説明

2−オキシインドール類の製造方法

【課題】 イサチン類を原料とし、中間体であるヒドラゾン体を経由して2−オキシインドール類を製造する方法において、ヒドラゾン体の分離、精製の必要がなく、温和な温度域で2−オキシインドール類を収率よく得る方法を提供する。
【解決手段】 置換または非置換のイサチンを、芳香族炭化水素又はハロゲン化芳香族炭化水素からなる溶媒中でヒドラジンと反応させて得られる反応混合物を共沸脱水し、次いでアルカリ金属アルコキシドのような強塩基を加えて反応させ、2−オキシインドール類を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品等の原料として有用な2−オキシインドール類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2−オキシインドールを製造する方法は種々知られており、その中で、イサチンを原料に用いる方法もすでに知られている。例えば、下記式で示す経路にしたがって、メタノール中でイサチン(4)にヒドラジン水和物を反応させてヒドラゾン体(5)の懸濁した反応混合物を得、これからヒドラゾン体(5)を単離して、脱水エタノール中、ナトリウムエトキシドの存在下、加温下でウォルフーキシュナー還元(Wolff−Kishner還元)を受けさせることにより、2−オキシインドール(6)を製造する方法が知られている(例えば特許文献1、非特許文献1参照)。この提案においては、中間体であるヒドラゾン体(5)の分離、乾燥工程が必要である。また還元反応に使用するナトリウムエトキシドは、水と反応すると触媒活性を失うため、ヒドラゾン体(5)との反応においては、溶媒として高価な脱水エタノールを使用する必要がある。また原料イサチン(4)に対する2−オキシインドール(6)の収率は、必ずしも高くないという問題もあった。
【0003】
【化1】

【0004】
またイサチン(4)を100%ヒドラジンに溶解して、加温下に反応させて、直接2−オキシインドール(6)を製造する方法も知られている(非特許文献2)。しかしながらこの方法においては、100%ヒドラジンは酸化剤の存在下で爆発する危険性があり、取り扱いには非常に注意を要するため、工業的に採用するには問題がある。
【0005】
【特許文献1】特公平4-9781号公報
【非特許文献1】ジャーナル オブ ケミカル エデュケーション(J.Chem.Edu.)70巻、332頁(1993年)
【非特許文献2】シンセシス コミュニケーション(Synthesis Commum.)24巻、2835頁(1994年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明者らは、イサチン類を原料とし、上記のような問題点を有しない2−オキシインドール類の製造方法を開発すべく、鋭意検討を行った。その結果、中間体であるヒドラゾン体の分離、精製の必要がなく、また取り扱いに注意を要する100%ヒドラジンを使用することなく、温和な条件下で2−オキシインドール類を収率よく製造する方法を見出すに至った。したがって本発明の目的は、安全かつ経済的な2−オキシインドール類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、下記一般式(1)
【化2】

(式中、Rは水素、ハロゲン原子、炭化水素基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基又はアシロキシ基である)で示されるイサチン類を、芳香族炭化水素又はハロゲン化芳香族炭化水素からなる溶媒中でヒドラジンと反応させた後、共沸脱水し、次いで強塩基と反応させることを特徴とする、下記一般式(2)
【0008】
【化3】

(式中、Rは上記と同じ)で示される2−オキシインドール類の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、イサチン類とヒドラジンの反応混合物から中間体であるヒドラゾン体を単離する必要がなく、単に共沸脱水操作を加えるのみでそのまま強塩基との反応に使用することができるので、簡単な操作によって2−オキシインドール類を製造することができる。またヒドラジンとして、100%ヒドラジンを使用する必要がなく、取り扱いが容易な水和物を使用することができ、また前段及び後段の反応において、同一の安価な溶媒を使用することができるという利点があり、さらに原料イサチン類に対する2−オキシインドール類の収率が良好であるので、安全で工業的に有利に2−オキシインドール類を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の反応は、下記経路にしたがって行われる。
【化4】

【0011】
上式(1)で示される原料のイサチン類において、Rは水素;ハロゲン原子、例えば弗素、臭素、塩素など;炭化水素基、例えばメチル、エチルなどのアルキル基やフェニル、ナフチルなどのアリール基など;ニトロ基;置換又は非置換のアミノ基、例えばアミノ、ジメチルアミノ、アニリノなど;ヒドロキシル基;アルコキシ基、例えばメトキシ、エトキシなど;アリールオキシ基、例えばフェノキシなど;及びアシロキシ基、例えばアセトキシなど;から選ばれるものである。これらRは、4位、5位、6位又は7位に存在することができる。例えば5−フルオロイサチンを原料に用いると、医薬原料として特に有用な5−フルオロオキシインドールを工業的に有利に製造することができる。原料のイサチン類(1)としては、いかなる方法で製造されたものでも使用可能であり、例えばアニリン類に抱水クロラール及びヒドロキシルアミンを反応させてイソニトロソアセトアニリド類を合成し、次いでこれに濃硫酸を作用させて環化することによって製造されたものを使用することができる。
【0012】
本発明においては先ず、イサチン類(1)を、芳香族炭化水素又はハロゲン化炭化水素からなる溶媒中、ヒドラジンと反応させることによって、ヒドラゾン体(3)を製造する。溶媒として使用可能な芳香族炭化水素としては、例えばトルエン、キシレン、エチルベンベン、ベンゼンなどを例示することができる。またハロゲン化芳香族炭化水素としては、クロロベンゼンを代表例として例示することができる。これらは2種以上混合して用いてもよい。これらの中では、経済性、取り扱い性などを考慮すると、とくにトルエンを使用するのが好ましい。上記溶媒の使用量は、反応系が攪拌可能であれば特に限定されないが、操作性、経済性等を考慮すると、イサチン類(1)に対し、1〜20重量倍程度、とくに2〜15重量倍程度の割合とするのが好ましい。
【0013】
上記反応に使用されるヒドラジンは、無水のものでも水和物でもよく、これらは水あるいはメタノールやエタノールなどのアルコール系溶媒で希釈した溶液で使用することができる。ヒドラジンを水やアルコール系溶媒に溶解して用いる場合は、溶媒の使用量は、ヒドラジンに対し、10重量倍以下程度とするのが好ましい。ヒドラジンは、イサチン類(1)1モルに対し、通常0.8〜10モル、好ましくは0.9〜5モルの割合で使用される。
【0014】
イサチン類(1)とヒドラジンの反応はいかなる方法で行ってもよいが、イサチン類(1)を芳香族炭化水素又はハロゲン化炭化水素からなる溶媒に溶解した溶液中に、ヒドラジンを滴下し、引き続き攪拌することによって行うのが好ましい。反応は、通常0〜130℃、好ましくは20〜70℃の温度範囲で行われる。また反応時間は、反応温度によっても異なるが、原料がほぼ消失するまで行えばよく、例えば0.1〜24時間の範囲である。
【0015】
上記反応によって得られる反応混合物中には、反応によって生成する水や原料に由来する水が含まれているので、還流下に溶媒として用いた芳香族炭化水素又はハロゲン化炭化水素などとの共沸によって留去し、脱水する。共沸脱水は、反応混合物中の水分が0.5%以下、好ましくは0.3%以下となるまで行えばよい。ヒドラジンをアルコール系溶媒に希釈して使用する場合には、このときにアルコール系溶媒も同時に除かれる。
【0016】
共沸脱水後の反応混合物は、反応に用いた芳香族炭化水素又はハロゲン化芳香族炭化水素にヒドラゾン体(3)が懸濁した溶液となっており、本発明においてはこれに強塩基を作用させることによってウォルフーキシュナー還元を行い、2-オキシインドール類を製造する。反応に用いられる強塩基としては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムブトキシドのようなアルカリ金属アルコキシド、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのようなアルカリ金属水酸化物などを挙げることができる。これらは好ましくは、メタノールやエタノールなどのアルコール溶液として使用するのが好ましい。強塩基の使用量は、前段の反応に用いたイサチン類(1)1モルに対して、一般には0.1〜10モル、好ましくは1〜6モルの範囲である。
【0017】
ヒドラゾン体(3)と強塩基との反応は、例えば共沸脱水後の反応混合物中に強塩基のアルコール溶液を滴下し、引き続き攪拌することによって行うことができる。反応に際して、共沸脱水後の反応混合物に新たな芳香族炭化水素又はハロゲン化芳香族炭化水素を添加して濃度調整を行ってもよい。いずれにしても反応混合物中、ヒドラゾン体(3)に対し1〜20重量倍程度、とくに2〜10重量倍程度の割合で芳香族炭化水素又はハロゲン化炭化水素が存在することが望ましい。反応温度は0℃以上で溶媒の還流温度以下とするのが一般的である。また反応は、ヒドラゾン体(3)がほぼ消失するまで行えばよく、反応温度によっても異なるが、例えば0.1〜24時間の範囲である。
【0018】
このようにして得られる2−オキシインドール類(2)を含有する反応混合物に対し、常法の後処理操作、例えば抽出や濃縮などを行った後、必要に応じて再結晶や蒸留等の精製操作を加えることにより、所望純度の2−オキシインドール類(2)を単離することができる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、高速液体クロマトグラフィによる分析は、下記条件にて行った。
測定条件
カラム:Inetersil-gel ODS-80A(島津製作所社製)、長さ250mm、内径4.6 mm
移動相:A=0.1%リン酸水溶液
B=メタノール
移動相比:A/B=50/50(容量比)
検出器:UV(254nm)
流速:1ml/分
カラム温度:40℃
【0020】
[実施例1]
攪拌機、温度計、ディーンスターク管及び還流冷却器を備えた300mlガラス製フラスコに、イサチン11.7g(78.8ミリモル)とトルエン116.2gを加え、室温で攪拌した。これに、80%ヒドラジン1水和物5.5g(88.5ミリモル)をメタノール19.6gで希釈した溶液を7分間かけて滴下した後、室温で4時間攪拌して反応させた。得られた反応混合物から、共沸脱水により、水を除去した。共沸脱水後の反応混合物を高速液体クロマトグラフィで分析したところ、トルエン以外の成分の割合は、面積%でヒドラゾン体が92.4%、原料イサチンが0%であった。この反応混合物を50℃以下の温度に冷却した後、これに、28%ナトリウムメトキシド溶液60.8g(315.2ミリモル)を7分かけて滴下した。その後、70℃に加熱し、1時間攪拌して反応させた。
【0021】
得られた反応混合物から減圧蒸留によりトルエンを留去させた後、残留分を水20.1gに懸濁させ、濃塩酸によりpH3以下に調整した。懸濁液からろ過により固体生成物を回収し、水で洗浄した。生成物を真空乾燥し、黄土色粉末状の粗2−オキシインドール10.7g(純度80.0%)を得た。原料イサチンに対する収率は87.3%であった。
【0022】
[実施例2]
攪拌機、温度計、ディーンスターク管及び還流冷却器を備えた2リットルガラス製フラスコに、5−フルオロイサチン100.0g(562.3ミリモル)とトルエン902.0gを加え、室温で攪拌した。これに、80%ヒドラジン1水和物43.1g(668.5ミリモル)を3分間かけて滴下した後、室温で4時間攪拌して反応させた。得られた反応混合物から、共沸脱水により、水を除去した。共沸脱水後の反応混合物を高速液体クロマトグラフィで分析したところ、トルエン以外の成分の割合は、面積%でヒドラゾン体が73.3%、原料5−フルオロイサチンが1.1%であった。共沸脱水後の反応混合物を50℃以下の温度に冷却した後、これに28%ナトリウムメトキシド溶液434.4g(2.251モル)を4分かけて滴下した。その後、70℃に加熱し、1時間攪拌して反応させた。
【0023】
得られた反応混合物から減圧蒸留によりトルエンを留去させた後、水516gに懸濁
させ、濃塩酸によりpH3以下に調整した。懸濁液からろ過により固体生成物を回収し、水で洗浄した。生成物を真空乾燥し、融点138.6〜140.1℃の黄土色粉末状の粗5−フルオロ−2−オキシインドール90.3g(純度77.4重量%)を得た。原料5−フルオロイサチンに対する収率は82.9モル%であった。
【0024】
また粗5−フルオロ−2−オキシインドールのGC/MSを測定した結果、そのチャートは図1に示す通りであり、e/m=152(M+1)であった。尚、GC/MSの測定条件は次の通りである。
装置:島津OP−5000・GC−17A
カラム:Shimazu CBP-1、長さ25m、内径0.32mm
インジェクター温度:300℃
インターフェース温度:260℃
カラム温度:200℃→280℃、昇温速度:5℃/分
キャリアーガス:ヘリウム
【0025】
[比較例1]
攪拌機、温度計及び還流冷却器を備えた100mlガラス製フラスコに、5−フルオロイサチン5.0g(18.2ミリモル)とエタノール46.5gを加え、室温で攪拌した。これにヒドラジン1水和物2.27g(45.4ミリモル)を添加し、還流条件下に2.5時間反応させた。得られた反応混合物から、ろ別、乾燥することにより、中間体であるヒドラゾン体4.8g(純度(高速液体クロマトグラフィによる面積%)50.1%)を得た。
【0026】
別に、攪拌機、温度計及び還流冷却器を備えた100mlガラス製フラスコに、ナトリウムメトキシド1.3g(23.5ミリモル)をエタノール18.7gに溶解させ、上記ヒドラゾン体3.0gを10分間かけて分割添加し、その後、還流条件下で3時時間反応させた。得られた反応混合物からエタノールを減圧下に留去した。この濃縮残渣を水7.9gに溶解させ、活性炭0.89gを用いて脱色し、その溶液を塩酸に滴下した。生成した懸濁液から固体をろ過により回収し、水で洗浄した。生成物を真空乾燥し、黄土色粉末状の粗5−フルオロ−2−オキシインドール1.6g(純度16.0重量%)を得た。原料5−フルオロイサチンに対する収率は38.2モル%であった。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例で得られた粗5−フルオロ−2−オキシインドールのガスクロマトグラフィのチャートである。
【図2】上記5−フルオロ−2−オキシインドール成分のマススペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、Rは水素、ハロゲン原子、炭化水素基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基又はアシロキシ基である)で示されるイサチン類を、芳香族炭化水素又はハロゲン化芳香族炭化水素からなる溶媒中でヒドラジンと反応させた後に、共沸脱水し、次いで強塩基と反応させることを特徴とする、下記一般式(2)
【化2】

(式中、Rは上記と同じ)で示される2−オキシインドール類の製造方法。
【請求項2】
芳香族炭化水素がトルエンである請求項1記載の2−オキシインドール類の製造方法。
【請求項3】
ヒドラジンを、イサチン類を芳香族炭化水素溶媒中に溶解した溶液中に滴下することを特徴とする請求項1又は2に記載の2−オキシインドール類の製造方法。
【請求項4】
強塩基が、アルカリ金属アルコキシドである請求項1〜3のいずれかに記載の2−オキシインドール類の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−249048(P2006−249048A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−71561(P2005−71561)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(398037527)エア・ウォーター・ケミカル株式会社 (15)
【Fターム(参考)】