説明

3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸の製造方法

【課題】 生産効率の改善された、かさ比重の高い高純度の3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸の製造方法を提供する。
【解決手段】 3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸のアルカリ金属塩を含む水性溶媒溶液を酸により酸析し、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸を製造する方法において、水性溶媒溶液中に、アルカリ金属重炭酸塩を濃度0.3〜10重量%にて含むことを特徴とする、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸(以下DBPOBと記載)は、例えばポリプロピレン等の高分子材料用の紫外線吸収剤や酸化防止剤、感圧記録紙用の顕色剤、医農薬などの化学品の合成原料として広く用いられている有用な化合物である。
【0003】
DBPOBの製造方法としては例えば、水酸化ナトリウムやナトリウムメトキシドなどの塩基性アルカリ金属化合物と、アルカリ金属化合物に対して過剰量の2,6−ジ−tert−ブチルフェノール(以下DTBPと記載)とを、特定の温度下で反応させて、アルカリ金属の2,6−ジ−tert−ブチルフェノラートを得、これを二酸化炭素と反応させるコルベシュミット法による製造方法が知られている(特許文献1および2を参照)。
【0004】
これらの方法は収率も良好であり、過剰に用いたDTBPを容易にDBPOBの製造原料としてリサイクル使用できることが利点である。
上記方法において、DBPOBは、DTBPのアルカリ金属塩と二酸化炭素を反応させた反応液に加水した後に、過剰に用いたDTBPを分液して得られるDBPOBのアルカリ金属塩の水溶液を酸析することにより得られる。
【0005】
しかし、上記方法は、得られるDBPOBの粒子径が非常に小さく比表面積が大きいために、酸析後のDBPOBのスラリーを固液分離する際に、DBPOB表面へ付着する溶媒が非常に多いことから、酸析後の溶媒中の塩類や反応副生物がDBPOBに多量に同伴し、得られるDBPOBの純度を低下させる問題がある。また、固液分離後のケーキ中に多量の付着溶媒が含まれるため作業効率が非常に低いなどの問題を有する。
【0006】
また、上記方法により得られるDBPOBは、小粒子径であるために、各種化学品の合成原料として用いる場合に粉塵飛散を起こしたり、反応容器などへの仕込み時に粉体の流動性が低く取り扱い難いなど、作業性の点でも大きな問題がある。
【0007】
さらに、上記方法により得られるDBPOBは、かさ比重が低く、紙袋などの包装材料へ充填する際に、包装材料への充填量が少ないことや、充填量を増やすために脱気工程が必要であったり、保管時に非常に大きな場所を必要とするなど商品として流通させる場合においても多くの問題を有するものである。
【特許文献1】特開2004−123592号公報
【特許文献2】国際公開第2004/078693号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点を解決し、生産効率の改善された3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸の製造方法を提供するとともに、かさ比重の高い高純度の3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸のアルカリ金属塩を含む水性溶媒溶液を酸により酸析し、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸を製造する方法において、水性溶媒溶液中に、アルカリ金属重炭酸塩を濃度0.3〜10重量%にて含むことを特徴とする、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸の製造方法を提供する。
【0010】
本発明者らがDBPOBの製造方法について鋭意検討した結果、特定量のアルカリ金属重炭酸塩の存在下に、DBPOBのアルカリ金属塩の水性溶媒溶液を酸析することにより、かさ比重が高く、高純度のDBPOBを効率よく生産可能であることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の方法に用いるDBPOBのアルカリ金属塩の水性溶媒溶液の調製方法は特に限定されないが、例えば、DTBPのアルカリ金属塩と二酸化炭素とを反応させるコルベ・シュミット反応を行って得た、DBPOBのアルカリ金属塩を含む反応液に水性溶媒を添加することにより調製する方法や、従来知られる何れかの方法により得られたDBPOBを水性溶媒に分散させた後に、DBPOBのカルボキシル基をアルカリ金属塩とするのに十分な量の、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、ナトリウムメトキシドなどの塩基性アルカリ金属化合物を加えることにより調製することができる。
【0012】
上記溶液中のDBPOBのアルカリ金属塩は、水酸基とカルボキシル基が共にアルカリ金属塩となったジアルカリ金属塩であってもよいが、ジアルカリ金属塩の酸析には多量の酸を必要とするため、DBPOBのカルボキシル基のみがアルカリ金属塩となったモノアルカリ金属塩であるのが特に好ましい。
DBPOBのアルカリ金属塩としては、ナトリウム塩および/またはカリウム塩を用いるのが好ましく、DBPOBのナトリウム塩を単独で用いるのが特に好ましい。
【0013】
上記のDBPOBのアルカリ金属塩の溶液を調製する際に、溶媒として用いる水性溶媒としては、水または水溶性有機溶媒の水溶液を用いることが出来る。溶媒に水溶性有機溶媒の水溶液を用いる場合の好適な水溶性有機溶媒の例としては、メタノール、エタノール、エチレングリコールなどの水溶性の脂肪族アルコール類;アセトンなどのケトン類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、テトラヒドロフランなどの非プロトン性極性有機溶媒などが挙げられる。これらの中では、塩基性、酸性条件下の何れにおいても化学的に安定であることから、脂肪族アルコール類を用いるのが好ましい。
【0014】
水性溶媒として水溶性有機溶媒の水溶液を用いる場合、水性溶媒中の水溶性有機溶媒の濃度は50重量%以下、特に20重量%以下であるのが好ましい。
【0015】
上記のように調製された、DBPOBのアルカリ金属塩の水性媒体溶液におけるDBPOBのアルカリ金属塩の濃度は3〜20重量%、特に5〜18重量%であるのが好ましい。
DBPOBのアルカリ金属塩の濃度が20重量%を超える場合においても本発明の方法は実施可能である。ただし、DBPOBのアルカリ金属塩が析出しやすく酸析後に分離したDBPOBにDBPOBのアルカリ金属塩が混入する場合があるので注意を要する。また、濃度が3重量%よりも低い場合には、酸析後のスラリーの濃度が低いために固液分離の際に分離機へのスラリーの供給に長時間を要することから効率的でない。
【0016】
本発明のDBPOBの製造方法は、上述したDBPOBのアルカリ金属塩およびアルカリ金属重炭酸塩を含む水性溶媒溶液に酸を加えて、酸析操作を行うものである。
【0017】
本発明に用いるアルカリ金属重炭酸塩としては、炭酸水素ナトリウムおよび/または炭酸水素カリウムを用いるのが好ましい。
【0018】
本発明において酸析工程に供する水性溶媒溶液における、アルカリ金属重炭酸塩の濃度は0.3〜10重量%、特に1〜7重量%であるのが好ましい。
アルカリ金属重炭酸塩の濃度が0.3重量%よりも低い場合は、得られるDBPOBのかさ比重が低く本発明の効果が得られず、濃度が10重量%よりも高い場合には、酸析時に酸を大量に使用しなければならないこと、酸析時の発熱量が増加することや、酸析により副生物として生じる酸析に使用した酸のアルカリ金属塩が多量に生成し、得られるDBPOBに混入しやすくなるなどの問題がある。
【0019】
なお、本発明において、酸析に供する水性溶媒溶液に所定量のアルカリ金属重炭酸塩が含まれている限り、例えば、硫酸塩、塩酸塩、硝酸塩、炭酸塩、燐酸塩などの他のアルカリ金属塩が共存することを妨げない。
【0020】
本発明のDBPOBの製造方法において、上記濃度でアルカリ金属重炭酸塩がDBPOBのアルカリ金属塩の水性溶媒溶液に含まれる限り限定されるものではないが、酸析工程に供する水性溶媒溶液の調製方法としては、例えば、アルカリ金属重炭酸塩を、上述の方法で調製されたDBPOBのアルカリ金属塩の水性溶媒溶液に、アルカリ金属塩の重炭酸塩の濃度が0.3〜10重量%の範囲で任意の濃度となるように添加すればよい。
【0021】
このようにして調製されたDBPOBのアルカリ金属塩およびアルカリ金属重炭酸塩を含む水性溶媒溶液は、所望により活性炭などの吸着材による処理や不溶性の不純物を取り除くためのろ過工程を経た後に酸析工程に供される。
【0022】
酸析工程は、0〜70℃、特に30〜60℃で行うのが好ましい。
酸析時の温度が0℃よりも低い場合はDBPOBのアルカリ金属塩が析出しやすく、70℃よりも高い場合はDBPOBまたはDBPOBのアルカリ金属塩の脱炭酸による分解が激しくなり好ましくない。
【0023】
酸析に使用する好適な酸の例としては、硫酸、塩酸、硝酸、燐酸、および酢酸からなる群から選択される1種以上が挙げられる。これらの中でも硫酸を単独で使用するのが好ましい。
【0024】
酸析時には前記の酸を用い、DBPOBが析出したスラリーのpHが2.0〜5.0、特に3.0〜4.0となるように調節するのが好ましい。pHが2.0より低い場合でも、得られるDBPOBの品質には特に問題は無いが、特段優れた効果が得られるものではなく、また使用する機器が腐食しやすいという問題がある。pHが5.0よりも高い場合にはDBPOBを十分な収率で回収できない場合がある。
【0025】
酸析後のDBPOBのスラリーは、次いで固液分離工程に供されDBPOBが回収される。固液分離工程に使用される分離機は、通常種々のスラリーからの固体回収に用いられる物であれば特に限定されないが、遠心分離機を用いるのが生産効率の点で好ましい。遠心分離機を用いる場合は、遠心効果300〜1000Gにおいて分離操作を行うのが好ましい。
【0026】
本発明において固液分離工程に遠心分離機を使用する場合は、分離ケーキに付着した溶媒中のアルカリ金属塩類を除去するために、分離ケーキを水により洗浄可能なもの(例えば、たて型バスケット遠心分離機)を用いるのが好ましい。
【0027】
本発明の方法によれば、酸析により粒子径の大きなDBPOBが得られるため、粒子表面に付着する水性溶媒量が少なく、スラリーより分離されたDBPOBのウェットケーキ中の水性溶媒含有量が少ないものである。また、ウェットケーキ中の水性溶媒含有量が少ないために、分離ケーキ中のDBPOB含有量が多く、酸析後のスラリーの固液分離効率が非常に優れるともに、後の乾燥工程においても効率化されるものである。
【0028】
この様にして得られた、本発明のDBPOBは、以下に記載する方法により測定されるゆるみ見掛け比重が0.19以上と高いものであり、包装材料への充填性、製造・流通過程での取扱性ともに優れるものである。
【0029】
〈ゆるみ見掛け比重測定方法〉
ホソカワミクロン株式会社製、パウダーテスター(PT−R型)を用い、テスターに付属の説明書に記載の方法に従い、篩上でサンプルを振動させ、シュートを通して落下させ、規定の容器に受けて測定する。
【0030】
さらに、本発明のDBPOBは、固液分離時に付着する水性溶媒含有量が少ないために、酸析により副生したアルカリ金属塩などの不純物の含有量が少なく高純度のDBPOBを製造可能とするものである。
【0031】
本発明の方法において、上述したDBPOBのアルカリ金属塩の水性溶媒溶液の調製から、酸析後のDBPOBの固液分離にいたる工程は、得られるDBPOBの着色を防ぐために、何れも、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下に行うのが好ましい。
【0032】
本発明の方法により得られたDBPOBは、製造効率に優れるため安価であるとともに純度に優れるものであり、例えばポリプロピレン等の高分子材料用の紫外線吸収剤や酸化防止剤、感圧記録紙用の顕色剤、医農薬などの化学品の合成原料として好適に利用されるものである。
また、かさ比重が高く、粒子径も大きく粉体の取扱性に優れるため、製造・流通過程における問題の少ないものである。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
実施例1
DBPOB(上野製薬株式会社)、48%水酸化ナトリウム水溶液(要薬品株式会社)、重炭酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社)および水を用いて表1に示す組成の水溶液1588gを調製した。得られた水溶液を温度計、pH計、および攪拌翼を供えた四つ口のガラス製コルベンに移し、窒素雰囲気にて攪拌下に50℃まで昇温を行った。次いで、同温度を保持しながら1時間かけて、70%硫酸を滴下しpH3.5に調整し酸析を行った。
【0034】
酸析により得られたDBPOBのスラリーを、小型遠心分離機(株式会社三陽理化学機械製作所製、SYK−5000−15A)型を用いて、3000rpm(遠心効果600G)にて固液分離した。分離後に得られたウェットケーキを70℃にて12時間通風乾燥し、乾燥減量を求めた。乾燥減量は少ないほど遠心分離後のケーキへ付着溶媒量が少ないことを示す。
【0035】
乾燥後のDBPOBについて、ホソカワミクロン株式会社製パウダーテスター(PT−R型)を用いて、ゆるみ見掛け比重の測定を行った。乾燥減量およびゆるみ見掛け比重の値を表1に記す。
【0036】
実施例2〜4および比較例1〜2
酸析工程に供する水溶液の重量、DBPOBのナトリウム塩の濃度、および重炭酸ナトリウムの濃度を表1に示すものに変えることの他は、実施例1と同様に、酸析、遠心分離、および乾燥の操作を行った。乾燥減量およびゆるみ見掛け比重の値を表1に示す。
【0037】
実施例5
酸析工程に供する水溶液の重量、DBPOBのナトリウム塩の濃度、および重炭酸ナトリウムの濃度を表1に示すものに変え、さらに表1に記載の濃度の炭酸ナトリウムを用いることの他は、実施例1と同様に、酸析、遠心分離、および乾燥の操作を行った。乾燥減量およびゆるみ見掛け比重の値を表1に示す。
【0038】
比較例3
酸析工程に供する水溶液の重量およびDBPOBのナトリウム塩の濃度を表1に示すものに変え、重炭酸ナトリウムに変えてさらに表1に記載の濃度の硫酸ナトリウムを用いることの他は、実施例1と同様に、酸析、遠心分離、および乾燥の操作を行った。乾燥減量およびゆるみ見掛け比重の値を表1に示す。
【0039】
A〜Dは酸析に供する水溶液中の各成分の組成(濃度:重量%)を表し、Eは酸析に供した水溶液の重量を表す。
A:DBPOBのナトリウム塩
B:重炭酸ナトリウム
C:炭酸ナトリウム
D:硫酸ナトリウム
【表1】

【0040】
表1より、重炭酸ナトリウムの存在下に酸析を行う実施例の方法により得られたDBPOBは、乾燥減量が少なく固液分離の際に付着する溶媒量が少ないことがわかる。このことから、本発明の方法を用いれば、酸析後に固液分離されたDBPOBのウェットケーキの乾燥が容易となり、また付着溶媒が減少することから乾燥されたDBPOBの純度も向上することがわかる。
【0041】
さらに実施例の方法で得られたDBPOBはゆるみ見掛け比重が何れも0.2を超えるものであり、包装材料への充填性など粉体の取扱性が改善されていることがわかる。
また、実施例5から重炭酸ナトリウムなど重炭酸塩以外のアルカリ金属塩の共存下においても本発明の効果が得られることがわかり、比較例3からは硫酸ナトリウムなど重炭酸塩以外のアルカリ金属塩のみによっては本発明の効果が得られないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸のアルカリ金属塩を含む水性溶媒溶液を酸により酸析し、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸を製造する方法において、水性溶媒溶液中に、アルカリ金属重炭酸塩を濃度0.3〜10重量%にて含むことを特徴とする、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸の製造方法。
【請求項2】
水性溶媒溶液中の3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸のアルカリ金属塩の濃度が3〜20重量%である、請求項1に記載の3.5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸の製造方法。
【請求項3】
酸析時の温度が0〜70℃である、請求項1または2に記載の、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸の製造方法。
【請求項4】
アルカリ金属重炭酸塩が重炭酸ナトリウムであり、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸のアルカリ金属塩がナトリウム塩である、請求項1〜3の何れかに記載の、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸の製造方法。
【請求項5】
酸析時に用いる酸が、硫酸、塩酸、硝酸、燐酸、および酢酸からなる群から選択される1種以上である、請求項1〜4の何れかに記載の、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸の製造方法。

【公開番号】特開2006−315981(P2006−315981A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−138828(P2005−138828)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(000146423)株式会社ウエノテクノロジー (30)
【Fターム(参考)】