説明

麻酔薬用ガラス容器

【課題】 アルカリ分の溶出を抑制することにより、該アルカリ分による麻酔薬の分解を防止して安定した保存をすることが可能な麻酔薬用ガラス容器を提供する。
【解決手段】 本発明の麻酔薬用ガラス容器は、フルオロエーテル化合物及び水を含む麻酔薬を保存する麻酔薬用ガラス容器であって、ホウケイ酸ガラスからなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状麻酔薬用の容器に関し、より詳細には、フルオロエーテル化合物を含む麻酔薬を保存するのに適した麻酔薬用ガラス容器に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロエーテル化合物は優れた麻酔薬として広く用いられている。フルオロエーテル化合物の例としては、例えばセボフルラン、エンフルラン、イソフルラン、メトキシフルラン、又はデスフルラン等が例示できる。
【0003】
しかし、フルオロエーテル化合物を用いた麻酔薬をガラス容器に保存した場合、該ガラス容器内壁に何らかの原因で変質又は腐食し露出した酸化アルミニウム(Al)がルイス酸としてフルオロエーテル化合物を攻撃し、これを分解するという問題がある。特に、フルオロエーテル化合物としてセボフルランを用いた場合、セボフルランの分解によりフッ化水素酸が生成し、このフッ化水素酸が更にガラス容器を浸食して酸化アルミニウムを一層溶出させる為、保存安定性が益々劣化する。
【0004】
この様な問題を課題とした先行技術としては、例えば下記特許文献1(日本国特許第3183520号)に記載の麻酔薬組成物が挙げられる。この麻酔薬組成物は、フルオロエーテル化合物としてのセボフルランと、少なくとも0.015%(重量/重量)の水とを含み構成されている。水はルイス酸抑制剤として機能する為、これにより酸化アルミニウムによるセボフルランへの攻撃を抑制し、麻酔薬としての保存安定性の向上を図っている。
【0005】
前記麻酔薬組成物を保存する為に現在使用されているガラス容器の材料は、タイプIIIに分類されるソーダライム(石灰)ガラスである。該ガラス容器は、他の材料からなる容器と比較して耐水性に優れているが、それでもガラス容器からは微量のアルカリ分が溶出する。アルカリ分とは、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等のアルカリ金属の水酸化物である。前記構成のように、麻酔薬組成物中に0.015%(重量/重量)以上の多量の水が含まれると、この水がガラス容器の内壁を浸食し、その結果アルカリ分を溶出させる。麻酔薬組成物中にアルカリ分が溶出すると、該アルカリ分はフルオロエーテル化合物を攻撃し、これを分解する。特にセボフルランは、ソーダライム(主成分;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム)やバラライム(水酸化バリウム)等と反応して分解することが知られている。その為、前記構成の麻酔薬組成物であるとアルカリ溶出に対しては、保存安定性に劣るという問題がある。更に、麻酔薬組成物中に0.015%(重量/重量)以上の水が含まれると、アルカリ溶出させるだけでなく、ガラス表面の完全性を損ない、新たに酸化アルミニウム(Al)等のルイス酸を露出し、フルオロエーテル化合物を分解するという問題がある。
【0006】
また、ガラス容器の他に、金属酸化物を含有しないプラスチック容器の使用も考えられる。例えば、下記特許文献2(日本国特許第3524060号)には、ポリエチレンナフタレート、ポリメチルペンテン、ポリプロピレン、ポリエチレン、イオノマー樹脂及びそれらの組み合わせから構成される群から選択される化合物を材料とし、形成された容器が開示されている。また、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリルを成型した容器が市販されており、これらの容器もセボフルラン等のフルオロエーテル化合物を用いた麻酔薬組成物の保存に適用することが考えられる。更に、フッ素樹脂容器も挙げることができる。フッ素樹脂としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTEE)、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロ−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PFEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルフルオライド(PVF)等が挙げられる。
【0007】
しかし、前記したプラスチック容器は蒸気透過性を有しているので、経時変化と共にセボフルランを該容器から散逸させる。また、プラスチック容器の周囲の蒸気を該容器内に吸収する可能性もあり、容器内の麻酔薬組成物に該蒸気が混入することもある。更に、プラスチック容器は、温度上昇した場合に熱変形を生じやすいという問題もある。その上、セボフルランは強い有機溶剤特性を有することから、プラスチック材料を溶解させ、或いはプラスチック材料と反応する場合がある。その結果、麻酔薬組成物中に不純物が含まれる場合がある。
【0008】
また、ステンレス鋼やアルミニウム材等からなる金属容器の使用も考えられるが、金属容器は医療分野で一般的に使用されている250mlでの保管、取り扱いに適していない。
【0009】
【特許文献1】日本国特許第3183520号
【特許文献2】日本国特許第3524060号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、アルカリ分の溶出を抑制することにより、該アルカリ分による麻酔薬の分解を防止して安定した保存をすることが可能な麻酔薬用ガラス容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者等は、前記従来の問題点を解決すべく、麻酔薬用ガラス容器について検討した。その結果、下記構成を採用することにより前記目的を達成できることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0012】
即ち、本発明に係る麻酔薬用ガラス容器は、前記の課題を解決する為に、フルオロエーテル化合物及び水を含む麻酔薬を保存する麻酔薬用ガラス容器であって、ホウケイ酸ガラスからなることを特徴とする。
【0013】
麻酔薬中に水が含まれていると、該水がガラス容器の内壁を浸食し、その結果アルカリ分を溶出させる。アルカリ分とは、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等のアルカリ金属の水酸化物である。このアルカリ分が麻酔薬中に溶出すると、該アルカリ分はフルオロエーテル化合物を攻撃し、これを分解する。しかし、前記構成の麻酔薬用ガラス容器であると、ソーダライム(石灰)ガラスと比較して、麻酔薬を保存する際のアルカリ分の総アルカリ溶出量を抑制するので、該アルカリ分によるフルオロエーテル化合物の分解を低減し、麻酔薬を長期にわたって安定的に保存することが可能になる。尚、前記総アルカリ溶出量は、麻酔薬中のナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)を誘導結合プラズマ発光分析により求めることができる。
【0014】
また、前記フルオロエーテル化合物としてセボフルランを使用することが好ましい。
【0015】
セボフルランは、ソーダライム(主成分;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム)やバラライム(水酸化バリウム)等と反応して分解することが知られているが、本発明の麻酔薬用ガラス容器であるとアルカリ分の総アルカリ溶出量を抑制するので、セボフルランを用いた場合にも、麻酔薬を長期にわたって安定的に保存することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、前記に説明した手段により、以下に述べるような効果を奏する。
即ち、本発明によれば、フルオロエーテル化合物及び水を含む麻酔薬を保存する為の麻酔薬用ガラス容器として、ホウケイ酸ガラスからなるものを使用するので、例えばソーダライム(石灰)ガラスと比較してアルカリ分の総アルカリ溶出量を抑制することができる。その結果、アルカリ分によるフルオロエーテル化合物の分解を低減し、麻酔薬を長期にわたって安定的に保存することが可能になる。即ち、本発明であると、前記麻酔薬の長期保存に優れた麻酔薬用ガラス容器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態に係る麻酔薬用ガラス容器を説明する。本実施の形態に係る麻酔薬用ガラス容器は、第14改正日本薬局方で定める注射剤用ガラス試験法に於けるアルカリ溶出試験法第1法に基づき求める総アルカリ溶出量を、例えばソーダライム(石灰)ガラスと比較して抑制可能なガラスからなる。該ガラスを用いることにより、フルオロエーテル化合物のアルカリ分に起因する分解を実質的に防止し、麻酔薬を長期にわたって安定的に保存することを可能にする。
【0018】
前記ガラスとしては、例えばホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等が挙げられる。これらのガラスのうち、本発明は、ホウケイ酸ガラスが好ましい。
【0019】
前記ホウケイ酸ガラスは、SiO及びBを主成分として含み構成される。SiOの含有量は、70.0〜80.6重量%であることが好ましく、70.0〜73.0重量%であることがより好ましい。含有量が80.6重量%を超えるとガラスの溶融性及び成形性が低下する場合がある。その一方、含有量が70.0重量%未満であると、熱膨張係数が大きくなり過ぎて耐熱性が低下する場合がある。
【0020】
の含有量は、9.5〜15重量%であることが好ましく、10〜11重量%であることがより好ましい。含有量が15重量%を超えると、化学的耐久性が低下する場合がある。その一方、含有量が9.5重量%未満であると、ガラスの溶融性が低下する場合がある。
【0021】
また、その他の成分として、例えばAl、NaO、KO、CaO、BaO等が含まれていてもよい。但し、本発明に於いては、総アルカリ溶出量を抑制する為、NaO、KO、CaO、BaO等のアルカリ金属の酸化物の含有量は、極力少ないことが好ましい。この観点から、NaOの含有量は7.5重量%以下であることが好ましい。但し、ガラスの溶融性の低下防止を考慮すると、3.8重量%以上であることが好ましい。また、KOの含有量は、前記の観点から、2.5重量%以下であることが好ましい。但し、化学的耐久性の低下防止を考慮すると、0.5重量%以上であることが好ましい。また、CaOの含有量は、前記の観点から、1.0重量%以下であることが好ましい。但し、ガラスの溶融性の低下防止を考慮すると、0.1重量%以上であることが好ましい。また、BaOの含有量は、前記の観点から、2重量%以下であることが好ましい。但し、ガラスの溶融性の低下防止を考慮すると、1重量%以上であることが好ましい。
【0022】
また、Alについては、該Alが露出すると、これがルイス酸としてフルオロエーテル化合物を攻撃し、分解することがある。従って、Alの含有量は、前記の観点から7.5重量%以下であることが好ましい。これにより、フルオロエーテル化合物を含む麻酔薬の保存安定性を一層高めることが可能になる。但し、ガラスの失透の抑制、及び化学的耐久性の向上の観点からは、Alの含有量は1.5重量%以上であることが好ましい。
【0023】
ホウケイ酸ガラス中には、清澄剤等が添加されていてもよい。清澄剤としては、As、Sb、NaCl等の1種又は2種以上が挙げられる。清澄剤の含有量としては、0.01〜0.5重量%であることが好ましい。含有量が0.5重量%を超えると、As、Sb、Cl等の溶出量が増大したり、バーナー加工によりガラスが変色する場合がある。その一方、0.01重量%未満であると、清澄効果が低下する場合がある。尚、ZrOを添加するとガラスの粘性が増大し、結果的に総アルカリ溶出量が多くなる場合がある。
【0024】
前記無アルカリガラスは、SiO(40〜70重量%)、Al(6〜25重量%)、B(5〜20重量%)、MgO(0〜10重量%)、CaO(0〜15重量%)、BaO(0〜30重量%)、SrO(0〜10重量%)、ZnO(0〜10重量%)、SO(0〜0.03重量%)、SnO(0〜2重量%)等の各成分を含有し、NaO、KO等のアルカリ金属の酸化物が実質的に含まれないガラスである。
【0025】
本発明の麻酔薬用ガラス容器の態様としては特に限定されず、例えば試験管、ビーカー、ボトル等が例示できる。更に、該ガラス容器の内壁をSiOやポリテトラフルオロエチレン等によりコーティングしておいてもよい。これにより、該ガラス容器からアルカリ分や酸化アルミニウム等の溶出及び露出を一層抑制することができる。しかし、開口部分を溶封する必要があるアンプル等の場合、バーナー火炎等により高温に熱せられた溶融部から、アルカリ成分が揮発しサンプル中に混入するため、内容物の品位の低下を招来することがある。また、フルオロエーテル化合物は揮発性が高く、溶封時、高温に熱せられたガラスと揮発したフルオロエーテル化合物が反応する。このときに発生する不純物、及び腐食されたガラス表面がフルオロエーテル化合物の分解を促進する。これらの理由から、フルオロエーテル化合物を保存する容器として、開口部分を高温で加熱して溶封する必要があるアンプル等は不適当である。
【0026】
本発明の麻酔薬用ガラス容器が保存する麻酔薬は、フルオロエーテル化合物と水とを含むものである。該フルオロエーテル化合物は、下記化学構造式(I)で表される。
【0027】
【化1】

【0028】
前記化学構造式を有するフルオロエーテル化合物は、アルファフルオロエーテル部分を含んでいる。また、前記の化学構造式に於いて、R〜Rは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、1個から4個の炭素原子を有するアルキル基(C〜Cアルキル)、又は1個から4個の炭素原子を有する置換されたアルキル(C〜C置換アルキル)の何れかであることが好ましい。更に、R及びRはそれぞれ置換アルキルCFであり、R、R、及びRはそれぞれ水素であることがより好ましい。
【0029】
前記アルキルとは、1つの水素原子を除去することにより飽和炭化水素から誘導される直鎖又は分枝鎖のアルキル基を表す。また、前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソ−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソ−ブチル基、tert−ブチル基、又はその他同種類のものが挙げられる。前記置換アルキルとしては、ハロゲン、アミノ、メトキシ、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、ジクロロメチル、クロロフルオロメチル等の1つもしくはそれ以上の基で置換されたアルキル基が挙げられる。前記ハロゲンとしては、F、Cl、Br、Iが挙げられる。
【0030】
前記フルオロエーテル化合物としては特に限定されず、例えば、セボフルラン(フルオロメチル−2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチルエーテル、下記化学構造式(II))、エンフルラン((±−)−2−クロロ−1,1,2−トリフルオロエチルジフルオロメチルエーテル)、イソフルラン(1−クロロ−2,2,2−トリフルオロエチルジフルオロメチルエーテル)、メトキシフルラン(2,2−ジクロロ−1,1−ジフルオロエチルメチルエーテル)、又はデスフルラン((±−)−2−ジフルオロメチル1,2,2,2−テトラフルオロエチルエーテル)等が例示できる。これらのフルオロエーテル化合物のうち、本発明に於いてはセボフルランが好ましい。セボフルランは、気道刺激性も小さく、麻酔の導入及び覚醒を円滑かつ速やかに行うことができ、更に吸入停止後は殆どが呼気中に速やかに排出され、代謝率も低いからである。
【0031】
【化2】

【0032】
フルオロエーテル化合物の含有量としては特に限定されず、例えば、98〜100%(重量/重量)の範囲内であることが好ましい。特にフルオロエーテル化合物としてセボフルランを使用する場合、その含有量は、98〜100%(重量/重量)の範囲内であることが好ましく、99〜100%(重量/重量)の範囲内であることがより好ましい。
【0033】
前記水としては、精製水、超純水、蒸留水、それらを組み合わせたもの、減菌精製水又は注射用蒸留水を使用することができる。これらのうち、本発明に於いては、医療用水の観点から、減菌精製水又は注射用蒸留水が好ましく、注射用蒸留水が特に好ましい。
【0034】
前記水の含有量は特に限定されず、一般的には0.015〜0.14%(重量/重量)である。本発明の麻酔薬用ガラス容器は、麻酔薬中に多量の水が含まれている場合でもアルカリ分の総アルカリ溶出量を抑制することができるからである。しかし、アルカリ分によるフルオロエーテル化合物の分解を一層抑制するという観点からは、0.015%(重量/重量)未満であることが好ましく、0.002〜0.01%(重量/重量)の範囲内であることがより好ましく、0.005〜0.01%(重量/重量)の範囲内であることが特に好ましい。水の含有量を前記範囲内にすることにより、麻酔薬をガラス容器に保存した場合にも、ガラス容器からアルカリ分(例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等の水酸化物)が溶出するのを一層抑制することができる。更に、ガラス表面を腐食しない為、新たな酸化アルミニウム(Al)等のルイス酸を露出することも抑制する。その結果、該アルカリ分及び該ルイス酸によるフルオロエーテル化合物の分解を抑制でき、保存安定性を向上させることができる。尚、当初よりガラス表面の欠陥部分には、微量の酸化アルミニウムが存在する場合がある。この酸化アルミニウムがルイス酸としてフルオロエーテル化合物を攻撃し、これを分解することがある。これに対し、水の含有量を0.002%(重量/重量)以上にすることで、水をルイス酸抑制剤として有効に機能させ、フルオロエーテル化合物の分解を抑制することができる。その結果、保存安定性の向上が一層図れる。
【0035】
尚、アルカリ分による分解メカニズムを、フルオロエーテル化合物としてセボフルランを例にして、下記反応経路図に基づき説明すれば、以下の通りである。即ち、セボフルランのフルオロメチル基のFがOH基に置換され、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)とホルムアルデヒドが生成する。次に、ホルムアルデヒドはCannizzaro反応を経てメタノールを生成する。その一方、セボフルランからHFが脱離すると、化合物Aが生成する。更に、この化合物Aとメタノールが反応すると化合物Bが生成し、更にHFが脱離すると化合物C、Dが生成する。
【0036】
【化3】

【0037】
前記の様に、セボフルランはソーダライム(石灰)ガラス製の容器中で分解し、その品位の低下を引き起こす。このセボフルランの分解は、ソーダライム(石灰)ガラスから溶出するアルカリ分に起因すると考えられる。アルカリ溶出は、下記化学反応式に示すように、ソーダライム(石灰)ガラス中の酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化バリウム(BaO)等の金属酸化物が水(HO)と反応し、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH))又は水酸化バリウム(Ba(OH))等のアルカリになることで引き起こされる。
【0038】
【化4】

【実施例】
【0039】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、この実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0040】
(実施例1〜7)
容量30mlのホウケイ酸ガラス製のボトル(麻酔薬用ガラス容器)を用意した。本実施例に使用したボトルのガラス組成は、下記表1の通りである。
【0041】
【表1】

【0042】
次に、麻酔薬組成物としてセボフルランを用い、下記表2に示す水分量に各々調製した麻酔薬(10ml)を該ボトルにそれぞれ保存した。麻酔薬に含まれる水としては、超純水を使用した。保存期間については全ての麻酔薬について144時間とし、また保存温度については60℃とした。その後、各麻酔薬について保存安定性の試験を行った。
【0043】
保存安定性の試験は、アルカリ分に起因するセボフルランの分解により生成する化合物A(下記化学構造式、参照)と、ルイス酸に起因するセボフルランの分解により生成するヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)とを、ガスクロマトグラフ(ヒューレット・パッカード製HP6890)を用いて定量することにより行った。また、分析条件は、下記の通りとした。
【0044】
分析条件
カラム:J&W Scientific社製、DB−624(60m×0.32m×1.8μm)
キャリアー:ヘリウム
ovenの温度条件:開始温度50℃、昇温速度5℃/min
検出器:MSD(HP5973)
【0045】
【化5】

【0046】
また、セボフルラン中のナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)を誘導結合プラズマ発光分光法で分析し、総アルカリ溶出量を求めた。
【0047】
(比較例1〜3)
本比較例1〜3に於いては、麻酔薬用ガラス容器として褐色ソーダライム(石灰)ガラス製のボトルを用いたことが以外は、それぞれ前記実施例5〜7と同様にして保存安定性の試験を行った。結果を下記表2に示す。尚、本比較例に使用したボトルのガラス組成は、前記表1の通りである。
【0048】
【表2】

【0049】
(結果)
前記表2から明らかな様に、ホウケイ酸ガラスからなる実施例1〜7のガラス容器であると、麻酔薬中に含まれる水の含有量に関わらず、アルカリ分の溶出を0.3ppm未満に抑制することができた。その結果、化合物Aの生成を1ppm未満に抑制することができ、セボフルランのアルカリ分による分解を防止できたことが確認された。その一方、ソーダライム(石灰)ガラスからなる比較例1〜3のガラス容器であると、総アルカリ溶出量が何れも多く、化合物Aの生成を抑制することができず、セボフルランがアルカリ分により分解していることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオロエーテル化合物及び水を含む麻酔薬を保存する麻酔薬用ガラス容器であって、ホウケイ酸ガラスからなることを特徴とする麻酔薬用ガラス容器。
【請求項2】
前記フルオロエーテル化合物としてセボフルランを使用することを特徴とする請求項1に記載の麻酔薬用ガラス容器。

【公開番号】特開2007−20867(P2007−20867A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−207228(P2005−207228)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(000162847)ステラケミファ株式会社 (81)
【Fターム(参考)】