説明

3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体の精製方法

【課題】高純度の3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体を与える精製方法を提供すること。
【解決手段】ジアルコキシチオフェン誘導体を含む有機層と酸を含む水層とを混合接触する工程(A)、前記有機層と前記水層とを分離し、有機層を回収する工程(B)、回収した有機層から3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体を抽出する工程(C)を含む3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体の精製方法であり、得られた3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体を原料とする導電性高分子は、高導電性に加えて高透明性を有することから、固体電解コンデンサや導電性付与剤等に好適に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピロール誘導体、アニリン誘導体、チオフェン誘導体等に代表される芳香族モノマーは導電性高分子の製造に供され、実用化に向けさまざまな研究がなされてきた。特にチオフェン誘導体を原料とする高分子は高導電性に加えて高透明性を有することから、チオフェン誘導体は重要な芳香族モノマーである。
【0003】
チオフェン誘導体の中でも3,4−エチレンジオキシチオフェンは固体電解コンデンサや導電性付与剤等の原料として実用化されている。
【0004】
この3,4−エチレンジオキシチオフェンの製造方法として、3,4−ジメトキシチオフェンをパラトルエンスルホン酸の存在下、エチレングリコールと共にトルエン中で加熱還流させる製造方法が知られている(非特許文献1)。
【0005】
一方、3,4−ジメトキシチオフェンは、3,4−ジブロモチオフェンをメタノール溶液中でヨウ化カリウム及び酸化銅の存在下に金属ナトリウムと反応させる製造方法により得られることも知られている(非特許文献2)。
【0006】
この様に、3,4−ジメトキシチオフェンに代表されるジアルコキシチオフェンは前記チオフェン誘導体の重要な原料となる。
【0007】
しかしながら、先の製造方法により得られた3,4−ジメトキシチオフェンは低純度であり、この3,4−ジメトキシチオフェンを原料として3,4−エチレンジオキチシチオフェンを製造すると低純度の3,4−エチレンジオキシチオフェンが得られ、精製が非常に困難である。そのため、3,4−ジメトキシチオフェンの製造のときに精製する必要がある。
【0008】
公知となっているチオフェン誘導体等の芳香族モノマーの精製法としては、蒸留、再結晶、クロマトグラフィー、抽出等が挙げられる。
【0009】
得られた3,4−ジメトキシチオフェンを蒸留精製することで副生成物を減少でき、例えば、3,4−ジメトキシチオフェンにおいては96.5%程度まで純度を向上させることができる。主な副生成物は2,4−ジメトキシチオフェンである。
【0010】
蒸留精製によって、さらに高純度化させようとしても副生成物が構造異性体であるため、沸点差が非常に小さいものとなり分離は極めて困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Synthetic Communications,28(12),2237−2244(1998)
【非特許文献2】Tetrahedron Letters,45,6049−6050(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、高純度の3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体を与える精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため発明者らが鋭意検討した結果、ジアルコキシチオフェン誘導体を含む有機層と酸を含む水層とを混合接触する工程(A)、前記有機層と前記水層とを分離し、有機層を回収する工程(B)、回収した有機層から下記一般式(1)で示される3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体を抽出する工程(C)を含む3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体の精製方法によれば、2,4−ジアルコキシチオフェン誘導体等の副生成物を取り除くことができ、高純度の3,4−ジメトキシチオフェン誘導体が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
第一の発明は、ジアルコキシチオフェン誘導体を含む有機層と酸を含む水層とを混合接触する工程(A)、前記有機層と前記水層とを分離し、有機層を回収する工程(B)、回収した有機層を溶媒除去し下記一般式(1)により表される3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体を取り出す工程(C)を含む3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体の精製方法である。
【0015】
【化1】

(式(1)中のR、Rは互いに同じであっても異なっていてもよい炭素数1〜20の鎖状又は分岐鎖状のアルキル基又はアリール基を表す。)
【0016】
第二の発明は、前記ジアルコキシチオフェン誘導体が、一般式(2)により表されるハロゲン化チオフェンとアルカリ金属アルコキシドとを、アルコール系溶媒で反応させて得られたジアルコキシチオフェン誘導体であることを特徴とする第一の発明に記載の3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体の精製方法である。
【0017】
【化2】

(式(2)中のXは互いに独立であっても異なってもよいフッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子のいずれかを表す。)
【0018】
第三の発明は、酸が、塩酸、パラトルエンスルホン酸、硫酸であることを特徴とする第一又は第二の発明に記載の3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体の精製方法である。
【0019】
第四の発明は、水層の酸の濃度が、前記ジアルコキシチオフェン誘導体に対し0.1〜30モル%である水層を用いることを特徴とする第一から第三の発明のいずれかに記載の3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体の精製方法である。
【0020】
第五の発明は、少なくとも99.00%の純度を有することを特徴とする第一から第四のいずれかに記載の3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体の精製方法によって得られた3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の精製方法によれば、前記一般式(1)により表される3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体が高純度で得られる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
まず、ジアルコキシチオフェン誘導体を含む有機層と酸を含む水層とを混合接触する工程(A)について説明する。
【0023】
本発明は、下記一般式(1)により表される3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体を少なくとも含んでいるジアルコキシチオフェン誘導体を用いることを特徴とする。
【0024】
【化3】

【0025】
前記一般式(1)中のR、Rは互いに同じであっても異なっていてもよい鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜20のアルキル基又はアリール基を表すものである。
【0026】
、Rは、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、イソプロピル基、イソブチル基等が挙げられる。これらの中でも反応性や取扱性の面からメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が好ましく挙げられ、メチル基がより好ましく挙げられる。
【0027】
上記一般式(1)により表される3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体としては、例えば、3,4−ジメトキシチオフェン、3−メトキシ−4−エトキシチオフェン、3,4−ジエトキシチオフェン、3−メトキシ−4−プロポキシチオフェン、3−エトキシ−4−プロポキシチオフェン、3,4−ジプロポキシチオフェン、3−ブトキシ−4−メトキシチオフェン、3−ブトキシ−4−エトキシチオフェン、3−ブトキシ−4−プロポキシチオフェン、3,4−ジブトキシチオフェン等が挙げられる。
【0028】
本発明に使用する酸としては、蟻酸、酢酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸、塩酸、リン酸、硝酸、硫酸等の無機酸が挙げられる。
これらの中でも取扱面からパラトルエンスルホン酸、塩酸、硫酸が好ましく挙げられ、パラトルエンスルホン酸、塩酸がより好ましく挙げられる。
【0029】
酸は一種類若しくは二種類以上使用することができる。
【0030】
水層の酸の濃度は、ジアルコキシ誘導体に対し0.1〜30モル%が好ましく、10〜20モル%がより好ましく挙げられる。酸の濃度が0.1モル%未満である場合2,4−ジアルコキシチオフェン誘導体等を完全に除去しきれないことがあり、また30モル%を超える場合回収率が低下する欠点がある。
【0031】
酸を加えた水層のpHは、0.05〜3.0が好ましく、0.1〜1.0がより好ましい。pHが0.05未満である場合回収率が低下し、pHが3.0を超える場合は2,4−ジアルコキシチオフェン誘導体等を完全に除去しきれない欠点がある。
【0032】
有機層に用いる有機溶媒は芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素等が挙げられる。
【0033】
前記芳香族炭化水素として、トルエン、キシレン等が挙げられ、前記脂肪族炭化水素として、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等が挙げられる。取扱の面からヘキサンが好ましく挙げられる。
【0034】
前記有機溶媒の使用量はジアルコキシチオフェン誘導体の重量に対し0.01〜100倍が好ましく、0.1〜30倍がより好ましく、1.0〜10倍が特に好ましい。有機溶媒が0.01倍未満である場合回収率が低下し、100倍を超える場合費用が掛かってしまう欠点がある。
【0035】
ジアルコキシチオフェン誘導体の酸に対する溶解度は、pH1.0の塩酸の水溶液(25℃)に対する溶解度は、3,4−ジアルコキシチオフェンは1.0〜10g/Lであるのに対し、2,4−ジアルコキシチオフェンは50〜100g/Lである。本発明はこのジアルコキシチオフェン誘導体の酸に対する溶解度差を利用して精製する方法である。すなわち、前記有機層と前記水層を接触混合させることで、酸に対する溶解度の差より、酸に溶解しにくい3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体と、酸に溶解しやすい2,4−ジアルコキシチオフェン誘導体等を分離することができる。
【0036】
ジアルコキシチオフェン誘導体を含む有機層と酸を含む水層とを混合接触する際の温度は特に限定されず、室温でも容易に抽出できる。
また、混合接触させる時間は1〜120分が好ましく、2〜60分がより好ましく、5〜30分が特に好ましい。1分未満では、十分に2,4−ジメトキシチオフェン誘導体等の副生成物を水層に溶解させることができず、120分を超えると3,4−ジメトキシチオフェン誘導体まで水層に溶解する欠点を有するためである。
【0037】
有機層と水層を混合接触させるときの割合は、有機層100mlに対し、pH1.0に調製した水層10〜300mlが好ましく、50〜200mlがより好ましく、100mlが特に好ましい。10ml未満では、十分に2,4−ジメトキシチオフェン誘導体等の副生成物を水層に溶解させることができず、300mlを超えると3,4−ジメトキシチオフェン誘導体まで水層に溶解し、かつ、費用が掛かってしまう欠点がある。
【0038】
有機層と水層を混合接触させる方法は、具体的には、試料を有機溶媒に溶解又は分散させた状態で水層と撹拌する方法である。撹拌する方法は、特に限定されず、例えば、フラスコを用いて攪拌子又は攪拌棒により撹拌させる方法、超音波振動装置を用いて振動させて撹拌する方法、分液漏斗等で振とうさせて撹拌する方法等が挙げられ、撹拌効率や量産化の面から、フラスコを用いて攪拌子又は攪拌棒により撹拌させる方法が好ましく挙げられる。
【0039】
次に、前記有機層と前記水層を分離し、有機層を回収する工程(B)について説明する。
【0040】
工程(A)より得られた前記有機層と前記水層の混合物は室温で容易に分離でき、分液漏斗により分離し有機層のみを回収することができる。また、分離した有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水させてもよい。
【0041】
次に、回収した有機層から溶媒を除去し前記一般式(1)により表される3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体を取り出す工程(C)について説明する。
【0042】
溶媒を除去する方法としては、減圧濃縮による方法が挙げられる。減圧濃縮とは、加熱又は常温で減圧しながら溶媒成分を抽出することで溶液を濃縮する工程のことである。減圧濃縮によれば、多量の溶液を濃縮することができ、また、溶媒を回収し、再利用することができる。
【0043】
本発明のジアルコキシチオフェン誘導体の製造方法について説明する。
【0044】
下記一般式(2)により表されるハロゲン化チオフェンとアルカリ金属アルコキシドとを、アルコール溶媒中で反応させることよりジアルコキシチオフェン誘導体を製造することができる。
【0045】
【化4】

【0046】
前記一般式(2)中のXは互いに独立であっても異なってもよいフッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子のいずれかを表す。
【0047】
一般式(2)により表されるハロゲン化チオフェンとしては、例えば、3,4−ジフルオロチオフェン、3,4−ジクロロチオフェン、3,4−ジブロモチオフェン、3,4−ジヨードチオフェン、3−クロロ−4−フルオロチオフェン、3−ブロモ−4−フルオロチオフェン、3−ヨード−4−フルオロチオフェン、3−ブロモ−4−クロロチオフェン、3−クロロ−4−ヨードチオフェン、3−ブロモ−4−ヨードチオフェン等を挙げることができる。
【0048】
これらの中でも価格や取扱の面で3,4−ジフルオロチオフェン、3,4−ジクロロチオフェン、3,4−ジブロモチオフェン、3,4−ジヨードチオフェン等が好ましく挙げられ、3,4−ジブロモチオフェンがより好ましく挙げられる。
【0049】
ハロゲン化チオフェンは一種類若しくは二種類を使用することができる。
【0050】
前記アルカリ金属アルコキシドとしては、例えば、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウムプロポキシド、リチウムブトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムプロポキシド、ナトリウムブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムプロポキシド、カリウムブロキシド、リチウムフェノキシド、ナトリウムフェノキシド、カリウムフェノキシド等を挙げることができる。
これらの中でも取扱の面でナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムプロポキシド、ナトリウムブトキシドが好ましく挙げられ、ナトリウムメトキシドであればより好ましく挙げられる。
【0051】
アルカリ金属アルコキシドは一種類若しくは二種類を使用することができる。
【0052】
アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクチノール、メトキシメタノール、メトキシエタノール、メトキシプロパノール、メトキシブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等を挙げることができる。
これらの中でもメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が好ましく挙げられ、メタノールがより好ましく挙げられる。
【0053】
前記アルコール系溶媒は一種類若しくは二種類を使用することができる。
【0054】
前記一般式(1)により表されるハロゲン化チオフェンと前記アルカリ金属アルコキシドとをアルコール系溶媒中で混合する際には、触媒を使用することができる。
【0055】
前記触媒としては、例えば、フッ化銅、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅等のハロゲン化銅、酸化銅等の銅触媒を挙げることができる。
【0056】
反応終了後、例えば、水等を加えてろ過した後、粗生成物を有機溶媒により抽出し、得られた有機溶媒層を水洗し、乾燥させる。
【0057】
前記有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族系溶媒が挙げられる。
【0058】
前記粗生成物の有機溶液の乾燥としては、例えば、前記粗生成物の有機溶液を減圧下に加熱還流させ、共沸する水を分離除去する等の操作により実施することができる。
【0059】
反応後、例えば、水等を加えてろ過した後、有機溶媒により抽出し、得られた有機層を水洗し乾燥させて、前記一般式(1)より表されるジアルコキシチオフェン誘導体を少なくとも含む粗生成物を得ることができる。主な副生成物としては2,4−ジアルコキシチオフェン誘導体が挙げられる。
【0060】
前記一般式(1)より表されるジアルコキシチオフェン誘導体を少なくとも含む粗生成物を、例えば減圧蒸留する等の蒸留操作により、純度を向上させることもできる。
【0061】
本発明の3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体の精製方法は、上記製造方法により得られたジアルコキシチオフェン誘導体によらず、あらゆる製造方法により得られたジアルコキシチオフェン誘導体の精製方法として用いることが可能である。
【実施例】
【0062】
次に本発明について実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例中の「%」は「重量%」を表す。
【0063】
純度はガスクロマトグラフィー(GC)により測定した。装置はAglient Technologies社のAgilent 6890NネットワークGC(カラム:DB−35)を使用した。FIDによる検出装置を用いて得られたピーク面積比により純度を算出した。
【0064】
(実施例1)
[3,4−ジメトキシチオフェンの製造]
500ml四つ口フラスコにナトリウムメトキシド63g、メタノール120gを入れ(ナトリウムメトキシドのメタノール溶媒に対する濃度は、反応前のナトリウムメトキシドの全量を基準として35.0重量%)、アルゴン雰囲気下で70℃にて溶解させた。
臭化第一銅2.49gを入れた後、3,4−ジブロモチオフェン45gを滴下する。滴下後、反応液を88℃にて5時間加熱還流させた。反応後、水を加えてろ過した後、トルエンを用いて抽出し、減圧濃縮した後、減圧蒸留を行い3,4−ジメトキシチオフェンの粗生成物(2,4−ジメトキシチオフェン含有量2.8%、3,4−ジメトキシチオフェン含有量96.5%)22.0gを得た。
【0065】
[3,4−ジメトキシチオフェンの精製]
得られた3,4−ジメトキシチオフェンの粗生成物20.0gをヘキサン100mlに希釈し、13.7モル%の塩酸100mlで10分攪拌(室温)した。ヘキサン層を抽出し、減圧濃縮して3,4−ジメトキシチオフェンを得た。得られた3,4−ジメトキシチオフェンの純度は99.1%で回収量は18.8g(回収率:94.0%)あった。得られた生成物に2,4−ジメトキシチオフェンは含有していなかった。
【0066】
(実施例2)
[3,4−ジメトキシチオフェンの精製]
実施例1と同様にして得られた3,4−ジメトキシチオフェンの粗生成物20.0gをヘキサン100mlに希釈し27.4モル%塩酸100mlで10分攪拌(室温)した。ヘキサン層を抽出し、減圧濃縮して3,4−ジメトキシチオフェンを得た。得られた3,4−ジメトキシチオフェンの純度は99.2%で回収量は17.8g(回収率:89.0%)あった。得られた生成物に2,4−ジメトキシチオフェンは含有していなかった。
【0067】
(実施例3)
[3,4−ジメトキシチオフェンの精製]
実施例1と同様にして得られた3,4−ジメトキシチオフェンの粗生成物20.0gをヘキサン100mlに希釈し8.2モル%塩酸100mlで10分攪拌(室温)した。ヘキサン層を抽出し、減圧濃縮して3,4−ジメトキシチオフェンを得た。得られた3,4−ジメトキシチオフェンの純度は98.5%で回収量は19.3g(回収率:96.5%)あった。得られた生成物中に2,4−ジメトキシチオフェンは0.6%含有していた。
【0068】
(実施例4)
[3,4−ジメトキシチオフェンの精製]
実施例1と同様にして得られた3,4−ジメトキシチオフェンの粗生成物20.0gをヘキサン100mlに希釈し40.0モル%塩酸100mlで10分攪拌(室温)した。ヘキサン層を抽出し、減圧濃縮して3,4−ジメトキシチオフェンを得た。3,4−ジメトキシチオフェンの純度は99.2%で回収量は16.0g(回収率:80.0%)あった。得られた生成物中に2,4−ジメトキシチオフェンは含有していなかった。
【0069】
(実施例5)
[3,4−ジメトキシチオフェンの精製]
実施例1と同様にして得られた3,4−ジメトキシチオフェンの粗生成物20.0gをヘキサン100mlに希釈し17.8モル%パラトルエンスルホン酸100mlで10分攪拌(室温)した。ヘキサン層を抽出し、減圧濃縮して3,4−ジメトキシチオフェンを得た。3,4−ジメトキシチオフェンの純度は99.2%で回収量は17.9g(回収率:89.5%)あった。得られた生成物中に2,4−ジメトキシチオフェンは含有していなかった。
【0070】
(実施例6)
[3,4−ジメトキシチオフェンの精製]
実施例1と同様にして得られた3,4−ジメトキシチオフェンの粗生成物20.0gをヘキサン100mlに希釈し14.2モル%硫酸100mlで10分攪拌(室温)した。ヘキサン層を抽出し、減圧濃縮して3,4−ジメトキシチオフェンを得た。3,4−ジメトキシチオフェンの純度は99.0%で回収量は18.2g(回収率:91.0%)あった。得られた生成物中に2,4−ジメトキシチオフェンは0.3%含有していた。
【0071】
(比較例1)
[3,4−ジメトキシチオフェンの精製]
実施例1と同様にして得られた3,4−ジメトキシチオフェンの粗生成物20.0gをヘキサン100mlに水100mlを加え10分攪拌(撹拌)した。ヘキサン層を抽出し、減圧濃縮して3,4−ジメトキシチオフェンを得た。得られた3,4−ジメトキシチオフェンの純度は96.5%で回収量は19.7g(回収率:98.5%)あった。得られた生成物中に2,4−ジメトキシチオフェンは2.8%含有していた。
【0072】
(比較例2)
[3,4−ジメトキシチオフェンの精製]
実施例1と同様にして得られた3,4−ジメトキシチオフェンの粗生成物20.0gを減圧蒸留して、3,4−ジメトキシチオフェンを得た。得られた3,4−ジメトキシチオフェンの純度は96.5%で回収量は19.7g(回収率:97.2%)あった。得られた生成物中に2,4−ジメトキシチオフェンは2.8%含有していた。
【0073】
実施例1〜6及び比較例1、2で得られた3,4−ジメトキシチオフェンの純度、2,4−ジメトキシチオフェンの含有率、回収量を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
比較例1,2と比べ、実施例1〜6では、2,4−ジメトキシチオフェンの含有率が減り、高純度の3,4−ジメトキシチオフェンが得られた。これより、本発明である3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体の精製方法を用いることで、高純度のジアルコキシチオフェンを得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
このように、本発明の3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体の精製方法を用いることで、高純度の3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体を得ることができ、得られた3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体を原料とする導電性高分子は、高導電性に加えて高透明性を有することから、固体電解コンデンサや導電性付与剤等に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアルコキシチオフェン誘導体を含む有機層と酸を含む水層とを混合接触する工程(A)、前記有機層と前記水層とを分離し、有機層を回収する工程(B)、回収した有機層を溶媒除去し下記一般式(1)により表される3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体を取り出す工程(C)を含む3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体の精製方法。
【化1】

(式(1)中のR、Rは互いに同じであっても異なっていてもよい炭素数1〜20の鎖状又は分岐鎖状のアルキル基又はアリール基を表す。)
【請求項2】
前記ジアルコキシチオフェン誘導体が、一般式(2)により表されるハロゲン化チオフェンとアルカリ金属アルコキシドとを、アルコール系溶媒で反応させて得られたジアルコキシ誘導体であることを特徴とする請求項1に記載の3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体の精製方法。
【化2】

(式(2)中のXは互いに独立であっても異なってもよいフッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子のいずれかを表す。)
【請求項3】
酸が、塩酸、パラトルエンスルホン酸、硫酸であることを特徴とする請求項1又は2に記載の3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体の精製方法。
【請求項4】
水層の酸の濃度が、前記ジアルコキシチオフェン誘導体に対し0.1〜30モル%である水層を用いることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体の精製方法。
【請求項5】
少なくとも99.00%の純度を有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体の精製方法によって得られた3,4−ジアルコキシチオフェン誘導体。

【公開番号】特開2010−184888(P2010−184888A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29478(P2009−29478)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)
【Fターム(参考)】