説明

2液型水性塗料組成物

【課題】優れた防食性および密着性を両立する2液型水性塗料組成物を提供すること。
【解決手段】主剤と硬化剤とを含む2液型水性塗料組成物であって、該主剤が、乳化エポキシ樹脂(a)と、ガラス転移温度が−40〜−5℃であるアクリルエマルション樹脂(b)とを含み、該硬化剤が、ポリアミン樹脂(c)を含む、2液型水性塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2液型水性塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、主剤である自己乳化型エポキシ樹脂と硬化剤であるポリアミン樹脂とを含む2液型水性塗料組成物が知られている。例えば、特許文献1には、自己乳化型エポキシ樹脂とポリアミン系硬化剤と炭化水素樹脂とを含む塗料組成物が開示されている。このような塗料組成物によれば、一定の防食性や素地への付着性が得られるものの、防食性および素地への密着性のさらなる向上が要求されている。
【0003】
このような要求に対して、自己乳化型エポキシ樹脂とポリアミン樹脂とアクリルシリコン樹脂エマルションとを含む2液型水性塗料組成物が提案されている(特許文献2)。このような塗料組成物によれば、高い防錆性および密着性が得られるが、アクリルシリコン樹脂エマルションを使用するのでコストが高くなるという問題がある。また、該塗料組成物を長期保存してから塗膜を形成すると、密着性が低下するおそれがある。これは、アルコキシシリル基を有するモノマーを用いた重合反応により調製されたアクリルシリコン樹脂エマルションにおいて、重合反応後にも架橋反応が進行すると考えられるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−202318号公報
【特許文献2】特許第3274401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来の問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、優れた防食性および密着性を両立する2液型水性塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の2液型水性塗料組成物は、主剤と硬化剤とを含む2液型水性塗料組成物であって、該主剤が、乳化エポキシ樹脂(a)と、ガラス転移温度が−40〜−5℃であるアクリルエマルション樹脂(b)とを含み、該硬化剤が、ポリアミン樹脂(c)を含む。
好ましい実施形態においては、上記アクリルエマルション樹脂(b)が、1分子中に2つ以上の不飽和基を有する架橋性モノマーを含むモノマー混合液を乳化重合して得られるエマルション樹脂である。
好ましい実施形態においては、上記モノマー混合液が、連鎖移動剤をさらに含む。
好ましい実施形態においては、上記モノマー混合液中における上記架橋性モノマーの含有量が1〜6質量%であり、上記架橋性モノマーと上記連鎖移動剤との固形分質量比が2/1〜30/1(架橋性モノマー/連鎖移動剤)である。
好ましい実施形態においては、上記アクリルエマルション樹脂(b)の配合量が、上記乳化エポキシ樹脂(a)に対して、5〜30質量%(固形分比)である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、優れた防食性および密着性を両立する2液型水性塗料組成物が提供され得る。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.2液型水性塗料組成物の概要
本発明の2液型水性塗料組成物は、主剤と硬化剤とを含む2液型水性塗料組成物であって、該主剤が、乳化エポキシ樹脂(a)と、ガラス転移温度が−40〜−5℃であるアクリルエマルション樹脂(b)とを含み、該硬化剤が、ポリアミン樹脂(c)を含む。本発明の2液型水性塗料組成物は、必要に応じて、さらに顔料、添加剤等の他の構成成分を含んでもよい。従来、エポキシ樹脂を主剤とし、ポリアミン樹脂を硬化剤とする塗料組成物において、主剤にアクリル系樹脂を加えると耐水性が低下する等の問題があるために、これらを併用することについての詳細な検討はほとんど行われていない。これに対し、本発明者らは、エポキシ樹脂と所定のガラス転移温度を有するアクリル樹脂とを併用することにより、塗膜に優れた密着性と防食性とを付与し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。それぞれ単独では防食性と密着性とを両立することができないエポキシ樹脂とアクリル樹脂とを併用して、塗膜に優れた防食性と密着性とを付与したことは本発明の優れた効果の一つである。
【0009】
上記2液型水性塗料組成物の固形分濃度は、好ましくは30〜80質量%、さらに好ましくは40〜70質量%である。このような固形分濃度であれば、塗装作業性に優れた2液型水性塗料組成物が得られ得る。該固形分濃度は、水の添加等により調整することができる。
【0010】
上記2液型水性塗料組成物中における乳化エポキシ樹脂(a)の固形分含有量は、2液型水性塗料組成物の全固形分に対して好ましくは10〜80質量%、さらに好ましくは15〜75質量%である。
【0011】
上記2液型水性塗料組成物中におけるアクリルエマルション樹脂(b)の含有量は、乳化エポキシ樹脂(a)に対して好ましくは5〜30質量%(固形分比)、さらに好ましくは5〜20質量%である。ここで、5質量%未満であると、塗膜にした場合に応力緩和能力が低下するために密着性が劣る場合があり、30質量%を超えると塗料組成物内でのエポキシ樹脂の配合量が少なくなるために防食性が低下する場合がある。
【0012】
上記2液型水性塗料組成物中におけるポリアミン樹脂(c)の含有量は、好ましくはその活性水素が主剤中に含まれるエポキシ基1当量に対して0.7〜1.5当量、さらに好ましくは0.9〜1.1当量となる値である。0.7当量未満では塗膜の硬化乾燥が不十分となる場合があり、1.5当量を超えると吸湿性が高くなって防食性が低下する場合があるからである。
【0013】
上記2液型水性塗料組成物が上記他の構成成分を含む場合、その含有量は本発明の効果が得られる範囲内で適切に設定され得る。2液型水性塗料組成物における該含有量は、例えば5〜60質量%であり得る。
【0014】
A−1.乳化エポキシ樹脂(a)
本発明においては、任意の適切な乳化エポキシ樹脂(a)が用いられる。乳化エポキシ樹脂(a)は、自己乳化型であってもよく、強制乳化したものであってもよい。また、乳化エポキシ樹脂(a)は、液体状の原料から製造されてもよく、固体状の原料から製造されてもよい。人体への安全性がより高いことから、乳化エポキシ樹脂(a)は、好ましくは固体状の原料から製造される。
【0015】
乳化エポキシ樹脂(a)のエポキシ当量は、所望の塗膜物性に応じて適切に決定し得る。エポキシ当量の上限は、好ましくは2700g/当量以下、さらに好ましくは2500g/当量以下である。乳化エポキシ樹脂(a)のエポキシ当量の下限は、液体状の原料から製造される場合は、好ましくは220g/当量以上、さらに好ましくは300g/当量以上であり、固体状の原料から製造される場合は、好ましくは450g/当量以上である。このようなエポキシ当量であれば、防食性および密着性に優れた塗膜を得ることができる。
【0016】
乳化エポキシ樹脂(a)の数平均分子量は、所望の塗膜物性に応じて適切に決定し得る。数平均分子量は、好ましくは450〜3000、さらに好ましくは900〜2800である。このような数平均分子量であれば、防食性および密着性に優れた塗膜を得ることができる。なお、数平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィーにより測定可能であり、スチレン標準を用いた換算値として表示され得る。
【0017】
自己乳化型の乳化エポキシ樹脂(a)としては、例えば、任意の適切なエポキシ樹脂、好ましくはビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、またはこれらの変性物に、常法によって親水性部分を導入したものが挙げられる。親水性部分としては、水酸基やカルボキシル基を有する側鎖、非イオン性のポリアルキレンオキサイド骨格等が挙げられる。
【0018】
強制乳化型の乳化エポキシ樹脂(a)としては、例えば、任意の適切なエポキシ樹脂、好ましくはビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、またはこれらの変性物を任意の適切な乳化剤とともに水中で攪拌して乳化したものが挙げられる。
【0019】
乳化エポキシ樹脂(a)の固形分濃度は、好ましくは40〜60重量%、さらに好ましくは42〜58重量%である。
【0020】
A−2.アクリルエマルション樹脂(b)
本発明においては、ガラス転移温度が−40〜−5℃であるアクリルエマルション樹脂(b)が用いられる。ガラス転移温度は、好ましくは−38〜−8℃、さらに好ましくは−35〜−10℃である。このようなガラス転移温度を有するアクリルエマルション樹脂(b)を用いることにより、塗膜の密着性を向上することができる。これはアクリルエマルション樹脂(b)が塗膜の応力を緩和し得るためと考えられる。ここで、−40℃未満であると塗膜が軟らかくなりすぎるために防食性が低下する場合があり、−5℃を超えると応力緩和能力が低下するために密着性が劣る場合がある。なお、上記ガラス転移温度(Tg)は、アクリルエマルション樹脂(b)を構成する各モノマーの構成比に基づいて、各モノマーから得られるホモポリマーのTgからFOXの式により求めたものである。
【0021】
アクリルエマルション樹脂(b)は、任意の適切なモノマーを含むモノマー混合液を乳化重合することにより得られる。モノマー混合液は、好ましくは1分子中に2つ以上の不飽和基を有する架橋性モノマーを含む。架橋性モノマーを用いることにより、アクリルエマルション樹脂(b)の内部に架橋構造が形成されて、遮蔽性が高くなるので、塗膜の防食性向上に寄与し得る。モノマー混合液は、さらに好ましくは上記架橋性モノマーに加えて連鎖移動剤を含む。連鎖移動剤を用いることにより、アクリルエマルション樹脂(b)の分子量が調整されて塗膜に柔軟性を付与することができるので、塗膜の応力緩和能力向上に寄与し得る。樹脂の高分子化に寄与する架橋性モノマーと、樹脂の低分子化に寄与する連鎖移動剤とを併用することにより、より高い遮蔽性と応力緩和能力を有したアクリルエマルション樹脂(b)が得られ得る。
【0022】
上記架橋性モノマーとしては、具体的には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジアリルフタレート等を挙げることができる。これらのうち、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0023】
上記連鎖移動剤としては、具体的には、ラウリルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のアルキルメルカプタン;チオグリコール酸−2−エチルへキシル、2−メチル−5−t−ブチルチオフェノール、四臭化炭素、α−メチルスチレンダイマー等を挙げることができる。これらのうち、ラウリルメルカプタンが好ましい。
【0024】
モノマー混合液に含まれる架橋性モノマーと連鎖移動剤との固形分質量比は、好ましくは2/1〜30/1(架橋性モノマー/連鎖移動剤)である。2/1より架橋性モノマーが少ないと遮蔽効果の低下にともなう防食性の低下が生じる場合があり、30/1より架橋性モノマーが多いと柔軟性に欠け応力緩和能力が低下する場合がある。モノマー混合液における架橋性モノマーの含有量は、好ましくは1〜6質量%、さらに好ましくは2〜5質量%である。上記範囲外であると、得られるエマルション樹脂の安定性が不充分になる場合がある。また、モノマー混合液における連鎖移動剤の含有量は、好ましくは0.1〜3質量%である。0.1質量%未満では塗膜にした場合の応力緩和能力が低下し、密着が劣る場合があり、3質量%を超えると分子量が小さすぎるために遮蔽効果が低下し、防食性の低下が生じる場合がある。
【0025】
モノマー混合液中に含まれる他のモノマーとしては、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸二量体、クロトン酸、2−アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、イソクロトン酸、α−ハイドロ−ω−[(1−オキソ−2−プロペニル)オキシ]ポリ[オキシ(1−オキソ−1,6−ヘキサンジイル)]、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、3−ビニルサリチル酸、3−ビニルアセチルサリチル酸等のカルボン酸基含有不飽和モノマー;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル等の水酸基含有不飽和モノマー;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有不飽和モノマー;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジブチル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)メタクリルアミド等のアミド基含有不飽和モノマー;ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有不飽和モノマー;アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等のカルボニル基含有不飽和モノマー;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;スチレン、メチルスチレンのビニル化合物;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル等を挙げることができる。上記他のモノマーは2種以上であってもよい。
【0026】
モノマー混合液は、上記他のモノマーとして、好ましくは上記カルボン酸基含有不飽和モノマーを含む。モノマー混合液の酸価は、好ましくは5〜50mgKOH/g、さらに好ましくは10〜40mgKOH/gである。このようなモノマー混合液を用いることにより、安定性に優れたアクリルエマルション樹脂(b)が得られ得る。なお、得られたアクリルエマルション樹脂(b)は、必要に応じて、所望の中和率に中和され得る。
【0027】
上記モノマー混合液は、(メタ)アクリル系モノマーを含む。1つの実施形態においては、上記他のモノマーの一部または全部が(メタ)アクリル系モノマーであり得る。別の実施形態においては、上記架橋性モノマーの一部または全部が(メタ)アクリル系モノマーであり得る。さらに別の実施形態においては、上記他のモノマーおよび上記架橋性モノマーの両方が、その一部または全部として(メタ)アクリル系モノマーを含み得る。(メタ)アクリル系モノマーの含有量は、モノマー混合液中の全モノマー100モル%に対し、好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上である。
【0028】
乳化重合方法としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;t−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素等の過酸化物;還元剤(例えば、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、ロンガリット)と酸化剤(例えば、上記過酸化物)とを組み合わせたレドックス開始剤;4,4'−アゾビス4−シアノ吉草酸等のアゾ系化合物等の重合開始剤を上記モノマー混合液に対して0.1〜3質量%含有させて、当業者によってよく知られた方法を用いることができる。
【0029】
アクリルエマルション樹脂(b)の質量平均分子量は、所望の塗膜物性に応じて適切に決定し得る。例えば、架橋性モノマーと連鎖移動剤とを含むモノマー混合液から得られたアクリルエマルション樹脂(b)の架橋点間分子量(質量平均分子量)は、好ましくは10000〜250000、さらに好ましくは20000〜200000である。このような架橋点間分子量を有するアクリルエマルション樹脂は、優れた遮蔽性および応力緩和能力を有し得る。
【0030】
アクリルエマルション樹脂(b)の固形分濃度は、好ましくは40〜60重量%である。
【0031】
アクリルエマルション樹脂(b)の体積平均粒子径は、特に限定されず、例えば、10〜500nmである。上記体積平均粒子径は、レーザー光散乱法等、当業者によってよく知られている方法で決定することができる。
【0032】
A−3.ポリアミン樹脂(c)
本発明においては、任意の適切なポリアミン樹脂(c)が用いられる。例えば、脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミン、脂環族ポリアミン、ポリアミドアミン、エポキシアダクトアミンが挙げられる。
【0033】
ポリアミン樹脂(c)の活性水素当量は、所望の塗膜物性に応じて適切に決定し得る。活性水素当量は固形分換算で、好ましくは60〜250g/当量、さらに好ましくは80〜150g/当量である。上記範囲外であると、可使時間が短くなる場合や、水での希釈が困難になる場合がある。
【0034】
ポリアミン樹脂(c)の固形分濃度は、好ましくは30〜70重量%、さらに好ましくは35〜65重量%である。
【0035】
ポリアミン樹脂(c)は、水溶性であってもよく、水分散性(エマルション)であってもよい。好ましくは水溶性である。上記主剤と混合した場合に、より均一な架橋構造を有する塗膜を形成し得るからである。
【0036】
水溶性または水分散性のポリアミン樹脂(c)は、ポリアミン樹脂に任意の適切な変性を施すことにより得られ得る。変性としては、アミノ基の一部または全部を酸により中和すること、アミノ基の一部をアセチル化すること等が挙げられる。酸の種類および中和率(変性前のポリアミン樹脂のアミン基に対する中和率)は、所望とするポリアミン樹脂(c)の状態(水溶性〜水分散体)に応じて、任意の適切な酸の種類および中和率を採用し得る。上記酸としては、例えば、酢酸、ギ酸、乳酸、リン酸等が挙げられる。中和率(変性前のポリアミン樹脂のアミン基に対する中和率)は、好ましくは10〜70%であり、さらに好ましくは、15〜50%である。
【0037】
A−4.その他の構成成分
上記のとおり、本発明の2液型水性塗料組成物は、顔料、添加剤等のさらなる構成成分を含み得る。顔料としては、例えば、酸化チタン、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アゾレッド、キナクリドンレッド、ベンズイミダゾロンイエロー等の着色顔料;炭酸カルシウム、硫酸バリウム、カオリン、クレー、タルク等の体質顔料が挙げられる。添加剤としては、例えば、分散剤、消泡剤、防錆剤、造膜助剤、粘度調整剤、硬化触媒、表面調整剤、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤が挙げられる。
【0038】
B.2液型水性塗料組成物の使用方法
本発明の2液型水性塗料組成物は、通常、上記構成成分を、水または水と親水性溶剤との混合液中に分散した態様で提供される。2液型水性塗料組成物を使用する際には、上記主剤と硬化剤とを塗装直前に混合することが好ましい。顔料や添加剤は、あらかじめ主剤および/または硬化剤に添加しておいてもよく、主剤と硬化剤の混合時に加えてもよい。
【0039】
本発明の2液型水性塗料組成物は、任意の適切な被塗物に塗装に用いられる。好ましい実施形態において、被塗物は、代表的には金属表面であり、好ましくは鉄、鋼、アルミニウム、ステンレスおよび亜鉛めっきやアルミめっき等のめっき鋼板の表面である。別の実施形態において、被塗物は、金属表面に形成された塗膜であり得る。すなわち、本発明の2液型水性塗料組成物は、金属表面の塗り替えに用いられ得る。
【0040】
塗装方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。例えば、刷毛塗り、エアスプレー、エアレススプレー、ローラー塗装が挙げられる。塗布量は、一般的には、10〜300g/mであることが好ましい。
【0041】
乾燥方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。好ましくは、自然乾燥または加熱乾燥である。自然乾燥の場合、乾燥時間は、好ましくは24時間以上、さらに好ましくは1週間以上である。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例には限定されない。なお、特に明記しない限り、実施例における部および%は質量基準である。
【0043】
[参考例1]アクリルエマルション樹脂(b)の製造1
滴下漏斗、温度計、窒素導入管、還流冷却器および撹拌機を備えたセパラブルフラスコにイオン交換水34.5部、商品名「ペレックスSS−H」(花王社製、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム)0.3部を仕込み、窒素雰囲気のもとで80℃に昇温した。次いで、モノマーとして、スチレン14部、2−エチルへキシルアクリレート58部、メチルメタクリレート22部、エチレングリコールジメタクリレート4部、およびメタクリル酸2部を含み、連鎖移動剤としてラウリルメルカプタン0.5部を含むモノマー混合液を調製した。得られたモノマー混合液の酸価は13mgKOH/gであった。該モノマー混合液を、ペレックスSS−H1.2部をイオン交換水50部に溶解させた乳化剤水溶液中に加え、ミキサーを用いて乳化させてプレエマルジョンを調製した。
【0044】
このようにして得られたプレエマルションと、過硫酸アンモニウム0.3部をイオン交換水13部に溶解させた開始剤水溶液とを上記セパラブルフラスコに別個の滴下漏斗から同時に滴下した。前者は120分間、後者は150分間にわたって均等に滴下を開始した。滴下終了後、同温度でさらに120分間反応を継続した。冷却後、用いたメタクリル酸の10モル%に相当するアンモニア水で中和した。中和物を200メッシュの金網で濾過し、アクリルエマルション樹脂b1を得た。アクリルエマルション樹脂b1を構成するモノマーが上記モノマー混合液のモノマー組成に対応するとして計算したところ、アクリルエマルション樹脂b1のTgは−21℃であった。なお、Tgを計算するにあたって、エチレングリコールジメタクリレートのホモポリマーのTgはメチルメタクリレートのホモポリマーのTgと同じ温度とした。
【0045】
[参考例2〜8]アクリルエマルション樹脂(b)の製造2〜8
表1記載の配合となるように調製したモノマー混合液を用いたこと以外は参考例1と同様にして、アクリルエマルション樹脂b2〜b8を得た。
【0046】
[参考例9]顔料ペーストの調製
商品名「DISPERBYK−190」(ビックケミー社製、分散剤) 1.85部、商品名「BYK−019」(ビックケミー社製、消泡剤) 0.3部、酸化チタン 13.7部、炭酸カルシウム 5.2部、タルク 20.5部、商品名「LFボウセイPM−303W」(キクチカラー社製、防錆剤) 1.5部、および水道水 11.5部を混合し、次いで、ディスパーを用いて分散することにより、顔料ペーストを得た。
【0047】
[実施例1]
参考例9で得た顔料ペースト 54.55部、商品名「アデカレレジン EM−101−50」(ADEKA社製、乳化エポキシ樹脂、エポキシ当量 500g/当量、固形分47%) 36部、商品名「CS−12」(チッソ社製、造膜助剤) 2.5部、商品名「コロミンW」(花王社製、防錆剤) 0.4部、商品名「SNデフォーマー1315」(サンノプコ社製、消泡剤) 0.2部、商品名「プライマル RM−12W」(ロームアンドハース社製、粘度調整剤) 0.25部、水道水 1.4部、および、参考例1で製造したアクリルエマルション樹脂b1 3.4部を混合して、主剤を得た。また、商品名「サンマイドWH−910」(エアープロダクツ・アンド・ケミカルズ社製、水溶性ポリアミン樹脂、活性水素当量 135g/当量(固形分換算、固形分60%) 7.77部と水道水 9.88部とを混合して、硬化剤を得た。該主剤と該硬化剤とを混合して、水性塗料組成物1を得た。得られた水性塗料組成物1を用いて後述の密着性評価および防食性評価を行った。結果を表2に示す。
【0048】
[実施例2]
アクリルエマルション樹脂b1の代わりにアクリルエマルション樹脂b2を使用したこと以外は実施例1と同様にして、水性塗料組成物2を得た。得られた水性塗料組成物2を用いて後述の密着性評価および防食性評価を行った。結果を表2に示す。
【0049】
[実施例3]
アクリルエマルション樹脂b1の代わりにアクリルエマルション樹脂b3を使用したこと以外は実施例1と同様にして、水性塗料組成物3を得た。得られた水性塗料組成物3を用いて後述の密着性評価および防食性評価を行った。結果を表2に示す。
【0050】
[実施例4]
アクリルエマルション樹脂b1の代わりにアクリルエマルション樹脂b4を使用したこと、および「アデカレジン EM−101−50」を36.6部、アクリルエマルション樹脂b4を2.4部混合したこと以外は実施例1と同様にして、水性塗料組成物4を得た。得られた水性塗料組成物4を用いて後述の密着性評価および防食性評価を行った。結果を表2に示す。
【0051】
[実施例5]
アクリルエマルション樹脂b1の代わりにアクリルエマルション樹脂b5を使用したこと、および「アデカレジン EM−101−50」を34部、アクリルエマルション樹脂b5を4.8部混合したこと以外は実施例1と同様にして、水性塗料組成物5を得た。得られた水性塗料組成物5を用いて後述の密着性評価および防食性評価を行った。結果を表2に示す。
【0052】
[実施例6]
アクリルエマルション樹脂b5の代わりにアクリルエマルション樹脂b6を使用したこと以外は実施例5と同様にして、水性塗料組成物6を得た。得られた水性塗料組成物6を用いて後述の密着性評価および防食性評価を行った。結果を表2に示す。
【0053】
[実施例7]
「アデカレレジン EM−101−50」を32.6部、アクリルエマルション樹脂b1を6.2部混合したこと以外は実施例1と同様にして、水性塗料組成物7を得た。得られた水性塗料組成物7を用いて後述の密着性評価および防食性評価を行った。結果を表2に示す。
【0054】
[比較例1]
アクリルエマルション樹脂b1の代わりにアクリルエマルション樹脂b7を使用したこと以外は実施例1と同様にして、水性塗料組成物C1を得た。得られた水性塗料組成物C1を用いて後述の密着性評価および防食性評価を行った。結果を表2に示す。
【0055】
[比較例2]
アクリルエマルション樹脂b1の代わりにアクリルエマルション樹脂b8を使用したこと以外は実施例1と同様にして、水性塗料組成物C2を得た。得られた水性塗料組成物C2を用いて後述の密着性評価および防食性評価を行った。結果を表2に示す。
【0056】
[密着性評価]
試験方法:
ミガキ鋼板に200g/mとなるように水性塗料組成物を刷毛で塗布し、20℃で7日間乾燥させることにより、試験片を得た。JIS K 5600 7−2に定める耐湿性(回転式)の湿潤箱に試験片を入れ、4日後に取り出した。次いで、塗膜表面の水分を取り除いてから15分後に、碁盤目にカットを入れた。該表面にセロハンテープを貼った後、速やかに剥がし、下記の評価方法にしたがって密着性を評価した。
【0057】
評価方法:
試験片の表面に対する塗膜が剥がれた面積の割合によって以下の通り評価した。
◎:5%未満
○:5%以上26%未満
△:26%以上51%未満
×:51%以上
【0058】
[防食性評価]
試験方法:
サンドブラスト板に200g/mとなるように水性塗料組成物を刷毛で塗布し、20℃で7日間乾燥させることにより、試験片を得た。該試験片に対し、JIS K 5600 7−7に定めるサイクル腐食試験を実施し、400サイクル後の塗膜状態を確認した。
【0059】
評価方法:
試験片の表面に対する塗膜に生じた錆面積の割合によって以下の通り評価した。
◎:0.05%未満
○:0.05%以上0.1%未満
△:0.1%以上0.3%未満
×:0.3%以上
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
表2に示されるように、本発明の2液型水性塗料組成物は、乳化エポキシ樹脂(a)とガラス転移温度が−40〜−5℃であるアクリルエマルション樹脂(b)とポリアミン樹脂(c)とを含むので、優れた密着性と防食性とを両立することができる(例えば、実施例3参照)。また、架橋性モノマーを含むモノマー混合液から調製されたアクリルエマルション樹脂(b)を用いると、防食性がさらに向上し得ることがわかる。また、架橋性モノマーと連鎖移動剤とを含むモノマー混合液から調整されたアクリルエマルション樹脂(b)を用いると、優れた密着性と防食性とを高いレベルで両立し得ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の2液型水性塗料組成物は、船舶、橋梁等の大型鋼構造物、鉄骨、手摺り、鉄扉、門扉等の鋼材、建築物外装、床、建材等の錆止め、シーラー、プライマー等に好適に利用され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主剤と硬化剤とを含む2液型水性塗料組成物であって、
該主剤が、乳化エポキシ樹脂(a)と、ガラス転移温度が−40〜−5℃であるアクリルエマルション樹脂(b)とを含み、
該硬化剤が、ポリアミン樹脂(c)を含む、2液型水性塗料組成物。
【請求項2】
前記アクリルエマルション樹脂(b)が、1分子中に2つ以上の不飽和基を有する架橋性モノマーを含むモノマー混合液を乳化重合して得られるエマルション樹脂である、請求項1に記載の2液型水性塗料組成物。
【請求項3】
前記モノマー混合液が、連鎖移動剤をさらに含む、請求項2に記載の2液型水性塗料組成物。
【請求項4】
前記モノマー混合液中における前記架橋性モノマーの含有量が1〜6質量%であり、前記架橋性モノマーと前記連鎖移動剤との固形分質量比が2/1〜30/1(架橋性モノマー/連鎖移動剤)である、請求項3に記載の2液型水性塗料組成物。
【請求項5】
前記アクリルエマルション樹脂(b)の配合量が、前記乳化エポキシ樹脂(a)に対して、5〜30質量%(固形分比)である、請求項1〜4のいずれかに記載の2液型水性塗料組成物。



【公開番号】特開2010−195929(P2010−195929A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42187(P2009−42187)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【出願人】(000174932)日本ペイント防食コーティングス株式会社 (3)
【Fターム(参考)】