説明

黒鉛高純度化装置とその方法

【課題】2000℃を超える高温に黒鉛材料を加熱して、不純物を反応除去して高純度化することができ、かつ装置の損傷が少なく、エネルギー損失も少ない黒鉛高純度化装置とその方法を提供する。
【解決手段】内部でマイクロ波2が共鳴可能な共鳴空間9を有し、黒鉛材料からなるワーク1を収容可能であり、マイクロ波の吸収が少ない材料からなる中空共鳴容器10と、中空共鳴容器内に所定の周波数のマイクロ波を供給するマイクロ波供給装置12と、中空共鳴容器内に不純物を反応除去するための反応性ガス3を流通させるガス流通装置14とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2000℃を超える高温に黒鉛材料を加熱して不純物を反応除去し、黒鉛材料を高純度化する黒鉛高純度化装置とその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
黒鉛材料は、耐熱性、高温強度に優れるため、半導体製造分野において広く用いられている。しかし、黒鉛材料は、ホウ素(B)、ケイ素(Si)等の不純物を含んでいるため、半導体製造分野(例えばシリコン単結晶の引き揚げ装置等)で使用するためには、これらの不純物を低減して高純度化する必要がある。
【0003】
従来、黒鉛材料の高純度化は、黒鉛炉に塩化水素などのハロゲン化水素ガスあるいはフロンガスを供給し、黒鉛炉自体に通電して2000℃に以上に加熱して、黒鉛中のホウ素およびケイ素をそれぞれ0.1ppm以下(超高純度黒鉛の場合、高純度黒鉛はホウ素<0.15ppm、ケイ素<0.1ppm)に除去している。
【0004】
またその他の手段として、例えば特許文献1が既に開示されている。
【0005】
特許文献1の「黒鉛材料の高純度化処理炉および黒鉛材料の高純度化処理方法」は、小型化と加熱源の交換に伴う作業負荷や費用を低減することを目的とする。
そのため、図3に示すように、この文献の黒鉛材料高純度化処理炉は、処理容器52と、反応ガス導入排出部54と、材料配置部56と、材料配置部56を収容する断熱箱66と、マイクロ波照射装置58とを備える。マイクロ波照射装置58は、マイクロ波発信器60と、処理容器52内の断熱箱66の真上に開口が位置するように設けられる導波管62を備える。塩素ガスを処理容器52の内部を流通した状態で、常圧下、導波管62を介して処理容器52内にマイクロ波を照射する。マイクロ波は、断熱箱66に形成されたスリット67を通過して被処理用黒鉛材料Wに照射される。被処理用黒鉛材料Wは2000℃まで加熱され、被処理用黒鉛材料W中に含まれる不純物が揮散されるものである。
【0006】
【特許文献1】特開2006−143573号公報、「黒鉛材料の高純度化処理炉および黒鉛材料の高純度化処理方法」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
黒鉛炉を用いた従来の高純度化手段は、黒鉛炉自体に通電して発熱させて2000℃以上に加熱し、かつ腐食性の高いハロゲン化水素ガスを流すため黒鉛炉の損傷が激しい問題点がある。
また、特許文献1では、マイクロ波で黒鉛材料Wを加熱するため、断熱箱66の損傷を低減できるが、スリット67を通してマイクロ波を断熱箱内に伝達する必要があり、マイクロ波の黒鉛材料Wへの伝達効率が低く、マイクロ波の損失が大きい問題点がある。
【0008】
本発明は、かかる問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、2000℃を超える高温に黒鉛材料を加熱して、不純物を反応除去して高純度化することができ、かつ装置の損傷が少なく、エネルギー損失も少ない黒鉛高純度化装置とその方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、内部でマイクロ波が共鳴可能な共鳴空間を有し、黒鉛材料からなるワークを収容可能であり、マイクロ波の吸収が少ない材料からなる中空共鳴容器と、
該中空共鳴容器内に所定の周波数のマイクロ波を供給するマイクロ波供給装置と、
前記中空共鳴容器内に不純物を反応除去するための反応性ガスを流通させるガス流通装置とを備えた、ことを特徴とする黒鉛高純度化装置が提供される。
【0010】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記中空共鳴容器は、前記共鳴空間の形状を変化させマイクロ波の共鳴状態を形成するための可動壁と、前記ワークを共鳴状態におけるマイクロ波強度の高い領域内に保持するためのワーク支持台とを有し、
さらに、前記可動壁を前記共鳴空間の形状を変化させるために移動する壁駆動装置を備える。
【0011】
また、前記マイクロ波供給装置は、所定の周波数のマイクロ波を発生するマイクロ波発生装置と、
発生したマイクロ波を前記中空共鳴容器内に供給する導波管と、
該導波管に取付けられ、中空共鳴容器から反射されるマイクロ波強度を計測する反射電力計とを備える。
【0012】
さらに、前記反射電力計の出力信号を受信し前記壁駆動装置を制御する共鳴制御装置を備え、
該共鳴制御装置により前記出力信号が最小となる位置に前記可動壁を移動させる。
【0013】
また、本発明によれば、内部でマイクロ波が共鳴可能な共鳴空間を有し、マイクロ波の吸収が少ない材料からなる中空共鳴容器内に黒鉛材料からなるワークを収容し、
該中空共鳴容器内に所定の周波数のマイクロ波を供給してマイクロ波の共鳴状態を形成し、
かつ前記ワークを共鳴状態におけるマイクロ波強度の高い領域内に保持し、
前記中空共鳴容器内に不純物を反応除去するための反応性ガスを流通させる、ことを特徴とする黒鉛高純度化方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
黒鉛材料は、マイクロ波の良好な吸収物質であり、マイクロ波の照射により容易に高温に加熱される特性がある。
【0015】
上述した本発明の装置および方法によれば、内部でマイクロ波が共鳴可能な共鳴空間を有し、マイクロ波の吸収が少ない材料からなる中空共鳴容器内に、黒鉛材料からなるワークを収容し、中空共鳴容器内に所定の周波数のマイクロ波を供給してマイクロ波の共鳴状態を形成するので、この共鳴状態において中空共鳴容器内にマイクロ波の電界強度の高い領域を少ないエネルギー損失で形成することができる。
【0016】
この電界強度の高い領域に黒鉛材料からなるワークを保持することで、マイクロ波の良好な吸収物質である黒鉛材料に選択的にマイクロ波を照射し、2000℃を超える高温に黒鉛材料を効率よく加熱することができ、この高温において不純物が反応性ガスと反応するので、ホウ素、ケイ素などの不純物を反応除去し、黒鉛材料を高純度化することができる。
また、マイクロ波を吸収して高温に加熱されるのは、黒鉛材料からなるワーク自体であり、その他の構成部材は、マイクロ波の吸収が少なく加熱されない。
【0017】
従って中空共鳴容器やその他の構成機材をワークより低温の比較的穏和な条件に維持出来るため、反応性ガス(ハロゲン化水素ガス等)による腐食が少なく、かつ高純度黒鉛が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお各図において、共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0019】
図1は、本発明による黒鉛高純度化装置の全体構成図である。
この図に示すように本発明の黒鉛高純度化装置は、中空共鳴容器10、マイクロ波供給装置12、ガス流通装置14、壁駆動装置16および共鳴制御装置18を備える。
【0020】
中空共鳴容器10は、内部でマイクロ波2が共鳴可能な共鳴空間9を有する。この共鳴空間9は、中空円筒形又は中空直方体であるのが好ましいが、本発明はこれに限定されず、内部でマイクロ波が共鳴可能であれば、任意の形状であってもよい。
中空共鳴容器10は、高純度化処理の対象である黒鉛材料からなるワーク1を収容可能に構成されている。この高純度化処理は、例えばバッチ処理であり、ワーク1の収容は、中空共鳴容器10を構成する部材の一部(例えば蓋)を取り外して、実施することができる。
中空共鳴容器10は、マイクロ波の吸収が少ない材料からなる。また、この材料はワーク1が2000℃以上、好ましくは2500℃以上に加熱されても、損傷を受けない耐熱強度が高い材料からなる。このような材料として、例えばグラファイトを用いることができる。
【0021】
この例において、中空共鳴容器10は、共鳴空間9の形状を変化させマイクロ波2の共鳴状態を形成するための可動壁(後述する底板10bおよび上蓋10c)と、ワーク1を共鳴状態におけるマイクロ波強度の高い領域内に保持するためのワーク支持台11とを有する。
ワーク支持台11は、この例では、耐熱性の高い石英ガラスからなる支持板であり、中空共鳴容器10の中央下部に位置する。ワーク支持台11はマイクロ波を吸収せず、マイクロ波で加熱されないので、ワーク1よりは低い温度に保持できる。
【0022】
この例において、中空共鳴容器10は、中空胴部10a、底板10bおよび上蓋10cからなる。
中空胴部10aはこの例では円筒管であるが、矩形管であってもよい。
底板10bは、中空胴部10aの下部にシール材を介して嵌合し、共鳴空間9の底部を形成する。
また、上蓋10cは、中空胴部10aの上部にシール材を介して嵌合し、共鳴空間9の蓋部を形成する。底板10bおよび上蓋10cは互いに平行であり、かつそれぞれ中空胴部10aの軸線に沿って上下動可能に形成されている。シール材は、内部の気密を保持できる限りで、任意の材料からなる。
なお、この例において、可動壁は、底板10bと上蓋10cであるが、本発明はこれに限定されず、可動壁をいずれか一方としてもよい。
【0023】
マイクロ波供給装置12は、中空共鳴容器10内に所定の周波数(例えば2.45GHz)のマイクロ波2を供給する。
この例において、マイクロ波供給装置12は、所定の周波数のマイクロ波2を発生するマイクロ波発生装置12aと、発生したマイクロ波2を中空共鳴容器12内に供給する導波管12bと、反射電力計13とを備える。
導波管12bは、マイクロ波2を低損失で中空共鳴容器12内まで伝播させる形状であり、かつ中空共鳴容器10内の共鳴空間9にマイクロ波2の共鳴状態を形成できる位置に連結されている。この位置は、予めシミュレーション等で決定するが、底板10bを移動して調整してもよい。
反射電力計13は、導波管12bに取付けられ、中空共鳴容器10から反射されるマイクロ波強度を計測する。共鳴空間9にマイクロ波2の共鳴状態が形成されると、反射されるマイクロ波強度が最も弱くなる。
【0024】
ガス流通装置14は、中空共鳴容器10内に不純物を反応除去するための反応性ガス3を流通させる。反応性ガス3は、例えば、塩化水素などのハロゲン化水素ガスあるいはフロンガスである。
この例において、ガス流通装置14は、供給管14aを介して反応性ガス3を供給するガス供給装置15aと、排気管14bを介して反応性ガス3を排気するガス排気装置15bとを備える。
供給管14aと排気管14bは、上述した中空胴部10aの側面に取付けられるのが好ましいが、その他の箇所、例えば底板10bまたは上蓋10cに取付けてもよい。
また、供給管14aと排気管14bは、共鳴状態におけるマイクロ波強度の低い領域に接続するのがよい。
【0025】
壁駆動装置16は、可動壁(この例では底板10bおよび上蓋10c)を共鳴空間9の形状を変化させるために移動する。
この例において、壁駆動装置16は、底板10bを駆動する底板駆動装置16aと、上蓋10cを駆動する上蓋駆動装置16bとからなる。壁駆動装置16(底板駆動装置16aと上蓋駆動装置16b)は、例えばスクリュージャッキ、直動シリンダ、ボールネジである。
なお、底板駆動装置16aと上蓋駆動装置16bの両方は不可欠ではなく、いずれか一方のみでもよい。
【0026】
共鳴制御装置18は、反射電力計13の出力信号を受信し、壁駆動装置16(この例では上蓋駆動装置16b)を制御する。
この共鳴制御装置18により、反射電力計13の出力信号が最小となる位置に可動壁(この例では上蓋10c)を移動させる。
【0027】
上述した装置を用い、本発明の黒鉛高純度化方法は、以下のステップからなる。
(1)まず、内部でマイクロ波2が共鳴可能な共鳴空間9を有し、マイクロ波の吸収が少ない材料からなる中空共鳴容器10内に黒鉛材料からなるワーク1を収容する。
この際、ワーク1を共鳴状態におけるマイクロ波強度の高い領域内に保持する。このマイクロ波強度の高い領域は、予め実験又はシミュレーションにより決定することができる。
(2)中空共鳴容器10内に所定の周波数のマイクロ波2を供給してマイクロ波2の共鳴状態を形成する。共鳴状態の形成とその確認は、上述した壁駆動装置16と反射電力計13を用いることでできる。
(3)次いで、中空共鳴容器10内に不純物を反応除去するための反応性ガス3を流通させる。
【実施例】
【0028】
図2は、本発明における中空共鳴容器内の電界強度分布図である。この例は、マイクロ波の周波数が2.45GHzであり、共鳴モードはTM011モードである。また、その条件は直径208mm,高さ69mmである。このときの導波管部との結合部の中心高さは25mmとなる。
【0029】
図2において、斜線部分Aで電界強度が大きくなっている。従って、上述したように、ワーク支持台11は、中空共鳴容器10の中央下部に位置するのがよい。
【0030】
マイクロ波の周波数と共鳴器形状の関係は、数1の式(1)で決定される直径と高さの組み合わせで上記分布(TM011モード)が成立する。
なお、導波管12bと共鳴器10の結合部の底面からの高さは,共鳴器10の直径と高さにより任意に変化するため解析により決定するのがよい。
【0031】
【数1】

【0032】
上述した本発明の装置および方法によれば、内部でマイクロ波2が共鳴可能な共鳴空間9を有し、マイクロ波の吸収が少ない材料からなる中空共鳴容器10内に、黒鉛材料からなるワーク1を収容し、中空共鳴容器10内に所定の周波数のマイクロ波を供給してマイクロ波の共鳴状態を形成するので、この共鳴状態において中空共鳴容器10内にマイクロ波の電界強度の高い領域を少ないエネルギー損失で形成することができる。
【0033】
この電界強度の高い領域に黒鉛材料からなるワーク1を保持することで、マイクロ波の良好な吸収物質である黒鉛材料に選択的にマイクロ波2を照射し、2000℃を超える高温に黒鉛材料を効率よく加熱することができ、この高温において不純物が反応性ガスと反応するので、ホウ素、ケイ素などの不純物を反応除去し、黒鉛材料を高純度化することができる。
また、マイクロ波2を吸収して高温に加熱されるのは、黒鉛材料からなるワーク自体であり、その他の構成部材は、マイクロ波の吸収が少なく加熱されない。
【0034】
従って中空共鳴容器10やその他の構成機材をワークより低温の比較的穏和な条件に維持出来るため、反応性ガス(ハロゲン化水素ガス等)による腐食が少なく、かつ高純度黒鉛が得られる。
【0035】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々に変更することができることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明による黒鉛高純度化装置の全体構成図である。
【図2】本発明における中空共鳴容器内の電界強度分布図である。
【図3】特許文献1の装置の模式図である。
【符号の説明】
【0037】
1 ワーク(黒鉛材料)、2 マイクロ波、3 反応性ガス、9共鳴空間、
10 中空共鳴容器、10a 中空胴部、10b 底板、10c 上蓋、
11 ワーク支持台、12 マイクロ波供給装置、
12a マイクロ波発生装置、12b 導波管、13 反射電力計、
14 ガス流通装置、14a 供給管、14b 排気管、
15a ガス供給装置、15b ガス排気装置、
16 壁駆動装置、16a 底板駆動装置、16b 上蓋駆動装置、
18 共鳴制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部でマイクロ波が共鳴可能な共鳴空間を有し、黒鉛材料からなるワークを収容可能であり、マイクロ波の吸収が少ない材料からなる中空共鳴容器と、
該中空共鳴容器内に所定の周波数のマイクロ波を供給するマイクロ波供給装置と、
前記中空共鳴容器内に不純物を反応除去するための反応性ガスを流通させるガス流通装置とを備えた、ことを特徴とする黒鉛高純度化装置。
【請求項2】
前記中空共鳴容器は、前記共鳴空間の形状を変化させマイクロ波の共鳴状態を形成するための可動壁と、前記ワークを共鳴状態におけるマイクロ波強度の高い領域内に保持するためのワーク支持台とを有し、
さらに、前記可動壁を前記共鳴空間の形状を変化させるために移動する壁駆動装置を備える、ことを特徴とする請求項1に記載の黒鉛高純度化装置。
【請求項3】
前記マイクロ波供給装置は、所定の周波数のマイクロ波を発生するマイクロ波発生装置と、
発生したマイクロ波を前記中空共鳴容器内に供給する導波管と、
該導波管に取付けられ、中空共鳴容器から反射されるマイクロ波強度を計測する反射電力計とを備える、ことを特徴とする請求項2に記載の黒鉛高純度化装置。
【請求項4】
前記反射電力計の出力信号を受信し前記壁駆動装置を制御する共鳴制御装置を備え、
該共鳴制御装置により前記出力信号が最小となる位置に前記可動壁を移動させる、ことを特徴とする請求項3に記載の黒鉛高純度化装置。
【請求項5】
内部でマイクロ波が共鳴可能な共鳴空間を有し、マイクロ波の吸収が少ない材料からなる中空共鳴容器内に黒鉛材料からなるワークを収容し、
該中空共鳴容器内に所定の周波数のマイクロ波を供給してマイクロ波の共鳴状態を形成し、
かつ前記ワークを共鳴状態におけるマイクロ波強度の高い領域内に保持し、
前記中空共鳴容器内に不純物を反応除去するための反応性ガスを流通させる、ことを特徴とする黒鉛高純度化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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