2価二重特異性抗体
本発明は、新規なドメイン交換された、2価二重特異性抗体、それらの製造および使用に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な2価二重特異性抗体、それらの生産および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
操作されたタンパク質、例えば、2またはそれ以上の抗原に結合できる二重特異性または多重特異性抗体はこの分野において知られている。このような多重特異性結合性タンパク質は、細胞融合、化学的接合または組換えDNA技術を使用して発生させることができる。
【0003】
広範な種類の組換え二重特異性抗体フォーマットは最近開発されてきている、例えば、IgG抗体フォーマットおよび一本鎖ドメインの融合により、例えば、4価二重特異性抗体が開発された(例えば、下記の文献を参照のこと:Morrison S.L.他、Nature Biotech.15(1997)159−163;WO2001077342;およびColoma,M.J.,Nature Biotech.25(2007)1233−1234)。
【0004】
また、抗体コア構造(IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgM)がもはや保持されていないいくつかの新しいフォーマット、例えば、2またはそれ以上の抗原に結合できる、ジ抗体、トリ抗体またはテトラ抗体、ミニ抗体、いくつかの一本鎖フォーマット (scFv、ビス−scFv)が開発された(Holliger P.他 Nature Biotech.23(2005)1126−1136;Fischer N.およびLeger O.Pathobiology 74(2007)3−14;Shen J.他 Journal of Immunological Methods 318(2007)65−74;Wu C.他 Nature Biotech.25(2007)1290−1297)。
【0005】
すべてのこのようなフォーマットはリンカーを使用して抗体コア(IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgM)をそれ以上の結合性タンパク質(例えば、scFv)に融合するか、あるいは、例えば、2つのFabフラグメントまたはscFvを融合する(Fischer N.およびLeger O.Pathobiology 74(2007)3−14)。リンカーは二重特異性抗体の操作のために利点を有することは明らかであるが、それらは治療的設定において問題を引き起こすこともある。事実、これらの外来ペプチドはリンカーそれ自体に対してまたはタンパク質とリンカーとの間の接合部に対して免疫応答を誘発することがある。
【0006】
さらにいっそう、これらのペプチドの柔軟な特質はそれらのタンパク質分解的切断の傾向を高め、潜在的に抗体安定性の低下に導き、抗体を凝集させ、そして免疫原性を増加させる。さらに、エフェクター機能、例えば、補体依存性細胞障害作用(CDC)または抗体依存性細胞障害作用(ADCC)を保持することを必要とすることがあり、これらは天然に存在する抗体に対する高度の類似性を維持することによってFc部分を通して伝達される。こうして、理想的には、一般構造が天然に存在する抗体(例えば、IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgM)に非常に類似し、ヒト配列からの逸脱が小さい、二重特異性抗体の開発を目的とすべきである。
【0007】
1つのアプローチにおいて、二重特異性抗体の所望の特異性をもつネズミモノクローナル抗体を発現する2つの異なるハイブリドーマ細胞系統の体融合に基づくクアドローマ(quadroma)技術(参照、Milstein C.およびA.C.Cuello、Nature 305(1983)537−40)を使用して、天然の抗体に非常に類似する二重特異性抗体が生産された。生ずるハイブリッド−ハイブリドーマ(またはクアドローマ)細胞系統内の2つの異なる抗体の重鎖および軽鎖の不規則な対合のために、10までの異なる抗体種が発生し、それらの1つのみが所望の機能的二重特異性抗体である。対合違い副産物の存在および有意に減少した生産収量のために、複雑な精製手順を必要とする(例えば、下記の文献を参照のこと:Morrison S.L.、Nature Biotech.25(2007)1233−1234)。一般に、組換え発現技術を使用する場合、対合違い副産物という同一の問題が残る。
【0008】
「ノブ−インツ−ホール(knobs−into−holes)」として知られている、対合違い副産物の問題を回避するアプローチは、CH3ドメイン中に突然変異を導入して接触インターフェイスを変更することによって、2つの異なる抗体重鎖の対合を強制することを目指す。1つの鎖上で嵩高アミノ酸が短い側鎖をもつアミノ酸と置換して、「ホール」をつくる。逆に、大きい側鎖をもつアミノ酸を他のCH3ドメイン中に導入して、「ノブ」をつくる。これらの2つの重鎖(および2つの同一軽鎖、これらは両方の重鎖のために適当でなくてはならない)を共発現させることによって、ホモダイマー(「ホール−ホール」または「ノブ−ノブ」)の形成に比較してヘテロダイマー(ノブ−ホール) の形成の高い収量が観測された(Ridgway JB,Presta LG,Carter P;およびWO1996027011)。ファージ展示アプローチを使用して2つのCH3ドメインの相互作用表面を改造し、そしてジサルファイド架橋を導入してヘテロダイマーを安定化することによって、ヘテロダイマーの百分率をさらに増加することができる(Merchant A.M.他、Nature Biotech.16(1998)677−681;Atwell S,Ridgway JB,Wells JA,CaterP.、J.Mol.Biol.270(1997)26−35)。ノブ−インツ−ホール技術についての新しいアプローチは、例えば、EP1870459A1に記載されている。このフォーマットは非常に魅力的であるが、臨床に向かう進歩を記載するデータは現在入手不可能である。この戦略の1つの重要な拘束は、2つの親抗体の軽鎖が同一であって対合違いおよび不活性分子の形成を防止しなくてはならないことである。こうして、第1および第2の抗原に対する2つの抗体から出発して2つの抗原に対して組換え2価二重特異性抗体を容易に発生させるたには、これらの抗体の重鎖および/または同一の軽鎖を最適化しなくてはならないので、この技術は不適当である。
【0009】
Xie,Z.他、J Immunol Methods 286(2005)95−101は、Fc部分に対するノブ−インツ−ホール技術を併用して、scFvを用いた二重特異性抗体の新規なフォーマットを言及している。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、下記を含んでなる、2価二重特異性抗体に関する:
a)第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖;および
b)第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖
ここで、可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されている。
【0011】
本発明のそれ以上の態様は、下記の工程を含んでなる本発明による2価二重特異性抗体を生産する方法である:
a)下記で宿主細胞を形質転換し、
−第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、
−第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター
ここで、可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されており;
b)前記抗体分子の合成を可能とする条件下に宿主細胞を培養し;そして
c)前記培養物から前記抗体分子を回収する。
【0012】
本発明のそれ以上の態様は、下記を含んでなる宿主細胞である:
−第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、
−第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター
ここで、可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されている。
【0013】
本発明のそれ以上の態様は、本発明による抗体の組成物、好ましくは医薬組成物または診断組成物である。
【0014】
本発明のそれ以上の態様は、本発明による抗体と、少なくとも1種の薬学上許容される賦形剤とを含んでなる医薬組成物である。
【0015】
本発明のそれ以上の態様は、患者に治療的有効量の本発明による抗体を投与することを特徴とする、治療を必要する患者を治療する方法である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1はIgG、典型的な順序で可変性ドメインとコンスタントドメインとを含んでなる重鎖および軽鎖の2対をもつ1つの抗原に対して特異的な天然に存在する全抗体の略図。
【0017】
【図2】図2はa)第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖;およびb)第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖を含んでなる、2価二重特異性抗体の略図、ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されている。
【0018】
【図3】図3はa)第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖;およびb)第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖を含んでなる、2価二重特異性抗体の略図、ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されており、そして両方の重鎖のCH3ドメインはノブ−インツ−ホール技術により変更されている。
【0019】
【図4】図4はa)第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖;およびb)第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖を含んでなる、2価二重特異性抗体の略図、ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されており、そして両方の重鎖のコンスタント重鎖ドメインCH3の一方はコンスタント重鎖ドメインCH1により置換されており、そして他方のコンスタント重鎖ドメインCH3はコンスタント軽鎖ドメインCLにより置換されている。
【0020】
【図5】図5は<IGF−1R>VL−VH交換抗体の重鎖***<IGF−1R>HC***のタンパク質配列のスキーム。
【0021】
【図6】図6は<IGF−1R>VL−VH交換抗体の軽鎖***<IGF−1R>LC***のタンパク質配列のスキーム(カッパコンスタント軽鎖ドメインCL)。
【0022】
【図7】図7は重鎖***<IGF−1R>HC***発現ベクターpUC−HC***−IGF−1Rのプラスミド地図。
【0023】
【図8】図8は軽鎖***<IGF−1R>LC***発現ベクターpUC−LC***−IGF−1Rのプラスミド地図。
【0024】
【図9】図9は4700−Hyg−OriP発現ベクターのプラスミド地図。
【0025】
【図10】図10は機能的二重特異性<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体の存在を検出するI24 IGF−1R発現細胞上の細胞のFACS IGF−1R−ANGPT2架橋アッセイのアッセイ原理。
【0026】
【図11】図11はスキームIGF−1R ECD結合Biacore。
【0027】
【図12】図12はHEK293−F細胞の一時的トランスフェクション後の細胞培養物上清から単離されたHC*およびLCを有する、精製された単一特異性二価<IGF−1R>VL−VH交換抗体(IgG1*)のSDS−PAGEおよびサイズ排除クロマトグラフィー。
【0028】
【図13】図13はELISAに基づく結合アッセイにおけるIGF−1R ECDに対する単一特異性<IGF−1R>VL−VH交換抗体および野生型<IGF−1R>抗体の結合。
【0029】
【図14】図14は一時的にトランスフェクトされたHEK293−F細胞からの細胞培養物上清から精製された<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体ミックスのSDS−PAGE。
【0030】
【図15】図15は精製された抗体ミックス中の機能的二重特異性<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体の存在を検出するI24 IGF−1R発現細胞上の細胞のFACS IGF−1R−ANGPT2架橋アッセイの試料A〜Fについての結果。精製されたタンパク質試料A〜F:A=I24未処理B=I24+2μg/mL hANGPT2+hIgGアイソタイプD=I24+2μg/mL hANGPT2+<IGF−1R>VL−VH交換抗体と、二重特異性<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体を含む<ANGPT2>野生型抗体の同時発現からのミックス。E=I24+2μg/mL hANGPT2+<ANGPT2>野生型抗体F=I24+2μg/mL hANGPT2+<IGF−1R>野生型抗体
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、下記を含んでなる、2価二重特異性抗体に関する:
a)第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖;および
b)第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖
ここで、可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されている。
【0032】
したがって、二重特異性抗体は、下記を含んでなる:
a)第1抗原に特異的に結合する抗体の第1軽鎖および第1重鎖;および
b)第2抗原に特異的に結合する抗体の第2軽鎖および第2重鎖
ここで、第2軽鎖および第2重鎖の可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されている。
【0033】
こうして、第2抗原に特異的に結合する前記抗体について、下記が適用される:
軽鎖内において、
可変性軽鎖ドメインVLは前記抗体の可変性重鎖ドメインVHにより置換されている; そして、重鎖内において、
可変性重鎖ドメインVHは前記抗体の可変性軽鎖ドメインVLにより置換されている。
【0034】
本明細書において使用するとき、用語「抗体」は全モノクローナル抗体を意味する。このような全抗体は「軽鎖」(LC)および「重鎖」(HC)の2対から成る(このような軽鎖(LC)/重鎖(HC)の対は本明細書中でLC/HCと略されている)。このような抗体の軽鎖および重鎖はいくつかのドメインから成るポリペプチドである。全抗体において、各重鎖は重鎖可変性領域(本明細書中でHCVRまたはVHと略す)と、重鎖コンスタント領域とを含んでなる。重鎖コンスタント領域は重鎖コンスタントドメインCH1、CH2およびCH3(抗体クラスIgA、IgDおよびIgG)と、必要に応じて重鎖コンスタントドメインCH4(抗体クラスIgEおよびIgM)とを含んでなる。各軽鎖は軽鎖可変性ドメインVLと、軽鎖コンスタントドメインCLとを含んでなる。1つの天然に存在する全抗体、IgG抗体の構造は、例えば、第1図に示されている。可変性ドメインVHおよびVLは、相補性決定領域(CDR)と命名する、超可変性領域にさらに再分割することができ、フレームワーク領域(FR)と命名する、いっそう保存された領域が介在する。各VHおよびVLは3つのCDRと、4つのFRとから構成され、それらは下記の順序でアミノ末端からカルボキシ末端に向かって配列されている:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4(Janeway CA.Jr.他、(2001)Immunobiology 第5版、Garland Publishing;およびWoof J.、Burton D、Nat.Rev.Immunol.(2004)89−99)。2対の重鎖および軽鎖(HC/LC)は同一抗原に特異的に結合することができる。こうして、前記全抗体は2価単一特異性抗体である。このような「抗体」は、それらの特徴的特性が保持されるかぎり、例えば、マウス抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体および遺伝子操作された抗体(変異型または突然変異抗体)を包含する。ヒトまたはヒト化抗体は、特に組換えヒトまたはヒト化抗体として、特に好ましい。
【0035】
ギリシャ文字、α、δ、ε、γおよびμで表示される5つの型の哺乳動物抗体重鎖が存在する(Janeway C.A.Jr.他、Immunobiology 第5版、Garland Publishing(2001))。存在する重鎖の型は抗体のクラスを定義する;これらの鎖はそれぞれIgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM抗体中に見出される(Rhoades RA、Pflanzer RG(2002)、Human Physiology 第4版、Thomson Learning)。明確な重鎖は大きさと組成が異なる;αおよびγはほぼ450アミノ酸を含有するが、μおよびεはほぼ550アミノ酸を含有する。各重鎖は2つの領域、コンスタント領域および可変性領域を有する。コンスタント領域は同一アイソタイプのすべての抗体において同一であるが、異なるアイソタイプの抗体において異なる。重鎖γ、αおよびδは3つのドメインCH1、CH2およびCH3(直線)から構成されたコンスタント領域、および付加された柔軟性のためのヒンジ領域を有する(Woof J.、Burton D、Nat.Rev.Immunol.4(2004)89−99);重鎖μおよびεは4つのコンスタントドメインCH1、CH2、CH3およびCH4から構成されたコンスタント領域を有する(Janeway C.A.Jr.他、(2001)Immunobiology 第5版、Garland Publishing)。重鎖の可変性領域は異なるB細胞により産生された抗体において異なるが、単一のB細胞にまたはB細胞クローンにより産生されたすべての抗体について同一である。各重鎖の可変性領域はほぼ110アミノ酸長さであり、そして単一の抗体ドメインから構成されている。
【0036】
哺乳動物において、わずかに2つの型の軽鎖、ラムダ(λ)およびカッパ(κ)とよぶ軽鎖が存在する。軽鎖は2つの連続的ドメインを有する:1つのコンスタントドメインCLおよび1つの可変性ドメインVL。軽鎖の概算長さは211〜217アミノ酸である。好ましくは軽鎖はカッパ(κ)軽鎖であり、そしてコンスタントドメインCLは好ましくはカッパ(κ)軽鎖(コンスタントドメインCκ)である。
【0037】
本明細書において使用するとき、用語「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」は、単一アミノ酸組成の抗体分子の調製物を意味する。
【0038】
本発明による「抗体」は任意のクラス(例えば、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM、好ましくはIgGまたはIgE)、またはサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2、好ましくはIgG1)であることができ、ここで本発明による2価二重特異性抗体が由来する両方の抗体は、同一サブクラス(例えば、IgG1、IgG4およびその他、好ましくはIgG1)のFc部分、好ましくは同一アロタイプ(例えば、コーカソイド)のFc部分を有する。
【0039】
「抗体のFc部分」は当業者に十分に知られている用語であり、そして抗体のパパイン切断に基づいて定義される。本発明による抗体はFc部分として、好ましくはヒト起源に由来するFc部分および好ましくはヒトコンスタント領域のすべての他の部分を含有する。抗体のFc部分は補体活性化、C1q結合およびC3活性化およびFcリポーター結合に直接関係する。補体系に対する抗体の影響はある種の条件に依存するが、C1qに対する結合はFc部分中の規定された結合部位により引き起こされる。このような結合部位はこの分野において知られており、そして、例えば、下記の文献に記載されている:Lukas T.J.他、J.Immunolog.127(1981)2555−2560;Brunhouse R.およびCebra J.J.、Mol.Immunol.16(1979)907−917;Burton D.R.、Nature 288(1980)338−344;Thommesen J.E.他、Mol.Immunol.37(2000)995−1004;Idusogie E.E.他、J.Immunolog.164(2000)4178−4184;Hezareh M.他、J.Virol.75(2001)12161−12168;Morgan A.他、Immunobiology 86(1995)319−324;およびEP0307434。このような結合部位は、例えば、L234、L235、D270、N297、E318、K320、K322、P331およびP329(カバットのEUインデックスに従うナンバリング、下を参照)である。サブクラスIgG1、IgG2およびIgG3の抗体は通常補体活性化、C1q結合およびC3活性化を示すが、IgG4は補体系を活性化せず、C1qに結合せず、そしてC3を活性化しない。好ましくは、Fc部分はヒトFc部分である。
【0040】
用語「キメラ抗体」は、可変性領域、すなわち、1つの源または種からの結合領域と、異なる源または種に由来するコンスタント領域の少なくとも一部分とを含んでなる抗体を意味し、通常組換えDNA技術により生産される。ネズミ可変性領域と、ヒトコンスタント領域とを含んでなるキメラ抗体は好ましい。本発明に包含される「キメラ抗体」の他の好ましい形態は、本発明に従う特性、特にC1q結合および/またはFcレセプター(FcR)結合に関する特性を発生するように、コンスタント領域が本来の抗体のそれから修飾または変化されている形態である。また、このようなキメラ抗体は「クラススイッチド抗体」と呼ぶ。キメラ抗体は、免疫グロブリン可変性領域をコードするDNAセグメントと、免疫グロブリンコンスタント領域をコードするDNAセグメントとを含んでなる、発現された免疫グロブリン遺伝子の産物である。キメラ抗体を生産する方法は慣用の組換えDNA技術および遺伝子トランスフェクション技術を包含し、この分野においてよく知られている。例えば、下記の文献を参照のこと:Morrison S.L.他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81(1984)6851−6855;米国特許第5,202,238号および米国特許第5,204,244号。
【0041】
用語「ヒト化抗体」は、フレームワークまたは「相補性決定領域」(CDR)が親免疫グロブリンのCDRに比較して特異性が異なる免疫グロブリンのCDRを含んでなるように修飾されている抗体を意味する。好ましい態様において、ネズミCDRをヒト抗体のフレームワーク領域中にグラフト化して「ヒト抗体」を生産する。例えば、下記の文献を参照のこと:Riechmann L.他、Nature 332(1988)323−327;およびNeuberger M.S.他、Nature 314(1985)268−270。特に好ましいCDRは、キメラ抗体について前述した抗原を認識する配列を表すものに対応する。本発明に包含される「ヒト化抗体」の他の形態は、本発明に従う特性、特にC1q結合および/またはFcレセプター(FcR)結合に関する特性を発生するように、コンスタント領域が本来の抗体のそれからさらに修飾または変化されている形態である。
【0042】
用語「ヒト抗体」は、本明細書において使用するとき、ヒト生殖細胞系統免疫グロブリン配列に由来する可変性領域およびコンスタント領域を有する抗体を包含することを意図する。ヒト抗体はこの分野においてよく知られている(van Dijk M.A.およびvan de Winkel J.G.、Curr.Opin.Cell Biol.5(2001)368−374)。また、ヒト抗体はトランスジーン動物(例えば、マウス)において産生することができ、これらの動物は、免疫化したとき、内因的免疫グロブリン産生の非存在下にヒト抗体の完全なレパートリーまたは選択物を産生することができる。このような生殖細胞系統の突然変異マウスにおけるヒト生殖細胞系統免疫グロブリン遺伝子アレイの転移は、抗原チャレンジのときヒト抗体を産生するであろう(例えば、下記の文献を参照のこと:Jakobovits A.他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90(1993)2551−2555;Jakobovits A.他、Nature 362(1993)255−258;Brueggemann M.他、Year Immunol.7(1993)33−40)。また、ヒト抗体はファージ展示ライブラリー中で生産できる(Hoogenboom H.R.およびWinter G.J.、J.Mol.Biol.277(1992)381−388;Marks J.D.他、J.Mol.Biol.222(1991)581−597)。また、Cole S.P.C.他およびBoerner 他の技術はヒトモノクローナル抗体の生産に利用可能である(Cole S.P.C.他、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、Alan R.Liss,Inc.、New York(1986)、pp.77−96;およびBoerner P.他、J.Immunolog.147(1991)86−95)。本発明によるキメラ抗体およびヒト化抗体について既に言及したように、本明細書において使用するとき、用語「ヒト抗体」は、特にC1q結合および/またはFc結合に関する、本発明に従う特性を発生するように、コンスタント領域が、例えば、「クラススイッチング」、すなわち、Fc部分の変化または突然変異により、修飾されている(例えば、IgG1からIgG4へおよび/またはIgG1/IgG4突然変異)このような抗体をまた含んでなる。
【0043】
本明細書において使用するとき、用語「組換えヒト抗体」は組換え手段により生産され、発現され、つくられまたは単離されたすべてのヒト抗体、例えば、宿主細胞、例えば、NS0またはCHO細胞から単離された抗体、またはヒト免疫グロブリン遺伝子に対してトランスジェニックである動物(例えば、マウス)から単離された抗体、または宿主細胞中にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを使用して発現された抗体を包含することを意図する。このような組換えヒト抗体は再配列された形態で可変性領域およびコンスタント領域を有する。本発明による組換えヒト抗体はin vivo体細胞高突然変異に付されている。こうして、組換え抗体のVHおよびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系統VHおよびVL配列に由来しかつそれに関係するが、in vivoヒト抗体生殖細胞系統レパートリー内に天然に存在しないことがある配列である。
【0044】
本明細書において使用するとき、用語「可変性ドメイン」(軽鎖の可変性ドメイン(VL)、重鎖の可変性ドメイン(VH))は、抗原に対する抗体の結合に直接関係する軽鎖および重鎖の対の各々を意味する。可変性ヒト軽鎖および重鎖のドメインは同一の一般構造を有し、そして各ドメインは4つのフレームワーク領域(FR)を含んでなり、それらの配列は広く保存されており、3つの「高可変性領域」(または相補性決定領域、CDR)により接続されている。フレームワーク領域はβ−シートコンフォメーションを採用し、そしてCDRはβ−シート構造を接続するループを形成することができる。各鎖中のCDRはフレームワーク領域によりそれらの三次元構造で保持されており、他の鎖からのCDRと一緒に抗原結合部位を形成する。抗体の重鎖および軽鎖CDR3領域は本発明による抗体の結合特異性/アフィニティーにおいて特に重要な役割を演じ、したがって本発明のそれ以上の目的を提供する。
【0045】
本明細書において使用するとき、用語「高可変性領域」または「抗体の抗原結合部分」は抗原結合のために要求される抗体のアミノ酸残基を意味する。高可変性領域は、「相補性決定領域」または「CDR」からのアミノ酸残基を含んでなる。「フレームワーク領域」または「FR」は、本明細書中で定義する高可変性領域残基以外の可変性ドメイン領域である。したがって、抗体の軽鎖および重鎖はN末端からC末端に向かってドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3およびFR4を含んでなる。各鎖上のCDRはこのようなフレームワークアミノ酸により分離されている。ことに、重鎖のCDR3は抗原結合に最も寄与する領域である。CDRおよびFR領域は下記の文献の標準定義に従い決定される:Kabat他、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service、National Institute of Health、Bethesda、MD(1991)。
【0046】
重鎖および軽鎖の「コンスタント領域」は抗原に対する抗体の結合に直接関係しないが、種々のエフェクター機能を示す。それらの重鎖のコンスタント領域のアミノ酸配列に依存して、抗体または免疫グロブリンはクラスに分割される:
【0047】
本明細書において使用するとき、用語「2価二重特異性抗体」は重鎖および軽鎖(HC/LC)の2対の各々が異なる抗原に特異的に結合し、すなわち、第1重鎖および第1軽鎖(第1抗原に対する抗体に由来する)が第1抗原に特異的に一緒に結合し、そして第2重鎖および第2軽鎖(第2抗原に対する抗体に由来する)が第2抗原に特異的に一緒に結合する前述の抗体を意味する(第2図に描写する);このような2価二重特異性抗体は2つの異なる抗原に同時に特異的に結合することができるが、3以上の抗原に結合することができず、反対に、一方において、単一特異性抗体は1つの抗原にのみ結合することができ、そして他方において、例えば、4価四重特異性抗体は4つの抗原に同時に結合できる。
【0048】
本発明によれば、望ましくない副産物と比較した所望の2価二重特異性抗体の比は、ただ1対の重鎖および軽鎖(HC/LC)中のある種のドメインの置換により改良できる。2HC/LC対の第1は第1抗原に特異的に結合する抗体に由来し、そして本質的に未変化のまま残るが、2HC/LC対の第2は第2抗原に特異的に結合する抗体に由来し、下記の置換により変更される:
−軽鎖:第2抗原に特異的に結合する前記抗体の可変性重鎖ドメインVHによる可変性軽鎖ドメインVLの置換、および
−重鎖:第2抗原に特異的に結合する前記抗体の可変性軽鎖ドメインVLによる可変性重鎖ドメインVHの置換。
【0049】
こうして、生ずる2価二重特異性抗体は下記を含んでなる人工的抗体である:
a)第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖;および
b)第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖、
ここで、前記軽鎖(第2抗原に特異的に結合する抗体の)はVLの代わりに可変性ドメインVHを含有し、そして
ここで前記重鎖(第2抗原に特異的に結合する抗体の)はVHの代わりに可変性ドメインVLを含有する。
【0050】
本発明の追加の面において、望ましくない副産物と比較した所望の2価二重特異性抗体のこのような改良された比は、下記の2つの代替法の1つによりさらに改良することができる:
【0051】
A)第1代替法(図3参照):
本発明による前記2価二重特異性抗体のCH3ドメインは、いくつかの例を使用して、例えば、下記の文献において、詳細に記載されている「ノブ−インツ−ホール」により変更することができる:WO96/027011、Ridgway J.B.、Protein Eng.9(1996)617−621;およびMerchant A.M.他、Nat.Biotechnol.16(1998)677−681。この方法において、2つのCH3の相互作用表面を変更して、これらの2つのCH3ドメインを含有する両方の重鎖のヘテロダイマー化を増加させる。2つのCH3ドメイン(2つの重鎖の)の各々は「ノブ」であることができるが、他は「ホール」である。ジサルファイド架橋の導入はヘテロダイマーを安定化し(Merchant A.M.他、Nature Biotech.16(1998)677−681;Atwell S,Ridgway JB,,Wells JA,Carter P.、J.Mol.Biol.270(1997)26−35)、そして収量を増加させる。
【0052】
したがって、好ましい態様において、第1CH3ドメインおよび第2CH3ドメインの各々が抗体のCH3ドメイン間の本来のインターフェイスを含んでなるインターフェイスおいて出会う、2価二重特異性抗体のCH3ドメインを、CH3ドメインにおけるジサルファイド架橋の導入によるそれ以上の安定化を含む「ノブ−インツ−ホール」技術(下記の文献に記載されている:WO96/027011、Ridgway J.B.、Protein Eng.9(1996)617−621;Merchant A.M.他、Nature Biotech.16(1998)677−681; およびAtwell S,Ridgway JB,,Wells JA,Carter P.、J.Mol.Biol.270(1997)26−35)により変更して、2価二重特異性抗体の形成を促進する。
【0053】
こうして、本発明の1つの面において、前記2価二重特異性抗体は下記により特徴づけられる:
一方の重鎖のCH3ドメインおよび他方の重鎖のCH3ドメインの各々は、抗体のC3ドメイン間の本来のインターフェイスを含んでなるインターフェイスにおいて出会う;
ここで前記インターフェイスは2価二重特異性抗体の形成を促進するように変更され、ここで変更は下記により特徴づけられる:
a)2価二重特異性抗体内の他方の重鎖のCH3ドメインの本来のインターフェイスと出会う一方の重鎖のCH3ドメインの本来のインターフェイス内において、
アミノ酸残基はより大きい側鎖体積を有するアミノ酸残基と置換されており、これにより他方の重鎖のCH3ドメインのインターフェイス内のキャビティイ中に位置可能な突起を一方の重鎖のCH3ドメインのインターフェイス内に発生させるように、
一方の重鎖のCH3ドメインは変更されており、そして
b)2価二重特異性抗体内の第1のCH3ドメインの本来のインターフェイスと出会う第2のCH3ドメインの本来のインターフェイス内において、
アミノ酸残基はより小さい側鎖体積を有するアミノ酸残基と置換されており、これにより第1のCH3ドメインのインターフェイス内の突起が位置可能であるキャビティイを第2のCH3ドメインのインターフェイス内に発生させるように、
他方の重鎖のCH3ドメインは変更されている。
【0054】
好ましくは、より大きい側鎖体積を有するアミノ酸残基はアルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)およびトリプトファン(W)から成る群から選択される。
【0055】
好ましくは、より小さい側鎖体積を有するアミノ酸残基はアラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T)およびバリン(V)から成る群から選択される。
【0056】
本発明の1つの面において、両方のCH3ドメイン間のジサルファイド架橋を形成できるように、各CH3ドメインの対応する位置にアミノ酸としてシステイン(C)を導入することによって、両方のCH3ドメインはさらに変更される。
【0057】
本発明の他の好ましい態様において、下記の文献に記載されているように、ノブ残基に残基R409D;K370E(K409D)を使用し、ホール残基に残基D399K;E357Kを使用して、両方のCH3ドメインを変更する:EP1870459A1。
【0058】
または
B)第2代替法(第4図参照):
一方のコンスタント重鎖ドメインCH3をコンスタント重鎖ドメインCH1で置換し、そして他方のコンスタント重鎖ドメインCH3をコンスタント軽鎖ドメインCLで置換する。
【0059】
重鎖ドメインCH3を置換するコンスタント重鎖ドメインCH1は、任意のIgクラス (例えば、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM)またはサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)であることができる。
【0060】
重鎖ドメインCH3を置換するコンスタント軽鎖ドメインCLは、ラムダ(λ)またはカッパ(κ)型、好ましくはカッパ(κ)型であることができる。
【0061】
こうして、本発明の1つの好ましい態様は、下記を含んでなる2価二重特異性抗体である:
a)第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖、および
b)第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖、
ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されており、そしてコンスタントドメインはCLおよびCH1は互いにより置換されている、
そして、ここで必要に応じて、
【0062】
c)一方の重鎖のCH3ドメインおよび他方の重鎖のCH3ドメインの各々は、抗体のCH3ドメイン間の本来のインターフェイスを含んでなるインターフェイスにおいて出会い、
ここで前記インターフェイスは2価二重特異性抗体の形成を促進するように変更されており、ここで前記変更は下記を特徴とする:
ca)2価二重特異性抗体内の他方の重鎖のCH3ドメインの本来のインターフェイスと出会う一方の重鎖のCH3ドメインの本来のインターフェイス内において、
アミノ酸残基はより大きい側鎖体積を有するアミノ酸残基と置換されており、これにより他方の重鎖のCH3ドメインのインターフェイス内のキャビティイ中に位置可能な突起を一方の重鎖のCH3ドメインのインターフェイス内に発生させるように、
一方の重鎖のCH3ドメインは変更されており、そして
cb)2価二重特異性抗体内の第1のCH3ドメインの本来のインターフェイスと出会う第2のCH3ドメインの本来のインターフェイス内において、
アミノ酸残基はより小さい側鎖体積を有するアミノ酸残基と置換されており、これにより第1のCH3ドメインのインターフェイス内の突起が位置可能であるキャビティイを第2のCH3ドメインのインターフェイス内に発生させるように、
他方の重鎖のCH3ドメインは変更されているか、あるいは
d)一方のコンスタント重鎖ドメインCH3はコンスタント重鎖ドメインCH1により置換されており、そして他方のコンスタント重鎖ドメインCH3はコンスタント軽鎖ドメインCLにより置換されている。
【0063】
本明細書において使用するとき、用語「抗原」または「抗原分子」は、抗体が特異的に結合できるすべての分子を意味する。2価二重特異性抗体は第1抗原および第2の独特な抗原に特異的に結合する。本明細書において使用するとき、用語「抗原」は、例えば、タンパク質、タンパク質上の異なるエピトープ(本発明の意味内の異なる抗原として)および多糖類を包含する。これは主として細菌、ウイルスおよび他の微生物の部分(外皮、嚢、細胞壁、絨毛、房およびトキシン)を包含する。脂質および核酸は、タンパク質および多糖類と結合したときにのみ、抗原性である。非微生物の外因性(非自己)抗原は、花粉、卵白、および移植された組織および器官からのタンパク質または輸注された血球表面上のタンパク質を包含できる。好ましくは、抗原はサイトカイン、細胞表面のタンパク質、酵素およびレセプターのサイトカイン、細胞表面のタンパク質、酵素およびレセプターから成る群から選択される。
【0064】
腫瘍抗原は腫瘍細胞表面上のMHCIまたはMHCII分子により提供される抗原である。これらの抗原は時々腫瘍細胞により提供されるが、正常細胞により決して提供されない。この場合において、それらは腫瘍特異的抗原(TSA)と呼ばれ、典型的には腫瘍特異的突然変異から生ずる。腫瘍細胞および正常細胞により提供される抗原はより普通であり、そしてそれらは腫瘍関連抗原(TAA)と呼ばれる。これらの抗原を認識する細胞障害性Tリンパ球は腫瘍細胞を破壊した後、増殖または転移することができる。また、腫瘍抗原は腫瘍表面上に、例えば、突然変異したレセプターの形態で存在することができ、この場合において、それらはB細胞により認識されるであろう。
【0065】
1つの好ましい態様において、2価二重特異性抗体が特異的に結合する2つの異なる抗原(第1および第2の抗原)の少なくとも1つは腫瘍抗原である。
【0066】
他の好ましい態様において、2価二重特異性抗体が特異的に結合する2つの異なる抗原(第1および第2の抗原)の両方は腫瘍抗原である;この場合において、第1および第2の抗原は同一腫瘍特異的タンパク質における2つの異なるエピトープであることもできる。
【0067】
他の好ましい態様において、2価二重特異性抗体が特異的に結合する2つの異なる抗原(第1および第2の抗原)の一方は腫瘍抗原であり、そして他方はエフェクター細胞抗原、例えば、T細胞レセプター、CD3、CD16およびその他である。
【0068】
他の好ましい態様において、2価二重特異性抗体が特異的に結合する2つの異なる抗原(第1および第2の抗原)の一方は腫瘍抗原であり、そして他方は抗癌物質、例えば、トキシンまたはキナーゼインヒビターである。
【0069】
本明細書において使用するとき、用語「特異的に結合する」または「に特異的に結合する」は抗原に特異的に結合する抗体を言及する。好ましくは、この抗原に特異的に結合する抗体の結合アフィニティーは10-9モル/lまたはそれより小(例えば、10-10モル/l)のKD値、好ましくは10-10モル/lまたはそれより小(例えば、10-12モル/l)のKD値を有する。結合アフィニティーは、標準結合アッセイ、例えば、表面プラズモン共鳴技術(Biacore(登録商標))により決定される。
【0070】
用語「エピトープ」は、抗体に特異的に結合することができる、任意のポリペプチド決定因子を包含する。ある種の態様において、エピトープ決定因子は分子の化学的に活性な表面グループ、例えば、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリルおよびスルホニルを包含し、そして、ある種の態様において、特別の三次元構造的特性および/または特別の電荷特性を有することがある。エピトープは抗体により結合された抗原の領域である。ある種の態様において、抗体がタンパク質および/または高分子の複雑な混合物中のそのターゲット抗原を優先的に認識するとき、抗体は抗原に特異的に結合すると言われる。
【0071】
本発明のそれ以上の態様は、下記の工程を含んでなる本発明による2価二重特異性抗体を生産する方法である:
a)下記で宿主細胞を形質転換し、
−第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、および
−2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、
ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されており、そして
コンスタントドメインCLおよびCH1は互いにより置換されており、
b)前記抗体分子の合成を可能とする条件下に宿主細胞を培養し、
c)前記培養物から前記抗体分子を回収する。
【0072】
一般に、第1抗原に特異的に結合する前記抗体の軽鎖および重鎖をコードする2つのベクターが存在し、そしてさらに第2抗原に特異的に結合する前記抗体の軽鎖および重鎖をコードする2つのベクターが存在する。2つのベクターの一方はそれぞれの軽鎖をコードし、そして2つのベクターの他方はそれぞれの重鎖をコードする。しかしながら、本発明による2価二重特異性抗体を生産する別の方法において、第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードするただ1つの第1ベクター、および第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードするただ1つの第2ベクターを宿主細胞の形質転換に使用できる。
【0073】
本発明は、例えば、下記を発現させることによって、前記抗体分子の合成を可能とする条件下に対応する宿主細胞を培養し、そして前記培養物から前記抗体を回収することを含んでなる抗体を生産する方法を包含する:
−第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖をコードする第1核酸配列;
−第1抗原に特異的に結合する抗体の重鎖をコードする第2核酸配列;
−第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖をコードする第3核酸配列、ここで可変性軽鎖ドメインVLは可変性重鎖ドメインVHにより置換されている;そして
−第2抗原に特異的に結合する抗体の重鎖をコードする第4核酸配列、ここで可変性重鎖ドメインVHは可変性軽鎖ドメインVLにより置換されている。
【0074】
本発明のそれ以上の態様は、下記を含んでなる宿主細胞である:
−第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、および
−第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、
ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されており、そして
コンスタントドメインCLおよびCH1は互いにより置換されている。
【0075】
本発明のそれ以上の態様は、下記を含んでなる宿主細胞である:
a)第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖をコードする核酸部分を含んでなるベクター、および前記抗体の重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、
b)第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖をコードする核酸部分を含んでなるベクター、および前記抗体の重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、
ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されている。
【0076】
本発明のそれ以上の態様は、本発明による2価二重特異性抗体の組成物、好ましくは医薬組成物または診断組成物である。
【0077】
本発明のそれ以上の態様は、本発明による2価二重特異性抗体と、少なくとも1種の薬学上許容される賦形剤とを含んでなる医薬組成物である。
【0078】
本発明のそれ以上の態様は、治療的有効量の本発明による2価二重特異性抗体を患者に投与することを特徴とする、治療を必要する患者を治療する方法である。
【0079】
本明細書において使用するとき、用語「核酸または核酸分子」は、DNA分子およびRNA分子を包含することを意図する。核酸分子は一本鎖または二本鎖であることができるが、好ましくは二本鎖DNAである。
【0080】
本明細書において使用するとき、表現「細胞」、「細胞系統」および「培養物」は互換的に使用し、そしてすべてのこのような指示は子孫を包含する。こうして、単語「形質転換体」および「形質転換された細胞」は一次的主題細胞および転移数に無関係にそれらに由来する培養物を包含する。また、すべての子孫は、計画的または不注意の突然変異のために、DNA含量が正確に同一ではないことがあることが理解される。本来形質転換された細胞についてスクリーニングしたとき、同一の機能または生物学的活性を有する変異型子孫が包含される。明確な指示を意図する場合、それは前後関係から明らかとなるであろう。
【0081】
本明細書において使用するとき、用語「形質転換」は、ベクター/核酸が宿主細胞に転移するプロセスを意味する。難しい細胞壁バリヤーをもたない細胞を宿主細胞として使用する場合、トランスフェクションは、例えば、下記の文献に記載されているリン酸カルシウム沈殿法により実施される:Graham F.J.およびVan der Eb A.J.、Virology 52(1978)546ff。しかしながら、DNAを細胞中に導入する他の方法、例えば、核注入またはプロトプラスト融合を使用することもできる。原核細胞または実質的な細胞壁構築物を含有する細胞を使用する場合、例えば、1つのトランスフェクション法は下記の文献に記載されている塩化カルシウムを使用するカルシウム処理である:Cohen F.N.他、PNAS 69(1972)7110ff。
【0082】
形質転換を使用する抗体の組換え生産はこの分野においてよく知られており、そして、例えば、下記の文献に記載されている:概観論文、Makrides S.C.、Protein Expr.Purif.17(1999)183−202;Geisse S.他、Protein Expr.Purif.8(1996)271−282;Kaufman R.J.、Mol.Biotechnol.16(2000)151−160;Werner R.G.他、Arzneimittelforschung 48(1998)870−880ならびに米国特許第6,331,415号および米国特許第4,816,567号。
【0083】
本明細書において使用するとき、用語「発現」は核酸をmRNAに転写するプロセスおよび/または転写されたmRNA(また転写体と呼ぶ)を引き続いてペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質に翻訳するプロセスを意味する。転写体およびコード化ポリペプチドを集合的に遺伝子産物と呼ぶ。ポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来する場合、真核細胞における発現はmRNAのスプライシングを包含する。
【0084】
「ベクター」は核酸分子、特に自己スプライシング核酸分子であり、挿入された核酸分子を宿主細胞の中におよび/または間に転移する。この用語は主としてDNAまたはRNAの細胞中への挿入(例えば、染色体の組込み)のために機能するベクター、DNAまたはRNAの複製に主として機能する複製ベクター、およびDNAまたはRNAの転写および/または翻訳に機能する発現ベクターを包含する。また、記載した機能の2以上を提供するベクターが包含される。
【0085】
「発現ベクター」は、適当な宿主細胞中に導入されたとき、ポリペプチドに転写および翻訳されることができるポリヌクレオチドである。「発現系」は、所望の発現産物を生ずるように機能することができる発現ベクターから構成された、適当な宿主細胞を意味する。
【0086】
本発明による2価二重特異性抗体は、好ましくは組換え手段により生産される。このような方法はこの分野においてよく知られており、そして原核細胞および真核細胞中でタンパク質を発現させ、次いで抗体のポリペプチドを単離し、通常薬学上許容される純度に精製することを含んでなる。タンパク質を発現させるために、軽鎖および重鎖をコードする核酸またはそのフラグメントを標準法により発現ベクター中に挿入する。発現は適当な原核または真核宿主細胞、例えば、CHO細胞、N50細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞、COS細胞、PER.C6細胞、酵母菌または大腸菌(E.coli)細胞中で実施し、そして抗体を細胞(上清または溶菌後の細胞)から回収する。2価二重特異性抗体は全細胞中に、細胞ライゼイト中に、または部分的に精製したまたは実質的に純粋な形態で存在することができる。標準技術、例えば、アルカリ性/SDS処理、カラムクロマトグラフィーおよび他のこの分野においてよく知られている技術により、精製を実施して、他の細胞成分または他の汚染物質、例えば、他の細胞の核酸またはタンパク質を排除する。下記の文献を参照のこと:Ausubel F.他(編者)Current Protocols in Molecular Biology、Greene Publishing and Wiley Interscience、New York(1987)。
【0087】
NS0細胞中の発現は、例えば、下記の文献に記載されている:Barnes L.M.他、Cytotechnology 32(2000)109−123;およびBarnes L.M.他、Biotech.Bioeng.73(2001)261−270。一時的発現は、例えば、下記の文献に記載されている:Durocher Y.他、Nucl.Acids Res.30(2002)E9。可変性ドメインのクローニングは下記の文献に記載されている:Orlandi R.他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86(1989)3833−3837;Carter P.他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89(1992)4285−4289;およびNorderhaug L.他、J.Immunol.Methods 204(1997)77−78。好ましい一時的発現系(HEK293)は下記の文献に記載されている:Schlaeger E.−J.およびChristensen K.、Cytotechnology 30(2999)71−83およびSchlaeger E.−J.、J.Immunol.Methods 194(1996)191−199。
【0088】
例えば、原核生物のために適当な制御配列は、プロモーター、必要に応じてオペレーター配列およびリボソーム結合部位を包含する。真核細胞はプロモーター、エンハンサーおよびポリアデニル化シグナルを利用することが知られている。
【0089】
核酸は他の核酸配列と機能的関係に配置されたとき、「作用可能に連鎖」される。例えば、プレ配列または分泌リーダーのためのDNAはポリペプチドの分泌に参加するプレタンパク質として発現される場合、ポリペプチドのためのDNAに作用可能に連鎖される;プロモーターまたはエンハンサーは配列の転写に影響を与える場合、コーディング配列に作用可能に連鎖される;またはリボソーム結合部位は翻訳を促進するように位置決定される場合、コーディング配列に作用可能に連鎖される。一般に、「作用可能に連鎖される」は、連鎖されているDNA配列が隣接していること、そして、分泌リーダーの場合において、隣接しかつリーデイングフレーム中にあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは隣接する必要がない。連鎖は好都合な制限部位における結合により達成される。このような部位が存在しない場合、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーを慣例に従い使用する。
【0090】
2価二重特異性抗体は、慣用の免疫グロブリン精製手順、例えば、プロテインA−セファローズ、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析またはアフィニティークロマトグラフィーにより、培地から適当に分離される。モノクローナル抗体をコードするDNAおよびRNAは、慣用手順を使用して容易に単離され、配列決定される。ハイブリドーマ細胞は、このようなDNAおよびRNA源として働くことができる。いったん単離されると、DNAを発現ベクター中に挿入し、次いでこれを宿主細胞、例えばHEK293細胞、CHO細胞、またはそうでなければ免疫グロブリンタンパク質を産生する骨髄腫細胞中にトランスフェクトして、宿主細胞中で組換えモノクローナル抗体を合成する。
【0091】
2価二重特異性抗体のアミノ酸配列変異型(または突然変異体)は、適当なヌクレオチド変化を抗体DNA中に導入するか、あるいはヌクレオチド合成により生産される。しかしながら、このような修飾は、例えば、上に記載したように、非常に制限された範囲においてのみ実行できる。例えば、修飾は前述の抗体の特性、例えば、IgGアイソタイプおよび抗原結合性を変更しないが、組換え産生の収量、タンパク質安定性を改良するか、あるいは精製を促進することができる。
【0092】
本発明の理解を促進するために、下記の実施例、配列リストおよび図面を提供する。本発明の真の範囲は添付された特許請求の範囲に記載されている。本発明の趣旨から逸脱しないで、記載した手順の変更が可能であることが理解される。
【0093】
配列表
配列番号1 野生型<IGF−1R>抗体重鎖のアミノ酸配列
配列番号2 野生型<IGF−1R>抗体軽鎖のアミノ酸配列
配列番号3 <IGF−1R>VL−VH交換抗体の重鎖***(HC***)のアミノ酸配列、ここで重鎖ドメインVHは軽鎖ドメインVL−改変体Aにより置換されている。
配列番号4 <IGF−1R>VL−VH交換抗体の軽鎖***(LC***)のアミノ酸配列、ここで軽鎖ドメインVLは重鎖ドメインVH−改変体Aにより置換されている。
配列番号5 IGF−1RエクトドメインHis−ストレプトアビジン結合性ペプチド−タグ(IGF−1R−His−SBP ECD)のアミノ酸配列
配列番号6 野生型アンギオポイエチン−2<ANGPT2>抗体重鎖のアミノ酸配列
配列番号7 野生型アンギオポイエチン−2<ANGPT2>抗体軽鎖のアミノ酸配列
配列番号8 ノブ−インツ−ホール技術において使用するT366W交換をもつCH3ドメイン(ノブ)のアミノ酸配列
配列番号9 ノブ−インツ−ホール技術において使用するT366S、L368A、Y407V交換をもつCH3ドメイン(ホール)のアミノ酸配列
配列番号10 <IGF−1R>VL−VH交換抗体の重鎖***(HC***)のアミノ酸配列、ここで重鎖ドメインVHは軽鎖ドメインVL−改変体Bにより置換されている。
配列番号11 <IGF−1R>VL−VH交換抗体の軽鎖***(LC***)のアミノ酸配列、ここで軽鎖ドメインVLは重鎖ドメインVH−改変体Bにより置換されている。
配列番号12 IGF−1RエクトドメインHis−ストレプトアビジン結合性ペプチド−タグ(IGF−1R−His−SBP ECD)のアミノ酸配列
【実施例】
【0094】
材料および一般的方法
ヒト免疫グロブリン軽鎖および重鎖のヌクレオチド配列に関する一般情報は下記の文献に記載されている:Kabat E.A.他、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD(1991)。EUナンバリングに従い、抗体鎖のアミノ酸をナンバリングし、言及する (Edelman G.M.他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 63(1969)78−85;Kabat E.A.他、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD(1991))。
【0095】
組換えDNA技術
下記の文献に記載されているように、標準法を使用してDNA操作した:Sambrook J.他、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York、1989。微生物学的試薬は製造業者の使用説明書に従い使用した。
【0096】
遺伝子合成
化学合成により作ったオリゴヌクレオチドから、所望の遺伝子セグメントを生産した。単一の制限エンドヌクレアーゼ切断部位がフランクする、600〜1800bp長さの遺伝子セグメントを、PCR増幅を包含するオリゴヌクレオチドのアニーリングおよび連結により集合させ、引き続いて示した制限部位、例えば、KpnI/SacIまたはAscI/PacIを経由してpPCRscript(Stratagene)に基づくpGA4クローニングベクター中にクローニングした。DNA配列決定により、サブクローニングした遺伝子フラグメントのDNA配列を確認した。ジェネアート(Geneart)(ドイツ、レーゲンスブルク)において所定の明細事項に従い、遺伝子合成フラグメントを配列した。
【0097】
DNA配列の決定
メディジェノミックス社(MediGenomix GmbH、ドイツ、マルチンスリート)またはセクイサーブ社(Sequiserve GmbH、ドイツ、ファーターシュテッテン)において実施した二本鎖配列決定により、DNA配列を決定した。
【0098】
DNAおよびタンパク質配列の分析および配列データの管理
配列の創造、遺伝地図作製、分析、注解および図解のために、GCG(Genetics Computer Group、ウィスコンシン、マディソン)ソフトウェアパッケージバージョン10.2およびインフォマックス・ベクターNT1アドバンス・スイートバージョン8.0を使用した。
【0099】
発現ベクター
一時的発現のための発現プラスミドの記載した抗体変異型を発現させるために(例えば、HEK293 EBNAまたはHEK293−F中で)、CMV−イントロンAプロモーターを使用するcDNA構成またはCMVプロモーターを使用するゲノム構成に基づく細胞を適用した。
【0100】
抗体発現カセットのほかに、ベクターは下記を含有した:
−大腸菌(E.coli)中でこのプラスミドの複製を可能とする複製起点、および
−大腸菌(E.coli)においてアンピシリン耐性を付与するβ−ラクタマーゼ遺伝子。
【0101】
抗体遺伝子の転写単位は下記の要素から構成されている:
−5’末端における1または2以上のユニーク制限部位、
−ヒトサイトメガロウイルスからの前初期エンハンサーおよびプロモーター、
−引き続いてcDNA構成の場合においてイントロンA配列、
−ヒト抗体遺伝子の5’非翻訳領域、
−免疫グロブリン重鎖シグナル配列、
−免疫グロブリンエキソン−イントロン構成を伴うcDNAまたはゲノム構成としてヒト抗体鎖(野生型またはドメイン交換を伴う)、
−ポリアデニル化シグナル配列をもつ3’非翻訳領域、および
−3’末端における1または2以上のユニーク制限部位。
【0102】
記載した抗体鎖を含んでなる融合遺伝子を後述するようにPCRおよび/または遺伝子合成により発生させ、既知の組換えの方法および技術に従い、例えば、それぞれのベクター中のユニーク制限部位を使用して、一致した核酸配列の接続により組み合わせた。サブクローニングした核酸配列をDNA配列決定により確認した。一時的トランスフェクションのために、形質転換した大腸菌(E.coli)培養物(Nucleobond AX、Macherey−Nagel)からプラスミド生産により、より多い量のプラスミドを生産した。
【0103】
細胞培養技術
標準細胞培養技術を下記の文献に記載されているように使用した:Current Protocols in Cell Biology(2000)、Bonifacino J.S.、Dasso M.、Harford J.B.、Lippincott−Schwartz J.およびYamada K.M.(編者)、John Wiley & Sons,Inc.。
【0104】
後述するように粘着成長するHEK293 EBNA中でまたは懸濁液中で成長するHEK293−F細胞中でそれぞれの発現プラスミドを一時的に共トランスフェクションすることによって、二重特異性抗体を発現させた。
【0105】
HEK293 EBNA系における一時的トランスフェクション
10%のウルトラ・ロウ(Ultra Low)IgG FCS(胎仔ウシ血清、Gibco)、2mMのL−グルタミン(Gibco)および250μg/mlのジェネチシン(Gibco)を補充したDMEM(ダルベッコ変性イーグル培地、Gibco)中で培養した、粘着成長するHEK293 EBNA細胞(エプスタイン−バール−ウイルス核抗原を発現するヒト胚腎細胞系統293;American Type Culture Collection受託番号ATCC#CRL−10852、ロット959 218)中で、それぞれの発現プラスミド(例えば、重鎖および修飾した重鎖、ならびに対応する軽鎖および修飾した軽鎖をコードする)を一時的共トランスフェクションすることによって、二重特異性抗体を発現させた。トランスフェクションのために、FuGENETM 6トランスフェクション試薬(Roche Molecular Biochemicals)を4:1(3:1から6:1)のFuGENETM試薬(μl)対DNA(μg)の比で使用した。それぞれ1:2から2:1までの範囲の1:1(等モル)の(修飾したおよび野生型)軽鎖および重鎖エンコーディングプラスミドのモル比を使用して、タンパク質をそれぞれのプラスミドから発現させた。第3日に、細胞に4mMまでのL−グルタミン、グルコース(Sigma)およびNAA(Gibco)を供給した。トランスフェクション後第5日〜第11日に二重特異性抗体を含有する細胞培養物上清を遠心により収集し、−20℃において貯蔵した。例えば、HEK293細胞中のヒト免疫グロブリンの組換え発現に関する一般情報は下記の文献に記載されている:Meissner P.他、Biotechnol.Bioeng.75(2001)197−203。
【0106】
HEK293−F系における一時的トランスフェクション
HEK293−F系(Invitrogen)を製造業者の使用説明書に従い使用して、それぞれのプラスミド(例えば、重鎖および修飾した重鎖、ならびに対応する軽鎖および修飾した軽鎖をコードする)を一時的トランスフェクションすることによって、二重特異性抗体を発生させた。簡単に述べると、震蘯フラスコまたは攪拌した発酵槽を使用して無血清フリースタイル(FreeStyle 293)発現媒質(Invitrogen)中の懸濁液中で成長するHEK293−F細胞(Invitrogen)を、4つの発現プラスミドおよび293フェクチンまたはフェクチン(Invitrogen)の混合物でトランスフェクトした。2リットルの震蘯フラスコ(Corning)について、1.0 E* 6細胞/mlの密度の600mlのHEK293−F細胞を接種し、8%CO2中で120rpmにおいてインキュベートした。次の日に、A)20mlのOpti−MEM(Invitrogen)および等モル比のそれぞれ重鎖および修飾した重鎖および対応する軽鎖をコードする600μgの全プラスミドDNA(1μg/ml)と、B)20mlのOpti−MEM+1.2mlの293フェクチンまたはフェクチン(2μl/ml)との約42mlの混合物で細胞を約1.5E*6細胞/mlの細胞密度においてトランスフェクトした。グルコース消費に従い、グルコース溶液を発酵過程間に添加した。5〜10日後に分泌抗体を含有する上清を収集し、抗体を上清から直接精製するか、あるいは上清を凍結させ、貯蔵した。
【0107】
タンパク質の測定
下記の文献に従いアミノ酸配列に基づいて計算したモル吸光係数を使用して、280nmにおける光学密度(OD)を測定することによって、精製した抗体および誘導体のタンパク質濃度を決定した:Pace C.N.他、Protein Science 1995、4、2411−1423。
【0108】
上清中の抗体濃度の測定
プロテインAアガロースビーズ(Roche)を使用する免疫沈降により、細胞培養物上清中の抗体および誘導体の濃度を推定した。60μlのプロテインAアガロースビーズをTBS−NP40(50mM トリス、pH7.5、150mM NaCl、1%Nonidet−P40)中で3回洗浄する。引き続いて、1〜15mlの細胞培養物上清をTBS−NP40中で前平衡化したプロテインAアガロースビーズに適用した。室温において1時間インキュベートした後、ビーズをウルトラフリー(Ultrafree)−MCフィルターカラム(Amicon)上で0.5mlのTBS−NP40で1回、0.5mlの2×リン酸塩緩衝液(2×PBS、Roche)で2回、そして0.5mlの100mMのクエン酸ナトリウムpH5.0で短時間4回洗浄した。35μlのNuPAGE(商標)LDS試料緩衝液(Invitrogen)を添加して、結合した抗体を溶離した。試料の半分をそれぞれNuPAGE(商標)試料還元剤と組み合わせるか、あるいは還元しないで放置し、そして10分間70℃に加熱した。結局、5〜30μlを4〜12%のNuPAGE(商標)ビス−トリスSDS−PAGE(Invitrogen)に適用し(非還元SDS−PAGEについてMOPS緩衝液を使用し、そして還元SDS−PAGEについてMES緩衝液およびNuPAGE(商標)酸化防止剤ランニング添加剤(Invitrogen)を使用した)、そしてクーマッシーブルーで染色した。
【0109】
細胞培養物上清中の抗体および誘導体の濃度を、アフィニティーHPLCクロマトグラフィーにより定量的に測定した。簡単に述べると、プロテインAに結合する抗体および誘導体を含有する細胞培養物上清を、200mM K2HPO4、100mMクエン酸ナトリウム、pH7.4中のアプライド・バイオシステムス・ポロス(Applied Biosystems Poros)A/20カラムに適用し、アジレント(Agilent)HPLC 1100系上で200mM NaCl、100mMクエン酸、pH2.5でマトリックスから溶離した。溶離したタンパク質をUV吸収およびピーク面積の積分により定量した。精製した標準IgG1を標準として使用した。
【0110】
選択的に、細胞培養物上清中の抗体および誘導体の濃度をサンドイッチIgG−ELISAにより測定した。簡単に述べると、ストレプタウェル・ハイ・バインド・ストレプトアビジン(StreptaWell High Bind Streptavidin)A−96ウェルのマイクロタイタープレート(Roche)を、100μl/ウェルのビオチニル化抗ヒトIgG捕捉分子F(ab’)2<hFcγ>BI(Dianova)で0.1μg/mlにおいて室温で1時間被膜するか、あるいは選択的に一夜4℃において被覆し、引き続いて200μl/ウェルのPBS、0.05%のツイーン(PBST、Sigma)で3回洗浄した。それぞれの抗体含有細胞培養物上清のPBS(Sigma)中の希釈系列の100μl/ウェルをウェルに添加し、室温においてマイクロタイタープレート震蘯器上で1〜2時間インキュベートした。ウェルを200μl/ウェルのPBSTで3回洗浄し、検出抗体として100μlの0.1μg/mlのF(ab’)2<hFcγ>POD(Dianova)を使用して結合抗体を室温においてマイクロタイタープレート震蘯器上で1〜2時間検出した。結合しない検出抗体を200μl/ウェルのPBSTで3回洗浄除去し、結合した検出抗体を100μlのABTS/ウェルの添加により検出した。テカン・フルオア(Tecan Fluor)スペクトロメーターで405nmの測定波長(参照波長492nm)において、吸収を測定した。
【0111】
タンパク質の精製
標準プロトコルに従い、濾過した細胞培養物上清からタンパク質を精製した。簡単に述べると、抗体をプロテインAセファローズカラム(GE Healthcare)に適用し、PBSで洗浄した。抗体をpH2.8において溶離し、次いで試料を直ちに中和した。PBS中でまたは20mMのヒスチジン、150mMのHCl pH6.0中でサイズ排除クロマトグラフィー(スーパーデックス200、GE Healthcare)により、凝集したタンパク質をモノマーの抗体から分離した。モノマーの抗体の画分をプールし、必要に応じて、例えば、ミリポア(MILLIPORE)アミコン・ウルトラ(30MWCO)遠心濃縮装置を使用して、濃縮し、凍結させ、−20℃または−80℃において貯蔵した。引き続いて、試料の一部分を、例えば、SDS−PAGEサイズ排除クロマトグラフィーまたは質量分析により、タンパク質分析し、分析的に特性決定した。
【0112】
SDS−PAGE
NuPAGE(商標)前注型ゲル系(Invitrogen)を製造業者の使用説明書に従い使用した。特に、10%または4〜12%のNuPAGE(商標)Novex(商標)ビス−トリス前注型ゲル系(pH6.4)およびNuPAGE(商標)MES(還元したゲル、NuPAGE(商標)酸化防止剤ランニング緩衝液添加剤を使用する)またはMOPS(還元してないゲル)ランニング緩衝液を使用した。
【0113】
分析用サイズ排除クロマトグラフィー
抗体の凝集およびオリゴマーの状態を決定するサイズ排除クロマトグラフィーを、HPLCクロマトグラフィーにより実施した。簡単に述べると、プロテインA精製抗体をアジレント(Agilent)HPLC 1100系上の300mM NaCl、50mM KH2PO4/K2HPO4、pH7.5中のトソ(Tosoh)TSKゲルG3000SWカラムに適用するか、あるいはジオネックス(Dionex)HPLC系上の2×PBS中のスーパーデックス200カラム(GE Healthcare)に適用した。溶離したタンパク質をUV吸収およびピーク面積の積分により定量した。バイオラド(BioRad)ゲル濾過標準151−1901を標準として使用した。
【0114】
質量分析
エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI−MS)により、クロスオーバー抗体の全脱グリコシル化質量を測定し、確認した。簡単に述べると、100μgの精製した抗体を100mM KH2PO4/K2HPO4、pH7中の50mUのN−グリコシダーゼF(PNGaseF、ProZyme)で37℃において12〜24時間2mg/mlまでのタンパク質濃度において脱グルコシル化し、引き続いてセファデックスG25カラム(GE Healthcare)上のHPLCにより脱塩した。脱グルコシル化および還元後、それぞれの重鎖および軽鎖の質量をESI−MSにより測定した。簡単に述べると、115μl中の50μgの抗体を60μlの1M TCEPおよび50μlの8M塩酸グアニジンとインキュベートし、引き続いて脱塩した。ナノメート(NanoMate)源を装備したQ−Star Elite MS系上のESI−MSにより、全質量および還元した重鎖および軽鎖の質量を測定した。
【0115】
IGF−1R ECD結合ELISA
IGF−1R細胞外ドメイン(ECD)使用するELISAアッセイにおいて、発生した抗体の結合特性を評価した。このために、天然のリーダー配列と、N末端のHis−ストレプトアビジン結合ペプチド−タグ(His−SBP)に融合したアルファ鎖のヒトIGF−1RエクトドメインのLI−システインに富んだ12ドメイン(McKern他、1997;Ward他、2001に従う)とを含んでなるIGF−1Rの細胞外ドメイン(残基1〜462)を、pcDNA3ベクター誘導体中にクローニングし、HEK293−F細胞中で一時的に発現させた。IGF−1R−His−SBP ECDのタンパク質配列を配列番号5に記載する。可溶性IGF−1R−ECD−SBP融合タンパク質を含有する細胞培養物上清の100μl/ウェルでストレプタウェル高結合ストレプトアビジンA−96ウェルマイクロタイタープレート(Roche)を4℃において一夜被覆し、200μl/ウェルのPBS、0.05%ツイーン(PBST、Sigma)で3回洗浄した。引き続いて、1%BSA(画分V、Roche)を含むPBS(Sigma)中のそれぞれの抗体および参照として野生型<IGF−1R>抗体の希釈系列の100μl/ウェルをウェルに添加し、室温においてマイクロタイタープレート震蘯器上で1〜2時間インキュベートした。希釈系列について、参照として同一量の精製した抗体、または同一抗体濃度についてサンドイッチIgG−ELISAにより正規化したHEK293E(HEK293−F)中の一時的トランスフェクションからの上清をウェルに適用した。ウェルを200μl/ウェルのPBSTで3回洗浄し、検出抗体として100μl/ウェルの0.1μg/mlのF(ab’)2<hFcγ>POD(Dianova)を使用して、マイクロタイタープレート震蘯器上で室温において結合抗体を1〜2時間検出した。結合しない検出抗体を200μl/ウェルのPBSTで3回洗浄除去し、結合した検出抗体を100μlのABTS/ウェルの添加により検出した。テカン・フルオア・スペクトロメーターで405nmの測定波長(参照波長492nm)において、吸収を測定した。
【0116】
IGF−1R ECDバイアコア
また、バイアコ(BIACORE)T100計器(GE Healthcare、Biosciences AB、スウェーデン、ウプサラ)を使用して表面プラズモン共鳴により、発生した抗体のヒトIGF−1R ECDに対する結合を研究した。簡単に述べると、アフィニティーの測定のために、ヒトIGF−1R ECD−Fcタッグドに対する抗体の提示についてのアミンカップリングにより、ヤギ抗ヒトIgG、JIR109−005−098抗体をCM5チップ上に固定化した。HBS緩衝液(HBS−P、10mM HEPES、150mM NaCl、0.005%ツイーン20、pH7.4)中で25℃において、結合を測定した。IGF−1R ECD(R&D Systemsまたはイン−ハウス精製した)を溶液に種々の濃度で添加した。会合を80秒〜3分のIGF−1R ECD注入により測定した;チップ表面をHBS緩衝液で3〜10分間洗浄することによって解離を測定し、そして1:1ラングミュア結合モデルを使用してKD値を推定した。<IGF−1R>抗体の負荷密度および捕捉レベルが低いために、1価のIGF−1R ECDの結合が得られた。陰性対照のデータ(例えば、緩衝液の曲線)を試料の曲線から減じて、系固有の基線ドリフトを補正し、そして雑音を減少させた。バイアコアT100評価ソフトウェアバージョン1.1.1を使用して、センサーグラム(sensorgrams)を分析し、そしてアフィニティーのデータを計算した。図11は、Biacoreアッセイのスキームを示す。
【0117】
実施例1
単一特異性2価<IGF−1R>抗体の生産、発現、精製および特性決定、ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されている(ここにおいて<IGF−1R>VL−VH交換抗体と略す)。
【0118】
実施例1A
単一特異性2価<IGF−1R>VL−VH交換抗体のための発現プラスミドの生産
この実施例に記載するそれぞれのリーダー配列を含む単一特異性2価<IGF−1R>VL−VH交換抗体の重鎖および軽鎖の可変性ドメインの配列は、WO2005/005635に記載されている野生型<IGF−1R>抗体重鎖(配列番号1、プラスミド4843−pUC−HC−IGF−1R)および軽鎖(配列番号2、プラスミド4842−pUC−LC−IGF−1R)から誘導し、そして重鎖および軽鎖コンスタントドメインをヒト抗体(C−カッパおよびIgG1)から誘導する。
【0119】
<IGF−1R>抗体のリーダー配列、軽鎖可変性ドメイン(VL)および重鎖コンスタントドメイン(CH1)をコードする遺伝子セグメントを接合し、ヒトγ1−重鎖コンスタントドメイン(ヒンジ−CH2−CH3)のFcドメインの5’末端に融合した。VLドメインによるVHドメインの交換から生ずるそれぞれの融合タンパク質(VH−VL交換)をコードするDNAを遺伝子合成により発生させ、下記において<IGF−1R>HC***(配列番号10)と表示する。最初に、VL−CH1ドメインは、僅かに異なる配列(配列番号3)と融合された;この接続の発現率の低下により、野生型抗体に匹敵する発現率を示す配列番号10を選択した。
【0120】
<IGF−1R>抗体のリーダー配列、重鎖可変性ドメイン(VH)およびヒト軽鎖コンスタントドメイン(CL)のための遺伝子セグメントを独立鎖として接合した。VHドメインによるVLドメインの交換から生ずるそれぞれの融合タンパク質(VH−VL交換)をコードするDNAを遺伝子合成により発生させ、下記において<IGF−1R>LC***(重鎖***)(配列番号11)と表示する。最初に、VL−CLドメインは、僅かに異なる配列(配列番号4)と融合された;この接続の発現率の低下により、野生型抗体に匹敵する発現率を示す配列番号11を選択した。
【0121】
図5および図6は、修飾された<IGF−1R>HC***重鎖および修飾された<IGF−1R>LC***軽鎖*のタンパク質配列の略図を示す。
【0122】
下記において、それぞれの発現ベクターを簡単に説明する:
ベクターpUC−HC***−IGF−1R
ベクターpUC−HC***−IGF−1Rは、例えば、VL−VH交換<IGF−1R>重鎖*HC***(cDNA構成発現カセット;CMV−イントロンAをもつ)HEK293(EBNA)細胞中の一時的発現のためのまたはCHO細胞中の安定な発現のための、発現プラスミドである。
【0123】
<IGF−1R>HC***発現カセットのほかに、このベクターは下記を含有する:
−大腸菌(E.coli)中のこのプラスミドの複製を可能とするベクターpUC18からの複製起点、および
−大腸菌(E.coli)においてアンピシリン耐性を付与するβ−ラクタマーゼ遺伝子。
【0124】
<IGF−1R>HC***遺伝子の転写単位は下記の要素から構成されている:
−5’末端におけるAscI制限部位、
−ヒトサイトメガロウイルスからの前初期エンハンサーおよびプロモーター、
−次いでイントロンA配列、
−ヒト抗体遺伝子の5’非翻訳領域、
−免疫グロブリン軽鎖シグナル配列
−ヒトγ1−重鎖コンスタントドメイン(ヒンジ−CH2−CH3)のFcドメインの5’末端に融合したヒト軽鎖可変性ドメイン(VH)およびヒトカッパ−軽鎖コンスタントドメイン(CL)の融合物をコードするヒト<IGF−1R>成熟HC***鎖、
−ポリアデニル化シグナル配列をもつ3’非翻訳領域、および
−3’末端におけるユニーク制限部位SgrAI。
【0125】
重鎖***VL−VH交換<IGF−1R>HC***発現ベクターpUC−HC***−IGF−1Rのプラスミド地図を図7に示す。<IGF−1R>HC***のアミノ酸配列(シグナル配列を含む)を配列番号10に記載する。
【0126】
ベクターpUC−LC***−IGF−1R
ベクターpUC−LC***−IGF−1Rは、例えば、VL−VH交換<IGF−1R>軽鎖LC***(cDNA構成発現カセット;CMV−イントロンAをもつ)のHEK293(EBNA)細胞中の一時的発現のためのまたはCHO細胞中の安定な発現のための、発現プラスミドである。
【0127】
<IGF−1R>LC***発現カセットのほかに、このベクターは下記を含有する:
−大腸菌(E.coli)中のこのプラスミドの複製を可能とするベクターpUC18からの複製起点、および
−大腸菌(E.coli)においてアンピシリン耐性を付与するβ−ラクタマーゼ遺伝子。
【0128】
<IGF−1R>LC***遺伝子の転写単位は下記の要素から構成されている:
−5’末端における制限部位Sse8387I、
−ヒトサイトメガロウイルスからの前初期エンハンサーおよびプロモーター、
−次いでイントロンA配列、
−ヒト抗体遺伝子の5’非翻訳領域、
−免疫グロブリン重鎖シグナル配列
−ヒト軽鎖可変性ドメイン(VL)およびヒトγ1−重鎖コンスタントドメイン(CH1)の融合物をコードするヒト<IGF−1R>抗体成熟LC***鎖、
−ポリアデニル化シグナル配列をもつ3’非翻訳領域、および
−3’末端における制限部位SalIおよびFseI。
【0129】
軽鎖**VL−VH交換<IGF−1R>LC***発現ベクターpUC−LC***−IGF−1Rのプラスミド地図を図8に示す。<IGF−1R>LC***のアミノ酸配列(シグナル配列を含む)を配列番号11に記載する。
【0130】
プラスミドpUC−HC***−IGF−1RおよびpUC−LC***−IGF−1Rは、例えば、HEK293、HEK293 EBNAまたはCHO細胞(2−ベクター系)中への、一時的または安定な共トランスフェクションに使用できる。比較の理由で、この実施例に記載するものと同様にして、野生型<IGF−1R>抗体をプラスミド4842−pUC−LC−IGF−1R(配列番号2)および4843−pUC−HC−IGF−1R(配列番号1)から一時的に発現させた。
【0131】
HEK293 EBNA細胞中の一時的発現においてより高い発現レベルを達成するために、下記を含有する4700−pUC−Hyg−OriP発現ベクター中に、<IGF−1R>HC***発現カセットをAscIおよびSgrAI部位を通して、そして<IGF−1R>LC***発現カセットをSse8387IおよびFseI部位を通して、サブクローニングすることができる:
−OriP要素、および
−選択可能なマーカーとしてヒグロマイシン耐性遺伝子。
【0132】
重鎖および軽鎖の転写単位は共トランスフェクションのために2つの独立4700−pUC−Hyg−OriPベクター(2ベクター系)中にサブクローニングするか、あるいは生ずるベクターを使用する引き続く一時的または安定なトランスフェクションのために1つの共通の4700−pUC−Hyg−OriPベクター(1ベクター系)中にクローニングすることができる。基本的ベクター4700−pUC−OriPのプラスミド地図を図9に示す。
【0133】
実施例1B
単一特異性2価<IGF−1R>VL−VH交換抗体の発現プラスミドの生産
既知の組換えの方法および技術を使用して、一致する核酸セグメント接続により、野生型<IGF−1R>抗体の交換されたFab配列を含んでなる<IGF−1R>融合遺伝子(HC***およびLC***融合遺伝子)を組立てた。
【0134】
IGF−1R HC***およびLC***をコードする核酸配列の各々を化学合成により合成し、引き続いてゲネアルト(Geneart)(レーゲンスブルク、ドイツ)においてpPCRScript(Stratagene)に基づくpGA4クローニングベクター中にクローニングした。IGF−1R HC***をコードする発現カセットをPvuIIおよびBmgBI制限部位を通してそれぞれの大腸菌(E.coli)プラスミド中に結合して、最終ベクターpUC−HC***−IGF−1Rを生成した;それぞれのIGF−1R LC***をコードする発現カセットをPvuIIおよびSalI制限部位を通してそれぞれの大腸菌(E.coli)プラスミド中に結合して、最終ベクターpUC−LC***−IGF−1Rを生成した。サブクローニングした核酸配列をDNA配列決定により確認した。一時的および安定なトランスフェクションのために、形質転換された大腸菌(E.coli)培養物(Nucleobond AX、Macherey−Nagel)からプラスミド生産により大量のプラスミドを生産した。
【0135】
実施例1C
単一特異性2価<IGF−1R>VL−VH交換抗体の一時的発現、精製および質量分析による同定の確認
上記されるように、HEK293−F懸濁細胞中で、プラスミドpUC−HC***−IGF−1RおよびpUC−LC***−IGF−1Rの一時的共トランスフェクションにより、組換え<IGF−1R>VL−VH交換抗体を発現させた。
【0136】
上記されるように、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーにより、濾過した細胞培養物上清から、発現分泌された単一特異性2価<IGF−1R>VL−VH交換抗体を精製した。簡単に述べると、一時的トランスフェクションからの<IGF−1R>VL−VH交換抗体を含有する細胞培養物上清を遠心により清浄化し、濾過し、PBS緩衝液(10mM Na2HPO4、1mM K2HPO4、137mM NaClおよび2.7mM KCl、pH7.4) と平衡化したプロテインA ハイトラップ・マブセレクト・エクストラカラム(GE Healthcare)に適用した。結合しないタンパク質をPBS平衡緩衝液、次いで0.1Mのクエン酸ナトリウム緩衝液pH5.5で洗浄除去し、PBSで洗浄した。抗体を100mMのクエン酸ナトリウムpH2.8で溶離し、次いで試料を300μlの2M トリス pH9.0/2mlの画分で直ちに中和した。20mMのヒスチジン、150mM NaCl pH6.0中のハイロード26/60スーパーデックス200プレプ等級カラム(GE Healthcare)上のサイズ排除クロマトグラフィーにより、凝集したタンパク質をモノマー抗体から分離し、引き続いてモノマー抗体画分をミリポア・アミコン・ウルトラ−15遠心濃縮装置で濃縮した。<IGF−1R>VL−VH交換抗体を凍結させ、−20℃または−80℃において貯蔵した。<IGF−1R>VL−VH交換抗体の完全性を還元剤の存在および非存在下にSDS−PAGEにより分析し、引き続いて上記されるようにクーマッシー・ブリリアント・ブルーで染色した。<IGF−1R>VL−VH交換抗体の一価状態は、分析用サイズ排除クロマトグラフィーによって確認された(図12)。特性決定した試料を引き続きタンパク質分析および機能的特性決定のために使用した。完全に脱グルコシル化された<IGF−1R>VL−VH交換抗体の理論分子量は、ESI質量分析により確認された。
【0137】
実施例1D
IGF−1R ECD結合ELISAにおけるおよびビアコアによる単一特異性2価<IGF−1R>VL−VH交換抗体のIGF−1R結合特性の分析
前述したようにIGF−1R細胞外ドメイン(ECD)を使用するELISAアッセイにおいて、単一特異性2価<IGF−1R>VL−VH交換抗体の結合特性を評価した。このために、天然のリーダー配列と、N末端のHis−ストレプトアビジン結合ペプチド−タグ(His−SBP)に融合したアルファ鎖のヒトIGF−1RエクトドメインのLI−システインに富んだ12ドメイン(McKern他、1997;Ward他、2001に従う)とを含んでなるIGF−1Rの細胞外ドメイン(残基1〜462)を、pcDNA3ベクター誘導体中にクローニングし、HEK293−F細胞中で一時的に発現させた。IGF−1R−His−SBP ECDのタンパク質配列を上記に記載する。得られた滴定曲線は、<IGF−1R>VL−VH交換抗体が機能的であり、この方法の誤差内にある野生型<IGF−1R>抗体に匹敵する結合特徴及び動力学を示し、十分に機能的であるように考えられた(図13)。
【0138】
これらの結果は、それぞれの精製した抗体を使用するビアコアによって確証されている。
【0139】
実施例1G
IGF−1Rを過剰発現するI24細胞を使用するFACSによる単一特異性2価<IGF−1R>VL−VH交換抗体のIGF−1R結合特性の分析
<IGF−1R>VL−VH交換抗体の結合活性を確認するために、I24細胞(組換えヒトIGF−1Rを発現するNIH3T3細胞、Roche)の表面上で過剰発現されたIGF−1Rに対する結合性をFACSにより研究する。簡単に述べると、精製した<IGF−1R>VL−VH交換抗体および参照として野生型<IGF−1R>抗体の希釈物と5×10E5 I24細胞/FACSをインキュベートし、氷上で1時間インキュベートする。結合しない抗体を4mlの氷冷PBS(Gibco)+2% FCS(Gibco)で洗浄除去する。引き続いて、細胞を遠心(5分、400g)し、結合した抗体をF(ab’)2<hFcγ>PEコンジュゲイト(Dianova)により氷上で1時間光から保護して検出する。結合しない検出抗体を4mlの氷冷PBS+2% FCSで洗浄除去する。引き続いて、細胞を遠心(5分、400g)し、300〜500μlのPBS中に再懸濁させ、そして結合した検出抗体をFACSカリブール(Calibur)またはFACSカント(Canto)(BD、FL2チャンネル、10,000細胞/獲得)上で定量する。実験の間、それぞれのアイソタイプ対照を含めて非特異的結合事象を排除する。I24細胞上のIGF−1Rに対する<IGF−1R>VL−VH/CL−CH1交換抗体および野生型<IGF−1R>参照抗体の結合性を、平均蛍光強度の濃度依存的シフトによって比較する。
【0140】
実施例2
単一特異性2価<ANGPT2>野生型抗体の説明
実施例2A
単一特異性2価<ANGPT2>野生型抗体のための発現プラスミドの生産
この実施例に記載するそれぞれのリーダー配列を含む単一特異性2価アンギオポイエチン−2<ANGPT2>野生型抗体の重鎖および軽鎖の可変性ドメインの配列を、WO2006/045049に記載されているヒト<ANGPT2>抗体の重鎖(配列番号6)および軽鎖(配列番号7)から誘導し、そして重鎖および軽鎖のコンスタントドメインをヒト抗体(C−カッパおよびIgG1)から誘導する。
【0141】
前の実施例1Aに記載するベクターに類似するプラスミドSB04−pUC−HC−ANGPT2(配列番号6)およびSB06−pUC−LC−ANGPT2(配列番号7)中に野生型<ANGPT2>抗体をクローニングした。比較の理由でかつ共発現実験のために(実施例3参照)、野生型<ANGPT2>抗体をプラスミドSB04−pUC−HC−ANGPT2およびSB06−pUC−LC−ANGPT2から一時的に(共)発現させた。
【0142】
実施例2B
単一特異性2価<ANGPT2>野生型抗体発現プラスミドの生産
<ANGPT2>HCおよびLCをコードする核酸配列の各々を化学合成により合成し、引き続いてゲネアルト(Geneart)(レーゲンスブルク、ドイツ)においてpPCRScript(Stratagene)に基づくpGA4クローニングベクター中にクローニングした。<ANGPT2>HCをコードする発現カセットをそれぞれの大腸菌(E.coli)プラスミド中にクローニングして、最終ベクターSB04−pUC−HC−ANGPT2を生成した;それぞれの<ANGPT2>LCをコードする発現カセットをそれぞれの大腸菌(E.coli)プラスミド中にクローニングして、最終ベクターSB06−pUC−LC−ANGPT2を生成した。サブクローニングした核酸配列をDNA配列決定により確認した。一時的および安定なトランスフェクションのために、形質転換された大腸菌(E.coli)培養物(Nucleobond AX、Macherey−Nagel)からプラスミド生産によってより大量のプラスミドを生産した。
【0143】
実施例3
二重特異性2価<ANGPT2−IGF−1R>抗体の発現、ここでIGF−1Rに特異的に結合する重鎖および軽鎖において、コンスタントドメインVLおよびVHは互いにより置換されている(ここにおいて<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体と略す)
【0144】
実施例3A
二重特異性<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体を生ずるHEK293 EBNA細胞における<IGF−1R>VL−VH交換抗体および<ANGPT2>野生型抗体の一時的共発現および精製
一方の側で<IGF−1R>VL−VH交換抗体を通してIGF−1Rを認識し、そして他方の側で<ANGPT2>野生型Fab領域を通して<ANGPT2>を認識する機能的二重特異性抗体を発生させるために、<IGF−1R>VL−VH交換抗体をコードする2つの発現プラスミド(実施例1A)を<ANGPT2>野生型抗体をコードする2つの発現プラスミド(実施例2A)と共発現させた。野生型重鎖HCおよびVL−VH交換抗体鎖HC***の統計的会合を仮定すると、これにより二重特異性および2価<IGF−1R−ANGPT2>VL−VH交換抗体が発生した。両方の抗体が等しく十分に発現されると仮定し、副産物を考慮しないとすると、これにより3つの主要な生成物、A)<IGF−1R>VL−VH交換抗体、B)二重特異性<IGF−1R−ANGPT2>VL−VH交換抗体、およびC)<ANGPT2>野生型抗体が1:2:1の比で生じたであろう。いくつかの副産物を期待することができる。
しかしながら、VL−VHドメインだけの交換により、副産物の頻度は、完全なFabクロスオーバーに対して減少したであろう。
<ANGPT2>野生型抗体は<IGF−1R>野生型及び<IGF−1R>VL−VH交換抗体よりも高い発現の一時的発現収量を示すので、<ANGPT2>野生型抗体プラスミドおよび<IGF−1R>VL−VH交換抗体プラスミドの比は、<ANGPT2>野生型抗体の発現に有利にシフトした。
【0145】
主要な産物A)<IGF−1R>VL−VH交換抗体、B)二重特異性<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体、およびC)<ANGPT2>野生型抗体の混合物を発生させるために、4つのプラスミドpUC−HC***−IGF−1RおよびpUC−LC***−IGF−1RおよびプラスミドSB04−pUC−HC−ANGPT2およびSB06−pUC−LC−ANGPT2を、上記した懸濁HEK293−F細胞に一時的に共トランスフェクトした。収集した上清は主要な生成物A)<IGF−1R>VL−VH交換抗体、B)二重特異性<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体、およびC)<ANGPT2>野生型抗体の混合物を含有し、「二重特異性VL−VH交換混合物」と表示する。遠心分離によって二重特異性VL−VH交換混合物を含有する細胞培養物上清を収集し、その後、上述されるように精製した。
【0146】
抗体混合物の完全性を還元剤の存在および非存在下にSDS−PAGEにより分析し、引き続いて上記されるようにクーマッシー・ブリリアント・ブルーで染色し、サイズ排除クロマトグラフィーにかけた。SDS−PAGEは、期待したように、2種の重鎖および軽鎖が調製物中に存在することを示した(還元ゲル)(図14)。特性決定した試料を引き続きタンパク質分析および機能的特性決定のために使用した。
【0147】
実施例3B
I24 IGF−1R発現細胞上の細胞FACS架橋アッセイにおける機能的二重特異性<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体の検出
実施例3Aに記載する一時的共発現からの主要な生成物A)<IGF−1R>VL−VH交換抗体、B)二重特異性<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体、およびC)<ANGPT2>野生型抗体の精製された二重特異性VL−VH交換混合物中の機能的二重特異性<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体の存在を確認するために、I24細胞(組換えヒトIGF−1Rを発現するNIH3T3細胞、Roche)上で細胞FACS IGF−1R−ANGPT2架橋アッセイを実施した。このアッセイを図10に描写する。精製した抗体混合物中に存在する二重特異性<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体は、IGF−1RにI24細胞中でおよび同時にANGPT2に結合することができ、こうしてその2つのターゲット抗原を2つの対向するFab領域と架橋させるであろう。
【0148】
簡単に述べると、5×10E5 I24細胞/FACS管を精製した抗体混合物の全部とインキュベートし、氷上で1時間インキュベートした(滴定160μg/ml混合物)。それぞれの精製した抗体の野生型<IGF−1R>および<ANGPT2>を対照としてI24細胞に適用した。未結合の抗体を4mlの氷冷PBS(Gibco)+2%FCS(Gibco)で洗い出し、細胞を遠心し(400gで5分)、結合した二重特異性抗体を50μlの2μg/mLヒトANGPT2(R&D Systems)で1時間、氷上で検出した。その後、未結合のANGPT2を4mlの氷冷PBS(Gibco)+2%FCS(Gibco)で1回または2回洗い出し、細胞を遠心し(400gで5分)、結合したANGPT2を50μlの5μg/mL<ANGPT2>mIgG1−ビオチン抗体(BAM0981、R&D Systems)で45分間、氷上で検出した;あるいは、細胞を50μlの5μl/mL mIgG1−ビオチン−アイソタイプ対照(R&D Systems)とともにインキュベートした。未結合の検出抗体を4mlの氷冷PBS(Gibco)+2%FCS(Gibco)で洗い出し、細胞を遠心し(400gで5分)、結合した検出抗体を50μlの1:400にしたストレプトアビジン−PEコンジュゲート(Invitrogen/Zymed)を用いて、45分間、遮光しながら氷上で検出した。未結合のストレプトアビジン−PEコンジュゲートを4mlの氷冷PBS(Gibco)+2%FCS(Gibco)で洗い出した。次に、細胞を遠心し(400gで5分)し、300〜500μLのPBSに再懸濁し、結合したストレプトアビジン−PEコンジュゲートをFACSCalibur(BD(FL2チャネル、10,000細胞/捕捉)上で定量した。実験中、それぞれのアイソタイプ対照は、いずれかの非特異的な結合事象を排除するために含められた。さらに、精製された単一特異性2価IgG1抗体<IGF−1R>および<ANGPT2>を対照として含めた。
【0149】
図15の結果は、野生型抗体(<ANGPT2>野生型抗体)とともにクロスオーバー抗体(<IGF−1R>VL−VH交換抗体)の共発現から精製した抗体クロスオーバー混合物(<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体)とのインキュベーションが、I24細胞中のIGF−1R、およびANGPT2に同時に結合することができる機能的二重特異性<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体の存在を指示する
蛍光の有意なシフトを生じ;こうしてその2つの抗原を2つの対向するFab領域と架橋させることができることを示す。これと対照的に、それぞれの<IGF−1R>および<Ang−2>対照抗体は、FACS架橋アッセイでは蛍光のシフトを生じなかった。
【0150】
これらのデータを一緒にしてみると、それぞれの野生型およびクロスオーバープラスミドによって、機能的二重特異性抗体を生じ得ることを示す。正確な二重特異性抗体の収量は、例えば、ノブ−インツ−ホール技術ならびにジスルフィド安定化を用いて、野生型および修飾したクロスオーバー重鎖の正確なヘテロ二量体化を強いることによって増加し得る(実施例4を参照されたい)。
【0151】
実施例4
修飾されたCH3ドメインを有する2価二重特異性<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体の発現(ノブ−インツ−ホール)
二重特異性<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体の収量をさらに改善するために、ノブ−インツ−ホール技術を<IGF−1R>VL−VH交換抗体および野生型<ANGPT2>抗体に適用し、均一であり、機能的二重特異性抗体調製物を得る。このために、<IGF−1R>VL−VH交換抗体の重鎖*HC*のCH3ドメインは、T366W交換を有する配列番号8のCH3ドメイン(ノブ)で置換され、野生型<ANGPT2>抗体の重鎖のCH3ドメインはT366S、L368A、Y407V交換を有する配列番号9のCH3ドメイン(ホール)で置換されるか、またはその反対である。さらに、ジスルフィドは、安定性及び収量を増加させるために含めることができ、イオン架橋を形成し、ヘテロ二量体化収量を増加させる更なる残基も同様である(EP1870459A1)。
【0152】
一時的な共発現、および修飾されたCH3ドメインを含む、得られた2価二重特異性<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体(ノブ−インツ−ホール)の精製は、実施例3に記載されるように行われる。
【0153】
ヘテロ二量体化の最適化は、例えば、異なるノブ−インツ−ホール技術、例えば、追加のジサルファイド架橋をCH3ドメイン中に導入する、例えば、Y349Cを「ノブ鎖」中に導入し、そしてD356Cを「ホール鎖」中に導入することにより、および/またはノブ残基のために残基R409D、K370E(K409D)を使用し、そしてホール残基のために残基D399K、E357Kを使用する(EP1870459A1に記載されている)ことを組合わせることによって達成することができることに留意すべきである。
【0154】
実施例4と同様にして、(上述のANGPT2重鎖および軽鎖、および該他の標的に指向される抗体のVL−VH交換重鎖および軽鎖***HC***およびLC***を用いて、それにより両方の重鎖が「ノブ−インツ−ホール」によって修飾される)ANGPT2および別の標的抗原に指向され、または(該他の標的及び上記のIGF−1R VL−H交換重鎖および軽鎖***HC***およびLC***に指向される抗体の重鎖および軽鎖を用いて、それにより両方の重鎖が「ノブ−インツ−ホール」によって修飾される)IGF−1Rおよび別の標的に指向される更なる2価二重特異性VL−VH交換抗体が調製可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な2価二重特異性抗体、それらの生産および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
操作されたタンパク質、例えば、2またはそれ以上の抗原に結合できる二重特異性または多重特異性抗体はこの分野において知られている。このような多重特異性結合性タンパク質は、細胞融合、化学的接合または組換えDNA技術を使用して発生させることができる。
【0003】
広範な種類の組換え二重特異性抗体フォーマットは最近開発されてきている、例えば、IgG抗体フォーマットおよび一本鎖ドメインの融合により、例えば、4価二重特異性抗体が開発された(例えば、下記の文献を参照のこと:Morrison S.L.他、Nature Biotech.15(1997)159−163;WO2001077342;およびColoma,M.J.,Nature Biotech.25(2007)1233−1234)。
【0004】
また、抗体コア構造(IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgM)がもはや保持されていないいくつかの新しいフォーマット、例えば、2またはそれ以上の抗原に結合できる、ジ抗体、トリ抗体またはテトラ抗体、ミニ抗体、いくつかの一本鎖フォーマット (scFv、ビス−scFv)が開発された(Holliger P.他 Nature Biotech.23(2005)1126−1136;Fischer N.およびLeger O.Pathobiology 74(2007)3−14;Shen J.他 Journal of Immunological Methods 318(2007)65−74;Wu C.他 Nature Biotech.25(2007)1290−1297)。
【0005】
すべてのこのようなフォーマットはリンカーを使用して抗体コア(IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgM)をそれ以上の結合性タンパク質(例えば、scFv)に融合するか、あるいは、例えば、2つのFabフラグメントまたはscFvを融合する(Fischer N.およびLeger O.Pathobiology 74(2007)3−14)。リンカーは二重特異性抗体の操作のために利点を有することは明らかであるが、それらは治療的設定において問題を引き起こすこともある。事実、これらの外来ペプチドはリンカーそれ自体に対してまたはタンパク質とリンカーとの間の接合部に対して免疫応答を誘発することがある。
【0006】
さらにいっそう、これらのペプチドの柔軟な特質はそれらのタンパク質分解的切断の傾向を高め、潜在的に抗体安定性の低下に導き、抗体を凝集させ、そして免疫原性を増加させる。さらに、エフェクター機能、例えば、補体依存性細胞障害作用(CDC)または抗体依存性細胞障害作用(ADCC)を保持することを必要とすることがあり、これらは天然に存在する抗体に対する高度の類似性を維持することによってFc部分を通して伝達される。こうして、理想的には、一般構造が天然に存在する抗体(例えば、IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgM)に非常に類似し、ヒト配列からの逸脱が小さい、二重特異性抗体の開発を目的とすべきである。
【0007】
1つのアプローチにおいて、二重特異性抗体の所望の特異性をもつネズミモノクローナル抗体を発現する2つの異なるハイブリドーマ細胞系統の体融合に基づくクアドローマ(quadroma)技術(参照、Milstein C.およびA.C.Cuello、Nature 305(1983)537−40)を使用して、天然の抗体に非常に類似する二重特異性抗体が生産された。生ずるハイブリッド−ハイブリドーマ(またはクアドローマ)細胞系統内の2つの異なる抗体の重鎖および軽鎖の不規則な対合のために、10までの異なる抗体種が発生し、それらの1つのみが所望の機能的二重特異性抗体である。対合違い副産物の存在および有意に減少した生産収量のために、複雑な精製手順を必要とする(例えば、下記の文献を参照のこと:Morrison S.L.、Nature Biotech.25(2007)1233−1234)。一般に、組換え発現技術を使用する場合、対合違い副産物という同一の問題が残る。
【0008】
「ノブ−インツ−ホール(knobs−into−holes)」として知られている、対合違い副産物の問題を回避するアプローチは、CH3ドメイン中に突然変異を導入して接触インターフェイスを変更することによって、2つの異なる抗体重鎖の対合を強制することを目指す。1つの鎖上で嵩高アミノ酸が短い側鎖をもつアミノ酸と置換して、「ホール」をつくる。逆に、大きい側鎖をもつアミノ酸を他のCH3ドメイン中に導入して、「ノブ」をつくる。これらの2つの重鎖(および2つの同一軽鎖、これらは両方の重鎖のために適当でなくてはならない)を共発現させることによって、ホモダイマー(「ホール−ホール」または「ノブ−ノブ」)の形成に比較してヘテロダイマー(ノブ−ホール) の形成の高い収量が観測された(Ridgway JB,Presta LG,Carter P;およびWO1996027011)。ファージ展示アプローチを使用して2つのCH3ドメインの相互作用表面を改造し、そしてジサルファイド架橋を導入してヘテロダイマーを安定化することによって、ヘテロダイマーの百分率をさらに増加することができる(Merchant A.M.他、Nature Biotech.16(1998)677−681;Atwell S,Ridgway JB,Wells JA,CaterP.、J.Mol.Biol.270(1997)26−35)。ノブ−インツ−ホール技術についての新しいアプローチは、例えば、EP1870459A1に記載されている。このフォーマットは非常に魅力的であるが、臨床に向かう進歩を記載するデータは現在入手不可能である。この戦略の1つの重要な拘束は、2つの親抗体の軽鎖が同一であって対合違いおよび不活性分子の形成を防止しなくてはならないことである。こうして、第1および第2の抗原に対する2つの抗体から出発して2つの抗原に対して組換え2価二重特異性抗体を容易に発生させるたには、これらの抗体の重鎖および/または同一の軽鎖を最適化しなくてはならないので、この技術は不適当である。
【0009】
Xie,Z.他、J Immunol Methods 286(2005)95−101は、Fc部分に対するノブ−インツ−ホール技術を併用して、scFvを用いた二重特異性抗体の新規なフォーマットを言及している。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、下記を含んでなる、2価二重特異性抗体に関する:
a)第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖;および
b)第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖
ここで、可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されている。
【0011】
本発明のそれ以上の態様は、下記の工程を含んでなる本発明による2価二重特異性抗体を生産する方法である:
a)下記で宿主細胞を形質転換し、
−第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、
−第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター
ここで、可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されており;
b)前記抗体分子の合成を可能とする条件下に宿主細胞を培養し;そして
c)前記培養物から前記抗体分子を回収する。
【0012】
本発明のそれ以上の態様は、下記を含んでなる宿主細胞である:
−第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、
−第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター
ここで、可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されている。
【0013】
本発明のそれ以上の態様は、本発明による抗体の組成物、好ましくは医薬組成物または診断組成物である。
【0014】
本発明のそれ以上の態様は、本発明による抗体と、少なくとも1種の薬学上許容される賦形剤とを含んでなる医薬組成物である。
【0015】
本発明のそれ以上の態様は、患者に治療的有効量の本発明による抗体を投与することを特徴とする、治療を必要する患者を治療する方法である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1はIgG、典型的な順序で可変性ドメインとコンスタントドメインとを含んでなる重鎖および軽鎖の2対をもつ1つの抗原に対して特異的な天然に存在する全抗体の略図。
【0017】
【図2】図2はa)第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖;およびb)第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖を含んでなる、2価二重特異性抗体の略図、ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されている。
【0018】
【図3】図3はa)第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖;およびb)第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖を含んでなる、2価二重特異性抗体の略図、ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されており、そして両方の重鎖のCH3ドメインはノブ−インツ−ホール技術により変更されている。
【0019】
【図4】図4はa)第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖;およびb)第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖を含んでなる、2価二重特異性抗体の略図、ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されており、そして両方の重鎖のコンスタント重鎖ドメインCH3の一方はコンスタント重鎖ドメインCH1により置換されており、そして他方のコンスタント重鎖ドメインCH3はコンスタント軽鎖ドメインCLにより置換されている。
【0020】
【図5】図5は<IGF−1R>VL−VH交換抗体の重鎖***<IGF−1R>HC***のタンパク質配列のスキーム。
【0021】
【図6】図6は<IGF−1R>VL−VH交換抗体の軽鎖***<IGF−1R>LC***のタンパク質配列のスキーム(カッパコンスタント軽鎖ドメインCL)。
【0022】
【図7】図7は重鎖***<IGF−1R>HC***発現ベクターpUC−HC***−IGF−1Rのプラスミド地図。
【0023】
【図8】図8は軽鎖***<IGF−1R>LC***発現ベクターpUC−LC***−IGF−1Rのプラスミド地図。
【0024】
【図9】図9は4700−Hyg−OriP発現ベクターのプラスミド地図。
【0025】
【図10】図10は機能的二重特異性<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体の存在を検出するI24 IGF−1R発現細胞上の細胞のFACS IGF−1R−ANGPT2架橋アッセイのアッセイ原理。
【0026】
【図11】図11はスキームIGF−1R ECD結合Biacore。
【0027】
【図12】図12はHEK293−F細胞の一時的トランスフェクション後の細胞培養物上清から単離されたHC*およびLCを有する、精製された単一特異性二価<IGF−1R>VL−VH交換抗体(IgG1*)のSDS−PAGEおよびサイズ排除クロマトグラフィー。
【0028】
【図13】図13はELISAに基づく結合アッセイにおけるIGF−1R ECDに対する単一特異性<IGF−1R>VL−VH交換抗体および野生型<IGF−1R>抗体の結合。
【0029】
【図14】図14は一時的にトランスフェクトされたHEK293−F細胞からの細胞培養物上清から精製された<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体ミックスのSDS−PAGE。
【0030】
【図15】図15は精製された抗体ミックス中の機能的二重特異性<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体の存在を検出するI24 IGF−1R発現細胞上の細胞のFACS IGF−1R−ANGPT2架橋アッセイの試料A〜Fについての結果。精製されたタンパク質試料A〜F:A=I24未処理B=I24+2μg/mL hANGPT2+hIgGアイソタイプD=I24+2μg/mL hANGPT2+<IGF−1R>VL−VH交換抗体と、二重特異性<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体を含む<ANGPT2>野生型抗体の同時発現からのミックス。E=I24+2μg/mL hANGPT2+<ANGPT2>野生型抗体F=I24+2μg/mL hANGPT2+<IGF−1R>野生型抗体
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、下記を含んでなる、2価二重特異性抗体に関する:
a)第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖;および
b)第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖
ここで、可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されている。
【0032】
したがって、二重特異性抗体は、下記を含んでなる:
a)第1抗原に特異的に結合する抗体の第1軽鎖および第1重鎖;および
b)第2抗原に特異的に結合する抗体の第2軽鎖および第2重鎖
ここで、第2軽鎖および第2重鎖の可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されている。
【0033】
こうして、第2抗原に特異的に結合する前記抗体について、下記が適用される:
軽鎖内において、
可変性軽鎖ドメインVLは前記抗体の可変性重鎖ドメインVHにより置換されている; そして、重鎖内において、
可変性重鎖ドメインVHは前記抗体の可変性軽鎖ドメインVLにより置換されている。
【0034】
本明細書において使用するとき、用語「抗体」は全モノクローナル抗体を意味する。このような全抗体は「軽鎖」(LC)および「重鎖」(HC)の2対から成る(このような軽鎖(LC)/重鎖(HC)の対は本明細書中でLC/HCと略されている)。このような抗体の軽鎖および重鎖はいくつかのドメインから成るポリペプチドである。全抗体において、各重鎖は重鎖可変性領域(本明細書中でHCVRまたはVHと略す)と、重鎖コンスタント領域とを含んでなる。重鎖コンスタント領域は重鎖コンスタントドメインCH1、CH2およびCH3(抗体クラスIgA、IgDおよびIgG)と、必要に応じて重鎖コンスタントドメインCH4(抗体クラスIgEおよびIgM)とを含んでなる。各軽鎖は軽鎖可変性ドメインVLと、軽鎖コンスタントドメインCLとを含んでなる。1つの天然に存在する全抗体、IgG抗体の構造は、例えば、第1図に示されている。可変性ドメインVHおよびVLは、相補性決定領域(CDR)と命名する、超可変性領域にさらに再分割することができ、フレームワーク領域(FR)と命名する、いっそう保存された領域が介在する。各VHおよびVLは3つのCDRと、4つのFRとから構成され、それらは下記の順序でアミノ末端からカルボキシ末端に向かって配列されている:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4(Janeway CA.Jr.他、(2001)Immunobiology 第5版、Garland Publishing;およびWoof J.、Burton D、Nat.Rev.Immunol.(2004)89−99)。2対の重鎖および軽鎖(HC/LC)は同一抗原に特異的に結合することができる。こうして、前記全抗体は2価単一特異性抗体である。このような「抗体」は、それらの特徴的特性が保持されるかぎり、例えば、マウス抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体および遺伝子操作された抗体(変異型または突然変異抗体)を包含する。ヒトまたはヒト化抗体は、特に組換えヒトまたはヒト化抗体として、特に好ましい。
【0035】
ギリシャ文字、α、δ、ε、γおよびμで表示される5つの型の哺乳動物抗体重鎖が存在する(Janeway C.A.Jr.他、Immunobiology 第5版、Garland Publishing(2001))。存在する重鎖の型は抗体のクラスを定義する;これらの鎖はそれぞれIgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM抗体中に見出される(Rhoades RA、Pflanzer RG(2002)、Human Physiology 第4版、Thomson Learning)。明確な重鎖は大きさと組成が異なる;αおよびγはほぼ450アミノ酸を含有するが、μおよびεはほぼ550アミノ酸を含有する。各重鎖は2つの領域、コンスタント領域および可変性領域を有する。コンスタント領域は同一アイソタイプのすべての抗体において同一であるが、異なるアイソタイプの抗体において異なる。重鎖γ、αおよびδは3つのドメインCH1、CH2およびCH3(直線)から構成されたコンスタント領域、および付加された柔軟性のためのヒンジ領域を有する(Woof J.、Burton D、Nat.Rev.Immunol.4(2004)89−99);重鎖μおよびεは4つのコンスタントドメインCH1、CH2、CH3およびCH4から構成されたコンスタント領域を有する(Janeway C.A.Jr.他、(2001)Immunobiology 第5版、Garland Publishing)。重鎖の可変性領域は異なるB細胞により産生された抗体において異なるが、単一のB細胞にまたはB細胞クローンにより産生されたすべての抗体について同一である。各重鎖の可変性領域はほぼ110アミノ酸長さであり、そして単一の抗体ドメインから構成されている。
【0036】
哺乳動物において、わずかに2つの型の軽鎖、ラムダ(λ)およびカッパ(κ)とよぶ軽鎖が存在する。軽鎖は2つの連続的ドメインを有する:1つのコンスタントドメインCLおよび1つの可変性ドメインVL。軽鎖の概算長さは211〜217アミノ酸である。好ましくは軽鎖はカッパ(κ)軽鎖であり、そしてコンスタントドメインCLは好ましくはカッパ(κ)軽鎖(コンスタントドメインCκ)である。
【0037】
本明細書において使用するとき、用語「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」は、単一アミノ酸組成の抗体分子の調製物を意味する。
【0038】
本発明による「抗体」は任意のクラス(例えば、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM、好ましくはIgGまたはIgE)、またはサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2、好ましくはIgG1)であることができ、ここで本発明による2価二重特異性抗体が由来する両方の抗体は、同一サブクラス(例えば、IgG1、IgG4およびその他、好ましくはIgG1)のFc部分、好ましくは同一アロタイプ(例えば、コーカソイド)のFc部分を有する。
【0039】
「抗体のFc部分」は当業者に十分に知られている用語であり、そして抗体のパパイン切断に基づいて定義される。本発明による抗体はFc部分として、好ましくはヒト起源に由来するFc部分および好ましくはヒトコンスタント領域のすべての他の部分を含有する。抗体のFc部分は補体活性化、C1q結合およびC3活性化およびFcリポーター結合に直接関係する。補体系に対する抗体の影響はある種の条件に依存するが、C1qに対する結合はFc部分中の規定された結合部位により引き起こされる。このような結合部位はこの分野において知られており、そして、例えば、下記の文献に記載されている:Lukas T.J.他、J.Immunolog.127(1981)2555−2560;Brunhouse R.およびCebra J.J.、Mol.Immunol.16(1979)907−917;Burton D.R.、Nature 288(1980)338−344;Thommesen J.E.他、Mol.Immunol.37(2000)995−1004;Idusogie E.E.他、J.Immunolog.164(2000)4178−4184;Hezareh M.他、J.Virol.75(2001)12161−12168;Morgan A.他、Immunobiology 86(1995)319−324;およびEP0307434。このような結合部位は、例えば、L234、L235、D270、N297、E318、K320、K322、P331およびP329(カバットのEUインデックスに従うナンバリング、下を参照)である。サブクラスIgG1、IgG2およびIgG3の抗体は通常補体活性化、C1q結合およびC3活性化を示すが、IgG4は補体系を活性化せず、C1qに結合せず、そしてC3を活性化しない。好ましくは、Fc部分はヒトFc部分である。
【0040】
用語「キメラ抗体」は、可変性領域、すなわち、1つの源または種からの結合領域と、異なる源または種に由来するコンスタント領域の少なくとも一部分とを含んでなる抗体を意味し、通常組換えDNA技術により生産される。ネズミ可変性領域と、ヒトコンスタント領域とを含んでなるキメラ抗体は好ましい。本発明に包含される「キメラ抗体」の他の好ましい形態は、本発明に従う特性、特にC1q結合および/またはFcレセプター(FcR)結合に関する特性を発生するように、コンスタント領域が本来の抗体のそれから修飾または変化されている形態である。また、このようなキメラ抗体は「クラススイッチド抗体」と呼ぶ。キメラ抗体は、免疫グロブリン可変性領域をコードするDNAセグメントと、免疫グロブリンコンスタント領域をコードするDNAセグメントとを含んでなる、発現された免疫グロブリン遺伝子の産物である。キメラ抗体を生産する方法は慣用の組換えDNA技術および遺伝子トランスフェクション技術を包含し、この分野においてよく知られている。例えば、下記の文献を参照のこと:Morrison S.L.他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81(1984)6851−6855;米国特許第5,202,238号および米国特許第5,204,244号。
【0041】
用語「ヒト化抗体」は、フレームワークまたは「相補性決定領域」(CDR)が親免疫グロブリンのCDRに比較して特異性が異なる免疫グロブリンのCDRを含んでなるように修飾されている抗体を意味する。好ましい態様において、ネズミCDRをヒト抗体のフレームワーク領域中にグラフト化して「ヒト抗体」を生産する。例えば、下記の文献を参照のこと:Riechmann L.他、Nature 332(1988)323−327;およびNeuberger M.S.他、Nature 314(1985)268−270。特に好ましいCDRは、キメラ抗体について前述した抗原を認識する配列を表すものに対応する。本発明に包含される「ヒト化抗体」の他の形態は、本発明に従う特性、特にC1q結合および/またはFcレセプター(FcR)結合に関する特性を発生するように、コンスタント領域が本来の抗体のそれからさらに修飾または変化されている形態である。
【0042】
用語「ヒト抗体」は、本明細書において使用するとき、ヒト生殖細胞系統免疫グロブリン配列に由来する可変性領域およびコンスタント領域を有する抗体を包含することを意図する。ヒト抗体はこの分野においてよく知られている(van Dijk M.A.およびvan de Winkel J.G.、Curr.Opin.Cell Biol.5(2001)368−374)。また、ヒト抗体はトランスジーン動物(例えば、マウス)において産生することができ、これらの動物は、免疫化したとき、内因的免疫グロブリン産生の非存在下にヒト抗体の完全なレパートリーまたは選択物を産生することができる。このような生殖細胞系統の突然変異マウスにおけるヒト生殖細胞系統免疫グロブリン遺伝子アレイの転移は、抗原チャレンジのときヒト抗体を産生するであろう(例えば、下記の文献を参照のこと:Jakobovits A.他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90(1993)2551−2555;Jakobovits A.他、Nature 362(1993)255−258;Brueggemann M.他、Year Immunol.7(1993)33−40)。また、ヒト抗体はファージ展示ライブラリー中で生産できる(Hoogenboom H.R.およびWinter G.J.、J.Mol.Biol.277(1992)381−388;Marks J.D.他、J.Mol.Biol.222(1991)581−597)。また、Cole S.P.C.他およびBoerner 他の技術はヒトモノクローナル抗体の生産に利用可能である(Cole S.P.C.他、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、Alan R.Liss,Inc.、New York(1986)、pp.77−96;およびBoerner P.他、J.Immunolog.147(1991)86−95)。本発明によるキメラ抗体およびヒト化抗体について既に言及したように、本明細書において使用するとき、用語「ヒト抗体」は、特にC1q結合および/またはFc結合に関する、本発明に従う特性を発生するように、コンスタント領域が、例えば、「クラススイッチング」、すなわち、Fc部分の変化または突然変異により、修飾されている(例えば、IgG1からIgG4へおよび/またはIgG1/IgG4突然変異)このような抗体をまた含んでなる。
【0043】
本明細書において使用するとき、用語「組換えヒト抗体」は組換え手段により生産され、発現され、つくられまたは単離されたすべてのヒト抗体、例えば、宿主細胞、例えば、NS0またはCHO細胞から単離された抗体、またはヒト免疫グロブリン遺伝子に対してトランスジェニックである動物(例えば、マウス)から単離された抗体、または宿主細胞中にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを使用して発現された抗体を包含することを意図する。このような組換えヒト抗体は再配列された形態で可変性領域およびコンスタント領域を有する。本発明による組換えヒト抗体はin vivo体細胞高突然変異に付されている。こうして、組換え抗体のVHおよびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系統VHおよびVL配列に由来しかつそれに関係するが、in vivoヒト抗体生殖細胞系統レパートリー内に天然に存在しないことがある配列である。
【0044】
本明細書において使用するとき、用語「可変性ドメイン」(軽鎖の可変性ドメイン(VL)、重鎖の可変性ドメイン(VH))は、抗原に対する抗体の結合に直接関係する軽鎖および重鎖の対の各々を意味する。可変性ヒト軽鎖および重鎖のドメインは同一の一般構造を有し、そして各ドメインは4つのフレームワーク領域(FR)を含んでなり、それらの配列は広く保存されており、3つの「高可変性領域」(または相補性決定領域、CDR)により接続されている。フレームワーク領域はβ−シートコンフォメーションを採用し、そしてCDRはβ−シート構造を接続するループを形成することができる。各鎖中のCDRはフレームワーク領域によりそれらの三次元構造で保持されており、他の鎖からのCDRと一緒に抗原結合部位を形成する。抗体の重鎖および軽鎖CDR3領域は本発明による抗体の結合特異性/アフィニティーにおいて特に重要な役割を演じ、したがって本発明のそれ以上の目的を提供する。
【0045】
本明細書において使用するとき、用語「高可変性領域」または「抗体の抗原結合部分」は抗原結合のために要求される抗体のアミノ酸残基を意味する。高可変性領域は、「相補性決定領域」または「CDR」からのアミノ酸残基を含んでなる。「フレームワーク領域」または「FR」は、本明細書中で定義する高可変性領域残基以外の可変性ドメイン領域である。したがって、抗体の軽鎖および重鎖はN末端からC末端に向かってドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3およびFR4を含んでなる。各鎖上のCDRはこのようなフレームワークアミノ酸により分離されている。ことに、重鎖のCDR3は抗原結合に最も寄与する領域である。CDRおよびFR領域は下記の文献の標準定義に従い決定される:Kabat他、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service、National Institute of Health、Bethesda、MD(1991)。
【0046】
重鎖および軽鎖の「コンスタント領域」は抗原に対する抗体の結合に直接関係しないが、種々のエフェクター機能を示す。それらの重鎖のコンスタント領域のアミノ酸配列に依存して、抗体または免疫グロブリンはクラスに分割される:
【0047】
本明細書において使用するとき、用語「2価二重特異性抗体」は重鎖および軽鎖(HC/LC)の2対の各々が異なる抗原に特異的に結合し、すなわち、第1重鎖および第1軽鎖(第1抗原に対する抗体に由来する)が第1抗原に特異的に一緒に結合し、そして第2重鎖および第2軽鎖(第2抗原に対する抗体に由来する)が第2抗原に特異的に一緒に結合する前述の抗体を意味する(第2図に描写する);このような2価二重特異性抗体は2つの異なる抗原に同時に特異的に結合することができるが、3以上の抗原に結合することができず、反対に、一方において、単一特異性抗体は1つの抗原にのみ結合することができ、そして他方において、例えば、4価四重特異性抗体は4つの抗原に同時に結合できる。
【0048】
本発明によれば、望ましくない副産物と比較した所望の2価二重特異性抗体の比は、ただ1対の重鎖および軽鎖(HC/LC)中のある種のドメインの置換により改良できる。2HC/LC対の第1は第1抗原に特異的に結合する抗体に由来し、そして本質的に未変化のまま残るが、2HC/LC対の第2は第2抗原に特異的に結合する抗体に由来し、下記の置換により変更される:
−軽鎖:第2抗原に特異的に結合する前記抗体の可変性重鎖ドメインVHによる可変性軽鎖ドメインVLの置換、および
−重鎖:第2抗原に特異的に結合する前記抗体の可変性軽鎖ドメインVLによる可変性重鎖ドメインVHの置換。
【0049】
こうして、生ずる2価二重特異性抗体は下記を含んでなる人工的抗体である:
a)第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖;および
b)第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖、
ここで、前記軽鎖(第2抗原に特異的に結合する抗体の)はVLの代わりに可変性ドメインVHを含有し、そして
ここで前記重鎖(第2抗原に特異的に結合する抗体の)はVHの代わりに可変性ドメインVLを含有する。
【0050】
本発明の追加の面において、望ましくない副産物と比較した所望の2価二重特異性抗体のこのような改良された比は、下記の2つの代替法の1つによりさらに改良することができる:
【0051】
A)第1代替法(図3参照):
本発明による前記2価二重特異性抗体のCH3ドメインは、いくつかの例を使用して、例えば、下記の文献において、詳細に記載されている「ノブ−インツ−ホール」により変更することができる:WO96/027011、Ridgway J.B.、Protein Eng.9(1996)617−621;およびMerchant A.M.他、Nat.Biotechnol.16(1998)677−681。この方法において、2つのCH3の相互作用表面を変更して、これらの2つのCH3ドメインを含有する両方の重鎖のヘテロダイマー化を増加させる。2つのCH3ドメイン(2つの重鎖の)の各々は「ノブ」であることができるが、他は「ホール」である。ジサルファイド架橋の導入はヘテロダイマーを安定化し(Merchant A.M.他、Nature Biotech.16(1998)677−681;Atwell S,Ridgway JB,,Wells JA,Carter P.、J.Mol.Biol.270(1997)26−35)、そして収量を増加させる。
【0052】
したがって、好ましい態様において、第1CH3ドメインおよび第2CH3ドメインの各々が抗体のCH3ドメイン間の本来のインターフェイスを含んでなるインターフェイスおいて出会う、2価二重特異性抗体のCH3ドメインを、CH3ドメインにおけるジサルファイド架橋の導入によるそれ以上の安定化を含む「ノブ−インツ−ホール」技術(下記の文献に記載されている:WO96/027011、Ridgway J.B.、Protein Eng.9(1996)617−621;Merchant A.M.他、Nature Biotech.16(1998)677−681; およびAtwell S,Ridgway JB,,Wells JA,Carter P.、J.Mol.Biol.270(1997)26−35)により変更して、2価二重特異性抗体の形成を促進する。
【0053】
こうして、本発明の1つの面において、前記2価二重特異性抗体は下記により特徴づけられる:
一方の重鎖のCH3ドメインおよび他方の重鎖のCH3ドメインの各々は、抗体のC3ドメイン間の本来のインターフェイスを含んでなるインターフェイスにおいて出会う;
ここで前記インターフェイスは2価二重特異性抗体の形成を促進するように変更され、ここで変更は下記により特徴づけられる:
a)2価二重特異性抗体内の他方の重鎖のCH3ドメインの本来のインターフェイスと出会う一方の重鎖のCH3ドメインの本来のインターフェイス内において、
アミノ酸残基はより大きい側鎖体積を有するアミノ酸残基と置換されており、これにより他方の重鎖のCH3ドメインのインターフェイス内のキャビティイ中に位置可能な突起を一方の重鎖のCH3ドメインのインターフェイス内に発生させるように、
一方の重鎖のCH3ドメインは変更されており、そして
b)2価二重特異性抗体内の第1のCH3ドメインの本来のインターフェイスと出会う第2のCH3ドメインの本来のインターフェイス内において、
アミノ酸残基はより小さい側鎖体積を有するアミノ酸残基と置換されており、これにより第1のCH3ドメインのインターフェイス内の突起が位置可能であるキャビティイを第2のCH3ドメインのインターフェイス内に発生させるように、
他方の重鎖のCH3ドメインは変更されている。
【0054】
好ましくは、より大きい側鎖体積を有するアミノ酸残基はアルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)およびトリプトファン(W)から成る群から選択される。
【0055】
好ましくは、より小さい側鎖体積を有するアミノ酸残基はアラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T)およびバリン(V)から成る群から選択される。
【0056】
本発明の1つの面において、両方のCH3ドメイン間のジサルファイド架橋を形成できるように、各CH3ドメインの対応する位置にアミノ酸としてシステイン(C)を導入することによって、両方のCH3ドメインはさらに変更される。
【0057】
本発明の他の好ましい態様において、下記の文献に記載されているように、ノブ残基に残基R409D;K370E(K409D)を使用し、ホール残基に残基D399K;E357Kを使用して、両方のCH3ドメインを変更する:EP1870459A1。
【0058】
または
B)第2代替法(第4図参照):
一方のコンスタント重鎖ドメインCH3をコンスタント重鎖ドメインCH1で置換し、そして他方のコンスタント重鎖ドメインCH3をコンスタント軽鎖ドメインCLで置換する。
【0059】
重鎖ドメインCH3を置換するコンスタント重鎖ドメインCH1は、任意のIgクラス (例えば、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM)またはサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)であることができる。
【0060】
重鎖ドメインCH3を置換するコンスタント軽鎖ドメインCLは、ラムダ(λ)またはカッパ(κ)型、好ましくはカッパ(κ)型であることができる。
【0061】
こうして、本発明の1つの好ましい態様は、下記を含んでなる2価二重特異性抗体である:
a)第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖、および
b)第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖、
ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されており、そしてコンスタントドメインはCLおよびCH1は互いにより置換されている、
そして、ここで必要に応じて、
【0062】
c)一方の重鎖のCH3ドメインおよび他方の重鎖のCH3ドメインの各々は、抗体のCH3ドメイン間の本来のインターフェイスを含んでなるインターフェイスにおいて出会い、
ここで前記インターフェイスは2価二重特異性抗体の形成を促進するように変更されており、ここで前記変更は下記を特徴とする:
ca)2価二重特異性抗体内の他方の重鎖のCH3ドメインの本来のインターフェイスと出会う一方の重鎖のCH3ドメインの本来のインターフェイス内において、
アミノ酸残基はより大きい側鎖体積を有するアミノ酸残基と置換されており、これにより他方の重鎖のCH3ドメインのインターフェイス内のキャビティイ中に位置可能な突起を一方の重鎖のCH3ドメインのインターフェイス内に発生させるように、
一方の重鎖のCH3ドメインは変更されており、そして
cb)2価二重特異性抗体内の第1のCH3ドメインの本来のインターフェイスと出会う第2のCH3ドメインの本来のインターフェイス内において、
アミノ酸残基はより小さい側鎖体積を有するアミノ酸残基と置換されており、これにより第1のCH3ドメインのインターフェイス内の突起が位置可能であるキャビティイを第2のCH3ドメインのインターフェイス内に発生させるように、
他方の重鎖のCH3ドメインは変更されているか、あるいは
d)一方のコンスタント重鎖ドメインCH3はコンスタント重鎖ドメインCH1により置換されており、そして他方のコンスタント重鎖ドメインCH3はコンスタント軽鎖ドメインCLにより置換されている。
【0063】
本明細書において使用するとき、用語「抗原」または「抗原分子」は、抗体が特異的に結合できるすべての分子を意味する。2価二重特異性抗体は第1抗原および第2の独特な抗原に特異的に結合する。本明細書において使用するとき、用語「抗原」は、例えば、タンパク質、タンパク質上の異なるエピトープ(本発明の意味内の異なる抗原として)および多糖類を包含する。これは主として細菌、ウイルスおよび他の微生物の部分(外皮、嚢、細胞壁、絨毛、房およびトキシン)を包含する。脂質および核酸は、タンパク質および多糖類と結合したときにのみ、抗原性である。非微生物の外因性(非自己)抗原は、花粉、卵白、および移植された組織および器官からのタンパク質または輸注された血球表面上のタンパク質を包含できる。好ましくは、抗原はサイトカイン、細胞表面のタンパク質、酵素およびレセプターのサイトカイン、細胞表面のタンパク質、酵素およびレセプターから成る群から選択される。
【0064】
腫瘍抗原は腫瘍細胞表面上のMHCIまたはMHCII分子により提供される抗原である。これらの抗原は時々腫瘍細胞により提供されるが、正常細胞により決して提供されない。この場合において、それらは腫瘍特異的抗原(TSA)と呼ばれ、典型的には腫瘍特異的突然変異から生ずる。腫瘍細胞および正常細胞により提供される抗原はより普通であり、そしてそれらは腫瘍関連抗原(TAA)と呼ばれる。これらの抗原を認識する細胞障害性Tリンパ球は腫瘍細胞を破壊した後、増殖または転移することができる。また、腫瘍抗原は腫瘍表面上に、例えば、突然変異したレセプターの形態で存在することができ、この場合において、それらはB細胞により認識されるであろう。
【0065】
1つの好ましい態様において、2価二重特異性抗体が特異的に結合する2つの異なる抗原(第1および第2の抗原)の少なくとも1つは腫瘍抗原である。
【0066】
他の好ましい態様において、2価二重特異性抗体が特異的に結合する2つの異なる抗原(第1および第2の抗原)の両方は腫瘍抗原である;この場合において、第1および第2の抗原は同一腫瘍特異的タンパク質における2つの異なるエピトープであることもできる。
【0067】
他の好ましい態様において、2価二重特異性抗体が特異的に結合する2つの異なる抗原(第1および第2の抗原)の一方は腫瘍抗原であり、そして他方はエフェクター細胞抗原、例えば、T細胞レセプター、CD3、CD16およびその他である。
【0068】
他の好ましい態様において、2価二重特異性抗体が特異的に結合する2つの異なる抗原(第1および第2の抗原)の一方は腫瘍抗原であり、そして他方は抗癌物質、例えば、トキシンまたはキナーゼインヒビターである。
【0069】
本明細書において使用するとき、用語「特異的に結合する」または「に特異的に結合する」は抗原に特異的に結合する抗体を言及する。好ましくは、この抗原に特異的に結合する抗体の結合アフィニティーは10-9モル/lまたはそれより小(例えば、10-10モル/l)のKD値、好ましくは10-10モル/lまたはそれより小(例えば、10-12モル/l)のKD値を有する。結合アフィニティーは、標準結合アッセイ、例えば、表面プラズモン共鳴技術(Biacore(登録商標))により決定される。
【0070】
用語「エピトープ」は、抗体に特異的に結合することができる、任意のポリペプチド決定因子を包含する。ある種の態様において、エピトープ決定因子は分子の化学的に活性な表面グループ、例えば、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリルおよびスルホニルを包含し、そして、ある種の態様において、特別の三次元構造的特性および/または特別の電荷特性を有することがある。エピトープは抗体により結合された抗原の領域である。ある種の態様において、抗体がタンパク質および/または高分子の複雑な混合物中のそのターゲット抗原を優先的に認識するとき、抗体は抗原に特異的に結合すると言われる。
【0071】
本発明のそれ以上の態様は、下記の工程を含んでなる本発明による2価二重特異性抗体を生産する方法である:
a)下記で宿主細胞を形質転換し、
−第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、および
−2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、
ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されており、そして
コンスタントドメインCLおよびCH1は互いにより置換されており、
b)前記抗体分子の合成を可能とする条件下に宿主細胞を培養し、
c)前記培養物から前記抗体分子を回収する。
【0072】
一般に、第1抗原に特異的に結合する前記抗体の軽鎖および重鎖をコードする2つのベクターが存在し、そしてさらに第2抗原に特異的に結合する前記抗体の軽鎖および重鎖をコードする2つのベクターが存在する。2つのベクターの一方はそれぞれの軽鎖をコードし、そして2つのベクターの他方はそれぞれの重鎖をコードする。しかしながら、本発明による2価二重特異性抗体を生産する別の方法において、第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードするただ1つの第1ベクター、および第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードするただ1つの第2ベクターを宿主細胞の形質転換に使用できる。
【0073】
本発明は、例えば、下記を発現させることによって、前記抗体分子の合成を可能とする条件下に対応する宿主細胞を培養し、そして前記培養物から前記抗体を回収することを含んでなる抗体を生産する方法を包含する:
−第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖をコードする第1核酸配列;
−第1抗原に特異的に結合する抗体の重鎖をコードする第2核酸配列;
−第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖をコードする第3核酸配列、ここで可変性軽鎖ドメインVLは可変性重鎖ドメインVHにより置換されている;そして
−第2抗原に特異的に結合する抗体の重鎖をコードする第4核酸配列、ここで可変性重鎖ドメインVHは可変性軽鎖ドメインVLにより置換されている。
【0074】
本発明のそれ以上の態様は、下記を含んでなる宿主細胞である:
−第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、および
−第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、
ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されており、そして
コンスタントドメインCLおよびCH1は互いにより置換されている。
【0075】
本発明のそれ以上の態様は、下記を含んでなる宿主細胞である:
a)第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖をコードする核酸部分を含んでなるベクター、および前記抗体の重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、
b)第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖をコードする核酸部分を含んでなるベクター、および前記抗体の重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、
ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されている。
【0076】
本発明のそれ以上の態様は、本発明による2価二重特異性抗体の組成物、好ましくは医薬組成物または診断組成物である。
【0077】
本発明のそれ以上の態様は、本発明による2価二重特異性抗体と、少なくとも1種の薬学上許容される賦形剤とを含んでなる医薬組成物である。
【0078】
本発明のそれ以上の態様は、治療的有効量の本発明による2価二重特異性抗体を患者に投与することを特徴とする、治療を必要する患者を治療する方法である。
【0079】
本明細書において使用するとき、用語「核酸または核酸分子」は、DNA分子およびRNA分子を包含することを意図する。核酸分子は一本鎖または二本鎖であることができるが、好ましくは二本鎖DNAである。
【0080】
本明細書において使用するとき、表現「細胞」、「細胞系統」および「培養物」は互換的に使用し、そしてすべてのこのような指示は子孫を包含する。こうして、単語「形質転換体」および「形質転換された細胞」は一次的主題細胞および転移数に無関係にそれらに由来する培養物を包含する。また、すべての子孫は、計画的または不注意の突然変異のために、DNA含量が正確に同一ではないことがあることが理解される。本来形質転換された細胞についてスクリーニングしたとき、同一の機能または生物学的活性を有する変異型子孫が包含される。明確な指示を意図する場合、それは前後関係から明らかとなるであろう。
【0081】
本明細書において使用するとき、用語「形質転換」は、ベクター/核酸が宿主細胞に転移するプロセスを意味する。難しい細胞壁バリヤーをもたない細胞を宿主細胞として使用する場合、トランスフェクションは、例えば、下記の文献に記載されているリン酸カルシウム沈殿法により実施される:Graham F.J.およびVan der Eb A.J.、Virology 52(1978)546ff。しかしながら、DNAを細胞中に導入する他の方法、例えば、核注入またはプロトプラスト融合を使用することもできる。原核細胞または実質的な細胞壁構築物を含有する細胞を使用する場合、例えば、1つのトランスフェクション法は下記の文献に記載されている塩化カルシウムを使用するカルシウム処理である:Cohen F.N.他、PNAS 69(1972)7110ff。
【0082】
形質転換を使用する抗体の組換え生産はこの分野においてよく知られており、そして、例えば、下記の文献に記載されている:概観論文、Makrides S.C.、Protein Expr.Purif.17(1999)183−202;Geisse S.他、Protein Expr.Purif.8(1996)271−282;Kaufman R.J.、Mol.Biotechnol.16(2000)151−160;Werner R.G.他、Arzneimittelforschung 48(1998)870−880ならびに米国特許第6,331,415号および米国特許第4,816,567号。
【0083】
本明細書において使用するとき、用語「発現」は核酸をmRNAに転写するプロセスおよび/または転写されたmRNA(また転写体と呼ぶ)を引き続いてペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質に翻訳するプロセスを意味する。転写体およびコード化ポリペプチドを集合的に遺伝子産物と呼ぶ。ポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来する場合、真核細胞における発現はmRNAのスプライシングを包含する。
【0084】
「ベクター」は核酸分子、特に自己スプライシング核酸分子であり、挿入された核酸分子を宿主細胞の中におよび/または間に転移する。この用語は主としてDNAまたはRNAの細胞中への挿入(例えば、染色体の組込み)のために機能するベクター、DNAまたはRNAの複製に主として機能する複製ベクター、およびDNAまたはRNAの転写および/または翻訳に機能する発現ベクターを包含する。また、記載した機能の2以上を提供するベクターが包含される。
【0085】
「発現ベクター」は、適当な宿主細胞中に導入されたとき、ポリペプチドに転写および翻訳されることができるポリヌクレオチドである。「発現系」は、所望の発現産物を生ずるように機能することができる発現ベクターから構成された、適当な宿主細胞を意味する。
【0086】
本発明による2価二重特異性抗体は、好ましくは組換え手段により生産される。このような方法はこの分野においてよく知られており、そして原核細胞および真核細胞中でタンパク質を発現させ、次いで抗体のポリペプチドを単離し、通常薬学上許容される純度に精製することを含んでなる。タンパク質を発現させるために、軽鎖および重鎖をコードする核酸またはそのフラグメントを標準法により発現ベクター中に挿入する。発現は適当な原核または真核宿主細胞、例えば、CHO細胞、N50細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞、COS細胞、PER.C6細胞、酵母菌または大腸菌(E.coli)細胞中で実施し、そして抗体を細胞(上清または溶菌後の細胞)から回収する。2価二重特異性抗体は全細胞中に、細胞ライゼイト中に、または部分的に精製したまたは実質的に純粋な形態で存在することができる。標準技術、例えば、アルカリ性/SDS処理、カラムクロマトグラフィーおよび他のこの分野においてよく知られている技術により、精製を実施して、他の細胞成分または他の汚染物質、例えば、他の細胞の核酸またはタンパク質を排除する。下記の文献を参照のこと:Ausubel F.他(編者)Current Protocols in Molecular Biology、Greene Publishing and Wiley Interscience、New York(1987)。
【0087】
NS0細胞中の発現は、例えば、下記の文献に記載されている:Barnes L.M.他、Cytotechnology 32(2000)109−123;およびBarnes L.M.他、Biotech.Bioeng.73(2001)261−270。一時的発現は、例えば、下記の文献に記載されている:Durocher Y.他、Nucl.Acids Res.30(2002)E9。可変性ドメインのクローニングは下記の文献に記載されている:Orlandi R.他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86(1989)3833−3837;Carter P.他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89(1992)4285−4289;およびNorderhaug L.他、J.Immunol.Methods 204(1997)77−78。好ましい一時的発現系(HEK293)は下記の文献に記載されている:Schlaeger E.−J.およびChristensen K.、Cytotechnology 30(2999)71−83およびSchlaeger E.−J.、J.Immunol.Methods 194(1996)191−199。
【0088】
例えば、原核生物のために適当な制御配列は、プロモーター、必要に応じてオペレーター配列およびリボソーム結合部位を包含する。真核細胞はプロモーター、エンハンサーおよびポリアデニル化シグナルを利用することが知られている。
【0089】
核酸は他の核酸配列と機能的関係に配置されたとき、「作用可能に連鎖」される。例えば、プレ配列または分泌リーダーのためのDNAはポリペプチドの分泌に参加するプレタンパク質として発現される場合、ポリペプチドのためのDNAに作用可能に連鎖される;プロモーターまたはエンハンサーは配列の転写に影響を与える場合、コーディング配列に作用可能に連鎖される;またはリボソーム結合部位は翻訳を促進するように位置決定される場合、コーディング配列に作用可能に連鎖される。一般に、「作用可能に連鎖される」は、連鎖されているDNA配列が隣接していること、そして、分泌リーダーの場合において、隣接しかつリーデイングフレーム中にあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは隣接する必要がない。連鎖は好都合な制限部位における結合により達成される。このような部位が存在しない場合、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーを慣例に従い使用する。
【0090】
2価二重特異性抗体は、慣用の免疫グロブリン精製手順、例えば、プロテインA−セファローズ、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析またはアフィニティークロマトグラフィーにより、培地から適当に分離される。モノクローナル抗体をコードするDNAおよびRNAは、慣用手順を使用して容易に単離され、配列決定される。ハイブリドーマ細胞は、このようなDNAおよびRNA源として働くことができる。いったん単離されると、DNAを発現ベクター中に挿入し、次いでこれを宿主細胞、例えばHEK293細胞、CHO細胞、またはそうでなければ免疫グロブリンタンパク質を産生する骨髄腫細胞中にトランスフェクトして、宿主細胞中で組換えモノクローナル抗体を合成する。
【0091】
2価二重特異性抗体のアミノ酸配列変異型(または突然変異体)は、適当なヌクレオチド変化を抗体DNA中に導入するか、あるいはヌクレオチド合成により生産される。しかしながら、このような修飾は、例えば、上に記載したように、非常に制限された範囲においてのみ実行できる。例えば、修飾は前述の抗体の特性、例えば、IgGアイソタイプおよび抗原結合性を変更しないが、組換え産生の収量、タンパク質安定性を改良するか、あるいは精製を促進することができる。
【0092】
本発明の理解を促進するために、下記の実施例、配列リストおよび図面を提供する。本発明の真の範囲は添付された特許請求の範囲に記載されている。本発明の趣旨から逸脱しないで、記載した手順の変更が可能であることが理解される。
【0093】
配列表
配列番号1 野生型<IGF−1R>抗体重鎖のアミノ酸配列
配列番号2 野生型<IGF−1R>抗体軽鎖のアミノ酸配列
配列番号3 <IGF−1R>VL−VH交換抗体の重鎖***(HC***)のアミノ酸配列、ここで重鎖ドメインVHは軽鎖ドメインVL−改変体Aにより置換されている。
配列番号4 <IGF−1R>VL−VH交換抗体の軽鎖***(LC***)のアミノ酸配列、ここで軽鎖ドメインVLは重鎖ドメインVH−改変体Aにより置換されている。
配列番号5 IGF−1RエクトドメインHis−ストレプトアビジン結合性ペプチド−タグ(IGF−1R−His−SBP ECD)のアミノ酸配列
配列番号6 野生型アンギオポイエチン−2<ANGPT2>抗体重鎖のアミノ酸配列
配列番号7 野生型アンギオポイエチン−2<ANGPT2>抗体軽鎖のアミノ酸配列
配列番号8 ノブ−インツ−ホール技術において使用するT366W交換をもつCH3ドメイン(ノブ)のアミノ酸配列
配列番号9 ノブ−インツ−ホール技術において使用するT366S、L368A、Y407V交換をもつCH3ドメイン(ホール)のアミノ酸配列
配列番号10 <IGF−1R>VL−VH交換抗体の重鎖***(HC***)のアミノ酸配列、ここで重鎖ドメインVHは軽鎖ドメインVL−改変体Bにより置換されている。
配列番号11 <IGF−1R>VL−VH交換抗体の軽鎖***(LC***)のアミノ酸配列、ここで軽鎖ドメインVLは重鎖ドメインVH−改変体Bにより置換されている。
配列番号12 IGF−1RエクトドメインHis−ストレプトアビジン結合性ペプチド−タグ(IGF−1R−His−SBP ECD)のアミノ酸配列
【実施例】
【0094】
材料および一般的方法
ヒト免疫グロブリン軽鎖および重鎖のヌクレオチド配列に関する一般情報は下記の文献に記載されている:Kabat E.A.他、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD(1991)。EUナンバリングに従い、抗体鎖のアミノ酸をナンバリングし、言及する (Edelman G.M.他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 63(1969)78−85;Kabat E.A.他、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD(1991))。
【0095】
組換えDNA技術
下記の文献に記載されているように、標準法を使用してDNA操作した:Sambrook J.他、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York、1989。微生物学的試薬は製造業者の使用説明書に従い使用した。
【0096】
遺伝子合成
化学合成により作ったオリゴヌクレオチドから、所望の遺伝子セグメントを生産した。単一の制限エンドヌクレアーゼ切断部位がフランクする、600〜1800bp長さの遺伝子セグメントを、PCR増幅を包含するオリゴヌクレオチドのアニーリングおよび連結により集合させ、引き続いて示した制限部位、例えば、KpnI/SacIまたはAscI/PacIを経由してpPCRscript(Stratagene)に基づくpGA4クローニングベクター中にクローニングした。DNA配列決定により、サブクローニングした遺伝子フラグメントのDNA配列を確認した。ジェネアート(Geneart)(ドイツ、レーゲンスブルク)において所定の明細事項に従い、遺伝子合成フラグメントを配列した。
【0097】
DNA配列の決定
メディジェノミックス社(MediGenomix GmbH、ドイツ、マルチンスリート)またはセクイサーブ社(Sequiserve GmbH、ドイツ、ファーターシュテッテン)において実施した二本鎖配列決定により、DNA配列を決定した。
【0098】
DNAおよびタンパク質配列の分析および配列データの管理
配列の創造、遺伝地図作製、分析、注解および図解のために、GCG(Genetics Computer Group、ウィスコンシン、マディソン)ソフトウェアパッケージバージョン10.2およびインフォマックス・ベクターNT1アドバンス・スイートバージョン8.0を使用した。
【0099】
発現ベクター
一時的発現のための発現プラスミドの記載した抗体変異型を発現させるために(例えば、HEK293 EBNAまたはHEK293−F中で)、CMV−イントロンAプロモーターを使用するcDNA構成またはCMVプロモーターを使用するゲノム構成に基づく細胞を適用した。
【0100】
抗体発現カセットのほかに、ベクターは下記を含有した:
−大腸菌(E.coli)中でこのプラスミドの複製を可能とする複製起点、および
−大腸菌(E.coli)においてアンピシリン耐性を付与するβ−ラクタマーゼ遺伝子。
【0101】
抗体遺伝子の転写単位は下記の要素から構成されている:
−5’末端における1または2以上のユニーク制限部位、
−ヒトサイトメガロウイルスからの前初期エンハンサーおよびプロモーター、
−引き続いてcDNA構成の場合においてイントロンA配列、
−ヒト抗体遺伝子の5’非翻訳領域、
−免疫グロブリン重鎖シグナル配列、
−免疫グロブリンエキソン−イントロン構成を伴うcDNAまたはゲノム構成としてヒト抗体鎖(野生型またはドメイン交換を伴う)、
−ポリアデニル化シグナル配列をもつ3’非翻訳領域、および
−3’末端における1または2以上のユニーク制限部位。
【0102】
記載した抗体鎖を含んでなる融合遺伝子を後述するようにPCRおよび/または遺伝子合成により発生させ、既知の組換えの方法および技術に従い、例えば、それぞれのベクター中のユニーク制限部位を使用して、一致した核酸配列の接続により組み合わせた。サブクローニングした核酸配列をDNA配列決定により確認した。一時的トランスフェクションのために、形質転換した大腸菌(E.coli)培養物(Nucleobond AX、Macherey−Nagel)からプラスミド生産により、より多い量のプラスミドを生産した。
【0103】
細胞培養技術
標準細胞培養技術を下記の文献に記載されているように使用した:Current Protocols in Cell Biology(2000)、Bonifacino J.S.、Dasso M.、Harford J.B.、Lippincott−Schwartz J.およびYamada K.M.(編者)、John Wiley & Sons,Inc.。
【0104】
後述するように粘着成長するHEK293 EBNA中でまたは懸濁液中で成長するHEK293−F細胞中でそれぞれの発現プラスミドを一時的に共トランスフェクションすることによって、二重特異性抗体を発現させた。
【0105】
HEK293 EBNA系における一時的トランスフェクション
10%のウルトラ・ロウ(Ultra Low)IgG FCS(胎仔ウシ血清、Gibco)、2mMのL−グルタミン(Gibco)および250μg/mlのジェネチシン(Gibco)を補充したDMEM(ダルベッコ変性イーグル培地、Gibco)中で培養した、粘着成長するHEK293 EBNA細胞(エプスタイン−バール−ウイルス核抗原を発現するヒト胚腎細胞系統293;American Type Culture Collection受託番号ATCC#CRL−10852、ロット959 218)中で、それぞれの発現プラスミド(例えば、重鎖および修飾した重鎖、ならびに対応する軽鎖および修飾した軽鎖をコードする)を一時的共トランスフェクションすることによって、二重特異性抗体を発現させた。トランスフェクションのために、FuGENETM 6トランスフェクション試薬(Roche Molecular Biochemicals)を4:1(3:1から6:1)のFuGENETM試薬(μl)対DNA(μg)の比で使用した。それぞれ1:2から2:1までの範囲の1:1(等モル)の(修飾したおよび野生型)軽鎖および重鎖エンコーディングプラスミドのモル比を使用して、タンパク質をそれぞれのプラスミドから発現させた。第3日に、細胞に4mMまでのL−グルタミン、グルコース(Sigma)およびNAA(Gibco)を供給した。トランスフェクション後第5日〜第11日に二重特異性抗体を含有する細胞培養物上清を遠心により収集し、−20℃において貯蔵した。例えば、HEK293細胞中のヒト免疫グロブリンの組換え発現に関する一般情報は下記の文献に記載されている:Meissner P.他、Biotechnol.Bioeng.75(2001)197−203。
【0106】
HEK293−F系における一時的トランスフェクション
HEK293−F系(Invitrogen)を製造業者の使用説明書に従い使用して、それぞれのプラスミド(例えば、重鎖および修飾した重鎖、ならびに対応する軽鎖および修飾した軽鎖をコードする)を一時的トランスフェクションすることによって、二重特異性抗体を発生させた。簡単に述べると、震蘯フラスコまたは攪拌した発酵槽を使用して無血清フリースタイル(FreeStyle 293)発現媒質(Invitrogen)中の懸濁液中で成長するHEK293−F細胞(Invitrogen)を、4つの発現プラスミドおよび293フェクチンまたはフェクチン(Invitrogen)の混合物でトランスフェクトした。2リットルの震蘯フラスコ(Corning)について、1.0 E* 6細胞/mlの密度の600mlのHEK293−F細胞を接種し、8%CO2中で120rpmにおいてインキュベートした。次の日に、A)20mlのOpti−MEM(Invitrogen)および等モル比のそれぞれ重鎖および修飾した重鎖および対応する軽鎖をコードする600μgの全プラスミドDNA(1μg/ml)と、B)20mlのOpti−MEM+1.2mlの293フェクチンまたはフェクチン(2μl/ml)との約42mlの混合物で細胞を約1.5E*6細胞/mlの細胞密度においてトランスフェクトした。グルコース消費に従い、グルコース溶液を発酵過程間に添加した。5〜10日後に分泌抗体を含有する上清を収集し、抗体を上清から直接精製するか、あるいは上清を凍結させ、貯蔵した。
【0107】
タンパク質の測定
下記の文献に従いアミノ酸配列に基づいて計算したモル吸光係数を使用して、280nmにおける光学密度(OD)を測定することによって、精製した抗体および誘導体のタンパク質濃度を決定した:Pace C.N.他、Protein Science 1995、4、2411−1423。
【0108】
上清中の抗体濃度の測定
プロテインAアガロースビーズ(Roche)を使用する免疫沈降により、細胞培養物上清中の抗体および誘導体の濃度を推定した。60μlのプロテインAアガロースビーズをTBS−NP40(50mM トリス、pH7.5、150mM NaCl、1%Nonidet−P40)中で3回洗浄する。引き続いて、1〜15mlの細胞培養物上清をTBS−NP40中で前平衡化したプロテインAアガロースビーズに適用した。室温において1時間インキュベートした後、ビーズをウルトラフリー(Ultrafree)−MCフィルターカラム(Amicon)上で0.5mlのTBS−NP40で1回、0.5mlの2×リン酸塩緩衝液(2×PBS、Roche)で2回、そして0.5mlの100mMのクエン酸ナトリウムpH5.0で短時間4回洗浄した。35μlのNuPAGE(商標)LDS試料緩衝液(Invitrogen)を添加して、結合した抗体を溶離した。試料の半分をそれぞれNuPAGE(商標)試料還元剤と組み合わせるか、あるいは還元しないで放置し、そして10分間70℃に加熱した。結局、5〜30μlを4〜12%のNuPAGE(商標)ビス−トリスSDS−PAGE(Invitrogen)に適用し(非還元SDS−PAGEについてMOPS緩衝液を使用し、そして還元SDS−PAGEについてMES緩衝液およびNuPAGE(商標)酸化防止剤ランニング添加剤(Invitrogen)を使用した)、そしてクーマッシーブルーで染色した。
【0109】
細胞培養物上清中の抗体および誘導体の濃度を、アフィニティーHPLCクロマトグラフィーにより定量的に測定した。簡単に述べると、プロテインAに結合する抗体および誘導体を含有する細胞培養物上清を、200mM K2HPO4、100mMクエン酸ナトリウム、pH7.4中のアプライド・バイオシステムス・ポロス(Applied Biosystems Poros)A/20カラムに適用し、アジレント(Agilent)HPLC 1100系上で200mM NaCl、100mMクエン酸、pH2.5でマトリックスから溶離した。溶離したタンパク質をUV吸収およびピーク面積の積分により定量した。精製した標準IgG1を標準として使用した。
【0110】
選択的に、細胞培養物上清中の抗体および誘導体の濃度をサンドイッチIgG−ELISAにより測定した。簡単に述べると、ストレプタウェル・ハイ・バインド・ストレプトアビジン(StreptaWell High Bind Streptavidin)A−96ウェルのマイクロタイタープレート(Roche)を、100μl/ウェルのビオチニル化抗ヒトIgG捕捉分子F(ab’)2<hFcγ>BI(Dianova)で0.1μg/mlにおいて室温で1時間被膜するか、あるいは選択的に一夜4℃において被覆し、引き続いて200μl/ウェルのPBS、0.05%のツイーン(PBST、Sigma)で3回洗浄した。それぞれの抗体含有細胞培養物上清のPBS(Sigma)中の希釈系列の100μl/ウェルをウェルに添加し、室温においてマイクロタイタープレート震蘯器上で1〜2時間インキュベートした。ウェルを200μl/ウェルのPBSTで3回洗浄し、検出抗体として100μlの0.1μg/mlのF(ab’)2<hFcγ>POD(Dianova)を使用して結合抗体を室温においてマイクロタイタープレート震蘯器上で1〜2時間検出した。結合しない検出抗体を200μl/ウェルのPBSTで3回洗浄除去し、結合した検出抗体を100μlのABTS/ウェルの添加により検出した。テカン・フルオア(Tecan Fluor)スペクトロメーターで405nmの測定波長(参照波長492nm)において、吸収を測定した。
【0111】
タンパク質の精製
標準プロトコルに従い、濾過した細胞培養物上清からタンパク質を精製した。簡単に述べると、抗体をプロテインAセファローズカラム(GE Healthcare)に適用し、PBSで洗浄した。抗体をpH2.8において溶離し、次いで試料を直ちに中和した。PBS中でまたは20mMのヒスチジン、150mMのHCl pH6.0中でサイズ排除クロマトグラフィー(スーパーデックス200、GE Healthcare)により、凝集したタンパク質をモノマーの抗体から分離した。モノマーの抗体の画分をプールし、必要に応じて、例えば、ミリポア(MILLIPORE)アミコン・ウルトラ(30MWCO)遠心濃縮装置を使用して、濃縮し、凍結させ、−20℃または−80℃において貯蔵した。引き続いて、試料の一部分を、例えば、SDS−PAGEサイズ排除クロマトグラフィーまたは質量分析により、タンパク質分析し、分析的に特性決定した。
【0112】
SDS−PAGE
NuPAGE(商標)前注型ゲル系(Invitrogen)を製造業者の使用説明書に従い使用した。特に、10%または4〜12%のNuPAGE(商標)Novex(商標)ビス−トリス前注型ゲル系(pH6.4)およびNuPAGE(商標)MES(還元したゲル、NuPAGE(商標)酸化防止剤ランニング緩衝液添加剤を使用する)またはMOPS(還元してないゲル)ランニング緩衝液を使用した。
【0113】
分析用サイズ排除クロマトグラフィー
抗体の凝集およびオリゴマーの状態を決定するサイズ排除クロマトグラフィーを、HPLCクロマトグラフィーにより実施した。簡単に述べると、プロテインA精製抗体をアジレント(Agilent)HPLC 1100系上の300mM NaCl、50mM KH2PO4/K2HPO4、pH7.5中のトソ(Tosoh)TSKゲルG3000SWカラムに適用するか、あるいはジオネックス(Dionex)HPLC系上の2×PBS中のスーパーデックス200カラム(GE Healthcare)に適用した。溶離したタンパク質をUV吸収およびピーク面積の積分により定量した。バイオラド(BioRad)ゲル濾過標準151−1901を標準として使用した。
【0114】
質量分析
エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI−MS)により、クロスオーバー抗体の全脱グリコシル化質量を測定し、確認した。簡単に述べると、100μgの精製した抗体を100mM KH2PO4/K2HPO4、pH7中の50mUのN−グリコシダーゼF(PNGaseF、ProZyme)で37℃において12〜24時間2mg/mlまでのタンパク質濃度において脱グルコシル化し、引き続いてセファデックスG25カラム(GE Healthcare)上のHPLCにより脱塩した。脱グルコシル化および還元後、それぞれの重鎖および軽鎖の質量をESI−MSにより測定した。簡単に述べると、115μl中の50μgの抗体を60μlの1M TCEPおよび50μlの8M塩酸グアニジンとインキュベートし、引き続いて脱塩した。ナノメート(NanoMate)源を装備したQ−Star Elite MS系上のESI−MSにより、全質量および還元した重鎖および軽鎖の質量を測定した。
【0115】
IGF−1R ECD結合ELISA
IGF−1R細胞外ドメイン(ECD)使用するELISAアッセイにおいて、発生した抗体の結合特性を評価した。このために、天然のリーダー配列と、N末端のHis−ストレプトアビジン結合ペプチド−タグ(His−SBP)に融合したアルファ鎖のヒトIGF−1RエクトドメインのLI−システインに富んだ12ドメイン(McKern他、1997;Ward他、2001に従う)とを含んでなるIGF−1Rの細胞外ドメイン(残基1〜462)を、pcDNA3ベクター誘導体中にクローニングし、HEK293−F細胞中で一時的に発現させた。IGF−1R−His−SBP ECDのタンパク質配列を配列番号5に記載する。可溶性IGF−1R−ECD−SBP融合タンパク質を含有する細胞培養物上清の100μl/ウェルでストレプタウェル高結合ストレプトアビジンA−96ウェルマイクロタイタープレート(Roche)を4℃において一夜被覆し、200μl/ウェルのPBS、0.05%ツイーン(PBST、Sigma)で3回洗浄した。引き続いて、1%BSA(画分V、Roche)を含むPBS(Sigma)中のそれぞれの抗体および参照として野生型<IGF−1R>抗体の希釈系列の100μl/ウェルをウェルに添加し、室温においてマイクロタイタープレート震蘯器上で1〜2時間インキュベートした。希釈系列について、参照として同一量の精製した抗体、または同一抗体濃度についてサンドイッチIgG−ELISAにより正規化したHEK293E(HEK293−F)中の一時的トランスフェクションからの上清をウェルに適用した。ウェルを200μl/ウェルのPBSTで3回洗浄し、検出抗体として100μl/ウェルの0.1μg/mlのF(ab’)2<hFcγ>POD(Dianova)を使用して、マイクロタイタープレート震蘯器上で室温において結合抗体を1〜2時間検出した。結合しない検出抗体を200μl/ウェルのPBSTで3回洗浄除去し、結合した検出抗体を100μlのABTS/ウェルの添加により検出した。テカン・フルオア・スペクトロメーターで405nmの測定波長(参照波長492nm)において、吸収を測定した。
【0116】
IGF−1R ECDバイアコア
また、バイアコ(BIACORE)T100計器(GE Healthcare、Biosciences AB、スウェーデン、ウプサラ)を使用して表面プラズモン共鳴により、発生した抗体のヒトIGF−1R ECDに対する結合を研究した。簡単に述べると、アフィニティーの測定のために、ヒトIGF−1R ECD−Fcタッグドに対する抗体の提示についてのアミンカップリングにより、ヤギ抗ヒトIgG、JIR109−005−098抗体をCM5チップ上に固定化した。HBS緩衝液(HBS−P、10mM HEPES、150mM NaCl、0.005%ツイーン20、pH7.4)中で25℃において、結合を測定した。IGF−1R ECD(R&D Systemsまたはイン−ハウス精製した)を溶液に種々の濃度で添加した。会合を80秒〜3分のIGF−1R ECD注入により測定した;チップ表面をHBS緩衝液で3〜10分間洗浄することによって解離を測定し、そして1:1ラングミュア結合モデルを使用してKD値を推定した。<IGF−1R>抗体の負荷密度および捕捉レベルが低いために、1価のIGF−1R ECDの結合が得られた。陰性対照のデータ(例えば、緩衝液の曲線)を試料の曲線から減じて、系固有の基線ドリフトを補正し、そして雑音を減少させた。バイアコアT100評価ソフトウェアバージョン1.1.1を使用して、センサーグラム(sensorgrams)を分析し、そしてアフィニティーのデータを計算した。図11は、Biacoreアッセイのスキームを示す。
【0117】
実施例1
単一特異性2価<IGF−1R>抗体の生産、発現、精製および特性決定、ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されている(ここにおいて<IGF−1R>VL−VH交換抗体と略す)。
【0118】
実施例1A
単一特異性2価<IGF−1R>VL−VH交換抗体のための発現プラスミドの生産
この実施例に記載するそれぞれのリーダー配列を含む単一特異性2価<IGF−1R>VL−VH交換抗体の重鎖および軽鎖の可変性ドメインの配列は、WO2005/005635に記載されている野生型<IGF−1R>抗体重鎖(配列番号1、プラスミド4843−pUC−HC−IGF−1R)および軽鎖(配列番号2、プラスミド4842−pUC−LC−IGF−1R)から誘導し、そして重鎖および軽鎖コンスタントドメインをヒト抗体(C−カッパおよびIgG1)から誘導する。
【0119】
<IGF−1R>抗体のリーダー配列、軽鎖可変性ドメイン(VL)および重鎖コンスタントドメイン(CH1)をコードする遺伝子セグメントを接合し、ヒトγ1−重鎖コンスタントドメイン(ヒンジ−CH2−CH3)のFcドメインの5’末端に融合した。VLドメインによるVHドメインの交換から生ずるそれぞれの融合タンパク質(VH−VL交換)をコードするDNAを遺伝子合成により発生させ、下記において<IGF−1R>HC***(配列番号10)と表示する。最初に、VL−CH1ドメインは、僅かに異なる配列(配列番号3)と融合された;この接続の発現率の低下により、野生型抗体に匹敵する発現率を示す配列番号10を選択した。
【0120】
<IGF−1R>抗体のリーダー配列、重鎖可変性ドメイン(VH)およびヒト軽鎖コンスタントドメイン(CL)のための遺伝子セグメントを独立鎖として接合した。VHドメインによるVLドメインの交換から生ずるそれぞれの融合タンパク質(VH−VL交換)をコードするDNAを遺伝子合成により発生させ、下記において<IGF−1R>LC***(重鎖***)(配列番号11)と表示する。最初に、VL−CLドメインは、僅かに異なる配列(配列番号4)と融合された;この接続の発現率の低下により、野生型抗体に匹敵する発現率を示す配列番号11を選択した。
【0121】
図5および図6は、修飾された<IGF−1R>HC***重鎖および修飾された<IGF−1R>LC***軽鎖*のタンパク質配列の略図を示す。
【0122】
下記において、それぞれの発現ベクターを簡単に説明する:
ベクターpUC−HC***−IGF−1R
ベクターpUC−HC***−IGF−1Rは、例えば、VL−VH交換<IGF−1R>重鎖*HC***(cDNA構成発現カセット;CMV−イントロンAをもつ)HEK293(EBNA)細胞中の一時的発現のためのまたはCHO細胞中の安定な発現のための、発現プラスミドである。
【0123】
<IGF−1R>HC***発現カセットのほかに、このベクターは下記を含有する:
−大腸菌(E.coli)中のこのプラスミドの複製を可能とするベクターpUC18からの複製起点、および
−大腸菌(E.coli)においてアンピシリン耐性を付与するβ−ラクタマーゼ遺伝子。
【0124】
<IGF−1R>HC***遺伝子の転写単位は下記の要素から構成されている:
−5’末端におけるAscI制限部位、
−ヒトサイトメガロウイルスからの前初期エンハンサーおよびプロモーター、
−次いでイントロンA配列、
−ヒト抗体遺伝子の5’非翻訳領域、
−免疫グロブリン軽鎖シグナル配列
−ヒトγ1−重鎖コンスタントドメイン(ヒンジ−CH2−CH3)のFcドメインの5’末端に融合したヒト軽鎖可変性ドメイン(VH)およびヒトカッパ−軽鎖コンスタントドメイン(CL)の融合物をコードするヒト<IGF−1R>成熟HC***鎖、
−ポリアデニル化シグナル配列をもつ3’非翻訳領域、および
−3’末端におけるユニーク制限部位SgrAI。
【0125】
重鎖***VL−VH交換<IGF−1R>HC***発現ベクターpUC−HC***−IGF−1Rのプラスミド地図を図7に示す。<IGF−1R>HC***のアミノ酸配列(シグナル配列を含む)を配列番号10に記載する。
【0126】
ベクターpUC−LC***−IGF−1R
ベクターpUC−LC***−IGF−1Rは、例えば、VL−VH交換<IGF−1R>軽鎖LC***(cDNA構成発現カセット;CMV−イントロンAをもつ)のHEK293(EBNA)細胞中の一時的発現のためのまたはCHO細胞中の安定な発現のための、発現プラスミドである。
【0127】
<IGF−1R>LC***発現カセットのほかに、このベクターは下記を含有する:
−大腸菌(E.coli)中のこのプラスミドの複製を可能とするベクターpUC18からの複製起点、および
−大腸菌(E.coli)においてアンピシリン耐性を付与するβ−ラクタマーゼ遺伝子。
【0128】
<IGF−1R>LC***遺伝子の転写単位は下記の要素から構成されている:
−5’末端における制限部位Sse8387I、
−ヒトサイトメガロウイルスからの前初期エンハンサーおよびプロモーター、
−次いでイントロンA配列、
−ヒト抗体遺伝子の5’非翻訳領域、
−免疫グロブリン重鎖シグナル配列
−ヒト軽鎖可変性ドメイン(VL)およびヒトγ1−重鎖コンスタントドメイン(CH1)の融合物をコードするヒト<IGF−1R>抗体成熟LC***鎖、
−ポリアデニル化シグナル配列をもつ3’非翻訳領域、および
−3’末端における制限部位SalIおよびFseI。
【0129】
軽鎖**VL−VH交換<IGF−1R>LC***発現ベクターpUC−LC***−IGF−1Rのプラスミド地図を図8に示す。<IGF−1R>LC***のアミノ酸配列(シグナル配列を含む)を配列番号11に記載する。
【0130】
プラスミドpUC−HC***−IGF−1RおよびpUC−LC***−IGF−1Rは、例えば、HEK293、HEK293 EBNAまたはCHO細胞(2−ベクター系)中への、一時的または安定な共トランスフェクションに使用できる。比較の理由で、この実施例に記載するものと同様にして、野生型<IGF−1R>抗体をプラスミド4842−pUC−LC−IGF−1R(配列番号2)および4843−pUC−HC−IGF−1R(配列番号1)から一時的に発現させた。
【0131】
HEK293 EBNA細胞中の一時的発現においてより高い発現レベルを達成するために、下記を含有する4700−pUC−Hyg−OriP発現ベクター中に、<IGF−1R>HC***発現カセットをAscIおよびSgrAI部位を通して、そして<IGF−1R>LC***発現カセットをSse8387IおよびFseI部位を通して、サブクローニングすることができる:
−OriP要素、および
−選択可能なマーカーとしてヒグロマイシン耐性遺伝子。
【0132】
重鎖および軽鎖の転写単位は共トランスフェクションのために2つの独立4700−pUC−Hyg−OriPベクター(2ベクター系)中にサブクローニングするか、あるいは生ずるベクターを使用する引き続く一時的または安定なトランスフェクションのために1つの共通の4700−pUC−Hyg−OriPベクター(1ベクター系)中にクローニングすることができる。基本的ベクター4700−pUC−OriPのプラスミド地図を図9に示す。
【0133】
実施例1B
単一特異性2価<IGF−1R>VL−VH交換抗体の発現プラスミドの生産
既知の組換えの方法および技術を使用して、一致する核酸セグメント接続により、野生型<IGF−1R>抗体の交換されたFab配列を含んでなる<IGF−1R>融合遺伝子(HC***およびLC***融合遺伝子)を組立てた。
【0134】
IGF−1R HC***およびLC***をコードする核酸配列の各々を化学合成により合成し、引き続いてゲネアルト(Geneart)(レーゲンスブルク、ドイツ)においてpPCRScript(Stratagene)に基づくpGA4クローニングベクター中にクローニングした。IGF−1R HC***をコードする発現カセットをPvuIIおよびBmgBI制限部位を通してそれぞれの大腸菌(E.coli)プラスミド中に結合して、最終ベクターpUC−HC***−IGF−1Rを生成した;それぞれのIGF−1R LC***をコードする発現カセットをPvuIIおよびSalI制限部位を通してそれぞれの大腸菌(E.coli)プラスミド中に結合して、最終ベクターpUC−LC***−IGF−1Rを生成した。サブクローニングした核酸配列をDNA配列決定により確認した。一時的および安定なトランスフェクションのために、形質転換された大腸菌(E.coli)培養物(Nucleobond AX、Macherey−Nagel)からプラスミド生産により大量のプラスミドを生産した。
【0135】
実施例1C
単一特異性2価<IGF−1R>VL−VH交換抗体の一時的発現、精製および質量分析による同定の確認
上記されるように、HEK293−F懸濁細胞中で、プラスミドpUC−HC***−IGF−1RおよびpUC−LC***−IGF−1Rの一時的共トランスフェクションにより、組換え<IGF−1R>VL−VH交換抗体を発現させた。
【0136】
上記されるように、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーにより、濾過した細胞培養物上清から、発現分泌された単一特異性2価<IGF−1R>VL−VH交換抗体を精製した。簡単に述べると、一時的トランスフェクションからの<IGF−1R>VL−VH交換抗体を含有する細胞培養物上清を遠心により清浄化し、濾過し、PBS緩衝液(10mM Na2HPO4、1mM K2HPO4、137mM NaClおよび2.7mM KCl、pH7.4) と平衡化したプロテインA ハイトラップ・マブセレクト・エクストラカラム(GE Healthcare)に適用した。結合しないタンパク質をPBS平衡緩衝液、次いで0.1Mのクエン酸ナトリウム緩衝液pH5.5で洗浄除去し、PBSで洗浄した。抗体を100mMのクエン酸ナトリウムpH2.8で溶離し、次いで試料を300μlの2M トリス pH9.0/2mlの画分で直ちに中和した。20mMのヒスチジン、150mM NaCl pH6.0中のハイロード26/60スーパーデックス200プレプ等級カラム(GE Healthcare)上のサイズ排除クロマトグラフィーにより、凝集したタンパク質をモノマー抗体から分離し、引き続いてモノマー抗体画分をミリポア・アミコン・ウルトラ−15遠心濃縮装置で濃縮した。<IGF−1R>VL−VH交換抗体を凍結させ、−20℃または−80℃において貯蔵した。<IGF−1R>VL−VH交換抗体の完全性を還元剤の存在および非存在下にSDS−PAGEにより分析し、引き続いて上記されるようにクーマッシー・ブリリアント・ブルーで染色した。<IGF−1R>VL−VH交換抗体の一価状態は、分析用サイズ排除クロマトグラフィーによって確認された(図12)。特性決定した試料を引き続きタンパク質分析および機能的特性決定のために使用した。完全に脱グルコシル化された<IGF−1R>VL−VH交換抗体の理論分子量は、ESI質量分析により確認された。
【0137】
実施例1D
IGF−1R ECD結合ELISAにおけるおよびビアコアによる単一特異性2価<IGF−1R>VL−VH交換抗体のIGF−1R結合特性の分析
前述したようにIGF−1R細胞外ドメイン(ECD)を使用するELISAアッセイにおいて、単一特異性2価<IGF−1R>VL−VH交換抗体の結合特性を評価した。このために、天然のリーダー配列と、N末端のHis−ストレプトアビジン結合ペプチド−タグ(His−SBP)に融合したアルファ鎖のヒトIGF−1RエクトドメインのLI−システインに富んだ12ドメイン(McKern他、1997;Ward他、2001に従う)とを含んでなるIGF−1Rの細胞外ドメイン(残基1〜462)を、pcDNA3ベクター誘導体中にクローニングし、HEK293−F細胞中で一時的に発現させた。IGF−1R−His−SBP ECDのタンパク質配列を上記に記載する。得られた滴定曲線は、<IGF−1R>VL−VH交換抗体が機能的であり、この方法の誤差内にある野生型<IGF−1R>抗体に匹敵する結合特徴及び動力学を示し、十分に機能的であるように考えられた(図13)。
【0138】
これらの結果は、それぞれの精製した抗体を使用するビアコアによって確証されている。
【0139】
実施例1G
IGF−1Rを過剰発現するI24細胞を使用するFACSによる単一特異性2価<IGF−1R>VL−VH交換抗体のIGF−1R結合特性の分析
<IGF−1R>VL−VH交換抗体の結合活性を確認するために、I24細胞(組換えヒトIGF−1Rを発現するNIH3T3細胞、Roche)の表面上で過剰発現されたIGF−1Rに対する結合性をFACSにより研究する。簡単に述べると、精製した<IGF−1R>VL−VH交換抗体および参照として野生型<IGF−1R>抗体の希釈物と5×10E5 I24細胞/FACSをインキュベートし、氷上で1時間インキュベートする。結合しない抗体を4mlの氷冷PBS(Gibco)+2% FCS(Gibco)で洗浄除去する。引き続いて、細胞を遠心(5分、400g)し、結合した抗体をF(ab’)2<hFcγ>PEコンジュゲイト(Dianova)により氷上で1時間光から保護して検出する。結合しない検出抗体を4mlの氷冷PBS+2% FCSで洗浄除去する。引き続いて、細胞を遠心(5分、400g)し、300〜500μlのPBS中に再懸濁させ、そして結合した検出抗体をFACSカリブール(Calibur)またはFACSカント(Canto)(BD、FL2チャンネル、10,000細胞/獲得)上で定量する。実験の間、それぞれのアイソタイプ対照を含めて非特異的結合事象を排除する。I24細胞上のIGF−1Rに対する<IGF−1R>VL−VH/CL−CH1交換抗体および野生型<IGF−1R>参照抗体の結合性を、平均蛍光強度の濃度依存的シフトによって比較する。
【0140】
実施例2
単一特異性2価<ANGPT2>野生型抗体の説明
実施例2A
単一特異性2価<ANGPT2>野生型抗体のための発現プラスミドの生産
この実施例に記載するそれぞれのリーダー配列を含む単一特異性2価アンギオポイエチン−2<ANGPT2>野生型抗体の重鎖および軽鎖の可変性ドメインの配列を、WO2006/045049に記載されているヒト<ANGPT2>抗体の重鎖(配列番号6)および軽鎖(配列番号7)から誘導し、そして重鎖および軽鎖のコンスタントドメインをヒト抗体(C−カッパおよびIgG1)から誘導する。
【0141】
前の実施例1Aに記載するベクターに類似するプラスミドSB04−pUC−HC−ANGPT2(配列番号6)およびSB06−pUC−LC−ANGPT2(配列番号7)中に野生型<ANGPT2>抗体をクローニングした。比較の理由でかつ共発現実験のために(実施例3参照)、野生型<ANGPT2>抗体をプラスミドSB04−pUC−HC−ANGPT2およびSB06−pUC−LC−ANGPT2から一時的に(共)発現させた。
【0142】
実施例2B
単一特異性2価<ANGPT2>野生型抗体発現プラスミドの生産
<ANGPT2>HCおよびLCをコードする核酸配列の各々を化学合成により合成し、引き続いてゲネアルト(Geneart)(レーゲンスブルク、ドイツ)においてpPCRScript(Stratagene)に基づくpGA4クローニングベクター中にクローニングした。<ANGPT2>HCをコードする発現カセットをそれぞれの大腸菌(E.coli)プラスミド中にクローニングして、最終ベクターSB04−pUC−HC−ANGPT2を生成した;それぞれの<ANGPT2>LCをコードする発現カセットをそれぞれの大腸菌(E.coli)プラスミド中にクローニングして、最終ベクターSB06−pUC−LC−ANGPT2を生成した。サブクローニングした核酸配列をDNA配列決定により確認した。一時的および安定なトランスフェクションのために、形質転換された大腸菌(E.coli)培養物(Nucleobond AX、Macherey−Nagel)からプラスミド生産によってより大量のプラスミドを生産した。
【0143】
実施例3
二重特異性2価<ANGPT2−IGF−1R>抗体の発現、ここでIGF−1Rに特異的に結合する重鎖および軽鎖において、コンスタントドメインVLおよびVHは互いにより置換されている(ここにおいて<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体と略す)
【0144】
実施例3A
二重特異性<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体を生ずるHEK293 EBNA細胞における<IGF−1R>VL−VH交換抗体および<ANGPT2>野生型抗体の一時的共発現および精製
一方の側で<IGF−1R>VL−VH交換抗体を通してIGF−1Rを認識し、そして他方の側で<ANGPT2>野生型Fab領域を通して<ANGPT2>を認識する機能的二重特異性抗体を発生させるために、<IGF−1R>VL−VH交換抗体をコードする2つの発現プラスミド(実施例1A)を<ANGPT2>野生型抗体をコードする2つの発現プラスミド(実施例2A)と共発現させた。野生型重鎖HCおよびVL−VH交換抗体鎖HC***の統計的会合を仮定すると、これにより二重特異性および2価<IGF−1R−ANGPT2>VL−VH交換抗体が発生した。両方の抗体が等しく十分に発現されると仮定し、副産物を考慮しないとすると、これにより3つの主要な生成物、A)<IGF−1R>VL−VH交換抗体、B)二重特異性<IGF−1R−ANGPT2>VL−VH交換抗体、およびC)<ANGPT2>野生型抗体が1:2:1の比で生じたであろう。いくつかの副産物を期待することができる。
しかしながら、VL−VHドメインだけの交換により、副産物の頻度は、完全なFabクロスオーバーに対して減少したであろう。
<ANGPT2>野生型抗体は<IGF−1R>野生型及び<IGF−1R>VL−VH交換抗体よりも高い発現の一時的発現収量を示すので、<ANGPT2>野生型抗体プラスミドおよび<IGF−1R>VL−VH交換抗体プラスミドの比は、<ANGPT2>野生型抗体の発現に有利にシフトした。
【0145】
主要な産物A)<IGF−1R>VL−VH交換抗体、B)二重特異性<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体、およびC)<ANGPT2>野生型抗体の混合物を発生させるために、4つのプラスミドpUC−HC***−IGF−1RおよびpUC−LC***−IGF−1RおよびプラスミドSB04−pUC−HC−ANGPT2およびSB06−pUC−LC−ANGPT2を、上記した懸濁HEK293−F細胞に一時的に共トランスフェクトした。収集した上清は主要な生成物A)<IGF−1R>VL−VH交換抗体、B)二重特異性<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体、およびC)<ANGPT2>野生型抗体の混合物を含有し、「二重特異性VL−VH交換混合物」と表示する。遠心分離によって二重特異性VL−VH交換混合物を含有する細胞培養物上清を収集し、その後、上述されるように精製した。
【0146】
抗体混合物の完全性を還元剤の存在および非存在下にSDS−PAGEにより分析し、引き続いて上記されるようにクーマッシー・ブリリアント・ブルーで染色し、サイズ排除クロマトグラフィーにかけた。SDS−PAGEは、期待したように、2種の重鎖および軽鎖が調製物中に存在することを示した(還元ゲル)(図14)。特性決定した試料を引き続きタンパク質分析および機能的特性決定のために使用した。
【0147】
実施例3B
I24 IGF−1R発現細胞上の細胞FACS架橋アッセイにおける機能的二重特異性<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体の検出
実施例3Aに記載する一時的共発現からの主要な生成物A)<IGF−1R>VL−VH交換抗体、B)二重特異性<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体、およびC)<ANGPT2>野生型抗体の精製された二重特異性VL−VH交換混合物中の機能的二重特異性<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体の存在を確認するために、I24細胞(組換えヒトIGF−1Rを発現するNIH3T3細胞、Roche)上で細胞FACS IGF−1R−ANGPT2架橋アッセイを実施した。このアッセイを図10に描写する。精製した抗体混合物中に存在する二重特異性<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体は、IGF−1RにI24細胞中でおよび同時にANGPT2に結合することができ、こうしてその2つのターゲット抗原を2つの対向するFab領域と架橋させるであろう。
【0148】
簡単に述べると、5×10E5 I24細胞/FACS管を精製した抗体混合物の全部とインキュベートし、氷上で1時間インキュベートした(滴定160μg/ml混合物)。それぞれの精製した抗体の野生型<IGF−1R>および<ANGPT2>を対照としてI24細胞に適用した。未結合の抗体を4mlの氷冷PBS(Gibco)+2%FCS(Gibco)で洗い出し、細胞を遠心し(400gで5分)、結合した二重特異性抗体を50μlの2μg/mLヒトANGPT2(R&D Systems)で1時間、氷上で検出した。その後、未結合のANGPT2を4mlの氷冷PBS(Gibco)+2%FCS(Gibco)で1回または2回洗い出し、細胞を遠心し(400gで5分)、結合したANGPT2を50μlの5μg/mL<ANGPT2>mIgG1−ビオチン抗体(BAM0981、R&D Systems)で45分間、氷上で検出した;あるいは、細胞を50μlの5μl/mL mIgG1−ビオチン−アイソタイプ対照(R&D Systems)とともにインキュベートした。未結合の検出抗体を4mlの氷冷PBS(Gibco)+2%FCS(Gibco)で洗い出し、細胞を遠心し(400gで5分)、結合した検出抗体を50μlの1:400にしたストレプトアビジン−PEコンジュゲート(Invitrogen/Zymed)を用いて、45分間、遮光しながら氷上で検出した。未結合のストレプトアビジン−PEコンジュゲートを4mlの氷冷PBS(Gibco)+2%FCS(Gibco)で洗い出した。次に、細胞を遠心し(400gで5分)し、300〜500μLのPBSに再懸濁し、結合したストレプトアビジン−PEコンジュゲートをFACSCalibur(BD(FL2チャネル、10,000細胞/捕捉)上で定量した。実験中、それぞれのアイソタイプ対照は、いずれかの非特異的な結合事象を排除するために含められた。さらに、精製された単一特異性2価IgG1抗体<IGF−1R>および<ANGPT2>を対照として含めた。
【0149】
図15の結果は、野生型抗体(<ANGPT2>野生型抗体)とともにクロスオーバー抗体(<IGF−1R>VL−VH交換抗体)の共発現から精製した抗体クロスオーバー混合物(<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体)とのインキュベーションが、I24細胞中のIGF−1R、およびANGPT2に同時に結合することができる機能的二重特異性<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体の存在を指示する
蛍光の有意なシフトを生じ;こうしてその2つの抗原を2つの対向するFab領域と架橋させることができることを示す。これと対照的に、それぞれの<IGF−1R>および<Ang−2>対照抗体は、FACS架橋アッセイでは蛍光のシフトを生じなかった。
【0150】
これらのデータを一緒にしてみると、それぞれの野生型およびクロスオーバープラスミドによって、機能的二重特異性抗体を生じ得ることを示す。正確な二重特異性抗体の収量は、例えば、ノブ−インツ−ホール技術ならびにジスルフィド安定化を用いて、野生型および修飾したクロスオーバー重鎖の正確なヘテロ二量体化を強いることによって増加し得る(実施例4を参照されたい)。
【0151】
実施例4
修飾されたCH3ドメインを有する2価二重特異性<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体の発現(ノブ−インツ−ホール)
二重特異性<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体の収量をさらに改善するために、ノブ−インツ−ホール技術を<IGF−1R>VL−VH交換抗体および野生型<ANGPT2>抗体に適用し、均一であり、機能的二重特異性抗体調製物を得る。このために、<IGF−1R>VL−VH交換抗体の重鎖*HC*のCH3ドメインは、T366W交換を有する配列番号8のCH3ドメイン(ノブ)で置換され、野生型<ANGPT2>抗体の重鎖のCH3ドメインはT366S、L368A、Y407V交換を有する配列番号9のCH3ドメイン(ホール)で置換されるか、またはその反対である。さらに、ジスルフィドは、安定性及び収量を増加させるために含めることができ、イオン架橋を形成し、ヘテロ二量体化収量を増加させる更なる残基も同様である(EP1870459A1)。
【0152】
一時的な共発現、および修飾されたCH3ドメインを含む、得られた2価二重特異性<ANGPT2−IGF−1R>VL−VH交換抗体(ノブ−インツ−ホール)の精製は、実施例3に記載されるように行われる。
【0153】
ヘテロ二量体化の最適化は、例えば、異なるノブ−インツ−ホール技術、例えば、追加のジサルファイド架橋をCH3ドメイン中に導入する、例えば、Y349Cを「ノブ鎖」中に導入し、そしてD356Cを「ホール鎖」中に導入することにより、および/またはノブ残基のために残基R409D、K370E(K409D)を使用し、そしてホール残基のために残基D399K、E357Kを使用する(EP1870459A1に記載されている)ことを組合わせることによって達成することができることに留意すべきである。
【0154】
実施例4と同様にして、(上述のANGPT2重鎖および軽鎖、および該他の標的に指向される抗体のVL−VH交換重鎖および軽鎖***HC***およびLC***を用いて、それにより両方の重鎖が「ノブ−インツ−ホール」によって修飾される)ANGPT2および別の標的抗原に指向され、または(該他の標的及び上記のIGF−1R VL−H交換重鎖および軽鎖***HC***およびLC***に指向される抗体の重鎖および軽鎖を用いて、それにより両方の重鎖が「ノブ−インツ−ホール」によって修飾される)IGF−1Rおよび別の標的に指向される更なる2価二重特異性VL−VH交換抗体が調製可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖、および
b)第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖、
を含んでなる2価二重特異性抗体であって、ここで、可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されている2価二重特異性抗体。
【請求項2】
一方の重鎖のCH3ドメインおよび他方の重鎖のCH3ドメインの各々は、抗体のCH3ドメイン間の本来のインターフェイスを含んでなるインターフェイスにおいて出会い、
ここで前記インターフェイスは2価二重特異性抗体の形成を促進するように変更されており、ここで、変更は下記を特徴とする:
a)2価二重特異性抗体内の他方の重鎖のCH3ドメインの本来のインターフェイスと出会う一方の重鎖のCH3ドメインの本来のインターフェイス内において、
アミノ酸残基はより大きい側鎖体積を有するアミノ酸残基と置換されており、これにより他方の重鎖のCH3ドメインのインターフェイス内のキャビティ中に位置可能な突起を一方の重鎖のCH3ドメインのインターフェイス内に発生させるように、
一方の重鎖のCH3ドメインは変更されており、そして
b)2価二重特異性抗体内の第1のCH3ドメインの本来のインターフェイスと出会う第2のCH3ドメインの本来のインターフェイス内において、
アミノ酸残基はより小さい側鎖体積を有するアミノ酸残基と置換されており、これにより第1のCH3ドメインのインターフェイス内の突起が位置可能であるキャビティを第2 CH3ドメインのインターフェイス内に発生させるように、
他方の重鎖のCH3ドメインは変更されている
ことを特徴とする、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
より大きい側鎖体積を有する前記アミノ酸残基がアルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)およびトリプトファン(W)から成る群から選択されることを特徴とする、請求項2に記載の抗体。
【請求項4】
より小さい側鎖体積を有する前記アミノ酸残基がアラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T)およびバリン(V)から成る群から選択されることを特徴とする、請求項2または3に記載の抗体。
【請求項5】
両方のCH3ドメインが各CH3ドメインの対応する位置におけるアミノ酸としてシステイン(C)を導入することによって変更されていることを特徴とする、請求項2〜4のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項6】
両方の重鎖のコンスタント重鎖ドメインCH3の一方がコンスタント重鎖ドメインCH1により置換されており、そして他方のコンスタント重鎖ドメインCH3がコンスタント軽鎖ドメインCLにより置換されていることを特徴とする、請求項1に記載の抗体。
【請求項7】
a)下記で宿主細胞を形質転換し、
−第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、
−第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、
ここで、可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されており、
コンスタントドメインCLおよびCH1は互いにより置換されており;
b)前記抗体分子の合成を可能とする条件下に宿主細胞を培養し;そして
c)前記培養物から前記抗体分子を回収する
工程を含んでなる、請求項1に記載の2価二重特異性抗体を生産する方法。
【請求項8】
−第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター;
−2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、
ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されている
を含んでなる宿主細胞。
【請求項9】
請求項1〜6に記載の2価二重特異性抗体の組成物、好ましくは医薬組成物または診断組成物。
【請求項10】
請求項1〜6に記載の2価二重特異性抗体と、少なくとも1種の薬学上許容される賦形剤とを含んでなる医薬組成物。
【請求項1】
a)第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖、および
b)第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖、
を含んでなる2価二重特異性抗体であって、ここで、可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されている2価二重特異性抗体。
【請求項2】
一方の重鎖のCH3ドメインおよび他方の重鎖のCH3ドメインの各々は、抗体のCH3ドメイン間の本来のインターフェイスを含んでなるインターフェイスにおいて出会い、
ここで前記インターフェイスは2価二重特異性抗体の形成を促進するように変更されており、ここで、変更は下記を特徴とする:
a)2価二重特異性抗体内の他方の重鎖のCH3ドメインの本来のインターフェイスと出会う一方の重鎖のCH3ドメインの本来のインターフェイス内において、
アミノ酸残基はより大きい側鎖体積を有するアミノ酸残基と置換されており、これにより他方の重鎖のCH3ドメインのインターフェイス内のキャビティ中に位置可能な突起を一方の重鎖のCH3ドメインのインターフェイス内に発生させるように、
一方の重鎖のCH3ドメインは変更されており、そして
b)2価二重特異性抗体内の第1のCH3ドメインの本来のインターフェイスと出会う第2のCH3ドメインの本来のインターフェイス内において、
アミノ酸残基はより小さい側鎖体積を有するアミノ酸残基と置換されており、これにより第1のCH3ドメインのインターフェイス内の突起が位置可能であるキャビティを第2 CH3ドメインのインターフェイス内に発生させるように、
他方の重鎖のCH3ドメインは変更されている
ことを特徴とする、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
より大きい側鎖体積を有する前記アミノ酸残基がアルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)およびトリプトファン(W)から成る群から選択されることを特徴とする、請求項2に記載の抗体。
【請求項4】
より小さい側鎖体積を有する前記アミノ酸残基がアラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T)およびバリン(V)から成る群から選択されることを特徴とする、請求項2または3に記載の抗体。
【請求項5】
両方のCH3ドメインが各CH3ドメインの対応する位置におけるアミノ酸としてシステイン(C)を導入することによって変更されていることを特徴とする、請求項2〜4のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項6】
両方の重鎖のコンスタント重鎖ドメインCH3の一方がコンスタント重鎖ドメインCH1により置換されており、そして他方のコンスタント重鎖ドメインCH3がコンスタント軽鎖ドメインCLにより置換されていることを特徴とする、請求項1に記載の抗体。
【請求項7】
a)下記で宿主細胞を形質転換し、
−第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、
−第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、
ここで、可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されており、
コンスタントドメインCLおよびCH1は互いにより置換されており;
b)前記抗体分子の合成を可能とする条件下に宿主細胞を培養し;そして
c)前記培養物から前記抗体分子を回収する
工程を含んでなる、請求項1に記載の2価二重特異性抗体を生産する方法。
【請求項8】
−第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター;
−2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、
ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されている
を含んでなる宿主細胞。
【請求項9】
請求項1〜6に記載の2価二重特異性抗体の組成物、好ましくは医薬組成物または診断組成物。
【請求項10】
請求項1〜6に記載の2価二重特異性抗体と、少なくとも1種の薬学上許容される賦形剤とを含んでなる医薬組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2011−506510(P2011−506510A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538441(P2010−538441)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【国際出願番号】PCT/EP2008/010703
【国際公開番号】WO2009/080252
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【国際出願番号】PCT/EP2008/010703
【国際公開番号】WO2009/080252
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]