説明

2次元エネルギー密度センサを使用するエネルギー密度制御システム

【課題】筐体(110)内の雑音を低減するシステムおよび方法を提供する。
【解決手段】方法は、少なくとも1つの基準信号(105)を受信するステップと、2つ以下の実質的に直角に配置された音響センサの対(330)から圧力信号を受信するステップであって、音響センサの1つの対はx方向にあり、音響センサの1つの対はy方向にあり、音響センサ(330)は筐体(110)の内面に実質的に平行で近接している平面に配置されることと、圧力信号および基準信号(105)を使用して出力信号を生成し、音響センサ(330)の位置においてエネルギー密度を最小化するステップと、出力信号を音響アクチュエータ(340)に送信するステップと、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示される方法およびシステムは、音響雑音低減の分野に関する。より詳細には、制御システムにデータを供給する1つまたは複数の2次元エネルギー密度センサを使用して効果的に音響雑音を低減するシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長年にわたって、不要または有害な音、すなわち雑音を除去するために多くの取り組みが成されてきた。最もよく使用された技法は受動型雑音消去であるが、これは雑音をダンパーで覆うことによって雑音を除去しようとする。受動型雑音制御は、多くの場合、防音材、天井タイル、およびマフラーにより行われる。残念なことに、受動型雑音制御システムは大きくて扱いにくく、中および高周波音に最も効果を発揮する。
【0003】
受動型雑音消去に対する魅力的な代替方法は、能動型雑音消去(「ANC」)である。能動型雑音消去は、一般に雑音と位相がずれている音響信号を生成することによる、電子音響手段による音場変更である。本質的に、能動型雑音消去システムは、消去すべき雑音のミラーイメージである音場を電子的に生成しようと試みる。能動型雑音消去の研究は、1936年にLuegに付与された能動型雑音消去に関する最初の特許(特許文献1)と共に、1930年代に始められた。研究は、マイクロフォン付近の低周波雑音を減衰させるためのフィードバックメカニズムを備えた電子消音機の開発に携わったOlsonおよびMayにより1950年代へと引き継がれた(非特許文献1)。残念ながら、OlsonおよびMayの電子消音機は高周波において不安定であった。
【0004】
過去30年間の間、デジタル信号処理および制御理論の進歩は、能動型雑音消去への関心の高まりと研究を促進してきた。この研究は、商業的に実現可能な能動型雑音消去システムを市場にもたらした。能動型雑音消去システムは、より高性能のヘッドフォン、自動車、およびHVACシステムに見受けられる。
【0005】
自動車は、閉ざされた空間での能動型雑音消去の現在の使用を示す適例となっている。自動車において能動型雑音消去を達成するため、多くの場合、自動車の運転者がさらされる3次元の音波、または雑音を検出するように、エラーセンサ、つまり音響センサまたはマイクロフォンが運転者の頭に近接して配置される。残念なことに、このように配置された音響センサは、運転者の視界、柔軟性、および快適さを妨げることが多い。さらに、そのような音響センサの配置は、不要な雑音の全体的な制御ではなく、局所的な制御しか提供しない傾向がある。
【0006】
ほとんどの能動型雑音消去システムは、平方音圧(「SP」)を最小化することにより雑音を低減することに重点を置いている。ただし、ペンシルベニア州立大学のSommerfeldtによる研究は、音響エネルギー密度(「ED」)を最小化することがSPの最小化よりも有利であることを示した。音響エネルギー密度は、音波の圧力およびその速度の両方を考察する(非特許文献2)。EDの制御はさらに、閉ざされた音場内のエラーセンサの配置に対する感受性が低いという点において、SPよりも有利である。閉ざされた音場にSP技術を使用する場合、3つの直交方向に存在する節面がある。一方、EDを使用する場合、単に、圧力の2つの直交節面の交点に存在する節線(nodal line)があるだけである。したがって、センサの所定の配置に対して、センサが節から離れて配置される確率がはるかに高くなる。さらにEDは、SPに比べて雑音のより全体的な減衰をもたらす。
【0007】
EDは、音響粒子速度、および音圧に依存する。粒子速度は3次元の数量であるため、ほとんどの既存のED ANCシステムでは、3つの直交方向ごとに2つ、合計6つの音響センサを備える3次元エネルギー密度センサを使用する。音響センサの各対は、制御システムに信号を提供して、対の直交方向の粒子速度成分をもたらす。直交音響センサの3つの対からの3つの速度成分のベクトルの和から、粒子速度が得られる。6つの音響センサの平均から、音圧が得られる。
【0008】
【特許文献1】米国特許第2043416号
【非特許文献1】H.F. Olsen and E.G. May, "Electronic Sound Absorber," J. Acoust. Soc. Am.25, 1130-1136 (1953)
【非特許文献2】J.W. Parkins, S.D. Sommerfeldt, and J.Tichy, "Narrowband and Broadband Active Control in an Enclosure Using the Acoustic Energy Density," J. Acoust. Soc. Am. 108, 192-203 (2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
既存のED ANCシステムの不利な点は、誤差信号(error signal)を形成する3次元入力の計算を行うために追加的な計算能力が必要になることである。いくつかの研究組織では4マイクロフォンのEDセンサを使用したが、4つのマイクロフォンは4面体構成に配置され、従来の3次元のSPシステムの感知に使用される。本発明は、従来技術に関連する1つまたは複数の問題または欠点を克服することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
開示される実施形態に従って、筐体(enclosure)内の雑音を低減する方法が説明される。方法は、少なくとも1つの基準信号を受信するステップと、2つ以下の実質的に直角に配置された音響センサの対から圧力信号を受信するステップであって、音響センサの1つの対はx方向にあり、音響センサの1つの対はy方向にあり、音響センサは筐体の内面に実質的に平行で近接している平面に配置されることと、圧力信号および基準信号を使用して出力信号を生成し、音響センサの位置におけるエネルギー密度を最小化するステップと、出力信号を音響アクチュエータに送信するステップとを備えている。
【0011】
開示される実施形態のもう1つの態様に従って、機械読取り可能の記憶媒体が説明される。記憶媒体は、実行可能な命令をマシン上に格納している。命令の実行は、筐体内の雑音を低減する方法を実装するように適合される。方法は、少なくとも1つの基準信号を受信するステップと、2つ以下の実質的に直角に配置された音響センサの対から圧力信号を受信するステップであって、音響センサの1つの対はx方向にあり、音響センサの1つの対はy方向にあり、音響センサは実質的に平行で筐体の内面に近接している平面に配置されることと、圧力信号および基準信号を使用して出力信号を生成し、音響センサの位置におけるエネルギー密度を最小化するステップと、出力信号を音響アクチュエータに送信するステップとを備えている。
【0012】
開示される実施形態のもう1つの態様に従って、筐体内の雑音を低減するためのシステムが説明される。システムは、基準信号、音響アクチュエータ、2つ以下の実質的に直角に配置された音響センサの対を含むセンサ装置であって、音響センサの1つの対はx方向にあり、音響センサの1つの対はy方向にあり、音響センサは筐体の内面に実質的に平行で近接している平面に配置されることと、基準信号、音響アクチュエータ、およびセンサと通信するコントローラを含んでいる。コントローラは、基準信号を受信し、センサ装置から圧力信号を受信し、圧力信号および基準信号を使用して出力信号を生成し、センサ装置の位置におけるエネルギー密度を最小化し、出力信号を音響アクチュエータに送信するように動作可能である。
【0013】
以上の説明は、開示される実施形態の態様をいくつか要約したに過ぎず、実施形態の範囲全体を反映することを意図したものではない。以下の説明に示されている追加の特徴および利点は、説明を読めば明らかになろう。あるいは本開示の教示を実施することにより確認されるであろう。さらに、前述の要約および以下の詳細な説明は共に模範的かつ説明的なものであり、特許請求の範囲でさらに詳細に説明することを意図している。
【0014】
本明細書に組み込まれその一部を構成する添付の図は、1つの実施形態を示し、説明と共に実施形態の動作原理を説明する役割を果たしている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の模範的な実施形態が詳細にわたって参照され、その実施例については付属の図面により説明される。同一または同様の部分を参照するために、可能な限り、図面全体を通じて同一の参照番号が使用される。
【0016】
3次元センサを使用してエネルギー密度を感知して誤差信号の直接入力を制御システムに提供するエネルギー密度能動型雑音消去システムとは異なり、本発明のシステムは、2次元センサを使用して誤差信号を制御システムに提供する。自動車キャビンのように閉ざされた空間内の剛体の表面上、またはこれに比較的近接して2次元センサを取り付け、剛体の表面に平行な平面に音響センサを方向を合わせることにより、剛体の表面に垂直な方向の粒子速度の速度成分が、たとえばゼロと分かる。このようにして、本発明の発明者は、2次元センサを3次元センサの代わりに使用して、必要なコンピュータ、音響センサ、関連ハードウェアの数、およびANCシステムの計算能力を大幅に削減できることを見出した。さらに、2次元センサのサイズおよび形状は、3次元センサのシステムに比べてはるかに小型で平坦であるため、閉ざされた空間内にさらに多くのセンサを散在させることができる。
【0017】
センサがシリンダに取り付けられている1つの円筒形の実施形態において、円筒形の2次元センサの縦横比は2/5である。ここで縦横比は、シリンダの深さをシリンダの直径で割ったものである。この縦横比について、音響センサの効果的な音響分離距離は、物理的分離距離の3/2である。
【0018】
筐体は、たとえば6つの面に囲まれる立方体領域のように、完全に壁で囲まれている空間に限定する必要はない。その代わり、本発明において使用されるように、筐体は少なくとも2つの対向する面または壁を備える任意の空間を備えることができる。壁は、互いに近接している必要はない。たとえば、筐体の1つの壁は、工場の内壁によって形成されたもう一方の壁と共に工場内の機械の外面によって形成されたものであってもよい。
【0019】
音場の合計エネルギーは、位置および運動エネルギー量で構成される。位置エネルギーは音圧の関数であり、運動エネルギーは音響粒子速度の関数である。位置エネルギーは以下のように表すことができる。
【0020】
【数1】

【0021】
ここで、pは音響エネルギー、pは周囲の空気の密度、cは音の速さ、Vは位置エネルギーを含んでいる空気の体積である。空気の体積における合計運動エネルギーは以下のように表すことができる。
【0022】
【数2】

【0023】
ここで、uは音響粒子速度の大きさである。瞬間の合計音響エネルギー密度は、位置エネルギー密度および運動エネルギー密度の和であり、以下のように表すことができる。
【0024】
【数3】

【0025】
空気の密度および空気中の音の速度を既知の定数と仮定することによって、EDを計算するために測定する必要があるのは音圧および粒子速度だけになる。音響センサの対を使用して、粒子速度は、単一方向の音響センサの軸に沿って測定することができる。面に平行で近接して配置された直交音響センサの2つの対から、3つの軸に沿って粒子速度が得られる。つまり、直角に配置された音響センサの2つの対によって定義されるx軸とy軸に沿って、および音響センサおよび剛体の表面に垂直のゼロ速度の既知の速度である。したがって、制御システムに接続された2次元センサおよび1つまたは複数の音響アクチュエータは、効果的なANCシステムを形成することができる。
【0026】
開示される実施形態と一致する制御システムは、フィードフォワード制御システムを使用することができる。フィードフォワード制御システムは、参照入力を受け入れてあらかじめ到来する雑音を予測し、雑音に逆に作用するのに十分間に合うように適切な制御信号を生成できるようになっている。閉ざされた空間の壁の振動が雑音源であると考えられる場合、本発明のシステムでは、音波の重ね合わせの原理を使用して、雑音源により放射される音響エネルギーを最小に抑えるように、雑音源によって見られた音響放射インピーダンスを変更する。
【0027】
当業者に周知の、Filterd−X LMSアルゴリズムは、開示される制御システムの実施形態に合わせて修正することができる。標準的なFilterd−X LMSアルゴリズムは、SPシステムと共に使用することが意図されている。修正されたFilterd−X LMSアルゴリズムは、その用途が音圧および音響粒子速度の両方に依存するEDシステム向けであることを考慮している。
【0028】
図1は、修正されたFilterd−X LMS制御システム100のブロック図を示している。基準信号x(n)105は、システムに供給される。基準信号105は、たとえば、自動車エンジンのような雑音源からのタコメーター信号であってもよい。基準信号105は、たとえばエンジンの筐体またはキャビンなどのプラント110に入り、ノイズを生じるが、これはエネルギー密度制御の観点から音圧115および音粒子速度120を備えている。筐体は、少なくとも2つの実質的に対向する側面を有する空間である。音粒子速度は3次元のベクトル量であり、すべての3つの成分はエネルギー密度に潜在的に寄与する可能性がある。
【0029】
制御システム100は、基準信号105を受信し、有限インパルス応答(「FIR」)フィルタ135を基準信号に適用して出力信号u(n)140を生成する。出力信号140は、出力信号140が誤差信号e(n)130への寄与として制御システム100に戻る前に通過する必要がある第2の経路パスH(z)145を経由して進む。第2の経路145は、たとえばデジタル/アナログ変換器、フィルタ、オーディオパワーアンプ、音響アクチュエータ、音響伝送路、エラーセンサ、信号処理電子技術、アンチエイリアスフィルタ、およびアナログ/デジタル変換器など、制御システム100のハードウェア実装に固有の効果を備えることもできる。第2の経路145の出力は、相殺(cancellation)圧力150および相殺(cancellation)粒子速度155を備えている。速度加重シンボル160および圧力加重シンボル165によって示されているこれらの音波の重ね合わせは、雑音を低減する。処理ブロック125は、閉ざされた空間の実際の低減された雑音レベルを感知し、直交するxおよびy方向の圧力および速度成分からエネルギー密度量の実際の勾配を計算する。処理ブロック125は、誤差信号としてエネルギー密度勾配量をFIRフィルタ135に送信する。
【0030】
FIRフィルタ135は、その制御フィルタ係数に第2の経路の効果を組み込む。第2の経路の効果の推定は、システム識別の処理を通じて得ることができる。システム識別は、第2の経路145の伝達関数をモデル化する。システム識別は、システムが稼動中またはオフラインの間に実行することができる。オフラインのシステム識別は、既知の信号を未知のシステムに投入して、システムの出力を測定することによって実行することができる。既知の信号の例には、ホワイトノイズがある。システム識別の実行により、FIRフィルタ145の係数が確立される。
【0031】
図2は、筐体内の雑音を低減するための制御システム100の動作を示すフロー図である。制御システム100は、低減すべき雑音の主音調成分の基準信号105を受信する(ステージ210)。基準信号105に加えて、制御システム100は、筐体内の面に平行で近接して配置された直交音響センサの2つの対から圧力信号を受信する(ステージ220)。音響センサを筐体内の面に近接して配置することにより、面に垂直な速度は既知の量ゼロになり、追加の音響センサおよび処理能力は必要なくなる。
【0032】
制御システム100は、以下の数式に従って、xおよびy方向の雑音粒子速度を計算する。
【0033】
【数4】

【0034】
ここで、ρは空気の密度、Δxは対の音響センサ間の有効距離、pは対の各音響センサにおける雑音圧力である。数式は、VおよびVを生成するように計算される。さらに、たとえば、4つの音響センサにおいて感知された圧力の平均をとることにより、平均雑音圧力が計算される(ステージ230)。平面を定義するには3点で十分であるため、2つの対の直交に配置された音響センサの代わりに3つの音響センサを使用できることを、当業者であれば理解するであろう。このようにして、音響センサ構成の配置および三角法が指示するように、計算は3音響センサシステムに合わせて適切に変化する。
【0035】
制御システム100内のコントローラの各サイクルは、FIRフィルタの制御フィルタ係数を更新することができる。これは、システム識別プロセスで生成されたシステム識別フィルタが基準信号に適応されてFilterd−X信号が生成され(ステージ240)、誤差信号(error signal)130と共にFilterd−X信号が使用されて制御フィルタ係数w(n)の値が更新される(ステージ250)という2つのステップのプロセスである。
【0036】
ステージ240に戻ると、2つの音響アクチュエータを有するシステムにおいて、第1の音響アクチュエータの圧力rp,1(n)、第1の音響アクチュエータのx方向の速度rvx,1(n)、第1の音響アクチュエータのy方向の速度rvy,1(n)、第2の音響アクチュエータの圧力rp,2(n)、第2の音響アクチュエータのx方向の速度rvx,2(n)、第2の音響アクチュエータのy方向の速度rvy,2(n)の6つのFilterd−X信号が形成される。Filterd−X信号の形成は、たとえば第1の音響アクチュエータのx方向の場合、以下のようになる。
【0037】
【数5】

【0038】
ここで、
【0039】
【数6】

【0040】
係数は、システム識別プロセスから得られたシステム識別係数である(ステージ240)。Jの値が大きくなれば、それに応じて決定されるシステム識別係数の数も大きくなる。基本的に
【0041】
【数7】

【0042】
係数は、制御出力からセンサ入力へのインパルス応答をモデル化するか、または前述のように第2の経路145をモデル化する。システム識別係数の数が増加すると、モデル化できるインパルス応答の部分が増加する。システム識別係数の数が、インパルス応答のほとんどのエネルギーを取り込むために必要な数を超えて増加すると、収穫逓減をもたらす。
【0043】
制御フィルタ係数は、コントローラの各サイクル中に更新することができる(ステージ250)。音響アクチュエータごとに1つの各出力は、関連するFIRフィルタ135を備えている。制御フィルタ係数は、以下の公式に従って、Filterd−X信号および基準信号105を使用して更新される。
(n+1)=w(n)−μρcv(n)rvx(n−i)−μρcv(n)rvy(n−i)−μp(n)r(n−i)
【0044】
ここで、iは0からI−1(Iは通常8から128の範囲をとる)、cは音の速度、μはフィルタ収束因数(通常10−9から10−12前後)である。上記の数式から分かるように、制御フィルタ係数は現在および過去のFilterd−X信号を使用するので、コントローラはこれらの信号の現在過去値のバッファを保持することができる。フィルタが収束するレートは、μによって制御される。大きなμの値はフィルタ収束の速度を増加させるが、この値を極端に高くすると、達成される減衰の量を減少させることもあり、その結果制御システムが不安定になる可能性がある。
【0045】
制御システムが、次の制御サイクル中に使用するためにFIRフィルタ135への更新を計算している間(ステージ230から250)、制御システムは現在の制御フィルタ係数を基準信号に適用して、雑音を音響的に相殺する(ステージ260および270)。コントローラは、以下の数式に従い、制御フィルタ係数の現在の推定値を使用して、制御チャネルごとに1つずつ、2つの出力信号140を生成する(ステージ260)。
【0046】
【数8】

【0047】
ここで、Iはフィルタ係数の数を表し、wはフィルタ係数である。一般に、32またはそれよりも小さい係数は、システムを良好に制御するのに十分である。
【0048】
制御システムは、1つまたは複数の出力信号を取り込み、それぞれの音響アクチュエータを駆動する(ステージ270)。次にコントローラは、基準信号の読み取りに戻り(ステージ210)、プロセスを繰り返す(ステージ280)。
【産業上の利用可能性】
【0049】
図3は、2次元センサ330を使用するエネルギー密度ANC制御システムの実装を示している。ANC制御システムでは、2次元センサ330を使用して2つの直交方向の粒子速度を感知し、自動車キャビン310などの閉ざされた空間の音圧を測定する。2次元センサ330は、自動車キャビン内部の面に垂直に近接して配置される。2次元センサ330は、たとえば自動車キャビン310の天井の下など、視界から隠して配置することができる。2次元センサ330を形成する音響センサの2つの対からの信号は、制御システム320と通信する。制御システム320は、たとえばTexas Instruments DSPまたはMotorola DSPなどのデジタル信号プロセッサ、あるいはマイクロプロセッサを含むことができる。制御システム320は、図1および図2を参照して説明される働きに従って動作する。
【0050】
制御システム320はさらに、2次元センサ330および信号処理電子技術と通信するための入力/出力ボードを含むこともできる。制御システム320で使用される入力/出力ボードは、たとえば、12ビットデジタル/アナログ変換器(「DAC」)およびアナログ/デジタル(「ADC」)変換器を含むことができる。信号制御電子技術は、2次元センサ330からの入力に対する調整可能なゲインを提供することもできる。たとえば、0、10、または20dBのゲインは、2次元センサ330の音響センサごとに適用して微調整することができる。さらに、2次元センサ330からのアナログ信号は、ADCの前に低域フィルタ処理してエイリアシングを減少させることができ、DSPからのデジタル信号は、DACの後にフィルタ処理して量子化による望ましくない高周波数成分を除去することができる。
【0051】
制御システム320は、2次元センサ330からの入力をエネルギー密度誤差信号として使用する。基準信号350は、たとえばエンジンタコメーターから、制御システム320に供給される。基準信号350は、低域フィルタ処理することもできる。
【0052】
自動車内の雑音は、エンジンのような回転構成要素の回転速度に関連する音調成分に支配される場合もある。たとえば通常の6気筒エンジンにおいて、エンジン点火頻度は、エンジン回転数の3倍であり、一般に自動車のキャビン内部の雑音の主要な音調成分である。エンジン点火頻度は通常、40Hzから200Hzの範囲である。したがって、基準信号350は、エンジン点火頻度に対応する。
【0053】
制御システム320の出力は、1つまたは複数の音響アクチュエータ340a、340b、340cに供給することができる。通常の設置において、音響アクチュエータ340aおよび340bは左および右の音響アクチュエータを表し、それぞれの高域フィルタ経由でそれぞれの制御信号を受信する。音響アクチュエータ340cはサブウーファーであり、加算器380を通じて低域フィルタの対を経由する制御システム320の左および右の出力を受信することができる。このようにして、サブウーファー340cは、制御システム320の両方の出力チャネルの出力周波数を生成する役割を果たしている。サブウーファー340cは、システム300と共に使用する必要はないが、低周波数範囲で付加的な支援を行う。音響アクチュエータ340は、制御システム320からの信号がエンターテイメントシステム出力増幅器の音響出力と混合されている、自動車内に設置された標準エンターテイメントシステムの一部であってもよい。あるいは、制御システム320は、自動車の標準エンターテイメントシステムに組み入れられ、標準エンターテイメントシステムの出力増幅器と共用することもできる。
【0054】
上記の実施態様は単一の2次元センサを参照して説明されているが、複数のセンサを使用することができる。さらに、2つよりも多いまたは少ない出力チャネルも使用することができる。
【0055】
図4は、2次元センサ330を示している。2次元センサ330は、直交して配列された音響センサの2つの対420および430を備えている。音響センサ対の間の距離は既知であり、上記で説明した速度の数式に使用することができる。音響センサ対420、430の各音響センサは、粒子速度および平均音圧を計算するために制御システム320に渡すように、環境から音圧を受信する。たとえば、音響センサ対430は音波410xから圧力を受信し、音響センサ対420は音波410yから圧力を受信する。前述のように、制御システム320の適切な変更により、3音響センサシステムを使用できることを、当業者であれば理解するであろう。
【0056】
図5は、制御システム320をさらに詳細に示している。特に、制御システム320は制御係数更新プロセス320bを含んでいる。制御係数更新プロセスは、基準信号に適用されるシステム識別フィルタを使用してFilterd−X信号を生成する。制御センサ330からの誤差信号と共にFilterd−X信号を使用して、制御フィルタ係数w(n)の値が更新される。これらの関数については、図2のステージ240およびステージ250を参照して前述されている。係数更新プロセス320bは、2チャンネルシステムの機能要素を示している。係数更新プロセスから生成された制御係数はFIRフィルタ320aで使用され、図2のステージ260に関して前述されているように2つのチャンネルの出力信号を生成する。
【0057】
さらに、本システムの態様は、たとえば、工場フロアの機械に近接する雑音を低減するために使用することができる。センサ330は、機械の面に垂直に近接して配置することができる。機械の面は、オペレータの周囲の雑音が低減されるように、機械オペレータの位置に近接させることができる。筐体は、機械の面と、工場の内壁、別の機械の面、または個々の壁の面など追加の面によって形成される機械に近接する空間を含んでいる。
【0058】
明確な特性のさまざまな変更および変形を行うことができ、そのようなすべての変更および変形は添付の特許請求の範囲内であることが、当業者には容易に明らかとなろう。他の実施形態は、本開示の明細および実施を考察することにより、当業者には明らかとなろう。本発明の明細および実施例は模範的なものに過ぎないと見なされるよう意図され、添付の請求の範囲およびその等価物によって本発明の開示の真の範囲および精神が示されている。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】修正されたFilterd−X LMS制御システムを示すブロック図である。
【図2】筐体内の雑音を低減するための制御システムの動作を示すフロー図である。
【図3】2次元センサを使用するエネルギー密度ANC制御システムの実装を示す図である。
【図4】2次元センサを示す図である。
【図5】制御システムのさらなる詳細を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
100、320 制御システム
110 プラント
125 処理ブロック
135 有限インパルス応答フィルタ
310 筐体
340a、340b、340c 音響アクチュエータ
330 2次元センサ
380 加算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体(enclosure)(110)内の雑音を低減する方法であって、
少なくとも1つの基準信号(105)を受信するステップと、
2つ以下の実質的に直角に配置された音響センサの対(330)から圧力信号を受信するステップであって、音響センサの1つの対はx方向にあり、音響センサの1つの対はy方向にあり、前記音響センサは、前記筐体(110)の内面に実質的に平行で近接している平面に配置されることと、
前記音響センサの位置におけるエネルギー密度を最小化するように、出力信号(140)を生成するために前記圧力信号および前記基準信号(105)を使用するステップと、
前記出力信号(140)を音響アクチュエータ(340)に送信するステップと、
を備えたことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記圧力信号を使用するステップは、前記x方向の音響センサの前記対からの前記圧力信号からx方向速度信号を、前記y方向の音響センサの前記対からの前記圧力信号からy方向速度信号を生成するステップ(230)をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1つまたは複数の前記受信した圧力信号から平均圧力信号を生成するステップをさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記基準信号(105)に制御フィルタ係数(135)を適用して前記出力信号(140)を生成するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
Filterd−X信号を生成するために、前記基準信号(105)にシステム識別フィルタ(320b)を適用するステップをさらに備えたことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
筐体(310)内の雑音を低減するシステムであって、
基準信号(350)と、
音響アクチュエータ(340)と、
2つ以下の実質的に直角に配置された音響センサの対(420、430)を含むセンサ装置(330)であって、音響センサの1つの対(430)はx方向にあり、音響センサの1つの対(420)はy方向にあり、前記音響センサ(420、430)は前記筐体(310)の内面に実質的に平行で近接している平面に配置されることと、
前記基準信号(350)、前記音響アクチュエータ(340)、および前記センサ装置(330)と通信するコントローラ(320)であって、
前記基準信号(350)を受信し、
前記センサ装置(330)からの圧力信号を受信し、
前記センサ装置(330)の位置におけるエネルギー密度を最小化するように、出力信号を生成するために前記圧力信号および前記基準信号(350)を使用し、
前記出力信号を前記音響アクチュエータ(340)に送信するように動作可能なことと、
を備えたことを特徴とするシステム。
【請求項7】
前記コントローラ(320)は前記x方向の音響センサの前記対(430)からの前記圧力信号からx方向速度信号と、前記y方向の音響センサの前記対(420)からの前記圧力信号からy方向速度信号とを生成するようにさらに動作可能であることを特徴とする請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記コントローラ(320)は、1つまたは複数の前記受信した圧力信号から平均圧力信号を生成するようさらに動作可能であることを特徴とする請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記コントローラ(320)は、前記出力信号を生成するために前記基準信号(350)に制御フィルタ係数を適用するようさらに動作可能であることを特徴とする請求項6に記載のシステム。
【請求項10】
前記コントローラ(320)は、前記基準信号(350)にシステム識別フィルタを適用してFilterd−X信号を生成するようさらに動作可能であることを特徴とする請求項9に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−65324(P2006−65324A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−231156(P2005−231156)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(505300162)ブリガム ヤング ユニバーシティ (2)
【Fターム(参考)】