説明

鼻粘膜のバリア機能を改善するための、水素含有組成物

【課題】優れた鼻粘膜上皮バリア機能改善作用を有する薬剤の提供。
【解決手段】本発明は、水素を有効成分として含んでなる、鼻粘膜上皮のバリア機能改善用組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルギー疾患の予防、治療に有用な、鼻粘膜上皮のバリア機能の改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活環境や食生活等の変化に伴い、アレルギー疾患患者の増加し、それに対する種々の治療法が検討されている。
アレルギー疾患の治療の第一選択薬としては抗ヒスタミン薬が用いられる。しかしながら、抗ヒスタミン薬を適用する場合、個人差はあるもののインペアードパフォーマンスの低下により、就学や仕事に支障をきたすことが知られている。また、ステロイドは臨床治療効果の高いものであるが、妊婦や乳幼児では安全が確立されておらず、長期連用に対しては注意が必要と考えられる。
【0003】
一方、気道への門戸である鼻粘膜上皮は、常に酸素にさらされており、酸素から生成される活性酸素による障害を受けやすいことが知られている。このような鼻粘膜上皮のバリア機能の破綻は、アレルギー性鼻炎をはじめとする種々の鼻副鼻腔疾患の発症および進展と密接に関連していることを、本発明者らは報告している。例えば、アレルギー性鼻炎患者では、鼻粘膜の水分蒸散は増加している(非特許文献1:山口晋太郎、三輪正人、中島規幸、他:アレルギー性鼻炎患者に対する鼻粘膜水分蒸散量・上皮間電位差測定の検討 耳鼻臨床 2006;補118:85)。また、加齢によって鼻粘膜蒸散量は増加する傾向を示す(非特許文献2:三輪正人,中島規幸,廣瀬壯,他:ヒト鼻粘膜水分蒸散量の加齢による変化.アレルギー 2006; 55: 1337-1339)。
【0004】
さらに、ヒト鼻粘膜上皮のバリア機能の低下は、水分蒸散量の上昇と密接に関連しており、疾患の新たな指標となりうることが知られている。例えば、アトピー性皮膚炎等における鼻粘膜の保湿能の低下は、上皮のバリア機能の低下の指標となる(非特許文献3:Werner Y, Lindberg M: Transepidermal water loss in dry and clinically normal skin in patients with atopic dermatitis. Acta Derm Venerol 1985; 65: 102-105)。
【0005】
また、鼻粘膜上皮には、細胞の管腔側と基底側との間のNa+、Cl-による電気化学的勾配が存在しており、鼻粘膜上皮間電位差の増加により、鼻粘膜バリア機能が亢進することが知られている(非特許文献4:Widdicombe JH, Widdicombe JG: Regulation of human airway surface liquid. Respir Physiol 1995; 99: 3-12、非特許文献5:Miwa M et al.: Hypertonic saline alters electrical barrier of the airwy epithelium. Otolaryngology-Head and Neck Surgery 136:62-66, 2007)。
【0006】
本発明らは、アレルギー 58:119−123、2009、「ドライノーズスプレーによる鼻粘膜蒸散量と上皮間電位差の変化」(非特許文献6)において、0.9%の塩化ナトリウムを主成分とするドライノーズスプレー(商標)(日本臓器製薬株式会社)を鼻粘膜に適用したところ、鼻粘膜水分蒸散量は使用後有意に減少し、電気バリアの指標となる鼻粘膜上皮間電位差は使用前後で有意な変化はきたさなかったことを報告している。
しかしながら、アレルギー疾患の予防、治療の効果的な治療を勘案すれば、優れた鼻粘膜上皮のバリア機能の改善作用を有する、新たな治療薬の創出が依然として求められているといえる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】山口晋太郎、三輪正人、中島規幸、他:アレルギー性鼻炎患者に対する鼻粘膜水分蒸散量・上皮間電位差測定の検討 耳鼻臨床 2006;補118:85
【非特許文献2】三輪正人,中島規幸,廣瀬壯,他:ヒト鼻粘膜水分蒸散量の加齢による変化.アレルギー 2006; 55: 1337-1339
【非特許文献3】Werner Y, Lindberg M: Transepidermal water loss in dry and clinically normal skin in patients with atopic dermatitis. Acta Derm Venerol 1985; 65: 102-105
【非特許文献4】Widdicombe JH, Widdicombe JG: Regulation of human airway surface liquid. Respir Physiol 1995; 99: 3-12
【非特許文献5】Miwa M et al.: Hypertonic saline alters electrical barrier of the airwy epithelium. Otolaryngology-Head and Neck Surgery 136:62-66, 2007
【非特許文献6】アレルギー 58:119−123、2009
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、今般、水素を含有する組成物が、優れた鼻粘膜上皮のバリア機能改善作用を有することを見出した。本発明は、これら知見に基づくものである。
【0009】
従って、本発明は、優れた鼻粘膜上皮のバリア機能改善作用を有する組成物を提供することを目的とする。
【0010】
そして、本発明の鼻粘膜上皮のバリア機能改善用組成物は、水素を有効成分として含んでなる。
【0011】
本発明の組成物によれば、鼻粘膜上皮のバリア機能を効果的に改善することができ、アレルギー疾患等の治療において有利に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ビタミンC水溶液および水素水を点鼻した前後における鼻粘膜上皮水分蒸散量(TEWL)の測定結果を示すグラフである。(A)は、ビタミンCを示し、(B)は水素水を示す。
【図2】ビタミンC水溶液および水素水を点鼻した前後における鼻粘膜上皮間電位差(PD)の測定結果を示すグラフである。(A)は、ビタミンCを示し、(B)は水素水を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の鼻粘膜上皮のバリア機能改善用組成物は、水素を有効成分として含有することを一つの特徴とする。かかる組成物を鼻粘膜に適用すると、鼻粘膜上皮水分蒸散量(TEWL)および鼻粘膜上皮間電位差(PD)がいずれも低下することは意外な事実である。また、本発明の組成物は、水素を有効成分とすることから、安全性に優れ、長期連用や、乳幼児から高齢者、妊婦、授乳者等の幅広い患者の治療において有利に利用しうる。
【0014】
本発明の組成物は、鼻粘膜上皮のバリア機能を改善しうる限り、水素をそのまま用いてもよいが、水素の溶存する液媒体により形成されることが好ましい。かかる液媒体としては、水素が溶解しうる限り特に限定されないが、好ましくは水である。
【0015】
また、水素の溶存する液媒体の酸化還元電位は、鼻粘膜上皮のバリア機能改善を妨げない限り特に限定されないが、好ましくは−300〜−700mV程度であり、より好ましくは約−600mVである。かかる酸化還元電位は、公知のORPモニター(HI98121、ハンナ社製等)により適宜決定することができる。
【0016】
また、本発明の組成物は、鼻粘膜上皮のバリア機能改善を妨げない限り、薬学上許容可能な添加剤を適宜添加してもよい。添加剤としては、緩衝剤、油分、界面活性剤、増粘剤、有機溶剤、可塑剤、色素、顔料、香料、防腐剤、抗酸化剤または無機塩(カルシウム、マグネシウム等)等が挙げられる。
【0017】
本発明の組成物の製造方法は特に限定されず、従来公知の方法により製造される。例えば、水素をバブリング等により液媒体に溶解させ、得られた溶液に添加剤を混合することにより、本発明の組成物を製造することができる。
【0018】
また、本発明の組成物の剤形は、目的を妨げない限り特に限定されず、例えば、液剤(水溶液剤、アルコール剤、グリセリン・グリコール剤、油剤、懸濁型ローション剤、乳剤型ローション剤、ニス剤、噴霧剤)またはスプレー剤等が挙げられるが、好ましくは液剤またはスプレー剤である。
【0019】
また、本発明の組成物は、優れた鼻粘膜上皮のバリア機能の改善作用を有しており、このバリア機能の低下に関連する疾患の治療に有利に用いられる。したがって、本発明の別の態様によれば、鼻粘膜上皮のバリア機能を改善する方法であって、有効量の水素を、生体の鼻粘膜上皮に投与することを含んでなる方法が提供される。また、本発明のさらに別の態様によれば、生体の鼻粘膜上皮のバリア機能の改善用組成物の製造のための、水素の使用が提供される。
【0020】
また、本発明の組成物が適用される疾患の好適な例としては、アレルギー疾患が挙げられる。より具体的には、上記疾患としては、花粉症などのアレルギー性鼻炎、老人性鼻炎などの乾燥性鼻炎(ドライノーズ)、または、点鼻薬性鼻炎などの薬剤性鼻炎等である。
【0021】
本発明の組成物の適用量は、気道上皮のバリア機能を改善しうる限り特に限定されず、有効成分の濃度、対象となるヒトの年齢、性別、状態等に応じて医師により適宜決定される。
【0022】
本発明の組成物の適用方法は特に限定されず、たとえば、ポンプ、スプレー、ネブライザー、点鼻用の容器を用いて直接鼻粘膜上皮に適用する手法等が挙げられる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
例1
活性酸素代謝に作用することが知られているビタミンCおよび水素水に関し、鼻粘膜上皮バリア機能に与える効果を以下の手順に従い、検討した。
まず、被検液として、水素水(株式会社ひだ製、pH2、酸化還元電位−600mV)を用いて0.5%グリセリン溶液を調製した。また、同様に、対照の被検液として、ビタミンC含有水溶液(シグマアルドリッチ社製、ビタミンC濃度300μM)を用いて0.5%グリセリン溶液を調製した。
次に、被検液 約100μLを、鼻疾患を有さない健康なボランティア(17名)の両側鼻孔に点鼻し、点鼻前(プレ)および点鼻5分後(ポスト)において、鼻粘膜上皮水分蒸散量(transepithelial water loss, TEWL)および鼻粘膜間電位差(electrical potential differences, PD)を測定した。ボランティアには、測定の最低2時間前より運動、飲食、屋外の移動は禁止した。
鼻粘膜上皮水分蒸散量(TEWL)は、特製のアダプターを装着したTewameter TM300 (Courage+Khasaka electric, ドイツ)を下甲介粘膜に密着させて測定した。
また、鼻粘膜上皮間電位差(PD)は、下鼻甲介粘膜に関電極、手掌に不関電極を接触させ、Ussing chamber entryにて用いるWPI DVC1000(WPI,USA)にて測定した。
測定結果の統計比較はt-検定により行い、数値は平均値±標準偏差値で表した。
【0024】
鼻粘膜上皮水分蒸散量(TEWL)に関する結果は、図1に示される通りであった。
(A)で示される対照(ビタミンC)では、有意な変化は認められなかった一方、(B)で示される水素水では、有意な低下(p<0.05)が認められた。
また、鼻粘膜上皮間電位差(PD)に関する結果は、図2に示される通りであった。(A)で示される対照(ビタミンC)では、有意な変化は認められなかった一方、(B)で示される水素水では、有意な上昇(p<0.05)が認められた。
以上の結果から、水素水が鼻粘膜上皮のバリア機能を改善することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を有効成分として含んでなる、鼻粘膜上皮のバリア機能改善用組成物。
【請求項2】
液媒体をさらに含んでなり、該液媒体に前記水素が溶存してなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記液媒体が水または生理食塩水である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記液媒体の酸化還元電位が−300〜−700mVである、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
液剤またはスプレー剤の形態である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
鼻粘膜上皮のバリア機能の低下に関連する疾患の治療に用いられる、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記疾患が、アレルギー性鼻炎、乾燥性鼻炎または薬剤性鼻炎である、請求項6に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−46667(P2011−46667A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198144(P2009−198144)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(509243632)
【Fターム(参考)】