説明

(1→3)−β−D−グルカンの測定方法

【課題】
βGを特異的に測定するためのAL試薬、及びそれを用いたβGの特異的測定方法を提供すること。
【解決手段】
カブトガニ血球抽出物の酵素反応を引き起こさない濃度以下しか(1→3)-β-D-グルカン又は/及びその類縁物質を含有しない、ポリミキシン又はその塩及びALを含んでなる、(1→3)-β-D-グルカン測定用AL試薬及びキット、該AL試薬の調製方法、及び該AL試薬を用いて(1→3)-β-D-グルカンを特異的に測定する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カブトガニ血球成分と、(1→3)−β−D−グルカン(以下、「βG」と略記する場合がある。)とを反応させ、その反応を分析して行うβGの特異的な測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
βGは、酵母やカビの細胞壁の骨格構成物、多くの担子菌子実体(キノコ)の主要な多糖成分、血液透析に使用する膜等からの溶出成分等としてその存在が知られている物質である。βGの生物活性はエンドトキシン(以下、ETと略記する。)ほど明らかではないものの、これを測定することによって真菌症の早期診断や真菌による医療用具の汚染の検出を行うことができると考えられている。
【0003】
一方、ETは、グラム陰性菌の細胞壁外膜に存在するリポ多糖(Lipopolysaccharide 、LPS)であり、強い発熱性物質として知られている。
【0004】
βGは、カブトガニの血球抽出物(Amebocyte Lysate、以下、ALと略記する。)を含む溶液(以下、AL溶液と略記する。)と反応して酵素(プロテアーゼ等)の活性化反応やゲル化反応を生じる性質を有しており、医学、薬学、微生物学の分野ではこれを利用した、簡便で、安価なβG検出法として、例えば酵素(プロテアーゼ等)の活性化程度を比色法により測定することにより行う方法やゲル化反応を利用した所謂リムルステスト等(以下、これらを総称してリムルステスト等と略記する。)が、広く用いられている。
【0005】
しかしながら、リムルステスト等に用いられるAL試薬は、βGのみならず、ETとも反応するため(非特許文献1、非特許文献2)、これらを用いてβGを測定しようとする場合は試料中のETによって測定値に影響を受け、その特異性が損なわれるという問題があった。
【0006】
このような問題点を解決するために、AL溶液を各種クロマトグラフィーにより処理してAL溶液中に存在するETと反応して酵素(プロテアーゼ等)の活性化反応やゲル化反応を生じさせる因子(ET感受性因子)を除去する方法(特許文献1、特許文献2、特許文献3)、ETに対して親和性を持つペプチドをAL溶液に添加してET感受性因子を不活化する方法(特許文献4)、ET感受性因子に対する抗体をAL溶液に添加してET感受性因子を不活化する方法(特許文献5)等が報告されている。しかしながら、これらの方法は、いずれもAL溶液自体に処理を施す方法であるため、通常の環境に広く存在するETやβG等によって該処理中にAL溶液が汚染される危険性が大きいという欠点を有している。
【0007】
また、これらの方法は、このような汚染を回避するための無菌的設備や複雑な無菌的操作が必要であること、及び、ETに対して親和性を持つペプチドやET感受性因子に対する抗体は入手が困難であり高価であること等からも明らかなように、経済的、技術的にも問題の多い方法である。
【0008】
また、LALとETあるいはβGとの反応で生成するコアギュリンペプチドCの濃度をELISAで測定することによって、試料中のET量あるいはβG量を定量する方法において、ジメチルスルホキシドとポリミキシンBを添加したLALを試料と反応させた後、ELISAを行うと、ETに対する反応性のみが阻害されることが報告されている(非特許文献3)
その他、AL溶液ではなく測定用試料を処理することによってETを不活化させる方法として、試料を加熱処理する方法が報告されている(特許文献6)。この方法は、上記の方法の欠点を克服しているものの、ETを充分に不活化するためには長い処理時間を必要とするという問題点を有しており、好ましい方法とは言い難い。
【0009】
更に、ETを含む試料に、ポリミキシンB等の、ETと結合してETの活性を抑制する性質を有するペプチド誘導体(又は蛋白質)と界面活性剤とを共存させ、加熱することにより、ETの活性を抑制し、βGを特異的に測定する方法も報告されている(特許文献7)。しかし、この方法では試料の前処理が必要であるため操作が煩雑であるという問題がある。
【0010】
【特許文献1】特開昭59-27828号公報
【特許文献2】特開平2-138193号公報
【特許文献3】特開平4-76459 号公報
【特許文献4】特開平2-207098号公報
【特許文献5】特開平4-52558 号公報
【特許文献6】特開平2-141666号公報
【特許文献7】特許第3106839号公報
【非特許文献1】Kakinuma et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 1981, vol.101, p.434-439
【非特許文献2】Morita et al., FEBS Lett., 1981, vol.129, p.318-321
【非特許文献3】Zhang et al., J. Clin. Microbiol., 1994, vol.32, No.6, p.1537-1541
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記した如き状況に鑑みなされたもので、βGを特異的に測定するためのAL試薬、及びそれを用いたβGの特異的測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記課題を解決する目的でなされたものであり、以下の構成よりなる。
(1)ALの酵素反応を引き起こさない濃度以下しかβG又は/及びその類縁物質を含有しない、ポリミキシン又はその塩及びALを含んでなる、βG測定用AL試薬。
(2)ALに、ALの酵素反応を引き起こさない濃度以下しかβG又は/及びその類縁物質を含有しないポリミキシン又はその塩を共存させることを特徴とする、βG測定用AL試薬の調製方法。
(3)ALの酵素反応を引き起こさない濃度以下しかβG又は/及びその類縁物質を含有しないポリミキシン又はその塩、及びALを構成成分として含んでなる、βG測定用キット。
(4)ALの酵素反応を引き起こさない濃度以下しかβG又は/及びその類縁物質を含有しない、ポリミキシン又はその塩を含有するALを構成成分として含んでなる試薬を含む、βG測定用キット。
(5)ETを含む試料を、ALの酵素反応を引き起こさない濃度以下しかβG又は/及びその類縁物質を含有しない、ポリミキシン又はその塩を含有するAL試薬と反応させ、その結果生ずる酵素活性化反応により活性化された酵素の活性を測定するか、又はその結果生ずるゲル化反応に基づく反応液の濁度の変化の程度やゲル化状態の程度を機器又は目視により測定することを特徴とする、βGを特異的に測定する方法。
(6)ETを含む試料を、ALの酵素反応を引き起こさない濃度以下しかβG又は/及びその類縁物質を含有しないポリミキシン又はその塩の共存下にALと反応させ、その結果生ずる酵素活性化反応により活性化された酵素の活性を測定するか、又はその結果生ずるゲル化反応に基づく反応液の濁度の変化の程度やゲル化状態の程度を機器又は目視により測定することを特徴とする、βGを特異的に測定する方法。
【0013】
即ち、本発明者等は、AL溶液を用いたβGの特異的測定法を見出すべく鋭意研究の途上、市販のポリミキシン又はその塩を、試料との反応系に共存するETの活性を抑制し得るほどAL試薬に共存させるとAL試薬が活性化されてしまうが、高純度に精製したポリミキシン又はその塩をAL試薬に共存させた場合には、このようなAL試薬の活性化は起こらず、更にはこのAL試薬をβGとETとを含有する試料と反応させた場合には、ALはETとは反応せず、βGを特異的に測定することができることを見出した。そして更に研究を行った結果、市販されているポリミキシン又はその塩の多くは、それ自体βG又は/及びその類縁物質に汚染されていることを突き止め、更に鋭意研究の結果、ポリミキシン又はその塩を適宜精製処理することにより、ポリミキシン又はその塩をロスすることなく、効果的に共存するβG又は/及びその類縁物質を除去し得、ALの酵素反応を引き起こさない濃度以下しかβG又は/及びその類縁物質を含有しないポリミキシン又はその塩を得ることができることを見出した。
【0014】
そして、このポリミキシン又はその塩を予め共存させたAL試薬を用いて試料中のβGの測定を行えば、試料中に共存するETの影響を受けることなく、βGを特異的に測定することができることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、新規なβG測定用AL試薬及びその調製方法、並びにこの方法によって調製されたβG測定用AL試薬を用いたβGの特異的な測定方法を提供するものであり、このAL試薬を用いてβGの測定を行えば、従来のような試料の前処理を行わなくても試料中に存在するETの影響を排除し得、βGを特異的に測定できる、という効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のβG測定用AL試薬としては、「ALの酵素反応を引き起こさない濃度以下しかβG又は/及びその類縁物質を含有しないポリミキシン又はその塩及びALを含んでなる、βG測定用AL試薬。」が挙げられる。
【0017】
本発明に用いられるALとしては、通常のβGの測定に使用できるものであれば特に限定されることなく挙げることができるが、例えばリムルス属(Limulus)、タキプレウス属(Tachypleus)、あるいはカルシノスコピウス属(Carcinoscorpius)等に属するカブトガニの血球から得られた ライセート(lysate)であって、βGとの反応により酵素(プロテアーゼ等活性化やゲル化反応が生じるものであればよく、特に限定されない。
【0018】
また、例えばACC(Associates of Cape Cod)社、ヘマケム社、ケンブレックス社(Cambrex Corp.)、チャールズリバー社(Charles River Laboratories)、生化学工業(株)、及び和光純薬工業(株)等から市販されているAL溶液の凍結乾燥品をもとに調製したものも当然のことながら使用可能である。
【0019】
本発明に係るβG又は/及びその類縁物質(以下、「βG類」と略記する場合がある)としては、βGをその構成成分として含む多糖類であれば特に限定されることなく挙げることができるが、例えばALの酵素反応を引き起こす性質のあるものが挙げられる。具体的には、例えば各種細菌類(例えば、Alcaligenes属,Agrobacterium属等)、酵母類(例えば、Saccharomyces属、Candida属、Cryptococcus属、Trichosporon属、Rhodotorula属等)カビ類(Aspergillus属、Mucor属、Penicillium属、Trichophyton属、Sporothrix属、Phialophora属等)、放線菌類(Actinomyces属、Nocardia属等)、キノコ類(例えば、シイタケ,スエヒロタケ,カワラタケ等)等の細胞壁等から得られる天然の多糖、具体的には例えばカードラン,パキマン,スクレロタン,レンチナン,シゾフィラン,コリオラン等、或は、藻類(例えば、褐藻,ユーグレナ,ケイ藻等)の貯蔵性多糖、具体的には例えばラミナラン,パラミロン等、或は又これらに常法、例えば大有機化学第19巻,第7版,70〜101頁,小竹無二雄監修,昭和42年5月10日,朝倉書店;A. E. Clarkeら, Phytochemistry, vol.1 ,175-188(1967);T.Sasakiら,Europ.J.Cancer,vol.15,211-215(1967)等に記載された方法に準じて例えば硫酸基,カルボキシメチル基,カルボキシエチル基,メチル基,ヒドロキシエチル基,ヒドロキシプロピル基,スルホプロピル基等を導入して得られる誘導体等が挙げらる。
【0020】
本発明に於いて用いられる「βGの濃度」といった場合の濃度とは、和光純薬工業(株)から市販されているβ-グルカンテストワコー「β-グルカン標準品」を標準品として用い、試料を、ALとしてリムルス属(Limulus)に属するカブトガニの血球から得られたライセート(lysate、特にLALと略記する。)であって、βGとの反応により濁度が増加する性質を有するものを用いて測定して得られた値(濃度)を、意味する。
【0021】
本発明に係るポリミキシン又はその塩(以下、「ポリミキシン類」と略記する。)のポリミシキンとしては、例えばポリミキシンA、B、C、D、E、K、M、P等が挙げられ、その由来は、例えばBacillus polymyxa等が産生するものが挙げられるが、特に限定されない。また、単一の成分として精製されたものでも、これらの内のいくつかの混合物でも、また、塩の形になったものでも何れにてもよく、特に限定されない。ポリミキシンの塩としては、例えば硫酸塩が挙げられる。入手の容易さを考慮するとポリミキシンBの硫酸塩が好ましい。
【0022】
本発明に係るβG測定用AL試薬中の、本発明のポリミキシン類の濃度としては、試料と反応させた場合にETの活性を充分に抑制し得る濃度であって且つ例えばβGのAL溶液に対する反応性を促進も阻害もしない濃度であれば特に限定されることなく選択できる。試料とAL試薬とを1対1で混合して測定する場合、反応時のET濃度が1ng/mL程度であれば、βG測定用AL試薬中に4μg/mL程度のポリミキシンが含有されていれば、ETによる影響を受けることなく、測定は可能である。しかし、臨床診断の分野に於いては数10ng/mL程度の濃度のETを含有している試料もある。また、βG測定法の種類によっても、その濃度は異なり、比濁時間分析法を行う場合には、エンドポイント合成基質法を行う場合よりも高濃度のポリミキシン類を加えることが望ましい。また、臨床診断の分野において、βGを特異的に測定するためには、あらゆる試料中のET活性を十分抑制できる濃度のポリミキシン類を含有している必要がある。そこで、どのような測定法であっても、またどのような濃度のETを含有する臨床試料を用いた場合であってもETの活性を十分抑制し、βGを特異的に測定できるための、本発明のポリミキシン類の濃度としては、βG測定用AL試薬中に0.02〜80mg/mL、好ましくは0.2〜80mg/L、より好ましくは0.4〜20mg/mL、更に好ましくは1〜4mg/mL程度である。
【0023】
本発明に係るポリミキシン類は、測定に影響を与える量のβG類を含んでいてはならない。即ち、ALの酵素反応を引き起こさない濃度以下しかβG類を含有しないものでなければならない(そのようなポリミキシン類を、以下「本発明のポリミキシン類」と記載する場合がある。)。
【0024】
ALは調製方法や測定方法によりβG類に対する感度が異なる。本発明では、ポリミキシン類に由来するβG類によりALの酵素反応が引き起こされないようにすることが肝要である。そのため、ポリミキシン類中のβG類の濃度は、ポリミシキン類を必要濃度となるようにAL溶液中に共存させた場合に、AL試薬中のβG類濃度が、最終的に許容される濃度(即ち、AL溶液の活性化を引き起こさない濃度)以下となるような濃度以下であることが要求される。ALの酵素反応を引き起こさないβGの濃度は、ALのβG感度により異なるが、一般的なALでは数pg/mL程度である。例えば、LALを用いて測定する場合には、LAL溶液中に(1→3)−β−D−グルカン濃度として10pg/mL以下、好ましくは1pg/mL以下、より好ましくは約0.2pg/mL未満である。
【0025】
従って、本発明に係るポリミキシン類中のβG類の含有量としては、ポリミキシン類をβG測定用AL溶液中にポリミキシン類を上記した如き濃度となるように添加した場合のAL溶液中のβGの濃度が10pg/mL以下、となる量である。従って、これを直鎖の(1→3)−β−D−グルカンであるカードランの濃度に換算すると、0.9ng/mL以下、であり好ましくは0.09ng/mL以下、より好ましくは0.018ng/mL以下である。
【0026】
従来より、試料中のβGを特異的に測定するために、ポリミキシン類を試料に添加して、試料中のET活性を抑制して試料中のβGを特異的に測定する方法が試みられてきたが、ポリミキシン類単独ではET活性を十分に抑制することができない、あるいは、そのバックグラウンド値を抑えることが出来なかった。本発明者等は鋭意研究の結果、使用するそのポリミキシン類自体が、βG類で汚染されている場合があり、これが、βGを測定する際のバックグラウンド値上昇の原因であることも突き止めた。また、ポリミキシン類のβG類による汚染のために、ET活性を十分に抑制できる量のポリミキシン類を添加することができなかったことが、ポリミキシン類単独ではET活性を十分に抑制することが出来なかった原因であることも突き止めた。
【0027】
そのため、本発明で用いられるポリミキシン類は、βG類含有量が上記した如き所要量以下のポリミキシン類、或は、所定濃度以下となるようにポリミキシン類からβG類を除去する前処理を行ったものである必要がある。
【0028】
βG類を含有する溶液から、βG類を除去する方法としては、一般に例えばゼータポアメンブレン(キュノ(株)社商品名)等の正電荷を持った膜、ウルチポア(日本ポール社商品名)、ベイオダイン(日本ポール社商品名)等のナイロン66製フィルター、例えばPTFE膜(日東電工(株)製)等のポリテトラフルオロエチレンフィルター等を用いて処理する方法や、活性炭を用いて処理する方法が知られている。
【0029】
本発明者等は、ポリミキシン類からβG類を除去する前処理を行う方法について鋭意研究の結果、特に正電荷を持った膜でポリミキシン類を含有する溶液を処理することにより、ポリミキシン類を含有する溶液からβG類を効果的に除去し、ALの酵素反応を引き起こさない濃度以下しかβG類を含有しないポリミキシン類(「本発明のポリミキシン類」)を得ることに成功した。またこの方法によれば、当該溶液中のポリミキシン類のロスが少ないことを見出した。
【0030】
ポリミキシン類からβG類を除去する為に用いられる正電荷を持った膜としては、ゼータ電位の吸着作用により、微粒子、ET等の除去を行うことができる、ナイロン66製の膜等が挙げられる。実際には、例えばゼータポアメンブレン(キュノ株式会社商品名)、ウルチポア(日本ポール社商品名)、ベイオダイン(日本ポール社商品名)等のナイロン66製フィルター等の市販品を用いればよい。正電荷を持った膜のポアサイズとしては特に限定されないが、例えば0.1〜2μmのものが挙げられる。
【0031】
尚、当然のことながら、セルロース系の膜は、膜からβG様物質が溶出してくる危険性があるため、本目的に使用することはできない。
【0032】
βG類の除去を正電荷を持った膜に通すことにより行う場合、例えば使用するポリミキシン類を適当な濃度(例えば0.1〜8W/V%程度)の溶液とした後、当該膜を支持体にセットし、濾過すればよい。尚、ポリミキシン類溶液は、目的濃度の溶液とした後に上記の条件で濾過処理してもよい。
【0033】
正電荷を持った膜でポリミキシン類を含有する溶液を処理する際に用いられるポリミキシン類を含有する溶液の溶媒としては、ET及びβGフリーであって、且つALとβG類との反応を阻害も促進もしないものが望ましく、蒸留水(例えばET及びβGフリーの注射用蒸留水)、緩衝液等が挙げられる。緩衝液を構成する緩衝剤としては、通常この分野で用いられるものは全て使用可能であり、具体的には、例えばリン酸塩、ホウ酸塩、酢酸塩、トリス緩衝剤、グッドの緩衝剤等が挙げられ、その使用濃度は、通常この分野に於ける使用濃度範囲から適宜選択すればよい。
【0034】
また、ポリミキシン類を含有する溶液を正電荷を持った膜で1回又は数回処理を行っても良い。また、その他上記した如き従来のフィルターを用いて処理する方法を適宜組み合わせるのは任意である。また、限外濾過等の方法を組み合わせて用いても良い。中でも、正電荷を持った膜でポリミキシン類を含有する溶液を処理した後、通常の限外濾過処理を行うことが望ましく、その後更に再度正電荷を持った膜で処理すればより効果的にポリミキシン類を含有する溶液からβG類を除去することが出来る。
【0035】
ポリミキシン類中のβG類の含有量は、これをALと共存させた場合にALの酵素反応を引き起こさない濃度以下でなくてはならないが、当該方法でポリミキシン類を処理することにより、ポリミキシン類から、ポリミキシン類を殆どロスすることなく、βG類を効果的に除去することができる。
【0036】
本発明のβG測定用AL試薬の調製方法としては、ALに、本発明のポリミキシン又はその塩を共存させればよい。
【0037】
ポリミキシン類をAL又はその溶液に共存させて、本発明のβG測定用AL試薬を得る方法としては、AL又はその溶液に、上記した如きポリミキシン類を上記した如き濃度となるように、共存させておけば足りる。その具体的方法としては、最終的に該ポリミキシン類をAL又はその溶液中に所定濃度となるように添加できる方法であれば特に限定されないが、例えば
(1)本発明のポリミキシン類を含む溶液でALの凍結乾燥品を溶解する方法、
(2)本発明のポリミキシン類をAL溶液に適当量添加、溶解する方法、
(3)本発明のポリミキシン類を含む溶液をAL溶液に適当量添加する方法、等が挙げられる。
【0038】
上記(1)及び(3)の方法において、βG測定用AL試薬を調製する際のポリミキシン類を含む溶液中のポリミキシン類の濃度としては、目的のβG測定用AL試薬を調製した際の最終濃度が前記した如き濃度となるような範囲であれば特に限定されない。
【0039】
また、上記(2)及び(3)の方法に於いて、βG測定用AL試薬を調製する際のAL溶液の濃度としては、目的のβG測定用AL試薬を調製した際の最終濃度が試料中のβG測定に用いるのに適した濃度となるような範囲であれば特に限定されない。
【0040】
更に、後述する合成基質法でβGの測定を行う場合、本発明のβG測定用AL試薬は、AL及び所定濃度のポリミキシン類の他に、更に合成基質を含有させたものとなる。
【0041】
尚、本発明の調製方法に用いられるポリミキシン類を含む溶液及びAL溶液を調製するための溶媒は、ET及びβGフリーであって、且つALとβGとの反応を阻害も促進もしないことを確認したものが望ましい。例えば蒸留水(例えばβGフリーの注射用蒸留水)、緩衝液等が挙げられる。緩衝液を構成する緩衝剤としては、通常この分野で用いられるものは全て使用可能であり、具体的には、例えばリン酸塩、ホウ酸塩、酢酸塩、トリス緩衝剤、グッドの緩衝剤等が挙げられ、その使用濃度は、通常この分野に於ける使用濃度範囲から適宜選択すればよい。
【0042】
上記の方法で得られた本発明のβG測定用AL試薬は、溶液状態のままでもよいが、一旦凍結乾燥して試薬の形態として保存し、その後蒸留水等のET及びβGを含まない水で再溶解して、βGの測定に使用することも当然可能である。
【0043】
また、上記のβG測定用AL試薬あるいはこれを凍結乾燥処理したものの中には、βGのリムルステスト法による測定を阻害又は促進しない範囲であれば例えば燐酸緩衝剤,グッド緩衝剤(Good's Buffers)等の緩衝剤や例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤等が含まれていても良いことは言うまでもない。
【0044】
更に、βG測定用AL試薬あるいはこれを凍結乾燥処理したものの中には、反応促進剤、安定化剤、防腐剤、その他この分野で用いられているものは、共存する試薬等の安定性を阻害したり、βGの測定を阻害又は促進しないものであれば目的の測定に於いて通常使用されるものを含有していても良い。またその濃度も、通常この分野で通常用いられる濃度範囲で用いられればよい。
【0045】
また、本発明のβG測定用キットとしては、
(i)ALの酵素反応を引き起こさない濃度以下しかβG類を含有しないポリミキシン類、及びALを構成成分として含んでなるもの、又は
(ii)ALの酵素反応を引き起こさない濃度以下しかβG類を含有しない、ポリミキシン類を含有するALを構成成分として含んでなる試薬を含むもの、
が、挙げられる。
【0046】
夫々の構成要素の好ましい態様、具体例については上で述べたとおりである。
【0047】
本発明のβG測定方法を実施するには、例えば、以下の2つの方法が挙げられる。
【0048】
(1)βGを含む試料を、本発明のβG測定用AL試薬と反応させ、その結果生ずる酵素活性化反応により活性化された酵素の活性を測定するか、又はその結果生ずるゲル化反応に基づく反応液の濁度変化の程度やゲル化状態の程度を機器又は目視により測定することを特徴とする、βGを特異的に測定する方法。
【0049】
(2)βGを含む試料を、ALの酵素反応を引き起こさない濃度以下しかβG類を含有しないポリミキシン類(「本発明のポリミキシン類」)の共存下にALと反応させ、その結果生ずる酵素活性化反応により活性化された酵素の活性を測定するか、又はその結果生ずるゲル化反応に基づく反応液の濁度の変化の程度やゲル化状態の程度を機器又は目視により測定することを特徴とする、βGを特異的に測定する方法。
【0050】
上記(1)の方法を実施するには、本発明のβG測定用AL試薬を用いる以外は、自体公知の例えばALを用いるLAL法等により、通常の測定条件(例えば反応時間、測定時の温度、測定波長等)、測定操作で測定を行えばよい。
【0051】
また、上記(1)の方法において、βGを含む試料を、本発明のβG測定用AL試薬と反応させる方法としては、例えば本発明のβG測定用AL試薬溶液(本発明のポリミキシン類を所定濃度含有するAL溶液)を当該試料と反応させる方法、例えばβG測定用AL試薬(本発明のポリミキシン類を所定濃度含有するAL溶液)を一旦凍結乾燥し、再度溶解して、当該試料と反応させる方法が挙げられる。
【0052】
上記(2)の方法は、βGを含む試料とALとを反応させる際に、ALの酵素反応を引き起こさない濃度以下しかβG類を含有しないポリミキシン類(「本発明のポリミキシン類」)が、所定濃度存在していれば良いというものである。具体的には、例えばβGを含む試料と、AL又はAL溶液と、本発明のポリミキシン類又はその溶液を混合し、その後、上記(1)の方法と同様の、自体公知のALを用いるLAL法等によりβGの測定を実施する方法等が挙げられる。
【0053】
上記(2)の方法で用いられるALの具体例は、前記したとおりである。
【0054】
βG測定用AL試薬を、βGを含有する試料と反応させた際のポリミキシン類の反応液中の濃度としては、0.01〜40mg/mL、好ましくは0.1〜40mg/mL、より好ましくは0.2〜10mg/mL、更に好ましくは0.5〜2mg/mLである。
【0055】
自体公知のALを用いるLAL法としては、例えば試料を本発明のβG測定用AL試薬と反応させ、その結果生ずる酵素活性化反応により活性化された酵素の活性を測定するか、又はその結果生ずるゲル化反応に基づく反応液の、濁度の変化の程度やゲル化状態の程度を機器又は目視により測定し、その測定結果に基づいてETの測定を行う、いわゆるLAL法等の常法が挙げられる。
【0056】
通常良く用いられる手法としては、例えば、FDAガイドライン(Guidelines on Validation of the Limulus Amoebocyte Lysate Test as an End-Product Endotoxin Test for Human and Animal Parenteral Drugs, Biologics and Medical Devices, Food and Drug Adm. (1987))に記載されている合成基質法、比濁時間分析法、ゲル化転倒法等が挙げられる。
【0057】
即ち、合成基質法はALの活性化に伴って活性化される酵素(例えばプロテアーゼ等)の活性を、合成基質を用いて測定する方法(Nakamura, S. et al., J. Biochem., 81, 1567-1569 (1977))であり、比濁時間分析法は、例えばトキシノメーターMT−5500、トキシノメーターET−201(和光純薬工業(株)製)、トキシノメーターMT−251(和光純薬工業(株)製)、LAL−5000[ACC(Associates of Cape Cod社製]、マイクロプレートリーダーTmax(モレキュラーデバイス社製)等の専用装置を用い、βGとALとを混合した後、透過光量がある一定の割合だけ変化するまでの時間(ゲル化時間)を測定することによる方法(Oishi, H. et al., J. Parenter. Sci. Techn. 39, 194-200 (1985))であり、ゲル化転倒法はALの活性化によって形成されるゲルの生成の有無を目視によって判定する方法(Cooper, J. F. et al., J. Lab. clin. Med., 78, 138-148 (1971))である。また、凝固に伴って生ずる濁度を測定する比濁法(Bondar, R. J. L. et al., Biomedical Applications of the Horseshoe Crab (ed. Cohan, E.), 435-451, Alan R. Liss, Inc. New York (1979))も挙げられる。
【0058】
また、βGとALとを混合して反応を開始させ、その結果生じるゲル化反応に基づく吸光度変化量が一定の値に到達するまでに要する時間(到達時間)を求め、この値を、到達時間とET濃度との関係を表す検量線に当てはめることにより行ってもよい。
【0059】
本発明に係るβGの測定方法を更に具体的に述べれば例えば以下の如くである。
【0060】
a)合成基質法
試料と本発明のβG測定用AL試薬とを、これらを混合した結果活性化される酵素の作用によりその一部が切断されて発色物質を遊離するような基質(合成基質)の存在下で混合した後、25〜40℃保温下に所定時間反応させる。その後、反応液に反応停止液(例えば塩酸溶液、酢酸溶液等)を添加して反応を停止させ、得られた最終溶液の所定の吸光度(或は蛍光強度)を適当な測定機器(例えば分光光度計、マイクロプレートリーダー、蛍光光度計等)を使用して測定する。得られた測定値を、濃度既知のβG溶液を使用して予め作成しておいたβG濃度と該測定値との関係を表す検量線に当てはめ、試料中のβG濃度を求める。
【0061】
b)比濁時間分析法
先ず、本発明のβG測定用AL試薬と、βGを含有する試料とを混合し、該混合液に光を照射する。次いで、適当な測定機器(例えば分光光度計、マイクロプレートリーダー等)を使用して該混合液についての例えば透過率の変化、吸光度の変化、透過光量比Rtの変動、透過光量比Rtの対数値の変動等の光学的変化が、光照射開始後に所定の値に到達するまでに要する時間(ゲル化時間、Tg)を測定する。得られた当該時間を、濃度既知のβG溶液を使用して予め作成しておいたゲル化時間とβG濃度との関係を表す検量線に当てはめ、試料中のβG濃度を求める。
【0062】
c)ゲル化転倒法
10×75mmの試験管中で、試料と本発明のβG測定用AL試薬とを混合した後、25〜40℃保温下に60分間反応させる。その後、これを180℃転倒させ、ゲルの形成の有無を目視によって判定する。
【0063】
また、LAL法によるET測定用の市販されたキットを用いて測定を行っても良い。
【0064】
また、LAL法の手法は、通常用いられる方法であれば特に限定されることなく使用可能である。
【0065】
これら自体公知の測定法に於いて用いられるその他の試薬類としては、例えば3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(ドーパ),合成基質等の測定する酵素の基質、共役酵素、補酵素等、要すれば、緩衝剤、発色剤、例えば2価の金属イオン(Ca2+、Mg2+等)等の賦活剤、安定化剤、界面活性剤等、目的とする酵素活性の測定法として自体公知の方法に於いて使用される試薬類等が挙げられる。
【0066】
これら自体公知の測定法に於ける反応pHとしては、測定方法や測定する酵素の種類等によって異なるが、通常pH4〜11、好ましくはpH6〜9である。また、この反応pHを維持するため緩衝剤を使用しても良く、緩衝剤としては反応に影響を与えないものであれば、種類,使用濃度ともに特に制限されず、例えばリン酸塩,ホウ酸塩,酢酸塩,トリス緩衝剤,グッドの緩衝剤等が挙げられる。
【0067】
また、反応温度及び反応時間については、反応が進行する温度,時間であれば特に制限されず、反応温度としては、通常0〜50℃、好ましくは4〜30℃、反応時間としては、通常1秒〜20時間、好ましくは10秒〜2時間の範囲から適宜選択される。
【0068】
本発明に係る試料としては、例えば血漿、血清、尿、リンパ、髄液、胸水、腹水等の臨床検体、医薬品、医療用具、食品等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0069】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0070】
実施例1.硫酸ポリミキシンB溶液のβ-グルカン除去−1
〔各試薬の調製〕
(1)ポリミキシンB(以下、「PxB」と略記する。)水溶液
硫酸ポリミキシンB(和光純薬工業(株)製、生化学用試薬)を、エンドトキシンフリーの注射用蒸留水(大塚製薬(株)製)に溶解させたものを調製し、1W/V% PxB水溶液200mLを得た。
(2)βG標準液
カードラン(和光純薬工業(株)製)10mgを0.1N水酸化ナトリウム溶液10mLに溶解したものをβG原液とした。使用にあたっては、該βG原液を注射用蒸留水で希釈して、βG標準液とした。
尚、使用したカードランは、LALを用いた測定によって、カードラン1ng=(1→3)−β−D−グルカン11pgに相当することを確認した。
(3)AL溶液
ALの凍結乾燥品(カブトガニ血球抽出物HS−J、和光純薬工業(株)販売、ゲル化感度:0.03EU/mL、5.2mL用)を注射用蒸留水5.2mLで溶解したものを調製し、AL溶液とした。
【0071】
〔AL試薬の調製〕
AL溶液が12.5V/V%、t-ブチルオキシカルボニル-Thr-Gly-Arg-p-ニトロアニリン(Boc-Thr-Gly-Arg-pNA)が0.4mM 、MgSOが100mMとなるように、100mMのTris-HCl pH8.0に溶解させたものを調製し、AL試薬とした。
【0072】
〔濾過用材料〕
(1)PVDF(ポリビニリデンジフルオリド)膜
マイレクスVV(ミリポア社製、シリンジ加圧式フィルターユニット、孔径0.1μm、φ33mm、フィルター材質・PVDF、γ線滅菌済)。
(2)限外濾過膜
バイオマックス10(Biomax10、ミリポア社商品名、PBGC限外濾過ディスク、NMWL10,000 、φ47mm、フィルター材質・ポリエーテルスルホン)。
(3)正電荷を持った膜
ゼータポア膜(ゼータポアディスク、キュノ(株)商品名、孔径0.65μm、φ47mm)。
【0073】
〔PxB水溶液の粗精製〕
1W/V% PxB水溶液200mLをマイレクスVVで加圧濾過し濾液を得た。得られた濾液をバイオマックス10で加圧下に限外濾過した。得られた濾液を更にゼータポア膜で吸引濾過した。各濾過処理毎に得られた濾液を2mLずつサンプリングし、各濾液中のPxB濃度の測定とβG濃度の測定を行った。
【0074】
〔PxB濃度の測定〕
分光光度計UVmini−1240((株)島津製作所製)を用い、各濾液の256nmにおける吸光度を測定した。
1W/V% PxB水溶液中のPxB濃度を10mg/mLとして、該水溶液を用いて256nmの吸光度を測定して得られた値をもとに、サンプリングした各濾液中のPxB濃度を算出した。
【0075】
〔βG濃度の測定〕
各濾液中のβG濃度を、下記の方法によるエンドポイント合成基質法で測定した。
まず、マイクロプレート(Costar 3595、コーニング社製)に濾液50μLを添加後、AL試薬を50μL添加した。37℃で30min反応させた後、0.04% NaNO(0.9M HCl)50μL、0.3W/V% アミド硫酸アンモニウム溶液50μL、0.07W/V% N-1-ナフチルエチレンジアミン二塩酸塩50μLを加えて混合した。
その後、スペクトラマックス250(モレキュラーデバイス社製)を用い、545nm−630nmでの吸光度を測定した。
更に、βG標準液を用いて濃度既知のβG溶液を調製し、これを用いて同様の測定を行い、βG濃度と吸光度との関係を表す検量線を作成した。この検量線に基づいて、得られた各濾液中のβGの濃度を算出した。
【0076】
〔結果〕
1W/V% PXB水溶液及び各濾液中の、PxB濃度測定結果とβG濃度測定結果を表1に示す。
尚、βG濃度は、PxB 1g当たりのβG含量で示す。
【0077】
【表1】

【0078】
表1の結果から明らかな如く、0.1μmPVDF膜による濾過処理では、PxB中に混入するβG類をわずかしか除去することが出来なかった。NMWL 10,000の限外濾過膜による濾過処理でも、PxB中のβG類をわずかしか除去することは出来なかった。
【0079】
一方、0.65μmゼータポア膜(正電荷を持った膜)で濾過処理を行った場合には、PxB中のβG濃度は1/100以下に低下している。即ち、孔径0.1μmのPVDF膜、NMWL 10,000の限外濾過膜での濾過処理後に、孔径0.65μmという大孔径のゼータポア膜で濾過処理を行ったにもかかわらず、PxB中のβG類は効率的に除去されていることが判る。一方、溶液中のPxB濃度はゼータポア膜による濾過処理によっても全く変化していないことから、PxBのゼータポア膜への吸着も無いことが判る。
【0080】
以上のことから、正電荷を持った膜での処理はβG類除去に有効であることは明らかである。
【0081】
実施例2.PxB溶液中のβ-グルカン除去−2
〔試薬の調製〕
(1)PxB水溶液
硫酸ポリミキシンB(B社製、日本薬局方硫酸ポリミキシンB)を、エンドトキシンフリーの注射用蒸留水(大塚製薬(株)製)に溶解させたものを調製し、1W/V% PxB水溶液200mLを得た。
(2)βG標準液
実施例1で使用したものと同じ。
(3)AL溶液
実施例1で使用したものと同じ。
【0082】
〔AL試薬の調製〕
実施例1と同じ方法で、AL試薬を調製した。
【0083】
〔濾過用材料〕
(1)活性炭
クロマトグラフ用(和光純薬工業(株)製)。
(2)正電荷を持った膜
ゼータポア膜(ゼータポアディスク、キュノ(株)商品名、孔径0.2μm、φ47mm)。
(3)限外濾過膜
バイオマックス5(Biomax5、ミリポア社商品名、PBCC限外濾過ディスク、5,000 NMWL、φ47mm、フィルター材質・ポリエーテルスルホン)。
【0084】
〔PxB水溶液の粗精製〕
活性炭2gを500mL容三角フラスコに入れ、260℃で3時間乾熱滅菌した。次いで1W/V%PxB水溶液200mLを添加し、一晩攪拌した。遠心分離(3,000rpm×10min)を行い、上清を回収して活性炭を除去した。得られた上清をゼータポア膜で吸引濾過した後、濾液を更にバイオマックス5で加圧下に限外濾過した。各濾過処理毎に得られた濾液を2mLずつサンプリングし、実施例1と同様の操作で、各濾液中のPxB濃度の測定とβG濃度の測定を行った。
【0085】
〔PxB濃度の測定〕
実施例1と同様の操作法で行った。
【0086】
〔βG濃度の測定〕
実施例1と同様の操作法で行った。
【0087】
〔結果〕
1W/V% PXB水溶液及び各濾液中の、PxB濃度測定結果とβG濃度測定結果を表2に示す。
尚、βG濃度は、PxB 1g当たりのβG含量で示す。
【0088】
【表2】

【0089】
表2の結果から明らかな如く、実施例1とは異なるメーカーのPxB製品についてβG類の汚染を調べた結果、やはりβG類で汚染されていることが判る。
【0090】
また、従来の活性炭を用いてPxB水溶液を処理する方法では、PxBが活性炭へ吸着してしまうので、PxBのロスが大きいことが判る。更に活性炭処理により溶液中のβG濃度は低下するものの、除去は不十分であった。
【0091】
一方、ゼータポア膜(正電荷を持った膜)及び限外濾過膜で濾過処理を行った場合には、PxBの膜への吸着が殆どなく、濾過処理によるPxBのロスが殆どないことが判った。
【0092】
更に、正電荷を持った膜と限外濾過膜による濾過処理を組み合わせることで、活性炭処理では除去できなかった、PxB水溶液中のβG類をほとんど完全に除去することが可能であることが判る。
【0093】
実施例3.ALとβG、あるいはALとETとの反応に対するPxBの影響(エンドポイント合成基質法)
〔試薬の調製〕
(1)PxB水溶液
実施例2で使用したものと同じ。
(2)PxB試液
実施例2の、各処理段階でサンプリングした、活性炭処理して得られた上清又は濾液を使用した。
(3)βG試料
カードラン(和光純薬工業(株)製)10mgを0.1N水酸化ナトリウム溶液10mLに溶解したものをβG原液とした。これを、注射用蒸留水で希釈し、11pg/mLのβG試料を調製した。
(4)エンドトキシン試料(以下「ET試料」と記載する。)
Escherichia coli 0111:B4由来の精製リポポリサッカライド(和光純薬工業(株)製)を、注射用蒸留水で溶解希釈し、2ng/mLのET試料を調製した。
(5)AL溶液
実施例1で使用したものと同じ。
【0094】
〔AL試薬の調製〕
AL溶液が12.5V/V%、Boc-Thr-Gly-Arg-pNAが0.4mM 、MgSOが100mMとなるように、そしてPxB水溶液、PxB試液又は注射用蒸留水を、PxB濃度が400ng/mL〜1.2mg/mL又は0となるように100mMのTris-HCl pH8.0に溶解させたものを調製し、AL試薬とした。
【0095】
〔βG及びETに対するAL試薬の反応性試験〕
βG及びETに対するPxBを含有するAL試薬の反応性を、下記の方法によるエンドポイント合成基質法で測定した。
【0096】
まず、マイクロプレート(Costar 3595、コーニング社製)に11pg/mLのβG試料あるいは2ng/mLのET試料50μLを添加した後、AL試薬50μLを添加した。37℃で30min反応させた後、0.04% NaNO(0.9M HCl)50μL、0.3W/V% アミド硫酸アンモニウム50μL、0.07W/V% N-1-ナフチルエチレンジアミン二塩酸塩50μLを加えて混合した。
【0097】
11pg/mLのβG試料を添加した場合の、AL試薬との反応時のβGの終濃度は5.5pg/mL である。また、2ng/mLのET試料を添加した場合の、AL試薬との反応時のETの終濃度は1ng/mL ETである。
【0098】
その後、スペクトラマックス250(モレキュラーデバイス社製)を用い、各溶液の545nm−630nmでの吸光度を測定した。
【0099】
対照として、βG試料又はET試料の代わりに、ETおよびβGフリーの注射用蒸留水を用いて、同様に操作し、エンドポイント合成基質法により545nm−630nmでの吸光度を測定した、
【0100】
〔結果〕
結果を図1〜図4に夫々示す。図1は、濾過処理する前の1W/V%PxB水溶液、図2は1W/V%PxB水溶液を活性炭処理して得られた上清(PxB溶液)、図3はその上清を更にゼータポア膜で吸引濾過して得られた濾液(PxB溶液)、図4はその濾液を更にバイオマックス5で加圧下に限外濾過して得られた濾液(PxB溶液)を夫々PxB試液として用いて得られた結果を夫々示す。
【0101】
また、図1〜図4に於いて、−●−はβG試料、−▲−はET試料を用いた場合の結果を夫々示す。また、−◆−は、注射用蒸留水を用いた場合(対照)の結果を示す。
【0102】
尚、図1〜図4の横軸のPxB濃度は、AL試薬とET試料、βG試料又は対照(注射用蒸留水)とを反応させた際の反応液中のPxB濃度を示している。従って、使用したAL試薬中のPxBの濃度は、横軸のPxB濃度の二倍の濃度である。
【0103】
図1の結果から明らかなように、何も処理をしていない(濾過処理する前の)PxB水溶液を用いて調製したAL試薬をET試料と反応させた場合(反応時のET含有量は1ng/mL)には、反応時のPxBの濃度が2μg(2×10−6g)/mLの場合に吸光度がほとんど測定されなかったことから、反応時のET濃度が1ng/mL程度であれば、この濃度のPxBが存在するとALとETとの反応が抑制された。
【0104】
しかし、さらにAL試薬中のPxBの添加量を増すに従い(反応時のPxB濃度が増すに従い)、再び吸光度が上昇している。また、対照(注射用蒸留水)とAL試薬との反応性を試験した場合にも、吸光度が上昇しており(−◆−)、ETもβGも含有しない試料とAL試薬を反応させたにもかかわらず、AL試薬が反応してしまっていることから、PxBの濃度が上がるに連れ、測定のバックグラウンドが上昇してしまっていることがわかる(図1)。
【0105】
これらの原因は、PxB水溶液中にはβG類が共存しており、AL試薬中のPxBの濃度が増すに従い、PxB中のβG類の濃度も上昇し、そのβG類が、ALと反応したためであると考えられる。例えば、表2より、1W/V% PxB水溶液中のβG濃度は70,000pg/g PxBである。すると、AL試薬中のPxB濃度が4μg[反応時のPxB濃度が2μg(2×10−6g)/mL]の場合、AL試薬中のPxB溶液由来のβGの量は0.28pg/mL(反応時は0.14pg/mL)であり、今回使用したAL試薬であれば、この程度の濃度であれば反応していないが、AL試薬中のPxB濃度が12μg/mL(反応時は6μg/mL)の場合、即ちAL試薬中のPxB溶液由来のβG濃度が0.84pg/mL(反応時は0.42pg/mL)では、AL試薬との反応が起こっており、偽陽性と判定される可能性があることが判る。
【0106】
例えば臨床診断に用いられる試料には、数10ng/mL程度の濃度のETを含有しているものもある。そのような、どのくらいの量のETを含有しているのか不明な臨床試料であっても、含有するET活性を十分に抑制するためには、より高濃度のPxBをAL試薬中に共存させておくことが望ましい。そのためには、AL試薬中にPxBを少なくとも200μg/mL以上(反応時には100μg/mL以上)、好ましくは400μg/mL以上(反応時には200μg/mL以上)含有させておくことが望ましい。しかし、図1から明らかな如く、何も処理していないPxB水溶液を用いて、PxBを400μg/mL含有させたAL試薬を調製し、そのAL試薬とETとの反応性を試験したところ(図1、−▲−)(反応時のPxB濃度は200μg(2×10−4g)/mL)、ETの活性を抑えることが出来なかった。またβGを含有する試料について測定した場合にも(図1、−●−)、吸光度が上昇してしまっていることが判る。即ち、βG類の除去処理を行っていない400μg/mLのPxBを含有するAL試薬を用いた場合、特異的に試料中のβGを測定することが困難になることが判る。
【0107】
一方、図1〜図4を比較すると、活性炭処理、次いでゼータポア膜濾過処理、更に限外濾過処理を加えたPxB溶液を用いて調製したAL試薬を用いた場合、高濃度のPxBをAL試薬に加えた場合でも、ALとET、及びALと対照(注射用蒸留水)との反応性上昇が処理段階毎に徐々に抑制されることがわかる。これは、PxB水溶液に順次処理を加えていくに従い、PxB中に共存していたβG類が効果的に除去されていったため、この処理液を用いて調製したAL試薬中に共存するβG類の量が結果的に減少し、測定のバックグラウンド値の上昇が抑制されたためであるであると考えられる。
【0108】
特に、図4より明らかな如く、活性炭処理→ゼータポア膜濾過→限外濾過の全ての処理を行ったPxB溶液を用いて調製したAL試薬と、ETとの反応性を試験した結果、AL試薬中のPxB濃度が2mg/mL[反応時のPxB濃度が1mg(1×10−3g)/mL]以上になっても、ETの活性を抑えることができ、且つバックグラウンドの上昇も見られない。表2より、限外濾過処理濾液中のβG濃度は<55pg/g PxBなので、AL試薬中のPxB濃度が400μg/mL[反応時のPxB濃度が200μg(2×10−4g)/mL]の場合、PxB溶液由来のβGの量は<0.022pg/mL(反応時は<0.011pg/mL)、更にAL試薬中のPxB濃度が2mg/mL[反応時のPxB濃度が1mg(1×10−3g)/mL]の場合、PxB溶液由来のβGの量は<0.11pg/mL(反応時は<0.055pg/mL)である。即ち、活性炭処理→ゼータポア膜濾過→限外濾過の全ての処理を行ったPxB溶液を用いて、PxBを含有するAL試薬を調製した場合には、PxB溶液由来のβG類の量が少ないために、2mg/mLという、高濃度のPxBをALに共存させることができることが推察される。
【0109】
また、活性炭処理→ゼータポア膜濾過→限外濾過の全ての処理を行ったPxB溶液を用いて調製したAL試薬について、注射用蒸留水との反応性(試薬盲検値)を試験した結果(図4、−◆−)、AL試薬中のPxB濃度が2mg/mLの高濃度になっても(測定時のPxB濃度は1mg/mL)、吸光度ほとんど0であり、測定のバックグラウンド値の上昇を十分抑制することができた。すなわち、PxBを予め精製処理することで、高濃度のPxBを添加しても、PxB溶液中のβG類によってALが活性化される危険性がなくなることが判る。
【0110】
また、図1から明らかな如く、何も処理していないPxB水溶液を用いて調製したAL試薬は、試薬中のPxBの濃度を上げていくに従い、βGとの反応性も上昇してしまった(図1、−●−)。これは、AL試薬中に含有するβG類の濃度が上昇したために、見かけ上βGとAL試薬との反応性が上昇したためであり、このAL試薬を用いた場合には、βG濃度を高精度に測定することが困難であることが示唆される。しかし、PxB水溶液を順次精製処理したものを用いて調製したAL試薬は、そのPxB水溶液の処理段階を経るに従い、ETとの反応性だけでなく、βGの濃度に無関係な反応性上昇が抑制されていくことが判る。特に図4の場合には、βGを含有する試料とAL試薬との反応性を試験した結果(図4、−●−)、AL中のPxB濃度が高くなっても吸光度が一定となったことから、ALとβGとの反応性はPxB濃度により影響を受けないことが判る。
【0111】
以上の結果から、βGを含まないPxBをALに共存させることにより、測定対象の試料中に共存するET活性のみを抑制し、βGを特異的に測定することができるようになることがわかる。
【0112】
実施例4.βG汚染を除去したPxBを用いて調製したAL試薬の、ET及びβGに対する反応性試験(エンドポイント合成基質法)
〔試薬の調製〕
(1)PxB試液
実施例2で得られた限外濾過処理濾液(活性炭処理→ゼータポア膜濾過→限外濾過処理を行ったもの。)を使用した。
(2)βG試料
カードラン(和光純薬工業(株)製)10mgを0.1N水酸化ナトリウム溶液10mLに溶解したものをβG原液とした。これを注射用蒸留水で希釈し、0.0092pg/mL〜92pg/mLのβG試料を調製した。
(3)ET試料
Escherichia coli 0111:B4由来の精製リポポリサッカライド(和光純薬工業(株)製)を、注射用蒸留水で溶解希釈し、0.06pg/mL〜200ng/mLのET試料を調製した。
(4)AL溶液
実施例1で使用したものと同じ。
【0113】
〔本発明のAL試薬の調製〕
AL溶液が12.5V/V%、Boc-Thr-Gly-Arg-pNAが0.4mM 、MgSOが100mM、及びPxB試液を用いてPxB濃度が2mg/mLとなるように100mMのTris-HCl pH8.0に溶解させたものを調製し、2mg/mLのPxBを含有する本発明のAL試薬を得た。表2より、限外濾過処理濾液中のβG濃度は<55pg/gPxBなので、このAL試薬中のβG濃度は、<0.11pg/mLである。
【0114】
〔PxBを含有しないAL試薬の調製〕
PxB試液の代わりに注射用蒸留水を用いた以外は、本発明のAL試薬と同じ試薬を用いて、PxBを含有しないAL試薬を調製した。
【0115】
〔βG及びETに対するAL試薬の反応性試験〕
βG及びETに対するPxBを含有するAL試薬の反応性を、下記の方法によるエンドポイント合成基質法で測定した。
【0116】
まず、マイクロプレート(Costar 3595、コーニング社製)にβG試料、ET試料、あるいは注射用蒸留水(対照)50μLを添加した後、本発明のAL試薬50μLを添加し、37℃で30min反応させた。この際の反応液中のPxB濃度は1mg/mlである。反応時間経過後、0.04% NaNO(0.9M HCl)50μL、0.3W/V% アミド硫酸アンモニウム50μL、0.07W/V% N-1-ナフチルエチレンジアミン二塩酸塩50μLを加えて混合した。
【0117】
その後、スペクトラマックス250(モレキュラーデバイス社製)を用い、545nm−630nmでの吸光度を測定した。
【0118】
別に、本発明のAL試薬の代わりにPxBを含有しないAL試薬を用いて同様にβG試料、ET試料に対する反応性試験を行った。
【0119】
[結果]
結果を図5及び図6に示す。図5はAL試薬のETに対する反応性(ET感受性)、図6はAL試薬のβGに対する反応性(βG感受性)を試験した結果である。また、図5及び図6に於いて、−●−は1mg/mLのPxB共存下(2mg/mLのPxBを含む本発明のAL試薬を用いた場合)、−◆−はPxB非共存下(PxBを含有しないAL試薬を用いた場合)の結果を夫々示す。
【0120】
尚、図5及び図6の横軸のET濃度及びβG濃度は、AL試薬との反応時の反応液中のET濃度及びβG濃度を夫々示す。
【0121】
図5より明らかな如く、PxB非共存下(−◆−)ではALはETに対し、ETの濃度依存的に反応する。これに対し、1mg/mLのPxB共存下(2mg/mLのPxBを含有する本発明のAL試薬を用いた場合(−●−)は100ng(10−7g/mL)の濃度のETが存在しても、ETとは全く反応していない。
【0122】
一方、図6から明らかな如く、PxBが共存するか否かにかかわらず、ALのβGに対する反応性(感受性)は同等になっており、本発明に係るPxBはALとβGとの反応に影響を与えないことが判る。
【0123】
以上のことから、本発明のAL試薬を用いて、エンドポイント合成基質法によるβGの測定を行えば、試料中のET活性を抑制して、βGを特異的に測定することができることが判る。
【0124】
また、本発明の方法で処理したポリミキシンをAL試薬中に含有させた場合には、2mg/mLという高濃度のPxBを含有させることができるので、あらゆる濃度のETを含有する臨床試料について、十分にET活性を抑制することができるような、βGに特異的なAL試薬を提供することができることが判る。
【0125】
実施例5.βG汚染を除去したPxBを用いて調製したAL試薬の、ET及びβGに対する反応性試験(比濁時間分析法)
〔試薬の調製〕
(1)PxB試液
実施例2で得られた限外濾過処理濾液(活性炭処理→ゼータポア膜濾過→限外濾過処理を行ったもの)を用いた。
(2)βG試料
実施例1で使用したものと同じβG原液を、注射用蒸留水で希釈し、0.092pg/mL〜2750pg/mLのβG試料を調製した。
(3)ET試料
実施例3で使用したものと同じET試料を、注射用蒸留水で希釈し、0.2pg/mL〜200ng/mLのET試料を調製した。
(4)AL溶液
実施例1で使用したものと同じ。
【0126】
〔本発明のAL試薬の調製〕
ALの凍結乾燥品(カブトガニ血球抽出物HS−J、和光純薬工業(株)販売、ゲル化感度:0.03 EU/mL、5.2mL用)を2mg/mLのPxB溶液5.2mLで溶解し2mg/mLのPxBを含有する本発明のAL試薬を得た。表2より、限外濾過処理濾液中のβG濃度は<55pg/mLなので、このAL試薬中のβG濃度は、<0.11pg/mLである。
【0127】
〔PxBを含有しないAL試薬の調製〕
ALの凍結乾燥品(カブトガニ血球抽出物HS−J、和光純薬工業(株)販売、ゲル化感度:0.03 EU/mL、5.2mL用)を注射用蒸留水5.2mLで溶解し、PxBを含有しないAL試薬を得た。
【0128】
〔βG試料及びET試料に対するAL試薬の反応性試験〕
βG及びETに対するPxBを含有するAL試薬の反応性を、下記の方法による比濁時間分析法で測定した。
【0129】
まず、反応用試験管に本発明のAL試薬100μLを添加した。次いで、ET試料、βG試料、あるいは注射用蒸留水(対照) 100μLを添加した。直ちにトキシノメーターET301にセットし比濁時間分析を行った。尚、分析時の反応液中のPxB濃度は、1mg/mLである。
【0130】
別に、本発明のAL試薬の代わりにPxBを含まないAL試薬を用いて同様に比濁時間分析を行った。
【0131】
[結果]
結果を図7及び図8に示す。
図7はAL試薬のETに対する反応性(ET感受性)、図8はAL試薬のβGに対する反応性(βG感受性)を試験した結果である。図7及び図8に於いて、−●−は1mg/mLのPxB共存下(2mg/mLのPxBを含有する本発明のAL試薬を用いた場合)、−◆−はPxB非共存下(PxBを含有しないAL試薬を用いた場合)の結果を夫々示す。
【0132】
尚、図7及び図8の横軸のET濃度及びβG濃度は、AL試薬との反応時の反応液中のET濃度及びβG濃度を夫々示す。
また、比濁時間分析法では、比濁時間が短い方が、ALの反応が起きていることを示す。
【0133】
図7より明らかな如く、PxB非共存下(−◆−)では、ALはETに対し、ET濃度1pg(1×10−12g)/mL以上で、ETの濃度依存的に反応する。これに対し、1mg/mLのPxB共存下(2mg/mLのPxBを含む本発明のAL試薬を用いた場合、−●−)では、ET濃度30ng(3×10−8g)/mL以上でしか反応していない。すなわち、PxBを含有する本発明のAL試薬のETに対する反応性は、PxBを含有しないAL試薬のETに対する反応性のおよそ1/30000である。
【0134】
一方、図8から明らかな如く、PxBが共存するか否かにかかわらず、ALのβGに対する反応性(感受性)は同等であり、PxBは比濁時間分析法によるALとβGとの反応に影響を与えないことが判る。
【0135】
以上のことから、本発明のAL試薬を用いて、比濁時間分析法によるβGの測定を行えば、試料中のET活性を抑制して、βGを特異的に測定することができることが判る。
【0136】
比較例1.βG汚染を除去していないPxBを用いて調製したAL試薬の、ET及びβGに対する反応性試験1(エンドポイント合成基質法)
〔試薬の調製〕
(1)PxB試液
実施例1で得られたPVDF膜濾過処理濾液(βG類汚染が除去されていない)を使用した。
(2)βG試料
カードラン(和光純薬工業(株)製)10mgを0.1N水酸化ナトリウム溶液10mLに溶解したものをβG原液とした。これを注射用蒸留水で希釈し、0.0092pg/mL〜92pg/mLのβG試料を調製した。
(3)ET試料
Escherichia coli 0111:B4由来の精製リポポリサッカライド(和光純薬工業(株)製)を、注射用蒸留水で溶解希釈し、0.06pg/mL〜200ng/mLのET試料を調製した。
(4)AL溶液
実施例1で使用したものと同じ。
【0137】
〔PxBを含有するAL試薬の調製〕
AL溶液が12.5V/V%、Boc-Thr-Gly-Arg-pNAが0.4mM 、MgSOが100mM、及びPxB試液を用いてPxB濃度が6μg/mLとなるように溶解させた100mMのTris-HCl pH8.0を調製し、PxBを含有するAL試薬を得た。表1より、PVDF膜濾過処理濾液中のβG濃度は53,900pg/g PxBなので、このAL試薬中のβG濃度は0.3234pg/mLである。
【0138】
〔PxBを含有しないAL試薬の調製〕
PxB試液の代わりに注射用蒸留水を用いた以外は、本発明のAL試薬と同じ試薬を用いて、PxBを含有しないAL試薬を調製した。
【0139】
〔βG及びETに対するAL試薬の反応性試験〕
βG及びETに対するPxBを含有するAL試薬の反応性を、下記の方法によるエンドポイント合成基質法で測定した。
【0140】
まず、マイクロプレート(Costar 3595、コーニング社製)にβG試料、ET試料、あるいは注射用蒸留水(対照)50μLを添加した後、PxBを含有するAL試薬50μLを添加し、37℃で30min反応させた。この際の反応液中のPxB濃度は3μg/mLである。反応時間経過後、0.04% NaNO(0.9M HCl)50μL、0.3W/V% アミド硫酸アンモニウム溶液50μL、0.07W/V% N-1-ナフチルエチレンジアミン二塩酸塩50μLを加えて混合した。
【0141】
その後、スペクトラマックス250(モレキュラーデバイス社製)を用い、545nm−630nmでの吸光度を測定した。
【0142】
別に、PxBを含有するAL試薬の代わりにPxBを含有しないAL試薬を用いて、同様にβG試料、ET試料に対する反応性試験を行った。
【0143】
〔結果〕
結果を図9及び図10に示す。図9はAL試薬のETに対する反応性(ET感受性)、図10はAL試薬のβGに対する反応性(βG感受性)を試験した結果である。また、図9及び図10に於いて、−●−は3μg/mLのPxB共存下(6μg/mLのPxBを含有するAL試薬を用いた場合)、−◆−はPxB非共存下(PxBを含有しないAL試薬を用いた場合)で試験を行った結果を夫々示す。
【0144】
尚、図9及び図10の横軸のET濃度及びβG濃度は、AL試薬との反応時の反応液中のET濃度及びβG濃度を夫々示す。
【0145】
図9より明らかな如く、PxB非共存下(−◆−)ではALはETに対し、ETの濃度依存的に反応する。これに対し、3μg/mLのPxB共存下(−●−)ではALとETとの反応はPxB非共存下の場合と比べると抑制されてはいるものの、ETの濃度が1ng(1×10−9g)/mLになるとALはETと反応していることが判る。このことから、PVDF膜で濾過処理したPxB試液を用いて調製したAL試薬を用いてEとの反応性を試験した場合、3μg/mLのPxB共存下では(反応時のPxB溶液由来のβG濃度は0.1617pg/mL)、PxBの添加量が不十分で、ALとETとの反応が十分に抑制されないことは明らかである。また、PxB共存下の場合(−●−)、0.3ng(3×10−10g)/mL以下のET濃度域では、PxB存在下における吸光度が、PxB非存在下の場合と比べて高くなっていることが判る。また、ET濃度が0の場合でも、PxB 3μg/mL共存下では、PxB非共存下に比較して吸光度が高くなっている。これは、PxB中に混在するβG類がALと反応したことによるものと考えられ、バックグラウンド値が高くなっていることを示している。
【0146】
また、図10から明らかな如く、βG濃度が0.1pg(10−1pg)/mLより低くなると、βG濃度と吸光度との関係に直線性がなくなり、このような低濃度のβGの定量が困難であることが判る。
【0147】
以上のことから明らかな如く、PxB中に混在するβG類の除去が十分でないPxBをAL試薬に6μg/mL共存させると(反応時のPxBは3μg/mL)、PxB溶液由来のβG類が測定に影響を与え、0.1pg(10−1pg)/mL以下のβGの測定は不可能となる。また、3μg/mLのPxB共存下では、2×10−10g/mLのET活性でさえ抑制することはできない。これらのことを勘案すれば、βG類の除去が十分でないPxBを用いた場合、活性を十分に抑制できる量のPxBをAL試薬に共存させることができない。その当然の結果として、このようなAL試薬を用いた場合には、ALとETとの反応を十分に抑制することができず、βG特異的な測定は行い得ないことが判る。
【0148】
比較例2.βG汚染を除去していないPxBを用いて調製したAL試薬の、ET及びβGに対する反応性試験2(エンドポイント合成基質法)
〔試薬の調製〕
(1)PxB試液
実施例1で得られたPVDF膜濾過処理濾液(βG類汚染が除去されていない)を使用した。
(2)βG試料
カードラン(和光純薬工業(株)製)10mgを0.1N水酸化ナトリウム溶液10mLに溶解したものをβG原液とした。これを注射用蒸留水で希釈し、0.0092pg/mL〜92pg/mLのβG試料を調製した。
(3)ET試料
Escherichia coli 0111:B4由来の精製リポポリサッカライド(和光純薬工業(株)製)を、注射用蒸留水で溶解希釈し、0.2pg/mL〜200ng/mLのET試料を調製した。
(4)AL溶液
実施例1で使用したものと同じ。
【0149】
〔PxBを含有するAL試薬の調製〕
AL溶液が12.5V/V%、Boc-Thr-Gly-Arg-pNAが0.4mM 、MgSOが100mM、及びPxB試液を用いてPxB濃度が200μg/mLとなるように溶解させた100mMのTris-HCl pH8.0を調製し、200μg/mLのPxBを含有するAL試薬を得た。表1より、PVDF膜濾過処理濾液中のβG濃度は53,900pg/gPxBなので、このAL試薬中のβG濃度は、10.78pg/mLである。
【0150】
〔PxBを含有しないAL試薬の調製〕
PxB試液の代わりに注射用蒸留水を用いた以外は、本発明のAL試薬と同じ試薬を用いて、PxBを含有しないAL試薬を調製した。
【0151】
〔βG及びETに対するAL試薬の反応性試験〕
βG及びETに対するPxBを含有するAL試薬の反応性を、下記の方法によるエンドポイント合成基質法で測定した。
【0152】
まず、マイクロプレート(Costar 3595、コーニング社製)にβG試料、ET試料、あるいは注射用蒸留水(対照)50μLを添加した後、PxBを含有するAL試薬50μLを添加し、37℃で30min反応させた。この際の反応液中のPxB濃度は100μg/mLである。反応時間経過後、0.04% NaNO(0.9M HCl)50μL、0.3W/V% アミド硫酸アンモニウム50μL、0.07W/V% N-1-ナフチルエチレンジアミン二塩酸塩50μLを加えて混合した。
【0153】
その後、スペクトラマックス250(モレキュラーデバイス社製)を用い、545nm−630nmでの吸光度を測定した。
【0154】
別に、PxBを含有するAL試薬の代わりに、PxBを含有しないAL試薬を用いて同様にβG試料、ET試料に対する反応性試験を行った。
【0155】
〔結果〕
結果を図11及び図12に示す。図11はAL試薬のETに対する反応性(ET感受性)、図12はAL試薬のβGに対する反応性(βG感受性)を試験した結果である。図11及び図12に於いて、−●−は100μg/mLのPxB共存下(200μg/mLのPxBを含有するAL試薬を用いた場合)、−◆−はPxB非共存下(PxBを含有しないAL試薬を用いた場合)で試験を行った結果を夫々示す。
【0156】
尚、図11及び図12の横軸のET濃度及びβG濃度は、AL試薬との反応時の反応液中のET濃度及びβG濃度を夫々示す。
【0157】
図11より明らかな如く、PxB非共存下(−◆−)ではALはETと、ETの濃度依存的に反応する。 これに対し、100μg/mLのPxB共存下(−●−)では、ET濃度に関係なくALは反応していることがわかる。
【0158】
また、図12からも明らかなように、PxB存在下(−●−)ではβGが存在しなくても(βGの濃度が0pg/mLの場合でも)ALが反応している。
【0159】
上で述べたように、ET濃度が様々な各種試料について行われる臨床診断のために用いることのできる、βG測定用のAL試薬を調製するためには、少なくとも200μg/mLのPxBをALに共存させておくことが望ましい。しかしながら、PxB中に混在するβG類の除去が十分でない場合には、PxB中のβG類がALと反応してしまうため、ALを用いたβG測定を実施し得ないことは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0160】
【図1】実施例3において得られた、濾過処理する前の1W/V%PxB水溶液を用いて調製したAL試薬の、ET及びβGに対する反応性を試験した結果を示す。
【図2】実施例3において得られた、1W/V%PxB水溶液を活性炭処理して得られた上清(PxB溶液)を用いて調製したAL試薬の、ET及びβGに対する反応性を試験した結果を示す。
【図3】実施例3において得られた、活性炭処理して得られた上清を、更にゼータポア膜を用いて吸引濾過して得られた濾液(PxB溶液)を用いて調製したAL試薬の、ET及びβGに対する反応性を試験した結果を示す。
【図4】実施例3において得られた、ゼータポア膜を用いて吸引濾過して得られた濾液を更にバイオマックス5で加圧下に限外濾過して得られた濾液を用いて調製したAL試薬の、ET及びβGに対する反応性を試験した結果を示す。
【図5】実施例4において得られた、PxB水溶液の限外濾過処理濾液を用いて調製したAL試薬の、ETに対する反応性を試験した結果を示す。
【図6】実施例4において得られた、PxB水溶液の限外濾過処理濾液を用いて調製したAL試薬の、βGに対する反応性を試験した結果を示す。
【図7】実施例5において得られた、PxB水溶液の限外濾過処理濾液を用いて調製したAL試薬の、ETに対する反応性を試験した結果を示す。
【図8】実施例5において得られた、PxB水溶液の限外濾過処理濾液を用いて調製したAL試薬の、βGに対する反応性を試験した結果を示す。
【図9】比較例1において得られた、PVDF膜濾過諸理路液(PxB溶液)を用いて調製したAL試薬の、ETに対する反応性を試験した結果を示す。
【図10】比較例1において得られた、PVDF膜濾過諸理路液(PxB溶液)を用いて調製したAL試薬の、βGに対する反応性を試験した結果を示す。
【図11】比較例2において得られた、PVDF膜濾過処理濾液(PxB溶液)を用いて調製したAL試薬の、ETに対する反応性を試験した結果を示す。
【図12】比較例2において得られた、PVDF膜濾過処理濾液(PxB溶液)を用いて調製したAL試薬の、βGに対する反応性を試験した結果を示す。
【符号の説明】
【0161】
図1〜図4において、−●−はβG試料、−▲−はET試料、−◆−は注射用蒸留水を用いた場合(対照)の結果を夫々示す。
【0162】
図5及び図6において、−●−は1mg/mLのPxB共存下(2mg/mLのPxBを含有する本発明のAL試薬を用いた場合)、−◆−は、PxB非共存下(PxBを含有しないAL試薬を用いた場合)の結果を夫々示す。
【0163】
図7及び図8において、−●−は1mg/mLのPxB共存下(2mg/mLのPxBを含有するAL試薬を用いた場合)、−◆−はPxB非共存下(PxBを含有しないAL試薬を用いた場合)の結果を夫々示す。
【0164】
図9及び図10において、−●−は3μg/mLのPxB共存下(6μg/mLのPxBを含有するAL試薬を用いた場合)、−◆−はPxB非共存下(PxBを含有しないAL試薬を用いた場合)の結果を夫々示す。
【0165】
図11及び図12において、−●−は100μg/mLのPxB共存下(200μg/mLのPxBを含有するAL試薬を用いた場合)、−◆−はPxB非共存下(PxBを含有しないAL試薬を用いた場合)の結果を夫々示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カブトガニ血球抽出物(以下、ALと略記する。)の酵素反応を引き起こさない濃度以下しか(1→3)-β-D-グルカン又は/及びその類縁物質を含有しない、ポリミキシン又はその塩及びALを含んでなる、(1→3)-β-D-グルカン測定用AL試薬。
【請求項2】
ポリミキシン又はその塩の濃度が0.2〜80mg/mLである、請求項1に記載のAL試薬。
【請求項3】
ポリミキシン又はその塩が、正電荷を持った膜でポリミキシン又はその塩を処理して得られるものである、請求項1に記載のAL試薬。
【請求項4】
(1→3)-β-D-グルカン又は/及びその類縁物質が(1→3)-β-D-グルカンである、請求項1に記載のAL試薬。
【請求項5】
ポリミキシン又はその塩が、ポリミキシンB又はその塩である、請求項1に記載のAL試薬。
【請求項6】
ポリミキシンBの塩が、硫酸ポリミキシンBである、請求項5に記載のAL試薬。
【請求項7】
ALに、ALの酵素反応を引き起こさない濃度以下しか(1→3)-β-D-グルカン又は/及びその類縁物質を含有しないポリミキシン又はその塩を共存させることを特徴とする、(1→3)-β-D-グルカン測定用AL試薬の調製方法。
【請求項8】
(1→3)-β-D-グルカン測定用AL試薬に0.2〜80mg/mLのポリミキシン又はその塩を共存させる、請求項1に記載の調製方法。
【請求項9】
ALの酵素反応を引き起こさない濃度以下しか(1→3)-β-D-グルカン又は/及びその類縁物質を含有しないポリミキシン又はその塩、及びALを構成成分として含んでなる、(1→3)-β-D-グルカン測定用キット。
【請求項10】
ALの酵素反応を引き起こさない濃度以下しか(1→3)-β-D-グルカン又は/及びその類縁物質を含有しない、ポリミキシン又はその塩を含有するALを構成成分として含んでなる試薬を含む、(1→3)-β-D-グルカン測定用キット。
【請求項11】
エンドトキシンを含む試料を、ALの酵素反応を引き起こさない濃度以下しか(1→3)-β-D-グルカン又は/及びその類縁物質を含有しない、ポリミキシン又はその塩を含有するAL試薬と反応させ、その結果生ずる酵素活性化反応により活性化された酵素の活性を測定するか、又はその結果生ずるゲル化反応に基づく反応液の濁度の変化の程度やゲル化状態の程度を機器又は目視により測定することを特徴とする、(1→3)-β-D-グルカンを特異的に測定する方法。
【請求項12】
エンドトキシンを含む試料を、ALの酵素反応を引き起こさない濃度以下しか(1→3)-β-D-グルカン又は/及びその類縁物質を含有しないポリミキシン又はその塩の共存下にALと反応させ、その結果生ずる酵素活性化反応により活性化された酵素の活性を測定するか、又はその結果生ずるゲル化反応に基づく反応液の濁度の変化の程度やゲル化状態の程度を機器又は目視により測定することを特徴とする、(1→3)-β-D-グルカンを特異的に測定する方法。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−240397(P2007−240397A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−65252(P2006−65252)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(000252300)和光純薬工業株式会社 (105)
【Fターム(参考)】