説明

黒鉛層間化合物の製造方法

【課題】 本発明は、黒鉛の層面間に均一に挿入化合物又はこれに由来するイオンが挿入されてなる黒鉛層間化合物を効率良く製造することができる黒鉛層間化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の黒鉛層間化合物の製造方法は、黒鉛に超臨界流体の存在下にて挿入化合物を接触させて黒鉛層間化合物を製造することを特徴とするので、黒鉛の層面間に挿入化合物又はこれに由来するイオンを均一に挿入して、均一な品質を有する黒鉛層間化合物を容易に製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛層間化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、黒鉛層間化合物とその利用について種々の研究がなされている。例えば、特許文献1には、黒鉛層間に低分子物質を挿入した黒鉛層間化合物を生成させた後に、有機化剤溶液に浸漬して黒鉛層間に有機化合物分子が挿入された有機化黒鉛を熱硬化性樹脂と混合して得られる熱硬化性樹脂複合材料が記載されている。
【0003】
そして、低分子物質として、酸、ハロゲン及びハロゲン化物、金属酸化物、アルカリ金属及びアルカリ土類金属、遷移金属及び遷移金属化合物が記載されており、有機化合物分子として、アルキルアミンとその塩、アルキルアンモニウムとその塩、アルキルジアミン、アルキルアミノカルボン酸が挙げられている。
【0004】
低分子物質を挿入して黒鉛層間化合物を製造する方法として、(a)層間挿入したい低分子物質を含む溶液に黒鉛を浸漬する方法、(b)層間挿入したい低分子物質の蒸気を含む蒸気に黒鉛を接触させる方法、(c)黒鉛電極を層間挿入したい物質を含む液中で通電反応させる方法、(d)加圧法が挙げられている。
【0005】
特許文献2には、段落番号〔0029〕に、反応容器中で改質黒鉛粉末とPtCl4(塩化白金 Platinum chloride )を混合し、塩素ガス雰囲気下(圧力0.3MPa)、約450℃で熱処理することにより、PtCl4−GICが合成される(気相法)こと、又、アルゴン雰囲気中で塩化白金酸H2PtCl6・6H2Oと改質黒鉛を混合し、塩化チオニルSOCl2を溶媒として80℃で7時間還流することによってもPtCl4−GICが合成される(溶媒法)ことが記載されている。
【0006】
そして、段落番号〔0030〕には、水素雰囲気中での還元焼成や、ヒドラジンへの浸漬による化学的な還元により黒鉛層間から白金が容易に析出し触媒が調整できることが記載されている。
【0007】
更に、このようにして得られた黒鉛層間化合物は、燃料電池用触媒、リチウムイオン電池用負極材、キャパシタ材料、低抵抗電気材料などのさまざまな用途に適用できる旨が記載されている(段落番号〔0001〕)。
【0008】
しかしながら、上述の方法によっても、黒鉛の層面間に均一に挿入化合物が挿入された黒鉛層間化合物を効率よく得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−199813号公報
【特許文献2】特開2007−290936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、黒鉛の層面間に均一に挿入化合物又はこれに由来するイオンが挿入されてなる黒鉛層間化合物を効率良く製造することができる黒鉛層間化合物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の黒鉛層間化合物の製造方法は、黒鉛に超臨界流体の存在下にて挿入化合物を接触させて黒鉛層間化合物を製造することを特徴とする。
【0012】
上記黒鉛としては、粒子全体で単一の多層構造を有する黒鉛が好ましく、例えば、天然黒鉛、キッシュ黒鉛、高配向性熱分解黒鉛などが挙げられる。天然黒鉛とキッシュ黒鉛は、各層面(グラフェン、基本層)が略単一の方位を有する単独の結晶であり、高配向性熱分解黒鉛の各層面(基本層)は異なる方位を有する多数の小さな結晶の集合体である。なお、黒鉛に官能基が化学的に結合してしても、或いは、黒鉛に官能基が弱い相互作用により疑似的に結合していてもよい。なお、黒鉛として黒鉛層間化合物を用いてもよい。黒鉛として黒鉛層間化合物を用いることによって二種以上の挿入化合物が挿入された黒鉛層間化合物を得ることができる。
【0013】
黒鉛において、レーザー光回折法により粒度分布を測定した場合に50%体積平均径として得られる値は、小さいと、黒鉛層間化合物の製造時に黒鉛層間化合物がその層面間において剥離し易くなり、或いは、黒鉛層間化合物の異方性が不充分となることがあり、大きいと、黒鉛の層面間に挿入化合物を挿入するのに時間を要し、黒鉛層間化合物の製造効率が低下することがあるので、5〜50μmが好ましい。
【0014】
なお、レーザー光回折法により粒度分布を測定した場合に50%体積平均径として得られる値が5〜50μmである黒鉛は、例えば、SECカーボン社から商品名「SNO−15」などのSNOシリーズにて、中越黒鉛工業所から商品名「CX−3000」にて、伊藤黒鉛社からCNP−シリーズにて、XGSience社から商品名「XGnP−5」にて市販されている。
【0015】
上記黒鉛に超臨界流体の存在下にて挿入化合物を接触させて黒鉛層間化合物を製造する。
超臨界流体は、黒鉛の層面間に侵入しやすく、黒鉛の層面間に超臨界流体が進入する際に、挿入化合物を超臨界流体と共に黒鉛の層面間に挿入させ、挿入化合物又はこれに由来するイオンが黒鉛の層面間に均一に挿入されてなる黒鉛層間化合物を製造することができる。
【0016】
超臨界流体とは、臨界点における温度(臨界温度Tc)以上の温度とし且つ臨界点における圧力(臨界圧力Pc)以上の圧力とした状態の流体、すなわち、超臨界状態の流体をいう。超臨界流体を構成する化合物としては、特に限定はされないが、例えば、プロトン性化合物、トルエン、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルスルホキシド、N,N′−ジメチルホルムアミド、N,N′−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ベンゼン、キシレン、窒素、二酸化炭素、クロロジフルオロメタン、ジクロロトリフルオロエタンなどのクロロフルオロカーボン、ヒドロクロロフルオロカーボン、n−ブタン、プロパン、エタンなどの低分子量アルカン、エチレンなどの低分子量アルケン、アンモニア、酸素、ヘリウム、アルゴンなどが挙げられる。
【0017】
プロトン性化合物とは、分子内に酸素原子や窒素原子に結合した水素原子を有し、容易に解離してプロトン(H+)を放出することが可能な化合物である。このようなプロトン性化合物として具体的には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、及びイソプロパノールなどのアルコール類、ブチルアミン、及びジエチルアミンなどのアミン類、並びに水が挙げられる。
【0018】
二酸化炭素を含む流体に圧力を加えることにより超臨界状態の二酸化炭素を含む超臨界流体を得る場合には、超臨界流体に加えられている圧力は7.3MPa以上が好ましく、高くても、黒鉛の層面間に挿入化合物を挿入する効果に変化はないので、100Mpa以下が好ましく、30Mpa以下がより好ましい。
【0019】
超臨界流体の加熱温度は、高いと、得られた黒鉛層間化合物が変性する虞れがあるので、臨界温度以上で且つ450℃以下が好ましく、臨界温度以上で且つ400℃以下がより好ましい。
【0020】
超臨界流体は、超臨界状態のプロトン性化合物を含んでいるのが好ましく、超臨界状態の水を含んでいるのがより好ましい。特に、挿入化合物として後述する過マンガン酸カリウムなどの酸化剤を用いた場合に、超臨界状態のプロトン性化合物を含む超臨界流体は、多くのプロトンを放出することにより、酸化剤による黒鉛の表面及び層面の酸化を促進させることができ、超臨界流体と共に多くの挿入化合物又はこれに由来するイオンを均一に黒鉛の層面間に挿入させることが可能となる。
【0021】
超臨界流体は、超臨界状態の水及び超臨界状態の二酸化炭素を含んでいるのが特に好ましい。超臨界状態の水及び超臨界状態の二酸化炭素を含む超臨界流体は、プロトンと炭酸イオンとに電離して酸性を示す。したがって、超臨界状態の水及び超臨界状態の二酸化炭素を含む超臨界流体は、挿入化合物として後述する過マンガン酸カリウムなどの酸化剤を用いた場合に、酸化剤による黒鉛の表面及び層面の酸化をより促進させることができ、超臨界流体と共により多くの挿入化合物又はこれに由来するイオンをより均一に黒鉛の層面間に挿入させることが可能となる。
【0022】
超臨界流体における超臨界状態の水(W1)と超臨界状態の二酸化炭素(W2)との重量比(W1:W2)は、100:5〜10:100が好ましく、100:20〜40:100がより好ましい。超臨界状態の水及び超臨界状態の二酸化炭素を上記重量比で含むことにより、強い酸性を示し、酸化剤による黒鉛の表面及び層面の酸化をより促進させることが可能な超臨界流体を得ることができる。
【0023】
超臨界状態の水及び超臨界状態の二酸化炭素を含む超臨界流体は、例えば、水及び二酸化炭素を含む流体を加熱し且つ圧力を加えることにより得ることができる。具体的には、常温で且つ常圧下で液体状態である水及び常温で且つ常圧下で気体状態である二酸化炭素を含む流体を、好ましくは240〜450℃、より好ましくは260〜400℃に加熱し、且つ上記流体に好ましくは25〜200MPa、より好ましくは30〜100MPaの圧力を加えることにより、超臨界状態の水及び超臨界状態の二酸化炭素を含む超臨界流体を得ることができる。
【0024】
挿入化合物としては、黒鉛の層面間に挿入させて層面間の間隔を広げることができる化合物であれば、特に限定されず、酸、酸化剤、金属、ハロゲン化合物、有機金属化合物、及び有機化合物などが挙げられる。挿入化合物は単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0025】
酸としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸、アルキルアミノカルボン酸などのカルボン酸、クロム酸、リン酸、ヨウ素酸などが挙げられる。酸化剤としては、例えば、過マンガン酸カリウム、過酸化水素、塩素酸カリウム、臭素酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウムなどが挙げられる。金属としては、例えば、カリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅などの遷移金属などが挙げられる。ハロゲン化合物としては、例えば、塩化ヨウ素、塩化臭素、臭化ヨウ素、フッ化ヨウ素、フッ化臭素、フッ化塩素、フッ素、塩素、塩化アルミニウムなどが挙げられる。有機金属化合物としては、トリフェニルホスフィンロジウム、有機マグネシウム化合物、有機亜鉛化合物、有機スズ化合物などが挙げられる。有機化合物としては、炭化水素系化合物、(メタ)アクリル系化合物、有機シラン系化合物、アルキルアミンやピリジン等の有機アミン系化合物、及びジメチルスルホキシドなどの有機硫黄系化合物等が挙げられる。なお、挿入化合物も黒鉛の層面間に挿入する際に超臨界流体となっていてもよい。
【0026】
超臨界流体中では挿入化合物が電離してイオンを形成する場合もある。したがって、黒鉛の層面間には、挿入化合物は化合物の形態のまま挿入されてもよいが、挿入化合物に由来するイオンが挿入されてもよい。
【0027】
挿入化合物としては、酸化剤を用いるのが好ましく、過マンガン酸カリウムを用いるのがより好ましい。超臨界流体の存在下で酸化剤と黒鉛とを接触させる際に、酸化剤はその強い酸化力によって黒鉛の表面及び層面を酸化させて酸素含有基を導入することができる。このように酸素含有基が導入された黒鉛の層面間には超臨界流体がより進入し易くなり、これにより黒鉛の層面間に超臨界流体が進入する際に、超臨界流体と共により多くの挿入化合物又はこれに由来するイオンをより均一に黒鉛の層面間に挿入させることができる。
【0028】
黒鉛(W3)と酸化剤(W4)との重量比(W3:W4)は、1:0.1〜1:30が好ましく、1:0.5〜1:10がより好ましい。黒鉛に対する酸化剤の重量比が少な過ぎると、酸化剤によって黒鉛の表面及び層面を十分に酸化できない虞れがある他、黒鉛の層面間に酸化剤又はこれに由来するイオンを十分に挿入できない虞れがある。また、黒鉛に対する酸化剤の重量比が多過ぎると、黒鉛を構成している炭素同士が形成しているSP2混成軌道が減少し、得られる黒鉛層間化合物の導電性や平面性を低下させる虞れがある。
【0029】
黒鉛に超臨界流体の存在下にて挿入化合物を接触させる方法としては、特に限定されない。常温で且つ常圧下にて液体状態の流体を含む流体に圧力を加えることにより超臨界流体とする場合には、例えば、常温で且つ常圧下にて液体状態の流体中に黒鉛及び挿入化合物を供給し分散させて混合体を作製し、この混合体を加熱しながら圧力を加えて、黒鉛を超臨界流体の存在下にて挿入化合物に接触させる方法、常温で且つ常圧下にて液体状態の流体を加熱しながら加圧して超臨界流体とした上で、この超臨界流体内に黒鉛及び挿入化合物を供給、分散させて黒鉛に超臨界流体の存在下にて挿入化合物を接触させる方法などが挙げられる。
【0030】
又、常温で且つ常圧下にて気体状態の流体に圧力を加えることにより超臨界流体とする場合には、例えば、常温で且つ常圧下にて気体状態の流体中に黒鉛及び挿入化合物を供給して混合体を作製し、この混合体の流体を加熱しながら加圧して、黒鉛に超臨界流体の存在下にて挿入化合物を接触させる方法、常温で且つ常圧下にて気体状態の流体を加熱しながら加圧して超臨界流体とした上で、この超臨界流体内に黒鉛及び挿入化合物を供給して黒鉛に超臨界流体の存在下にて挿入化合物を接触させる方法などが挙げられる。
【0031】
更に、常温で且つ常圧下にて液体状態の流体と、常温で且つ常圧下にて気体状態の流体とを含む流体に圧力を加えることにより超臨界流体とする場合には、例えば、常温で且つ常圧下にて液体状態の流体と、常温で且つ常圧下にて気体状態の流体とを含む流体中に黒鉛及び挿入化合物を供給して混合体を作製し、この混合体の流体を加熱しながら加圧して、黒鉛に超臨界流体の存在下にて挿入化合物を接触させる方法、常温で且つ常圧下にて液体状態の流体と、常温で且つ常圧下にて気体状態の流体とを含む流体を加熱しながら加圧して超臨界流体とした上で、この超臨界流体内に黒鉛及び挿入化合物を供給して黒鉛に超臨界流体の存在下にて挿入化合物を接触させる方法などが挙げられる。
【0032】
なお、黒鉛に超臨界流体の存在下にて挿入化合物を接触させるにあたっては、汎用の装置を用いればよく、オートクレーブなど、ヒーターを備えた密閉可能な耐圧容器を備えた装置を用いればよい。
【0033】
黒鉛に超臨界流体の存在下にて挿入化合物を接触させる時間は、短いと、黒鉛の層面間に挿入化合物を充分に挿入させることができないことがあり、長いと、黒鉛の層面が剥離してしまい、黒鉛層間化合物を製造することができない虞れがあるので、10〜120分が好ましい。
【0034】
黒鉛の層面間に挿入化合物又はこれに由来するイオンを挿入した後、超臨界流体に加わっていた温度及び圧力をそれぞれ常温及び常圧にする際に、超臨界流体に加わっていた圧力を徐々に減圧するのが好ましい。超臨界流体に加わっていた圧力を徐々に減圧にすることによって、黒鉛の層面間に進入していた超臨界流体が黒鉛の層面間で急激に膨張して黒鉛の層面間を剥離するのを防止することができると共に、黒鉛の層面間に進入していた超臨界流体を黒鉛の外部へより確実に出すことができる。このように超臨界流体に加わっていた圧力を徐々に減圧するには、超臨界流体の温度を臨界温度(Tc)以下までに降温させた後に、降温後の流体に加わっている圧力を開放して常圧とするのが好ましい。
【0035】
上述のようにして、黒鉛の層面間に挿入化合物を挿入して得られた黒鉛層間化合物を超臨界流体から分離する方法は特に限定されない。超臨界流体を構成している化合物が、常温で且つ常圧にて液体状態の流体である場合には、例えば、超臨界流体を常温で且つ常圧とした上で、遠心分離などによって超臨界流体を構成していた化合物から黒鉛層間化合物を分離したり、減圧乾燥又は加熱乾燥によって超臨界流体を構成していた化合物を揮発除去したりすればよい。超臨界流体を構成している化合物が常温で且つ常圧にて気体である場合には、例えば、超臨界流体を常温で且つ常圧とした上で、超臨界流体を構成していた化合物中から黒鉛層間化合物を取り出せばよい。
【0036】
上述した方法により得られた黒鉛層間化合物に還元処理を行ってもよい。黒鉛層間化合物を還元処理することにより、黒鉛層間化合物を構成している炭素同士がより多くのSP2混成軌道を形成し、黒鉛層間化合物の導電性を向上させることができると共に、他の原子が除去されることによって黒鉛層間化合物の平面性を向上させることができる。
【0037】
黒鉛層間化合物を還元処理するには、例えば、還元剤を含む溶液に黒鉛層間化合物を浸漬する方法、黒鉛層間化合物に還元剤を含む溶液又は還元剤を噴霧する方法などが用いられる。還元剤としては、ヒドラジンや水素などが用いられる。還元剤を含む溶液は、還元剤を水などの溶媒に分散又は溶解させることにより調製できる。
【0038】
得られた黒鉛層間化合物は合成樹脂と混合することによって複合体として用いることができ、押出成形や射出成形などの汎用の成形方法を用いてシート状などの所望の形態に加工することができる。
【0039】
合成樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合体などのポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクタム、ポリフッ素化エチレン、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリブタジエン、ブチルゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ポリジメチルシロキサンなどが挙げられる。なお、合成樹脂は単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。又、モノマーとしては、上述の合成樹脂を構成しているモノマーが挙げられ、例えば、アクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、エチレン、プロピレン、スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、塩化ビニル、ブタジエン、イソプレンなどが挙げられる。
【発明の効果】
【0040】
本発明は、黒鉛に超臨界流体の存在下にて挿入化合物を接触させて上記黒鉛の層面間に上記挿入化合物を挿入して黒鉛層間化合物を製造することを特徴とするので、黒鉛の層面間に挿入化合物又はこれに由来するイオンを均一に挿入して均一な品質を有する黒鉛層間化合物を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の方法に好適に用いられる黒鉛層間化合物の製造装置を示した模式図である。
【図2】実施例1及び2において製造した黒鉛層間化合物のX線回折測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下に、本発明を実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【実施例】
【0043】
以下の実施例1及び2では、それぞれ図1に示す製造装置を用いて黒鉛層間化合物を製造した。図1において、1は金属塩溶融浴槽であり、その内部には金属塩2が貯留されている。また、金属塩溶融浴槽1内部には、金属塩2の温度を測定するための熱電対3が配設されていると共に、金属塩2を加熱、溶融させるためのヒーター4が配設されており、熱電対3によってヒーター4がオン、オフされ、金属塩2の温度が所望温度に維持されるように構成されている。又、5は黒鉛と超臨界流体を構成する化合物とを投入する製造容器である。
【0044】
そして、製造容器5にはコック6を介して流体供給管7の一端部が連結、連通されていると共に、流体供給管7の他端部は流体を貯蔵している流体ボンベ(図示せず)が連結、連通されており、流体ボンベ内の流体はポンプ(図示せず)によって製造容器5内に圧入されるように構成されている。
【0045】
(実施例1)
図1に示した製造装置を用いて、以下の要領に従って薄片化黒鉛化合物を製造した。先ず、管型の製造容器5(SUS316ステンレス鋼、松菱鋼機株式会社製 Tube Bomb Reacter、内容積0.01リットル)を開放して、製造容器5内に黒鉛シート(東洋炭素社製 PF100−UHP)0.2g、常温で且つ常圧下にて液体状態である水2.0g及び過マンガン酸カリウム(Sigma−Aldrich社製)0.4gを投入した上で製造容器5を閉止した。
【0046】
次に、コック6を操作して製造容器5と流体ボンベ(図示せず)とを連通させた状態とし、ポンプを駆動させて流体ボンベ内に充填されている常温で且つ常圧下にて気体状態である二酸化炭素0.8gを流体供給管7を通じて製造容器5内に供給した後、コック6を操作して製造容器5内を密封状態とし、製造容器5内と流体ボンベとが互いに遮断された状態とした。なお、コック6と製造容器5との間の流体供給管7部分、及び、製造容器5内は完全に二酸化炭素で置換されていた。
【0047】
しかる後、製造容器5全体を金属塩溶融浴槽1の溶融状態の金属塩2中に投入し、製造容器5内の温度を385℃まで上昇させると共に製造容器5内の圧力を32MPaまで上昇させて、超臨界状態の水及び超臨界状態二酸化炭素を含む超臨界流体を得ると共に、超臨界流体の存在下に過マンガン酸カリウムと黒鉛シートを30分間に亘って接触させ、黒鉛シートの層面間に超臨界流体と共に過マンガン酸カリウム又はこれに由来するカリウムイオンを挿入させて黒鉛層間化合物を得た。
【0048】
そして、製造容器5を金属塩溶融浴槽1から取り出し、水槽に投入して製造容器5内の温度を常温まで降温させた後、コック6を開放して製造容器5内を常圧として超臨界流体を構成していた二酸化炭素を気化させると共に、気化させた二酸化炭素を製造容器5の外部へ放出させた。その後、製造容器内5の内部に残っている黒鉛層間化合物を回収し、室温の真空雰囲気下で3時間乾燥させることにより水を除去した。
【0049】
(実施例2)
図1に示した製造装置を用いて、以下の要領に従って薄片化黒鉛化合物を製造した。先ず、管型の製造容器5(SUS316ステンレス鋼、松菱鋼機株式会社製 Tube Bomb Reacter、内容積0.01リットル)を開放して、製造容器5内に黒鉛シート(東洋炭素社製 PF100−UHP)0.2g、常温で且つ常圧下にて液体状態である水5.0g及び過マンガン酸カリウム(Sigma−Aldrich社製)0.4gを投入した上で製造容器5を閉止した。
【0050】
次に、コック6を操作して製造容器5と流体ボンベ(図示せず)とを連通させた状態とし、ポンプを駆動させて流体ボンベ内に充填されている窒素ガスを流体供給管7を通じて製造容器5内に供給し、製造容器5内、及びコック6と製造容器5との間の流体供給管7部分内の空気を窒素ガスによって完全に置換した後、コック6を操作して製造容器5内を密封状態とし、製造容器5内と流体ボンベとが互いに遮断された状態とした。なお、ここで充填した窒素ガスは0.9mgと非常に微量であるので、後工程で行う超臨界流体の存在下における黒鉛層間化合物の製造に影響を及ぼすことはない。
【0051】
しかる後、製造容器5全体を金属塩溶融浴槽1の溶融状態の金属塩2中に投入し、製造容器5内の温度を385℃まで上昇させると共に製造容器5内の圧力を30MPaまで上昇させて、超臨界状態の水からなる超臨界流体を得ると共に、超臨界流体の存在下に過マンガン酸カリウムと黒鉛シートを30分間に亘って接触させ、黒鉛シートの層面間に超臨界流体と共に過マンガン酸カリウム又はこれに由来するカリウムイオンを挿入させて黒鉛層間化合物を得た。
【0052】
そして、製造容器5を金属塩溶融浴槽1から取り出し、水槽に投入して製造容器5内の温度を常温まで降温させた後、コック6を開放して製造容器5内を常圧とした。その後、製造容器内5の内部に残っている黒鉛層間化合物を回収し、室温の真空雰囲気下で3時間乾燥させることにより水を除去した。
【0053】
(評価)
実施例1及び2における黒鉛層間化合物の製造条件をまとめて表1に示す。又、原料として使用した黒鉛シート、並びに実施例1及び2で製造した黒鉛層間化合物の層間距離(d002)について、以下の要領に従ってX線回折により分析した結果を図2に示す。
(X線回折測定)
X線回折測定は、2θ−θ法により下記に示す測定条件で行った。
X線回折装置:リガク社製 Rint1000
ターゲット:Cu
管電圧:50kVとし、管電流:150mA
検出器:シンチレーションカウンター
測定角度範囲:5〜45度
走査速度:0.2度/分
【0054】
図2に示す通り、原料として使用した黒鉛シートでは回折角度(2θ)が26度付近において最大ピークが生じているのに対して、実施例1及び2で製造した黒鉛層間化合物では回折角度(2θ)が26度付近において生じているピークが大幅に減少し、実施例1の黒鉛層間化合物では回折角度(2θ)が9度付近において新たなピークを生じ、更に実施例2の黒鉛層間化合物では回折角度(2θ)が11度付近において新たなピークを生じていることが分かる。これにより、実施例1及び2では、黒鉛シートの層面間に過マンガン酸カリウム又はこれに由来するイオンが挿入され、これにより層面間が広がった黒鉛層間化合物が得られていることが分かる。又、実施例2よりも実施例1の黒鉛層間化合物の方が、回折角度(2θ)が9度付近において新たに生じたピークの強度が高く、黒鉛シートの層面間により多くの過マンガン酸カリウム又はこれに由来するイオンが挿入され、これにより層面間がより広がった黒鉛層間化合物が得られていることが分かる。
【0055】
【表1】

【符号の説明】
【0056】
1 金属塩溶融浴槽
2 金属塩
3 熱電対
4 ヒーター
5 製造容器
6 コック
7 流体供給管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛に超臨界流体の存在下にて挿入化合物を接触させて黒鉛層間化合物を製造することを特徴とする黒鉛層間化合物の製造方法。
【請求項2】
超臨界流体が、超臨界状態のプロトン性化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の黒鉛層間化合物の製造方法。
【請求項3】
超臨界流体が、超臨界状態の水を含むことを特徴とする請求項1又は2に黒鉛層間化合物の製造方法。
【請求項4】
超臨界流体が、超臨界状態の水及び超臨界状態の二酸化炭素を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の黒鉛層間化合物の製造方法。
【請求項5】
挿入化合物が、酸化剤を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の黒鉛層間化合物の製造方法。
【請求項6】
挿入化合物が、過マンガン酸カリウムを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の黒鉛層間化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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