説明

2つの異なる放射性同位体を生成する方法および装置

本発明は、加速粒子ビームを利用して第1の放射性同位体および第2の放射性同位体を生成する方法であって、加速粒子ビームが第1の母材に向けられ、粒子ビームと第1の母材との間の相互作用に基づく第1の核反応によって第1の放射性同位体が生成され、前記粒子ビームは減速され、続いて第2の母材に向けられ、粒子ビームと第2の母材との間の相互作用に基づく第2の核反応によって第2の放射性同位体が生成される、方法に関する。第1の核反応を引き起こすための実効断面積は、第1の粒子エネルギーに第1のピークを有し、第2の核反応を引き起こすための実効断面積は、第1の粒子エネルギーより低い第2の粒子エネルギーに第2にピークを有する。本発明はまた、加速ユニットと、第1の母材を有する第1の照射ターゲットと、第2の母材を有し、照射経路の方向において上流に配置される第2の照射ターゲットと、を備える対応する装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの異なる放射性同位体を生成する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このような放射性同位体は、医療用画像の分野、例えばPET画像およびSPECT画像において使用されている。
PET画像用の放射性核種は、多くの場合、例えばサイクロトロン生成装置を利用して、病院の近くで製造される。
【0003】
特許文献1には、照射されるターゲットの設計が記載されており、これは、PET画像用の放射性核種を生成するためのサイクロトロンにおいて使用される。
【0004】
特許文献2には、粒子ビームによる照射によって生成される放射性同位体を生成する方法が記載されている。
【0005】
特許文献3には、サイクロトロン、および回転フィルムを用いたターゲット設計を利用した放射性核種の生成方法が開示されている。
【0006】
特許文献4には、放射性同位体を生成するために、その中にガスが含まれたターゲットチャンバを荷電粒子ビームが照射する方法が記載されている。
【0007】
SPECT画像用に使用される放射性核種は、通常原子炉から回収され、ここでは、例えば99Mo/99mTcを得るために、たいてい高濃縮ウランが使用される。しかし、国際協定の結果、高濃縮ウランを含む反応炉を作動することは、今後より困難なものとなり、SPECT画像用の放射性核種の供給における障害につながり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,433,495号明細書
【特許文献2】国際公開第2006/074960号
【特許文献3】米国特許第6,130,926号明細書
【特許文献4】特許第1254900号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、少なくとも2つの異なる放射性同位体を生成する方法および装置を特定することにあり、これにより、費用対効果に優れ、局所的な分散的生成を可能にするやり方で、特に医療用画像のための放射性同位体の生成が可能となる。
【0010】
上記目的は、独立請求項に記載の発明によって達成される。有利な発展は、従属請求項に記載の特徴に含まれる。
【0011】
加速粒子ビームを利用して第1の放射性同位体および第2の放射性同位体を生成する発明による方法において、以下のステップが実施される:
加速粒子ビームを第1の母材に向け、加速粒子ビームと第1の母材との間の相互作用によって引き起こされる第1の核反応によって第1の母材から第1の放射性同位体を生成するステップ、および
加速粒子ビーム第2の母材に向け、加速粒子ビームと第2の母材との間の相互作用によって引き起こされる第2の核反応によって第2の母材から第2の放射性同位体を生成するステップ。
ここで、粒子ビームと第1の母材との間の相互作用によって第1の核反応を引き起こすための実効断面積は、第1の粒子エネルギーに第1のピークを有し、粒子ビームと第2の母材との間の相互作用によって第2の核反応を引き起こすための実効断面積は、第1の粒子エネルギーより低い第2の粒子エネルギーに第2にピークを有し、加速粒子ビームが最初に第1の母材を通過し、その結果として第1の核反応が引き起こされ、その結果粒子ビームがエネルギーを損失し、続いて第2の母材を照射し、その結果として第2の核反応が引き起こされるように、第1の母材および第2の母材は、粒子ビームのビーム経路において前後に配置される。
【0012】
粒子、例えば陽子は、加速ユニットを利用して加速され、ビーム状に成形される。
加速粒子ビームと第1の母材との間の相互作用により、第1の放射性同位体が生成されるが、該第1の放射性同位体は、さまざまな周知の方法を使用して第1の母材から得ることができる。
第2の母材と相互作用する減速された粒子ビームにより、第2の放射性同位体が生成されるが、該第2の放射性同位体は、第2の母材から得ることができる。
【0013】
これは、粒子ビームを形成するために粒子の単一の加速を使用した、1つの粒子ビームを使用して2つの異なる放射性同位体を生成および得るための方法であり、2つの異なる放射性同位体の生成が費用対効果に優れたやり方で達成される。粒子の加速は、大抵の場合、平均サイズの1つの加速ユニットのみを必要とし、該ユニットはまた、局所的に設置および使用することができる。上述の方法を使用すると、2つの放射性同位体を所望の使用場所付近または周辺、例えば病院の周辺において局所的に生成することができる。
【0014】
これは、SPECT画像用の放射性核種の生成において特に有利であり、例えば核反応炉などの大型設備における従来の非局所的生成法と対照的に、局所的生成は、多くの問題を解決する。核医学ユニットは、互いに独立してワークフローを計画することができ、複雑な論理および基礎構造に依存しない。
【0015】
第1の母材および第2の母材は、互いに分離され、かつビーム経路において前後に配置される。規定の第1のエネルギーを有する粒子ビームが第1の母材を通過し、該第1のエネルギーは、続いて第2の母材を照射する粒子ビームの第2エネルギーよりも高い。その結果として、ビームを第1のエネルギーにのみ加速すればよい。第2の母材を照射するために必要なエネルギーは、少なくとも部分的に、第1の材料を通過することによる粒子ビームの減速によって達成される。
【0016】
特に、粒子ビームが前記第1の母材を貫通するときに、減速された粒子ビームと第2の母材との間の相互作用によって第2の放射性同位体を生成および得るために適した核反応が引き起こされる範囲にある粒子エネルギーまで粒子ビームが減速されるように、第1の母材の厚さが提供され、続く粒子ビームの第2の母材との核反応に適合され得る。
【0017】
この実施形態は、第1の母材から出てきた後の粒子ビームが、第2の母材において所望の相互作用を引き起こすために十分高いエネルギーを有するように、第1の母材の厚さを十分薄くする。第二に、厚さは、第2の母材の前方に追加のエネルギー変調器を必要としないように、必要とされる相互作用範囲まで粒子ビームを減速するために十分厚くすることができる。
【0018】
特に、粒子ビームは、第1の母材を通過する前に、少なくとも15MeV、より詳細には少なくとも25MeVのエネルギーであり、かつ最大で50MeVを超えるエネルギーまで加速され得る。これにより、適当な母材からSPECT画像に使用され得る同位体、例えば99mTcを生成するためのエネルギー範囲において第1の核反応が起こるようになる。
【0019】
第1の母材を通過した後で、かつ第2の母材を照射する以前に、粒子ビームは、15MeV未満のエネルギーを有し得る。これにより、粒子ビームのエネルギーは、相互作用断面積が適当な周知の母材からPET画像用の放射性核種、より詳細には11C、13N、18Fまたは15Oを生成する核反応を引き起こす範囲内となる。
【0020】
生成すべき所望の放射性同位体によって、第1の母材および/または第2の母材は、金属として存在するか、化合物であるか、固体形態で存在するか、または液体形態で存在することができる。例として、天然または濃縮同位体が含まれる溶液を使用して、照射の結果、所望の放射性同位体を生成することができる。
【0021】
加速粒子ビームを利用して第1の放射性同位体および第2の放射性同位体を生成するための本発明による装置は、
粒子ビーム、より詳細には陽子ビームを提供する加速ユニットと、
第1の母材を含み、加速粒子ビームがそこに向けられ得る、第1の照射ターゲットであって、第1の放射性同位体が第1の核反応によって第1の母材から生成され得、該第1の核反応が加速粒子ビームと第1の母材との間の相互作用によって引き起こされ得、粒子ビームが前記第1の母材を通過すると減速される、第1の照射ターゲットと、
第2の母材を含み、ビーム伝搬方向において第1の照射ターゲットの後部に配置された、第2の照射ターゲットであって、第2の放射性同位体が第2の核反応によって第2の母材から生成され得、該第2の核反応が減速された加速粒子ビームと第2の母材との間の相互作用によって引き起こされ得る、第2の照射ターゲットと、を備え、
第1の核反応の実効断面積が、第2の核反応の実効断面積よりも高い粒子エネルギーにある。
【0022】
第1の放射性同位体は、SPECT画像に適した放射性核種、より詳細には99mTcであり得る。第2の放射性同位体は、PET画像に適した放射性核種、より詳細には11C、13N、18Fまたは15Oであり得る。
【0023】
加速ユニットは、粒子ビームを、第1の母材を通過する前に少なくとも15MeV、より詳細には少なくとも25MeVのエネルギーまで加速するように構成され得る。
【0024】
これまでおよび以降に説明されている個々の特徴、利点、およびその効果は、それぞれの場合において詳細を明確に言及しないが、装置のカテゴリーおよび方法のカテゴリーの双方に関するものである。つまり、そのようにして開示された個々の特徴はまた、示されたもの以外のその他の組み合わせにおける発明にとっても不可欠であり得る。
【0025】
従属請求項の特徴による有利な発展を有する発明の実施形態について、それらに限定されるわけではないが、以下の図面に基づいてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】2つの異なる放射性同位体を生成する装置の構造の概略図を示す。
【図2】異なる母材との異なる核反応のための異なる実効断面積を図示する略図を示す。
【図3】方法を実施する場合に実施され得るステップを図示する略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、一方はSPECT画像用であり、他方はPET画像用である、2つの異なる放射性核種を生成する装置の概略図を示す。
陽子ビーム11は、例えばサイクロトロンなどの加速ユニット13によって提供され、当初は、15MeVから50MeVの間の第1エネルギーを有する。
【0028】
続いて、陽子ビームは、粒子ビームとの相互作用の結果としての核反応において、SPECT画像用に使用される99Mo/99mTcを生成する母材のスタックを含む第1のターゲットユニット15へと向けられる。前記スタックにおいて生成される第1の放射性同位体19は、減結合装置17を利用して取り出され、さらなる使用が可能であるように回収される。
【0029】
ここで、99mTcが次の核反応100Mo(p,n)99Tcから生じるように、100Moは99mTcを生成するためのターゲット材料とすることができる。
【0030】
第1のターゲットユニット15を通過した結果、陽子ビーム11は、15MeV未満のエネルギーまで減速される。
陽子ビーム11は、続いて、第2のターゲットユニット21に向けられる。第2のターゲットユニット21には、第2の母材のスタックが配置され、該第2の母材は、陽子ビーム11との相互作用の結果として、さらなる核反応において、PET画像用の放射性核種を生成する。
【0031】
例として、第2の放射性同位体は、11C、13N、18Fまたは15Oとすることができる。第2の放射性同位体25も同様に、さらなる減結合装置23を利用して第2のターゲットユニット21から取り出され、さらなる使用が可能であるように回収される。
以下の表は、ターゲット材料およびPET放射性核種が生成され得る核反応の概要を提供する。
【0032】
【表1】

【0033】
図2は、さまざまな核反応に対して粒子ビームの粒子エネルギーEによる実効断面積σがプロットされた、概略図を示す。第1の実効断面積曲線31は、第1の母材において粒子ビームによって引き起こされる第1の核反応を示す。第2の実効断面積曲線33は、第2の母材において粒子ビームによって引き起こされる第2の核反応を示す。
【0034】
第1の実効断面積のピークは、より低いエネルギーでの実効断面積のピークよりも著しく高いエネルギーにあることがわかる。これらの状況は、一つの同一の粒子ビームを使用して所望の核反応を連続して引き起こすことができるため、装置または方法に使用される。第1の核反応の間に起こる粒子ビームの減速は、前記粒子ビームが第2の核反応に都合の良いエネルギー範囲に達するため、この場合望ましい。
【0035】
図3は、本方法の1実施形態におけるステップを概略的に示す。
最初に、粒子ビームを形成する。これは、常に同一の最終エネルギーを有する粒子ビームを発生させるサイクロトロンを利用してもたらされ得る(ステップ41)。
【0036】
続いて、第1の母材を有するターゲットに粒子ビームを向ける(ステップ43)。粒子ビームと第1の母材との相互作用の結果として、第1の放射性同位体が生成される第1の核反応が引き起こされる。生成された放射性同位体は、周知の取り出し方法によって得られる(ステップ45)。
【0037】
続いて、減速された粒子ビームを、第2の母材を有する第2のターゲットに向ける(ステップ47)。第2の放射性同位体は、第2の核反応において生成される。第2の放射性同位体は続いて、周知の取り出し方法によって得られる(ステップ49)。
【符号の説明】
【0038】
11 陽子ビーム
13 加速ユニット
15 第1のターゲットユニット
17 第1の減結合装置
19 第1の放射性同位体
21 第2のターゲットユニット
23 追加の減結合装置
25 第2の放射性同位体
31 第1の実効断面積曲線
33 第2の実効断面積曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速粒子ビーム(11)を利用して第1の放射性同位体(19)および第2の放射性同位体(25)を生成する方法であって、
前記加速粒子ビーム(11)を第1の母材に向け、前記加速粒子ビーム(11)と前記第1の母材との間の相互作用によって引き起こされる、第1の核反応によって前記第1の母材から前記第1の放射性同位体(19)を生成するステップと、
前記加速粒子ビーム(11)を第2の母材に向け、前記加速粒子ビーム(11)と前記第2の母材との間の相互作用によって引き起こされる、第2の核反応によって前記第2の母材から前記第2の放射性同位体(25)を生成するステップと、を含み、
前記粒子ビーム(11)と前記第1の母材との間の相互作用によって前記第1の核反応を引き起こすための実効断面積(31)が、第1の粒子エネルギーに第1のピークを有し、前記粒子ビーム(11)と前記第2の母材との間の相互作用によって前記第2の核反応を引き起こすための実効断面積(33)が、前記第1の粒子エネルギーより低い第2の粒子エネルギーに第2のピークを有し、
前記加速粒子ビームが最初に前記第1の母材を通過する結果として前記第1の核反応が引き起こされ、その結果前記粒子ビームがエネルギーを損失し、続いて前記第2の母材を照射する結果として前記第2の核反応が引き起こされるように、前記第1の母材および前記第2の母材を、前記粒子ビーム(11)のビーム経路において前後に配置する、方法。
【請求項2】
前記粒子ビーム(11)が前記第1の母材を貫通したときに、前記粒子ビーム(11)が、減速された粒子ビーム(11)と前記第2の母材との間の相互作用によって、前記第2の放射性同位体(25)を生成および得るのに適当な核反応が引き起こされる範囲内にある粒子エネルギーまで減速されるように、前記第1の母材の厚さを規定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記粒子ビーム、より詳細には陽子ビーム(11)を、前記第1の母材を通過する前に、少なくとも15MeV、より詳細には少なくとも25MeVのエネルギーまで加速する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記粒子ビーム、より詳細には陽子ビーム(11)が、前記第2の母材を照射する前に15MeV未満のエネルギーを有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の放射性同位体(19)がSPECT画像に適した放射性核種であり、より詳細には99mTcである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第2の放射性同位体(25)がPET画像に適した放射性核種であり、より詳細には11C、13N、18Fまたは15Oである、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の母材または前記第2の母材が金属または化合物であり、より詳細には、溶液中または気体状態で保持される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
加速粒子ビーム(11)を利用して第1の放射性同位体(19)および第2の放射性同位体(25)を生成する装置であって、
粒子ビーム(11)、より詳細には陽子ビームを提供する加速ユニット(13)と、
第1の母材を含み、前記加速粒子ビーム(11)がそこに向けられ得る、第1の照射ターゲット(15)であって、前記第1の放射性同位体(19)が第1の核反応によって前記第1の母材から生成され得、該第1の核反応が前記加速粒子ビーム(11)と前記第1の母材との間の相互作用によって引き起こされ得、前記粒子ビーム(11)が前記第1の母材を通過すると減速される、第1の照射ターゲットと、
第2の母材を含み、前記ビーム伝搬方向において前記第1の照射ターゲット(15)の後部に配置された、第2の照射ターゲット(21)であって、前記第2の放射性同位体(25)が第2の核反応によって前記第2の母材から生成され得、該第2の核反応が減速された加速粒子ビーム(11)と前記第2の母材との間の相互作用によって引き起こされ得る、第2の照射ターゲットと、を備え、
前記第1の核反応の実効断面積(31)が、前記第2の核反応の実効断面積(33)よりも高い粒子エネルギーにある、装置。
【請求項9】
前記第1の放射性同位体(19)がSPECT画像に適した放射性核種であり、より詳細には99mTcを含み、かつ/または前記第2の放射性同位体(25)がPET画像に適した放射性核種であり、より詳細には11C、13N、18Fまたは15Oを含む、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記加速ユニット(13)が、前記粒子ビーム(11)を、前記第1の母材を通過する前に少なくとも15MeV、より詳細には少なくとも25MeVのエネルギーまで加速するように構成されている、請求項8または9に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−518267(P2013−518267A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−550421(P2012−550421)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【国際出願番号】PCT/EP2011/051019
【国際公開番号】WO2011/092175
【国際公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(508008865)シーメンス アクティエンゲゼルシャフト (99)