説明

10,10’−置換−9,9’−ビアクリジン誘導体及びシグナル溶液の調製

【課題】他の分子と複合することのできる発光性10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン分子を提供する。
【解決手段】10,10'置換位置に他の分子と複合できる、例えば、10,10'-パラトルイル酸-9,9'-ビアクリジン等のビアクリジン誘導体。この分子は、化学発光シグナルを発生するのに有効な濃度のキレート剤、スルホキシド、還元糖、1種の酸化体又は酸化体類の組み合わせ、アルコール及び四ホウ酸ナトリウム水溶液を含有するシグナル溶液の存在下で、化学発光による光の発生を触媒する。この10,10'-置換-9,9'-ビアクリジンは、単独で、もしくはハプテン又は巨大分子に結合して使用され、かつ化学発光の、均一系又は不均一系のアッセイの調製において、標識として使用される。更にこれらは、他の化学発光標識分子と共に使用され、多数の被検体の化学発光アッセイをもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の10,10'-置換-9,9'-ビアクリジニウム誘導体類の合成、これらの新規分子から光を発生するための新規の化学溶液類の調製、並びに発光性の反応及びアッセイにおけるこれらの新規分子の使用に関する。更に詳細に述べると、本発明は、10,10'-パラ-トルイル酸-9,9'-ビアクリジンのN-ヒドロキシスクシンイミド誘導体の合成、並びにこの新規分子が抗体のような別の分子と共有結合(複合(conjugate))する能力、及びこの結合した化学発光性標識分子から測定可能な光を発生する能力について説明している。更に本発明は、化学アッセイ、核酸アッセイ及びイムノアッセイにおいて有用な、高率の光子放出を生じるための、四ホウ酸ナトリウム水溶液を溶媒とし、少なくとも1種の酸化体、スルホキシド、キレート剤、還元糖及びアルコールを含有する、発光シグナル溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な媒質中の物質の存在又は濃度の追跡に関して、光エネルギーの測定が、非常に魅力的な方法になってきている。多くの生物ルミネセンス及び化学ルミネセンスの反応系が、考案されている(Schroenderらの論文、Methods in Enzymology、17:24-462(1978);Zeigler,M.M.及びT.O.Baldwinの論文、Current Topics In Bioenergetics,D.Rao Sanadi編、(Academic Press社)、頁65-113(1981);DeLuca,M.の論文、Non-Radiometric Assays,Technology and Application in Polypeptide and Steroid Hormone Detection(Alan R.Ls社)頁47-60及び61-77(1988);DeJong,G.J.及びP.J.M.Kwakmanの論文、J.of Chromatography、492:319-343(1989);McCapra,F.らの論文、J.Biolumin.Chemilumin.、4:51-58(1989);Diamandis,E.P.の論文、Clin.Biochem.、23:437-443(1990);Gillevet,P.M.の論文、Nature、348:657-658(1990);Kricka,L.J.の論文、Amer.Clin Lab.,Nov/Dec:30-32(1990))。
【0003】
発光とは、光励起又は化学反応を含む、いずれかの手段による光の発生である。化学発光(ルミネセンス)とは、化学反応のみによる光の放出である。これは更に、電子的に励起した化学反応生成物が基底状態へ回帰する時の光の放出と定義することができる(Woodhead,J.S.らの論文、Complementary Immunoassays、W.P.Collins編、(John Wiley & Sons社)、頁181-191(1988))。化学発光性反応は、酵素介在型反応及び非酵素的反応に分けることができる。発光反応物であるルミノールが、中性からアルカリ性の条件(pH7.0-10.2)において、酸化還元酵素(ホースラディッシュペルオキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ)、H2O2、特定の無機金属イオンの触媒又は分子(鉄、マンガン、銅、亜鉛)、及びキレート剤の存在下で、酸化されること、並びにこの酸化が、基底状態まで崩壊する際に光を放出するような励起した中間体(3-アミノフタール酸)の生成をもたらすことは、かなり長い間公知である(Schroeder,H.R.らの論文、Anal.Chem.、48:1933-1937(1976);Simpson,J.S.A.らの論文、Nature、279:646-647(1979);Baret,A.の特許、米国特許第4,933,276号)。
【0004】
発光を生じるために使用された別の具体的な分子及び誘導体は、ルミノール以外の環式ジアシルヒドラジド(例えばイソルミノール)、ジオキセタン誘導体、アクリジニウム誘導体及びペルオキシオキシレートである(Messeri,G.らの論文、J.Biolum.Chemilum.、4:154-158(1989);Schaap,A.P.らの論文、Tetrahedron Lett.、28:935-938(1987);Givens,R.S.らのの論文、ACS Symposium Series 383;Luminescence Applications,M.C.Goldberg編(Amer.Chem.Soc.、ワシントン)頁127-154(1989))。光を発生しかつ分子の超高感度な測定に使用されている他の分子は、多環式及び還元されたニトロ多環式の芳香族炭化水素、多環式芳香族アミン、フルオレスカミンで標識されたカテコールアミン、並びにクマリン、ニンヒドリン、o-フタルアルデヒド、7-フルオロ-4-ニトロベンズ-2,1,3-オキサジアゾール、ナフタレン-2,3-ジカルボキシアルデヒド、シアノベンズ[f]イソインドール、及びダンシルクロリドなどの他の蛍光誘導体化剤(derivetizingagent)である(Simons,S.S.Jr.及びD.F.Johnsonの論文、J.Am.Chem.Soc.、98:7098-7099(1976);Roth,M.の論文、Anal.Chem.,43:880-882(1971);Dunges,W.の論文、同書、49:442-445(1977);Hill,D.W.らのの論文、同書、51:1338-1341(1979);Lindroth,P.及びK.Mopperの論文、同書、51:1667-1674(1979);Sigvardson,K.W.及びJ.W.Birksの論文、同書、55:432-435(1983);Sigvardson,K.W.らの論文、同書、56:1096-1102(1984);de Montigny,P.らの論文、同書、59:1096-1101(1987);Grayeski,M.L.及びJ.K.DeVastoの論文、同書、59:1203-1206(1987);Rubinstein,M.らの論文、Anal.Biochem.、95:117-121(1979);Kobayashi,S.I.らの論文、同書、112:99-104(1981);Watanabe,Y.及びK.Imaiの論文、同書、116:471-472(1981);Tsuchiya,H.の論文、J.Chromatog.、231:247-254(1982);DeJong,C.らの論文、同書、241:345-359(1982);Miyaguchi,K.らの論文、同書、303:173-176(1984);Sigvardson,K.W.及びJ.W.Birksの論文、同書、316:507-518(1984);Benson,J.R.及びP.E.Hareの論文、Proc.Nat.Acad.Sci.、72:619-622(1975);Kawasaki,T.らの論文、Biomed.Chromatg.、4:113-118(1990))。
【0005】
現在4種の非酵素的システムが公知であり:これらは、アクリジニウム誘導体(McCapraらの特許、英国特許第1,461,877号;Wolf-Rogers J.らの論文、J.Immunol.Methods、133:191-198(1990));イソルミノール;金属ポルフィリン(Forgioneらの特許、米国特許第4,375,972号);及び非金属テトラピロール(Katsilometesの特許、PCT国際開示、WO93/23756号)である。これらのシステムは、酵素が介在したシステムよりも反応速度が速く、その結果数秒以内にピークの光出力をもたらすという確かな利点を有する。金属ポルフィリン類は、抗原との結合の際に、立体障害の問題が少ないハプテン分子である。更に、発光性であることが公知である金属ポルフィリン分子は、発光量が10-4以上で、常磁性金属イオンを含有するものである(Gouterman,M.,The Porphyrins、第3巻、Dolphin,D.編、(Academic Press社):頁48-50,78-87,115-117,154-155(1978);Canters,G.W.及びJ.H.Van Der Waalsの論文、同書,577-578)。更に、金属クロリン、ヘム、シトクロム、クロロフィル、ランタニド及びアクチニドなどの、金属ポルフィリン、ハイポスポルフィリン(hyposporphyrines)、プソイドノーマル(psoudonormal)金属ポルフィリン及び金属ポルフィリン様分子が、これらの分子の金属中心において生じている構造的摂動に対し直接的又は従属的のいずれかの酸化/還元反応を受けること、並びにこれらの化学発光の発生を触媒するそれらの反応力が、これらの分子の金属中心に起因することも公知である(Eastwood,D.及びM.Goutermanの論文、J.Mo.Spectros.、35:359-375(1970);Fleischer,E.B.及びM.Krishnamurthy,の論文、Annals N.Y.Academy of Sc i.、206:32-47(1973);Dolphin,D.らの論文、同書、206:177-201;Tsutsui,M.及びT.S.Srivastavaの論文、同書、206:404-408;Kadish,K.M.及びD.G.Davisの論文、同書、206:495-504;Felton,R.H.らの論文、同書、206:504-516;Whitten,D.G.らの論文、同書、206:516-533;Wasser,P.K.W.及びJ.H.Fuhrhopの論文、同書、206:533-549;Forgioneらの特許、米国特許第4,375,972号;Reszke,K.及びR.C.Sealyらの論文、Photochemistry and Photobiology、39:293-299(1984);Gonsalves,A.M.d'A.R.らの論文、Tetrahedron Lett.、32:1355-1358(1991))。これらの反応は、その反応体の中に存在する鉄及び他の金属イオンによって変更され、かつこれらの金属イオンは、金属ポルフィリン複合体の濃度の測定を妨害し、かつ非常に混乱させる(Ewetz,L.及びA.Thoreの論文、Anal.Biochem.,71:564-570(1976))。様々な金属は、これらの金属ポルフィリンの寿命及び発光特性に、強力に影響を及ぼすであろう。
【0006】
非金属ポルフィリンであるジュウテロポルフィリン-IX HClは、溶液中でルミノールからの光の発生を仲介することが示されている(Katsilometes,G.W.の前述の論文)。
化学発光性反応及び非同位体リガンド結合アッセイの開発における、発光性アクリジニウムのエステル及びアミド誘導体の使用が、報告され、かつ検討されている(Weeks,I.らの論文、Clin.Chem.,29/8:1474-1479(1983);Weeks,I.及びJ.S.Woodheadの論文、Trends in Anal.Chem.,7/2:55-58(1988))。このシステムの特徴は、H2O2及びNaOH酸化剤(pH13.0)の存在下においてフラッシュ型の反応速度を生じ、光子放出が非常に短命(5秒未満)であることである。
【0007】
アクリドン及び各種置換されたアクリジン及びアクリドン類の調製法が、まとめられている(Acridines,Acheson,R.M.及びL.E.Orgelの論文、(Interscience Publishers,N.Y.社)、頁8-33,60-67,76-95,105-123,148-173,188-199,224-233(1956))。2個のアクリジン残基の9位の炭素原子の結合による、ビアクリジンの形成について、これまでに明らかにされかつ検討されている(Gleu,K.及びR.Schaarschmidtの論文、Berichte、8:909-915(1940))。これらの努力は、10,10'-ジメチル、10,10'-ジフェニル及び10,10'-ジエチル-9,9'-ビアクリジニウムニトレート分子の合成へと繋がった。更に、これらの分子は、塩基性溶液中で過酸化水素に晒された場合に、光を発生するであろうということが報告されている(Gleu,K.及びW.Petschの論文、Angew.Chem.、48:57-59(1935);Gleu,K.及びR.Schaarschmidtの論文、Berichte、8:909-915(1940))。
【0008】
ルシゲニン(10,10'-ジメチル-9,9'-ビアクリジニウムニトレート)による発光の機序が、広く研究されていて、かつこれは主要最終生成物であるN-メチルアクリドンの酸化によって終わる、アクリジニウム塩及びそれらの還元生成物(ピナコール)への、一連の水酸化物イオンの求核付加反応に起因している(Janzen,E.G.らの論文、J.Organic Chem.、35:88-95(1970);Maeda,K.らの論文、Bul.Chem.Soc.Japan、50:473-481(1977);Maskiewicz,R.らの論文、J.Am.Cheln.Soc.,101/18:5347-5354(1979);Maskiewicz,R.らの論文、同書、101/18:5355-5364(1979))。
【0009】
10-メチルアクリジンの9位の炭素原子における修飾及び誘導体化は、安定性の異なるいくつかの有用な化学発光分子の生成に繋がっている(Law,S.J.らの論文、J.Biolum.Chemilum.、4:88-98(1989))。これらの分子を、0.1mol/lの硝酸を溶媒とする0.5重量%の過酸化水素に晒し、その後水酸化ナトリウム0.25mol/lを含有する別の溶液に晒した場合に、5秒未満持続するようなフラッシュ光を生じる。
【0010】
本願明細書において定義された発光誘導体、発光を誘導された分子又は誘導された発光分子とは、官能基、又は前駆体分子の化学反応性及び特性を変化する基と共有結合し、アッセイの発現において使用することが望まれるような被検体又は特定の結合相手との複合に適している発光分子を形成する分子である。2個の10、10’位の一方又は両方でのビアクリジンのN-ヒドロキシスクシンイミド誘導体は、本発明の好ましい発光誘導体である。第一の化合物又は第一の分子の構造の少なくとも一部を保持しながら、これらの第一の化合物又は第一の分子よりも小さいか又は大きいかのいずれかであるような新規化合物又は新規分子を形成するために、第一の化合物又は第一の分子の反応によって、誘導体化合物又は分子が形成される(もしくは形成することができる)場合には、これらの化合物又は分子は、第一の化合物又は第一の分子の“誘導体”である。更に本願明細書において、用語“誘導体”は、“発光誘導体”を含んでいる。
【0011】
本発明以前には、誘導された発光性10,10'-置換-9,9'-ビアクリジンの合成は実現していない。これまでに公知である発光性ビアクリジン(例えばルシゲニン)は、その分子が他の分子と複合することができるような反応基(複数)は含まない。現在までのところ、これらのビアクリジンには、学術的な関心が向けられているのみであり、光発生の機序及び反応性イオン種の相互作用の研究に利用されている。
光伝導性物質(例えば光ファイバー束)の表面での発光反応の利用は、発光性センサー及びプローブの開発の基本である(Blum,L.J.らの論文、Anal.Lett.,21:717-726(1988))。この発光は、特定のタンパク質(抗体)との結合によって調節され、かつ該プローブの表面の微小環境において生じることができる。その後光の出力は、均一系(分離なし)アッセイ形式の光子測定装置によって測定される(Messeri,G.らの論文、Clin.Chem.、30:653-657(1984);Sutherland,R.M.らの論文、Complementary Immunoassays,Collins,W.P.編(Jhon Wiley & Sons社)、頁241-261(1988))。
【0012】
帯電した合成ポリマー(ポリ-N-エチル-4-ビニルピリジニウムブロミド、PEVP)は、静電的相互作用を介して、帯電した複合体分子による光発生を完全に阻害することができることが明らかになっている。このことは、陰性に帯電したペルオキシダーゼ酵素によって触媒された、増強されたルミノールの化学発光反応について、特に研究されている。低分子量の電解質を添加することにより、この阻害が除かれ、このことにより認められた作用の静電気的性質が裏付けられている(Valsenko,S.B.らの論文、J.Biolum.Chemilum.,4:164-176(1989))。
発光キャピラリー電気泳動ゲル、ゲル転移(gel transfers)又はブロット(サザン、ウェスタン、ノーザン及びドット)法は、タンパク質及び核酸の遺伝物質の定量測定を提供する技術の例である。これらの技術は、被検体の発現を増幅する方法、例えばプローブ、PCR(ポリメラーゼ複製連鎖反応)バンド、RFLP(制限断片長多型)法、並びに遺伝子発現及び他の被検体を増幅するような他の方法と併用することができる(Stevenson,R.の論文、Biotech.Lab.、8:4-6(1990))。
【0013】
より多い量の光子放出を生じることが可能なビアクリジン分子の合成、及び実在するシグナル溶液の改善によって、化学発光反応から得られた光の出力を増強し、かつ化学発光反応の間により強い光を提供するような新規シグナル溶液を示すことは、アッセイの感度の改善において有益であろう。前記シグナル溶液の配合を操作することによる光出力の反応速度を調節する能力は、様々な用途(遺伝子プローブ、センサー、ホルモンなど)にアッセイを適応させるために特に有益である。
【発明の開示】
【0014】
本発明のひとつの態様は、試料中のビアクリジン発光誘導体の存在を検出する方法である。この方法は、試料をシグナル溶液と接触し、化学発光により、測定可能な放出された光を発生すること、並びにこの放出された光を光度計又は装置を用い測定することを含む。
本発明の別の態様は、被検体、又は被検体の結合相手、又は被検体の結合相手のリガンドと結合することができる、発光性の誘導された10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン分子の合成法である。これらの分子は、1〜8位の炭素原子のような、この分子の別の部位に、追加の置換基を有することができる。
【0015】
更に別の本発明の態様は、化学アッセイ、リガンド結合アッセイ、イムノアッセイ又はヌクレオチドアッセイにおいて有用な、測定可能な光を放出する、化学発光システムを示している。このシステムは、pHが約10.0〜約14.0の範囲で、特定の活性化エネルギー及び酸化電位を伴う、被検体又は被検体の結合相手又は被検体の結合相手のリガンドに結合した、10,10'-置換された-9,9'-ビアクリジン、並びにこのビアクリジンの固有の酸化電位に優ることが可能な、酸化体又は酸化体の組み合わせを含む。このシステムにおいて、ビアクリジンは、化学アッセイ、均一系、不均一系の競合型及びサンドイッチ型イムノアッセイ、リガンド結合アッセイ、及びヌクレオチドアッセイにおける、化学発光の発生のための発光標識(トリガー又はタグ)として作用する。この光は、求核性反応物及び1個又は複数の酸化体を含有するシグナル溶液に、ビアクリジン標識を暴露することによって発生する。
【0016】
10,10'-置換-9,9'-ビアクリジンは、この標識が、公知の化学発光標識よりも感度が優れている(すなわち、より少量の被検体を検出する)ので、特に有益であり、かつ前記シグナル溶液の配合を操作することによって、光発生の反応速度を修飾することができ、これは短くとも0.1秒、かつ長いと6秒もの反応速度をもたらす安定した光を生じる。
本発明の更なる態様は、強力な発光特性を有する、新規の10-置換ビアクリジン類の合成法である。この方法は、前述の置換基のエステル化、出発物質(アクリドン)のアルキル化、この分子の二量体化、及び(必要であるならば)N-ヒドロキシスクシンイミドによる誘導体化を含む。
【0017】
本発明の他の態様は、発光分子である化学発光性の標識と反応した場合に、化学発光を生じるような、化学発光性のシグナル溶液である。このシグナル溶液は、pHが約10.0〜約14.0で、0.02M四ホウ酸ナトリウム(ホウ砂)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、D(-)フルクトース、超酸化カリウム(KO2)及び2-メチル-2-プロパノールを含む。この化学発光性標識が、アクリジニウム誘導体、ルシゲニン、ルシゲニン発光誘導体、ビアクリジン、ビアクリジニウム発光誘導体、環式ジアシルヒドラジド又はプテリジンである場合は、この反応は、短くとも0.1秒間で、標識濃度が1ng/mlでのシグナルに対するノイズ光子放出の比は、少なくとも20:1であろう。標識及びシグナル溶液の成分の濃度変化に応じて、標識濃度1ng/mlでのシグナル比は、50:1、100:1、200:1、500:1、並びに700:1及びそれ以上でさえでもあることができる。更にこの放出を、6秒まで、もしくはそれ以上に、操作することができる。
更に、このシグナル溶液は、これまでに公知のシグナル溶液で得られた出力よりも、光出力の顕著な増加及び光出力反応速度の変化を生じる、アクリジニウム誘導体、ルシゲニン及び10,10'-置換された-9,9'-ビアクリジンの化学発光を誘発することができることも明らかにされている。
【0018】
(発明の詳細な説明)
本願明細書中の単語及び用語は、その通常の定義を意味するにもかかわらず、本発明の好ましい実施態様については、下記の定義を適用する。
本願明細書において定義されたように、シグナル溶液は、特定の発光分子又は特定の発光を仲介する分子と結合した場合に、光の発生を引き起こすであろう試薬又は試薬群を含んでいる。本願明細書において定義された発光性の標識又はタグは、シグナル溶液と結合した場合に光を発生するか、もしくは発生される光の原因となるかのいずれかであるような、被検体、被検体の結合相手、又は被検体の結合相手のリガンドと、直接的(例えば共有結合)又は間接的(例えば、ビオチン−アビジン又はビオチン−ストレプトアビジン橋のような特定の結合物質(タンパク質)によって)のいずれかで結合した物質である。発光標識は、発光分子(すなわち光を放出する物質である。)である。
本願明細書において定義されたように、発光分子とは、化学溶液の成分による電子の励起に続く、基底状態への軌道電子の崩壊と同時に、光子(複数)を放出するような物質である。
【0019】
本願明細書において使用されるように、発光性反応物は、遊離の発光分子(すなわち、被検体、被検体の結合相手、又は被検体の結合相手のリガンドと結合していない発光分子)である。更に本願明細書において使用された単数の用語“発光分子”は、更に複数の“発光分子類”も含んでいる。更に本願明細書において使用されたように、単数の用語“発光を仲介する分子”は、同様に複数の意味も含む。
本願明細書において使用されたように、シグナル溶液は、遊離の分子(すなわち、被検体、被検体の結合相手、又は被検体の結合相手のリガンドと結合していない)で構成される。同じく本願明細書において使用されるように、単数の用語“発光分子”は、更に複数の“発光分子類”も含んでいる。更に本願明細書において使用されるように、単数の用語“発光を仲介する分子”は、同様に複数の意味も含む。
【0020】
本発明は、直接又は間接のいずれかで、被検体、被検体の結合相手、被検体の結合相手のリガンドと結合している、発光性10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン誘導体分子の合成法を企図する。
本発明は更に、試料中の、特定の活性化エネルギー及び酸化電位を有する、10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン発光誘導体の存在を検出する方法を企図している。この方法は、10,10'-置換-9,9'-ビアクリジンの特定の活性化エネルギー又は酸化電位を低減することが可能な、酸化体を少なくとも1種含有するシグナル溶液と、試料を接触することを含む。
【0021】
この10,10'-置換された-9,9'-ビアクリジン及び酸化体は反応し、化学発光により放出された光を生じる。10,10'-置換-9,9'-ビアクリジンによる光の化学的発生の前提となる機序は、ビアクリジンへの、水酸化イオンのような求核試薬の添加で始まり、9,9'-炭素原子間でのこの二量体の分裂(schism)へと続くであろう。この分裂は、Janzenらが論じたように、光を発生するために酸化される、2個のN-メチルアクリドン分子を生成する(Janzenら、Maedaら及びMaskiewiczらの前述の論文)。適当な発光分子からの電子の引抜により、発光分子の基底エネルギー状態への崩壊と同時に光子を放出する励起した中間体が形成される。その後この光は、好ましくは、バートホールドルマット(Berthold Lumat)LB 950発光測定器のような、分光光度計又は装置によって測定される。この方法は、溶液中の発蛍光団を検出するために使用される通常の蛍光測定法において直面する、干渉及び自己吸収の問題がないので、より高感度であり、かつより良い精度である。
超酸化カリウム(potassium superoxide)は、前述の10,10'-置換-9,9'-ビアクリジンの酸化電位に優っているので好ましい。しかし、四酸化オスミウム又は過酸化水素のような他の酸化体と一緒の超酸化カリウムも、10,10'-置換-9,9'-ビアクリジンの固有の酸化電位に優ることが可能な、更に別の酸化体混合物である。
【0022】
更に本発明は、化学アッセイ、イムノアッセイのようなリガンド結合アッセイ、又はヌクレオチドアッセイにおいて有用な、測定可能な光を放出する化学発光システムを示している。このシステムは、pHが約10.0〜約14.0の範囲で、酸化電位を有し、被検体又は被検体の結合相手又は被検体の結合相手のリガンドに結合した、10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン発光誘導体、並びにこの10,10'-置換-9,9'-ビアクリジンの酸化電位を低下することが可能であるような、少なくとも1種の酸化体を含有している。本質的に、この10,10'-置換された-9,9'-ビアクリジンは、標識(すなわちタグ又はトレーサー)として作用し、かつ化学発光反応において、光を発生する。このイムノアッセイは、均一系又は不均一系、もしくは競合型又はサンドイッチ型のアッセイであってよい。この光は、10,10'-置換-9,9'-ビアクリジンが、1個又は複数の酸化体に晒されるとすぐに、化学発光によって、この10,10'-置換-9,9'-ビアクリジンから発生する。
【0023】
このシステムは特に、核酸、抗体、抗原、ハプテン又はハプテン複合体、巨大分子、タンパク質又はポリマーのような被検体の検出において有用である。このシステムにおいて、被検体の結合相手は、ヌクレオチドプローブ、抗体、抗原、ハプテン、ハプテン複合体、巨大分子、タンパク質又はポリマーであってよい。
本願明細書において使用されたリガンドは、連結又は結合している分子を意味し、かつ抗原、抗体、ハプテン、ハプテン複合体、巨大分子、タンパク質、もしくはポリ炭化水素、ポリグリセリド、又は多糖類のような、タンパク質以外のポリマーを含む。
【0024】
本願明細書において使用されたハプテン複合体は、他の分子に結合した小さい分子(すなわち、分子量6,000ダルトン未満の分子)である。特に適したハプテン複合体は、ステロイド分子-10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン複合体である。この被検体は、その結合相手と結合することができる、もしくはその結合相手は、ビオチン-アビジン又はビオチン-ストレプトアビジン橋によりそのリガンドと結合することができる。更にこのリガンドは、ビオチン、アビジン又はストレプトアビジンであることができ、かつこの被検体は、同じくビオチン-アビジン、ビオチン-ストレプトアビジンシステムを介して、10,10'-置換-9,9'-ビアクリジンと結合することができる。このシステムが、10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン発光標識、及び酸化体として超酸化カリウムを含有している場合には、このシステムは、高感度(抗体又は抗原の分子10-16〜10-20を検出)を提供する。このシステムが、キレート剤、DMSO、D(-)フルクトース、2-メチル-2-プロパノール、四ホウ酸ナトリウム水溶液、及びその酸化電位に優ることが可能な酸化体の組み合わせを含有する場合には、更に高い感度(抗体又は抗原の分子10-22までを検出)さえもが得られる。
前述の化学発光システムは、pHが約10〜約14の範囲で有効であるが、好ましいpHは、約12.5〜13.5である。
【0025】
このシステムにおける他の試薬類と一緒の10,10'-置換された-9,9'-ビアクリジンタグの化学発光特性は、このシステムを、多数のハプテン、並びに例えばホルモン、ビタミン、毒、タンパク質、感染性及び伝染性物質、化学物質、医薬品、腫瘍マーカー、受容器、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン及び遺伝物質のような、10,10'-置換-9,9'-ビアクリジンに直接又は間接に複合される巨大分子の被検体の、超高感度アッセイの開発に、特に適している。更にこの10,10'-置換-9,9'-ビアクリジンは、化学発光アッセイの開発において使用される抗体のような、特異的結合タンパク質に、直接又は間接に複合することができる。
【0026】
本発明は更に、特定の酸化電位を有し、被検体、被検体の結合相手又は被検体の結合相手のリガンドに結合している10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン、並びにpHが約10.0〜約14.0の範囲で、前述の酸化体、超酸化カリウム、又は四酸化オスミウム及び超酸化カリウムを含む酸化体の組み合わせを含有するシグナル溶液を含む、化学アッセイ、イムノアッセイ、リガンド結合アッセイ又は核酸アッセイにおいて有用な、測定可能な光を放出する化学発光システムを示す。
本発明のシグナル溶液で使用される発光分子の例は、アクリジニウム誘導体、プテリジン、プテリジン誘導体、ルシゲニン、ルシゲニン誘導体、ルシフェリン、ルシフェリン誘導体、環式ジアシルヒドラジド(ルミノール、又はイソルミノール)であり、ジメチルアクリジニウムエステルのようなアクリジニウム誘導体、又はN-ヒドロキシスクシンイミド誘導体のようなルシフェリン及びルシゲニン誘導体が好ましい。
【0027】
更に、この化学発光システムは、競合型及びサンドイッチ型イムノアッセイを含む均一系及び不均一系のアッセイに向いている。前述のように、シグナル溶液が、EDTA、DMSO、D(-)フルクトース、少なくとも1種の酸化体、2-メチル-2-プロパノール及び四ホウ酸ナトリウム水溶液を含有する場合には、このシステムの感度は、極めて高い。更に、この被検体は、核酸、抗原、抗体、ハプテン、ハプテン複合体、巨大分子、タンパク質又はポリマーであってよい。均一系アッセイは、ポリイオンのような標識発光の阻害剤の使用に関連するであろう。例えば、ポリ(ビニルアルキル)のようなポリカチオンが、未結合の正に帯電した10,10'-置換-9,9'-ビアクリジニウムで標識された化合物を阻害する一方で、ポリ(4-ビニルピリジニウムジクロメート)のようなポリカチオンは、未結合ジュウテロポルフィリンIX二塩酸塩(DPIX)で標識された化合物を阻害するであろう。この場合のアッセイにおける未結合は、例えばその化合物が抗原で標識された複合体である場合は、これが、抗体などと結合しないことを、もしくはその化合物が抗体で標識された複合体である場合には、抗原などと結合しないことを意味する。
【0028】
本発明は更に、試料中の二種の被検体の存在を検出するための化学発光性の不均一系のアッセイにおける、10,10'-置換-9,9'-ビアクリジンの使用法を示す。
検出に適した被検体は、核酸、抗体、抗原、ハプテン、ハプテン複合体、巨大分子、ポリマー又はタンパク質である。更に、この方法は、化学アッセイ、ヌクレオチドアッセイ、又はイムノアッセイのようなリガンド結合アッセイであることができる。この方法は、同じくこれらのアッセイのいずれかの組み合わせであってもよい。本発明は、第一の被検体、又はその被検体の結合相手、又はその被検体の結合相手のリガンドへの、10,10'-置換-9,9'-ビアクリジンタグの複合、並びに非金属テトラピロール発光分子、又は酵素のような化学発光を仲介する分子などの、様々なタグ又は標識の、第二の被検体、又は第二の被検体の結合相手、又は第二の被検体の結合相手のリガンドへの結合に関する。これらの被検体は、ポリヌクレオチド鎖、クロリンのような化学的に活性がある化合物、もしくは抗体、抗原、ハプテン、ハプテン複合体、巨大分子、タンパク質又はポリマーのような免疫的に活性がある化合物であってよい。
【0029】
一般に、二元のサンドイッチ型イムノアッセイにおいて、第一の被検体のある部位への結合相手は、ガラス、ポリプロピレン、ポリカーボネート又はポリスチレンなどの固相に付着し、かつその結果被覆された固相は、該被検体の第二の部位で、該試料及び第二の結合相手と接触している。この第二の結合相手は、該標識(例えば10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン誘導体)に複合されている。この標識及び結合相手が当然異なる場合を除いて、同じ状況が、第二の被検体についても存在する。この固相を洗浄し、かつこの結合した複合体を、適当な1種のシグナル溶液、又は複数のシグナル溶液に晒す。一般に、競合型アッセイにおいては、該固相は、対象となる各被検体に特異的な少い濃度の結合相手で被覆されている。その後この固相は、該試料、及び10,10'-置換-9,9'-ビアクリジンに複合された測定された量の第一被検体、及び他の発光標識に複合された測定された量の第二の被検体と、接触させる。
【0030】
接触後、この固相を洗浄し、結合していない複合体を除去する。サンドイッチ型又は競合型アッセイのいずれでも、洗浄された固相は、最初に、標識及び溶液が反応し光を放出し、かつこの特異的標識に関連した被検体の量が放出された光量を測定することによって決定されるような、二個の標識の一方のみに特異的であるシグナル溶液で、個別に処理され、その後、この固相は、標識及びシグナル溶液が反応し光を放出するような、もう一方の被検体に関連する第二標識又はタグに特異的な別の化学発光性シグナル溶液と、個別に接触される。更に、第二の反応からの光の測定は、該試料中に存在する第二被検体の量を決定するであろう。
【0031】
前述の2種の異なる標識の結果生じた光は、異なる特性を示す(すなわち、各標識によって発せられた光の波長が、異なる、もしくは反応の1秒当たりに生じた光の実際の量が、2個の標識間で異なりうる。)ので、前述の洗浄した相を、両方の複合体によって同時に光を生じ、該試料中の各被検体の量を測定するために、その光を区別し、かつ光を測定するような、シグナル溶液で処理することは可能である。あるものは、蛍光分析において使用されるような、時間分解発光分析を用いることによって、2個の異なる標識の結果発生した光を区別することができる(Lovgren,T.及びK.Petterssonの論文、Luminescence Immunoassay and Molecular Applications、Van Dyke K.及びR.Van Dyke編、CRS Ress,Boca Raton,Ann Arbor,Boston,MA.頁233-254(1990))。
【0032】
波長のような発光特性の差も、使用することができる(Kleinerman,M.らの論文、Luminescence of Organic and Inorganic Materials,Kallmann,H.P.及びG.M.Spruch編、International Conference,ニューヨーク大学、Washington Square、後援Air Force Aeronautical Research Laboratory,Army Research Office,Curham Office of Naval Research,N.Y.U.、頁197-225(1961))。
ビアクリジニウム誘導体による二元被検体アッセイに適している好ましい発光標識は、ジメチルアクリジニウムエステルのような、アクリジニウム誘導体、又は非金属テトラポリオールであるが、これまでに論じられているいくつかの他の発光標識も、適している。好ましい非金属テトラポリオールは、DPIXである。DPIX標識により光放出を生じる好ましいシグナル溶液は、pHが約10.0〜約14.0で、トランス、トランス-5-(4-ニトロフェニル)-2,4,-ペンタジエナール、ジ-2-エチルヘキシスルホコナク酸ナトリウム、発光反応物のルミノール、グルコース、ベンジルトリメチル水酸化アンモニウム、クメンヒドロペルオキシド、パラ過ヨウ素酸三ナトリウム、超酸化カリウム及びEDTAを含んでいる。結合した10,10'-置換された-9,9'-ビアクリジンのフラッシングに最も適したシグナル溶液は、pHが約10.0〜約14.0で、0.02Mホウ砂、EDTA、DMSO、D(-)フルクトース、超酸化カリウム、2-メチル-2-プロパノール及び四ホウ酸ナトリウム水溶液を含んでいる。
【0033】
被検体の複合体のひとつが、酵素で標識された被検体複合体であるならば、その酵素の基質を、このシグナル溶液に添加することができる。
更に、本発明は、試料中の二元被検体を検出するための、化学発光性の均一系アッセイを示している。競合型アッセイにおいて、固相は、各々の異なる被検体に特異的な結合相手で被覆される。この固相は、テトラピロールが標識の一種として使用される場合には、更に発光反応物で被覆することができる。従って、その後被覆された固相は、該試料と、10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン標識に複合した既知量の被検体の一方と、ビアクリジン以外の発光標識に複合された既知量の他方の被検体と、並びに結合していない複合体の発光標識の酸化電位に優ることを妨げることによって、抗-TSH-10,10'-置換-9,9'-ビアクリジンのような未結合ビアクリジンの発光標識の複合体を阻害することが可能である、ポリイオン(ポリ-N-エチル-4-ビニルピリジニウムブロミド、ポリ-4-ビニルピリミジニウムジクロメート、ポリ塩化ビニル、ポリ(ビニルアルコール)、又はポリ(塩化ビニルベンジル))と、接触させる(Vlasenko,S.B.らの論文、J.Biolum.Chemilum.,4:164-176(1989))。
【0034】
DPIX抗体複合体のような、結合していない発光標識抗体の複合体を阻害することが必要であるようなアッセイにおいて、ポリカチオンを使用することができる。接触後、この固相を、一方の標識に特異的なシグナル溶液と、該固相と同時又は個別に接触する両方の複合体による、放出光の発生、及びこの放出光の測定、及びその後の他方の複合体の標識による放出光に特異的なシグナル溶液と固相の個別の接触のいずれかが可能なシグナル溶液で処理する。
【0035】
本発明は、更にpH約10.0〜約14.0の範囲で、緩衝液中に、超酸化カリウム約150mM〜約450mM、好ましくは300mMを含有する水溶液を含む、化学発光シグナル溶液を示している。好ましい緩衝液は、四ホウ酸ナトリウムであるが、トリズマベース(trizma base)又はホウ酸のような他の溶液も有効に作用する。このシグナル溶液と共に標識として使用するのに好ましい発光分子は、アクリジニウム及び10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン誘導体である。しかし、KO2シグナル溶液と共に使用する場合には、イソルミノール単独、及び発光反応物であるルミノールとの複合体であるジュウテロポルフィリンIX・2HClも、標識として適している。
【0036】
緩衝化したシグナル溶液中でKO2を、10,10'-置換された-9,9'-ビアクリジン又はそれらの誘導体のような発光分子、もしくはエストラジール17β-10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン又は抗-TSH-10,10'-置換-9,9'-ビアクリジンのような発光標識複合体と反応する場合には、標識濃度が1ng/mlで、短くとも0.1秒間、少なくとも20:1のシグナル対ノイズ光子放出比をもたらす。このシグナル溶液及び様々なビアクリジンで標識された複合体を用いると、該標識よって、シグナル比は、標識濃度が1ng/mlで、50:1、100:1又は200:1及びそれ以上であることができる。更にこの発光が、6秒もしくはそれよりも長く続くように操作することができる。
【0037】
本発明は更に、pH約10.0〜約14.0の範囲で、0.02Mホウ砂水溶液、EDTA、DMSO、D(-)フルクトース、超酸化カリウム、及び2-メチル-2-プロパノールを含む、化学発光性シグナル溶液を示している。このシグナル溶液は、従来の公知のシグナル溶液で得られた出力よりも、光出力の顕著な増加及び光出力速度の変化をもたらす、10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン誘導体の複合体の化学発光を誘起することができる。この溶液が、10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン抗体又は抗TSH-10,10'-置換-9,9'-ビアクリジンのような発光標識又は発光標識複合体と反応した場合には、短くとも0.1秒の間で、標識濃度が1ng/mlでの、シグナル対ノイズ光子放出比は、500:1である(図3参照)。更に、このシグナル比は、該溶液及び特に標識された複合体の変化に応じて、標識濃度が1ng/mlで、50:1、100:1、及び700:1かそれ以上であってもよい。この発光も同じく、6秒もしくはそれよりも長く続くように操作することができる。
【0038】
更に本発明は、pH約10.0〜約14.0の範囲で、ホウ砂水溶液中に、EDTA、DMSO、D(-)フルクトース、超酸化カリウム、及び2-メチル-2-プロパノールを含む、シグナル溶液を示している。前述のシグナル溶液が使用されている、本発明の全ての態様において、成分、成分添加の順序、及び成分の濃度に関しては、実施例2に示された方法に従って調製されることが好ましい。しかしこれらの成分は、変更された順序、及び他の成分濃度で添加することができ、下記も適している:
−ホウ砂:0.005〜0.05Mの水性緩衝液
−EDTA:0.002〜0.2mM
−DMSO:前記ホウ砂緩衝液の0〜8μl/ml
−D(-)フルクトース:緩衝液の2〜10mg/ml
−超酸化カリウム:210〜365mM
−2-メチル-2-プロパノール:緩衝液の0.05〜0.25ml/mlである。
【0039】
この溶液が、10,10'-置換-9,9'-ビアクリジンのような発光標識と反応する場合には、この発光反応物は、発光標識濃度1ng/mlでの、シグナル対ノイズ光子放出比は、少なくとも300:1をもたらす。更に、その標識に応じて、標識濃度1ng/mlで、このシグナル比は、50:1、100:1、200:1などであることができる。この発光も、6秒もしくはそれよりも長く続くように操作することができる。
【0040】
実施例1
10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン誘導体の合成
この誘導された発光ビアクリジン分子の合成法は、前述のAcheson及びOrgelの論文によって明らかにされた、ジフェニルアミン-2-カルボン酸及びN-ベンゾイルジフェニルアミン-2-カルボン酸の環化による、アクリドンの合成を含む。
(化学物質及び溶媒は全て、シグマ/アルドリッヒ社(セントルイス、米国)、及びパシフィックパク社(ホリスター、CA)から入手することができる。)更にアクリドンは、シグマ/アルドリッヒ社から購入することができる。
【0041】
アクリドンの調製に加え、アクリドンの10位の炭素原子に、共有結合により、メチルエステル置換分子を合成した。この実施例で使用したビアクリジン分子を誘導するための置換分子は、ビアクリジンの更なる誘導体化、又は抗原、抗体などの他の分子へのこのビアクリジンの結合をもたらすような官能基を有する分子である。通常本発明の方法で使用された置換分子は、分子量約10,000以下である。この実施例において、置換分子α-ブロモ-パラ-トルイル酸のメチルエステル化を行なった。
分子の一方の端に優れた脱離基(複数)(ハロゲン原子(複数)など)を有し、かつこの分子のどこかに官能基(複数)が存在する別の分子も、置換分子として役立ち、かつ連続的にエステル化を受ける。この型の別の置換分子の良い例は、ヨード酢酸である。エステル化は、メタノールを溶媒とする10%三フッ化ホウ素の中での、この置換分子の反応によって達成された(置換分子1g当たり三フッ化ホウ素-メタノール25mlの添加が好ましい。)。
【0042】
これを、室温で、少なくとも10時間かけて反応させ、かつ得られたメチルエステルを、分液ロートを用い、塩化メチレンで抽出した。この抽出物を、H2Oで2回、0.1M炭酸水素ナトリウムで1回、及び再びH2Oで2回洗浄した。回転式蒸発器であるRE120回転蒸発装置を用い、60℃で、その体積を減少し、乾燥した。別のメチルエステルの合成法は、エーテルを用い、その後ジアゾメタンを添加し、かつ5%濃硫酸を含有するメタノールを使用するものである。
【0043】
この合成の次の工程は、アクリドンのアルキル化であった。これを実現するために、アクリドン5.4mM及び水素化ナトリウム6.5mMを、無水テトラヒドロフラン(THF)100mlに添加した。その後この混合物を、アルゴンガス下で、攪拌しながら、70℃で、2時間還流した。この混合物に、置換基メチルエステル(例えばα-ブロモ-パラ-トルイル酸メチルエステル)5.5mMを添加し、かつこの混合物を、攪拌しながら、70℃で、10〜13時間還流した。
【0044】
塩化メチレンを溶媒とする2%メタノールを用いた、シリカゲル薄層クロマトグラフィー(ベーカーケミカル(Baker Chemical)社、フィリップスバーグ、PA)により、加水分解されたアクリドン-10-置換体のRf=0.2のスポット;未反応のアクリドンのRf=0.4の第二のスポット;未知の化合物のRf=0.5の第三のスポット(非常に小さい);アクリドン-10-置換のメチルエステル(アクリドン-10-パラ-トルイル酸メチルエステル)のRf=0.6;及び未反応の置換基メチルエステルのRf=0.9の第五のスポットが明らかになった。この反応混合物は、沈殿を含む、明るい淡黄褐色を呈した。
この沈殿(ほとんど加水分解されたアクリドン-10-置換体)をろ過により除去した。得られたろ液を、分液ロートの中で、酢酸エチル及び水で抽出し、残留している塩及び加水分解された物質を除去した。不純物は、水相に残留した。有機相(酢酸エチル相)の体積を、回転蒸発装置を用い、60℃で、減少し、乾燥した。
【0045】
その後、塩化メチレンを添加し、未反応(不溶性)のアクリドン沈殿を、ろ過により除去した。次に、この塩化メチレン抽出物を、シリカ-60カラムで、塩化メチレンを溶媒とする3%酢酸エチルで溶出精製した。アクリドン-10-パラ-トルイル酸メチルエステルを溶出し、これは最初の黄色の帯に含まれていた。
この物質を、回転蒸発装置を用い、酢酸エチル−塩化メチレン溶出液をメタノールに交換(回転蒸発装置の連続供給チューブを通じて)して、再度濃縮した。この精製されたアクリドン-10-置換されたメチルエステルは、明るい黄色の結晶性物質として沈殿した。この沈殿をろ過し、メタノールで洗浄した(収率約50%)。これらの分子及びこれらの酸前駆体は、(例えば)403nmで励起し、かつ440nmで発光する、アクリドン-10-パラ-トルイル酸及びそのNHS誘導体;並びに398nmで励起し、かつ438nmで発光する、アクリドン-10-酢酸及びそのNHS誘導体を伴う、活性のある発蛍光団であった。
【0046】
更に、アクリドン-10-置換された中間体(例えばアクリドン-10-酢酸)を、水6mlを溶媒とする、2-クロロ安息香酸8.45g、N-フェニルグリシン7.80g、無水炭酸カリウム11.00g、及びCu++粉末0.30gと一緒に、良く混合することによって、直接合成した。その後この混合物を、160℃の油浴で、一晩還流した。エタノールを徐々に添加し、かつ生成物を水に溶解し、ろ過し、HClで沈殿した。全混合物を、再びろ過し、消費されていない2-クロロ安息香酸を除去し、ろ液中に残っている油分を晶出した。
このろ液を、NaOHに溶解し、ろ過し、酢酸を添加し、かつこの混合物を、再びろ過し、更に未反応の2-クロロ安息香酸を除去した。この生成物を、HClを加えることによって沈殿し(酸生成物)、かつ乾燥した。その後これを、過剰量のベンゼンで抽出し、かつ酢酸ナトリウム溶液に溶解することによって、更に精製し、活性炭と共に煮沸し、かつHClで再沈殿した。純生成物を再度ろ過し、かつ希メタノールで晶出し、白色沈殿を生じた(融点は、165-167℃)。
【0047】
アクリドン-10-置換された分子(例えばアクリドン-10-酢酸)も、同じく、アクリドン500mg(2.7mM)、鉱油を溶媒とする80%NaH 130mg、及び無水THF 50mlの混合物を、アルゴンガス下で、2〜4時間還流することによって、合成した。次に、ヨード酢酸(540mg,2.7mM)を添加し、この混合物の還流を、アルゴン下で、更に10時間継続した。得られた沈殿をろ過し、かつろ液を逆相カラムを用い、20〜30%エタノールで溶出し、精製した。次にこの精製された物質を乾燥し、THFに吸収し、かつ4N NaOHで10時間、加水分解した。水を添加し、この混合物をろ過した。ろ紙をH2Oで洗浄し、かつその混合物を1N HClでpH8.0に調節した。最終精製を、逆相シリカゲルカラムで、水を溶媒とする10〜30%のメタノールを用いて行った。回転蒸発装置(例えばRE120)を用いて、その体積を減少し、かつ1N HClでpH2.5に一晩保ち、再沈殿を行った。その生成物を、遠心分離によって収集し、かつ水で1回洗浄した。これを、凍結乾燥機で乾燥した(収率約40%)。
【0048】
アクリドン-10-パラ-トルイル酸メチルエステルの、四級化した(quaternized)9-クロロ-アクリジン-10-パラ-トルイル酸メチルエステルへの転化は、前述のアクリドン-10-置換されたメチルエステルとオキシ塩化リン(POCl3)との反応によって、実現した。POCl3 1mlを、精製した各メチルエステル50mgに加え、かつこの混合物を120℃の油浴で、1時間、還流した。
【0049】
9-クロロ-アクリジン-10-パラ-トルイル酸メチルエステルの二量体化及び脱エステル化は、いずれかの凍結条件下で、反応を起こすようにした9-クロロ-アクリジン-10-パラ-トルイル酸メチルエステル100mgにつき、冷金属亜鉛1g及び凍結している冷濃塩酸10mlを、1〜10時間かけて、添加することによって、実現した。この反応は激しく、凍結条件下で、1〜10時間かけて実施しなければならない。その後この沈殿を、ろ過し、かつ水で洗浄した。
【0050】
酸性ろ液の精製は、シリカゲルC-18逆相カラムで行った。このカラムは、メタノールで、次に0.1N硝酸で、その後0.01Mリン酸バッファーで、前処理した。このろ液の溶出は、まず0.01Mリン酸バッファーを溶媒とするメタノールで行い、副産物、未反応物質及び塩を除去した。次にこのカラムの頂上に留まっている生成物(10,10'-パラ-トルイル酸-9,9'-ビアクリジン塩、二置換されたビアクリジン)を、0.1N硝酸を溶媒とする30〜90%のメタノールで溶出した(全ての生成物を除去するために、メタノール強度は、30から90%へと増加しなければならない。)。生成物は、0.1N硝酸を溶媒とするおよそ50%のメタノール溶液で、黄色の帯として溶出した。次にプロトン化された精製された二量体のジニトレート塩(10,10'-パラ-トルイル酸-9,9'-ビアクリジニウムジニトレート)を、60℃の回転蒸発装置で濃縮し、少量(5ml)とし、かつ凍結乾燥により乾燥した。
パーキンエルマー552型分光光度計を用いた走査型分光光度は、前(preliminary)肩が460nmに、第一のピークが435nmに、第二の肩が415nmに、主なピークが370nmに及び引き摺りの(trailing)肩が355nmにある、特徴的な吸光度を明らかにした(図2参照)。ブルーカーARX 400装置(ラインステッタン(Rheinstetten)-FO、独国)によるNMRプロットは、3.9ppmにピークを示し、これは、この二量体の10位の窒素に結合したメチレン性炭素の存在を示し、及び7〜9ppmの範囲のピークは、芳香族炭素の多重結合存在を示している。
【0051】
この二量体の、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)による更なる誘導体化は、ジクロロヘキシルカルボジイミド211μMを、無水ジメチルホルムアミド(DMF)(0.5ml/二量体mg)を溶媒とする該二量体141μMに添加する(攪拌しながら)ことによって実現した。これに、N-ヒドロキシスクシンイミド211μMを添加し、室温で10時間反応させた。この反応時に形成された尿素の沈殿を、ろ過により除去した。この標識のNHS-エステルは、褐色のバイアル中で、非常に安定である(少なくとも1年間)。逆相TLCにおいては、主要ピークは、0.01Mリン酸バッファーを溶媒とする90%メタノールによる溶出では、移動しなかった(長波長の紫外線光の下で、原物質は黄色のスポットを示した。)が、0.1硝酸/70%メタノール(v/v)で、移動し、Rf=0.2であった。
【0052】
10,10'-パラ-トルイル酸-9,9'-ビアクリジニウムジニトレート誘導体の抗体への複合は、pH7.4のPBSを溶媒とする抗体1mgに、この誘導体のDMF溶液を100μl添加することにより開始した。この実施例においては、甲状腺刺激ホルモンのβ鎖に対するポリクローナル抗体と複合したが、あらゆる抗体、被検体、ポリマー又は結合タンパク質を使用することができる。この混合物を、室温で、10時間反応させ、その後この抗体-誘導体混合物に、d-L-リジンの1mg/ml溶液を54μl添加し、更に3時間反応させた。この工程は、発光性の誘導体-抗体の複合体の未反応のNHS部位を占領するために必要である。
【0053】
前述の抗体-10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン複合体を、20cmのバイオジェルP-10(バイオラド社、ハーキュレス、CA)を用い、10mM二塩基リン酸カリウム及び0.1M NaClを含有する、pH7.4の緩衝液で溶出し、精製した。この抗体複合体は、TLC及び分光光度計でモニターすることができるカラムからの第一分画中に溶出した。この抗体複合体は、365nm(該標識の小さいピーク)及び275nm(抗体)の2個の分光光度のピークを有し、かつ実施例2に記載した本発明のシグナル溶液により、良好にフラッシュされ、非常に迅速な光放出速度を生じた(図4参照)。
弱酸性環境(0.01N HNO3)は、該標識を安定化し、かつ更にシグナル対ノイズ比を最大にする。0.01N NHO3のPSS 1mlにつきツイーン20 0.2μlを含有する洗浄液は、分離が必要なアッセイにおいて、よく作用するであろう。フラッシュ直前のこの標識の最終洗浄液5μlへの暴露も、同じくシグナルを増強することができる。
【0054】
実施例2
シグナル溶液の調製
新規化学発光分子から光を発生するためのシグナル溶液は、下記に従って調製した:
各0.02M四ホウ酸ナトリウム100mlに、下記を添加し、攪拌した:
a)エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、0.744mg(0.02mM)
b)ジメチルスルホキシド(DMSO)、100μl
c)D(-)フルクトース、400mg(0.02M)
d)超酸化カリウム(KO2)、1996mg(280mM)
e)2-メチル-2-プロパノール、17ml
【0055】
実施例3
10,10'-パラ- トルイル酸-9,9'-ビアクリジニウムジニトレート及びビス-N- メチルアクリジニウムジニトレート(ルシゲニン)を比較するアッセイ
図1に示したように、この実施例では、シグナル溶液単独(棒1)、蒸留水を溶媒とする濃度1.9nMのルシゲニン(棒2)、及び蒸留水を溶媒とする10,10’-パラ-トルイル酸-9,9'-ビアクリジニウムジニトレート(棒3)のシグナルを比較した。このシグナル溶液は、実施例2に従って調製し、以下同様である。このアッセイ条件では、3本の12×75mmのポリスチレン管(VWRサイエンティフィック社、フィラデルフィア、PA)に、水5μlを入れ、シグナル溶液300μlを添加し、零点のシグナルとした。各化学発光分子のシグナルは、バートホールドルマットにおいて、3組について、シグナル溶液300μlで希釈した標識5μlをフラシュすることによって得た。
【0056】
実施例4
抗-TSH-10,10'-パラ-トルオ-9,9'-ビアクリジン複合体の希釈度の増加に伴う、シグナルの直線性を示すアッセイ
図3に示したように、この実施例は、希釈度の増加に伴うこの抗体複合体の化学発光の官能性、及びシグナルの直線性を明らかにしている。この抗-TSH-10,10'-パラ-トルオ-9,9'-ビアクリジン複合体を、10-9g/mlから10-18g/mlまで希釈し、かつ各希釈の5μl3組を、バートホールドルマットにおいて、シグナル試薬200μlでフラッシュし、かつシグナルの大きさを記録した。結果を、下記に記す:10-9g/ml-12,000,000カウント/秒;10-12g/ml-570,000カウント/秒;10-13g/ml-37,119カウント/秒;10-14g/ml-3,510カウント/秒;10-15g/ml-556カウント/秒;10-16g/ml-304カウント/秒;10-17g/ml-240カウント/秒;10-18g/ml-229カウント/秒;0.0g/ml-102カウント/秒 本願明細書に記載されたあらゆる発表及び特許出願は、各個々の発表又は特許出願が参照として組み込まれることを、特にかつ個々に示すのと同程度に、参照として本願明細書に組み込まれている。
【0057】
本発明について詳細に説明しているが、付属のクレームの精神又は範囲を外れることのないように、発明の多くの変更及び修正を行うことができることは、当業者にとって明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は、本発明のシグナル溶液でフラッシュした場合の、相対的化学発光を、シグナル剤(ゼロ)、ルシゲニン、及び10,10'-パラ-トルイル酸-9,9'-ビアクリジンについて比較した実験結果を表すヒストグラムである。
【図2】図2は、本発明の標識を、抗体に複合した場合の、走査型分光光度計での測定結果を表すチャート図である。
【図3】図3は、本発明のシグナル溶液で、10,10'-置換-9,9'-ビアクリジンで標識された抗体をフラッシュした場合に、得られたシグナルの直線性を表している曲線である。
【図4】図4は、本発明のシグナル剤の様々な配合について得られた、光出力反応速度の変動を示す、反応速度論的研究である。
【図5】図5は、10,10'-パラ-トルイル酸-9,9'-ビアクリジンジニトレートのN-ヒドロキシスクシンイミド誘導体の好ましい合成法の流れの略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原、抗体又はハプテンと複合した10,10'-置換-9,9'-ビアクリジンを含有することを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記10,10'-置換-9,9'-ビアクリジンが、10,10'-パラ-トルイル酸-9,9'-ビアクリジン、10,10'-パラ-トルオ-9,9'-ビアクリジン、10,10'-アセト-9,9'-ビアクリジン、又は10,10'-酢酸-9,9'-ビアクリジンである、請求の範囲第1項記載の組成物。
【請求項3】
10,10'-パラ-トルイル酸-9,9'-ビアクリジニウムジニトレートを含有することを特徴とする組成物。
【請求項4】
10,10'-酢酸-9,9'-ビアクリジニウムジニトレートを含有する、組成物。
【請求項5】
化学アッセイ、イムノアッセイ、リガンド結合アッセイ又はヌクレオチドアッセイにおいて有用な、測定可能な光を放出するための、化学発光システムであって:このシステムが、pHの範囲が約10.0〜約14.0で、酸化電位を有する10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン発光誘導体、及びこの10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン発光誘導体の酸化電位に優ることが可能な酸化体又は酸化体の組み合わせを有するシグナル溶液を含有し、前記10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン発光誘導体が、被検体、被検体の結合相手、又は被検体の結合相手のリガンドと結合していることを特徴とする化学発光システム。
【請求項6】
前記10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン発光誘導体が、10,10'-パラ-トルイル酸-9,9'-ビアクリジン又は10,10'-酢酸-9,9'-ビアクリジンである、請求の範囲第5項記載の化学発光システム。
【請求項7】
更に、緩衝液、キレート剤、スルホキシド、還元糖、及びアルコールを含有する、請求の範囲第5項記載の化学発光システム。
【請求項8】
前記10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン発光誘導体が、10,10'-パラ-トルイル酸-9,9'-ビアクリジン又は10,10'-酢酸-9,9'-ビアクリジンであり、前記緩衝液が、四ホウ酸ナトリウム水溶液であり、前記キレート剤がEDTAであり、前記スルホキシドがDMSOであり、前記還元糖がD(-)フルクトースであり、かつ前記アルコールが2-メチル-2-プロパノールである、酸化体の組み合わせを含有する、請求の範囲第7項記載の化学発光システム。
【請求項9】
前記被検体が、核酸、抗原、抗体、ハプテン、ハプテン複合体、巨大分子、タンパク質又はポリマーである、請求の範囲第5項記載の化学発光システム。
【請求項10】
前記結合相手が、ヌクレオチドプローブ、抗原、抗体、ハプテン、ハプテン複合体、巨大分子、タンパク質又はポリマーである、請求の範囲第5項記載の化学発光システム。
【請求項11】
前記リガンドが、抗原、抗体、ハプテン、ハプテン複合体、巨大分子、タンパク質又はポリマーである、請求の範囲第5項記載の化学発光システム。
【請求項12】
前記10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン発光誘導体が、ビオチン−アビジン又はビオチン−ストレプトアビジン橋によって、被検体、被検体の結合相手、被検体の結合相手のリガンドに結合している、請求の範囲第6項記載の化学発光システム。
【請求項13】
化学アッセイ、リガンド結合アッセイ又は核酸アッセイにおいて有用な、測定可能な光を放出するための、化学発光システムであって:このシステムが、被検体、被検体の結合相手、又は被検体の結合相手のリガンドと結合した10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン発光誘導体、並びにpHの範囲が約10.0〜約14.0の範囲で、酸化体である超酸化カリウム、又は四酸化オスミウム及び超酸化カリウムを含有する酸化体の組み合わせを含むシグナル溶液を有していることを特徴とする化学発光システム。
【請求項14】
前記10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン標識が、10,10'-パラ-トルイル酸-9,9'-ビアクリジニウムジニトレート、10,10'-パラ-トルオ-9,9'-ビアクリジニウムジニトレート、10,10'-アセト-9,9'-ビアクリジニウムジニトレート又は10,10'-酢酸-9,9'-ビアクリジニウムジニトレートである、請求の範囲第13項記載の化学発光システム。
【請求項15】
前記シグナル溶液が、酸化体の組み合わせを含有し、かつ更に、緩衝液、キレート剤、スルホキシド、還元糖、及びアルコールを含有する、請求の範囲第13項記載の化学発光システム。
【請求項16】
前記緩衝液が四ホウ酸ナトリウム水溶液であり、前記キレート剤がEDTAであり、前記スルホキシドがDMSOであり、前記還元糖がD(-)フルクトースであり、かつ前記システムが更にアルコールとして2-メチル-2-プロパノールを含有する、請求の範囲第13項記載の化学発光システム。
【請求項17】
前記ビアクリジン標識が、ビオチン−アビジン又はビオチン−ストレプトアビジン橋によって、被検体、被検体の結合相手、又は被検体の結合相手のリガンドと結合している、請求の範囲第13項記載の化学発光システム。
【請求項18】
試料中の被検体の存在の検出又は量の測定のための、化学発光性の均一系アッセイにおける、10,10'-置換-9,9'-ビアクリジンの使用法であって、下記の工程を含むことを特徴とする方法:
(a)前記被検体の特異的結合相手で被覆された固相を提供する工程;
(b)前記固相を、該試料及びあらかじめ決められた量の10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン-被検体複合体と接触させ、この10,10'-置換-9,9'-ビアクリジンは酸化電位を有し、かつ結合していない10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン-被検体複合体が発光を仲介するのを妨げるようなあらかじめ決められた量のポリアニオンと接触させ、前述の結合相手の少なくとも一部は、10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン-被検体複合体の少なくとも一部と結合している工程;
(c)工程(b)の固相を、結合した10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン被検体複合体の中で、pH約10.0〜約14.0の範囲で、この10,10'-置換-9,9'-ビアクリジンの酸化電位に優る酸化体又は酸化体の組み合わせを含有するシグナル溶液と、接触し、光を放出する工程;及び
(d)工程(c)において放出された光の量を測定する工程であって、前述の放出された光の量は、該試料中に存在する被検体の量と、間接的に比例する工程。
【請求項19】
前記10,10'-置換-9,9'-ビアクリジンが、10,10'-パラ-トルイル酸-9,9'-ビアクリジン誘導体又は10,10'-酢酸-9,9'-ビアクリジン誘導体である、請求の範囲第18項記載の方法。
【請求項20】
前記シグナル溶液が更に、水性緩衝液、キレート剤、スルホキシド、還元糖及びアルコールを含有する、請求の範囲第18項記載の方法。
【請求項21】
前記シグナル溶液が、酸化体四酸化オスミウム及び超酸化カリウムを含有し、かつ更に四ホウ酸ナトリウム水溶液、EDTA、DMSO、D(-)フルクトース及び2-メチル-2-プロパノールを含有する、請求の範囲第18項記載の方法。
【請求項22】
試料中の第一及び第二の被検体の存在を検出するための化学発光性の不均一系アッセイにおける、10,10'-置換-9,9'-ビアクリジンの使用法であって、下記の工程を含むことを特徴とする方法:
(a)第一の特異的結合相手及び第二の特異的結合相手で被覆された固相を提供する工程であって、この第一の結合相手は第一の被検体に特異的であり、及び第二の結合相手は第二の被検体に特異的である工程;
(b)前記固相を、該試料、並びにビアクリジンで標識していない第一被検体複合体、及び10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン-第二被検体複合体と接触させ、この第一の被検体複合体の少なくとも一部は、該第一の結合相手の少なくとも一部と結合し、かつこの第二の被検体複合体の少なくとも一部は、該第二の結合相手の少なくとも一部と結合している工程;
(c)前記接触された固相を洗浄することによって、結合した複合体から、未結合の複合体を分離する工程;
(d)工程(c)で洗浄した固相を、該10,10'-置換-9,9'-ビアクリジンに特異的なシグナル溶液、又は該ビアクリジン非標識に特異的なシグナル溶液のいずれかと接触し、化学反応により光を発生する工程;
(e)工程(d)の反応で生じた光を、検出又は測定する工程;
(f)工程(d)の固相を、工程(d)のシグナル溶液が、前記ビアクリジン非標識に特異的な溶液である場合には、10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン標識に特異的なシグナル溶液と、もしくは工程(d)のシグナル溶液が、前記10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン標識に特異的な溶液である場合には、ビアクリジン非標識に特異的なシグナル溶液と、接触し、化学反応により光を発生する工程;
(g)工程(f)の反応で生じた光を、検出又は測定する工程;及び
(h)工程(e)及び(g)において検出又は測定された光から、第一及び第二の被検体を検出するか、もしくは第一又は第二の被検体の量を決定する工程。
【請求項23】
前記10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン標識が、10,10'-パラ-トルイル酸-9,9'-ビアクリジニウムジニトレート、10,10'-パラ-トルオ-9,9'-ビアクリジニウムジニトレート、10,10'-アセト-9,9'-ビアクリジニウムジニトレート又は10,10'-酢酸-9,9'-ビアクリジニウムジニトレートである、請求の範囲第22項記載の方法。
【請求項24】
前記ビアクリジン非標識が、ジュウテロポルフィリンIX・2HClである、請求の範囲第22項記載の方法。
【請求項25】
工程(c)の洗浄された固相を、工程(f)において、pHが約10.0〜約14.0の範囲の、トランス,トランス-5-(4-ニトロフェニル)-2,4-ペンタジエナール、ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ルミノール又はイソルミノール、グルコース、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム、クメンヒドロペルオキシド、パラ過ヨウ素酸三ナトリウム、及びEDTAを含有する、ジュウテロポルフィリンIX・2HClに特異的なシグナル溶液と接触する、請求の範囲第24項記載の方法。
【請求項26】
工程(c)の洗浄した固相を、工程(f)において、四ホウ酸ナトリウム水溶液、EDTA、DMSO、D(-)フルクトース、KO2及び2-メチル-2-プロパノールを含有する、10,10'-置換-9,9'-ビアクリジンに特異的なシグナル溶液と接触する、請求の範囲第23項記載の方法。
【請求項27】
pHが約10.0〜約14.0の範囲で、水性緩衝液、キレート剤、スルホキシド、還元糖、酸化体又は複数の酸化体、及びアルコールを含有する、化学発光シグナル溶液。
【請求項28】
更に四酸化オスミウムを含有する、請求の範囲第27項記載の化学発光シグナル溶液。
【請求項29】
酸化体として四酸化オスミウム及び超酸化カリウム、四ホウ酸ナトリウム水溶液、EDTA、DMSO、D(-)フルクトース、及び2-メチル-2-プロパノールを含有する、請求の範囲第27項記載の化学発光溶液。
【請求項30】
液体試料中の生体活性のある被検体の存在を検出する、もしくはその未知量の濃度を測定するリガンド結合アッセイ法であって、このような存在又は濃度が、検出可能又は測定可能な反応生成物を生成するための、標識及びシグナル溶液を使用することによって決定され、かつ該標識として10,10'-置換-9,9'-ビアクリジンを、及び該シグナル溶液として、四ホウ酸ナトリウム水溶液を溶媒とする、EDTA、DMSO、D(-)フルクトース、KO2、2-メチル-2-プロパノールの混合物を使用することを特徴とするアッセイ法。
【請求項31】
シグナル溶液、及び被検体、被検体の結合相手、又は被検体の結合相手のリガンドに結合する発光分子で標識された化合物を使用する、化学発光サンドイッチ型アッセイにより、試料中の被検体の存在又は量を測定する方法であって、前記発光分子で標識された化合物として、10,10'-置換-9,9'-ビアクリジンで標識された化合物、未結合ビアクリジンで標識された化合物においてビアクリジンの発光の仲介を阻害するためのあらかじめ決められた量のポリアニオン、並びに該シグナル溶液として、pHが約10.0〜約14.0の、四ホウ酸ナトリウム水溶液中に、EDTA、DMSO、D(-)フルクトース、超酸化カリウム、及び2-メチル-2-プロパノールを含有する溶液を使用することを特徴とする方法。
【請求項32】
少なくとも2種の異なる種の分子によって、測定可能な光を発生する化学発光システムであって、このシステムが、試料中の1種以上の被検体を検出するための、化学アッセイ、リガンド結合アッセイ、イムノアッセイ又はヌクレオチドアッセイにおいて有用であり;かつpHが約10.0〜約14.0の範囲で、第一被検体又は第一被検体の結合相手又は第一被検体の結合相手のリガンドに結合したジュウテロポルフィリンIX・2HCl、第二被検体又は第二被検体の結合相手又は第二被検体の結合相手のリガンドに結合した10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン発光標識、並びにトランス,トランス-5-(4-ニトロフェニル)-2,4-ペンタジエナール、ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ルミノール、グルコース、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム、クメンヒドロペルオキシド、パラ過ヨウ素酸三ナトリウム、超酸化カリウム、及びEDTAの混合物を含有する第一シグナル溶液、並びに四ホウ酸ナトリウム水溶液を溶媒とする、EDTA、DMSO、D(-)フルクトース、超酸化カリウム、及び2-メチル-2-プロパノールの混合物を含有する第二シグナル溶液を含むことを特徴とする発光システム。
【請求項33】
更に、あらかじめ定められた量のポリカチオンを含有する、請求の範囲第32項記載の発光システム。
【請求項34】
更に、あらかじめ定められた量のポリアニオンを含有する、請求の範囲第32項記載の発光システム。
【請求項35】
下記の工程を含むことを特徴とする10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン誘導体の調製法。
(a)置換体分子のメチルエステルを合成し、この置換体分子が、少なくとも1個の官能基を有する工程;
(b)アクリドン、水素化ナトリウム、無水テトラヒドロフラン、及び工程(a)で得られたメチルエステルを混合して、アクリドン-10-置換-メチルエステルを生成することによる、アクリドンのアルキル化の工程;
(c)工程(b)で得られたアクリドン-10-置換-メチルエステルを、オキシ塩化リンと反応し、四級化した9-塩化-アクリジン-10-置換の-メチルエステルを生成する工程;
(d)工程(c)の9-塩化-アクリジン-10-置換-メチルエステルを、金属亜鉛及び濃塩酸と反応し、四級化し、脱エステル化した、二量体化された、10,10'-置換-9,9'-ビアクリジン塩を生成する工程;
(e)工程(d)のビアクリジン塩を硝酸と反応して、10,10'-置換-9,9'-ビアクリジニウムジニトレートを生成する工程;
(f)工程(e)で得られた二量体ジニトレートを、ジメチルホルムアミド中で、カルボジイミド及びN-ヒドロキシスクシンイミドと反応することによって、更に誘導体化し、ビス-NHS-10,10'-置換-9,9'-ビアクリジニウムジニトレートを生成する工程。
【請求項36】
ビス-NHS-10,10'-パラ-トルオ-9,9'-ビアクリジニウムジニトレートを含有する、組成物。
【請求項37】
ビス-NHS-10,10'-アセト-9,9'-ビアクリジニウムジニトレートを含有する、組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−292771(P2006−292771A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−184461(P2006−184461)
【出願日】平成18年7月4日(2006.7.4)
【分割の表示】特願平8−503340の分割
【原出願日】平成7年6月22日(1995.6.22)
【出願人】(506190588)
【Fターム(参考)】