説明

3電極式電気化学測定装置

【課題】同一の測定対象液を他の測定装置と同時に測定する際に、該他の測定装置の測定に与える悪影響を、簡単な構成でしかも確実に防止できる三電極式電気化学測定装置を提供する。
【解決手段】作用電極2、対電極3及び基準電極4の三電極と、前記作用電極2の基準電極4に対する電位が一定に保たれるように前記対電極3の電位を制御するポテンシオスタット回路6とを具備し、作用電極2と対電極3との間に流れる電流量を測定することによって、測定対象液の性質を電気化学的に測定するものにおいて、前記ポテンシオスタット回路6を、基準電極4の電位を当該回路6の接地電位に保つとともに、作用電極2を前記接地電位よりも低い電位に保持するものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作用電極、対電極及び基準電極の3電極を用いて、測定対象液の組成や電極反応機構等を電気化学的に測定する3電極式電気化学測定装置に関し、特に前記3電極に接続されてそれらの電位を制御するポテンシオスタット回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のポテンシオスタット回路は、図1に示すように、回路の接地電位よりも一定電圧だけ高い正電圧を発生する正電圧発生回路61’と、非反転入力端子In+、反転入力端子In−及び出力端子Outを有した演算増幅回路62とを具備している。
【0003】
そして、前記演算増幅回路62の非反転入力端子In+を正電圧発生回路61’に、反転入力端子In−を基準電極4に、出力端子Outを対電極3にそれぞれ接続するとともに、作用電極2を接地するようにしてある。
【0004】
しかして、いずれの文献をみても、周辺の回路工夫は多々あれども、作用電極2を回路の接地電位に保つという基本構成は変わらない(例えば特許文献1)。なお、前記特許文献1の図2には、作用電極2を接地させていない構成が記載されているが、これは、ガルバニスタットなど2電極式のもので、三電極式のものと全く構成が異なり比較の対象にはならない。
【特許文献1】特表平09−502527号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような電気化学測定装置を、例えば導電率計などの他の測定回路と接地電位を共通させて併用する場合には、当該電気化学測定装置の内部液が基準電極と同じ正電位に保たれていることから、仮に当該内部液がリークすると、その内部液を介して電流i’が測定対象液に流れ、そのことによって導電率計等に計測誤差が生じてしまう。
【0006】
そこで、従来は、内部液のリークを生じないような堅牢な電極構造にしたり、あるいは各測定装置における電気回路の接地電位を互いにフロートしたりして、他の測定装置へ及ぼす電気的な測定影響を排除するようにしている。
【0007】
しかしながら、そのために特殊な密閉構造や電気回路の工夫が必要となって、コストアップを招くという不具合が生じ得る。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はかかる問題点を鑑みてなされたものであって、その主たる目的は、同一の測定対象液を他の測定装置と同時に測定する際に、該他の測定装置の測定に与える悪影響を、簡単な構成でしかも確実に防止できる3電極式電気化学測定装置を提供することにある
【0009】
すなわち、本発明に係る3電極式電気化学測定装置は、作用電極、内部液に浸漬した対電極及び基準電極の3電極と、前記作用電極の基準電極に対する電位が一定に保たれるように前記対電極の電位を制御するポテンシオスタット回路とを具備し、作用電極と対電極との間に流れる電流量を測定することによって、測定対象液の性質を電気化学的に測定するものであって、前記ポテンシオスタット回路が、基準電極の電位を当該回路の接地電位に保つとともに、作用電極を前記接地電位よりも低い電位に保持するものであることを特徴とする。
【0010】
このような構成によれば、基準電極がポテンシオスタット回路の接地電位に保たれることから、内部液も接地電位に保たれる。したがって、仮に内部液が測定対象液にリークしたとしても、このポテンシオスタット回路と接地電位を共通にしている他の測定回路(例えば導電率計)への電流影響を可及的に低減でき、該他の測定回路の測定精度を維持できる。
【0011】
前記ポテンシオスタット回路の具体的構成としては、作用電極に接続されるW端子、対電極に接続されるC端子及び基準電極に接続されるR端子と、回路の接地電位よりも一定電圧だけ低い負電圧を発生するとともに、その負電圧出力端子を前記W端子に接続した負電圧発生回路と、非反転入力端子、反転入力端子及び出力端子を有し、前記非反転入力端子を接地させるとともに、前記反転入力端子をR端子に、前記出力端子をC端子にそれぞれ接続した演算増幅回路とを具備したものを挙げることができる。
【0012】
本発明の効果が特に顕著となるのは、酸素溶存計やアンモニア電極、二酸化炭素電極、シアン化水素電極などのように、筐体の内部を電気絶縁壁によって2つの空間に隔て、一方の空間には内部液を充填して対電極及び基準電極を浸漬するとともに、他方の空間には電気的絶縁膜であるガス透過膜(テフロン(登録商標)隔膜等)を介して筐体外部の測定対象液に臨ませた作用極を配置した構成のものを挙げることができる。
なお、電気的絶縁膜を利用せず、作用電極及び対電極の双方が測定対象液に電気的に導通するような構成のものでは、作用電極または対電極のいずれを接地電位にしても、他方が正電位又は負電位となり、測定対象液がその電位の影響を受けるため、本発明の効果が顕著にはなりにくい。
【発明の効果】
【0013】
しかして、このように構成した本発明によれば、基準電極及び対電極がポテンシオスタット回路の接地電位に保たれ、内部液も接地電位に保たれることから、仮に内部液が測定対象液にリークしたとしても、このポテンシオスタット回路と接地電位を共通にしている他の測定回路(例えば導電率計)への電流影響を可及的に低減でき、該他の測定回路の測定精度を維持できる。
また、このように、内部液リークによる他の測定回路への影響が少ないことから、内部液を封入するための液密構造を簡易化したり、測定回路同士をフロートするといった工夫を省略したりできるので、全体としてのコスト削減を促進できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態につき、図面を参照しながら説明する。
【0015】
この実施形態での電気化学式測定装置である溶存酸素計X7は、図2に示すように、水質に係る種々の性質を測定することが可能な水質分析装置Xの構成要素として用いられるものである。
【0016】
そこで、前記溶存酸素計X7の詳細を説明する前に、まずはこの水質分析装置Xの概略について簡単に説明しておく。なお、図3は水質分析装置Xの保護カバーX13を取り外した状態の底面図である。
【0017】
この水質分析装置Xは、pH、導電率(Conductivity)、溶存酸素(Dissolved Oxygen)濃度、濁度(Turbidity)及び水温などの測定項目を同時に連続測定するものであり、図2、図3に示すように、水質測定用の複数の測定センサX3〜X8を備えた浸漬型のセンサ本体X1と、当該センサ本体X1に防水タイプの電気ケーブルCAを介して電気的に接続された計器本体X2と、を備えている。そして、例えば液体試料として海水の水質分析を行う場合には、電気ケーブルCAの部分を持ち、センサ本体X1を海水中に垂下し、海水中に浸漬した状態で行う。
【0018】
センサ本体X1は、図2に示すように、概略円柱形状をなすものであり、複数種類の測定センサX3〜X8と、それら測定センサX3〜X8が取り付けられる取付ブロック体X11と、電源、メモリ機能部を有する演算部や演算された水質の測定データ等を時系列的に記録するデータロガー等を内蔵する演算機器等収容体X12と、前記取付ブロック体X11の下端部(センサ取付側端部)に取り付けられて、測定センサを外部から保護するセンサ保護カバーX13と、を備えている。なお、取付ブロック体X11と演算機器等収容体X12とは水密ケースを構成する。また、センサ保護カバーX13は、外部からの光を遮光する遮光機能及び設置、測定の際に外部から受ける衝撃を吸収する衝撃吸収機能を有し、外部の液体試料(例えば海水等)をセンサ本体X1の内部に導きながらも、測定センサX3〜X8を外部から保護するものである。
【0019】
具体的に取付ブロック体X11の下端部に形成された取付面X11Aには、図2に示すように、pH測定用のpHガラス電極X31及び高濃度(3.3mol/L)のKClの内部液を用いた比較電極X32で構成されるpHセンサX3、前記比較電極X32を用いて酸化還元電位を測定するための酸化還元電極X4、例えば交流4極法を用いた導電率センサX5、透過散乱法を用いた濁度センサX6、ポーラログラフ法を用いた溶存酸素計X7、及び温度センサX8等が同一方向を向くように設けられている。つまり各測定センサX3〜X8は、その中心軸方向が略一致する方向に取付面X11Aに設けられている。取付面X11Aは、同一平面により形成されても良いし、部分的に段部を有するようなものでも良い。
【0020】
計器本体X2は、前記センサ本体X1からの測定データ等を表示する表示部、電源キー、機能キー、測定の開始・終了キー、校正キー、セレクトキー、アップダウンキー等を備えている。そして、前記電気ケーブルCAを操ってセンサ本体X1を水没させると、各測定センサX3〜X8のからの出力に基づく測定データが前記メモリ機能部に記録され、且つ、その測定値が表示部に表示される。
【0021】
しかして、この実施形態に係る電気化学式測定装置である溶存酸素計X7は、図4に示すように、作用電極2、対電極3及び基準電極4の三電極からなる電極機構1と、前記作用電極2の基準電極4に対する電位が一定に保たれるように前記対電極3の電位を制御するポテンシオスタット回路6とを具備し、作用電極2と対電極3との間に流れる電流量を測定することによって、測定対象液の溶存酸素量を測定するものである。以下に各部を詳述する。
【0022】
電極機構1は、測定対象液に浸漬されるもので、図5に示すように、内部空間に内部液Qが充填される中空の筐体5と、この筐体5に保持された前記三電極2、3、4とからなる。
【0023】
筐体5は、先端部開口に酸素透過膜7を張り設けた円筒状をなす筐体本体51と、この筐体本体51の基端部開口に螺合して該開口を液密に閉塞するベース部材52とから構成してある。
【0024】
このベース部材52は、筐体5の内部空間を作用電極2が挿入される第1空間と、対電極3及び基準電極4が挿入される第2空間との2つに仕切るための絶縁樹脂製のものであり、筐体本体51の内部に延びる円柱状部材521と、この円柱状部材521の基端部外周に設けた円盤状部材522とからなる。そして、前記円盤状部材522の外周面に設けられたねじ溝が、筐体本体51の基端部開口に螺合し、シール部材Oを押圧するように構成してある。前記円柱状部材521の中央には、円柱状の作用電極2が中心軸線を合致させて貫通させてあり、またこの円柱状部材521の外側には、円筒状の対電極3が嵌め込んである。さらに、円盤状部材522の周縁部には、基準電極4が貫通させてある。
【0025】
ところで、前記三電極3、4、5は、シール部材等を介在させることなく、前記ベース部材52に液密に貫通させてある。そのためにこの実施形態では、予め型枠に三電極を配置して、その隙間に樹脂を射出し、ベース部材52を形成するというインジェクション成形法によって、ベース部材52及び三電極を一体的に形成している。
【0026】
また、円柱状部材521及び作用電極2の先端面8を部分球状に形成するとともに、筐体本体51をベース部材52に螺着したときに、前記酸素透過膜7が前記先端面8に対してある程度のテンションで、張り付くように構成している。この構成によって、内部液Qが、酸素透過膜7と前記先端面8との間に毛細管現象等で浸入し、酸素透過膜7の内面と前記先端面8との隙間を約10μmまたはそれ以下の一定値に保つ作用を営む。なお、前記先端面8の周縁部にはR加工を施してエッジが形成されないようにし、酸素透過膜7との間で毛細管現象が円滑に営まれるようにしている。
【0027】
かかる構成によれば、酸素透過膜7を通過した溶存酸素は作用電極2で還元され、溶存酸素濃度(DO濃度)に比例する還元電流iが流れることから、この還元電流iを、例えばゼロシャント電流計で測定することにより、測定対象液の溶存酸素濃度を測定することができる。
【0028】
しかしてこの実施形態では、前述したポテンシオスタット回路6に工夫を加えて、基準電極4の電位を当該ポテンシオスタット回路6の接地電位に保つとともに、作用電極2を前記接地電位よりも低い電位に保持するものにしている。
【0029】
具体的にこのポテンシオスタット回路6は、図2に示すように、作用電極2に接続されるW端子、対電極3に接続されるC端子及び基準電極4に接続されるR端子と、前記接地電位よりも一定電圧だけ低い負電圧を発生するとともに、その負電圧出力端子を前記W端子に接続した負電圧発生回路61と、非反転入力端子In+、反転入力端子In−及び出力端子Outを有し、前記非反転入力端子In+を接地させるとともに、前記反転入力端子In−をR端子に、前記出力端子OutをC端子にそれぞれ接続した演算増幅回路62とを具備したものである。
【0030】
このような構成によれば、回路6の応答速度などによって過渡的な若干の変動はあるものの、基準電極4と対電極3とがこのポテンシオスタット回路6の接地電位に保たれることから、内部液Qも接地電位に保たれる。したがって、仮に内部液Qが測定対象液にリークしたとしても、このポテンシオスタット回路6と接地電位を共通にしている他の測定回路(この例では、pHセンサX3、酸化還元電極X4、導電率センサX5)への電流影響を可及的に低減でき、該他の測定回路の測定精度を維持できる。
【0031】
また、このように、内部液Qのリークによる他の測定回路への影響が少ないことから、内部液Qを封入するための液密構造を簡易化したり、測定回路同士をフロートするといった工夫を省略したりできるので、全体としてのコスト削減を促進できる。
【0032】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。例えばポーラログラフィなど、三電極を利用して測定対象液の性質を電気化学的に測定するものであれば、本発明を適用して前記実施形態と同様の作用効果を奏するものである。また、負電位発生回路は、その負電位を自動又は外部操作によって可変に調整できるようにしたものでもよい。もちろん、前記実施形態ではポテンシオスタット回路の基本的な一例を挙げたに過ぎず、周辺部分での変更や追加をして構わない。
【0033】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】従来のポテンシオスタット回路の一例を示す電気回路図。
【図2】本発明の一実施形態に係る水質分析装置の全体図を示す全体斜視図。
【図3】同実施形態における水質分析装置の内部構造を示す底面図。
【図4】本発明の一実施形態に係る溶存酸素計の電極機構を示す部分縦断面図。
【図5】同実施形態におけるポテンシオスタット回路の一例を示す電気回路図。
【符号の説明】
【0035】
X7・・・三電極式電気化学測定装置(溶存酸素計)
2・・・作用電極
3・・・対電極
4・・・基準電極
6・・・ポテンシオスタット回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作用電極、内部液に浸漬した対電極及び基準電極の3電極と、前記作用電極の基準電極に対する電位が一定に保たれるように前記対電極の電位を制御するポテンシオスタット回路とを具備し、作用電極と対電極との間に流れる電流量を測定することによって測定対象液の性質を電気化学的に測定するものであって、
前記ポテンシオスタット回路が、基準電極の電位を当該ポテンシオスタット回路の接地電位に保つとともに、作用電極を前記接地電位よりも低い電位に保持するものであることを特徴とする3電極式電気化学測定装置。
【請求項2】
前記ポテンシオスタット回路が、
前記接地電位よりも一定電圧だけ低い負電圧を発生するとともに、その負電圧出力端子を前記作用電極に接続した負電圧発生回路と、
非反転入力端子、反転入力端子及び出力端子を有し、前記非反転入力端子を接地させるとともに、前記反転入力端子を基準電極に、前記出力端子を対電極にそれぞれ接続した演算増幅回路とを具備したものである請求項1記載の3電極式電気化学測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−60376(P2010−60376A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224939(P2008−224939)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)