説明

1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを含む含フッ素化合物の製造方法

【課題】1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa)を含む有用性の高い含フッ素化合物を、簡便かつ効率的に製造できる方法を提供する。
【解決手段】触媒の存在下に、液相中において、3,3,3-トリフルオロプロピンを無水フッ化水素と反応させることを特徴とする、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパンを含む含フッ素化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパンを含む含フッ素化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学式:CF3CH2CHF2で表される1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa)は、発泡剤として有用な含フッ素化合物であり、さらに、噴射剤、冷媒、洗浄剤などとしての有用性も注目されている。
【0003】
1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa)の製造方法としては、例えば、化学式:CCl3CH2CHCl2で表される1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240fa)を液相中において、フッ化水素と反応させてフッ素化する方法が知られている(下記特許文献1参照)。
【0004】
また、特許文献1には、触媒の存在下に、1-クロロ-1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロパン(HCFC-235fa)の水素化脱塩素反応によって、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa)とする方法も開示されている。
【0005】
しかしながら、これらの方法については、大量に発生する副生成物である塩酸の除外に費用がかかることや、脱塩素化反応のとき副生成物が生じて分離が困難となるという問題がある。
【0006】
また、化学式:CF3CF=CH2(HFC-1234yf)で表される2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、化学式:CF3CH=CHF(HFC-1234ze)で表される1,3,3,3-テトラフルオロプロペン等の含フッ素プロペン化合物も、代替フロンとして使用可能な冷媒として注目されている有用な化合物である。これらの内で、HFC-1234yfの製造方法としては、例えばCF3CF2CH2X(XはCl又はI)で表される化合物をエタノール中で亜鉛(Zn)と反応させて一段階で製造する方法が下記非特許文献1に記載されている。しかしながら、亜鉛は高価であり、しかも多量の廃棄物が生じるという問題があるため、この方法は工業的規模の製造方法としては好ましくない。
【0007】
その他、HFC-1234yfの製造方法としては、テトラフルオロプロパン酸クロロメチルとアミンを反応させる方法(特許文献2)、1-トリフロオロメチル-1,2,2-トリフルオロシクロブタンの熱分解による方法(特許文献3)、クロロトリフルオロエチレン(CClF=CF2)とフッ化メチル(CH3F)をSbF5に代表されるルイス酸存在下で反応させる方法(特許文献4)、テトラフルオロエチレン(CF2=CF2)とクロロメタン(CH3Cl)の熱分解による方法(特許文献5)等が報告されている。更に、下記非特許文献2及び3にもHFC-1234yfの製造方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、これらの方法については、原料の製造が難しく入手が困難であることや、反応条件が過酷であること、反応試薬が高価であること、収率が低いことなどの問題点があり、工業的に有効な製法とは言い難い。
【0009】
一方、HFC-1234zeの製造方法としては、CF3CH2CHF2(HFC-245fa)を脱HFさせる方法(特許文献6〜9等参照)、CF3CHFCH2F(HFC-245eb)を脱HFさせる方法(特許文献10〜11参照)、CF3CH=CHCl(HCFC-1233zd)をフッ素化する方法(特許文献12)などが知られているが、これらの方法も原料の製造が困難で入手が困難であることや、収率が低く、工程が多段階に及ぶことなどの問題点があり、工業的な製法としては改善が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6291730号
【特許文献2】特開昭63−211245号公報
【特許文献3】米国特許第3996299号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2006/258891号明細書
【特許文献5】米国特許第2931840号明細書
【特許文献6】US 2005/0245773 A1
【特許文献7】US 2008/051611 A1
【特許文献8】EP 2000/974571 A2
【特許文献9】JP 11140002 A
【特許文献10】WO 2008/002499 A2
【特許文献11】WO 2008/002500 A1
【特許文献12】JP 2007/320896 A
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】J. Chem. Soc., 1957, 2193-2197
【非特許文献2】J. Chem. Soc., 1970, 3, 414-421
【非特許文献3】J. Fluorine Chem., 1997, 82, 171-174
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa)を含む有用性の高い含フッ素化合物を、簡便かつ効率的に製造できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は上記した目的を達成すべき鋭意研究を重ねてきた。その結果,化学式:CF3C≡CHで表される3,3,3-トリフルオロプロピンを原料として用い、触媒の存在下において、液相中で無水フッ化水素と反応させる方法によれば、簡単な反応方法によって、高い反応効率でフッ化水素の付加反応が進行して、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa)を得ることができ、さらに、同時に、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン(HFC-245cb)等の含フッ素アルカン化合物や、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFC-1234yf)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFC-1234ze)等の含フッ素アルケン化合物等の有用性の高い含フッ素化合物を製造できることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、下記の1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパンを含む含フッ素化合物の製造方法を提供するものである。
1. 触媒の存在下に、液相中において、3,3,3-トリフルオロプロピンを無水フッ化水素と反応させることを特徴とする、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパンを含む含フッ素化合物の製造方法。
2. 液体状態の無水フッ化水素を溶媒として反応を行う上記項1に記載の方法。
3. 触媒がハロゲン化アンチモン化合物、ハロゲン化ニオブ化合物及びハロゲン化タンタル化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物である上記項1又は2に記載の方法。
4. 反応生成物が、更に、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及び1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含むものである上記項1〜3のいずれかに記載の方法。
【0015】
本発明では、原料としては、化学式:CF3C≡CHで表される3,3,3-トリフルオロプロピンとフッ化水素(HF)を用いる。3,3,3-トリフルオロプロピンは、容易に入手可能な公知物質であり、例えば、J. Chem. Soc. 1951, pp2495-504、J. American Chem. Soc. 1951, 73, pp1042-3、J. Chem. Soc. 1952, pp3483-90、米国特許106318号等に記載されている方法によって容易に得ることができる。
【0016】
本発明の方法では、上記した化学式:CF3C≡CHで表される3,3,3-トリフルオロプロピンを原料として用い、触媒の存在下に、液相中で無水フッ化水素と反応させる。これにより、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa)を含む有用性の高い含フッ素化合物を、簡便かつ効率的に製造できる。
【0017】
触媒については、特に限定的ではないが、特に、ハロゲン化アンチモン化合物、ハロゲン化ニオブ化合物、及びハロゲン化タンタル化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物を用いることが好ましい。ハロゲン化アンチモン化合物としては、SbF、SbCl5、SbF、SbCl3、SbFM(Mは、Na、K又はCsである)等を例示できる。ハロゲン化ニオブ化合物としては、NbCl5、NbF5、NbCl4、NbF等を例示でき、その他、NbCl12、Nb12等のハロゲン化ニオブクラスターも用いることができる。ハロゲン化タンタル化合物としては、TaCl5、TaF5、TaCl4、TaF等を例示でき、その他、TaCl12、Ta12等のハロゲン化タンタルクラスターも用いることができる。
【0018】
触媒の使用量は、3,3,3-トリフルオロプロピン1モルに対して、0.01〜2モル程度とすることが好ましく、0.05〜1.5モル程度とすることがより好ましい。
【0019】
本発明の製造方法では、無水フッ化水素を液体として用い、無水フッ化水素を溶媒として、この中に3,3,3-トリフルオロプロピンと触媒を溶解して反応を進行させることができる。無水フッ化水素の使用量は、3,3,3-トリフルオロプロピン1モルに対して2〜100モル程度とすることが好ましく、10〜50モル程度とすることがより好ましい。
【0020】
反応温度は、通常-20〜150℃程度とすることが好ましく、0〜80℃程度とすることがより好ましい。
【0021】
反応時の圧力については、特に限定的ではなく、反応温度において無水フッ化水素が液体として存在できればよい。従って、無水フッ化水素の沸点を超える温度で反応を行う場合には、無水フッ化水素が液体状となる加圧下で反応を行えばよい。
【0022】
反応時間は、通常、0.5時間〜100時間程度とすればよく、1時間〜50時間程度とすることが好ましい。
【0023】
上記した方法で反応を行うことによって、高い反応効率でフッ化水素の付加反応が進行して、化学式:CF3CH2CHF2で表される1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa)を含む含フッ素化合物を得ることができる。更に、反応生成物には、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン(HFC-245cb)等の含フッ素アルカン化合物や、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFC-1234yf)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFC-1234ze)等の含フッ素アルケン化合物が含まれる。これらの反応生成物は、いずれも発泡剤、噴射剤、冷媒、洗浄剤などの各種用途に有用な化合物である。
【0024】
本発明の製造方法では、反応温度を高くすることや、反応時間を長くすることによって、フッ化水素の付加反応が進行して、含フッ素アルケン化合物の選択率が高くなる傾向がある。よって、反応温度、反応時間などを適宜選択することによって、各成分の選択率を容易に調整できる。
【0025】
上記した方法で得られた1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパンを含む含フッ素化合物は、分留、蒸留、分液、吸着、抽出蒸留等の方法によって、分離・精製して回収することができる。
【0026】
生成物の内で、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa)、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン(HFC-245cb)等の含フッ素アルカン化合物は、公知の方法に従って脱フッ化水素反応を行うことによって、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFC-1234yf)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFC-1234ze)等の含フッ素アルケン化合物に変換することができる。
【0027】
例えば、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン(HFC-245cb)を2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFC-1234yf)に変換するためには、例えば、US2007/0197841 A1に記載されている方法に従って、気相中において、好ましくは、活性炭、ニッケルメッシュ触媒、炭素又はアルミナに担持されたパラジウム触媒などの存在下に、200〜800℃程度の温度で常圧、減圧又は加圧下において、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパンの脱フッ化水素反応を行えばよい。
【0028】
また、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa)を1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFC-1234ze)に変換するには、例えば、US2008/0051611 A1、EP2000/974571 A2等に記載されている方法に従って、気相中において、フッ素化金属酸化物触媒、金属ハロゲン化物、遷移金属などを、そのまま又は担体に担持させたものを触媒として、100〜600℃程度の温度で常圧、減圧又は加圧下において、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパンの脱フッ化水素反応を行えばよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明の方法によれば、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa)を含む有用性の高い含フッ素化合物を、簡単な製造方法によって、効率良く製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0031】
実施例1
100mlオートクレーブ中に五フッ化アンチモン11g(50mmol)を仕込み、真空にして−3℃に冷却しながら無水フッ酸32g(1.6mol)を仕込んだ。3,3,3−トリフルオロプロピン4g(40mmol)を加え室温に戻して24時間攪拌した。この時内部の圧力(ゲージ圧)は4kgf/cmであった。反応終了後のガスクロマトグラフィー分析ではプロピンの転化率は99.2%であり、生成物の選択率は、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa)88%、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン(HFC-245cb)4.2%、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFC-1234ze)1.6%、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFC-1234yf)1.3%であった。
【0032】
実施例2
実施例1と同様に100mlオートクレーブ中に五塩化アンチモン3.6g(12mmol)を仕込み、真空にして−3℃に冷却しながら無水フッ酸32g(1.6mol)を仕込んだ。3,3,3−トリフルオロプロピン4g(40mmol)を加え室温に戻して24時間攪拌した。この時内部の圧力(ゲージ圧)は5kgf/cmであった。反応終了後のガスクロマトグラフィー分析ではプロピンの転化率は98.2%であり、生成物の選択率は、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa)85%、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン(HFC-245cb)3.3%、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFC-1234ze)2.8%、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFC-1234yf)3.2%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒の存在下に、液相中において、3,3,3-トリフルオロプロピンを無水フッ化水素と反応させることを特徴とする、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパンを含む含フッ素化合物の製造方法。
【請求項2】
液体状態の無水フッ化水素を溶媒として反応を行う請求項1に記載の方法。
【請求項3】
触媒がハロゲン化アンチモン化合物、ハロゲン化ニオブ化合物及びハロゲン化タンタル化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
反応生成物が、更に、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及び1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含むものである請求項1〜3のいずれかに記載の方法。


【公開番号】特開2010−215622(P2010−215622A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51288(P2010−51288)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】