説明

1,3,2−ジオキサボリナン化合物の製造方法

一般式(I):
【化1】


(式中、各々のRは、それぞれH及びC1-6−アルキル基からなる群から選ばれる)
で表される1,3,2−ジオキサボリナン化合物の製造方法であって、
溶媒を使用せずに、一般式(II):
【化2】


で表されるジオールをジボランと反応させることを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,3,2−ジオキサボリナン化合物の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬物用途では、ピナコールボランを用いる芳香族ハロゲン化物の直接ホウ素化が広く使われるようになってきている。低コストのジオールが、例えば2−メチル−2,4−ペンタンジオールや2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールが使用できれば、直接ホウ素化の用途を、農薬プロセスにまで広げることとなるであろう。医薬農薬分野では活性試薬の製造のために、ジオールの低コストのボラン誘導体に対するニーズが存在している。
【0003】
4,4,6−トリメチル−1,3,2−ジオキサボリナン(HexB)の合成は、初めてウッズ等により報告されたもので(Woods,W.G.;Strong,P.L,J. Am.Chem.Soc.1966年,88,4667;US 3,383,401及びUS 3,064,032)、水素化ホウ素ナトリウムと相当する2−クロロ−4,4,6−トリメチル−1,3,2−ジオキサボリナンを用いるHexBの製造方法である。また、ジエチルエーテル中でのジボランからの低収率でのHexBの合成も報告されている。
【0004】
村田等(Murata,M.;Takeshi,O.;Watanabe,S.;Masuda,Y.Synthesis,2007年,3,351)は、最近、ジメチルスルフィドボラン(DMSB)とヘキシレングリコールからの4,4,6−トリメチル−1,3,2−ジオキサボリナンの合成を報告している。この合成では、微量のジメチルスルフィド(DMS)を含み強い悪臭を伴うHexBが生成する。
【0005】
一方、Chavant等(Praveen Ganesh,N.:d’Hondt,S.; Yves Chavant P.)は、ジグライム中でiodine/NaBH4からジボランを発生させ、それをヘキシレングリコールのトルエンまたはジクロロメタン溶液と反応させる方法を報告している(J.Org.Chem.2007年,72,4510−4514参照)。
【0006】
RU−A−2265023はピナコールボランの製造方法に関する。通常、溶媒としてのジエチルエーテルの存在下で、5〜36℃の範囲の温度でピナコールをジボランと反応させて、4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン(ピナコールボラン)が得られている。ピナコールとジボランは、1:0.45〜0.55の範囲のモル比で使用されている。
【0007】
HexBは市販の試薬であり、他の試薬に対して次の利点を有している:
−製造時に形成される安定化化合物のため、他のボラン試薬と比べて安定性が高い
−安定化化合物の存在下では、55℃6週間のDOT試験中に圧力増がない。
−分解なしに出荷が可能
−十分に安定化されれば、冷蔵出荷が不要となる。
−安定剤として作用する製造時の副産物以外に、安定剤または添加物を必要としない。
−製造プロセスの最適化によっては蒸留が不必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】US 3,383,401
【特許文献2】US 3,064,032
【特許文献3】RU−A−2265023
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Woods,W.G.;Strong,P.L,J.Am.Chem. Soc.1966年,88,4667
【非特許文献2】Murata,M.;Takeshi,O.;Watanabe,S.; Masuda,Y.Synthesis,2007年,3,351
【非特許文献3】Praveen Ganesh,N.:d’Hondt,S.; Yves Chavant P.
【非特許文献4】J.Org.Chem.2007年,72,4510−4514
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、微量のジメチルスルフィド(DMS)を含まず、異臭がなく、安定剤または添加剤を加える必要なく保存中安定である1,3,2−ジオキサボリナン化合物の新しい製造方法を提供することである。また、本方法で得られるHexBは、好ましくは、手間のかかる後処理や精製の必要のない純度レベルとなっている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本目的は、一般式(I):
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、各々のRは、それぞれ、H及びC1-6−アルキル基からなる群から選ばれる)
で表される1,3,2−ジオキサボリナン化合物の製造方法であって、
溶媒を使用せずに、一般式(II):
【0014】
【化2】

で表されるジオールを、ジボランと反応させることを特徴とする方法により達成される。
【0015】
このR基は、相互に同一であっても異なっていてもよい。本発明のある実施様態によれば、溶媒としてジメチルエーテルが選ばれる。
【0016】
本発明によれば、溶媒を使用しなくても、特にジボランをジオールに添加するか、両方を同時及び/又は連続的に反応器に供給することにより、一般式(II)のジオールをジボランと反応させることができることが明らかとなった。本発明者等は、溶媒を使用しない上記の方法によりほんの安定量のB(OR)3を含むHexBが得られ、このため蒸留が必要でなくなることを見出した。通常、B(OR)3含量が、0であるか、0.01〜10質量%である製品が得られる。本発明の方法により、DMSや溶媒、過剰量のボレートを含まないHexBが得られる。この製品は、安定化の程度にもよるが、55℃の保管で6週間安定である。したがって製品安定化のためのDMSのような添加物が不要となる。
【0017】
本発明により、DMSを含まないホウ素化剤の製造と使用が可能となる。DMSB系のジオキサボリナンの合成には、常にボラン錯体が必要であり、生成物は多くの場合DMSを含んでいる。本発明による製品は、実質的または完全に無溶媒であり、溶媒またはDMS副生成物の除去の必要がない。
【0018】
本発明により、一般式B(OR’)3の化合物が、1,3,2−ジオキサボリナン化合物を、特に以下の化合物を安定化させることが明らかとなった。
【0019】
したがって、本発明はまた、1,3,2−ジオキサボリナン化合物を一般式(III)の化合物またはそのオリゴマーと接触させる工程からなる1,3,2−ジオキサボリナン化合物の安定化方法を提供する:
【0020】
【化3】

【0021】
(式中、R’は、独立してOH、C1-12−アルキル、C2-12−ヒドロキシアルキルであるか、
二つのR’が、一緒になって、好ましくは0.01〜10質量%の量で、C3-24−アルキレン基を形成し、ホウ素に結合した酸素を連結している)。
【0022】
一般式(III)の化合物を、製造後の最終の1,3,2−ジオキサボリナン化合物に添加することもできる。好ましくは、一般式(III)の化合物は、上記1,3,2−ジオキサボリナン化合物の製造プロセスで形成される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の方法は、好ましくは式(I)の1,3,2−ジオキサボリナン化合物であって、式中、
酸素に隣接する炭素原子上の2〜4個のR基が、独立して、C1-3−アルキル、特にC1-2−アルキル、具体的にはメチルであり、他のR基が水素であるものを与える。
【0024】
より好ましくは、一般式(I)の化合物が4,4,6−トリメチル−1,3,2−ジオキサボリナンである。
【0025】
本発明の方法は、広い範囲の温度で実施可能である。好ましくは、本方法が、−30〜120℃の範囲の温度で、特に−10〜50℃、好ましくは−5〜30℃の範囲の温度で実施される。
【0026】
本反応は、広い範囲の圧力で実施可能である。好ましくは、圧力は0.001〜1.2MPa(0.01〜12bar)の範囲であり、より好ましくは0.05〜1MPa(0.5〜10bar)、特に0.07〜0.7MPa(0.7〜7bar)、好ましくは0.14〜0.36MPa(1.4〜3.6bar)の範囲である。
【0027】
ジボランと一般式(II)のジオールとは、広い範囲の比率で使用可能である。通常、ジボランの量は、ジオール量に対して少なくとも等モルである。本発明のある好ましい実施様態によれば、ジオールに対して1〜50モル%過剰の、特に5〜30モル%過剰のジボランが使用され、初期反応の後、反応混合物が少なくとも室温にまで暖められる。この結果、ジホウ素化物B2Hex3とHexBの平衡となり、低いB(OR)3含量の製品が生成する。ジボランは高価な化合物であるため、所望の安定化B(OR)3含量をもつHexBを得るためには、ジボランの過剰をできる限り低く押さえる必要がある。最適プロセスは、5モル%以下のジボラン過剰で実施される。
【0028】
本発明の方法で得られる製品を、直接的にホウ素化剤として使用することができ、この場合、蒸留などのさらなる精製が不必要となる。必要なら蒸留を行うこともできる。過剰のジボランを使用する方法の場合は、得られる製品から、超過のジボランを不活性ガスでスパージング(sparging)して、特に窒素またはアルゴンでスパージングして除くことが好ましい。
【0029】
本発明の方法は、連続的に実施してもよいし、バッチ式に実施してもよい。本方法をバッチ法で行い、ジボランをジオールに添加することが好ましい。
【0030】
本発明の方法においては、好ましくは安定化可能量の一般式(III):
【0031】
【化4】

【0032】
(式中、R’は独立してOH、C1-12−アルキル、C2-12−ヒドロキシアルキル、または2個のR’が一緒となってC6-24−アルキレン基を表し、R’は、好ましくはC1-6−アルキル、C2-6−ヒドロキシアルキル、または2個のR’が一緒となってC5-18−アルキル基を表す)で表される化合物またはそのオリゴマーが形成される。
【0033】
一般式(III)の化合物中のR’基は、一般式(II)のジオールに由来することが好ましい。この場合、一般式(III)の化合物は、B(Hex)3またはB2(Hex)3、あるいはこれらのより長いオリゴマーBn(Hex)mである。nとmは、それぞれ1、2、3などである。
【0034】
本発明により、一般式(III)の化合物が一般式(I)の1,3,2−ジオキサボリナン化合物の安定化を助けることが明らかとなった。本方法の実施中または実施後に、一般式(III)の化合物を添加してもよいし、本方法の実施中に、反応系内の反応物からこれらが生成してもよい。反応の終了後、安定化可能量の式(III)の化合物を製品から取り出す必要がなく、これらを製品の安定化に用いることができる。好ましくは、この安定化可能量は、1,3,2−ジオキサボリナン化合物が、好ましくは4,4,6−トリメチル−1,3,2−ジオキサボリナン(HexB)が、運輸省の試験(DOT試験)を満足させるレベルの量である。一般式(III)の化合物を含むと、この1,3,2−ジオキサボリナン化合物は、この基準を満足させる。これら化合物の純度は、好ましくは90〜99.9%の範囲であり、より好ましくは97〜99%の範囲である。一般式(III)の化合物の安定化効果を示すために、B2(Hex)3を合成してHexB組成物に添加した。本化合物が安定化効果を示すことが明らかとなった。
【0035】
また、本発明により、アミンが安定化効果を持つことが明らかとなった。したがって、本発明のある実施様態においては、反応の終了後、一般式(I)の化合物の安定化のために、少なくとも一種のアミンを添加することができる。好ましくはこのアミンがトリアルキルアミンであり、最も好ましくはトリエチルアミンである。特にトリエチルアミンは、きわめて大きな安定化効果を有し、DOT試験に合格するのに、0.1〜1質量%の低レベルで、より好ましくは0.3〜0.7質量%の低レベルで十分である。
【0036】
このアミンは製造プロセスの末期に添加することが好ましく、一般式(III)の化合物は、本プロセス中で添加または形成することができる。
【0037】
本発明の方法は、半回分供給方式で行うことが好ましい。本方法においては、一般式(II)のジオールがジボランとともに同時に反応器に供給される。ジボランを同時にヘキシレングリコールまたは一般式(II)のジオールに加えることで、ジボラン供給の中断や製造中断などの場合の製品の分解を避けることができる。ジオールが存在する限り、ジボランを反応器中に存在させる必要がある。したがって、二種の反応物の同時供給は、通常のバッチ法に比べると、はるかに優れた方法である。したがって、本方法は、好ましくは半回分供給方式で実施される。
【0038】
他の好ましい実施様態においては、本プロセスの初期に一般式(I)の化合物の一定量が反応器中の底留材料として存在して、ヒートシンクとして作用し、反応混合物の攪拌を可能とする。したがって、まず一定量の底留材料を反応器で生産するか導入する。次いで、反応器へのジボランとジオールの同時供給を開始する。反応終了後に、反応器を空とし、製品を後工程で使用または後工程に導入してもよい。
【0039】
この半回分供給方式では、完成後の製品が分解することなく所望純度の一般式(I)の化合物が得られ、ほんの少量の一般式(III)の化合物が形成される。その量は反応性生物を安定化するのに十分な量である。この同時供給方式は、ジオールに先立って例えば20%のジボランを供給することで、純度低下なしに本方法をいずれの時間ででも停止することができるという長所を有している。最も好ましいプロセスは、底留材料(最小量)を用い、次いで同時供給方式する半回分供給方法である。
【0040】
製造終了後に、一般式(I)の化合物を蒸留により精製してもよい。蒸留には薄膜蒸発器を使用することが好ましく、これは高温下での滞留時間が非常に短いためである。
【0041】
溶媒としてのジメチルエーテルの存在下で本発明のプロセスを実施することもできる。しかしながら、本方法実施後に溶媒を除去する必要があるため、本方法は好ましくはない。
【0042】
必要なら、製品の安定化のためにアミンを製品に加えることもできる。アミンの添加量は、一般式(I)の化合物に対して0.0001〜5質量%の範囲であることが好ましい。
【0043】
本発明により得られる製品は、DMSを添加しなくても保存中安定である。この保存安定性は、5℃で6週間測定する。
【0044】
本発明で得られる製品は、できる限り少量のB(OR)3を含んでいることが好ましい。B(OR)3の含量は、0〜15モル%であってよく、しばしば0.5〜4モル%で、特に0.5〜3モル%である。この製品は、エーテル溶剤、脂肪族および芳香族炭化水素、塩素系溶媒、エステルなどの溶媒不純物を含まず、ジメチルスルフィドやアミン、ニトリル、カルボン酸などの不純物を含んでいない。しかしながら、アミンを安定剤として添加してもよい。
【0045】
当業者には明らかなように、本明細書に記載の本発明には、ここに記載のもの以外に変化や変更が可能である。このような変化や変更も、本発明に含まれる。また、本発明には、本明細書中で、個別にあるいは集合的に述べられ示された工程や形態、化合物、組成物のすべてが含まれ、またこれらの工程や形態のいずれか2つ以上の組み合わせも含まれる。
【0046】
好ましい実施様態を参照しながら本発明を説明したが、本発明がこれらの実施様態に限定されるわけではない。本発明は、添付の請求項により制限される。
【0047】
以下の実施例を参照しながら本発明を説明する。
【実施例】
【0048】
(実施例1)
本方法は、A)最少量のヘキシレングリコールボランを底留材料として生産する工程と、B)多量の製品を同時供給方式で生産する工程の二工程からなる
工程A:20〜50psi(0.139〜0.345MPa(1.39〜3.45bar))の背圧と0〜20℃の温度で、ジボランをヘキシレングリコール中に中断することなく半回分的に供給して、底留材料としてヘキシレングリコールボランを製造する。ジボランの供給が終了すると、最小量の底留材料が存在して、続く同時供給方式でのヒートシンクとなり、反応器中での攪拌を保証する最小量の液体レベルとなる。過去の製造ロットのヘキシレングリコールボランを反応器に供給して、直ちに工程Bを続けることにより、この底留形成工程を除くことができる(好ましい操作)。
【0049】
工程B:本工程は、ガス状のジボランとヘキシレングリコールとを同時に添加する連続供給方式(同時供給)により行われる。高純度の最終製品を保証するためにジボランを過剰に添加する。本プロセスの設定の効率によっては、0〜20%のジボラン超過が必要となることもある。ジボランの非過剰が好ましい。
【0050】
高純度の製品を保証するためには、供給終了後に、低温で1時間、15〜30℃で1時間の熟成が推奨される。不活性ガスでスパージングしてスクラバー系に排気することで、過剰のジボランを除去することができる。本製品はドラムまたは保存タンクに排出可能である。
【0051】
(実施例2)
2−メチル−2,4−ペンタンジオール(118.2g、1.00モル)を浸漬チューブと熱電対とを備え、ジボラン供給システム(背圧30psig)につながった反応器(1L)に供給した。このジオールを0℃にまで冷却し、ジボラン(33.19g、1.20モル、1.2当量)を、温度を0〜5℃になるようにジボラン流速が10g/hで添加した。3.5時間後、ジボラン供給が完了した時点で、温度をさらに2時間0℃に維持し、その後混合物を室温まで暖め、室温で2時間攪拌した。背圧を除き、反応器に窒素をパージして(0.75時間)、過剰のジボランを除いた。この反応器の内容物を、窒素置換した乾燥円筒中に移した。この製品を分析した。11B−NMRでは、この製品の純度が97.7%であった。
【0052】
(実施例3)
a)73.53gのHexB(反応後の95%純度のHexB)を35℃/12torrで蒸留して、57g(99.8%)の純粋な製品と、16.46g(22.1%)の粗生成物(ホウ酸塩等を含有する物質)を得た。
b)第二の蒸留はより大きな500gスケールで行った。最高ポット温度は85〜90℃であり、製品回収率は79%(11B−NMR純度は100%)で21%の製品ロスであった。
【0053】
(実施例4)
実施例2の半回分法を、0.5molスケールで、20%過剰のジボランを用いて25〜30℃で繰り返したところ、97.4%純度のヘキシレングリコールボランを得た。
【0054】
(実施例5)
実施例2の半回分法を、2molスケールで、5%過剰のジボランを用いて、供給時間4時間で、0℃で繰り返したところ、97.5%純度のヘキシレングリコールボランを得た。
【0055】
(実施例6)
半回分法を、3.5molスケールで、20%過剰のジボランを用いて、供給時間14時間で、10℃で繰り返したところ、96.5%純度のヘキシレングリコールボランを得た。
【0056】
(実施例7)
ジボランをヘキシレングリコールに半回分方式で供給してHexBを製造し、256.2g(2.00モル)のHexB(97.5%純度)を底留材料として得た。Meanwhile、ヘキシレングリコール236.2g(2.00モル)を反応器に加えられるヘキシレングリコールの量が追跡可能な、校正フィッシャーポーター瓶に供給した。このフィッシャーポーター瓶は、反応器中に挿入された管に連結されていた。この反応器の圧力は、40psig−N2に調整されていた。次いで、ジボランをこの系内に供給した。理論量のジボラン(1当量の“BH3”)を添加して連続的なジボラン供給を終了させた後、直ちにヘキシレングリコール供給を開始し、ジボラン供給を継続して、さらに2モルのヘキシレングリコール(256.2g)を添加し(反応器中で合計4モルのヘキシレングリコール)、総量のジボラン(68g、4.92mol、1.22当量)を添加した。温度は15℃未満に維持した。2モルのヘキシレングリコールとジボランの添加後(したがって、合計で4modes)、ジボラン供給を22%過剰となるまで継続した。室温に暖めながら2時間攪拌を継続し、さらに2時間室温で攪拌した。背圧を除き、過剰のジボランを窒素でスパージングした(0.75時間)。反応器内容物を、乾燥した窒素置換した円筒中に移した。
【0057】
11B−NMRによると、得られた材料の純度は97.5%(2.5%がボレート)であった。
【0058】
(実施例8)
ヘキシレングリコールボランのバッチの終了後、HexBを安定化するためにトリエチルアミン(TEA)をこのバッチに添加した。HexB中に1wt%のトリエチルアミンを得るために、ヘキシレングリコールボラン(512.4g、2モル)を、5.12のトリエチルアミンとともに、反応器中に入れ、室温で30分間攪拌した。最終製品は円筒中に排出した。
【0059】
(実施例9:ジメチルエーテル中への半回分的なジボランの供給)
ヘキシレングリコール(238.8g、2.02モル)をガラス圧力反応器中に供給し、0℃に冷却した。239gのジメチルエーテル(DME)を反応器に供給すると、圧力が40psigに上昇した。この混合物を攪拌したところ均一な混合物となった。温度は0℃で安定していた。ジボラン(32g、2.31モル、1.14当量)を、温度が12.1℃に上がるのを許しながら、3.25時間かけて反応器に供給した。供給終了後、冷却を停止して、3.25時間以内で反応器内容物を室温にまで暖め。揮発性のジメチルエーテルのすべてを除くために、反応器を換気した。反応混合物を3時間窒素パージした。最終製品の11B−NMR分析の結果、純度が95.9%のヘキシレングリコールボランであった。
【0060】
(実施例10)
HexBと安定剤の混合物の分解開始温度と分解エネルギーを、DSC(示差走査熱量分析)を用いて測定した。試料中のボレート含量と開始温度との間に明確な相関が見られた。B(OR’)3型化合物を添加すると、分解開始温度が上昇し、混合物がより高度な熱安定性を示すことがわかった。
【0061】
【表1】

【0062】
混合物の開始温度とB(OR’)3型化合物の含量との間には相関がある。B(OR’)3型化合物の量が増えると、開始温度が上昇する。上部温度検出限界は350℃である。実施例8では、分解開始ピークが検出できなかった。
【0063】
2.3質量%B2Hex3でのDOT試験では、15日後の圧力が50psi(0.35MPa)であった。B2Hex3をそれぞれ1質量%、2.3質量%、5質量%含む試料は、DOT試験に合格し、1質量%のDMSまたは0.1質量%のTEAを含む試料は合格しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
【化1】

(式中、各々のRは、それぞれH及びC1-6−アルキル基からなる群から選ばれる)
で表される1,3,2−ジオキサボリナン化合物の製造方法であって、
溶媒を使用せずに、一般式(II):
【化2】

で表されるジオールをジボランと反応させることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
一般式(I)の化合物中において、酸素に隣接する炭素原子上の2〜4個のRが、独立してC1-3−アルキル基であり、他のRが水素である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
一般式(I)の化合物が、4,4,6−トリメチル−1,3,2−ジオキサボリナンである請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
−40〜50℃の範囲の温度で行われる請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
0.05〜1MPa(0.5〜10bar)の範囲の圧力で行われる請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
ジオールに対して1〜50mol−%過剰のジボランが使用され、且つ
反応混合物が初期反応の後、少なくとも室温に加温される請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
得られる製品から過剰のジボランが、不活性ガスでスパージングすることにより除かれる請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
ジボランが中断なく反応器中に添加されるか、ジボランが半回分方式または連続供給方式でヘキシレングリコールボランに添加される請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
安定化可能量の一般式(III):
【化3】

(式中、R’は独立してOH、C1-12−アルキル、C2-12−ヒドロキシアルキル、または2個のR’が一緒となってC3-24−アルキレン基を表す)
で表される化合物またはそのオリゴマーが、製造工程途中で生産されるか、または製造工程途中または終了時に添加される請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
一般式(III)の化合物中において、R’が一般式(II)のジオールに由来する請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
反応終了後、少なくとも一種のアミン、好ましくはトリアルキルアミンが、一般式(I)の化合物の安定化のために添加される請求項1〜10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
ジボラン及び一般式(II)のジオールを同時に反応器に供給して行われる請求項1〜11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
一般式(I)の化合物の一定量が、製造工程初期に反応器内の底留材料として存在し、ヒートシンクとして作用し、且つ反応混合物の攪拌を可能にしている請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
一般式(I)の化合物が、蒸留により、好ましくは薄膜蒸発器内での蒸留により精製される請求項1〜13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
一般式(I):
【化4】

(式中、各々のRは、それぞれHとC1-6−アルキル基とからなる群から選ばれる)
で表される1,3,2−ジオキサボリナン化合物の製造方法であって、
一般式(II):
【化5】

で表されるジオールをジボランと反応させ、且つ該反応を溶媒としてのジメチルエーテルの存在下で行うことを特徴とする製造方法。
【請求項16】
1,3,2−ジオキサボリナン化合物を安定化する方法であって、1,3,2−ジオキサボリナン化合物を一般式(III):
【化6】

(式中、R’は、独立してOH、C1-12−アルキル、C2-12−ヒドロキシアルキルであるか、二つのR’が一緒になってC3-24−アルキレン基を形成している)
で表される化合物またはそのオリゴマーに接触させる工程を含むことを特徴とする方法。

【公表番号】特表2011−528330(P2011−528330A)
【公表日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517926(P2011−517926)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際出願番号】PCT/EP2009/059140
【国際公開番号】WO2010/007121
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】