説明

2−(4−アミノフェノキシ)−5−アミノビフェニルおよびその誘導体の製造方法

【課題】2−(4−アミノフェノキシ)−5−アミノビフェニルおよびその誘導体の商業的製造に適したプロセスを提供する。
【解決手段】下記一般式


(式中、置換基Xは炭素数1〜6のアルキル基を表し、置換基の数nは零または1〜5の整数を表し、2個以上のXは互いに同一または異なってもよく、Aはアミノ基等を表す)で表される2‐(4‐ニトロフェノキシ)‐5‐置換ビフェニルまたはその誘導体を還元する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2‐(4‐ニトロフェノキシ)‐5‐アミノビフェニルまたはその誘導体、あるいは2‐(4‐ニトロフェノキシ)‐5‐(4‐アリールアゾ)ビフェニルまたはその誘導体を還元することを特徴とする、ポリイミドを始めとする高機能性高分子および種々の有機化合物合成の原料として有用な2‐(4‐アミノフェノキシ)‐5‐アミノビフェニルおよびその誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、宇宙空間などの過酷な条件下での使用に耐える高耐熱性・高破壊靭性と易成形性を併せ持つ高分子材料が求められており、成形時に良好な加工性を保ちつつ、熱硬化により揮発成分を発生させることなく高耐熱性を賦与する方法として、ポリイミドオリゴマーの末端を4−フェニルエチニルフタル酸無水物に代表される封止剤で封止し、成形した後に加熱し、フェニルエチニル基を利用して架橋・硬化させる方法(米国特許5,567,800号)が提案されている。また、特に炭素繊維などとポリイミドとの複合材料を製造する際のオリゴマーの流動性を高め加工性を向上させるための改良法として、非対称のテトラカルボン酸無水物を用いる方法(日本公開特許公報・特開2000−219741)、カルド型ジアミンを用いる方法(日本公開特許公報・特開2006−104440)、ジアミン成分の一部として2‐(4‐アミノフェノキシ)‐5‐アミノビフェニルを用いる方法(第57回高分子討論会予稿集4035〜4036ページ)などが提案されている。
【0003】
前記の、ジアミン成分の一部として2‐(4‐アミノフェノキシ)‐5‐アミノビフェニルを用いる方法は特に優れた効果を発揮するが、2‐(4‐アミノフェノキシ)‐5‐アミノビフェニルの合成に関しては高価な原料を用いる商業的製造に適しない実験室的な方法が記載されている(森川敦司:ポリイミド・芳香族系高分子最近の進歩2008(財団法人繊維工業技術振興会発行)、p.1−6)のみであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許5,567,800号
【特許文献2】特開2000−219741号公報
【特許文献3】特開2006−104440号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】第57回高分子討論会予稿集4035〜4036ページ
【非特許文献2】森川敦司:ポリイミド・芳香族系高分子最近の進歩2008(財団法人繊維工業技術振興会発行)、p.1−6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、2‐(4‐アミノフェノキシ)‐5‐アミノビフェニルおよびその誘導体の商業的な製造方法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、一般式[化5]
【化5】

(式中、Yおよびmは式[化2]中と同じ意味に定義される)
で表される(置換)アニリンと酸との塩に水中で亜硝酸塩を作用させることによって得られる(置換)ベンゼンジアゾニウム塩を一般式[化6]
【化6】

(式中、Xおよびnは一般式[化1]中と同じ意味に定義される)
で表される2−(置換)フェニルフェノールとのカプリング反応により、2−ヒドロキシ−5−(置換)フェニルアゾ(置換)ビフェニル(一般式[化4]においてA=一般式[化2])が容易に得られることに着目し、これを4−ハロゲン化ニトロベンゼンと反応させ、得られる2−(4−ニトロフェノキシ)−5−(置換)フェニルアゾ(置換)ビフェニル(一般式[化1]においてA=一般式[化2])を還元してニトロ基および(置換)フェニルアゾ基をアミノ基に変換するか、または2−ヒドロキシ−5−(置換)フェニルアゾ(置換)ビフェニル(一般式[化4]においてA=一般式[化2])を還元して(置換)フェニルアゾ基をアミノ基に変換し、得られる2−ヒドロキシ−5−アミノ(置換)ビフェニル(一般式[化1]においてA=アミノ基)を4−ハロゲン化ニトロベンゼンと反応させ得られる2−(4−ニトロフェノキシ)−5−アミノ(置換)ビフェニル(一般式[化1]においてA=アミノ基)を還元することにより目的化合物である2‐(4‐アミノフェノキシ)‐5‐アミノ(置換)ビフェニルが容易に得られることを見出し、反応条件等を鋭意検討した結果本発明に到達した。
【発明の効果】
【0008】
2‐(4‐アミノフェノキシ)‐5‐アミノビフェニルおよびその誘導体の商業的に有利な製造方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の方法を詳細に説明する。
【0010】
本発明において、2−ヒドロキシ−5−(置換)フェニルアゾ(置換)ビフェニル(一般式[化4]においてA=一般式[化2])は、一般式[化5]で表される(置換)アニリンをジアゾ化し、これを一般式[化6]で表される2−(置換)フェニルフェノールとカプリング反応させることにより主成分として得ることができる。
【0011】
本発明に用いることができる2−(置換)フェニルフェノールとしては、たとえば2−フェニルフェノール、2−(2−トリル)フェノール、2−(3−トリル)フェノール、2−(4−トリル)フェノール、2−(2,4−ジメチルフェニル)フェノール、2−(3,4−ジメチルフェニル)フェノール、2−(2,4,6−トリメチルフェニル)フェノール、2−(2−エチルフェニル)フェノール、2−(4−エチルフェニル)フェノール、2−(4−n−ブチルフェニル)フェノール、2−(4−n−ヘキシルフェニル)フェノールなどを挙げることができる。
【0012】
本発明に用いることができる(置換)アニリンとしては、たとえばアニリン、o−トルイジン、m−トルイジン、p−トルイジン、3,4−キシリジン、1,3,5−メシジン、p−エチルアニリン、p−n−ブチルアニリン、p−n−ヘキシルアニリン、o−アニシジン、p−アニシジン、o−クロロアニリン、m−クロロアニリン、p−クロロアニリン、3,4−ジクロロアニリンなどを挙げることができる。
【0013】
2−(4−ニトロフェノキシ)−5−(置換)フェニルアゾ(置換)ビフェニル(一般式[化1]においてA=一般式[化2])は、前記の2−ヒドロキシ−5−(置換)フェニルアゾ(置換)ビフェニルを塩基の存在下に4−ハロゲン化ニトロベンゼンと縮合させることによって得ることができる。
【0014】
本発明に用いることができる塩基としては、炭酸ソーダ、炭酸カリ、苛性ソーダ、苛性カリ、重炭酸ソーダ、重炭酸カリなどが挙げられる。
【0015】
本発明に用いることができる4−ハロゲン化ニトロベンゼンとしては、4−フルオロニトロベンゼン、4−クロロニトロベンゼン、4−ブロモニトロベンゼン、および4−ヨードニトロベンゼンが挙げられる。
【0016】
上記縮合反応に用いられる溶媒としては非プロトン性極性溶媒が好ましく、たとえばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、N,N’−ジメチルプロピレンウレア、ジメチルスルホキシド、スルホランなどを用いることができる。
【0017】
上記縮合反応を行う際の反応は、80〜200℃の温度範囲で行うことができるが、好ましくは100〜170℃がよい。
【0018】
2−(4−ニトロフェノキシ)−5−(置換)フェニルアゾ(置換)ビフェニルより本発明の目的化合物である2−(4−アミノフェノキシ)−5−アミノビフェニル(誘導体)を得るための還元方法には、水添、ヒドラジン還元、ベシャン還元などの方法がある。
【0019】
2−ヒドロキシ−5−(置換)フェニルアゾ(置換)ビフェニルをそのまま還元して2−ヒドロキシ−5−アミノ(置換)ビフェニルとし、これを4−ハロゲン化ニトロベンゼンと縮合させ、得られる2−(4−ニトロフェノキシ)−5−アミノアゾ(置換)ビフェニルを還元する経路でも本発明の目的物である2−(4−アミノフェノキシ)−5−アミノビフェニル誘導体を得ることができるが、この場合の第一および第二の還元方法としては上記同様、水添、ヒドラジン還元、ベシャン還元などが採用できる。
【0020】
2−ヒドロキシ−5−アミノ(置換)ビフェニルと4−ハロゲン化ビフェニルとの縮合は、前記の2−ヒドロキシ−5−(置換)フェニルアゾ(置換)ビフェニルと4−ハロゲン化ビフェニルとの縮合反応と同様に行うことができ、用いられる4−ハロゲン化ニトロベンゼン、塩基、溶媒および反応温度範囲も同様である。
【0021】
以下に実施例により本発明の方法をさらに具体的に説明するが、本発明の方法はこれに限定されない。
【実施例1】
【0022】
2−(4−アミノフェノキシ)−5−アミノビフェニルの合成
(2−フェニル−4−フェニルアゾフェノールの合成)
攪拌翼および温度計を備えた300mL四つ口フラスコに苛性ソーダ20.5g、イオン交換水150gおよび2−フェニルフェノール13.3gを加えて溶解させ、内温を−10±1℃に保ちつつ、アニリン7.5g、35%塩酸18.4g、亜硝酸ソーダ5.8gおよびイオン交換水43gを用いて別途調製した塩化ベンゼンジアゾニウム塩溶液を滴下し、酢酸で中和した後、攪拌下に一夜放置し、生成した固形物を濾別・水洗し、乾燥した。粗2−フェニル−4−フェニルアゾフェノールの収量21.3g、LC96.4%、融点91.0〜96.5℃。
【0023】
(2−(4−ニトロフェノキシ)−5−フェニルアゾビフェニルの合成)
玉入コンデンサ及び温度計を備えた200mL四つ口フラスコに前記粗2−フェニル−4−フェニルアゾフェノール20.0g、p−フルオロニトロベンゼン11.3g、炭酸ナトリウム微粉5.0g、DMF45gを仕込み、120℃で4時間攪拌した。30℃の冷却した後、イオン交換水45gを加え、生成した固体をメタノールで繰り返し洗浄した後、水洗し、一夜乾燥した。橙色粉末状の2−(4−ニトロフェノキシ)−5−フェニルアゾビフェニルの収量26.7g、LC純度100%、融点107.5〜109.0℃。
【0024】
(2−(4−アミノフェノキシ)−5−アミノビフェニルの合成)
300 mLステンレススチール製オートクレーブに2−(4−ニトロフェノキシ)−5−フェニルアゾビフェニル20.0 g、ラネーニッケル触媒 0.7 g、およびMeOH 90 gを仕込み、水素圧0.7MPa、65±1 ℃で水添を行った。約1時間で水素吸収が終了した後、さらに1時間、同条件で熟成した。冷却することなく触媒を濾別した反応液を20%メタノール水90gに加え、10℃まで冷却して沈殿を生成させ、これを濾別した後、3回水洗し、一夜減圧乾燥した。白色顆粒状の2−(4−アミノフェノキシ)−5−アミノビフェニルの収量12.5g、LC純度99.5%、融点115.2〜115.9℃。
【0025】
上記で得られた結晶についてはH核磁気共鳴スペクトル分析の結果、δ4.7およびδ4.9にそれぞれアミノ基のプロトンのシングレット(各2H)、δ6.5にフェニル基のプロトンのマルチプレット(5H)、δ7.3にベンゼン核のプロトンのマルチプレット(3H)、δ6.6および7.4にフェニレン基のプロトンのマルチプレット(4H)が示され、さらに質量分析において質量276メインピークが観測され、化学構造を同定した。核磁気共鳴スペクトル分析(1H-NMR)は日本電子製JNM-AL300型を用い共鳴周波数300MHzで測定した。質量分析には日本電子製JMS−600型を用いた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[化1]
【化1】

(式中、置換基Xは炭素数1〜6のアルキル基を表し、置換基の数nは零または1〜5の整数を表し、2個以上のXは互いに同一または異なってもよく、Aはアミノ基または一般式[化2]
【化2】

(式中、Yは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、またはハロゲン原子を表し、置換基の数mは零または1〜5の整数を表し、2個以上のYは互いに同一または異なってもよい)
で表されるアリールアゾ基を表す)
で表される2‐(4‐ニトロフェノキシ)‐5‐置換ビフェニルまたはその誘導体を還元することを特徴とする、一般式[化3]
【化3】

で表される2‐(4‐アミノフェノキシ)‐5‐アミノビフェニルおよびその誘導体の製造方法。
【請求項2】
一般式[化4]
【化4】

(式中、置換基A、Xおよび数nは上記式[化1]と同じ意味に定義される)
で表される2‐ヒドロキシ‐5‐置換ビフェニルまたはその誘導体と4−ハロゲン化ニトロベンゼンとを塩基の存在下に縮合させることにより式[化1]で表される2‐(4‐ニトロフェノキシ)‐5‐置換ビフェニルまたはその誘導体を得ることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
4−ハロゲン化ニトロベンゼンが4−クロロニトロベンゼンまたは4−フルオロニトロベンゼンであることを特徴とする、請求項1および2に記載の方法。
【請求項4】
還元を水添またはヒドラジン還元で行うことを特徴とする、請求項1〜3に記載の方法。

【公開番号】特開2011−1279(P2011−1279A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144242(P2009−144242)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(391029462)和歌山精化工業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】