説明

1−アラルキル−3−ピロリン化合物の製造法

【課題】 簡便、高収率、且つ安全に高純度1−アラルキル−3−ピロリン化合物の製造法を提供する。
【解決手段】シス−1,4−ジクロロ−2−ブテンと芳香環を1〜2個有するアラルキルアミンの反応液に、酸性物質を添加した後、分液によって未反応のアラルキルアミンを除去する工程を含む1−アラルキル−3−ピロリン化合物の製造法において、分液を行う際のpHを、芳香環を1個有するアラルキルアミンを用いる場合は7〜8とし、芳香環を2個有するアラルキルアミンの場合は4〜5.5とすることを特徴とする1−アラルキル−3−ピロリン化合物の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シス1,4−ジクロロ−2−ブテンとアラルキルアミンの反応により1−アラルキル−3−ピロリン化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1−アラルキル−3−ピロリン化合物は、医薬中間体として有用なピロリジン誘導体の原料として用いられ、多くの製造法が知られている。
【0003】
例えば、シス−2−ブテン−1,4−ジオール ジメシレートと1級アミンを反応させる方法(非特許文献1)が挙げられるが、シス−2−ブテン−1,4−ジオール ジメシレートが高価であり工業的製造法として課題が残る。また、トルエン中、シス−1,4−ジクロロ−2−ブテンとベンジルアミンを反応させる方法も知られており、反応条件が92℃、18時間と厳しく且つ収率も60%と低い(非特許文献2)。この反応では、ピリジン誘導体を共存させることで収率が90%まで向上する(特許文献1)。しかしながら、後者の方法では収率は向上するものの、精留塔を用いて蒸留した製品の純度は95%と十分とは言えない。そこで、本発明者等は特許文献1記載の条件に従い、トルエン溶媒中、48%水酸化ナトリウム水溶液存在下、シス−1,4−ブテンジオールと塩化チオニルから合成したシス−1,4−ジクロロ−2−ブテンとベンジルアミンから合成した1−ベンジル−3−ピロリンを水−トルエン系による抽出により分液し、目的物をトルエン層に分配させた結果、トルエン層中には原料に用いたベンジルアミンが目的物に対して10%以上含まれ、精留によってもベンジルアミンを十分に除去することができず、目的物の純度を上げることが困難であることが分かった。一方、メタノール溶媒中、酢酸ナトリウム存在下、シス−1,4−ジクロロ−2−ブテンとベンズヒドリルアミンの反応により合成した1−ベンズヒドリル−3−ピロリンを塩化メチレン−水系による抽出により分液し、塩化メチレン層に目的物を分配させる方法が報告されているが、純度に関する記載もなく単離収率が41%と低いことから工業的製造法としては十分と言えない(特許文献2)。
【0004】
したがって、高純度の1−アラルキル−3−ピロリン化合物の効率的な工業的製造法について報告例は見られない。
【特許文献1】特開2001−270862号公報(実施例)
【特許文献2】特開2005−120067号公報(参考例1)
【非特許文献1】シンセティック コミュニケーション 20,227,1990)
【非特許文献2】シンセティック コミュニケーション 13,1117,1983)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
1−アラルキル−3−ピロリン化合物を医薬中間体及びその原料として用いる場合、その純度を向上させることが強く求められている。しかしながら従来技術では、高純度1−アラルキル−3−ピロリン化合物を工業的に製造することは困難であり、簡便、且つ安全な高純度1−アラルキル−3−ピロリン化合物の工業的製造法の創出が強く望まれてきた。
【0006】
本発明の目的は、簡便、高収率、且つ安全に高純度1−アラルキル−3−ピロリン化合物の製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、高純度1−アラルキル−3−ピロリン化合物の製造法について鋭意検討した結果、本発明を見出すに至った。つまり、シス1,4−ジクロロ−2−ブテンとアラルキルアミンの反応液に、酸性物質を添加した後、濾過および分液から選ばれる少なくとも1つの処理を実施することによって、未反応のアラルキルアミンを除去する工程を含む高純度1−アラルキル−3−ピロリン化合物の製造法である。
【0008】
すなわち、本発明は、シス1,4−ジクロロ−2−ブテンと芳香環を1〜2個有するアラルキルアミンの反応液に、酸性物質を添加した後、分液によって未反応のアラルキルアミンを除去する工程を含む1−アラルキル−3−ピロリン化合物の製造法において、分液を行う際のpHを、芳香環を1個有するアラルキルアミンを用いる場合は7〜8とし、芳香環を2個有するアラルキルアミンの場合は4〜5.5とすることを特徴とする1−アラルキル−3−ピロリン化合物の製造法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡便、高収率、且つ安全に高純度1−アラルキル−3−ピロリン化合物を製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明は、シス1,4−ジクロロ−2−ブテンとアラルキルアミンとの反応液に、酸性物質を添加した後、濾過および分液から選ばれる少なくとも1つの処理を実施することによって、未反応のアラルキルアミンを除去する工程を含むことを特徴とする1−アラルキル−3−ピロリン化合物の製造法である。
【0012】
本発明の原料である1,4−ジクロロ−2−ブテンはシス−2−ブテン−1,4−ジオールのクロル化によって製造できるが、蒸留精製品を使用しても、あるいはシス−2−ブテン−1,4−ジオールと塩化チオニルをピリジン共存下でジクロル化した未精製品を使用することも出来る。また、シス−2−ブテン−1,4−ジオールを塩化メシルと塩基共存下で反応させて合成した1,4−ジクロロ−2−ブテンで、ジメシル誘導体が含有されているものも同様に使用することが可能である。シス−2−ブテン−1,4−ジオールと塩化チオニルをピリジン共存下でクロル化した未精製品を使用する場合は、シス−2−ブテン−1,4−ジオールと塩化チオニルを芳香族炭化水素溶媒、例えばトルエン溶媒中でピリジン共存下、10〜60℃で反応させた後に、30〜40℃にて2層分離した反応液を分液して得られる上層をアラルキルアミンと反応させて1−アラルキル−3−ピロリン化合物を製造するのが好ましい。
【0013】
一方、本発明で用いられるもう一方の原料であるアラルキルアミンに特に制限はないが、代表的な化合物は一般式(1)
ArCHNH(1)
(式中Arは、低級アルキル基またはハロゲン基によって置換された、もしくは無置換のフェニル基あるいはナフチル基を示す。)または、一般式(3)
ArCHNH(3)
(式中Arは、低級アルキル基またはハロゲン基によって置換された、もしくは無置換のフェニル基あるいはナフチル基を示す。)で表される化合物である。上記Arについて、フェニル基あるいはナフチル基であれば、特に制限はないが、無置換のものが好ましく、より好ましくは、フェニル基である。さらに、Arに置換基が存在する場合、置換基は低級アルキル基またはハロゲン基であれば特に制限はないが、好ましくは、炭素数1〜4のアルキル基またはハロゲン基であり、具体例として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、クロル基、ブロモ基が挙げられ、より好ましくは、メチル基、エチル基、クロル基であり、置換基の数についても許容される限り特に制限はないが、好ましくは1〜2個である。化合物の具体例として、ベンジルアミン、4−メチルベンジルアミン、3−エチルベンジルアミン、2−イソプロピルベンジルアミン、2,4−ジメチルベンジルアミン、4−クロロベンジルアミン、3−ブロモベンジルアミン、2−ブチル−4−クロロベンジルアミン、1−ナフチルメチルアミン、2−ナフチルメチルアミン、6−メチル−1−ナフチルメチルアミン、ベンズヒドリルアミン、C,C−ジ−p−トルイルメチルアミン、C−m−トルイル−C−p−クロロフェニルメチルアミン、3−メチルフェニル−1−ナフチルメチルアミン、7−エチル−1−ナフチルメチルアミン、2−クロロ−1−ナフチルメチルアミン、6−ブロモ−2−ナフチルメチルアミン、C−フェニル−C−o−トルイルメチルアミン、C−フェニル−C−p−エチルフェニルメチルアミン、C−フェニル−C−p−クロロフェニルメチルアミン、C−p−トルイル−C−o−クロロフェニルメチルアミン、C−2−ナフチル−C−フェニルメチルアミン、C,C−2−ジナフチルメチルアミン等を挙げることが出来るが、好ましくは、ベンジルアミン、4−メチルベンジルアミン、4−クロロベンジルアミン、1−ナフチルメチルアミン、2−ナフチルメチルアミン、6−メチル−1−ナフチルメチルアミン、ベンズヒドリルアミン、C,C−ジ−p−トルイルメチルアミン、C−m−トルイル−C−p−クロロフェニルメチルアミン、C−フェニル−C−o−トルイルメチルアミン、C−p−トルイル−C−o−クロロフェニルメチルアミン、C−2−ナフチル−C−フェニルアミン、C−2−ナフチル−C−フェニルメチルアミン、C,C−2−ジナフチルメチルアミンであり、より好ましくは、ベンジルアミン、4−メチルベンジルアミン、1−ナフチルメチルアミン、2−ナフチルメチルアミン、ベンズヒドリルアミン、C,C−ジ−p−トルイルメチルアミン、C−2−ナフチル−C−フェニルメチルアミン、C,C−2−ジナフチルメチルアミンであり、さらに好ましくは、ベンジルアミン、ベンズヒドリルアミンである。
【0014】
シス−1,4−ジクロロ−2−ブテンとアラルキルアミンを反応させて得られる1−アラルキル−3−ピロリン化合物の構造にも特に制限はないが、代表例な化合物は、一般式(2)
【0015】
【化1】

【0016】
(式中Arは、低級アルキル基またはハロゲン基によって置換された、もしくは無置換のフェニル基あるいはナフチル基を示す。)または、一般式(4)
【0017】
【化2】

【0018】
(式中Arは、低級アルキル基またはハロゲン基によって置換された、もしくは無置換のフェニル基あるいはナフチル基を示す。)で表される化合物である。Arの好ましい例としては、前述のArと同じである。具体例として、1−ベンジル−3−ピロリン、1−(3−メチルベンジル)−3−ピロリン、1−(2−クロロベンジル)−3−ピロリン、1−(3−ブロモベンジル)−3−ピロリン、1−(2,4−ジメチルベンジル)−3−ピロリン、1−ナフチルメチル−3−ピロリン、2−ナフチルメチル−3−ピロリン、1−(3−メチル−1−ナフチルメチル)−3−ピロリン、1−(4−クロロ−2−ナフチルメチル)−3−ピロリン、1−ベンズヒドリル−3−ピロリン、1−(フェニル−p−トルイルメチル)−3−ピロリン、1−ジ−p−トルイルメチル−3−ピロリン、1−[(4−クロロフェニル)フェニルメチル]−3−ピロリン、1−(2−ナフチルフェニルメチル)−3−ピロリン、1−(2−ナフチル−p−トルイルメチル)−3−ピロリン、1−(ジ−2−ナフチルメチル)−3−ピロリン等を挙げることができるが、好ましくは、1−ベンジル−3−ピロリン、1−(3−メチルベンジル)−3−ピロリン、1−ナフチルメチル−3−ピロリン、2−ナフチルメチル−3−ピロリン、1−ベンズヒドリル−3−ピロリン、1−(フェニル−p−トルイルメチル)−3−ピロリン、1−(2−ナフチルフェニルメチル)−3−ピロリン、1−(ジ−2−ナフチルメチル)−3−ピロリンであり、より好ましくは、1−ベンジル−3−ピロリン、1−ナフチルメチル−3−ピロリン、2−ナフチルメチル−3−ピロリン、1−ベンズヒドリル−3−ピロリンであり、さらに好ましくは1−ベンジル−3−ピロリン、1−ベンズヒドリル−3−ピロリンである。
【0019】
シス−1,4−ジクロロ−2−ブテンとアラルキルアミンの反応は、公知の方法に従って行うことができる(特開2001−270862号公報)。溶媒中、無溶媒中、いずれで行うことも可能である。アラルキルアミンの使用量は、シス−1,4−ジクロロ−2−ブテンに対して3〜4モル倍が好ましく、未反応の過剰なアラルキルアミンは分液により1−アラルキル−3−ピロリンと分けられ、アルカリ水溶液等により遊離することでリサイクル使用することが可能である。
【0020】
また、上記反応において、予め水を共存させながら、水酸化ナトリウム水溶液などの塩基を添加して反応系のpHを9〜12に調整すれば反応が円滑に進行する。前記予め共存させる水は、反応により副生するアラルキルアミン塩酸塩を溶解させるのに有効であり、その添加量に特に制限はないが、通常、反応時に添加したアラルキルアミンとトルエンの合計に対して0.01〜5重量倍であり、好ましくは、0.05〜3重量倍であり、より好ましくは、0.05〜1重量倍である。
【0021】
反応温度は、通常、20〜100℃であり、好ましくは25〜90℃である。反応は所定の温度にて撹拌しながら、シス−1,4−ジクロロ−2−ブテンとアラルキルアミンのいずれを添加しても良いが、好ましくは、アラルキルアミンを添加する方法である。反応時間は、通常、2〜24時間である。
【0022】
ここで用いるシス−1,4−ジクロロ−2−ブテンは、純品、またはトルエンなどの有機溶媒溶液、いずれを用いても良いが、後者の方が生産効率の点から好ましい。その濃度に制限はないが、通常、5〜90%、好ましくは10〜70%である。
【0023】
反応終了後、反応系に水、あるいは有機溶媒と水を加えれば、副生するアラルキルアミン塩酸塩を水に溶解させて水層側に除去することが可能である。反応で有機溶媒を使用する場合、水と相分離する芳香族炭化水素が用いられ、具体例として、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、シメン、メシチレンなどが挙げられるが、好ましくは、トルエン、エチルベンゼンであり、さらに好ましくはトルエンである。
【0024】
反応を無溶媒で行う場合、反応終了後に有機溶媒を添加することが好ましく、有機溶媒の使用量は、反応溶媒としての使用量と反応終了後の添加量の合計として、仕込みアラルキルアミンに対して0.1〜10重量倍であり、好ましくは0.2〜5重量倍であり、より好ましくは0.3〜3重量倍である。
【0025】
また、添加する水の使用量は、通常、アラルキルアミンと有機溶媒の合計に対して0.1〜10重量倍であり、好ましくは、0.1〜5重量倍であり、より好ましくは、0.5〜3重量倍である。
【0026】
反応終了後、公知文献(特開2001−270862号公報)によれば、反応によって得られる1−アラルキル−3−ピロリンは、分液操作によりトルエン層側に回収することが可能であるが、精留塔を設置した減圧蒸留の結果でさえ、化学純度は95.2%と十分とは言えない。さらに、pHを10〜11における抽出収率に対するベンジルアミン使用量の影響について検討しているものの、品質の変化に関する記載は見られない。本発明者等はpHを10〜11で抽出を行った場合、原料のベンジルアミンが1−ベンジル−3−ピロリンに対して10%以上もトルエン層側に分配されるため、精製が困難であることに気付き、抽出工程におけるpHについて調べた結果、最適なpH値が存在することを見出した。
【0027】
具体的な操作について記載する。反応終了後、pHを下げるために上記水の他に酸性物質を添加して二相に分離させることで、1−アラルキル−3−ピロリンを有機溶媒側に抽出することができる。その際に結晶が析出した場合、水の添加により溶解させても良く、濾過によって除去しても良い。この結晶は通常、前述の反応時に副生するアラルキルアミン塩酸塩の他、添加した酸性物質とアラルキルアミンの塩、例えば塩酸を添加した場合には塩酸塩等であり、これら塩は通常水に溶解して水相側に存在するが、飽和して析出してくる場合もあるため、その場合は濾過によって除去することが簡便である。
【0028】
ここで用いる酸性物質は、pHを低下させるために使用されるが、代表的な化合物として塩酸、硫酸などの鉱酸を挙げることができ、その使用量は抽出工程を実施するpHによって変化する。抽出系のpHが大きいほど1−アラルキル−3−ピロリンの収率が高くなるが、同時にアラルキルアミンの含量も高くなる。一方、抽出系のpHが小さいほどアラルキルアミンの含量も小さくなるものの、1−アラルキル−3−ピロリンの収率が低くなる。収率および純度の面から抽出工程において最適のpH値が存在し、原料アラルキルアミンの構造、特に、芳香環の数により変化する。つまり、芳香環とは置換、無置換のフェニル基、あるいはナフチル基であるが、一般式(1)
ArCHNH(1)
(式中Arは、低級アルキル基またはハロゲン基によって置換された、もしくは無置換のフェニル基あるいはナフチル基を示す。)で表されるように、芳香環が1個の場合、反応後、上記の操作による抽出、すなわちpHを低下させて分液することによって1−アラルキル−3−ピロリンを有機溶媒の溶液として取りだし、濃縮、蒸留によって高純度で単離することが可能となる。この場合、分液を行うpHは7〜8である。反応後、あるいは酸性物質添加後に結晶が析出する場合には濾過により結晶を除去した後に分液を行うことが操作性の点から好ましい。
【0029】
一方、一般式(3)
ArCHNH(3)
(式中Arは、低級アルキル基またはハロゲン基によって置換された、もしくは無置換のフェニル基あるいはナフチル基を示す。)で表されるように、芳香環が2個の場合、反応後にpHを低下させて分液するが、前述のとおりアラルキルアミンの塩が析出する場合がある。その場合、濾過により結晶を除去した後に、分液を行えば、操作性が良く好ましい。
【0030】
以後、有機溶媒を濃縮除去し、晶析により結晶として目的物を単離することができる。この場合、分液を行うpHは4〜5.5に調整する。
【0031】
分液操作は繰り返してもよく、有機溶媒層側への目的物の回収率を向上させるのに有効である。
【0032】
以上の方法に従えば、高純度1−アラルキル−3−ピロリン化合物を製造することが可能である。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0034】
ここでは、1−ベンジル−3−ピロリンおよび1−ベンズヒドリル−3−ピロリンの合成について具体的に説明する。
【0035】
1−ベンジル−3−ピロリンの分析は、以下の分析条件に従って、ガスクロマトグラフィー(GC)によって実施した。カラム:NEUTRABOND−1(0.25mm×60m)、温度130℃(10分保持)→270℃(10分保持);14℃/分昇温、注入口200℃、検出器200℃(FID)、注入圧250kPa。
【0036】
一方、1−ベンズヒドリル−3−ピロリンの分析は、特開2008−37810号公報実施例記載の分析法に従い、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって実施した。カラム:カプセルパックC18(SG120)、5μm、150mm×4.6mmφ、移動相:5.0mMドデシル硫酸ナトリウム水溶液(pH2.2)/アセトニトリル=65/35(20分保持)→50/50(10分保持);10分で組成変化、流量:1.0ml/分、温度30℃、検出器:UV(210nm)。
【0037】
参考例
原料シス−1,4−ジクロロ−2−ブテンの合成は、特開2008−37810号公報実施例記載の方法に従って実施した。トルエン330gとピリジン40gの混合液に、塩化チオニル315gを仕込み、シス−1,4−ブテンジオール110gを10℃以下で添加した。5℃で2時間反応後、50℃まで昇温し6時間熟成した。反応液を濃縮後、得られた液は二相分離したが、トルエン層を分離した。こうして得られたシス−1,4−ジクロロ−2−ブテンのトルエン溶液(濃度=30重量%)を、そのまま1−ベンジル−3−ピロリンの合成に用いた。
【0038】
実施例1
ベンジルアミン293g、水47g、トルエン176gの混合液に、48%水酸化ナトリウム水溶液によりpHを10〜12に調整しながら、シス−1,4−ジクロロ−2−ブテンのトルエン溶液363g(純分量110g)を滴下した。55〜60℃で熟成後、水580gを加え、さらに濃塩酸によりpHを7.5に調整した。トルエン層を分液により取り出した後、水層にトルエン117gを加えて再抽出し、先に取得したトルエン層と合わせた後、濃縮して粗体119gを得た(1−ベンジル−3−ピロリン純分量=98g)。得られた粗体50gを減圧下(270Pa)で単蒸留に使用し、1−ベンジル−3−ピロリン47gを得た。純度は97.3%であり、ベンジルアミンが1.0%、1−ベンジルピロールが1.1%であった。また、粗体50gを精留塔(ヘリパック、理論段数6段)の付いた蒸留装置で減圧下、蒸留し、1−ベンジル−3−ピロリン45gを得た。純度は98.8%であり、ベンジルアミンが0.6%、1−ベンジルピロールが0.5%であった。
【0039】
実施例2
抽出工程における1−ベンジル−3−ピロリンの回収率およびベンジルアミン除去率に注目した実験を行った。参考例で得たシス−1,4−ジクロロ−2−ブテンのトルエン溶液の使用量を11.5g(純分量3.5g)に換え、その他の全原料使用量を実施例1と同じ組成比になるように変更して、1−ベンジル−3−ピロリンの合成を行った。HPLC分析結果から、pH調整前のトルエン層における1−ベンジル−3−ピロリンピーク面積値のベンジルアミンピーク面積値に対する比(以後、ベンジルアミン/1−ベンジル−3−ピロリン面積比と記載)は1.60であった。水37gを加え、濃塩酸を添加し、pHを7.2に調整し、撹拌、静置後、分液してトルエン層を分析した。その結果、トルエン層には1−ベンジル−3−ピロリンが2.7g含まれており、ベンジルアミン/1−ベンジル−3−ピロリン面積比=0.035であった。水層についても同様に分析して1−ベンジル−3−ピロリンの量を求め、算出式:抽出率={トルエン層中の1−ベンジル−3−ピロリン重量/(トルエン層中の1−ベンジル−3−ピロリン重量+水層中の1−ベンジル−3−ピロリン重量)}×100(%)に従い、抽出率を算出した。1−ベンジル−3−ピロリン抽出率=77%、ベンジルアミン除去率=98%。
【0040】
実施例3
調整したpH値を7.5から7.2に変更する以外は、実施例2と同様の方法で抽出実験を実施した。トルエン層の分析結果から、ベンジルアミン/1−ベンジル−3−ピロリン面積比=0.020であった。1−ベンジル−3−ピロリン抽出率=73%、ベンジルアミン除去率=99%。
【0041】
実施例4
調整したpH値を7.5から7.0に変更する以外は、実施例2と同様の方法で抽出実験を実施した。トルエン層の分析結果から、ベンジルアミン/1−ベンジル−3−ピロリン面積比=0.020であった。1−ベンジル−3−ピロリン抽出率=58%、ベンジルアミン除去率=99%。
【0042】
実施例5
調整したpH値を7.5から7.8に変更する以外は、実施例2と同様の方法で抽出実験を実施した。トルエン層の分析結果から、ベンジルアミン/1−ベンジル−3−ピロリン面積比=0.064であった1−ベンジル−3−ピロリン抽出率=85%、ベンジルアミン除去率=97%。
【0043】
比較例1
調整したpH値を7.5から6.5に変更する以外は、実施例2と同様の方法で抽出実験を実施した。トルエン層の分析結果から、ベンジルアミン/1−ベンジル−3−ピロリン面積比=0.012であった。1−ベンジル−3−ピロリン抽出率=29%、ベンジルアミン除去率>99%。
【0044】
比較例2
調整したpH値を7.5から9.0に変更する以外は、実施例2と同様の方法で抽出実験を実施した。トルエン層の分析結果から、=0.33であった。1−ベンジル−3−ピロリン抽出率=90%、ベンジルアミン除去率=80%。
【0045】
実施例6
ベンズヒドリルアミン48g、水8g、トルエン15gの混合液に、参考例と同様の方法により合成したシス−1,4−ジクロロ−2−ブテンのトルエン溶液20g(純分量10.4g)を滴下した。次に、48%水酸化ナトリウム水溶液13gを添加して60℃で10時間撹拌した後、トルエン47gと水30gを加えた。こうして得た1−ベンズヒドリル−3−ピロリンは二相分離するが、トルエン層の1−ベンズヒドリル−3−ピロリンに対するベンズヒドリルアミンの重量比(以後、ベンズヒドリルアミン/1−ベンズヒドリル−3−ピロリン重量比と記載)は、2.10であった。濃塩酸を加えてpHを4.2とした後、析出した結晶を濾別後、分液によりトルエン層を取得した。トルエン層を分析した結果、1−ベンズヒドリル−3−ピロリン含量は2.3g、ベンズヒドリルアミン/1−ベンズヒドリル−3−ピロリン重量比=0.005であった。水層についても同様に分析を行い、実施例2と同様の算出式から抽出率を算出した。1−ベンズヒドリル−3−ピロリン抽出率=90%、ベンジルアミン除去率>99%。
【0046】
実施例7
調整したpH値を4.2から4.6に変更する以外は、実施例5と同様の方法で抽出実験を実施した。トルエン層の分析結果から、ベンズヒドリルアミン/1−ベンズヒドリル−3−ピロリン重量比は0.009であった。1−ベンジル−3−ピロリン抽出率=94%、ベンジルアミン除去率>99%。
【0047】
実施例8
調整したpH値を4.2から5.2に変更する以外は、実施例5と同様の方法で抽出実験を実施した。トルエン層の分析結果から、ベンズヒドリルアミン/1−ベンズヒドリル−3−ピロリン重量比は0.14であった。1−ベンジル−3−ピロリン抽出率=98%、ベンジルアミン除去率=93%。
【0048】
比較例3
調整したpH値を4.2から5.9に変更する以外は、実施例5と同様の方法で抽出実験を実施した。トルエン層の分析結果から、ベンズヒドリルアミン/1−ベンズヒドリル−3−ピロリン重量比は0.74であった1−ベンジル−3−ピロリン抽出率=99%、ベンジルアミン除去率=64%。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シス1,4−ジクロロ−2−ブテンと芳香環を1〜2個有するアラルキルアミンの反応液に、酸性物質を添加した後、分液によって未反応のアラルキルアミンを除去する工程を含む1−アラルキル−3−ピロリン化合物の製造法において、分液を行う際のpHを、芳香環を1個有するアラルキルアミンを用いる場合は7〜8とし、芳香環を2個有するアラルキルアミンの場合は4〜5.5とすることを特徴とする1−アラルキル−3−ピロリン化合物の製造法。
【請求項2】
芳香環を1個有するアラルキルアミンが、一般式(1)
ArCHNH(1)
(式中Arは、低級アルキル基またはハロゲン基によって置換された、もしくは無置換のフェニル基あるいはナフチル基を示す。)で表され、且つ、1−アラルキル−3−ピロリンが、一般式(2)
【化1】

(式中Arは、低級アルキル基またはハロゲン基によって置換された、もしくは無置換のフェニル基あるいはナフチル基を示す。)で表されることを特徴とする請求項1記載の1−アラルキル−3−ピロリン化合物の製造法。
【請求項3】
アラルキルアミンがベンジルアミンであることを特徴とする請求項1または2記載の1−アラルキル−3−ピロリン化合物の製造法。
【請求項4】
芳香環を2個有するアラルキルアミンが、一般式(3)
ArCHNH(3)
(式中Arは、低級アルキル基またはハロゲン基によって置換された、もしくは無置換のフェニル基あるいはナフチル基を示す。)で表され、且つ、1−アラルキル−3−ピロリンが、一般式(4)
【化2】

(式中Arは、低級アルキル基またはハロゲン基によって置換された、もしくは無置換のフェニル基あるいはナフチル基を示す。)で表されることを特徴とする請求項1記載の1−アラルキル−3−ピロリン化合物の製造法。
【請求項5】
アラルキルアミンがベンズヒドリルアミンであることを特徴とする請求項1または4記載の1−アラルキル−3−ピロリン化合物の製造法。
【請求項6】
酸性物質を添加した際に析出する結晶を濾過により除去した後、分液することを特徴とする請求項4または5記載の1−アラルキル−3−ピロリン化合物の製造法。

【公開番号】特開2010−150211(P2010−150211A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332104(P2008−332104)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年6月30日 エルゼビア社発行の「「Tetrahedron;Asymmetry」vol,19(2008)」に発表
【出願人】(000187046)東レ・ファインケミカル株式会社 (153)
【Fターム(参考)】