説明

2位に置換基を有する光学活性キヌクリジノール類の製造方法

【課題】
2位に置換基を有する光学活性3−キヌクリジノール類、特に医薬、農薬等に利用される光学活性な生理活性化合物、または液晶材料等の合成中間体として有用な2位に置換基を有する光学活性シス−3−キヌクリジノール類の製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明の2位に置換基を有する光学活性3−キヌクリジノール類の製造方法は、所定の金属錯体の存在下において、2位に置換基を有する3−キヌクリジノン類と水素を供与する化合物とを反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2位に置換基を有する光学活性3−キヌクリジノール類の製造方法に関し、特に、医薬、農薬等に利用される光学活性な生理活性化合物、または液晶材料等の合成中間体として有用な2位に置換基を有する光学活性シス−3−キヌクリジノール類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然に存在する有機化合物は、光学活性体であるものが多く存在する。その中でも生理活性を有する化合物は、一方の光学異性体のみが望ましい活性を有することが多い。また、望ましい活性を有しない他方の光学異性体は、生体にとって有用な生理活性を有しないばかりでなく、むしろ生体に対し毒性を有する場合があることも知られている。そのため、安全な医薬品合成方法として、目的化合物またはその中間体として高い光学純度を有する光学活性化合物を合成する方法の開発が望まれている。
【0003】
光学活性アルコールは、さまざまな光学活性物質を合成するための不斉源として有用である。光学活性アルコールは一般にラセミ体の光学分割によって、または生物学的触媒や不斉金属錯体を触媒に用いる不斉合成によって製造されている。特に不斉合成による光学活性アルコ−ルの製造は、多量の光学活性アルコールを製造するための不可欠の技術と考えられている。
【0004】
2位に置換基を有する光学活性キヌクリジノール類は、医薬、農薬等に利用される光学活性な生理活性化合物の合成中間体であり、産業上有用な光学活性アルコールの一つである。例えば、光学活性2−(3−ピリジルメチル)−3−キヌクリジノールは、ニコチン性コリン作用受容体の阻害物質の合成中間体であり、様々な中枢神経系障害の治療に有用である(特許文献1および2)。また、光学活性2−ジフェニルメチル−3−キヌクリジノールは、サブスタンスP拮抗薬の合成中間体であり、中枢神経系障害やアルツハイマー型老化性痴呆などの治療に有効である(特許文献3〜6)。さらに、3位の水酸基をアミノ基に置換した化合物にも多種多様な生理活性が報告されている(特許文献7)。
【0005】
2位に置換基を有する光学活性3−キヌクリジノールの製造方法としては、以下に示すように、ラセミ体のシス−キヌクリジノールを光学分割する方法が報告されている。例えば、ラセミ体の2−アリ−ルメチル−3−キヌクリジノールを光学活性2−メトキシ−2−フェニル酢酸と反応させジアステレオマ−にした後、HPLCで分割し、ついで加水分解して目的物を得る方法(非特許文献1)、ラセミ体の2−ジアリールメチル−3−キヌクリジノールを光学活性マンデル酸と反応させてジアステレオマ−に変換した後、再結晶により分割し、ついで加水分解して目的物を得る方法(非特許文献2)、ラセミ体の2−ジアリールメチル−3−キヌクリジノールを光学活性カンファー酸と反応させてジアステレオマーにした後、再結晶により分割し、ついで加水分解して目的物を得る方法(非特許文献3)等が知られている。しかし、これらの方法は前もって2位に置換基を有するラセミ体のキヌクリジノールを調製し、これをジアステレオマーに誘導した後、さらに分割、脱保護等の操作を要し煩雑である。
【0006】
さらに、これらの方法は、ラセミ体の2位に置換基を有する3−キヌクリジノールを光学分割して目的の光学異性体を得る手法であり、目的としない他方の光学異性体が残存するため、高い収率で得ることができない。したがってこれらの方法は、2位に置換基を有する光学活性−3−キヌクリジノールを簡便かつ経済的に製造できる方法とは言い難い。
【0007】
これに対し、光学活性アルコ−ルを得る方法として、プロキラルなカルボニル化合物を不斉金属錯体触媒の存在下で不斉水素化する方法が知られている。特許文献8には、BINAP等の光学活性ジホスフィン化合物を有するルテニウム金属錯体、アルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物等の塩基、及びエチレンジアミン型光学活性ジアミン化合物の存在下でカルボニル化合物を不斉水素化する方法が開示されている。また、特許文献9には、BINAP等の光学活性ホスフィンと光学活性1,2−エチレンジアミン型配位子を有するルテニウム錯体を触媒として使用し、カルボニル化合物を水素化する方法が開示されている。さらに、特許文献10にはSKEWPHOS等の光学活性ホスフィンと光学活性1,2−エチレンジアミン型配位子を有するルテニウム錯体を使用した方法が開示されている。
【0008】
これらの不斉水素化方法を用いた光学活性3−キヌクリジノールの合成法として、特許文献11には、3−キヌクリジノンおよびそのルイス酸との付加物、ならびにこれらに対応する特定の第三および第四塩からなる化合物から選ばれたキヌクリジノン誘導体を、キラルなジホスフィンを有するロジウム、イリジウムまたはルテニウム錯体の存在下で水素化する方法が記載されている。特許文献12には、光学活性2座配位子と光学活性1,2−エチレンジアミン型配位子を有する光学活性ルテニウム錯体と塩基の存在下、3−キヌクリジノンを水素化し光学活性3−キヌクリジノールを製造する方法が開示されている。また、特許文献13には、フェロセン骨格を有する光学活性ホスフィンと1,2−エチレンジアミン型配位子を有するロジウム錯体を触媒として使用し、3−キヌクリジノンを水素化する方法が開示されている。この特許文献中には、3−キヌクリジノン等の置換基を有してもよいプロキラルな環状ケトン類の記載があるものの、2位に置換基を有する3−キヌクリジノンの具体例は記載されていない。すなわち、これらの報告は何れも2位に置換基を有しない3−キヌクリジノンを還元して3−キヌクリジノールを得るものであり、ラセミ体の2位に置換基を有する3−キヌクリジノンから2位に置換基を有する光学活性3−キヌクリジノールを合成する例は全く記載されていない。
【0009】
また、触媒的不斉水素化に対して、アルコ−ルやギ酸を還元剤とする方法、すなわち触媒的な不斉還元反応も多く報告されている。特に、スルホニルアミド基をアンカ−にもつアミン配位子を有する不斉ルテニウム触媒(特許文献14)の性能は特筆すべきものである。これ以外にも、ルテニウム−アミン錯体を基本骨格とする類似の触媒システム(非特許文献4)が報告されている。また、同様に、金属−アミン結合を持つロジウムやイリジウム触媒(非特許文献5)も報告されている。しかしながら、これらの報告でも、2位に置換基を有する3−キヌクリジノンを不斉還元して2位に置換基を有する光学活性3−キヌクリジノールを合成する例はおろか、置換基をもたない3−キヌクリジノンを不斉還元して光学活性−3−キヌクリジノールを合成する方法ですら報告されていなかった。
【0010】
また、動的速度論分割をともなった不斉還元の例としては、特許文献15にラセミ体のベンゾインから光学活性ヒドロベンゾインの合成が報告されているが、ラセミ体の2位に置換基を有する3−キヌクリジノンから光学活性3−キヌクリジノールを合成する反応例は報告されていない。
【0011】
以上のとおり還元的手法を用いて、2位に置換基を有するキヌクリジノンを不斉還元して2位に置換基を有する光学活性−3−キヌクリジノールを合成する方法はこれまで知られていない。
【特許文献1】特表2002−531564号公報
【特許文献2】国際公開第20000034276号パンフレット
【特許文献3】特許第3273750号公報
【特許文献4】欧州特許第829480号明細書
【特許文献5】特許第2500279号公報
【特許文献6】欧州特許第499313号明細書
【特許文献7】特開2002−020287号公報
【特許文献8】特開平8−225466号公報
【特許文献9】特開平11−189600号公報
【特許文献10】特開2003−252884号公報
【特許文献11】特開平9−194480号公報
【特許文献12】特開2003−277380号公報
【特許文献13】特開2004−292434号公報
【特許文献14】特開平11−322649号公報
【特許文献15】特許第3630002号公報
【非特許文献1】Bioorg & Med. Chem. Lett. 15, 2073−2077(2005)
【非特許文献2】J. Med. Chem. 17, 497−501(1974)
【非特許文献3】Bioorg & Med. Chem. Lett. 8, 1703−1706(1993)
【非特許文献4】Chem. Commun. 1996, 223. Organometallics 1996, 15, 1087.
【非特許文献5】J. Org. Chem. 1999, 64, 2186.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、光学活性ジアミン化合物を配位子とするルテニウム、ロジウムまたはイリジウム錯体を触媒として、2位に置換基を有するキヌクリジノン類から、これまで光学分割法でしか得られていなかった2位に置換基を有する光学活性キヌクリジノール類の効率的な製造方法を提供することであり、特に2位に置換基を有するシス−3−キヌクリジノール類の効率的な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、2位に置換基を有する光学活性キヌクリジノール類の効率的な製造方法を鋭意検討する中で、スルホニルジアミン配位子を有するルテニウム、ロジウムまたはイリジウム錯体触媒が、2位に置換基を有する3−キヌクリジノン類の不斉還元触媒として優れた性能を有することを見出し、かつ、ラセミ体の2位に置換基を有するキヌクリジノン類が動的速度論分割をともなって還元され、2箇所の不斉炭素の立体配置が同時に制御され、2位に置換基を有する光学活性シス−3−キヌクリジノール類を高い収率で効率的に与えることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明は、2位に置換基を有する光学活性3−キヌクリジノール類の製造方法であって、下記一般式(1)
【化1】

(一般式(1)中、R1及びRは互いに同一または異なり、置換基を有していてもよい、アルキル基、フェニル基、ナフチル基、またはシクロアルキル基であり、場合によってR1とRとが結合して脂環式環を形成していてもよく、Rは、置換基を有していてもよい、アルキル基、パーフルオロアルキル基、ナフチル基、フェニル基、またはカンファーであり、Rは、水素原子またはアルキル基であり、Arは、Mとπ結合を介して結合している、置換基を有していてもよいベンゼン環基、または置換基を有してもよいシクロペンタジエニル基であり、Xはヒドリド基またはアニオン性基であり、Mは、ルテニウム、ロジウムまたはイリジウムであり、*は不斉炭素原子を示す。)で表される金属錯体の存在下において、2位に置換基を有する3−キヌクリジノン類と水素を供与する化合物とを反応させることを特徴とする、前記方法に関する。
【0015】
また本発明は、2位に置換基を有する光学活性3−キヌクリジノール類の製造方法であって、下記一般式(2)
【化2】

(一般式(2)中、R1、R、R、R、Ar、Mおよび*は、それぞれ請求項1において定義した意味と同じ意味を有する。)で表される金属錯体の存在下において、2位に置換基を有する3−キヌクリジノン類と水素を供与する化合物とを反応させることを特徴とする、前記方法に関する。
【0016】
さらに本発明は、一般式(1)または一般式(2)中のMがルテニウムである、前記方法に関する。
【0017】
また本発明は、一般式(1)または一般式(2)中のMがイリジウムである、前記方法に関する。
【0018】
さらに本発明は、一般式(1)または一般式(2)中のMがロジウムである、前記方法に関する。
【0019】
また本発明は、2位に置換基を有する光学活性3−キヌクリジノール類がジアステレオ選択的かつエナンチオ選択的に得られることを特徴とする、前記方法に関する。
【0020】
さらに本発明は、2位に置換基を有する3−キヌクリジノン類が下記一般式(3)で表される化合物、一般式(4)で表される化合物、または一般式(3)で表される化合物と一般式(4)で表される化合物の任意の割合による混合物であり、生成する2位に置換基を有する光学活性3−キヌクリジノール類が、下記一般式(5)または一般式(6)で表される2位に置換基を有する光学活性−シス−3−キヌクリジノール類である、前記方法に関する。
【化3】

(一般式(3)、(4)、(5)および(6)中、Rは、ヘテロ原子を含んでも良い、芳香環により置換されていても良い炭素数1から20のアルキル基を示し、*は不斉炭素原子を示す。)
【0021】
また本発明は、一般式(3)〜(6)中のRが、置換基を有してもよい、ジフェニルメチル基、3−ピリジルメチル基またはベンジル基である、前記方法に関する。
【0022】
さらに本発明は、一般式(1)または一般式(2)で表される金属錯体の、2位に置換基を有する光学活性3−キヌクリジノール類の製造への使用に関する。
【0023】
本発明は一般式(1)または一般式(2)で表される金属錯体を2位に置換基を有する3−キヌクリジノン類から3−キヌクリジノール類への還元反応に用いた場合に、2位が無置換の3−キヌクリジノン類を基質とした場合には得られない高い立体選択性を示すことの発見に基づいている。これは2位に置換基を有する3−キヌクリジノン類が動的速度論分割をともなって不斉還元されるためであり、それにより2箇所の不斉点を同時に制御することが可能である。特に、2位に置換基を有する光学活性シス−キヌクリジノール類を極めて効率的に製造することができる。以上のとおり、本発明によれば、2位に置換基を有する3−キヌクリジノール類を高い反応収率、かつ高いジアステレオ選択性および光学純度で得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の金属錯体触媒において、一般式(1)および一般式(2)中のR1及びRとしては、置換基を有していてもよいアルキル基、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、例えばフェニル基、4−メチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基等の炭素数1〜5のアルキル基を有するフェニル基、4−フルオロフェニル基、4−クロロフェニル基等のハロゲン置換基を有するフェニル基、4−メトキシフェニル基等のアルコキシ基を有するフェニル基、置換基を有していてもよいナフチル基、例えばナフチル基、5,6,7,8−テトラヒドロ−1−ナフチル基、5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。また、場合によってR1とRとが結合して非置換若しくは置換基を有する脂環式環を形成していていもよい。例えばR1とRとが結合してシクロペンタン環やシクロヘキサン環等を形成していていもよい。R1及びRは共にフェニル基であるか、R1とRとが結合してシクロヘキサン環を形成しているのが好ましい。
【0025】
一般式(1)および一般式(2)中のRにおけるアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜10のアルキル基が挙げられる。これらのアルキル基は置換基を有していてもよく、例えば置換基としてフッ素原子を1つ以上有していてもよい。フッ素原子を1つ以上含むアルキル基としては、例えば、フロオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等が挙げられる。また、置換基を有していてもよいナフチル基としては、例えば無置換のナフチル基、5,6,7,8−テトラヒドロ−1−ナフチル基、5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル基等が挙げられる。また、置換基を有していてもよいフェニル基としては、例えば無置換のフェニル基、4−メチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、2,4,6−トリイソプロピルフェニル基等のアルキル基を有するフェニル基、4−フルオロフェニル基、4−クロロフェニル基等のハロゲン置換基を有するフェニル基、4−メトキシフェニル基等のアルコキシ基を有するフェニル基等が挙げられる。
【0026】
一般式(1)および一般式(2)中のRの具体例としては、メチル基、エチル基等の炭素数1〜5のアルキル基、水素原子等が挙げられ、好ましくは水素原子である。一般式(1)および一般式(2)中のArとしては、置換基を有してもよいベンゼン環基またはシクロペンタジエニル基が挙げられる。ベンゼン環基としては、例えば無置換のベンゼンのほか、トルエン、o−,m−またはp−キシレン、o−,m−またはp−シメン、1,2,3−、1,2,4−または1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,4,5−テトラメチルベンゼン、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、ペンタメチルベンゼン、ヘキサメチルベンゼン等のアルキル基を有するベンゼン等が挙げられる。さらに、置換基を有してもよいシクロペンタジエニル基としては、シクロペンタジエニル基、メチルシクロペンタジエニル基、1,2−ジメチルシクロペンタジエニル基、1,3−ジメチルシクロペンタジエニル基、1,2、3−トリメチルシクロペンタジエニル基、1,2,4−トリメチルシクロペンタジエニル基、1,2,3,4−テトラメチルシクロペンタジエニル基、1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニル基等が挙げられる。
【0027】
一般式(1)および一般式(2)中のMは、ルテニウム、ロジウム及びイリジウムのいずれかである。一般式(1)中のXは、ヒドリド基またはアニオン性基であり、例えば、ヒドリド基、架橋したオキソ基、フッ素基、塩素基、臭素基、ヨウ素基、テトラフルオロボラ−ト基、テトラヒドロボラ−ト基、テトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボラ−ト基、アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基、(2,6−ジヒドロキシベンゾイル)オキシ基、(2,5−ジヒドロキシベンゾイル)オキシ基、(3−アミノベンゾイル)オキシ基、(2,6−メトキシベンゾイル)オキシ基、(2,4,6−トリイソプロピルベンゾイル)オキシ基、1−ナフタレンカルボン酸基、2−ナフタレンカルボン酸基、トリフルオロアセトキシ基、トリフルオロメタンスルホンイミド基、ニトロメチル基、ニトロエチル基、水酸基等が挙げられる。Xは好ましくはヒドリド基、水酸基、架橋したオキソ基、フッ素基、塩素基、臭素基またはヨウ素基である。
【0028】
一般式(1)および一般式(2)で表される金属触媒は、金属に2座配位子であるスルホニルエチレンジアミン化合物(RSONHCHRCHRNHR)が結合している構造を有するといえる。スルホニルエチレンジアミン化合物の具体例としては、N−(p−トルエンスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン(TsDPEN)、N−メタンスルホニル−1,2−ジフェニルエチレンジアミン(MsDPEN)、N−メチル−N′−(p−トルエンスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、N−(p−メトキシフェニルスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、N−(p−クロロフェニルスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、N−トリフルオロメタンスルホニル−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、N−(2,4,6−トリメチルベンゼンスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、N−(2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、N−(4−tert−ブチルベンゼンスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、N−(2−ナフチルスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、N−(3,5−ジメチルベンゼンスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、N−ペンタメチルベンゼンスルホニル−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、及び1,2−N−トシルシクロヘキサンジアミン(TsCYDN)等が挙げられる。中でも、TsDPEN及びTsCYDNが好ましい。
【0029】
一般式(1)および一般式(2)で表される金属錯体触媒の調製方法は、Angew. Chem., Int. Ed. Engl. Vol.36, p285(1997)やJ. Org. Chem. Vol.64, p2186(1999)等の記載を参照することができる。具体的には、ルテニウムアレ−ン錯体、ペンタメチルシクロペンタジエニルロジウム錯体、ペンタメチルシクロペンタジエニルイリジウム錯体等の遷移金属錯体とスルホニルジアミン配位子との反応により合成可能である。
【0030】
また、一般式(1)および一般式(8)で示されるルテニウム錯体は、その合成に用いる反応試剤である有機化合物を1個ないし複数個含む場合がある。ここで、有機化合物は配位性の有機溶媒を意味し、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素溶媒、塩化メチレン等のハロゲン含有炭化水素溶媒、エーテル、テトラヒドロフラン等のエ−テル系溶媒、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール等のアルコ−ル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、シクロへキシルケトン等のケトン系溶媒、アセトニトリル、DMF、N−メチルピロリドン、DMSO、トリエチルアミン等のヘテロ原子を含む有機溶剤等が例示される。
【0031】
水素化反応に用いる2位に置換基を有するキヌクリジノン類は、[1]2位のみに置換基を有するキヌクリジノン誘導体:2−ピリジルメチル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−3−キヌクリジノン、2−ジ(4−フルオロフェニル)メチル−3−キヌクリジノン、2−メチル−3−キヌクリジノン、2,2−ジメチル−3−キヌクリジノン、2−エチル−3−キヌクリジノン、2,2−ジエチル−3−キヌクリジノン、2−n−プロピル−3−キヌクリジノン、2,2−ジn−プロピル−3−キヌクリジノン、2−i−プロピル−3−キヌクリジノン、2,2−ジi−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ブチル−3−キヌクリジノン、2,2−ジブチル−3−キヌクリジノン、2−t−ブチル−3−キヌクリジノン、及び2−ベンジル−3−キヌクリジノン、
【0032】
[2]2位と4位に置換基を有するキヌクリジノン誘導体:
2−メチル−4−メチル−3−キヌクリジノン、2−メチル−4−エチル−3−キヌクリジノン、2−メチル−4−n−プロピル−3−キヌクリジノン、2−メチル−4−i−プロピル−3−キヌクリジノン、2−メチル−4−ブチル−3−キヌクリジノン、2−メチル−4−t−ブチル−3−キヌクリジノン、2−メチル−4−ベンジル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−4−メチル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−4−エチル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−4−n−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−4−i−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−4−ブチル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−4−t−ブチル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−4−ベンジル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−4−メチル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−4−エチル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−4−n−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−4−i−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−4−ブチル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−4−t−ブチル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−4−ベンジル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−4−メチル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−4−エチル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−4−n−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−4−i−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−4−ブチル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−4−t−ブチル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−4−ベンジル−3−キヌクリジノン、
【0033】
[3]2位と5位に置換基を有するキヌクリジノン誘導体:
2−メチル−5−メチル−3−キヌクリジノン、2−メチル−5,5−ジメチル−3−キヌクリジノン、2−メチル−5−エチル−3−キヌクリジノン、2−メチル−5,5−ジエチル−3−キヌクリジノン、2−メチル−5−n−プロピル−3−キヌクリジノン、2−メチル−5,5−ジn−プロピル−3−キヌクリジノン、2−メチル−5−i−プロピル−3−キヌクリジノン、2−メチル−5,5−ジi−プロピル−3−キヌクリジノン、2−メチル−5−ブチル−3−キヌクリジノン、2−メチル−5,5−ジブチル−3−キヌクリジノン、2−メチル−5−t−ブチル−3−キヌクリジノン、2−メチル−5−ベンジル−3−キヌクリジノン、
【0034】
2−ベンジル−5−メチル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−5,5−ジメチル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−5−エチル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−5,5−ジエチル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−5−n−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−5,5−ジn−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−5−i−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−5,5−ジi−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−5−ブチル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−5,5−ジブチル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−5−t−ブチル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−5−ベンジル−3−キヌクリジノン、
【0035】
2−ジフェニルメチル−5−メチル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−5,5−ジメチル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−5−エチル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−5,5−ジエチル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−5−n−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−5,5−ジn−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−5−i−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−5,5−ジi−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−5−ブチル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−5,5−ジブチル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−5−t−ブチル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−5−ベンジル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−5−メチル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−5,5−ジメチル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−5−エチル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−5,5−ジエチル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−5−n−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−5,5−ジn−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−5−i−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−5,5−ジi−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−5−ブチル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−ジ5,5−ジブチル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−5−t−ブチル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−5−ベンジル−3−キヌクリジノン、
【0036】
[4]2位と6位に置換基を有するキヌクリジノン誘導体:
2−メチル−6−メチル−3−キヌクリジノン、2−メチル−6,6−ジメチル−3−キヌクリジノン、2−メチル−6−エチル−3−キヌクリジノン、2−メチル−6,6−ジエチル−3−キヌクリジノン、2−メチル−6−n−プロピル−3−キヌクリジノン、2−メチル−6,6−ジn−プロピル−3−キヌクリジノン、2−メチル−6−i−プロピル−3−キヌクリジノン、2−メチル−6,6−ジi−プロピル−3−キヌクリジノン、6−ブチル−3−キヌクリジノン、2−メチル−6,6−ジブチル−3−キヌクリジノン、2−メチル−6−t−ブチル−3−キヌクリジノン、2−メチル−6−ベンジル−3−キヌクリジノン、
【0037】
2−ベンジル−6−メチル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−6,6−ジメチル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−6−エチル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−6,6−ジエチル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−6−n−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−6,6−ジn−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−6−i−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−6,6−ジi−プロピル−3−キヌクリジノン、6−ブチル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−6,6−ジブチル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−6−t−ブチル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−6−ベンジル−3−キヌクリジノン、
【0038】
2−ジフェニルメチル−6−メチル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−6,6−ジメチル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−6−エチル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−6,6−ジエチル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−6−n−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−6,6−n−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−6−i−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−6,6−ジi−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−6−ブチル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−6,6−ジブチル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−6−t−ブチル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−6−ベンジル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−6−メチル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−6,6−ジメチル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−6−エチル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−6,6−ジエチル−3−キヌクリジノン、6−n−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−6,6−ジn−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−6−i−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−6,6−ジi−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−6−ブチル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−6,6−ジブチル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−6−t−ブチル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−6−ベンジル−3−キヌクリジノン、
【0039】
[5]2位と7位に置換基を有するキヌクリジノン誘導体:
2−メチル−7−メチル−3−キヌクリジノン、2−メチル−7,7−ジメチル−3−キヌクリジノン、2−メチル−7−エチル−3−キヌクリジノン、2−メチル−7,7−ジエチル−3−キヌクリジノン、2−メチル−7−n−プロピル−3−キヌクリジノン、2−メチル−7,7−ジn−プロピル−3−キヌクリジノン、2−メチル−7−i−プロピル−3−キヌクリジノン、2−メチル−7,7−ジi−プロピル−3−キヌクリジノン、2−メチル−7−ブチル−3−キヌクリジノン、2−メチル−7,7−ジブチル−3−キヌクリジノン、2−メチル−7−t−ブチル−3−キヌクリジノン、2−メチル−7−ベンジル−3−キヌクリジノン、
【0040】
2−ベンジル−7−メチル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−7,7−ジメチル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−7−エチル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−7,7−ジエチル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−7−n−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−7,7−ジn−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−7−i−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−7,7−ジi−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−7−ブチル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−7,7−ジブチル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−7−t−ブチル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−7−ベンジル−3−キヌクリジノン、
【0041】
2−ジフェニルメチル−7−メチル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−7,7−ジメチル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−7−エチル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−7,7−ジエチル−3−キヌクリジノン2−ジフェニルメチル−、2−ジフェニルメチル−7−n−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−7,7−ジn−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−7−i−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−7,7−ジi−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−7−ブチル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−7,7−ジブチル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−7−t−ブチル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−7−ベンジル−3−キヌクリジノン、
【0042】
2−ピリジルメチル−7−メチル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−7,7−ジメチル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−7−エチル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−7,7−ジエチル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−7−n−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−7,7−ジn−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−7−i−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−7,7−ジi−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−7−ブチル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−7,7−ジブチル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−7−t−ブチル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−7−ベンジル−3−キヌクリジノン、
【0043】
[6]2位と8位に置換基を有するキヌクリジノン誘導体:
2−メチル−8−メチル−3−キヌクリジノン、2−メチル−8,8−ジメチル−3−キヌクリジノン、2−メチル−8−エチル−3−キヌクリジノン、2−メチル−8,8−ジエチル−3−キヌクリジノン、2−メチル−8−n−プロピル−3−キヌクリジノン、2−メチル−8,8−ジn−プロピル−3−キヌクリジノン、2−メチル−8−i−プロピル−3−キヌクリジノン、2−メチル−8,8−ジi−プロピル−3−キヌクリジノン、2−メチル−8−ブチル−3−キヌクリジノン、2−メチル−8,8−ジブチル−3−キヌクリジノン、2−メチル−8−t−ブチル−3−キヌクリジノン、8−メチル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−8−メチル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−8,8−ジメチル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−8−エチル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−8,8−ジエチル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−8−n−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−8,8−n−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−8−i−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−8,8−i−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−8−ブチル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−8,8−ジブチル−3−キヌクリジノン、2−ベンジル−8−t−ブチル−3−キヌクリジノン、2,8−ジベンジル−3−キヌクリジノン、
【0044】
2−ジフェニルメチル−8−メチル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−8,8−ジメチル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−8−エチル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−8,8−ジエチル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−8−n−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−ジ8,8−n−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−8−i−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−8,8−ジi−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−8−ブチル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−8,8−ジブチル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−8−t−ブチル−3−キヌクリジノン、2−ジフェニルメチル−8−ベンジル−3−キヌクリジノン、
【0045】
2−ピリジルメチル−8−メチル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−8,8−ジメチル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−8−エチル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−8,8−ジエチル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−8−n−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−8,8−ジn−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−8−i−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−8,8−ジi−プロピル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−8−ブチル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−8,8−ジブチル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−8−t−ブチル−3−キヌクリジノン、2−ピリジルメチル−8−ベンジル−3−キヌクリジノン、その他、2位と2位以外の複数の位置に置換基を有するキヌクリジノン誘導体等をケトン基質として使用できる。置換基の数は、置換基の位置が2位及び4位の場合は当該炭素原子に対して1個であり、5位、6位、7位、及び8位の場合は当該炭素原子に対して1個または2個である。キヌクリジノン全体では、存在していても良い置換基数は1個から10個である。
【0046】
本発明におけるアルコールの製法は、例えば、一般式(1)、あるいは一般式(2)で表される金属錯体触媒とケトン化合物とを溶媒に入れ、水素供与体存在下で混合し、ケトン化合物を還元することによって行う。このとき使用する触媒の量は、金属触媒に対するケトン化合物のモル比をS/C(Sは基質、Cは触媒)で表すと、S/Cは特に制限されないが、10〜100,000の範囲で用いることができ、実用性を考慮すると50〜10,000の範囲で用いるのが好ましい。
【0047】
本発明においては、通常水素供与体自体を反応溶媒として利用するが、原料の溶解度を向上させるために、メタノール、エタノール、2−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール、2−メチル−2−ブタノール等のアルコール系溶媒、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒、DMSO、DMF、アセトニトリル等のヘテロ原子含有溶媒、トルエン、キシレン等の族炭化水素溶媒、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素溶媒、塩化メチレン等のハロゲン含有炭化水素溶媒、水等を単独で又は併用して用いることができる。また、例示した上記溶媒とそれ以外の溶媒との混合溶媒を用いることもできる。特に、DMF及び塩化メチレンを好適に用いることができる。
【0048】
本発明における水素供与体は、カルボニル基に水素を供与するものであればよく、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−イソプロパノール、1−ブタノール、sec−ブチルアルコール、ベンジルアルコール等のα位に水素原子を有するアルコール化合物、ギ酸およびナトリウム、カリウム等のギ酸塩等が挙げられ、好ましくは2−プロパノールとギ酸である。
【0049】
基質に対する水素供与体量は、通常1モル倍から大過剰(通常1000モル倍程度)用いるが、一般にアルコールを水素供与体に用いる場合は、逆反応による異性化を防ぐために大過剰で用い、ギ酸を水素供与体に用いる場合は1モル倍〜20モル倍の範囲、特に好ましくは2〜10モル倍で使用する。
【0050】
本発明の製造方法では、金属錯体触媒の機能を発現させる目的と、動的速度論分割により高い光学純度で目的物を得る目的で、塩基を添加するのが好ましい。用いる塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムイソプロポキシド等のアルカリ金属アルコキシド、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン等の有機アミン類が例示される。好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたは三級アミンであるトリエチルアミンである。これらの塩基は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0051】
塩基は、金属錯体触媒に対して過剰量、例えばモル比で1〜1000モル倍量を用いることができるが、1〜100モル倍量がより好ましい。一般にアルコールを水素供与体に用いる場合の好ましい塩基量は水酸化カリウムで1〜10モル倍量であり、大過剰量は好ましくない。ギ酸を水素供与体に用いる場合はトリエチルアミンを触媒に対して1〜10モル倍量が好ましく、大過剰量、例えば1〜1000モル倍量を用いてもよい。
【0052】
本発明で用いる金属錯体触媒のうち、一般式(1)で表される化合物のXがClである塩化物錯体を用いる場合、金属錯体触媒の機能を発現させるために、塩基の添加が必要である。その際用いる塩基と水素供与体との好適な組み合わせとしては、2−プロパノール/水酸化カリウムもしくは水酸化ナトリウム、ギ酸/トリエチルアミン等が挙げられる。効率よく還元反応が進行することから、ギ酸/トリエチルアミンが最も好適である。
【0053】
また、錯体触媒が一般式(1)で表される化合物のうち、Xがヒドリド基である場合や、一般式(2)で表される金属アミド錯体を用いた場合には、塩基の非存在下でも反応は進行する。このため基質の2位に置換基を有する3−キヌクリジノン類が塩基に特に不安定な場合には、塩基の非存在下で反応を行うことが望ましい。
【0054】
塩基の混合は、予め溶媒や水素供与体との混合物を調製することにより行っても良く、反応容器内で塩基を添加することにより行っても良い。ギ酸と有機アミンを組み合わせて用いる場合にも、あらかじめギ酸と有機アミンの混合物を調製して用いてもよく、また反応容器内で調製して用いても良い。ギ酸とトリエチルアミンを使用する場合には、その好適な使用量とギ酸/トリエチルアミン比率は前述の如く、原料化合物の酸や塩基に対する安定性を考慮し、また、反応性や選択性を考慮し、適宜最適化が必要である。
【0055】
本発明における反応温度は、−20℃〜100℃程度とすることができる。経済性を考慮すると、25℃〜40℃の室温付近で反応を実施することができる。最も好ましくは20℃〜60℃である。反応時間は、反応基質濃度、温度、基質/触媒比等の反応条件によって異なるが、反応は完結するまで数分から100時間程度である。
【0056】
生成物の精製は、カラムクロマトグラフィー、蒸留、再結晶等の公知の方法により行うことができる。本発明の一般式(1)および一般式(2)で表される金属錯体触媒中の2箇所のキラル炭素原子は、光学活性アルコールを得るためには、いずれも(R)体であるか、又はいずれも(S)体である必要がある。これらの(R)体又は(S)体のいずれかを選択することにより、所望する絶対配置の光学活性アルコールを高選択的に得ることができる。なお、ラセミ体アルコール又はアキラルなアルコールの製造を所望する場合には、これらのキラル炭素は共に(R)体、又は共に(S)体である必要はなく、各々独立してどちらでもよい。
【0057】
上記の方法により、2位に置換基を有する3−キヌクリジノン類を還元することにより、2位に置換基を有する光学活性シス−3−キヌクリジノール類を得ることができる。本願記載の方法によれば、下記一般式(3)で表される2位に置換基を有する3−キヌクリジノン類または下記一般式(4)で表される2位に置換基を有する3−キヌクリジノン類、さらには下記一般式(3)で表される2位に置換基を有する3−キヌクリジノン類と下記一般式(4)で表される2位に置換基を有する3−キヌクリジノン類の任意の割合による混合物でも、下記一般式(5)で表される2位に置換基を有する光学活性−シス−3−キヌクリジノール類、または下記一般式(6)で表される2位に置換基を有する光学活性−シス−3−キヌクリジノール類の何れか一方を作り分けることができる。ここで、Rは、好ましくは置換基を有してもよいジフェニルメチル基、置換基を有してもよい3−ピリジニルメチル基または置換基を有してもよいベンジル基である。
【0058】
【化4】

【0059】
この理由は、本発明の方法によれば、一般式(1)で表される金属錯体触媒を用いる系において、2位に置換基を有する3−キヌクリジノン類が動的速度論分割をともなって不斉還元されるため、2箇所の不斉点を同時に制御することが可能であり、2位に置換基を有する光学活性シス−キヌクリジノール類を極めて効率的に製造できるという、これまでにない利点を有している。
【0060】
本発明の方法によっても、基質の構造次第では光学活性−トランス−3−キヌクリジノール類が微量副生することがあるが、反応により得られた光学活性キヌクリジノールは、適宜再結晶法やジアステレオマー法等の従来既知の光学純度を高める方法を用いて精製する容易な操作で、2位に置換基を有する光学的に純粋なシス−3−キヌクリジノール類を得ることができる。
【実施例】
【0061】
本発明における置換基を有する3−キヌクリジノン類の還元反応は、バッチ式および連続式のいずれの反応形式においても実施することができる。以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、下記の実施例においては、反応はすべてアルゴンガスまたは窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行った。また、反応に使用した溶媒は、乾燥、脱気したものを用いた。
【0062】
なお、以下の測定には次の機器を用いた。
NMR:LA400型装置(400MHz)
(日本電子(株)製)
内部標準物質:H−NMR・・・テトラメチルシラン
外部標準物質:31P−NMR・・・85%リン酸
光学純度:ガスクロマトグラフィ−
Chirasil−DEX CB(0.25mm×25m、DF=0.25μm)
(CHROMPACK社製)
BETA DEX 120(0.25mm×30m、DF=0.25μm)
(SUPELCO社製)
:高速液体クロマトグラフィ−
(株)島津製作所製
また、実施例中のee%はエナンチオマ−過剰率を示し、S/Cは触媒に対する基質のモル比を示す。
【0063】
〔実施例1〕
光学活性−シス−2−ジフェニルメチル−3−キヌクリジノ−ルの製造
ラセミ−2−ジフェニルメチル−3−キヌクリジノン0.511g(1.75mmol)、トリエチルアミン0.49ml(3.51mmol)、ギ酸0.33ml(1.75mmol)(ギ酸/トリエチルアミン=5/2対基質モル比)、RuCl[(S,S)−Tsdpen](p−cymene)5.5mg(8.6×10−3mmol、S/C=200)を、アルゴン雰囲気下に20mLシュレンクに入れ、40℃にて19時間攪拌した。反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて塩基性にした後、析出粉末を濾集して目的物を収率86%で得た。NMRから、シス体のみの2−ジフェニルメチル−3−キヌクリジノールが得られたことを確認した。また、HPLC(Daicel Chiralcel OD−H,Hexane/2−propanol/diethylamine=80/20/0.1,0.5mL/min,25℃、シス体中2種の光学異性体のレテンションタイムは11.3minおよび26.5min)により光学純度を測定した結果、99%eeであり、光学活性−シス−2−ジフェニルメチル−3−キヌクリジノールが生成したことが判明した。
【0064】
〔実施例2〕
光学活性−シス−2−ジフェニルメチル−3−キヌクリジノールの製造
ラセミ−2−ジフェニルメチル−3−キヌクリジノン0.511g(1.75mmol)、トリエチルアミン0.49mL(3.51mmol)、ギ酸0.33mL(1.75mmol)(ギ酸/トリエチルアミン=5/2対基質モル比)、RuCl[(S,S)−Tsdpen](p−cymene)5.5mg(8.6×10−3mmol、S/C=200)、溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド2mLを、アルゴン雰囲気下に20mLシュレンクに入れ、40℃にて19時間攪拌した。反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて塩基性にした後、析出粉末を濾集して目的物を90%収率で得た。NMRから、シス体のみの2−ジフェニルメチル−3−キヌクリジノールが得られたことを確認した。また、光学純度は、99%eeであった。
【0065】
〔実施例3〕
光学活性−シス−2−ジフェニルメチル−3−キヌクリジノールの製造
RuCl[(R,R)−Tsdpen](mesitylene)を使用した以外は、実施例2と同様の条件で反応を行ない、95%eeのシス−2−ジフェニルメチル−3−キヌクリジノールを収率43%で得た。
【0066】
〔実施例4〕
光学活性2−(3−ピリジニルメチル)−3−キヌクリジノールの合成
ラセミ−2−(3−ピリジニルメチル)−3−キヌクリジノン0.518g(2.39mmol)トリエチルアミン0.65ml(4.66mmol)、ギ酸0.44mL(11.7mmol)(ギ酸/トリエチルアミン=5/2対基質モル比)、RuCl[(S,S)−Tsdpen](p−cymene)5.5mg(8.6×10−3mmol、S/C=200)を、アルゴン雰囲気下に20mLシュレンクに入れ、40℃にて19時間攪拌した。反応液をジクロロメタンに希釈して、炭酸カリウムで中和し、固体をろ過により除去した後、濃縮乾固して目的物を収率49%で得た。NMRから、一方のジアステレオマ−のみの2−(3−ピリジニルメチル)−3−キヌクリジノールが得られたことを確認した。また、HPLC(Daicel Chiralcel OD−Hを2本直列接続, Hexane/2−propanol/diethylamine=80/20/0.1, 0.3mL/min,25℃、得られたジアステレオマー中2種の光学異性体のレテンションタイムは64.0minおよび83.2min)により光学純度を測定した結果、85%eeであった。
【0067】
〔実施例5〕
光学活性2−(3−ピリジニルメチル)−3−キヌクリジノールの合成
CpIrCl[(S,S)−Tsdpen]を使用した以外は、実施例4と同様の条件で反応を行ない、71%eeの光学活性2−(3−ピリジニルメチル)−3−キヌクリジノールを単一のジアステレオマーとして収率100%で得た。
【0068】
〔実施例6〕
光学活性2−ベンジル−3−キヌクリジノールの合成
ラセミ−2−ベンジル−3−キヌクリジノンを反応した以外は、実施例1と同様の条件で反応を行ない、93%eeの光学活性2−ベンジル−3−キヌクリジノールを単一のジアステレオマーとして収率100%で得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2位に置換基を有する光学活性3−キヌクリジノール類の製造方法であって、下記一般式(1)
【化1】

(一般式(1)中、R1及びRは互いに同一または異なり、置換基を有していてもよい、アルキル基、フェニル基、ナフチル基、またはシクロアルキル基であり、場合によってR1とRとが結合して脂環式環を形成していてもよく、Rは、置換基を有していてもよい、アルキル基、パーフルオロアルキル基、ナフチル基、フェニル基、またはカンファーであり、Rは、水素原子またはアルキル基であり、Arは、Mとπ結合を介して結合している、置換基を有していてもよいベンゼン環基、または置換基を有してもよいシクロペンタジエニル基であり、Xはヒドリド基またはアニオン性基であり、Mは、ルテニウム、ロジウムまたはイリジウムであり、*は不斉炭素原子を示す。)で表される金属錯体の存在下において、2位に置換基を有する3−キヌクリジノン類と水素を供与する化合物とを反応させることを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
2位に置換基を有する光学活性3−キヌクリジノール類の製造方法であって、下記一般式(2)
【化2】

(一般式(2)中、R1、R、R、R、Ar、Mおよび*は、それぞれ請求項1において定義した意味と同じ意味を有する。)で表される金属錯体の存在下において、2位に置換基を有する3−キヌクリジノン類と水素を供与する化合物とを反応させることを特徴とする、前記方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の一般式(1)または一般式(2)中のMがルテニウムである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の一般式(1)または一般式(2)中のMがイリジウムである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の一般式(1)または一般式(2)中のMがロジウムである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
2位に置換基を有する光学活性3−キヌクリジノール類がジアステレオ選択的かつエナンチオ選択的に得られることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
2位に置換基を有する3−キヌクリジノン類が下記一般式(3)で表される化合物、一般式(4)で表される化合物、または一般式(3)で表される化合物と一般式(4)で表される化合物の任意の割合による混合物であり、生成する2位に置換基を有する光学活性3−キヌクリジノール類が、下記一般式(5)または一般式(6)で表される2位に置換基を有する光学活性−シス−3−キヌクリジノール類である、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【化3】

(一般式(3)、(4)、(5)および(6)中、Rは、ヘテロ原子を含んでも良い、芳香環により置換されていても良い炭素数1から20のアルキル基を示し、*は不斉炭素原子を示す。)
【請求項8】
請求項7に記載の一般式(3)〜(6)中のRが、置換基を有してもよい、ジフェニルメチル基、3−ピリジルメチル基またはベンジル基である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれかに記載の一般式(1)または一般式(2)で表される金属錯体の、2位に置換基を有する光学活性3−キヌクリジノール類の製造への使用。

【公開番号】特開2008−88090(P2008−88090A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−269642(P2006−269642)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(591045677)関東化学株式会社 (99)
【Fターム(参考)】