説明

1液型歯科用接着材

【課題】接着耐久性に優れる1液型歯科用接着材を提供する。
【解決手段】マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤である酸性基を有するアミノ化合物(A)、酸性基を有する重合性単量体(B)、酸性基を有しない重合性単量体(C)、水(D)、光重合開始剤(E)、及びフィラー(F)を含む1液型歯科用接着材とする。当該1液型歯科用接着材は、揮発性有機溶剤(G)、第三級アミンを任意に含む。マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤である酸性基を有するアミノ化合物(A)は、好ましくはアミノ酸である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着耐久性に優れ、1ステップ接着システムに使用可能な1液型歯科用接着材に関する。
【背景技術】
【0002】
齲蝕等により損傷した歯質(エナメル質、象牙質及びセメント質の総称である)の修復には、通常、充填用コンポジットレジン、充填用コンポマー等の充填修復材料や、金属合金、陶材、レジン材料等の歯冠修復材料などが用いられる。これら充填修復材料、歯冠修復材料などの歯科用修復材料は、通常、それ自体には歯質に対する接着性がないため、歯質と接着する際には、接着材を用いる様々な接着方法が採られている。
【0003】
歯質との接着は、通常、象牙質表面を酸性成分で溶かす脱灰工程、重合性単量体成分が象牙質のコラーゲンに浸透する浸透工程、及び浸透した重合性単量体成分が硬化してコラーゲンとのハイブリッド層(以下、「樹脂含浸層」と呼ぶことがある)を形成する硬化工程を含む。以前は、脱灰工程に酸エッチング剤を用い、浸透工程にプライマーを用い、硬化工程に接着材を用いる3液3ステップ接着システムが採用されていた。近年は、酸性基を有する重合性単量体と親水性重合性単量体とを含有するセルフエッチングプライマーによって脱灰工程と浸透工程を同時に行い、硬化工程に接着材を用いる2液2ステップ接着システムが汎用されている。さらに最近では、脱灰工程、浸透工程、及び硬化工程のすべてを行うことができる1液1ステップ型の歯科用接着材が実用化されている。1液1ステップ型の歯科用接着材は、基本的に、酸性基を有する重合性単量体を含む重合性単量体成分、光重合開始剤、及び水を含む(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0004】
歯科用修復材料は、一度装着した後は長期間に渡って強固に接着し、脱落が発生しないことが要求される。そのため、歯科用接着材は、その接着耐久性が高ければ高いほどよく、歯科用接着材には、より高い接着耐久性が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−254307号公報
【特許文献2】特開2008−24668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、接着耐久性に優れる1液型歯科用接着材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決した本発明は、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤である酸性基を有するアミノ化合物(A)、酸性基を有する重合性単量体(B)、酸性基を有しない重合性単量体(C)、水(D)、光重合開始剤(E)、及びフィラー(F)を含む1液型歯科用接着材である。
【0008】
本発明の歯科用接着材は、揮発性有機溶剤(G)をさらに含んでいてもよい。また、第三級アミン(H)をさらに含んでいてもよい。
【0009】
本発明において、酸性基を有するアミノ化合物(A)は、アミノ酸であることが好ましく、トラネキサム酸、及び/又はDL−チオルファンであることがより好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の1液型歯科用接着材によれば、高い接着耐久性が得られ、歯科治療後、歯科用修復材料の脱落を長期にわたって防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、本発明の歯科用接着材の各成分について説明する。
【0012】
マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤である酸性基を有するアミノ化合物(A)
歯科用接着材の接着耐久性を低下させる一因として、コラーゲン分解酵素であるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)が象牙質基質から放出され、MMPが接着界面における露出コラーゲン線維を分解し、その結果、長期的には接着構造体を崩壊させることが指摘されている。そこで本発明者らが鋭意検討した結果、MMP阻害剤である酸性基を有するアミノ化合物(A)を1液型歯科用接着材に配合することによって、接着界面におけるMMPによるコラーゲンの分解を抑制でき、その結果優れた接着耐久性が得られることを見出した。
【0013】
MMP阻害剤は、MMPのコラーゲン分解作用を抑えることができる化合物であり、本発明においては、MMP阻害剤の中でも、酸性基を有するアミノ化合物を用いる。アミノ基は、歯科用接着材の酸成分を安定化するとともに重合促進作用を有し、また酸性基は、象牙質の脱灰作用を有し、コラーゲンと相互作用するため、1液型歯科用接着材に用いる意義が大きい。
【0014】
酸性基を有するアミノ化合物(A)の酸性基としては、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、カルボン酸基等が挙げられる。これらのうち、歯質との相互作用、及びMMP阻害活性の観点からカルボン酸基が好ましい。従って、酸性基を有するアミノ化合物(A)は、アミノ酸であることが好ましい。
【0015】
本発明に用いられる酸性基を有するアミノ化合物(A)の例としては、トラネキサム酸、DL−チオルファン、アラニン、バリン、ロイシン、チロシン、スレオニン、システイン、アスパラギン酸、ホモセリン、シルトリン、ヒドロキシプロリン、p−アミノ安息香酸等が挙げられ、特に、トラネキサム酸、DL−チオルファンが好ましい。これらは単独で、または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0016】
酸性基を有するアミノ化合物(A)の配合量としては、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、0.5〜10重量部が好ましく、1〜5重量部がより好ましい。配合量が0.5重量部未満の場合、MMP阻害効果が十分に得られず、接着耐久性が低くなるおそれがある。一方、配合量が10重量部を超えると、酸性基を有するアミノ化合物の析出により初期接着強さが低下するおそれがある。なお、重合性単量体成分の全量とは、酸性基を有する重合性単量体(B)と酸性基を有しない重合性単量体(C)の合計量のことをいう。
【0017】
酸性基を有する重合性単量体(B)
酸性基を有する重合性単量体(B)は、象牙質表面を溶かす脱灰作用、象牙質のコラーゲンに浸透する浸透作用、及びコラーゲンとのハイブリッド層を形成する硬化作用を有するものである。酸性基を有する重合性単量体(B)が歯科用接着材に配合されることにより、1ステップ型の歯科用接着材として機能することができる。歯科用接着材における酸性基を有する重合性単量体(B)としては、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、カルボン酸基等の酸性基を少なくとも1個有し、且つアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、スチレン基等の重合性基を少なくとも1個有する重合性単量体が挙げられる。重合性の観点から、アクリロイル基又はメタクリロイル基を有する重合性単量体が好ましい。酸性基を有する重合性単量体(B)の具体例を下記する。下記において、(メタ)アクリルなる記載はメタクリルとアクリルとの総称である。
【0018】
リン酸基含有重合性単量体としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7−(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16−(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20−(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9−(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシ−(1−ヒドロキシメチル)エチル〕ハイドロジェンホスフェート及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等が例示される。
【0019】
ピロリン酸基含有重合性単量体としては、ピロリン酸ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕、ピロリン酸ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ビス〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ビス〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等が例示される。
【0020】
チオリン酸基含有重合性単量体としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンチオホスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンチオホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンチオホスフェート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンチオホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンチオホスフェート、7−(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンチオホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンチオホスフェート、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンチオホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンチオホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンチオホスフェート、16−(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンチオホスフェート、20−(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンチオホスフェート及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等が例示される。
【0021】
ホスホン酸基含有重合性単量体としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチル−3−ホスホノプロピオネート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル−3−ホスホノプロピオネート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシル−3−ホスホノプロピオネート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル−3−ホスホノアセテート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシル−3−ホスホノアセテート及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等が例示される。
【0022】
スルホン酸基含有重合性単量体としては、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレート等が例示される。
【0023】
カルボン酸基含有重合性単量体としては、分子内に1つのカルボキシル基を有する重合性単量体と、分子内に複数のカルボキシル基を有する重合性単量体とが挙げられる。
【0024】
分子内に1つのカルボキシル基を有する重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸、N−(メタ)アクリロイルグリシン、N−(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、O−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルフェニルアラニン、N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−o−アミノ安息香酸、p−ビニル安息香酸、2−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、N−(メタ)アクリロイル−4−アミノサリチル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレート及びこれらの酸ハロゲン化物等が例示される。
【0025】
分子内に複数のカルボキシル基を有する重合性単量体としては、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキサン−1,1−ジカルボン酸、9−(メタ)アクリロイルオキシノナン−1,1−ジカルボン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシデカン−1,1−ジカルボン酸、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデカン−1,1−ジカルボン酸、12−(メタ)アクリロイルオキシドデカン−1,1−ジカルボン酸、13−(メタ)アクリロイルオキシトリデカン−1,1−ジカルボン酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテートアンハイドライド、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリテート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−3’−(メタ)アクリロイルオキシ−2’−(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピルサクシネート及びこれらの酸無水物又は酸ハロゲン化物等が例示される。
【0026】
上記の酸性基を有する重合性単量体は、一種類単独を用いてもよく、複数種類を併用してもよい。上記の酸性基を有する重合性単量体の中でも、歯科用接着材として用いた場合に接着強さが大きい点で、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピル−2−ジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテートアンハイドライド、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデカン−1,1−ジカルボン酸が特に好ましい。
【0027】
酸性基を有する重合性単量体の配合量は、歯科用接着材における重合性単量体成分の全量100重量部中において、1〜50重量部であることが好ましく、3〜40重量部であることがより好ましく、5〜30重量部であることがさらに好ましい。酸性基を有する重合性単量体の配合量が1重量部以上であると、良好な接着強さが得られ、また、酸性基を有する重合性単量体の配合量が50重量部以下であると、歯科用接着材の重合性が適度であり接着強さも良好に保たれる。
【0028】
酸性基を有しない重合性単量体(C)
酸性基を有しない重合性単量体(C)としては、重合性基を有するラジカル重合性単量体が好ましく、ラジカル重合が容易である観点から、重合性基は(メタ)アクリル基及び/又は(メタ)アクリルアミド基が好ましい。本発明の歯科用接着材は口腔内で用いられるが、口腔内は湿潤な環境であり、加水分解などにより重合性基が脱離するおそれがあるため、脱離した重合性基の生体への刺激性を考慮すると、重合性基は、メタクリル基及び/又はメタクリルアミド基であることが好ましい。酸性基を有しない重合性単量体(C)は、歯科用接着材の塗布性、機械的強度、及び接着性の向上に寄与する。
【0029】
酸性基を有しない重合性単量体(C)として、下記の親水性重合性単量体(C−1)及び疎水性重合性単量体(C−2)が挙げられる。
【0030】
親水性重合性単量体(C−1)とは、25℃における水に対する溶解度が10重量%以上のものを意味する。同溶解度が30重量%以上のものが好ましく、25℃において任意の割合で水に溶解可能なものがより好ましい。親水性重合性単量体(C−1)は、歯科用接着材の成分の歯質への浸透を促進するとともに、自らも歯質に浸透して歯質中の有機成分(コラーゲン)に接着する。親水性重合性単量体(C−1)としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−トリメチルアンモニウムエチル(メタ)アクリルクロライド、ポリエチレングルコールジ(メタ)アクリレート(オキシエチレン基の数が9以上のもの)等が例示される。
【0031】
疎水性重合性単量体(C−2)としては、25℃における水に対する溶解度が10重量%未満の架橋性の重合性単量体が挙げられ、芳香族化合物系の二官能性重合性単量体、脂肪族化合物系の二官能性重合性単量体、三官能性以上の重合性単量体などが例示される。疎水性重合性単量体(C−2)は、歯科用接着材の機械的強度、取り扱い性などを向上させる。
【0032】
芳香族化合物系の二官能性重合性単量体の例としては、2,2−ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス〔4−(3−(メタ)アクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン(通称「Bis−GMA」)、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン、1,4−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ピロメリテート等が挙げられる。これらの中でも、2,2−ビス〔4−(3−(メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパンが好ましい。
【0033】
脂肪族化合物系の二官能性重合性単量体の例としては、エリスリトールジ(メタ)アクリレート、ソルビトールジ(メタ)アクリレート、マンニトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称「UDMA」)、1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)エタン等が挙げられる。これらの中でも、グリセロールジメタクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート及び1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)エタンが好ましい。
【0034】
三官能性以上の重合性単量体の例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、N,N−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール〕テトラメタクリレート、1,7−ジアクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラアクリロイルオキシメチル−4−オキシヘプタン等が挙げられる。
【0035】
上記の酸性基を有しない重合性単量体(C)(親水性重合性単量体(C−1)及び疎水性重合性単量体(C−2))は、いずれも1種単独を配合してもよく、複数種類を組み合わせて配合してもよい。歯科用接着材に親水性重合性単量体(C−1)を用いる場合は、歯質への浸透性と接着耐久性をバランス良く得る観点から、歯科用接着材における重合性単量体成分の全量100重量部中において、50〜99重量部の範囲が好ましく、60〜97重量部の範囲がより好ましく、70〜95重量部の範囲が最も好ましい。歯科用接着材に疎水性重合性単量体(C−2)が含まれる場合には、該疎水性重合性単量体(C−2)と水(e)との相分離が起こるおそれがあるため、親水性重合性単量体(C−1)を併用することが好ましい。この場合、親水性重合性単量体(C−1)の配合量は、歯科用接着材における重合性単量体成分の全量100重量部中において、10〜90重量部の範囲が好ましく、15〜80重量部の範囲がより好ましく、20〜70重量部の範囲が最も好ましい。また、疎水性重合性単量体(C−2)の配合量は、歯科用接着材における重合性単量体成分の全量100重量部中において、9〜90重量部であることが好ましく、15〜80重量部であることがより好ましく、20〜70重量部であることがさらに好ましい。
【0036】
水(D)
水(D)は、歯科用接着材の接着性及び接着耐久性を向上させる成分である。水(D)としては、悪影響を及ぼすような不純物を含有していないことが好ましく、蒸留水又はイオン交換水が好ましい。
【0037】
水(D)の配合量としては、重合性単量体成分100重量部に対し、6〜200重量部が好ましい。水(D)の配合量が6重量部未満の場合、コラーゲン層へのモノマーの浸透性が不十分となり、接着強度が低下する。水(D)の配合量は、7重量部以上であることが好ましく、8重量部以上であることがより好ましく、10重量部以上であることがさらに好ましい。一方、水(D)の配合量が200重量部を超える場合、モノマーの重合性が低下し、接着強度が低下するとともに接着耐久性が低下する。そのため、水(D)の配合量は、200重量部以下であり、150重量部以下であることが好ましい。
【0038】
光重合開始剤(E)
本発明に用いられる光重合開始剤(E)は、一般工業界で使用されている光重合開始剤から選択して使用でき、中でも歯科用途に用いられている光重合開始剤が好ましく用いられる。光重合開始剤は、単独で又は2種以上適宜組み合わせて使用される。
【0039】
光重合開始剤(E)の例としては、(ビス)アシルホスフィンオキサイド類、水溶性アシルホスフィンオキサイド類、チオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩、ケタール類、α−ジケトン類、クマリン類、アントラキノン類、ベンゾインアルキルエーテル化合物類、α−アミノケトン系化合物などが挙げられる。
【0040】
(ビス)アシルホスフィンオキサイド類のうち、アシルホスフィンオキサイド類としては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイルジ−(2,6−ジメチルフェニル)ホスホネートなどが挙げられる。ビスアシルホスフィンオキサイド類としては、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−プロピルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−1−ナフチルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、(2,5,6−トリメチルベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイドなどが挙げられる。
【0041】
水溶性アシルホスフィンオキサイド類は、アシルホスフィンオキサイド分子内にアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ピリジニウムイオン又はアンモニウムイオンを有することが好ましい。例えば、水溶性アシルホスフィンオキサイド類は、欧州特許第0009348号明細書又は特開昭57−197289号公報に開示されている方法により合成することができる。
【0042】
上記水溶性アシルホスフィンオキサイド類の具体例としては、モノメチルアセチルホスホネート・ナトリウム、モノメチル(1−オキソプロピル)ホスホネート・ナトリウム、モノメチルベンゾイルホスホネート・ナトリウム、モノメチル(1−オキソブチル)ホスホネート・ナトリウム、モノメチル(2−メチル−1−オキソプロピル)ホスホネート・ナトリウム、アセチルホスホネート・ナトリウム、モノメチルアセチルホスホネート・ナトリウム、アセチルメチルホスホネート・ナトリウム、メチル4−(ヒドロキシメトキシホスフィニル)−4−オキソブタノエート・ナトリウム塩、メチル−4−オキソフォスフォノブタノエート・モノナトリウ厶塩、アセチルフェニールホスフィネート・ナトリウム塩、(1−オキソプロピル)ペンチルホスフィネート・ナトリウム、メチル−4−(ヒドロキシペンチルホスフィニル)−4−オキソブタノエート・ナトリウム塩、アセチルペンチルホスフィネート・ナトリウム、アセチルエチルホスフィネート・ナトリウム、メチル(1,1−ジメチル)メチルホスフィネート・ナトリウム、(1,1−ジエトキシエチル)メチルホスフィネート・ナトリウム、(1,1−ジエトキシエチル)メチルホスフィネート・ナトリウム、メチル−4−(ヒドロキシメチルホスフィニル)−4−オキソブタノエート・リチウム塩、4−(ヒドロキシメチルホスフィニル)−4−オキソブタノイックアシッド・ジリチウム塩、メチル(2−メチル−1,3−ジオキソラン−2−イル)ホスフィネート・ナトリウム塩、メチル(2−メチル−1,3−チアゾリディン−2−イル)フォスフォナイト・ナトリウム塩、(2−メチルパーヒドロ−1,3−ディアジン−2−イル)フォスフォナイト・ナトリウム塩、アセチルホスフィネート・ナトリウム塩、(1,1−ジエトキシエチル)フォスフォナイト・ナトリウム塩、(1,1−ジエトキシエチル)メチルフォスフォナイト・ナトリウム塩、メチル(2−メチルオキサチオラン−2−イル)ホスフィネート・ナトリウム塩、メチル(2,4,5−トリメチル−1,3−ジオキソラン−2−イル)ホスフィネート・ナトリウム塩、メチル(1,1−プロポキシエチル)ホスフィネート・ナトリウム塩、(1−メトキシビニル)メチルホスフィネート・ナトリウム塩、(1−エチルチオビニル)メチルホスフィネート・ナトリウム塩、メチル(2−メチルパーヒドロ−1,3−ジアジン−2−イル)ホスフィネート・ナトリウム塩、メチル(2−メチルパーヒドロ−1,3−チアジン−2−イル)ホスフィネート・ナトリウム塩、メチル(2−メチル−1,3−ジアゾリジン−2−イル)ホスフィネート・ナトリウム塩、メチル(2−メチル−1,3−チアゾリジン−2−イル)ホスフィネート・ナトリウム塩、(2,2−ジシアノ−1−メチルエチニル)ホスフィネート・ナトリウム塩、アセチルメチルホスフィネートオキシム・ナトリウ厶塩、アセチルメチルホスフィネート−O−ベンジルオキシム・ナトリウム塩、1−[(N−エトキシイミノ)エチル]メチルホスフィネート・ナトリウム塩、メチル(1−フェニルイミノエチル)ホスフィネート・ナトリウム塩、メチル(1−フェニルヒドラゾンエチル)ホスフィネート・ナトリウム塩、[1−(2,4−ジニトロフェニルヒドラゾノ)エチル]メチルホスフィネート・ナトリウム塩、アセチルメチルホスフィネートセミカルバゾン・ナトリウム塩、(1−シアノ−1−ヒドロキシエチル)メチルホスフィネート・ナトリウム塩、(ジメトキシメチル)メチルホスフィネート・ナトリウム塩、フォーミルメチルホスフィネート・ナトリウム塩、(1,1−ジメトキシプロピル)メチルホスフィネート・ナトリウム塩、メチル(1−オキソプロピル)ホスフィネート・ナトリウム塩、(1,1−ジメトキシプロピル)メチルホスフィネート・ドデシルグアニジン塩、(1,1−ジメトキシプロピル)メチルホスフィネート・イソプロピルアミン塩、アセチルメチルホスフィネートチオセミカルバゾン・ナトリウム塩、1,3,5−トリブチル−4−メチルアミノ−1,2,4−トリアゾリウム(1,1−ジメトキシエチル)−メチルホスフィネート、1−ブチル−4−ブチルアミノメチルアミノ−3,5−ジプロピル−1,2,4−トリアゾリウム(1,1−ジメトキシエチル)−メチルホスフィネート、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイドナトリウム塩、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイドカリウム塩、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイドのアンモニウム塩などが挙げられる。さらに、特開2000−159621号公報に記載されている化合物も挙げられる。
【0043】
これら(ビス)アシルホスフィンオキサイド類及び水溶性アシルホスフィンオキサイド類の中でも、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド及び2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイドナトリウム塩が特に好ましい。
【0044】
チオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩としては、例えば、チオキサントン、2−クロルチオキサンセン−9−オン、2−ヒドロキシ−3−(9−オキシ−9H−チオキサンテン−4−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−プロパンアミニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(1−メチル−9−オキシ−9H−チオキサンテン−4−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−プロパンアミニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(9−オキソ−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−プロパンアミニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(3,4−ジメチル−9−オキソ−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(3,4−ジメチル−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(1,3,4−トリメチル−9−オキソ−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウムクロライドなどが使用できる。
【0045】
これらチオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩の中でも、特に好適なチオキサントン類は、2−クロルチオキサンセン−9−オンであり、特に好適なチオキサントン類の第4級アンモニウ厶塩は、2−ヒドロキシ−3−(3,4−ジメチル−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウムクロライドである。
【0046】
ケタール類の例としては、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール等が挙げられる。
【0047】
α−ジケトン類としては、例えば、ジアセチル、ジベンジル、カンファーキノン、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、9,10−フェナンスレンキノン、4,4’−オキシベンジル、アセナフテンキノン等が挙げられる。この中でも、可視光域に極大吸収波長を有している観点から、カンファーキノンが特に好ましい。
【0048】
クマリン化合物の例としては、3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン、3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−チェノイルクマリン、3−ベンゾイル−5,7−ジメトキシクマリン、3−ベンゾイル−7−メトキシクマリン、3−ベンゾイル−6−メトキシクマリン、3−ベンゾイル−8−メトキシクマリン、3−ベンゾイルクマリン、7−メトキシ−3−(p−ニトロベンゾイル)クマリン、3−(p−ニトロベンゾイル)クマリン、3,5−カルボニルビス(7−メトキシクマリン)、3−ベンゾイル−6−ブロモクマリン、3,3’−カルボニルビスクマリン、3−ベンゾイル−7−ジメチルアミノクマリン、3−ベンゾイルベンゾ[f]クマリン、3−カルボキシクマリン、3−カルボキシ−7−メトキシクマリン、3−エトキシカルボニル−6−メトキシクマリン、3−エトキシカルボニル−8−メトキシクマリン、3−アセチルベンゾ[f]クマリン、7−メトキシ−3−(p−ニトロベンゾイル)クマリン、3−(p−ニトロベンゾイル)クマリン、、3−ベンゾイル−6−ニトロクマリン、3−ベンゾイル−7−ジエチルアミノクマリン、7−ジメチルアミノ−3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、7−ジエチルアミノ−3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、7−ジエチルアミノ−3−(4−ジエチルアミノ)クマリン、7−メトキシ−3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−(4−ニトロベンゾイル)ベンゾ[f]クマリン、3−(4−エトキシシンナモイル)−7−メトキシクマリン、3−(4−ジメチルアミノシンナモイル)クマリン、3−(4−ジフェニルアミノシンナモイル)クマリン、3−[(3−ジメチルベンゾチアゾール−2−イリデン)アセチル]クマリン、3−[(1−メチルナフト[1,2−d]チアゾール−2−イリデン)アセチル]クマリン、3,3’−カルボニルビス(6−メトキシクマリン)、3,3’−カルボニルビス(7−アセトキシクマリン)、3,3’−カルボニルビス(7−ジメチルアミノクマリン)、3−(2−ベンゾチアゾイル)−7−(ジエチルアミノ)クマリン、3−(2−ベンゾチアゾイル)−7−(ジブチルアミノ)クマリン、3−(2−ベンゾイミダゾイル)−7−(ジエチルアミノ)クマリン、3−(2−ベンゾチアゾイル)−7−(ジオクチルアミノ)クマリン、3−アセチル−7−(ジメチルアミノ)クマリン、3,3’−カルボニルビス(7−ジブチルアミノクマリン)、3,3’−カルボニル−7−ジエチルアミノクマリン−7’−ビス(ブトキシエチル)アミノクマリン、10−[3−[4−(ジメチルアミノ)フェニル]−1−オキソ−2−プロペニル]−2,3,6,7−1,1,7,7−テトラメチル1H,5H,11H−[1]ベンゾピラノ[6,7,8−ij]キノリジン−11−オン、10−(2−ベンゾチアゾイル)−2,3,6、7−テトラヒドロ−1,1,7,7−テトラメチル1H,5H,11H−[1]ベンゾピラノ[6,7,8−ij]キノリジン−11−オン等の特開平9−3109号公報、特開平10−245525号公報に記載されている化合物が挙げられる。
【0049】
上述のクマリン化合物の中でも、特に、3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノクマリン)及び3,3’−カルボニルビス(7−ジブチルアミノクマリン)が好適である。
【0050】
アントラキノン類の例としては、アントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−クロロアントラキノン、1−ブロモアントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、1−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、1−ヒドロキシアントラキノンなどが挙げられる。
【0051】
ベンゾインアルキルエーテル類の例としては、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどが挙げられる。
【0052】
α−アミノケトン類の例としては、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン等が挙げられる。
【0053】
これらの光重合開始剤(E)の中でも、(ビス)アシルホスフィンオキサイド類及びその塩、α−ジケトン類、及びクマリン化合物からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これにより、可視及び近紫外領域での光硬化性に優れ、ハロゲンランプ、発光ダイオード(LED)、キセノンランプのいずれの光源を用いても十分な光硬化性を示す歯科用接着材が得られる。
【0054】
本発明に用いられる光重合開始剤(E)の配合量は特に限定されないが、得られる接着材の硬化性等の観点からは、重合性単量体成分の全量100重量部に対して、光重合開始剤(E)が0.001〜30重量部含有されることが好ましい。光重合開始剤(E)の配合量が0.001重量部未満の場合、重合が十分に進行せず、接着力の低下を招くおそれがあり、より好適には0.05重量部以上、さらに好適には0.1重量部以上である。一方、光重合開始剤(E)の配合量が30重量部を超える場合、重合開始剤自体の重合性能が低い場合には、十分な接着強さが得られなくなるおそれがあり、さらには接着材からの析出を招くおそれがあるため、より好適には20重量部以下、さらに好適には15重量部以下、最も好適には10重量部以下である。
【0055】
本発明においては、光重合開始剤(E)に化学重合開始剤を併用してもよい。化学重合開始剤としては、例えば、ケトンパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシケタール、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート等の有機過酸化物が挙げられる。
【0056】
フィラー(F)
本発明の歯科用接着材には、接着力、塗布性、流動性、X線不透過性、機械的強度等を向上させるために、さらにフィラーを配合してもよい。フィラーは、1種単独を配合してもよく、複数種類を組み合わせて配合してもよい。フィラーとしては、無機系フィラー、有機系フィラー、及び無機系フィラーと有機系フィラーとの複合体フィラーが挙げられる。
【0057】
無機系フィラーとしては、シリカ;カオリン、クレー、雲母、マイカ等のシリカを基材とする鉱物;シリカを基材とし、Al23、B23、TiO2、ZrO2、BaO、La23、SrO、ZnO、CaO、P25、Li2O、Na2Oなどを含有する、セラミックス及びガラス類が例示される。ガラス類としては、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ソーダガラス、リチウムボロシリケートガラス、亜鉛ガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、バイオガラスが好適に用いられる。結晶石英、ヒドロキシアパタイト、アルミナ、酸化チタン、酸化イットリウム、ジルコニア、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化イッテルビウムも好適に用いられる。
【0058】
有機系フィラーとしては、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、多官能メタクリレートの重合体、ポリアミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴムが例示される。
【0059】
無機系フィラーと有機系フィラーとの複合体フィラーとしては、有機系フィラーに無機系フィラーを分散させたもの、無機系フィラーを種々の重合体にてコーティングした無機/有機複合フィラーが例示される。
【0060】
硬化性、機械的強度、塗布性を向上させるために、フィラーをシランカップリング剤等の公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。表面処理剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシランが例示される。
【0061】
フィラー(F)としては、接着力、塗布性の点で、一次粒子径が0.001〜0.1μmの微粒子シリカが好ましく使用される。市販品としては、「アエロジルOX50」、「アエロジル50」、「アエロジル200」、「アエロジル380」、「アエロジルR972」、「アエロジル130」(以上、いずれも日本アエロジル社製、商品名)が挙げられる。
【0062】
フィラー(F)の配合量は、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、1〜30重量部が好ましく、3〜20重量部がより好ましい。配合量が1重量部未満の場合、接着強さが低くなるおそれがある。一方、配合量が30重量部を超えると、組成物の粘度が増加し、塗布性が低下するおそれがある。
【0063】
揮発性有機溶剤(G)
本発明の歯科用接着材は、揮発性有機溶剤(G)を含むことが好ましい。揮発性有機溶剤(G)は、単独で又は2種以上適宜組み合わせて使用することができる。揮発性有機溶剤(G)とは、常圧下における沸点が150℃以下であり、25℃で液体である有機溶剤のことをいい、具体例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ヘキサン、トルエン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。これらの中でも、生体に対する安全性と、揮発性に基づく除去の容易さの双方を勘案した場合、揮発性有機溶剤(G)が水溶性有機溶媒であることが好ましく、具体的には、エタノール、2−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール、アセトン、及びテトラヒドロフランが好ましく用いられる。
【0064】
揮発性有機溶剤(G)の配合量は特に限定されず、重合性単量体成分の全量100重量部に対して、0〜250重量部が好ましく、15〜50重量部がより好ましい。配合量が250重量部を超えると、初期接着強さが低下するおそれがある。
【0065】
第三級アミン(H)
本発明の歯科用接着材は、硬化性の観点から、第三級アミン(H)を含むことが好ましい。第三級アミン(H)は、重合促進剤として機能する。第三級アミン(H)は、脂肪族であっても芳香族であってもよい。
【0066】
第三級脂肪族アミンの例としては、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−ラウリルジエタノールアミン、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N−メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N−エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレート、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等が挙げられる。
【0067】
第三級芳香族アミンの例としては、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−エチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−4−エチルアニリン、N,N−ジメチル−4−イソプロピルアニリン、N,N−ジメチル−4−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチル−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸メチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸2−(メタクリロイルオキシ)エチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノン、4−ジメチルアミノ安息香酸ブチル等が挙げられる。
【0068】
第三級アミン(H)の配合量は特に限定されないが、得られる接着材の硬化性等の観点からは、重合性単量体成分の全量100重量部に対して、第三級アミン(H)を0.001〜30重量部含有してなることが好ましい。第三級アミン(H)の配合量が0.001重量部未満の場合、重合が十分に進行せず、接着力の低下を招くおそれがあり、より好適には0.05重量部以上、さらに好適には0.1重量部以上である。一方、第三級アミン(H)の配合量が30重量部を超える場合、重合開始剤自体の重合性能が低い場合には、十分な接着強度が得られなくなるおそれがあり、さらには接着材からの析出を招くおそれがあるため、より好適には20重量部以下、さらに好適には15重量部以下、最も好適には10重量部以下である。
【0069】
この他、本発明の歯科用接着材には、本発明の効果を阻害しない範囲でpH調整剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、増粘剤、着色剤、抗菌剤、香料等を配合してもよい。
【0070】
本発明の1液型歯科用接着材は、各成分を公知方法に準じて混合することにより、調製することができる。本発明の1液型歯科用接着材は、歯質と歯科用修復材料との接着に好適に用いることができ、1ステップ型の歯科用接着材として好適に用いることができる。本発明の1液型歯科用接着材によれば、良好な接着強さが得られ、さらに、MMPの接着界面における露出コラーゲン線維の分解を抑制することができ、高い接着耐久性が得られ、歯科治療後、歯科用修復材料の脱落を長期にわたって防止できる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0072】
(1)1液型歯科用接着材の作製
実施例及び比較例の1液型歯科用接着材を、表1及び2に記載の各成分を混合することにより作製した。その組成を表1及び2に示す。
【0073】
(2)接着耐久性試験
実施例及び比較例の1液型歯科用接着材の接着耐久性を下記の手順にて評価した。口腔内で起こるMMPによるコラーゲン線維の分解は、長期間を経て起こるものである。従って、まず、通常の接着力(初期接着強さ)を蒸留水に浸漬したサンプルにて評価し、接着耐久性を、加速試験としてMMPを含む緩衝溶液に浸漬したサンプルにて評価した。
【0074】
〔接着力試験方法〕
牛の前歯を#1000シリコン・カーバイド紙(日本研紙社製)で平滑に湿潤研磨して象牙質表面を露出させた後、表面の水を歯科用エアーシリンジを用いて吹き飛ばす。露出した象牙質表面に、直径3mmの丸穴を有する厚さ約150μmの粘着テープを貼着する。丸穴に歯科用接着材(非貯蔵品)を筆を用いて塗布し、20秒間放置した後、歯科用エアーシリンジを用いて当該歯科用接着材の流動性が無くなるまで乾燥する。次いで、歯科用光照射器(モリタ社製、商品名「JETLITE3000」)を用いて10秒間光照射を行う。次いで、その歯科用接着材の上に光重合型コンポジットレジン(クラレ社製、商品名「クリアフィルAP−X」)を載置し、離型フィルム(クラレ社製、商品名「エバール」)を被せた後、その離型フィルムの上にスライドガラスを載置して押しつけ、歯科用光照射器「JETLITE3000」を用いて20秒間光照射して、硬化させる。次いで、この硬化面に対して、歯科用レジンセメント(クラレ社製、商品名「パナビア21」)を用いて、直径5mm、長さ1.5cmのステンレス製の円柱棒の一方の端面(円形断面)を接着し、30分間静置して、試験片とする。試験片は、全部で16個作製する。次いで、試験片の半量をサンプル容器内の蒸留水に、もう半量をサンプル容器内の0.1%のTypeIコラーゲナーゼ(シグマ社製)pH7.4リン酸緩衝溶液に浸漬した状態で、37℃に設定した恒温器内に24時間放置した後、取り出して、接着強度を測定する。接着強度(引張接着強度)の測定には万能試験機(インストロン社製)を用い、クロスヘッドスピードを2mm/分に設定して測定する。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
接着強さの単位はMPaであり、表中の略号は、以下の通りである。
MDP:10−メタクリロリルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
Phosmer:2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート
GPDM:1,3−ジメタクリロイルオキシプロピル−2−ジハイドロジェンホスフェート
4META:4−メタクリロイルオキシエチルトリメリテートアンハイドライド
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
Bis−GMA:2,2−ビス〔4−(3−メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン
UDMA:2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート
TPO: 2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド
CQ:カンファーキノン
R972:シリカ(日本アエロジル社製、商品名「アエロジルR972」)
PDE:4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル
DEPT:N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン
TTA:トリエタノールアミン
【0078】
実施例の歯科用接着材は、比較例の歯科用接着材に比べ、MMPを含む緩衝溶液に浸漬後の接着強さが高い。従って、MMP阻害剤である酸性基を有するアミノ化合物(A)を歯科用接着材に配合することによって優れた接着耐久性が得られることがわかる。特に、接着耐久性はMMPが活性を示す条件下で評価されていることから、接着耐久性の向上は、MMPによるコラーゲンの分解を抑制できたことによるものであるといえる。従って、本発明の歯科用接着材は、口腔内において優れた接着耐久性を示すといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤である酸性基を有するアミノ化合物(A)、酸性基を有する重合性単量体(B)、酸性基を有しない重合性単量体(C)、水(D)、光重合開始剤(E)、及びフィラー(F)を含む1液型歯科用接着材。
【請求項2】
揮発性有機溶剤(G)をさらに含む請求項1に記載の1液型歯科用接着材。
【請求項3】
第三級アミン(H)をさらに含む請求項1又は2に記載の1液型歯科用接着材。
【請求項4】
前記酸性基を有するアミノ化合物(A)が、アミノ酸である請求項1〜3のいずれか1項に記載の1液型歯科用接着材。
【請求項5】
前記酸性基を有するアミノ化合物(A)が、トラネキサム酸、及び/又はDL−チオルファンである請求項1〜4のいずれか1項に記載の1液型歯科用接着材。

【公開番号】特開2011−126830(P2011−126830A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288114(P2009−288114)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(301069384)クラレメディカル株式会社 (110)
【Fターム(参考)】