説明

2サイクルエンジン

【課題】簡単な構造で、かつ、加速性が良好な2サイクルエンジンを提供すること。
【解決手段】層状掃気式の2サイクルエンジン1を、先導空気を掃気通路9に送り込む先導空気通路700と、この先導空気通路700を開閉するエアバルブ430と、前記エアバルブ430全閉状態時に前記先導空気を掃気通路9へ送るサブ通路とを含んで構成した。このため、アイドリング時に利用する空気を全て混合気用として利用していた従来に対して、混合気用の空気を減らし、減らした分の空気をサブ通路を通して掃気通路9内に供給するので、アイドリング時にエンジン1に吸入される空気量および燃料量を従来と同等にして燃費を悪化させないうえ、アイドリング状態からの急加速時においては、エンジン1を円滑に加速できる。しかも、加速ポンプなどを取り付ける必要が無くて構造を簡単にできるうえ、サブ通路から一定の先導空気を安定して吸入できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状掃気式の2サイクルエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、掃気通路に連通する先導空気通路を備えた層状掃気式の2サイクルエンジンが知られている(例えば特許文献1)。層状掃気式の2サイクルエンジンは、この先導空気通路を通して掃気通路内の上部に先導空気を吸入でき、掃気の際にはこの先導空気が燃焼ガスを最初に掃気するので、混合気が燃焼ガスを掃気する通常の2サイクルエンジンに比べて、掃気の際に排出される未燃の混合気を減少させ、燃費の改善や排気ガスのクリーン化を図ることができる。
【0003】
このような従来の層状掃気式の2サイクルエンジンのアイドリング時における動作について簡単に説明する。
図20の(A)は、従来の層状掃気式の2サイクルエンジンのアイドリング時における吸気行程の模式図、(B)は、アイドリング時における掃気行程の模式図を示す。
従来のアイドリング時における層状掃気式の2サイクルエンジンは、吸気行程において、図20の(A)に示されるように、ピストン23が下死点から上死点側に移動することによって、混合気通路800がクランク室25内に開口した状態になり、混合気がアイドリングに要する分だけ混合気通路800からクランク室25内に吸入される。また、アイドリング時には一般的に、先導空気通路700内に設けられた図示略のエアバルブが閉じられているので、先導空気通路700からは、先導空気は吸入されない。
【0004】
そして、ピストン23が上昇し上死点付近に達すると、シリンダ室24内の混合気が点火されて燃焼し、その際の爆発によってピストン23が下降をし始める。これにより、ピストン23がさらに下降すると、図20の(B)に示されるように、掃気行程において、図示略の排気通路および掃気通路9が順次開口した状態になり、排気通路から排気ガスが排出されるのと同時に、クランク室25内の混合気の一部が、掃気通路9を通ってシリンダ室24内に送られる。この後、ピストン23が下死点から上昇し始めることによって、上記サイクルを再び繰り返すことになる。
【0005】
【特許文献1】特開平10−252565号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、図21の(A)は、従来の層状掃気式の2サイクルエンジンのアイドリング状態からの急加速時における吸気行程の模式図、(B)は、急加速時における掃気行程の模式図を示す。
このような層状掃気式の2サイクルエンジンにおいて、アイドリング状態から急加速を行うと、図21の(A)に示されるように、吸気行程では、クランク室25内に混合気通路800から混合気が吸入されるとともに、先導空気通路700からピストン23に設けられた溝230を介して掃気通路9内に先導空気が吸入される。しかし、この際、クランク室25内には、アイドリングに適した濃度の混合気が多量に残留しているので、掃気行程では、図21の(B)に示されるように、この残留したアイドリングに適した濃度の混合気を含んでシリンダ室24内に送られるうえ、シリンダ室24内に送られた混合気は、シリンダ室24内に残留することになる先導空気の一部と混合して薄められる。そのため、従来の層状掃気式の2サイクルエンジンでは、アイドリング状態からの急加速時において、シリンダ室24内に、加速に必要な十分な濃度の混合気が供給されず、加速不良やエンジン停止が発生してしまうといった問題があった。また、この対策技術として、加速時に一時的に燃料量を増加させる加速ポンプを取り付けることが挙げられるが、構造が複雑で費用がかかった。
【0007】
本発明の目的は、簡単な構造で、かつ、加速性が良好な2サイクルエンジンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係る2サイクルエンジンは、層状掃気式の2サイクルエンジンにおいて、先導空気を掃気通路に送り込む先導空気通路と、この先導空気通路を開閉するエアバルブと、前記エアバルブ全閉状態時、または、最小開度状態時に前記先導空気を掃気通路へ送るサブ通路とを備えていることを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項2に係る2サイクルエンジンは、請求項1の2サイクルエンジンにおいて、前記エアバルブは、ロータリー型のバルブであり、前記サブ通路は、前記エアバルブの外周に設けられた溝状部分を備えて形成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項3に係る2サイクルエンジンは、請求項1の2サイクルエンジンにおいて、前記エアバルブは、ロータリー型のバルブであり、前記サブ通路は、前記エアバルブに穿設された孔を備えて形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項4に係る2サイクルエンジンは、請求項1の2サイクルエンジンにおいて、前記エアバルブは、バタフライ型のバルブであり、前記サブ通路は、キャブレタ内の先導空気通路の内周面に設けられた溝状部分を備えて形成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項5に係る2サイクルエンジンは、請求項1の2サイクルエンジンにおいて、前記エアバルブは、バタフライ型のバルブであり、前記サブ通路は、前記エアバルブに穿設された孔を備えて形成されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項6に係る2サイクルエンジンは、請求項1の2サイクルエンジンにおいて、前記エアバルブは、バタフライ型のバルブであり、前記サブ通路は、前記エアバルブに設けられた切欠きを備えて形成されていることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項7に係る2サイクルエンジンは、請求項1の2サイクルエンジンにおいて、前記サブ通路は、エアクリーナエレメントの下流側とインシュレータとを連通させていることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項8に係る2サイクルエンジンは、請求項1の2サイクルエンジンにおいて、前記サブ通路は、エアクリーナおよびシリンダにわたって取り付けられた配管を備えて形成され、エアクリーナエレメントの下流側とシリンダ内の先導空気通路とを連通させていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、層状掃気式の2サイクルエンジンは、エアバルブ全閉状態時、または、最小開度状態時に先導空気を掃気通路へ送るサブ通路を備えている。そのため、アイドリング時においては、ミクスチャーバルブによって空気量を減らされて濃い濃度に調整された混合気が、混合気通路を通してクランク室内に吸入されるとともに、減らされた分の空気が、サブ通路を通して掃気通路内に先導空気として吸入される。そして、掃気行程において、この濃い濃度の混合気がシリンダ室内に送られ、シリンダ室内に残留することになる先導空気の一部と混合するので、シリンダ室内の混合気の濃度は、従来の層状掃気式の2サイクルエンジンのアイドリング時におけるシリンダ室内の混合気の濃度と略等しくなる。
【0017】
一方、アイドリング状態からの急加速時においては、混合気がクランク室内に吸入されるが、クランク室内には、アイドリング時に吸入された濃い濃度の混合気が多量に残留しており、シリンダ室内には、この濃度の濃い混合気を含んで送られるので、シリンダ室内で先導空気の一部と混合して薄まっても、シリンダ室内での混合気の濃度は加速に十分な濃さとなってエンジンを円滑に加速できる。
つまり、従来では、アイドリング時に利用される空気は全て混合気として用いられていたが、請求項1の発明の2サイクルエンジンでは、混合気用の空気を減らし、減らした分の空気をサブ通路を通して掃気通路内に供給するので、アイドリング時にエンジンに吸入される空気量および燃料量は従来と同等でありながら、アイドリング状態からの急加速時においては、エンジンを円滑に加速できる。しかも、加速ポンプなどを取り付ける必要が無くて構造を簡単にできるうえ、サブ通路から一定の先導空気を安定して吸入できる。
【0018】
請求項2の発明によれば、サブ通路は、エアバルブの外周に設けられた溝状部分を備えて形成されているので、構造を簡単にできるうえ、アイドリング時に、一定の先導空気をより安定して吸入できる。
【0019】
請求項3の発明によれば、サブ通路は、エアバルブに穿設された孔を備えて形成されており、やはり、構造を簡単にできるうえ、一定の先導空気をより安定して吸入できる。
【0020】
請求項4から請求項6の発明によれば、エアバルブがバタフライ型のバルブであっても、サブ通路がキャブレタ内の先導空気通路の内周面に設けられた溝状部分や、エアバルブに穿設された孔や、エアバルブに設けられた切欠きを備えて形成されているので、構造を簡単にできるうえ、アイドリング時に、一定の先導空気をより安定して吸入できる。
【0021】
請求項7の発明によれば、サブ通路が、エアクリーナ下流側とインシュレータとを連通させているので、エンジンは、サブ通路を通して掃気通路内に先導空気を吸入することができる。そのため、混合気用の空気を減らし、減らした分の空気をサブ通路を通して掃気通路内に供給でき、アイドリング時にエンジンに吸入される空気量および燃料量を従来と同等にしつつも、アイドリング状態からの急加速時においては、エンジンを円滑に加速できる。
【0022】
請求項8の発明によれば、エアクリーナエレメントの下流側とシリンダ内の先導空気通路とを連通させているサブ通路は、エアクリーナおよびシリンダにわたって取り付けられた配管を備えて形成されているので、より構造を簡素化できてエンジンの製作が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係る2サイクルエンジン1の構造を示す側断面図、図2は、2サイクルエンジン1の構造を示す平断面図である。
図1および図2に示されるように、層状掃気式の2サイクルエンジン1は、エンジン本体2と、インシュレータ3と、キャブレタ4と、エアクリーナ5とを備えている。
【0024】
エンジン本体2は、シリンダ20と、シリンダ20の下側に設けられたクランクケース21と、クランクケース21に支持されたクランク軸22と、クランク軸22にコネクチングロッド26を介して連結されるとともにシリンダ20に摺動自在に挿入されたピストン23とを含んで構成されている。また、ピストン23上部を境にして、シリンダ20内部の上側空間によりシリンダ室24が形成され、シリンダ20内部の下側空間とクランクケース21の内部空間とにより、クランク室25が形成されている。
【0025】
シリンダ20は、シリンダ20内周面に開口する排気通路6と、排気通路6とピストン23を挟んで対向した位置に設けられてシリンダ20内周面に開口するシリンダ先導空気通路7と、シリンダ先導空気通路7の下方に位置してシリンダ20内周面に開口するシリンダ混合気通路8と、図2に示されるように、排気通路6およびシリンダ先導空気通路7に対して周方向に90度ずれた位置にそれぞれ設けられてシリンダ20内周面に開口する一対の掃気通路9とを備えている。この一対の掃気通路9は、ピストン23の外周に設けられた一対の溝230によってシリンダ先導空気通路7と連通可能にされるとともに、掃気行程においては、シリンダ室24とクランク室25とを連通する。本実施形態の混合気の吸入方式は、ピストン23外周面でシリンダ混合気通路8を開閉して混合気の吸気を制御するピストンバルブ方式となっている。
【0026】
図1に示されるように、インシュレータ3は、エンジン本体2からキャブレタ4への伝熱を抑える合成樹脂性の部材であり、上側に、エンジン本体2のシリンダ先導空気通路7と連通接続するインシュレータ先導空気通路30を、下側に、エンジン本体2のシリンダ混合気通路8と連通接続するインシュレータ混合気通路31を備えている。
【0027】
キャブレタ4は、インシュレータ3を介してエンジン本体2に取り付けられている。キャブレタ4の上流(図1中右側)には、エアクリーナ5が取り付けられている。そして、キャブレタ4は、エアクリーナ5側がベンチュリー形状とされてインシュレータ3側がインシュレータ先導空気通路30と連通しているキャブレタ先導空気通路40と、やはりエアクリーナ5側がベンチュリー形状にされてインシュレータ3側がインシュレータ混合気通路31と連通しているキャブレタ混合気通路41とを備えている。また、これらの各通路40,41を開閉するロータリーバルブ42が、嵌装穴45(図2)に回動自在に嵌装されている。
【0028】
図3は、ロータリーバルブ42の斜視図である。
図3に示されるように、ロータリーバルブ42は、大径円柱部43と、大径円柱部43の下側に設けられた小径円柱部44とから一体的に構成され、回動中心部には、ジェットニードルおよびニードルジェットからなる燃料供給部400(図5)挿通用の孔450,460が穿設されている。大径円柱部43には、径方向に貫通した貫通孔47が穿設されるとともに、外周には貫通孔47の一方の開口部分と他方の開口部分とを連通させるように、周方向に沿って一対の溝48が設けられている。小径円柱部44には、径方向に貫通した貫通孔49が穿設されている。
【0029】
このロータリーバルブ42は、図示しないスロットルレバーを介して適宜に回動されてアクセル操作される。つまり、本実施形態では、大径円柱部43が、大径円柱部43外周面と貫通孔47とによってキャブレタ先導空気通路40を開閉するとともに、貫通孔47の開度によって先導空気の吸入量を調整するロータリー型のエアバルブ430となっており、同様に、小径円柱部44が、小径円柱部44外周面と貫通孔49とによってキャブレタ混合気通路41を開閉するとともに、貫通孔49の開度によって混合気の基となる空気の吸入量を調整するロータリー型のミクスチャーバルブ440となっている。
【0030】
図4は、アイドリング時のエアバルブ430の状態を示す拡大図、図5は、アイドリング時のミクスチャーバルブ440の状態を示す拡大図である。
エアバルブ430は、通常運転時には、貫通孔47が開かれた状態にされるが、アイドリング時には、図4に示されるように、貫通孔47の開度がゼロとなる全閉状態にされる。しかし、この際、大径円柱部43の外周に設けられた一対の溝48と、嵌装穴45の内周面と、貫通孔47とがサブ通路100を形成し、キャブレタ先導空気通路40のエアクリーナ5側とエンジン本体2側とを連通させるので、先導空気がわずかにサブ通路100を通過する。
【0031】
一方、図5に示されるように、ミクスチャーバルブ440を通過する空気は、燃料供給部400から燃料が供給されて混合気となる。ここで、本実施形態のミクスチャーバルブ440は、アイドリング時において、従来の層状掃気式の2サイクルエンジンよりも開度が絞られており、吸入する空気量を減らしつつも、ミクスチャーバルブ440を通過する空気に対して従来と略同量の燃料を吸い出させるように調整されている。つまり、ミクスチャーバルブ440は、アイドリング時において、濃い混合気を供給するように調整されている。また、本実施形態では、キャブレタ先導空気通路40、インシュレータ先導空気通路30、およびシリンダ先導空気通路7から先導空気通路700が形成され、キャブレタ混合気通路41、インシュレータ混合気通路31、およびシリンダ混合気通路8から混合気通路800が形成されている。
【0032】
エアクリーナ5は、図1および図2に示されるように、内部にエアクリーナエレメント50を備えている。また、エアクリーナ5には、外部と連通した空気吸入口51と、キャブレタ4のキャブレタ先導空気通路40およびキャブレタ混合気通路41と連通接続する吸気口52とが設けられている。エンジン1が吸入する先導空気および混合気の基となる空気は、まず、空気吸入口51から吸入され、エアクリーナエレメント50を通過し、吸気口52を通ってキャブレタ4のキャブレタ先導空気通路40およびキャブレタ混合気通路41に送られる。
【0033】
以下には、エンジン1の動作および作用効果を説明する。
以上のエンジン1は、アイドリング時においては、エアバルブ430が全閉状態にされるとともにミクスチャーバルブ440が調整されて開度が絞られた状態になっており、吸気行程では、図6の(A)に示されるように、ミクスチャーバルブ440によって空気量を減らされて濃い濃度に調整された混合気が、混合気通路800からクランク室25内に吸入されるとともに、減らされた分の空気が、サブ通路100を通って先導空気として、先導空気通路700からピストン23に設けられた溝230を介して掃気通路9内に吸入される。そして、図6の(B)に示される掃気行程において、クランク室25内に吸入された濃い濃度の混合気が、シリンダ室24内に送られて、シリンダ室24内に残留することになる先導空気の一部と混合するので、シリンダ室24内の混合気の濃度は、従来の層状掃気式2サイクルエンジンのアイドリング時(図19)におけるシリンダ室24内の混合気の濃度と略等しくなる。
【0034】
つまり、従来では、アイドリング時に利用される空気は全て混合気用として用いられていたが、本実施形態では、混合気用の空気を減らし、減らした分の空気を先導空気としてサブ通路100、先導空気通路700、および掃気通路9を通してシリンダ室24内に直接供給するので、エンジン1に吸入される空気量および燃料量は従来と同等であり、燃費が悪化することはない。
【0035】
一方、アイドリング状態からの急加速時においては、図示略のスロットルレバーを介してロータリーバルブ42が回動されることにより、エアバルブ430およびミクスチャーバルブ440が共に開かれた状態になり、吸気行程では、混合気がクランク室25内に吸入されるとともに、先導空気が掃気通路9内に吸入される。しかし、ここで、クランク室25内には、アイドリング時に吸入された濃い濃度の混合気が多量に残留しており、図6の(C)に示されるように、掃気行程において、この残留した濃度の濃い混合気を含んでシリンダ室24内に送られるので、シリンダ室24内で先導空気の一部と混合して薄められても、シリンダ室24内での混合気の濃度は加速に十分な濃さとなってエンジン1を円滑に加速できる。
【0036】
しかも、サブ通路100は、大径円柱部43の外周に設けられた一対の溝48と、嵌装穴45の内周面と、貫通孔47とから形成されるので、構造を簡単にできるうえ、アイドリング時に一定の先導空気を安定して吸入できる。
【0037】
なお、本実施形態では、アイドリング時のエアバルブ430の状態は、貫通孔47の開度がゼロである全閉状態となっていたが、エアバルブ430がわずかに開いて先導空気を通していても、前記実施形態と同様に、ミクスチャーバルブ440によって混合気用の空気を減らし、減らした分の空気をサブ通路100およびエアバルブ430から供給しているならば、アイドリング時にエンジン1に吸入される空気量および燃料量は従来と同等であるとともに、アイドリング時からの急加速時には、クランク室25内に濃い濃度の混合気が多量に残留するので、前記実施形態と同様な構成により同様の効果を得ることができる。また、このようにエアバルブ430がわずかに開いているが、前記実施形態と同様な効果を得られるエアバルブ430の状態を、エアバルブ430最小開度状態とする。
【0038】
〔第2実施形態〕
図7は、本発明の第2実施形態に係るロータリーバルブ42の斜視図、図8は、アイドリング時のエアバルブ430の状態を示す拡大図である。なお、本実施形態以降においては、第1実施形態と同一部材および同一機能部位には同一符号を付し、それらの説明を省略または簡略化する。
【0039】
本実施形態では、図7に示されるように、第1実施形態とは異なり、ロータリーバルブ42の大径円柱部43に、溝48ではなく小孔480が設けられている点が特徴である。
また、アイドリング時において、ミクスチャーバルブ440の開度等は前記第1実施形態と同様に調整されている。
この小孔480は、図8に示されるように、径方向に貫通するように穿設され、アイドリング時におけるエアバルブ430全閉状態時に、キャブレタ先導空気通路40と略平行になるように設けられている。
【0040】
このような本実施形態でも、エアバルブ430全閉状態、または、最小開度状態になるアイドリング時において、この小孔480と貫通孔47とがサブ通路100を形成するので、エンジン1が先導空気を掃気通路9内に吸入でき、前述した第1実施形態と同様に、アイドリング時において、エンジン1に吸入される空気量および燃料量を従来と同等にしつつも、アイドリング状態からの急加速時には、エンジン1を円滑に加速できる。また、サブ通路100が、大径円柱部43に設けられた小孔480と貫通孔47とから形成されるので、前記第1実施形態と同様に構造を簡単にできるうえ、アイドリング時に一定の先導空気を安定して吸入できる。
【0041】
〔第3実施形態〕
図9は、本発明の第3実施形態に係るエンジン1の断面図、図10は、ロータリーバルブ42の斜視図、図11は、アイドリング時のエアバルブ430の状態を示す拡大図である。
本実施形態では、図9に示されるように、管状の通路481が、ロータリーバルブ42を跨いでキャブレタ先導空気通路40のエアクリーナ5側とエンジン本体2側とを連通するようにキャブレタ4の肉厚部分に直接設けられてサブ通路100を形成している点が特徴である。このため、ロータリーバルブ42は、図10に示されるように、従来のものと同じであり、先導空気を通過させるためには、貫通孔47が設けられているだけである。
【0042】
従って、このような本実施形態では、図11に示されるように、アイドリング時において、先導空気は大径円柱部43を通過できないが、キャブレタ4の肉厚部分に設けられたサブ通路100が、先導空気を通過させるので、エンジン1は先導空気を掃気通路9内に吸入することができ、前述した第1実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0043】
〔第4実施形態〕
図12に示される第4実施形態のエンジン1では、エアクリーナエレメント50を通過した空気の一部を、大径円柱部43を通過させること無しに直接インシュレータ先導空気通路30内に送れるように、エアクリーナ5およびインシュレータ3にわたって配管482が取り付けられてキャブレタ4の外側にはわされている点が特徴である。
このような本実施形態でも、エアクリーナエレメント50の下流側とインシュレータ先導空気通路30内とを連通接続させるサブ通路100が、配管482を含んで形成されるので、前述した第1実施形態と同様な効果を得ることができるとともに、エンジン1に配管482を取り付けるだけでよいので、構造がより簡素化されて製作が容易になる。
【0044】
〔第5実施形態〕
図13に示される第5実施形態のエンジン1では、一端側がエアクリーナ5に取り付けられた配管483の他端側が、前記第4実施形態とは異なり、インシュレータ3ではなくエンジン本体2に取り付けられている点が特徴である。
このような本実施形態でも、エアクリーナエレメント50の下流側の空気の一部を直接シリンダ先導空気通路7内に送るサブ通路100が、配管483を含んで形成されるので、前述した第1実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0045】
〔第6実施形態〕
図14は、本発明の第6実施形態に係るキャブレタ4のアイドリング時の状態を示す側断面図、図15は、キャブレタ4のアイドリング時のインシュレータ3側から見た図である。
本実施形態のキャブレタ4では、図14および図15に示されるように、キャブレタ先導空気通路40が並設されているとともに、エアバルブ430およびミクスチャーバルブ440が、共にバタフライ型のバルブとなっている。そして、キャブレタ先導空気通路40の内周面には、それぞれキャブレタ先導空気通路40の連通方向に沿った溝484が設けられている点が特徴である。
本実施形態では、この溝484を備えてサブ通路100が形成されるので、アイドリング時におけるエアバルブ430全閉状態時、または、最小開度状態時にもサブ通路100が先導空気を通過させ、エンジン1が先導空気を掃気通路9内に吸入することができて前述した第1実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0046】
〔第7実施形態〕
図16は、本発明の第7実施形態に係るキャブレタ4のアイドリング時の状態を示す側断面図、図17は、キャブレタ4のアイドリング時のインシュレータ3側から見た図である。
本実施形態では、図16および図17に示されるように、キャブレタ4に設けられたエアバルブ430およびミクスチャーバルブ440が、第6実施形態と同様に、ともにバタフライ型のバルブとなっており、エアバルブ430には、エアバルブ430を貫通する小孔485が穿設されている点が特徴である。
このような本実施形態でも、この小孔485がサブ通路100を形成するので、前述した第1実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0047】
〔第8実施形態〕
図18は、本発明の第8実施形態に係るキャブレタ4のアイドリング時の状態を示す側断面図、図19は、キャブレタ4のアイドリング時のインシュレータ3側から見た図である。
本実施形態では、図18および図19に示されるように、キャブレタ4に設けられたエアバルブ430およびミクスチャーバルブ440が、第6および第7実施形態と同様に、ともにバタフライ型のバルブとなっており、エアバルブ430には、半円状の切欠き486が設けられている点が特徴である。
このような本実施形態でも、この切欠き486を備えてサブ通路100が形成されるので、前述した第1実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0048】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
例えば、前記第6〜8実施形態で説明したようなエアバルブ430がバタフライ式であるキャブレタ4においても、前記第3実施形態のように、キャブレタ4の肉厚部分に、エアバルブ430を跨いでキャブレタ先導空気通路40のエアクリーナ5側とエンジン本体2側とを連通させる管状の通路を設けてもよい。このようにしても、この通路がサブ通路100を形成するので、前記第1実施形態と同様な効果を得ることができる。
また、前記第1実施形態のエンジン1では、混合気の吸入方式は、ピストンバルブ方式であったが、シリンダ混合気通路8をクランク室25内で開口するように設けるとともに、シリンダ混合気通路8内にリードバルブを設置し、リードバルブによって混合気の吸気を制御するリードバルブ方式、または、他のバルブ方式を採用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、層状掃気式の2サイクルエンジンとして、ブロワーや、刈払い機、チェーンソー等の携帯作業機などに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1実施形態に係る2サイクルエンジンの構造を示す側断面図。
【図2】2サイクルエンジンの構造を示す断面図。
【図3】ロータリーバルブの斜視図。
【図4】アイドリング時のエアバルブの状態を示す拡大図。
【図5】アイドリング時のミクスチャーバルブの状態を示す拡大図。
【図6】2サイクルエンジンの動作および作用効果を説明するための模式図。
【図7】本発明の第2実施形態に係るロータリーバルブの斜視図。
【図8】アイドリング時のエアバルブの状態を示す拡大図。
【図9】本発明の第3実施形態に係る2サイクルエンジンの断面図。
【図10】ロータリーバルブの斜視図。
【図11】アイドリング時のエアバルブの状態を示す拡大図。
【図12】本発明の第4実施形態に係る2サイクルエンジンの構造を示す断面図。
【図13】本発明の第5実施形態に係る2サイクルエンジンの構造を示す断面図。
【図14】本発明の第6実施形態に係るキャブレタのアイドリング時の状態を示側す断面図。
【図15】キャブレタのアイドリング時のインシュレータ側から見た図。
【図16】本発明の第7実施形態に係るキャブレタのアイドリング時の状態を示す側断面図。
【図17】キャブレタのアイドリング時のインシュレータ側から見た図。
【図18】本発明の第8実施形態に係るキャブレタのアイドリング時の状態を示す側断面図。
【図19】キャブレタのアイドリング時のインシュレータ側から見た図。
【図20】従来の層状掃気式2サイクルエンジンのアイドリング時における動作を説明するための模式図。
【図21】従来の層状掃気式2サイクルエンジンのアイドリング状態からの急加速時における動作を説明するための模式図。
【符号の説明】
【0051】
1…2サイクルエンジン、3…インシュレータ、4…キャブレタ、9…掃気通路、48…溝(溝状部分)、50…エアクリーナエレメント、100…サブ通路、430…エアバルブ、480…小孔(孔)、482…配管、484…溝(溝状部分)、485…小孔(孔)、486…切欠き。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状掃気式の2サイクルエンジンにおいて、
先導空気を掃気通路に送り込む先導空気通路と、
この先導空気通路を開閉するエアバルブと、
前記エアバルブ全閉状態時、または、最小開度状態時に前記先導空気を掃気通路へ送るサブ通路とを備えている
ことを特徴とする2サイクルエンジン。
【請求項2】
請求項1の2サイクルエンジンにおいて、
前記エアバルブは、ロータリー型のバルブであり、
前記サブ通路は、前記エアバルブの外周に設けられた溝状部分を備えて形成されている
ことを特徴とする2サイクルエンジン。
【請求項3】
請求項1の2サイクルエンジンにおいて、
前記エアバルブは、ロータリー型のバルブであり、
前記サブ通路は、前記エアバルブに穿設された孔を備えて形成されている
ことを特徴とする2サイクルエンジン。
【請求項4】
請求項1の2サイクルエンジンにおいて、
前記エアバルブは、バタフライ型のバルブであり、
前記サブ通路は、キャブレタ内の先導空気通路の内周面に設けられた溝状部分を備えて形成されている
ことを特徴とする2サイクルエンジン。
【請求項5】
請求項1の2サイクルエンジンにおいて、
前記エアバルブは、バタフライ型のバルブであり、
前記サブ通路は、前記エアバルブに穿設された孔を備えて形成されている
ことを特徴とする2サイクルエンジン。
【請求項6】
請求項1の2サイクルエンジンにおいて、
前記エアバルブは、バタフライ型のバルブであり、
前記サブ通路は、前記エアバルブに設けられた切欠きを備えて形成されている
ことを特徴とする2サイクルエンジン。
【請求項7】
請求項1の2サイクルエンジンにおいて、
前記サブ通路は、エアクリーナエレメントの下流側とインシュレータとを連通させている
ことを特徴とする2サイクルエンジン。
【請求項8】
請求項1の2サイクルエンジンにおいて、
前記サブ通路は、エアクリーナおよびシリンダにわたって取り付けられた配管を備えて形成され、エアクリーナエレメントの下流側とシリンダ内の先導空気通路とを連通させている
ことを特徴とする2サイクルエンジン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate