説明

2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFC−1233xf)を製造するための改良された方法

本発明は、1,1,2,3−テトラクロロプロペン、1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパン、および/または2,3,3,3−テトラクロロプロペンを気相反応容器中で気相フッ素化触媒および安定剤の存在下にフッ化水素と反応させることによって、2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFC−1233xf)を製造するための改良された方法に関する。HCFC−1233xfは、地球温暖化係数が低い冷媒である2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)の製造における中間体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒドロクロロフルオロオレフィン類を製造するための方法に関する。より詳しくは、本発明は2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFC−1233xf)の合成に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロカーボン系流体は、冷媒、エアゾール噴射剤、発泡剤、熱伝達媒体、および気体誘電体としての用途を含むいくつかの用途において工業的に広く用いられてきた。付随する比較的高い地球温暖化係数を含め、これらの流体のいくつかの使用に関連する環境問題が疑われているため、オゾン層破壊係数がゼロであることに加えて地球温暖化係数(温室効果係数)ができる限り低い流体を使用することが望ましい。したがって、上述の用途のために、より環境に優しい材料を開発することには大きな関心が持たれている。
【0003】
テトラフルオロプロペン類はオゾン層破壊が基本的になく、地球温暖化係数が低いため、このような必要性を満たす可能性があるものとして認められてきた。しかしながら、この種の化学物質の毒性、沸点、および他の物理的特性は、1つの化合物の異なった異性体の間でさえも大きく変動する。有益な性質を有する1つのテトラフルオロプロペンは2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)である。HFO−1234yfは、効果的な冷媒、熱伝達媒体、噴射剤、起泡剤、発泡剤、気体誘電体、滅菌剤担体、重合媒体、粒子除去流体、担体流体、バフ研磨剤、置換乾燥剤および動力サイクル作動流体であることが見いだされてきた。したがって、テトラフルオロプロペン類、特に2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造のための新規な製造プロセスへの必要性が存在する。
【0004】
テトラフルオロプロペン類を製造するための1つのプロセスには、テトラクロロプロペン類の反応物としての使用が含まれる(米国特許出願公開第2007/0197842号公報(特許文献1))。さらに、ヒドロフルオロアルケン類を調製するいくつかの他の方法が知られている。例えば、米国特許第4,900,874号明細書(Iharaら)には、水素ガスをフッ素化アルコール類と接触させることによってフッ素含有オレフィン類を製造する方法が記載されている(特許文献2)。米国特許第2,931,840号明細書(Marquis)には、塩化メチルおよびテトラフルオロエチレンまたはクロロジフルオロメタンの熱分解によってフッ素含有オレフィン類を製造する方法が記載されている(特許文献3)。トリフルオロアセチルアセトンおよび四フッ化硫黄からのHFO−1234yfの調製が記載されている。Banksら、Journal of Fluorine Chemistry、82巻、2号、171〜174頁(1997年)を参照されたい(非特許文献1)。また、米国特許第5,162,594号明細書(Krespan)には、テトラフルオロエチレンを液相で別のフッ素化エチレンと反応させてポリフルオロオレフィン生成物を製造するプロセスが記載されている(特許文献4)。
【0005】
従前の教示にかかわらず、本出願人らは、ある種のヒドロハロカーボン類の中間体、特に2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)等のテトラフルオロプロペン類の調製における中間体としてある程度有用な化合物を効率的に調製する方法に対する必要性が引き続き存在することを認識するに至った。
【0006】
先行技術によって、個別の工程ならびに異種の反応条件、試薬、および触媒を含む、ポリハロオレフィン生成物の種々の調製のためのプロセスが開示されている。したがって、そのような多段階プロセスの効率は、それぞれの個別の工程の効率によって制限される。したがって、1つの非効率的な工程によって、全体のプロセスがより資源集約的になる可能性があり、中間体を所望のフルオロカーボン生成物へ変換する際により非効率的になり、またより非生産的なものとなって、不純物生成の増大による収率損失を被ることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0197842 A1号公報
【特許文献2】米国特許第4,900,874号明細書
【特許文献3】米国特許第2,931,840号明細書
【特許文献4】米国特許第5,162,594号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Banksら、Journal of Fluorine Chemistry、82巻、2号、171〜174頁(1997年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、実質的に触媒寿命を長くすることによって、より長期にわたって中間体からの最終生成物であるポリハロオレフィンへの変換率を増大させる、資源集約性のより低いプロセスを提供する。これは、テトラクロロプロペンを安定剤の存在下でフッ素化剤および触媒を用いてフッ素化するという本出願人らの発見によって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本出願人らは、2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン等のテトラハロプロペンを製造するための改良された方法を見いだした。この方法は、1,1,2,3−テトラクロロプロペン、1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパン(HCC−240db)、および2,3,3,3−テトラクロロプロペンの群から選択される1種のクロロカーボンまたは混合クロロカーボンの供給原料を、所望のテトラハロプロペンを生成するために有効な条件で、気相反応容器中で気相フッ素化触媒および少なくとも1種の安定剤の存在下にフッ化水素と反応させる工程を含む。
【0011】
好ましい接触工程によって、テトラハロプロペン、特に2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HFO−1233xf)を含む反応生成物が好ましくは生成される。好ましい実施形態においては、この接触工程は、テトラクロロプロペンおよび/またはペンタクロロプロパンを、少なくとも1種の触媒および少なくとも1種の安定剤の存在下に気相でHF等のフッ素化剤と反応させる工程を含む。特に好ましい実施形態においては、触媒はCrであり、安定剤はジイソプロピルアミンである。ある好ましい実施形態においては、テトラクロロプロペンの変換率は約70%〜約100%であり、HFO−1233xfの選択率は約50%〜約99%である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の1つの有益な側面は、それによって所望のハロオレフィン類、好ましくはC3ハロオレフィン類が、短寿命触媒の低性能による非効率性なしに製造できることである。より具体的には、本発明のある好ましい実施形態には、少なくとも1種の触媒および少なくとも1種の安定剤を併用して所望のC3ハロオレフィン類を生成することが含まれる。本出願人らは、触媒成分とともに少なくとも1種の安定剤を使用することにより、触媒寿命の顕著な改善がもたらされることを見いだした。好ましい実施形態においては、触媒寿命は少なくとも43%、より好ましくは少なくとも50%改善される。したがって、触媒使用量が減少し、出発原料から所望の生成物への変換率の増大がもたらされるので、結果としてのプロセスは著しく効率が高く、費用効率が高い。
【0013】
本出願人らは、1種または複数の所望のハロオレフィン類、特にヒドロフルオロプロペン類の製造は、触媒性能が著しく低いために非効率的であったことを認識していた。非限定的な説明としては、以下にさらに詳細に述べるように、そのような低い性能は触媒が関与する副重合反応またはコーキング(コークス化)の結果とも考えられる。本出願人らはまた予想外にも、反応混合物中の安定剤の存在によってこの重合またはコーキングが実質的に防止され、好ましい実施形態においては、安定剤なしで触媒を用いて実施される反応に比べて、触媒性能が好ましくは少なくとも43%、より好ましくは少なくとも50%改善されることを発見した。
【0014】
好ましくは、1,1,2,3−テトラクロロプロペン、2,3,3,3−テトラクロロプロペン、または1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンまたはそれらの混合物を反応条件にさらすことによって、2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを含む反応生成物が生成される。好ましいプロセスの好ましい実施形態を、非限定的に詳しく以下に記載する。
【0015】
本発明の方法は、好ましくは1,1,2,3−テトラクロロプロペン、1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパン(HCC−240db)、および2,3,3,3−テトラクロロプロペンの群から選択される1種のクロロカーボンまたは混合クロロカーボンの供給原料をフッ素化剤と反応させて、フッ素化ハロオレフィン、好ましくはC3フッ素化ハロオレフィン、より好ましくは2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HFC−1233xf)を製造することを含む。この好ましい反応工程は、説明としてであって必ずしも限定としてではないが、以下の反応式によって記述することができる。この反応式は、テトラクロロプロペンが1,1,2,3−テトラクロロプロペンであり、フッ素化剤がフッ化水素である実施形態に関連している:
CHClCCl=CCl+3HF→CFCCl=CH+3HCl
【0016】
ある好ましい実施形態においては、本変換工程はテトラクロロプロペンの変換率を少なくとも約40%、より好ましくは少なくとも約55%、さらにより好ましくは少なくとも約70%とするために効果的な条件下で実施される。ある好ましい実施形態においては、変換率は少なくとも約90%、より好ましくは約100%である。さらにある好ましい実施形態においては、C3ハロオレフィンを生成するためのテトラクロロプロペンの変換は、C3ハロオレフィンの選択率を少なくとも約85%、より好ましくは少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%、さらにより好ましくは約100%とするために効果的な条件下で実施される。
【0017】
特に好ましい実施形態においては、本発明は、1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパン(HCC−240db)、2,3,3,3−テトラクロロプロペン、および1,1,2,3−テトラクロロプロペン(HCC−1230xf)の群から選択される1種のクロロカーボンまたは混合クロロカーボンの供給原料のフッ化水素を用いる気相フッ素化により、フッ化水素、2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよび塩化水素を含む流れを生成して、2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFC−1233xf)を製造するための連続的方法に関する。
【0018】
この反応は、気相または液相フッ素化反応に適した任意の反応器中で実施することができる。好ましくは、反応器はハステロイ(Hastelloy)、インコネル(Inconel)、モネル(Monel)およびフッ素化ポリマーでライニング(裏打ち)された容器等の、フッ化水素および触媒の腐食性に耐え得る材料で構成されている。気相プロセスの場合、反応器は気相フッ素化触媒で満たされる。当技術分野で既知の任意のフッ素化触媒をこのプロセスにおいて使用することができる。適当な触媒には、これらに限らないが、クロム、アルミニウム、コバルト、マンガン、ニッケルおよび鉄の、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、オキシハロゲン化物、それらの無機塩およびそれらの混合物が含まれる。本発明に適した触媒の組合せには、これらに限定されないが、Cr、FeCl/C、Cr/Al、Cr/AlF、Cr/炭素、CoCl/Cr/Al、NiCl/Cr/Al、CoCl/AlF、NiCl/AlFおよびそれらの混合物が含まれる。酸化クロム/酸化アルミニウム触媒は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,155,082号明細書に記載されている。結晶酸化クロムまたは非晶質酸化クロム等の酸化クロム(III)が好ましく、非晶質酸化クロムが最も好ましい。酸化クロム(Cr)は商業的に入手可能な材料で、種々の粒子サイズのものが購入できる。純度が少なくとも98%のフッ素化触媒が好ましい。フッ素化触媒は過剰に存在するが、少なくとも反応を推進するために充分な量で存在する。
【0019】
反応器はフッ素化反応温度に予熱され、その間に無水HFが反応器に供給される。次にクロロカーボン供給原料、例えば1,1,2,3−テトラクロロプロペンおよび安定剤を含む流れが、所望の温度に維持された反応容器に導入される。1,1,2,3−テトラクロロプロペン(HCC−1230xf)およびHFは、任意の好都合な温度および圧力で反応器に供給してよい。好ましい実施形態においては、HCC−1230xfおよびHFのいずれかまたは両方は、反応器に入る前に約30℃〜約300℃の温度に予備気化されるかまたは予熱される。別の実施形態においては、HCC−1230xfおよびHFは反応器内で気化される。HFおよびHCC−1230xfの供給物は、次に所望のモル比に調整される。HF対HCC−1230xfのモル比は、好ましくは約3:1〜約100:1、より好ましくは約4:1〜約50:1、最も好ましくは約5:1〜約20:1の範囲である。
【0020】
気相フッ素化反応は、約80℃〜約400℃、より好ましくは約100℃〜約350℃、最も好ましくは約200℃〜約330℃の範囲の好ましい温度で実施される。反応器圧力は重要ではなく、大気圧を超えても、大気圧でも、または減圧下でもよい。減圧は、約0.667kPa(5torr(0.0966psig))〜約101kPa(760torr(14.69psig))とすることができる。気相フッ素化反応の間、HCC−1230xfおよびHFはフッ素化触媒の存在下に気相で反応させられる。反応蒸気は、約1〜120秒間またはより好ましくは約1〜20秒間、フッ素化触媒と接触させられる。本発明の目的においては、「接触時間」とは、触媒床が100%の空隙率であると仮定して、気体反応物が触媒床を通過するために必要な時間である。
【0021】
好ましい実施形態においては、プロセス流は触媒床を通過する下方に向かう方向の流れである。それぞれの使用の前に、触媒は好ましくは乾燥され、前処理され、活性化される。長期使用後に、触媒を反応器内の所定の位置に置いたまま定期的に再生することも有利になり得る。前処理は、触媒を窒素または他の不活性ガスの気流下で約250℃〜約430℃に加熱することによって実施することができる。次に、触媒の高い活性を得るため、大過剰の窒素ガスで希釈したHFの流れで触媒を処理することによって、触媒を活性化してもよい。触媒の再生は、例えば、約100℃〜約400℃、好ましくは約200℃〜約375℃の温度で、反応器の大きさによるが約8時間〜約3日間、空気または窒素で希釈した空気を触媒に通すことによって等の、当技術分野で既知の任意の手段によって達成することができる。
【0022】
このように、本反応は、本明細書に含まれる全体の教示を考慮し、多様のプロセスパラメーターおよびプロセス条件を用いて実施することができることが意図されている。しかしながら、ある実施形態においては、本反応工程は、好ましくは触媒および安定剤の存在下における気相反応を含むことが好ましい。
【0023】
本反応はまた、少なくとも1種の安定剤の使用を組み込んでいる。本出願人らは、少なくとも1種の安定剤を反応に添加することにより、好ましくは少なくとも43%、より好ましくは少なくとも50%の触媒寿命の顕著な延長がもたらされることを見いだした。非限定的な説明として、安定剤の存在は、出発原料と触媒との望ましくない重合を実質的に防止すると考えられる。安定剤の非存在下では、この重合副反応により、触媒は数時間の期間で効果を失う。
【0024】
本反応における使用に適した安定剤にはハロゲン化反応、特にアルカン類、アルケン類、およびアルキン類が関与するハロゲン化反応において使用される既知のものが含まれる。いくつかの実施形態においては、安定剤はp−tap(4−tert−アミルフェノール)、メトキシヒドロキノン、4−メトキシフェノール(HQMME)、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ブチルヒドロキシアニソール(butylated hydroxy anisol;BHA)、チモールおよびこれらの組合せを含む群から選択される。ある好ましい実施形態においては、安定剤はアミン系安定剤を含む。より好ましくは、安定剤はトリエチルアミン、ジイソプロピルアミンまたはこれらの組合せを含む。もちろん、これらの安定剤の任意のものの2種以上の組合せ、またはここで挙げなかった他の安定剤を用いることができる。
【0025】
安定剤は好ましくは300ppm未満の量、より好ましくは100ppm未満の量、最も好ましくは10ppm未満の量で存在する。非限定的な説明として、安定剤の量を最小化することによって触媒の不活性化の可能性が低減されると考えられる。
【0026】
ある好ましい実施形態においては、テトラクロロプロペンをフッ素化してC3ハロオレフィンを生成する本発明の工程は、好ましくはテトラクロロプロペンの変換率を少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも約55%、さらにより好ましくは少なくとも約70%とするために効果的な条件下でテトラクロロプロペンをフッ素化剤と接触させることを含む。ある好ましい実施形態においては、変換率は少なくとも約90%、より好ましくは約100%である。さらに、ある好ましい実施形態においては、テトラクロロプロペンをフッ素化してC3ハロオレフィンを生成する本発明の工程は、C3ハロオレフィンの選択率を少なくとも約5%、より好ましくは少なくとも約20%、より好ましくは少なくとも約50%、さらにより好ましくは少なくとも約90%とするために効果的な条件下で実施される。テトラクロロプロペン化合物がCHClCCl=CCl、およびCClCHCl=CHを含む実施形態においては、HFO−1233xfへの選択率は少なくとも約5%、より好ましくは少なくとも約20%、より好ましくは少なくとも約50%、さらにより好ましくは少なくとも約99%である。
【実施例】
【0027】
本発明の追加的な特徴を以下の実施例に示すが、これらはいかなる様式でも特許請求の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0028】
実施例1〜2:
これらの実施例では、安定剤の非存在下での気相反応におけるCHClCCl=CClへのフッ化水素の添加を説明する。これは以下の反応スキームで示される:
CHClCCl=CCl+3HF→CFCCl=CH+3HCl
【0029】
二連ゾーン反応器の高温ゾーンに65ccの前処理したCr触媒を、低温ゾーンに65ccの4〜6重量%FeCl/C触媒を仕込んだ。この反応器には2つのゾーンとともにヒーターが内側に取り付けられていた。高温ゾーンを350℃に保ち、低温ゾーンを180℃に保った。有機供給原料(CHClCCl=CCl)およびフッ化水素を、それぞれ約22〜約27g/時間および約35〜約45g/時間の速度で、蠕動ポンプを通じて反応器に供給し、HF/有機物モル比を約14:1とした。有機供給原料およびHFを含むガス流を、約207kPa(約30psig)の圧力で約19時間までの間にわたって触媒床に通した。Cr床を通した接触時間は約6.4秒で、FeCl/C床を通した接触時間は約8.8秒であった。
【0030】
HFおよびHClを吸収するための脱イオン水を入れて反応器出口ラインに取り付けた個別の生成物収集シリンダーに集めた反応器流出物を、GCおよびGC/MSを用いて分析した。次にCFCCl=CH(HFC−1233xf)粗生成物を含む有機相を相分離によって混合物から分離した。以下の表Iにおいて、実施例1は運転時間4〜13時間の間に収集した反応器流出物であった。また以下の表Iにおいて、実施例2は運転時間14〜19時間の間に収集した反応器流出物であった。有機供給原料の全変換率は少なくとも約57%で、HFC−1233xfへの選択率は少なくとも約75%であった。結果を以下の表Iに示す。
【0031】
【表1】

【0032】
生成した他の副生成物には、1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(1223xd)の他、フッ素化量の少ない中間体であるジクロロジフルオロプロペン(1232異性体)およびトリクロロフルオロプロペン(1231異性体)が含まれている。
【0033】
実施例1〜2において、触媒は約4〜5時間で実質的な活性を失うことが観察された。実験に際して、触媒は反応器内で互いに融合したように見え、そのためにドリルによって除去しなければならなかった。出願人らは、観察された触媒の融合は触媒と有機供給原料との重合によるものと仮定している。
【0034】
実施例3〜5
これらの実施例では、安定剤の存在下での気相反応におけるCHClCCl=CClへのフッ化水素の添加を説明する。
【0035】
圧力を約138kPa(約20psig)に保ち、HF/有機物モル比を約16:1とし、安定剤として20ppmのHQMMEを有機供給原料に添加したこと以外は実施例1〜2の方法を繰り返した。実施例5については、反応は触媒が不活性化するまで、即ち約43時間実施した。結果を以下の表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
生成した他の副生成物には、1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(1223xd)およびテトラフルオロモノクロロプロパン(HCFC−244bb等)ならびにフッ素化量の少ない中間体であるジクロロジフルオロプロペン(1232異性体)およびトリクロロフルオロプロペン(1231異性体)が含まれていた。
【0038】
安定剤が存在しない実施例1〜2と比較して、実施例3〜5では触媒寿命が顕著に長くなっていることが示された。特に、触媒は40時間を超えて連続使用した後でさえも実質的に機能を有していた。さらに、有機供給原料の変換率は安定剤の添加により変換率約57%から変換率約99%に増大した。さらに、実施例1〜2で取り出した触媒とは異なり、触媒を反応器から取り出した際に、その外観は変化していなかった。このことは、安定剤と併用した際の、本特許請求の範囲に記載した反応における触媒の予想外に優れた性能に関する出願人らの発見を実証するものである。
【0039】
実施例6〜20:
これらの実施例では、炭素鋼、ステンレス鋼およびモネル金属片の存在下に種々の安定剤を用い、種々の温度で実施したCHClCCl=CClの安定性試験を説明する。それぞれの安定剤は濃度100ppmで用い、室温から100℃および/または150℃まで加熱した。次にそれぞれの安定剤を結果に従って順位付けし、最も安定性の悪い組合せを評点1、150℃において最も安定な組合せを評点10とした。結果を以下の表IIIに示す。
【0040】
【表3】

【0041】
実施例21:
この実施例では、安定剤としてジイソプロピルアミンを用い、触媒接触時間を約2秒と比較的長くした気相反応におけるCHClCCl=CClへのフッ化水素の添加を説明する。2.54cm(1インチ)のモネル製管状反応器に、大気圧下、300℃の温度で320ccの新鮮なCr触媒を仕込んだ。有機供給原料(CHClCCl=CCl)およびフッ化水素を、それぞれ約0.11kg/時間(0.24ポンド/時間)および約0.25kg/時間(0.55ポンド/時間)の速度で蠕動ポンプを通じて反応器に供給し、HF/有機物モル比を約20:1とした。CHClCCl=CCl供給原料に10ppmの量のジイソプロピルアミン安定剤を加えた。有機供給原料、HFおよび安定剤を含むガス流を、約85時間までの間にわたって触媒床に通した。Cr床を通した接触時間は約2.05秒であった。
【0042】
反応器流出物を実施例1〜2と同様に分析した。連続運転時間85時間の後、有機供給原料の全変換率は100%で、HFC−1233xfへの選択率は少なくとも約90%であった。触媒は、不活性化の兆候も重合の兆候も示さなかった。
【0043】
実施例22:
この実施例では、安定剤としてジイソプロピルアミンを用い、触媒接触時間を約8〜約10秒と比較的長くした気相反応におけるCHClCCl=CClへのフッ化水素の添加を説明する。5.08cm(2インチ)のモネル製管状反応器に、大気圧下、最初は200℃の温度で1800ccの新鮮なCr触媒を仕込み、そして225℃に、次に250℃に昇温した。有機供給原料(CHClCCl=CCl)およびフッ化水素を、それぞれ約0.16kg/時間(0.35ポンド/時間)および約0.35kg/時間(0.78ポンド/時間)の速度で蠕動ポンプを通じて反応器に供給し、HF/有機物モル比を約20:1とした。CHClCCl=CClに10ppmの量のジイソプロピルアミン安定剤を加えた。有機供給原料、HFおよび安定剤を含むガス流を、約278時間までの間にわたって触媒床に通した。Cr床を通した接触時間は約8〜10秒であった。
【0044】
反応器流出物を実施例1〜2と同様に分析した。連続運転時間278時間の後、有機供給原料の全変換率は100%で、HFC−1233xfへの選択率は少なくとも約80%から少なくとも約90%であった。触媒は、278時間の連続運転時間にわたる、長期の触媒接触時間を用いても、最小限の不活性化の兆候のみを示した。
【0045】
実施例23:
この実施例では、3種の異なったTCP供給原料を用いた以下の反応:
1,1,2,3−テトラクロロプロペン(TCP)+HF→1233xf+3HCl
の間のCr触媒の安定性を実証する。実験Aでは非安定化TCPを用い、実験Bでは13ppmのp−tap(4−tert−アミルフェノール)で安定化したTCPを用い、実験Cでは13ppmのメトキシヒドロキノンで安定化したTCPを用いた。これら3つの実験のすべてで、310cc(約448g)の新たに前処理したCr触媒を仕込んだ2.54cm(1インチ)の反応器を用いた。触媒床のホットスポット反応温度は、すべての実験について実験の期間中243〜254℃の範囲に保たれていた。また、HFおよびTCPの流量をすべての実験について同一とし、最初の触媒の生産性および接触時間を3実験すべてについて同一に保った。すべての実験は大気圧下で行った。
【0046】
実験時のHFの平均流量は0.33kg/時間(0.73ポンド/時間)で、TCPの平均流量は0.19kg/時間(0.43ポンド/時間)であった。HF:TCPのモル比は約15.3:1であった。実験時の接触時間は約1.5秒で、最初の触媒の生産性(触媒が不活性化する前)は約400kg/時間/立方メートル触媒(25ポンド/時間/立方フィート触媒)であった。実験結果を以下の表IVにまとめる。安定剤の使用により、非安定化TCPを用いた場合よりも、反応を最小でも43.3%長く実施することができた。
【0047】
【表4】

【0048】
このように本発明のいくつかの特定の実施形態を記載したが、種々の変更、改変、および改良を当業者は容易に思い付くであろう。本開示によって明白となるそのような変更、改変、および改良は、本明細書には明示的に述べられてはいないが、本記載の一部であることが意図されており、本発明の精神の中および範囲内にあることが意図されている。したがって、上述の記載は例としてのみであって限定的なものではない。本発明は以下の特許請求の範囲に定義されたものおよびその均等物としてのみ限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラクロロプロペンおよびペンタクロロプロパンからなる群から選択される少なくとも1種のクロロカーボンを、C3ハロオレフィンを生成するために有効な条件下で、少なくとも1種の触媒および少なくとも1種の安定剤の存在下に、ハロゲン化剤と接触させることを含む、フッ素化有機化合物を製造する方法。
【請求項2】
前記C3ハロオレフィンが2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記クロロカーボンが、1,1,2,3−テトラクロロプロペン、2,3,3,3−テトラクロロプロペン、1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンからなる群から選択される少なくとも1種の化合物である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ハロゲン化剤がフッ化水素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記の接触させる工程が、前記接触工程の少なくとも一部を気相で実施することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1種のフッ素化触媒が、Cr、FeCl/C、Cr、Cr/Al、Cr/AlF、Cr/炭素、CoCl/Cr/Al、NiCl/Cr/Al、CoCl/AlF、NiCl/AlFおよびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項7】
前記安定剤が、トリエチルアミンおよびジイソプロピルアミンからなる群から選択されるアミン安定剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記安定剤が、メトキシヒドロキノンおよび4−メトキシフェノール(HQMME)からなる群から選択されるヒドロキノン安定剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記安定剤が、p−tap(4−tert−アミルフェノール)、メトキシヒドロキノン、4−メトキシフェノール(HQMME)、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、チモールおよびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記安定剤の濃度が約300ppm未満である、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2010−534680(P2010−534680A)
【公表日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−518402(P2010−518402)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【国際出願番号】PCT/US2008/071129
【国際公開番号】WO2009/015317
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】