説明

3−(2,2,2−トリメチルヒドラジニウム)プロピオナートのフマル酸水素塩及びリン酸二水素塩を医療に用いる方法

3−(2,2,2−トリメチルヒドラジニウム)プロピオナートの塩類を医療に用いて、アテローム性動脈硬化症の予防薬及び治療薬を製造する為の新規な方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3−(2,2,2−トリメチルヒドラジニウム)プロピオナートの塩類をアテローム性動脈硬化症の予防薬及び治療薬を製造する為に用いる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アテローム性動脈硬化症は動脈血管を冒す病気である。それは、動脈の血管壁における慢性的な炎症反応であり、大部分は、リポタンパク質(コレステロールとトリグリセリドを帯びた血漿タンパク質)が付着堆積することが原因である。一般には、動脈が「硬化する」とか「垢が溜まる」と言われる。動脈の内部に幾重にもプラークが形成されることが原因である。
【0003】
アテローム性動脈硬化症は緩慢に進行する複雑な病気であり、典型的には幼少期に始まり、年齢とともに進行することが多い。進行が早い人もおり、三十代で発症することもある。その病気は、内皮と呼ばれる動脈の最も内側の層での損傷が発端となると考えられている。そのような動脈の血管壁の損傷を引き起こすものとしては、以下のものがある。
・コレステロール及びトリグリセリド(tri−GLIS’er−id)の血中濃度が高いこと
・高血圧
・喫煙
・糖尿病
http://www.americanheart.org/presenter.jhtml?identifier=4440 2007年12月4日、参照。
【0004】
アテローム性動脈硬化症は大きな社会問題であり、医学社会学的問題でもあって、その臨床的症状が主な要因となって、入院率と死亡率が高くなっている。
【0005】
3−(2,2,2−トリメチルヒドラジニウム)プロピオナート二水和物は、メルドニウム二水和物という国際一般名で知られている。
【0006】
カルニチンとメルドニウムは、構造的にとても似通っている。
【0007】
カルニチンは、単独もしくは、他の薬剤と組み合わせて、抗アテローム性動脈硬化症剤として用いられてきたが、好ましくは組み合わせの相手は、フラボノイドやオメガ−3系列多価不飽和脂肪酸などのような天然の素材である。
【0008】
欧州特許第1128822号明細書(2001年9月5日公開、SIGMA TAU HEALTHSCIENCE SPA)に開示されている薬学的組成物はL−カルニチンとフラボノイドから成るものであり、抗血栓症剤、及び抗アテローム性動脈硬化症剤である。
【0009】
しかしながら、メルドニウム二水和物の薬理効果は、カルニチンの効果を相殺するものと考えられてきた。
【0010】
メルドニウム二水和物は、抗アテローム性動脈硬化症療法で用いられてきた。メルドニウム二水和物は、トリトンWR−1339脂質異常症ラットにおいて脂質低下作用を示す。(“Patologiteskaja Fiziologija I Experimentaljnaja Terapija”2002,Apr−Jun vol.2,p.24−7に発表の、OKUNEVICH IV,RYZHENKOV VE et al,“Anti−atherosclerotic action of Meldonium dihydrate in experiment”(「実験におけるメルドニウム二水和物の抗アテローム性動脈硬化症作用」))。
【0011】
冠動脈、脳血管及び末梢血管におけるアテローム性動脈硬化症についての実験により明らかになったのは、メルドニウム二水和物は、局部の血液循環、脂質代謝の改善に有益な効果があり、合併症としてのアテローム性動脈硬化症の患者の治療に用いることができるということである。(“Terapevticheskii Arkhiv”1991.vol.63,no.4,p.90−93に発表の、KARPOV RS,DUDKO VA.“The clinical instrumental evaluation of treatment efficacy in patients with concomitant atherosclerosis of the coronary,cerebral and peripheral arteries”(「冠動脈、脳動脈及び末梢動脈の合併性アテローム性動脈硬化症患者における治療効果の治療手段的評価」)参照)。
【0012】
メルドニウムのリン酸二水素及びフマル酸水素の塩類は、欧州特許第1667960号明細書(JOINT STOCK COMPANY GRINDEKS)2006年6月14日、において、メルドニウム二水和物と比較すると、より安定した物質として開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
アテローム性動脈硬化症の患者を治療するのに用いられる薬理学的調製物には膨大な多種多様性があるが、病気を充分に抑制するものではない。
【0014】
本発明の目的は、アテローム性動脈硬化症の予防と治療において、メルドニウム二水和物よりも効果的な薬理学的物質を入手することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
予想もしなかったことであるが、リン酸二水素メルドニウムとフマル酸水素メルドニウムのようなメルドニウムの塩類が大動脈におけるアテローム性動脈硬化症の徴候を低下させる効果があることが分かった。
【発明を実施するための形態】
【0016】
抗アテローム性動脈硬化症の実験
薬理学的実験を行なって、大動脈におけるリン酸二水素メルドニウムまたはフマル酸水素メルドニウムの、抗アテローム性動脈硬化症の効果を調べた。
【0017】
リン酸二水素メルドニウムまたはフマル酸水素メルドニウムのようなメルドニウムの塩類を用いた実験を、体重が2.5〜3.0kgの38頭のチンチラウサギで行なった。ウサギを無作為に、比較対照集団(11頭)、メルドニウム二水和物集団(9頭)、リン酸二水素メルドニウム集団(9頭)とフマル酸水素メルドニウム集団(9頭)の4集団に分けた。
【0018】
実験用のアテローム性動脈硬化症、即ち、血清脂質異常症と大動脈におけるアテローム性動脈硬化症の徴候を、標準的な給餌と共に体重当たり1%のコレステロールを投与することにより引き起こした。
【0019】
ヒマワリ油(餌の総量の4%を占める)に溶かした1%のコレステロールを標準的な給餌と共にウサギに与えた。餌のコレステロール濃度を次のようにして高めた。標準的なウサギの餌10kgを60℃まで熱し、400mlのヒマワリ油に溶かした100gの温かいコレステロールと混ぜ合わせた。この餌を一日当たり200g、ウサギに与えた。
【0020】
実験対象の集団に、メルドニウム二水和物、リン酸二水素メルドニウム、そしてフマル酸水素メルドニウムを、一回分の服用量が、124mg/kg、165mg/kg、そして174mg/kgになるようにして与えた。調製物は飲料水に加えた。
【0021】
15週間後、ウサギを解剖した。心臓、大動脈そして肝臓を回収して調べた。大動脈から外膜を取り去り、長手方向に切断し、そしてリン酸緩衝溶液で洗浄した。腹部大動脈、下行大動脈及び上行大動脈から取った試料を光学顕微鏡検査で免疫形態学的に検討した。大動脈の切片の幾つかを4%の中性ホルムアルデヒド緩衝剤に七日間漬けた。更なる研究の為、大動脈、心臓及び肝臓を液体窒素の中で冷凍し、70℃で保管した。パラフィン切片を作るために、試料をメタカンの中に漬けた。
【0022】
ホルムアルデヒドに漬けた後、試料を流水で24時間洗浄し、標準的な方法でオイル・レッドOで染色し、脂質の斑点、筋やプラークがあるかどうかを調べた。
【0023】
すべてのウサギについて、大動脈をオイル・レッドOで染色したものの全体にわたり、アテローム性動脈硬化性に変化が観察された。
【0024】
このような複数のテストを行なった結果、以下の表1に見られるように、リン酸二水素メルドニウムは、アテローム性動脈硬化症の徴候である斑点を減少させることができるのが明らかである。
【0025】
【表1】

【0026】
表1に見られるように、比較対照集団及びメルドニウム二水和物集団と比べると、薬理学的服用量のリン酸二水素メルドニウムにより、ウサギの大動脈におけるアテローム性動脈硬化性のプラークの面積は、二倍超、減少する。
【0027】
このような複数のテストの結果、メルドニウムに含まれるフマル酸水素がアテローム性動脈硬化症の徴候を減少させることが表2に示されている。
【0028】
【表2】

【0029】
表2に見られるように、比較対照集団及びメルドニウム二水和物集団と比べると、メルドニウムのフマル酸水素は、薬理学的用量で投与すれば、ウサギの大動脈におけるアテローム性動脈硬化性のプラークの面積を、二倍超、減少させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【特許文献1】欧州特許第1128822号明細書
【特許文献2】欧州特許第1667960号明細書

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸二水素とフマル酸水素から成るグループから選んだ3−(2,2,2−トリメチルヒドラジニウム)プロピオナートの塩を、アテローム性動脈硬化症の予防薬及び/または治療薬を製造する為に用いる方法。
【請求項2】
アテローム性動脈硬化症の予防及び/または治療の為の3−(2,2,2−トリメチルヒドラジニウム)プロピオナートの塩。
【請求項3】
3−(2,2,2−トリメチルヒドラジニウム)プロピオナートのリン酸二水素塩であることを特徴とする、請求項1または2に記載の3−(2,2,2−トリメチルヒドラジニウム)プロピオナートの塩。
【請求項4】
3−(2,2,2−トリメチルヒドラジニウム)プロピオナートのフマル酸水素塩であることを特徴とする、請求項1または2に記載の3−(2,2,2−トリメチルヒドラジニウム)プロピオナートの塩。

【公表番号】特表2011−505408(P2011−505408A)
【公表日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−536438(P2010−536438)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【国際出願番号】PCT/EP2008/066711
【国際公開番号】WO2009/071585
【国際公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(509126117)グリンデクス,ア ジョイント ストック カンパニー (9)
【氏名又は名称原語表記】GRINDEKS,a joint stock company
【Fターム(参考)】