説明

2,2’,3,3’,5,5’,6,6’−オクタフルオロ−4,4’−ビフェニルジカルボニトリルの製造方法

【課題】 比較的安価なペンタフルオロベンゾニトリルを用い、穏和な反応条件下で高収率に2,2’,3,3’,5,5’,6,6’−オクタフルオロ−4,4’−ビフェニルジカルボニトリルを製造する方法を提供する。
【解決手段】 ペンタフルオロベンゾニトリルと3価のリン化合物とを反応させることを特徴とする2,2’,3,3’,5,5’,6,6’−オクタフルオロ−4,4’−ビフェニルジカルボニトリルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子材料や機能性材料又は医農薬や、各種添加剤及びそれらの合成中間体として有用な、2,2’,3,3’,5,5’,6,6’−オクタフルオロ−4,4’−ビフェニルジカルボニトリルの製造方法に関する。詳しくはペンタフルオロベンゾニトリルを、3価のリン化合物の存在下にカップリング反応をさせてなる2,2’,3,3’,5,5’,6,6’−オクタフルオロ−4,4’−ビフェニルジカルボニトリルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2,2’,3,3’,5,5’,6,6’−オクタフルオロ−4,4’−ビフェニルジカルボニトリルは、ペンタフルオロベンゾニトリルをN,N−ジメチルアミド中でヨウ化ナトリウムと加熱還流させることにより製造する方法が知られている(非特許文献1)。しかしながら、この方法では収率は33%と満足できるものではなかった。また、無水スルホラン溶媒中、4−ブロモテトラフルオロベンゾニトリルと銅粉末とを反応させることで製造する方法が開示されている(特許文献1)。この方法では75.9%の収率で目的物が得られるものの、反応には210℃という高温での反応が要求される。また反応性の観点から、高価な4−ブロモテトラフルオロベンゾニトリルを使用する必要がある。
【0003】
一方、ペンタフルオロ安息香酸メチルを亜リン酸トリス(ジエチルアミド)と反応させることによりカップリング反応が進行し、2,2’,3,3’,5,5’6,6’−オクタフルオロジフェニル−4,4’−ジカルボン酸メチルエステルが得られることが知られている(非特許文献2)。しかしながら、ペンタフルオロベンゾニトリルと3価のリン化合物からカップリング反応が進行することは知られていなかった。
【特許文献1】特開平4−89449号公報
【非特許文献1】J. Chem. Soc.(C)(Org)、 1971、1343〜1348頁
【非特許文献2】Zhumal Obshchei Khimii、49(3)、1979、710〜711頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまで比較的安価なペンタフルオロベンゾニトリルを用い、穏和な反応条件下で高収率に2,2’,3,3’,5,5’,6,6’−オクタフルオロ−4,4’−ビフェニルジカルボニトリルを製造する方法は報告されておらず、本発明はその課題を解決するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記方法を確立するため、鋭意研究を行なった結果、ペンタフルオロベンゾニトリルとリン化合物とを反応させることにより、穏和な反応条件下においても高収率に2,2’,3,3’,5,5’,6,6’−オクタフルオロ−4,4’−ビフェニルジカルボニトリルを製造できることを見いだすに至った。
【0006】
すなわち本発明は、ペンタフルオロベンゾニトリルと3価のリン化合物とを反応させることを特徴とする2,2’,3,3’,5,5’,6,6’−オクタフルオロ−4,4’−ビフェニルジカルボニトリルの製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、比較的安価なペンタフルオロベンゾニトリルを用い、穏和な反応条件下で高収率に2,2’,3,3’,5,5’,6,6’−オクタフルオロ−4,4’−ビフェニルジカルボニトリルを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明はベンゾニトリルを有機溶媒中で3価のリン化合物と反応させるものであり、その反応は下記式1に従うものと考えられる。
【0009】
【化1】

【0010】
(上記反応式中、PX3は3価のリン化合物を示し、PX3F2はPX3にフッ素原子が付加した、5価のリン化合物を示す。)
【0011】
本反応に用いる有機溶媒としてはペンタフルオロベンゾニトリルやリン化合物との反応性がない限り特に制限はないが、例えばヘキサン、トルエン等の炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒、ジクロロメタン等の塩素系溶媒あるいはこれらの混合物等が好ましく用いることができる。
【0012】
本反応に用いる3価のリン化合物としてはとしては、例えば亜リン酸トリフェニル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリ−o−トリル、亜リン酸ジ−o−トリル、亜リン酸トリ−m−トリル、亜リン酸ジ−m−トリル、亜リン酸トリ−p−トリル、亜リン酸ジ−p−トリル、亜リン酸ジ−o−クロロフェニル、亜リン酸トリ−p−クロロフェニル、亜リン酸ジ−p−クロロフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル等の亜リン酸エステル類や、ヘキサメチル亜リン酸トリアミド、ヘキサエチル亜リン酸トリアミド等の亜リン酸アミド類、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリプロピルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ−t-ブチルホスフィン等のトリアルキルホスフィン類、トリフェニルホスフィン等のトリアリールホスフィン類が例示される。特に、反応性の観点から亜リン酸アミド類が好ましい。
【0013】
亜リン酸アミド類に関しては、反応系中において三塩化リンや三臭化リンと2級アミンとを反応させたものを単離精製することなくそのまま使用する事も可能である。
【0014】
使用する3価のリン化合物の量としてはペンタフルオロベンゾニトリルに対して0.5〜2倍モル程度が好ましい。この範囲外の使用量では2,2’,3,3’,5,5’,6,6’−オクタフルオロ−4,4’−ビフェニルジカルボニトリルの収率が低下する。
【0015】
反応温度は−30℃以上でかつ使用する溶媒の沸点以下の範囲の温度が適当であり、−30〜100℃程度が好ましい。
【0016】
以下、本発明の実施例を示す。
【実施例1】
【0017】
攪拌機、温度計を備えたフラスコに100mLのフラスコに、原料としてペンタフルオロベンゾニトリル(5.0g、26mmol)、溶媒としてエーテル20mLを加え、氷冷して温度を0℃に保持した。ここに、ヘキサエチル亜リン酸トリアミド(3.2g、13mmol)のエーテル溶液(30mL)を滴下し、反応混合液を室温で2時間反応させた。1Nの塩酸20mLを添加し、反応液をクエンチした後、生じた固体を濾過により取り除き、濾液を分層した。有機層の溶媒を留去後、生成した固体を冷ヘキサンで洗浄し、3.5g(75%収率)の2,2’,3,3’,5,5’,6,6’−オクタフルオロ−4,4’−ビフェニルジカルボニトリルを得た。
【実施例2】
【0018】
攪拌機、温度計を備えたフラスコに300mLのフラスコに、原料としてペンタフルオロベンゾニトリル(6.0g、31mmol)、溶媒としてTHF 90mLを加え、室温にてヘキサメチル亜リン酸トリアミド(2.6g、16mmol)を滴下し、反応混合液を室温で2時間反応させた。1Nの塩酸20mLを添加し、反応液をクエンチした後、生成物をエーテルで抽出した。溶液を濃縮後、エーテル希釈しシリカゲル10gを用いてショートカラムをかけた後、濾液を濃縮した。生成した淡黄色固体を冷ヘキサンで洗浄し、4.7g(86%収率)の2,2’,3,3’,5,5’,6,6’−オクタフルオロ−4,4’−ビフェニルジカルボニトリルを得た。
【産業上の利用可能性】
【0019】
電子材料や機能性材料又は医農薬や、各種添加剤及びそれらの合成中間体として有用な、2,2’,3,3’,5,5’,6,6’−オクタフルオロ−4,4’−ビフェニルジカルボニトリルを比較的安価なペンタフルオロベンゾニトリルを用い、穏和な反応条件下で高収率で製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペンタフルオロベンゾニトリルと3価のリン化合物とを反応させることを特徴とする2,2’,3,3’,5,5’,6,6’−オクタフルオロ−4,4’−ビフェニルジカルボニトリルの製造方法。
【請求項2】
3価のリン化合物が亜リン酸アミド化合物である、請求項1に記載の2,2’,3,3’,5,5’,6,6’−オクタフルオロ−4,4’−ビフェニルジカルボニトリルの製造方法。