説明

2,6−ナフタレンジカルボン酸の水素化処理方法

【課題】高純度の2,6−ナフタレンジカルボン酸を高収率で得ることのできる方法を提供する。
【解決手段】2,6−ナフタレンジカルボン酸を水素化処理する方法であって、ホルミルナフトエ酸(FNA)、ナフタレンジカルボン酸ブロマイド(Br−NDA)およびヘビー成分を除去するために、前記成分の含量により要求される水素量を計算する工程;及び計算された量の水素を定量的に添加する工程を包含する方法により、2,6−ナフタレンジカルボン酸の水素化処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定量的に水素を添加して、精製されない2,6−ナフタレンジカルボン酸(以下、「CNDA」という)のうちの不純物を除去して高純度の2,6−ナフタレンジカルボン酸(以下、「PNDA」という)を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2,6−ナフタレンジカルボン酸は、高機能性繊維やフィルムなどの素材に用いられるポリエチレンナフタレート(PEN)の製造単量体として用いられる物質で、特にポリエチレンナフタレート(PEN)の機械的、熱的および化学的安定性などの物性がポリエチレンテレフタレート(PET)より優れ、フィルム、繊維、絶縁体、磁気テープおよび飲料容器などの様々な用途で使用可能であり、その需要が徐々に拡大している傾向にある。
【0003】
前記CNDAは、重金属触媒下で2,6−ジメチルナフタレン(DMN)の酸化反応によって製造される。しかし、このような酸化反応によって生成されたCNDAには、酸化反応の中間生成物であるナフトエ酸(NA)、ホルミルナフトエ酸(FNA)およびメチルナフトエ酸(MNA)、分解生成物であるトリメリット酸(TMLA)、臭素付加生成物であるナフタレンジカルボン酸ブロマイド(BR−NDA)、そして高分子量を有する有機物(ヘビー(HEAVY)物質)等の各種不純物が多量含まれている。このような不純物を含有するCNDAをエチレングリコール(EG)と重合させれば、重合生成物のポリエチレンナフタレート(PEN)の耐熱性と軟化点が低下し、着色が発生して深刻な品質低下現象を招く。このために高品質のポリエチレンナフタレート(PEN)を得るためには純度の高いPNDAが要求されている。
【0004】
そのような理由により高い純度のPNDAを得るための多くの水素化反応工程が提案されてきた。例えば、特許文献1は溶媒に酢酸または酢酸水溶液を用い、反応温度は315〜371℃と提案した。また、特許文献2では溶媒に水を用い、反応温度は280〜350℃、圧力は飽和蒸気圧または150〜250atmで、水素量は10〜100ppmにして固定層触媒を有する反応器に投入する前に水に水素とCNDAを溶かして投入し、ホルミルナフトエ酸(FNA)を除去してエタノールで洗った後に高純度のナフタレンジカルボン酸(NDA)を精製する方法を提案した。また特許文献3では溶媒に水または酢酸水溶液を用い、反応温度は271〜301℃、触媒は8族触媒のパラジウム(Pd)と4B族触媒のスズ(Sn)を活性炭に担持した触媒を用いることを提案した。
【0005】
しかし、前記水素化反応は不純物対比定量的な水素量を投入できず、反応器内で不純物を完全に除去できず、副産物のジカルボキシテトラリン(DCT)を発生させ、純度改善を低下させ、洗浄回数増加による収率低下および相対的に水より単価が高い洗浄溶媒を用いることにより、経済性が低いという問題点がある。
【特許文献1】米国特許第5,256,817号
【特許文献2】米国特許第6,756,509号
【特許文献3】米国特許第6,747,171号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような問題を解決するための水素化反応工程を提供することを目的とする。したがって、本発明は、酸化反応工程を介して得られたCNDAの不純物中のホルミルナフトエ酸(FNA)、ナフタレンジカルボン酸ブロマイド(BR−NDA)および高分子量を有するヘビー成分の水素化に必要な要求量を予め定量して投入する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の適切な実施形態によれば、2,6−ナフタレンジカルボン酸を水素化処理する方法であって、ホルミルナフトエ酸(FNA)、ナフタレンジカルボン酸ブロマイド(Br−NDA)およびヘビー成分を除去するために、前記成分の含量により要求される水素量を計算する工程;及び前記計算された量の水素を定量的に添加する工程を包含する2,6−ナフタレンジカルボン酸の水素化処理方法が提供されている。
【0008】
本発明の適切な実施形態によれば、2,6−ナフタレンジカルボン酸を水素化処理する方法であって、ホルミルナフトエ酸(FNA)、ナフタレンジカルボン酸ブロマイド(Br−NDA)およびヘビー成分を除去するために、下記数式(1)〜(3)によって水素量を予め計算し、定量的に添加して水素化させる2,6−ナフタレンジカルボン酸の水素化処理方法が提供されている。
【0009】
【数1】

【数2】

【数3】

【0010】
本発明の他の適切な実施形態によれば、水素化処理は圧力90Kg/cm2〜130Kg/cm2、反応温度290〜315℃、そして液相条件でなされる。
【0011】
本発明のまた他の適切な実施形態によれば、水素化処理は活性炭を担体にして活性成分としてパラジウムまたは白金が元素重量で0.4〜0.6重量%含まれる触媒存在下でなされる。
【0012】
本発明のまた他の適切な実施形態によれば、2,6−ナフタレンジカルボン酸の水素化処理後に得られた生成物を200〜300℃の熱い水で1回洗浄して、高純度の2,6−ナフタレンジカルボン酸を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
実施例1〜11によれば、本発明は、水素化反応器に投入される水素量を反応式と計算式によって定量的に投入し、ホルミルナフトエ酸(FNA)、ナフタレンジカルボン酸ブロマイド(BR−NDA)、ヘビー成分を選択的に反応させることによってナフタレンジカルボン酸(NDA)の不純物を完全に除去することができた。これは、図2と図3に示した水素化反応前後の不純物の組成をガスクロマトグラフィーで分析した結果によっても知ることができる。したがって、洗浄前にすでに従来と比べてさらに高い純度のナフタレンジカルボン酸(NDA)を得ることができるという長所があり、それによって洗浄回数もまた減少させて洗浄に必要な費用を減らすことができる。表3によれば、比較例1〜3の場合に5回以上の洗浄が必要である一方、実施例1〜11の場合は、ただ1回の洗浄だけでも比較例1〜3の場合より高い純度のナフタレンジカルボン酸(NDA)を得ることができることが分かる。また、洗浄を少なめにしてもかまわないため、洗浄によるナフタレンジカルボン酸(NDA)の損失が減少し、収率も高められるという長所がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
2,6−ジメチルナフタレン(DMN)の酸化反応によって製造されたCNDAに含まれるホルミルナフトエ酸(FNA)、ナフタレンジカルボン酸ブロマイド(BR−NDA)、およびヘビー成分などの不純物は、水素を用いた還元処理工程によって除去される。ヘビー成分は、正確な分子構造が確認されないでいるが、ナフタレンジカルボン酸(NDA)の異性体またはナフタレンジカルボン酸(NDA)の錯体と推定されている。したがって、本発明者らはこのような点に着眼して、ヘビー成分を除去するために要求される水素量をナフタレンジカルボン酸(NDA)の分子量を基準として、また過剰の水素量によりナフタレンジカルボン酸(NDA)が分解される可能性を低くするために、ナフタレンジカルボン酸(NDA)のモル当たりの水素は1/2モルとして用いた結果、ヘビー成分の除去効果が卓越するということを知った。CNDAに含まれる不純物中のホルミルナフトエ酸(FNA)、ナフタレンジカルボン酸ブロマイド(BR−NDA)、およびヘビー成分が水素化反応器に投入され水素化される時に要求される水素量は、下記反応式(4)〜(6)に示すようにホルミルナフトエ酸(FNA)成分の除去には、各成分モル当たり水素2モル、ナフタレンジカルボン酸ブロマイド(BR−NDA)成分の除去には水素1モル、ヘビー成分の除去には水素1/2モルになる。
【0015】
[不純物と水素の反応式]
FNA+2H2→MNA+H2O・・・(4)
BR−NDA+H2→NDA+HBr・・・(5)
ヘビー成分+1/2H2→NA+light・・・(6)
【0016】
各々の不純物除去に要求される水素量を下記数式(1)〜(3)により計算して、定量的に水素MFC(Mass Flow Controller)を用いて投入し、水素化触媒存在下で反応させる。
【0017】
【数4】

【数5】

【数6】

【0018】
本発明の水素化反応触媒は、担体としては活性炭を用い、活性成分としてはパラジウム(Pd)または白金(Pt)成分が元素重量で0.4〜0.6重量%含まれていることが好ましい。
また、水素化反応は、圧力90Kg/cm2〜130Kg/cm2、温度290〜315℃、そして液相でなされることが好ましい。さらに好ましくは、310℃〜312℃の温度および100Kg/cm2〜110Kg/cm2の圧力である。液相反応は、均一状の反応によって反応を極大化させることができる。水素とナフタレンジカルボン酸(NDA)の濃度にともなう溶解度(NDAの溶解度NDAg/水100gは10g、308℃)を考慮する時、水素とナフタレンジカルボン酸(NDA)が液相で存在できる温度と圧力を反応条件に設定し、液相反応をさせてこそCNDAに溶けている不純物を最大限除去することができる。したがって、ナフタレンジカルボン酸(NDA)7〜10gが溶け込むことのできる温度と圧力を反応条件とすることが不純物除去効果の面で最も好ましく、最適温度および圧力条件は308℃、105kg/cm2である。
【0019】
CNDAを水素で還元処理して得られた還元生成物を水を用いて洗浄する。洗浄溶媒として用いられる水は、200〜300℃の熱い水が好ましい。洗浄によるナフタレンジカルボン酸(NDA)の損失の側面では、洗浄時水の温度が225℃〜240℃であることがさらに好ましい。洗浄回数は1回以上であれば良いが、定量的に水素化処理をする本発明の場合は、1回のみ行っても洗浄効果が充分であり高純度のナフタレンジカルボン酸(NDA)を得ることができる。
【実施例】
【0020】
以下、制限されない実施例を挙げて本発明を説明する。
【0021】
<比較例1〜3および実施例1>
2,6−ジメチルナフタレンの酸化反応によって得られたCNDAを4.8Kg/hrで水素化反応器に投入し、水素化反応器に水素添加量を50、80および100ppm/hrにして投入する(比較例1〜3)。そして、本発明で用いられた計算法によって計算された水素量156.7ppm/hrの水素を反応器に投入する(実施例1)。反応時温度は308℃、圧力は105Kg/cm2で実施する。各々の場合水素化処理後の結果を表1に示した。
【0022】
【表1】

【0023】
<実施例2〜11>
CNDAを4.8kg/hrで水素化反応器に投入し、CNDAに含まれた不純物の含量にともなう水素添加量を本発明の定量計算法にしたがって、水素化反応器に投入して処理した結果を表2に示した。反応時温度298℃、圧力100Kg/cm2で実施する。
【0024】
【表2】

【0025】
[洗浄処理]
水素化反応器で水素処理されて得られた液を70Lの大きさの結晶化機で結晶化させた後に洗浄装置に搬送し、200℃〜300℃の熱い水が入れられたタンクから約40Kgの水を洗浄装置に搬送して、洗って濾過した後に乾燥して洗浄した。比較例1〜3および実施例1および11で水素化処理反応させた生成物を225℃の熱い水で洗浄した結果を表3に示す。得られた生成物をガスクロマトグラフィーで純度を測定し、洗浄前後純度の結果を表3に示す。表3によれば、洗浄前純度は水素添加量にともなう不純物除去効果を示すため、本発明において不純物を定量して水素を投入した結果、純度が高く、純度が高いほど洗浄回数が減ることが分かる。
【0026】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】不純物の含量にともなう水素要求量を示したグラフである。
【図2】実施例1の水素化反応前の不純物の組成をガスクロマトグラフィーで分析して表わしたものである。
【図3】実施例1の水素化反応後の不純物の組成をガスクロマトグラフィーで分析して表わしたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,6−ナフタレンジカルボン酸を水素化処理する方法であって、
ホルミルナフトエ酸(FNA)、ナフタレンジカルボン酸ブロマイド(Br−NDA)およびヘビー成分を除去するために、前記成分の含量により要求される水素量を計算する工程;及び
前記計算された量の水素を定量的に添加する工程を包含することを特徴とする、2,6−ナフタレンジカルボン酸の水素化処理方法。
【請求項2】
前記水素量は、下記の数式(1)〜(3)により計算することを特徴とする、請求項1に記載の2,6−ナフタレンジカルボン酸の水素化処理方法。
【数1】

【数2】

【数3】

【請求項3】
前記水素化処理は、圧力90Kg/cm2〜130Kg/cm2、反応温度290〜315℃、そして液相でなされることを特徴とする、請求項1に記載の2,6−ナフタレンジカルボン酸の水素化処理方法。
【請求項4】
前記水素化処理は、活性炭を担体にして活性成分としてパラジウムまたは白金が元素重量で0.4〜0.6重量%含まれる触媒存在下でなされることを特徴とする、請求項1に記載の2,6−ナフタレンジカルボン酸の水素化処理方法。
【請求項5】
前記水素化処理後に得られた生成物を200〜300℃の水で1回洗浄することを特徴とする、請求項1に記載の2,6−ナフタレンジカルボン酸の水素化処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−127383(P2008−127383A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−176945(P2007−176945)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(503434298)ヒョスング コーポレーション (22)
【Fターム(参考)】