説明

2−ピロン−4,6−ジカルボン酸の大量精製法

【課題】発酵生産によって得られるPDCの工業的精製法を提供すること。
【解決手段】微生物により生産された2-ピロン-4,6-ジカルボン酸を含む発酵液に、一価〜四価の陽イオンの塩を存在させることを特徴とする、2-ピロン-4,6-ジカルボン酸の精製法;及び、微生物により生産された2-ピロン-4,6-ジカルボン酸を含む発酵液から、2-ピロン-4,6-ジカルボン酸塩を形成させることなく、2-ピロン-4,6-ジカルボン酸を抽出することを特徴とする、2-ピロン-4,6-ジカルボン酸の精製法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵生産によって得られる2-ピロン-4,6-ジカルボン酸の工業的精製法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物主要成分であるリグニンは、芳香族高分子化合物として植物細胞壁に普遍的に含まれているバイオマス資源である。しかし、リグニンを主成分とする植物由来の芳香族成分は、化学構造が多様な成分で構成されていることや複雑な高分子構造を持つために、有効な利用技術が開発されていない。これまで知られている利用技術としては、当該芳香族成分をアルカリ分解などの化学分解で生成する低分子芳香族分解物から、香料原料であるバニリンを分離製造する技術がある。しかし、現在のところ、化学分解で生成するバニリン以外の多量の低分子芳香族物質の有効な利用方法は知られていない。そのため製紙工程で大量に生成するリグニンは有効利用されるこくなく、重油の代替え品として燃焼されている。
【0003】
一方、本発明者らは、リグニン等の植物芳香族成分が、加水分解や酸化分解、可溶媒分解などの化学的分解法、超臨界水や超臨界有機溶媒による物理化学的分解法などにより、バニリン、シリンガアルデヒド、バニリン酸、シリンガ酸、プロトカテク酸等を含む低分子混合物に変換され、更に、これら5種類の化合物が、機能性プラスチック原料や化学製品の原料となり得る単一の中間物質2-ピロン-4,6-ジカルボン酸に変換されることを見出している。
【0004】
また、本発明者らは、2-ピロン-4,6-ジカルボン酸を発酵生産するための多段階反応プロセスを構成する4種類の酵素(ベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼ、ディメチラーゼ、プロトカテク酸 4,5-ジオキシゲナーゼ、4-カルボキシ-2-ヒドロキシムコン酸-6-セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ)をコードする遺伝子を保有する形質転換細胞を用いて、これら5種類の化合物から2-ピロン-4,6-ジカルボン酸を製造する方法を報告している(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、特許文献1では、2-ピロン-4,6-ジカルボン酸の精製法として活性炭処理が記載されているのみで、詳細については明らかにされていない。また、特許文献2は、α-ヒドロキシ-γ-カルボキシムコン酸-ε-セミアルデヒドの存在下に2-ピロン-4,6-ジカルボン酸を製造する方法を開示するが、精製法については全く言及されていない。
【0006】
【特許文献1】特開2005−278549号公報
【特許文献2】特開2000−32988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、機能性プラスチック原料や化学製品の原料として有用である、発酵生産によって得られる2-ピロン-4,6-ジカルボン酸の工業的精製法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、斯かる現状に鑑み鋭意検討した結果、2-ピロン-4,6-ジカルボン酸を含む微生物発酵液に特定の塩を存在させることにより、対応する2-ピロン-4,6-ジカルボン酸塩を高純度かつ収率よく単離できることを見出し、本発明を完成させた。また、本発明者らは、2-ピロン-4,6-ジカルボン酸塩の形成させることなく、当該微生物発酵液を特定の有機溶媒で抽出することにより、2-ピロン-4,6-ジカルボン酸を高純度かつ収率よく単離できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、(1)本発明は、微生物により生産された2-ピロン-4,6-ジカルボン酸を含む発酵液に、一価、二価、三価及び四価から選ばれる陽イオンの塩を存在させることを特徴とする、2-ピロン-4,6-ジカルボン酸の精製法を提供する。
(2)本発明は、前記一価の陽イオンの塩が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ルビジウム、塩化銀、臭化ナトリウム、硫酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム又はリン酸水素二カリウムである、(1)記載の2-ピロン-4,6-ジカルボン酸の精製法を提供する。
(3)本発明は、前記二価の陽イオンの塩が、塩化マグネシウム、硫酸銅又はヘキサシアノ鉄(II)酸カリウムである、(1)記載の2-ピロン-4,6-ジカルボン酸の精製法を提供する。
(4)本発明は、前記三価の陽イオンの塩が、塩化鉄(III)又はヘキサシアノ鉄(III)酸カリウムである、(1)記載の2-ピロン-4,6-ジカルボン酸の精製法を提供する。
(5)本発明は、前記四価の陽イオンの塩が、スズ(IV)酸カリウムである、(1)記載の2-ピロン-4,6-ジカルボン酸の精製法を提供する。
(6)本発明は、前記塩の存在により析出する2-ピロン-4,6-ジカルボン酸塩を回収し、水に溶解し、次いで、酸性条件下、酢酸エチル、シクロペンタノン又はシクロヘキサノンで抽出する工程を含む、(1)〜(5)のいずれか1記載の精製法を提供する。
(7)本発明は、前記抽出工程の際に過剰量の強酸を添加する、(6)記載の精製法を提供する。
(8)本発明は、前記塩の存在により析出する2-ピロン-4,6-ジカルボン酸塩を回収し、水に溶解し、次いで当該溶液を陽イオン交換樹脂で処理する工程を含む、(1)〜(7)のいずれか1記載の精製法を提供する。
(9)本発明は、前記塩を、前記発酵液中の2-ピロン-4,6-ジカルボン酸に対して、少なくとも2倍モル用いる(1)〜(8)のいずれか1記載の精製法を提供する。
【0010】
(10)本発明は、微生物により生産された2-ピロン-4,6-ジカルボン酸を含む発酵液から、2-ピロン-4,6-ジカルボン酸塩を形成させることなく、2-ピロン-4,6-ジカルボン酸を抽出することを特徴とする、2-ピロン-4,6-ジカルボン酸の精製法を提供する。
(11)本発明は、酢酸エチル、シクロペンタノン又はシクロヘキサノンで抽出する、(10)記載の精製法を提供する。
(12)本発明は、酢酸エチルで抽出する、(10)又は(11)記載の精製法を提供する。
(13)本発明は、前記抽出工程の際に過剰量の強酸を添加する、(10)〜(12)のいずれか1記載の精製法を提供する。
(14)本発明は、前記強酸を、前記発酵液に対して、少なくとも3重量%用いる、(13)記載の精製法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、2-ピロン-4,6-ジカルボン酸を含む微生物発酵液から、2-ピロン-4,6-ジカルボン酸を高純度で収率良く、かつ安価に大量精製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のPDCの精製法は、微生物により生産された2-ピロン-4,6-ジカルボン酸(以下、「PDC」と称する)を含む発酵液に一価〜四価の陽イオンの塩を存在させてPDCを塩として、又は当該発酵液においてPDC塩の形成を妨げて、PDCを遊離体として得ることを特徴とする。
【0013】
微生物により生産されたPDCを含む発酵液は、PDCを単一化合物として得ることを目的として、バニリン、シリンガアルデヒド、バニリン酸、シリンガ酸、プロトカテク酸等の植物由来の低分子化合物又はこれらの混合物の存在下に、PDCを多段階又は一段階で発酵生産するための好適な酵素をコードする遺伝子を含む形質転換細胞を培養して得られたものであれば特に制限されない。このような発酵液としては、例えば特開2005-278549号公報に記載の方法によって得られるものが挙げられる。同公報に記載の方法では、通常、その発酵液1L中にPDCが10〜20 g産生される。下記のPDCの精製前に、当該発酵液から、遠心分離、活性炭吸着等により菌体を除去しておくことが好ましい。活性炭吸着は、当該発酵液に活性炭を添加し、混合・攪拌してから活性炭を濾過等により除去するか、又は当該発酵液を活性炭充填層中に通すことにより行うのが好ましい。
【0014】
<PDC塩を形成させる方法>
PDCを含む微生物発酵液に、一価〜四価の陽イオンの塩を存在させて、PDCの対応する塩を析出させる。
一価の陽イオンとしては、例えば、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、銀、リチウム、セシウム等の金属イオン;アンモニムイオン;ヘキサメチレンジアミン、エチレンジアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルキルアンモニムイオンなどが挙げられ、これらの中で、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン又は銀イオンが好ましい。
一価の陽イオンの塩としては、当該陽イオンの塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸塩;酢酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、シアン酸、チオシアン酸等の有機酸塩などが挙げられる。具体的には、塩化カリウム、塩化ルビジウム、塩化銀、臭化ナトリウム、硫酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、又はリン酸水素二カリウムが挙げられ、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ルビジウム、塩化銀又は臭化ナトリウムが好ましい。
【0015】
二価の陽イオンとしては、例えば、マグネシウム、カルシウム、鉄(II)、銅(II)、亜鉛、バリウム、コバルト、ニッケル、マンガン、クロム(II)等の金属イオンが挙げられる。二価の陽イオンの塩は、上記と同様である。二価の陽イオンの塩としては、具体的には、塩化マグネシウム、硫酸銅又はヘキサシアノ鉄(II)酸カリウムが挙げられる。
三価の陽イオンとしては、例えば、鉄(III)、アルミニウム、ガリウム等のイオンが挙げられ、三価の陽イオンの塩の具体例は、塩化鉄(III)又はヘキサシアノ鉄(III)酸カリウムである。
四価の陽イオンとしては、スズ(IV)等のイオンが挙げられ、四価の陽イオンの塩の具体例は、スズ(IV)酸カリウムである。
これらの一価〜四価の陽イオンの塩は、二種以上を混合して用いてもよい。
【0016】
上記の一価〜四価の陽イオンの他に、バナジルイオン(VO2+)、チタン酸(TiO2)イオン、シアンイオン、チオシアンイオン、チオカルボニルを含むイオン性化合物などを使用することもできる。
【0017】
PDCはその2及び4位にカルボン酸基を有するが、これらのカルボン酸基が上記塩との接触により単なるPDCのカルボン酸塩を形成するのではなく、図1に示すように、PDC 2分子間で水素結合を形成し、2つのカルボニル基が金属イオン(図1では、ナトリウムイオン)の周りに配位した八面体6配位構造をとる複塩を形成する。この様にカルボニル基を中心として形成される様々な複塩構造は、様々な文献(例えば、Acta. Cryst. (1992) C48, 460-465)に報告されている。図2には、PDCと一価の陽イオンとで形成される複塩の水溶解度を示す。図2から明らかなように、PDCと一価の陽イオンとで形成される複塩の中で、特に、PDCのナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩又は銀塩は、遊離のPDC、微生物培養培地成分、様々な植物から抽出した水溶性成分に比べて、水溶解度が非常に低いことが判明した(遊離のPDCの水溶解度:182 mM)。従って、特に、PDCの、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩又は銀塩は、PDCを培地成分や植物抽出水溶性成分の多くと容易に分離して塩析させることができ、PDCの単離に好適であることが判明した。
【0018】
上記塩は微生物発酵液中に存在するPDCに対して、大過剰量使用することが好ましく、例えば少なくとも2倍モル、特に2倍モル〜10倍モル使用することが好ましい。塩析効果を高めるために、一価〜四価の陽イオンの塩を存在させた発酵液を冷却するか又は濃縮してもよい。冷却する場合には、当該発酵液を0〜4℃程度に12〜24時間静置する。塩析されたPDC塩は、濾過により回収することができる。
【0019】
上記のPDC塩は、以下の2種の異なった精製工程を更に実施することにより、更に純度の高い遊離のPDCとして得ることができる。
【0020】
(1)上記のPDC塩を水、例えば純水に溶解し、酸性条件下(pH 1〜2程度)、有機溶媒で抽出し、PDC塩を遊離のPDCとして抽出することができる。抽出溶媒としては、例えば酢酸エチル、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、ベンゼン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、クロロホルム及びジクロロメタンが挙げられ、酢酸エチル、シクロヘキサノン又はシクロペンタノンが好ましく、沸点の低さから、特に酢酸エチルが好ましい。酸性条件とするには過剰量、好ましくは水層の3%以上、より好ましくは水層の3%〜7%の強酸水溶液を使用すればよい。強酸としては、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸等が挙げられ、特に塩酸が好ましい。必要により得られた有機層を強酸水溶液で数回処理してもよい。得られたPDCは、必要に応じて再結晶を繰り返すことにより、更に純度を高めることができる。
【0021】
(2)上記のPDC塩を水、例えば純水に溶解し、この溶液をH型陽イオン交換樹脂で処理することによっても、遊離のPDCを得ることができる。H型陽イオン交換樹脂としては、例えば、ゲル形ポリスチレン・スルホン酸形イオン交換樹脂である、イオン交換容量2.0 meq/ml程度のアンバーライト(Amberlite)(登録商標)IR120B、ダイヤイオン(DIAION)(登録商標)SK1B等が使用できる。
【0022】
得られたPDCの溶媒濃縮物又はイオン交換樹脂の流出物の濃縮物から、再結晶によりPDCを結晶として得ることができる。必要に応じて再結晶を繰り返すことにより、更に結晶の純度を高めることができる。PDC塩を形成させる本精製法は、大容量の微生物発酵液の抽出操作を必要とせず、塩析により簡便にPDCを塩として精製でき、同時に、PDC塩よりも水溶解度の高い有機分子等を容易に除去することができる。
【0023】
<PDC塩を形成させない方法>
PDCを含む微生物発酵液を、酸性条件下、有機溶媒で抽出することにより、PDCを遊離のPDCとして単離することができる。本発明で使用される有機溶媒は、例えば酢酸エチル、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、ベンゼン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、クロロホルム及びジクロロメタンが挙げられ、酢酸エチル、シクロペンタノン又はシクロヘキサノンが好ましく、沸点の低さから、酢酸エチルが特に好ましい。上記の有機溶媒による抽出の前に、PDC塩の抽出を防止するため、当該発酵液を強酸性にし、かつ抽出後の有機溶媒を強酸水溶液で洗浄することが好ましい。強酸としては、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸等が使用でき、塩酸が特に好ましい。有機溶媒による抽出の前後で使用する強酸は併せて、微生物発酵液に対して、3〜7%であることが好ましく、特に3%〜5%であることが好ましい。
【0024】
上記発酵液中のタンパク質を除去するため、上記の抽出工程の前に、当該発酵液に、アセトン;メタノール、エタノール等のアルコール類などの比較的低沸点の極性溶媒を更に存在させてもよい。アルコール類を存在させる場合には、酸の添加は、アルコールの除去後が好ましい。
【0025】
常法により上記有機層を減圧濃縮し、濃縮乾固物を純水中で再結晶することによりPDCを結晶として得ることができる。このPDC結晶は、再結晶を繰り返すことにより、更に純度を高めることができる。
【0026】
PDC塩の形成を含まない本精製法によれば、1回の抽出操作により、高いPDC純度(99.5%〜99.9%)でPDCが完全な遊離体として得られる。本精製法によって得られるPDCは、その塩を含まないために様々な溶媒に溶解しやすく、ポリマーや化学製品の合成材料等として広い用途が期待できる。
【実施例】
【0027】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0028】
(材料)
PDCを含む微生物発酵液は、特開2005-278549号公報に記載の方法により取得した。
【0029】
実施例1 PDCナトリウム塩を形成させる精製法
PDCを含む微生物培養液1.5 Lを遠心分離(4000 rpm、1時間、4℃)し、菌体を除去した。得られた上清に塩化ナトリウム15 gを添加し、4℃で12時間放置し、PDCナトリウム塩を析出させ、濾過により回収し、粗PDCナトリウム塩を得た(22 g)。
次いで、この粗PDCナトリウム塩10 gを純水600 mlに溶解し、3N HClによりpH 1.5に調整し、酢酸エチル(100 ml x 3回)で抽出した。酢酸エチル層をpH 1.0の塩酸水100 mLで洗浄し、減圧濃縮し、4℃で結晶化を行った。結晶を濾集し純水に溶解し再結晶を行い、60℃で減圧乾燥し、5.7 gのPDCを得た(回収率70%)。純度は、HPLCにより決定したところ、98.5%であった。
HPLC分析条件:装置:Waters;流量:0.2 ml/分;inj.:50 μl;カラム:4.6φ×250 mm(センシュウ科学社製:ODS-1251-SS);移動相:水:アセトニトリル:酢酸=74:25:1;検出波長:294 nm。
【0030】
実施例2〜11
純水25 mlに、PDC(遊離体) 0.25g(1.4 mmol)を加え、PDC水溶液(0.054 mol/L)を得た。次いで、このPDC水溶液に、下記表1に挙げた金属塩を、表1に記載の量で添加した。金属塩の種類によっては、添加後、直ちに析出するもの、加熱後冷却して析出するもの、水を濃縮後に析出するものがあった。析出物(又は沈殿物)を濾過後、60℃で一晩乾燥し、析出物の重量より、報告されている塩化ナトリウムによる析出物の組成(Na2PDC2H2O)を基準に、PDC析出率(回収率)を算出した。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
実施例12 PDCナトリウム塩を形成させる精製法
実施例1と同様にして得た粗PDCナトリウム塩10 gを純水600 mLに溶解し、これを、イオン交換容量2.2 meq/mlのH型陽イオン交換樹脂(アンバーライト)100 gから作製したカラム(40 mmφ)に通した。純水で洗浄し、pH 1の塩酸で展開して流出分画を採取し、減圧濃縮し、4℃で結晶化を行った。結晶を濾集し純水に溶解し再結晶を行い、60℃で減圧乾燥し、7.2 gのPDCを得た(回収率88%、純度98.5%)。
【0033】
実施例13 PDCナトリウム塩を形成させない方法
PDC原液(微生物培養後の濾液)1.5 Lにアセトン1.5 L及び濃塩酸45 mlを加えて攪拌・混合した。ここに、活性炭(037-02115、和光純薬工業株式会社)20 gを加えて15分間攪拌した後、#131濾紙上にセライト(08003-02、セライト503、関東化学株式会社)を敷き詰め、吸引濾過を行い、活性炭を除去した。この濾液からアセトンを減圧溜去し、溶液量を1.5 Lまで濃縮した。濃縮液に濃塩酸18 mlを加え、酢酸エチル230 ml x 3回+150 ml x 2回の抽出を行った。酢酸エチル抽出液に無水硫酸マグネシウム36 gを加えて乾燥、吸引濾過し、減圧乾固した。得られた固体を3時間ほど減圧乾燥(55℃)した後、60℃にて15 mlの蒸留水に溶解し、濃塩酸2 mlを加えて冷蔵庫で放置して再結晶させた。固体を濾過して集め、減圧乾燥(55℃)し、約13.2 gのPDC(回収率68%、純度98.5%)を得た。
また、PDC原液の量をスケールアップ(PDC原液50 L)しても、同様の回収率が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、PDC-Na+複塩の構造を示す図である。
【図2】図2は、様々なPDC塩の水溶解度を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物により生産された2-ピロン-4,6-ジカルボン酸を含む発酵液に、一価、二価、三価及び四価から選ばれる陽イオンの塩を存在させることを特徴とする、2-ピロン-4,6-ジカルボン酸の精製法。
【請求項2】
前記一価の陽イオンの塩が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ルビジウム、塩化銀、臭化ナトリウム、硫酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム又はリン酸水素二カリウムである、請求項1記載の2-ピロン-4,6-ジカルボン酸の精製法。
【請求項3】
前記二価の陽イオンの塩が、塩化マグネシウム、硫酸銅又はヘキサシアノ鉄(II)酸カリウムである、請求項1記載の2-ピロン-4,6-ジカルボン酸の精製法。
【請求項4】
前記三価の陽イオンの塩が、塩化鉄(III)又はヘキサシアノ鉄(III)酸カリウムである、請求項1記載の2-ピロン-4,6-ジカルボン酸の精製法。
【請求項5】
前記四価の陽イオンの塩が、スズ(IV)酸カリウムである、請求項1記載の2-ピロン-4,6-ジカルボン酸の精製法。
【請求項6】
前記塩の存在により析出する2-ピロン-4,6-ジカルボン酸塩を回収し、水に溶解し、次いで、酸性条件下、酢酸エチル、シクロペンタノン又はシクロヘキサノンで抽出する工程を含む、請求項1〜5のいずれか1項記載の精製法。
【請求項7】
前記抽出工程の際に過剰量の強酸を添加する、請求項6記載の精製法。
【請求項8】
前記塩の存在により析出する2-ピロン-4,6-ジカルボン酸塩を回収し、水に溶解し、次いで当該溶液を陽イオン交換樹脂で処理する工程を含む、請求項1〜7のいずれか1項記載の精製法。
【請求項9】
前記塩を、前記発酵液中の2-ピロン-4,6-ジカルボン酸に対して、少なくとも2倍モル用いる、請求項1〜8のいずれか1項記載の精製法。
【請求項10】
微生物により生産された2-ピロン-4,6-ジカルボン酸を含む発酵液から、2-ピロン-4,6-ジカルボン酸塩を形成させることなく、2-ピロン-4,6-ジカルボン酸を抽出することを特徴とする、2-ピロン-4,6-ジカルボン酸の精製法。
【請求項11】
酢酸エチル、シクロペンタノン又はシクロヘキサノンで抽出する、請求項10記載の精製法。
【請求項12】
酢酸エチルで抽出する、請求項10又は11項記載の精製法。
【請求項13】
前記抽出工程の際に過剰量の強酸を添加する、請求項10〜12のいずれか1項記載の精製法。
【請求項14】
前記強酸を、前記発酵液に対して、少なくとも3重量%用いる、請求項13記載の精製法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−79603(P2008−79603A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−206947(P2007−206947)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】