説明

3次曲面表現装置

【課題】 機構的に3次曲面を簡易かつ迅速に作出して観察に供することができ、しかも作出される3次曲面は実物感があって視点の異なる位置からも自由に観察することができる画期的な3次曲面表現装置を提供する。
【解決手段】 高弾性シートと、各々別々に任意のストローク量で伸退縮動作する多数の伸縮ロッドを装備したシート起伏機構部と、このシート起伏機構部の各伸縮ロッドの伸退縮量を数値制御する制御機構部とを用い、高弾性シートはシート起伏機構部の伸縮ロッドの突端部に一定ピッチ間隔に連繋してシート起伏機構部の伸縮ロッドの各々が制御機構部から入力される指令信号に応じて制御数値のストローク量で伸縮し、各々の伸縮ロッドの突端部に連繋された高弾性シートの表面を起伏せしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次曲面表現装置に関し、さらに詳しくは、高弾性のシートを一定のピッチ間隔に配設した多数の伸縮ロッドで押引することにより当該シートの各部位を起伏変形させることによって所望の3次曲面を作出して見せることができる実感ある3次曲面の表現装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マシニングセンターなどの工作機械の発達により金属・石材・木材あるいはプラスチック材料に3次元加工を施して3次曲面成形物を製することは可能である。しかしながら、このようにして削成された成形物の3次曲面は不可逆的であって、他の形態に自由に変化させることができない。それゆえ、一時的に観察したい3次曲面を表現して見せる手段としては不適当であった。
【0003】
ところで、立体地図のような3次曲面を表現する手段としては、等高線地図中の一つの等高線を所定の投影角度θからみた線図として表示し、ついで、この等高線と高さ方向の間隔がhである他の等高線を、h・cot θだけ当該等高線の相対位置に対応して上下方向にずらせて上記投影角度θから見た線図として表示し、さらにこれらの線図の下半を連続させて稜線を表示してゆくようにした立体地図の作成方法が提案されている(特許文献1の「特許請求の範囲」参照)。
【特許文献1】特開昭53−134529号公報の「特許請求の範囲」、および 第1図・第2図)
【0004】
なるほど一見、この方法にあっては、等高線原図さえあれば安価に立体的な3次曲面を表現してみせることが可能である。ところが、この方法は、等高線原図を基にして手作業で作図せねばならないうえ、数学的な三角法の知識も必要であるから誰でも簡単に行えるわけではない。また、折角、等高線原図を基に手間暇かけて立体地図(3次曲面)を作成したとしても、その3次曲面は一方向から眺めた形態しか表現されていないから、視点の異なる位置から眺めて観察することができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来における3次曲面の表現手段に前述のような欠点があったことに鑑みて為されたものであって、その目的とするところは機構的に3次曲面を簡易かつ迅速に作出して観察に供することができ、しかも作出される3次曲面は実物感があって視点の異なる位置からも自由に観察することができる画期的な3次曲面表現装置を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
しかして、本発明者が上記目的を達成するために採用した手段を、添附図面を参照して説明するならば、次のとおりである。
【0007】
即ち、本発明の「3次曲面表現装置」は、高弾性シート1と、各々別々に任意のストローク量で伸退縮動作を行う多数の伸縮ロッド21・21・…を装備して成るシート起伏機構部2と、このシート起伏機構部2の各伸縮ロッド21の伸退縮量を数値制御する制御機構部3とを少なくとも含んで構成されており、
前記高弾性シート1は、前記シート起伏機構部2の伸縮ロッド21・21・…の突端部に一定のピッチ間隔に連繋されており、
シート起伏機構部2の伸縮ロッド21・21・…の各々は、制御機構部3から入力する指令信号に応じて数値制御されて指令どおりのストローク量で伸縮し、各々の伸縮ロッド21の突端部に連繋された高弾性シート1の表面を起伏せしめることによって必要な3次曲面Sを表現することを特徴とする。
【0008】
次に、本発明を構成する技術要素について注釈しておく。
(1) 上記高弾性シート1としては、任意方向へ面状に拡縮自在なゴムシート又はポリウレ タン弾性布帛(商品名:スパンデックス)を採用することができる。
(2) 上記シート起伏機構部2を構成する部品としては、マイクロモータ22の正逆回転に
より伸縮ロッド21としてのスクリューロッドがタイミングベルト23を介し、当該モー タ22の正逆回転数に応じたストローク量にて伸退縮動作する従来周知のボールネジ
(ball screw)機構を採用し、前記伸縮ロッド21を多数一定のピッチ間隔に密接状態に 林立させて配設して構成することができる。
(3) また、シート起伏機構部2の各伸縮ロッド21の各々の突端部には穿刺ピン21aを突設 しておく一方、これら伸縮ロッド21の突端部が連繋される高弾性シート1の連繋部分 には鳩目11を取着して補強し前記各穿刺ピン21aが鳩目11の中で回転するようにして おくものとする。この場合、穿刺ピン21aの先端には封止キャップ21bを被せること によって抜止めを兼ねてシート1内側の気密性を保持させることが好ましい。
(4) 次に、シート起伏機構部2の伸縮ロッド21・21・…を各別に伸退縮動作させるところ のマイクロモータ22・22・…は、制御機構部3(コンピュータ)に予めインストール されているプログラムにより制御されるのであり、オペレータは当該プログラム中の 既定の3次曲面画像データを選択して実行すると、選択された当該データに従って
マイクロモータ22・22・…の各々が正逆回転して高弾性シート1を起伏させて、表面 に既定の3次曲面Sを現出せしめる。そして、この既定の3次曲面Sを部分的に変更 する必要があるときは、制御機構部3のマウス31とキーボード32を操作して当該3次 曲面の必要な箇所を自由に変更することが可能である。
(5) さらに、高弾性シート1で囲われる内部空間Cを気密性の高いボックス構造として、 この内部空間Cに、増圧機構4を付設して当該内部空間Cの気圧を高めるように構成 するのが好ましく、こうしてシート1の内部空間Cの内部気圧を外部よりも優圧状態 にするならば、当該シート1の形成する3次曲面に円やかさを付与できる。そして、 こゝに使用する増圧機構としては、シート起伏機構部2を作動させて伸縮ロッド21・ 21・…が所定の動作を行った後、高弾性シート1で囲われる内部空間C内において、 例えば、風船41などの膨張部材をエアポンプ42により膨らませるようにすればよい。
【発明の効果】
【0009】
以上のとおり、本発明の3次曲面表現装置にあっては、高弾性シートを3次曲面の形成素材として採用し、この高弾性シートを数値制御により伸退縮動作する多数の伸縮ロッドで各々別々に押引して指令どおりのストローク量で伸縮させて、各々の伸縮ロッドの突端部に連繋された当該高弾性シートの表面を起伏せしめるので、所望の3次曲面を簡易かつ正確に眼前に表現することが可能である。そして、本発明装置によって作出される3次曲面は、その周囲の何処からでも眺めることができるので、特許文献1記載の方法で表現された3次曲面のように視点が限定されず、また数学的な3角法の知識がなくとも、簡単に実行することができる。
【0010】
また、本発明装置にあっては、高弾性シートで囲われる気密性の内部空間には、増圧機構を付設することによって当該内部空間の気圧を高めるように構成し当該高弾性シートの内部空間の内部気圧を外部よりも優圧化するようにするならば、高弾性シートの形成した3次曲面における伸縮ロッドの突端部と突端部との間に円やかな膨らみを与えることができ曲面が一層滑らかに表現することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の具体的な実施の形態を添附図面に示す実施例に基いて、更に詳しく説明する。
【実施例】
【0012】
図1は本発明の実施例である3次曲面表示装置の構造の一部分を表わした断面説明図、図2は、同3次曲面表示装置における高弾性シートと伸縮ロッドとの連繋部分を拡大して示した部分拡大斜視説明図、図3は同3次曲面表示装置における高伸縮シートとシート起伏機構とを分解して表わした部分的な分解斜視説明図、図4は高伸縮シートを起伏させて3次曲面を形成させた状態を表わす部分的な分解斜視説明図である。
【0013】
図1〜図4において、符号1で指示するものは伸び縮みの良い天然ゴムラテックスにて作製された高弾性シートである。この高弾性シート1には、後述の伸縮ロッドの突端部に突設された穿刺ピンが挿通される刺し孔が所定のピッチ間隔で開設してあり、その周囲にプラスチック製の鳩目11が取着してある。
【0014】
また、図中に符号2で指示されるものはシート起伏機構部2であり、伸縮ロッド21であるスクリューロッドを一定のピッチ間隔で多数備えている。これらスクリューロッドから成る伸縮ロッド21・21・…の突端部には、図2に示すごとく、穿刺ピン21aが突設されており、これらの穿刺ピン21aを上記高弾性シート1の刺し孔に周設した鳩目11に挿通し、これら穿刺ピン21aの突端に封止ピン21bを被せることによって伸縮ロッド21・21・…と高弾性シート1は連繋される。
【0015】
しかして、本実施例におけるシート起伏機構2の伸縮ロッド(本実施例では、スクリューロッド)21・21・…には、各々にマイクロモータ22が付設されており、これらマイクロモータ22の出力軸とスクリューロッド21とはタイミングベルト23にて連繋されることによってボールネジ(ball screw)機構を構成し、各々のスクリューロッド21は各々に附帯するマイクロモータ22の正逆回転数に応じたストローク量で伸退縮動作が与えられる。
【0016】
また、図1に符号3で指示するものは制御機構部であり、本実施例においてはパーソナル・コンピュータ(FMV 717G TX7) が採用されている。本実施例における制御機構部3には上記伸縮ロッド21・21・…を制御するための駆動プログラムが予じめインストールされているのであり、当該プログラム中の既定の3次曲面画像データを選択して実行すると選択された当該データに基いて出力される指令信号に従ってマイクロモータ22・22・…の各々が正逆回転して高弾性シート1を起伏させ、その表面に既定の3次曲面Sを現出せしめる。そして、この既定の3次曲面Sを部分的に変更する必要があるときは、制御機構部3のマウス31とキーボード32を操作して当該2次曲面の必要な箇所を自由に変更することが可能である。
【0017】
そして、図4において符号4で指示するものは、高弾性シート1に囲われる内部空間Cの内側の気圧を当該シート外部の気圧よりも高く優圧状態に増圧する増圧機構であって、本実施例では高弾性シート1に囲われる気密ボックス構造の内部空間Cの中で膨萎自在な風船部材41と、この風船部材41に空気を吹込むエアポンプ42とで構成される。しかして、シート起伏機構2の伸縮ロッド21・21・…が所定の伸縮動作を終えて高弾性シート1の表面が3次曲面Sを形成したところで、さらに当該増圧機構4のエアポンプ42で風船部材41を膨らませるならば、高弾性シート1に囲われる内部空間C内の空気密度は高まって外部の気圧よりも高くなり、高弾性シート1と各伸縮ロッド21・21・…との連繋部間が円やかに拡張して角張りが消去し当該3次曲面Sが美しい曲線を描くことになる。
【0018】
本明細書と図面をもって具体的に説明する本発明の実施の形態は概ね上記のとおりであるが、本発明は前述の実施例に限定されるもので決してなく、「特許請求の範囲」の記載内において種々の変形が可能であることはいうまでもない。例えば、シート起伏機構2に使用する伸縮ロッド21・21・…としてピニオンの回転によってラックが進退運動を行うところの、周知のラック・ピニオン機構や、伸退縮のストローク量を調節自在な流体圧シリンダ機構を採用することも当然に可能であって、これらを前述のボールネジ機構に置換する設計変更が本発明の技術的範囲に属する。
【0019】
また、本発明装置において3次曲面Sを作出表現する高弾性シート1は、床面に沿って配置する形態(床置式)にして上から見下ろすように実施してもよいし、また、壁面に沿って配置する形態(立掛式)にして対面的で眺めるようにしたり、さらに下から見上げるように(天吊式)に実施したりすることも、本発明者が用に臨んで自由に採択できる設計事項であって、当該発明の技術的範囲に属することは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0020】
以上のように構成される本発明装置は、例えば、地層の褶曲運動を説明する学習装置として利用するうえに有効であるほか、高弾性シートが動的に作出する3次曲面上にボール転動させれば遊戯器具としても利用できると共に、土木工事用のシミュレーション装置としても活用できるのであり、その産業上の利用価値は頗る大きい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の実施例である3次曲面表示装置の構造の一部分を表わした断面説明図である。
【図2】図2は、本発明の3次曲面表示装置における高弾性シートと伸縮ロッドとの連繋部分を拡大して示した部分拡大斜視説明図である。
【図3】図3は、本発明の3次曲面表示装置における高伸縮シートとシート起伏機構とを分解して表わした部分的な分解斜視説明図である。
【図4】図4は、高伸縮シートを起伏させて3次曲面を形成させた状態を表わす部分的な分解斜視説明図である。
【符号の説明】
【0022】
1 高弾性シート
11 鳩目
2 シート起伏機構
21 伸縮ロッド
21a 穿刺ピン
21b 封止キャップ
22 マイクロモータ
23 タイミングベルト
3 制御機構部
31 マウス
32 キーボード
4 増圧機構
41 風船部材
42 エアポンプ
C 高弾性シートで囲われる内部空間
S 3次曲面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高弾性シートと、各々別々に任意のストローク量で伸退縮動作を行う多数の伸縮ロッドを装備して成るシート起伏機構部と、このシート起伏機構部の各伸縮ロッドの伸退縮量を数値制御可能な制御機構部とを少なくとも含んで構成されており、
前記高弾性シートは、前記シート起伏機構部の各伸縮ロッドの突端部に一定のピッチ間隔に連繋されており、
シート起伏機構部の伸縮ロッドの各々は、制御機構部から入力する指令信号に応じて数値制御されて指令どおりのストローク量で伸縮し、各々の伸縮ロッドの突端部に連繋された高弾性シートの表面を起伏せしめることによって必要な3次曲面を表現することを特徴とする3次曲面表現装置。
【請求項2】
高弾性シートとして、任意方向へ面状に拡縮自在なゴムシート又はポリウレタン弾性布帛が用いられていることを特徴とする請求項1記載の3次曲面表現装置。
【請求項3】
シート起伏機構部の伸縮ロッドの各々がスクリューロッドであって、これら各々のスクリューロッドはタイミングベルトを介しマイクロモータの正逆回転数に応じたストローク量で伸退縮動作することを特徴とする請求項1又は2記載の3次曲面表現装置。
【請求項4】
シート起伏機構の伸縮ロッドの各々の突端部に穿刺ピンが突設されており、これらの穿刺ピンが高弾性シートを一定のピッチ間隔で貫通し、かつ、各穿刺ピンが貫刺する高弾性シートの周囲は鳩目により補強されて各穿刺ピンが回転自在であることを特徴とする1〜3の何れか一つに記載の3次曲面表現装置。
【請求項5】
高弾性シートで囲われる内部の気圧を高めるための増圧器を付設して、当該シートの内部を外部より優圧化させることによりシートの形成する3次曲面に円やかさを付与できるようにしたことを特徴とする請求項1〜4の何れか一つに記載の3次曲面表現装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−243307(P2006−243307A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−58396(P2005−58396)
【出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(505001340)
【Fターム(参考)】