのみ新鮮ガスが供給されるため、安全性をより高めることができる。
【0024】
さらに、本発明に係る麻酔システムにおいて、前記移動阻止手段は、駆動ガスの供給によりロッドを前進させて前記他方のピンの移動を阻止するシリンダと、前記インジェクション型気化器が作動した際に、前記シリンダを駆動ガスを供給して前進させる制御弁と、からなるものであってもよい。
【0025】
インジェクション型気化器が使用された際には、制御弁がシリンダに駆動ガスを供給し、これによってロッドが前進することで灯芯型気化器のピンの移動を阻止する構成とされている。従って、確実にピンの移動を阻止し、灯芯型気化器のダイヤルをロックすることができ、灯芯型気化器の誤作動を防止することが可能となる
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る麻酔システムによれば、灯芯型気化器とインジェクション型気化器との二つの種類の気化器を備えた麻酔システムにおいて、一の気化器が使用中の場合には、他の気化器の作動を確実にロックすることができ、麻酔ガスが混合するのを防いで安全な麻酔処理を施すことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明に係る麻酔システムの実施形態について、図1から図3を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る麻酔システムの概略構成図、図2は本実施形態に係る麻酔システムにおいて灯芯型気化器が使用されている際の作用説明図、図3は本実施形態に係る麻酔システムにおいてインジェクション型気化器が使用されている際の機構説明図である。
【0028】
本実施形態の麻酔システムは、灯芯型気化器10とインジェクション型気化器20と、センサ21と、移動阻止手段22と、制御部28とを備え、灯芯型気化器10とインジェクション型気化器20とは、それぞれ1つずつ設けられており、気化器10、20はガス流路30において互いに並列となるように配置され、該ガス流路30の両気化器10、20の上流側には切換弁35が設けられている。
【0029】
灯芯型気化器10及びインジェクション型気化器20は、それぞれ新鮮ガスを取り込みこの新鮮ガスに気化させた麻酔薬を添加して麻酔ガスを生成するとともに、該麻酔ガスの濃度調整を行う役割を有している。
【0030】
灯芯型気化器10は、麻酔薬でキャリアガスを飽和するための該麻酔薬が充填された気化室を有し、キャリアガスとバイパスガスに分離し、キャリアガスは気化室を通過させ、バイパスガスは気化室を通過させることなく、流出口10bで再び混合させて麻酔ガスとしてガス流出口32bから送り出すようになっている。この灯芯型気化器10では、キャリアガスとバイパスガスの混合比を調整することによって麻酔ガスの濃度が調整可能とされている。
【0031】
インジェクション型気化器20は、その動作が電気的に制御されており、流入口20aにおいて取り込まれた新鮮ガスは、麻酔薬濃度設定値に応じた液量の麻酔薬が添加され、この麻酔薬が気化されて新鮮ガスと混合させられ、これによって麻酔ガスの濃度が調整されるとともに、麻酔ガスとしてガス流出口32cから送り出されるようになっている。なお、このインジェクション型気化器20は、スイッチが入れられた際に制御部28に信号を送出するように構成されている。
【0032】
これら灯芯型気化器10及びインジェクション型気化器20は、新鮮ガス及び麻酔ガスの流路であるガス流路30に互いに並列になるように配置されている。
具体的には、ガス流路30の上流は、新鮮ガスが供給される新鮮ガス流路31aが2つの新鮮ガス流路31b、31cに分岐され、この新鮮ガス流路31b、31cがそれぞれ灯芯型気化器10のガス流入口10a及びインジェクション型気化器20のガス流入口20aに接続されている。そして、2つの気化器10、20のガス流出口10b、20bは、麻酔ガス流路32b、32cに接続されており、これら2つの麻酔ガス流路32b、32cはガス流路30の下流側にて合流して麻酔ガス流路32aを形成している。そしてこの麻酔ガス流路32aを介して麻酔ガスが呼吸回路に送られる。
【0033】
さらに、ガス流路30の新鮮ガス流路31の分岐箇所には、新鮮ガス流路31aを通過してきた新鮮ガスが、2つの新鮮ガス流路31b、31cのいずれか一方にのみ通過するように新鮮ガス流路31を接続する切換弁35が設けられている。該切換弁35は新鮮ガス流路31aと新鮮ガス流路31bとが接続される側、即ち新鮮ガスが灯芯型気化器10にのみ送られる側がノーマル位置となるように構成されている。
【0034】
また切換弁35は、灯芯型気化器10が作動した際にはノーマル位置を保持するように、インジェクション型気化器20が作動した際には該インジェクション型気化器20に新鮮ガスを送る側に切り換わるように、制御部28によって制御されている。
【0035】
また、灯芯型気化器10には、ダイヤル11が備えられており、このダイヤル11によって灯芯型気化器10のオン、オフをすることができるとともに、ダイヤル11を所望の麻酔薬濃度に対応する位置まで回転させることによって麻酔薬濃度調整が行えるようにされている。本実施形態では、ダイヤルが0に設定されている場合は灯芯型気化器10はオフ状態となり、ダイヤルが0以外に設定された際にオン状態になるように構成されている。
【0036】
このダイヤル11の上部には、ダイヤル11の回転と連動して直線的に図1の上下方向に進退する直動カム12が取り付けられている。該直動カム12は上下方向を長手方向とした棒状の形状をしており、その先端部(図1の上側)は側面12bが先端に向かって縮径するテーパ状の傾斜面12aに形成されている。この直動カム12はダイヤル11がオフ状態、すなわちダイヤルが0に設定されているときは後退した状態となっており、ダイヤル11がオン側に回転、即ちダイヤルが0以外に設定されると、このダイヤル11の上側に向かって前進するようになっている。
【0037】
そして、直動カム12の先端側には、該直動カム12に垂直な方向を長手方向とした一対の棒状のピン13、14が配設され、ダイヤル11がオフ状態となっている状態で直動カム12の先端部の前方において、ピン13とピン14との先端が当接するようになっている。これらのピン13、14の互いに当接している側の端面は、当接面13a、14aとされ、ピン13、14の側面13b、14bは該当接面13a、14aに向かって縮径するテーパ状の傾斜面13c、14cに形成されている。
【0038】
これらピン13、14は、直動カム12の前進によってピン13、14の長手方向に当接点から離間する側に移動可能とされるとともに、ピン13、14は、図示しない例えばスプリング等の付勢手段によって当接点に向かって付勢されている。
【0039】
また、本実施形態において、一方のピン13の移動方向の延長線上には、該一方のピン13が当接点から離間したのを検出するセンサ21が設けられている。本実施形態ではセンサ21は、対象物が接近することによって対象物を検出するマイクロセンサであり、ピン13が前進した際に該ピンの先端面13d(ピン13の図1における右側の端部)が、マイクロセンサ21に検出されるように配置されている。なお、このマイクロセンサ21は、ダイヤルが0以外に設定されることで検出可能となるように設定されている。
【0040】
移動阻止手段22は、本実施形態においては、シリンダ23と、該シリンダ23からピン14に向かって前進可能なロッド24と、シリンダ23に駆動ガスを供給するための駆動ガス供給源25と、駆動ガス供給源25とシリンダ23の間に設けられロッド24の進退を制御する制御弁26とから構成され、灯芯型気化器10の他方のピン14の移動を阻止可能とされている。
【0041】
制御弁26は、制御部28からによって制御されており、スプリング26aによって付勢されて、灯芯型気化器10とインジェクション型気化器20とがともに使用されてない場合には、図1のように駆動ガス供給源25とシリンダ23とが接続されていない側がノーマル位置となるように構成されている。そして、この制御弁26は、灯芯型気化器10が作動した際にはノーマル位置を保持するように、インジェクション型気化器20が作動した際には駆動ガス供給源25とシリンダ23とを接続する側に切り替わるように、制御部28によって制御されている。
【0042】
この制御弁26は、インジェクション型気化器20が作動した際には、制御部28からの信号によって駆動ガス供給源25とシリンダ23とを接続するように動作し、これにより駆動ガスがシリンダ23に送り込まれてシリンダ23から灯芯型気化器10のピン14に向けてロッド24が前進する。また、灯芯型気化器10が作動した際には、制御部28からの信号によってノーマル位置に保持される。
【0043】
また、制御部28は、インジェクション型気化器20から信号を受けた際には、移動阻止手段22に信号を送出して制御弁26を動作させ、ロッド24を前進させて灯芯型気化器10を作動不可とするとともに、切換弁35に信号を送出して新鮮ガスがインジェクション型気化器20に送られる側に切り換える。また、制御部28は、センサ21から信号を受けた際には、インジェクション型気化器20の停止を行う信号を送出するとともに、制御弁26及び切換弁35のそれぞれをノーマル位置に保持する信号を送出する構成とされている。
【0044】
以下、本発明に係る麻酔システムの動作について説明する。
灯芯型気化器10とインジェクション型気化器20がともに使用されていない状態において、図2のように灯芯型気化器10を使用するためにダイヤル11を回してその設定値を0の状態から0以外に回転させると、ダイヤル11はオン状態となり、これに伴って直動カム12が上側に向かって前進する。直動カム12が前進すると、ピン13、14の傾斜面13c、14cが直動カム12の傾斜面12aに案内されて、ピン13、14を図示しない付勢手段の付勢力に反して、両ピン13、14の当接点から離間する側へ直線的に移動させる。従って、ダイヤル11をオン状態にすることに連動してピン13、14が移動する。なお、このとき、移動阻止手段22のシリンダ23には駆動ガスが供給されておらず、ロッド24は前進していないため、ピン14の移動が阻止されることはない。
【0045】
この2つのピン13、14のうち一方のピン13は、その移動によって先端面13dがセンサ21の検出面21aに接近し、これによってセンサ21がピン13の移動を検出して制御部28に対して検出信号を送出し、この検出信号を受け取った制御部28は、インジェクション型気化器20に対してその作動を停止する停止信号を送信する。また、この停止信号と同時に、制御部28は移動阻止手段22の制御弁26と切換弁35とに対しても信号を送出し、この信号によって、制御弁26と切換弁35とがノーマル位置側に、即ち、制御弁26はシリンダ23に駆動ガスが供給されない側に、切換弁35は新鮮ガスを灯芯型気化器10に送る側に保持される。
【0046】
一方、この状態で灯芯型気化器10のダイヤル11を0に合わせれば、ダイヤル11はオフ状態となり、直動カム12は前進した状態から、後退した状態に戻る。これにともなって、ピン13、14は、付勢手段によって両ピン13、14の当接点に向かって付勢されているため、当接面13a、14aが直動カム12の側面12bに当接した状態から、
ピン13、14が接近する側に前進し、ピン13、14の当接面13a、14aが当接点において互いに接触した状態となる。
【0047】
従って、センサ21からピン13の先端面13dが離れるため、センサ21は制御部28に対して信号を送出しなくなり、制御部28によるインジェクション型気化器20に対しての停止信号と送出と、移動阻止手段22の制御弁26及び切換弁35に対しての信号の送出とが停止される。これにより、インジェクション型気化器20の作動停止が解除され、制御弁26と切換弁35とのそれぞれのノーマル位置側での保持が解除される。
【0048】
また、灯芯型気化器10とインジェクション型気化器20とがともに使用されていない状態から、図3に示すようにインジェクション型気化器20を作動した際には、該インジェクション型気化器20が制御部28に信号を送出し、制御部28はこの信号に基づいて移動阻止手段22に対して灯芯型気化器10のピン14の移動を阻止させる信号を送信する。即ち、制御部28が移動阻止手段22の制御弁26に信号を送出し、この信号に基づいて制御弁26は駆動ガス供給源25とシリンダ23とを接続するように動作をする。これによってシリンダ23に駆動ガスが供給され、ロッド24がピン14に向かって前進し、ピン14に当接することで該ピン14の移動が阻止される。
【0049】
灯芯型気化器10においては、ダイヤル11をオンとすることとピン13、14の移動とは直動カム12を介して連動しているため、一方のピン14の移動が阻止されることによってダイヤル11をオンとすることができなくなる。また、この場合において制御部28は移動阻止手段22の制御弁26への信号の送出と同時に、切換弁35に対しても信号を送出し、切換弁35はこの信号によって、新鮮ガス流路31aと新鮮ガス流路31cとが接続されて、インジェクション型気化器20に新鮮ガスが供給される側に切り換えられる。
【0050】
一方、この状態でインジェクション型気化器20の使用を停止すれば、制御部28はインジェクション型気化器20から信号を受けなくなるため、移動阻止手段22の制御弁26に対しての信号の送出が停止され、制御弁26はスプリングの付勢力によってノーマル位置に戻るため、シリンダ23への駆動ガスの供給が停止される。よって、ロッド24が後退して、ピン14の移動が阻止されなくなり、灯芯型気化器10のロックが解除される。
【0051】
従って、灯芯型気化器10を使用している際には、インジェクション型気化器20に停止信号を送出することでその作動がロックされ、インジェクション型気化器20を使用している際には、移動阻止手段22によって灯芯型気化器10をオンとすることができないように機械的にロックがかかるため、いずれか一方の気化器を使用している際には、他方の気化器が作動することを確実に防止することができ、麻酔ガスが混合するのを防止して安全な麻酔処理を施すことが可能となる。
【0052】
また、万一、故障等により両方の気化器10、20が同時に作動し得る事態に陥っても、切換弁35の働きによって新鮮ガスは並列に配置された二つの気化器10、20のうち一の気化器のみに供給されるため、複数の気化器から同時に麻酔ガスが生成されることを気化器10、20の前段において防止することができる。従って、複数の種類の麻酔ガスが混合して呼吸回路に送られることはないため、安全性を確保することができる。
【0053】
また、切換弁35は灯芯型気化器10に新鮮ガスを供給する位置がノーマル位置であるため、電気的不具合が生じてインジェクション型気化器20の作動を停止できなくなった場合には、手動により操作される灯芯型気化器10にのみ新鮮ガスが供給される。そのため、電気的故障に起因して灯芯型気化器20から呼吸回路への麻酔ガスの供給が抑制されるので、安全性をより高めることができる。
【0054】
さらに、上述のようにインジェクション型気化器20が使用された際には該インジェクション型気化器20から制御部28に信号が送出され、制御部28はこれに基づいて制御弁26に対して信号を送信し、該制御弁26はこれに応じてシリンダ23に駆動ガスを供給して、この駆動ガスの供給によってロッド24が前進することで灯芯型気化器10のピン14の移動を阻止する構成とされている。これによって、確実にピン14に機械的なロックをかけることができるためその移動を完全に阻止することができ、灯芯型気化器10の誤作動を防止することができる。
【0055】
また、灯芯型気化器10のみを使用している際には、インジェクション型気化器20に停止信号が送出されるのと同時に、制御弁26と切換弁35にも信号が送られ、この信号によってこれら制御弁26及び切換弁35がノーマル位置側に保持されるため、これらが誤作動することを防ぐことができ、灯芯型気化器10による麻酔ガスの供給を安定したものとすることができる。
【0056】
以上から、本実施の形態に係る麻酔システムによれば、灯芯型気化器10とインジェクション型気化器20の両方が搭載された麻酔装置において、一方の気化器が使用中の場合には、他方の気化器の作動を確実に停止することができ、麻酔ガスが混合するのを防いで安全な麻酔処理を施すことができるとともに、安定して麻酔ガスの供給をすることが可能となる。
【0057】
以上、本発明の実施の形態である麻酔システムについて説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態においては、灯芯型気化器10及びインジェクション型気化器20は、それぞれ1つずつの計2つの気化器が設けられているが、灯芯型気化器10とインジェクション型気化器20のいずれか又は双方が複数設けられた、例えば、3つ以上の気化器を備えたものであっても適用可能である。
【0058】
なお、本実施形態では、一対のピン13、14の場合について説明したが、ダイヤル11の回転と連動するピンが1本とされて、そのピンによって灯芯型気化器10の動作を阻止するとともに、灯芯型気化器10の作動を検出するようにしてもよい。また、この場合は、直動カム12をピンとしてもよい。
【0059】
また、インジェクション型気化器20のスイッチを入れることにより該インジェクション型気化器20の作動を検出する場合について説明したが、他の方法によりインジェクション型気化器20の作動を検出してもよい。さらに、インジェクション型気化器20の停止を停止信号により行う場合に説明したが、灯芯型気化器10の作動に基づいて、制御部28がインジェクション型気化器20への電力を遮断する構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本実施形態に係る麻酔システムの概略構成図である。
【図2】本実施形態に係る麻酔システムにおいて灯芯型気化器が使用されている際の作用説明図である。
【図3】本実施形態に係る麻酔システムにおいてインジェクション型気化器が使用されている際の機構説明図である。
【図4】灯芯型気化器を複数そなえた麻酔装置における麻酔システムの概略構成図である。
【符号の説明】
【0061】
10 灯芯型気化器
11 ダイヤル
13 ピン
14 ピン
20 インジェクション型気化器
21 センサ
22 移動阻止手段
23 シリンダ
24 ロッド
26 制御弁
28 制御部
30 ガス流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
麻酔薬濃度調整を行うダイヤルと、前記ダイヤルの回転と連動して進退するピンとを有する灯芯型気化器と、
麻酔薬濃度の設定値に応じた液量の麻酔薬を添加することにより麻酔薬濃度調整を行うインジェクション型気化器とを備えた麻酔システムであって、
灯芯型気化器とインジェクション型気化器とが同時に作動するのを防止する安全装置を備え、
前記灯芯型気化器の前記ピンの前進を検出するセンサと、
前記灯芯型気化器の前記ピンの前進を阻止する移動阻止手段と、
前記センサが前記ピンの移動を検出した際に前記インジェクション型気化器の作動を阻止し、前記インジェクション型気化器が作動した際には前記移動阻止手段に前記ピンの移動を阻止させる制御部とを、備えたことを特徴とする麻酔システム。
【請求項2】
請求項1に記載の麻酔システムであって、
前記ピンは、前記センサにより検出される一方のピンと、前記移動阻止手段により前進が阻止される他方のピンとからなる一対のピンからなることを特徴とする麻酔システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の麻酔システムであって、
前記灯芯型気化器と前記インジェクション型気化器とは、ガス流路に互いに並列に接続されるとともに、これら気化器の上流のガス流路にはいずれか一方の気化器のみへ新鮮ガスを送る切換弁が設けられおり、該切換弁は使用される一の気化器に対してのみ新鮮ガスを送るように制御されていることを特徴とする麻酔システム。
【請求項4】
請求項3に記載の麻酔システムであって、
前記切換弁は、新鮮ガスを前記灯芯型気化器に送る側がノーマル位置であることを特徴とする麻酔システム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の麻酔システムであって、
前記移動阻止手段は、
駆動ガスの供給によりロッドを前進させて前記他方のピンの移動を阻止するシリンダと、
前記インジェクション型気化器が作動した際に、前記シリンダを駆動ガスを供給して前進させる制御弁と、からなることを特徴とする麻酔システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−72314(P2009−72314A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−242988(P2007−242988)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(000200677)泉工医科工業株式会社 (56)