説明

4−アリールテトラヒドロピラン化合物の製造方法

【課題】工業的に有利な4−アリールテトラヒドロピラン化合物の製造方法を提供すること。
【解決手段】置換基を有していてもよい芳香族化合物と下記一般式(1)で表わされる化合物を、下記一般式(2)で表わされる金属ハロゲン化物の存在下に反応することを特徴とする下記一般式(3)で表わされる4−アリールテトラヒドロピラン化合物の製造方法。


[一般式(1)中、R1は水素原子または炭化水素基を表わす。R2は置換基を有していてもよいアルキル基を表わす。一般式(2)中、Mは金属原子を表わす。Xはハロゲン原子を表わし、nは1以上5以下の整数を表わす。一般式(3)中、Arは置換基を有していてもよい芳香族化合物残基を表す。R1は一般式(1)のR1と同義である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は4−アリールテトラヒドロピラン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4−アリールテトラヒドロピラン化合物は、例えば種々の高分子化合物に添加する可塑剤として有用である。
4−アリールテトラヒドロピラン化合物を製造する方法としては、塩化アルミニウムの存在下に4−クロロテトラヒドロピランとトルエン等の芳香族化合物を反応させる方法が開示されている(特許文献1)。
【特許文献1】米国特許第3,562,296号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に記載の方法では、4−クロロテトラヒドロピランを原料の1つとして用いるが、4−クロロテトラヒドロピランは入手が困難である。また、Chem. Ber., 88巻、 1053ページ(1955年)やJ. Pract. Chemie, 28巻、178ページ、(1965年)には、4−クロロテトラヒドロピランを製造する方法が開示されているが、操作が煩雑であることや、有害物質を使用することが問題となる。
【0004】
本発明の目的は、上述の問題点を解決し、工業的に有利な4−アリールテトラヒドロピラン化合物の製造方法を提供することである。
【0005】
本発明者らは上記の事情に鑑み、4−アリールテトラヒドロピラン化合物の製造方法について鋭意研究した結果、以下の手段によって上述の課題が解決されることを確認し、本発明を完成するに至った。
〔1〕置換基を有していてもよい芳香族化合物と下記一般式(1)で表わされる化合物を、一般式(2)で表わされる金属ハロゲン化物の存在下に反応することを特徴とする一般式(3)で表わされる4−アリールテトラヒドロピラン化合物の製造方法。
【0006】
【化2】

【0007】
[一般式(1)中、R1は水素原子または炭化水素基を表わす。R2は置換基を有していてもよいアルキル基を表わす。
一般式(2)中、Mは金属原子を表わす。Xはハロゲン原子を表わし、nは1以上5以下の整数を表わす。
一般式(3)中、Arは置換基を有していてもよい芳香族化合物残基を表す。R1は上記と同義である。]
〔2〕一般式(2)で表わされる金属ハロゲン化物が、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、塩化アンチモン(V)、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、塩化チタン(IV)、塩化錫(IV)からなる群より選択されることを特徴とする上記〔1〕に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、有害な原料等を使用する必要がなく、工業的規模で経済的かつ安全に4−アリールテトラヒドロピラン化合物を製造することができ、工業的に有利な4−アリールテトラヒドロピランの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に係る製造方法の好適な実施形態について説明する。
まず、置換基を有していてもよい芳香族化合物については、芳香環に結合した水素原子を少なくとも1つ有する化合物であれば特に制限はない。芳香環は単環であっても2つ以上の芳香環からなる縮合環であってもよい。また、芳香環は、環構造を形成する原子が炭素原子のみである芳香族炭化水素環であってもよいし、環構造中に炭素原子以外の元素を含む複素芳香族環であってもよいが、炭素原子のみからなる芳香族炭化水素環であることが好ましい。
芳香族炭化水素環としては、具体的にはベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環を有するものが挙げられ、ベンゼン環、ナフタレン環がより好ましく、ベンゼン環がさらに好ましい。
【0010】
芳香族化合物は、置換基を有していてもよい。置換基は、後に説明する本発明の製造条件で反応を妨げない、あるいは副反応を引き起こさない置換基であれば特に制限はなく、例えばハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、水酸基等が好ましい。また、置換基は可能であればさらに置換されていてもよく、環状構造を有するものであってもよい。
【0011】
置換基を有していてもよい芳香族化合物の具体的例としては、ベンゼン、フルオロベンゼン、クロロベンゼン、トルエン、フェノール、p-キシレン、メシチレン、メトキシベンゼン、エトキシベンセン等が挙げられる。
【0012】
次に、一般式(1)で表わされる化合物について説明する。
【化3】

【0013】
一般式(1)中、R1は水素原子または炭化水素基を表わす。
炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基を挙げることができ、これらの基は各種異性体も含む。R1は目的とする4−アリールテトラヒドロピラン化合物の構造により選択される。
【0014】
2は置換基を有していてもよいアルキル基を表わす。アルキル基の好ましい炭素数は1〜12、より好ましくは1〜6、さらに好ましくは1〜3である。
2が置換基を有する場合、当該置換基は金属原子と配位する性質を有するものが好ましい。具体的には炭素数1〜4のアルコキシ基、アリールオキシ基、炭素数1〜4のアルキルチオ基、合計炭素数2〜8のジアルキルアミノ基が挙げられ、好ましい置換基は、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、ジメチルアミノ基である。
この場合、置換基はR2の2位の炭素を置換することが好ましい。
【0015】
2として好ましくは、メチル基、エチル基、2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基、2−フェノキシエチル基であり、より好ましくはエチル基、2−メトキシエチル基である。
以下、一般式(1)で表わされる化合物の好ましい化合物例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0016】
【化4】

【0017】
次に、一般式(2)で表わされる金属ハロゲン化物について説明する。
一般式(2): MXn
【0018】
一般式(2)中、Mは金属原子を表わす。金属原子としては、例えば鉄、亜鉛、チタン等の遷移金属原子;アルミニウム、アンチモン、錫等の典型金属原子が挙げられる。
Xはハロゲン原子を表わす。ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
nは1以上5以下の整数を表わす。nは金属原子Mの価数により決定される。
一般式(2)で表わされる金属ハロゲン化物としては、具体的には、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、塩化アンチモン(V)、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、塩化チタン(IV)、塩化錫(IV)等を挙げることができる。
【0019】
次に、一般式(3)で表わされる4−アリールテトラヒドロピラン化合物について説明する。
【0020】
【化5】

【0021】
一般式(3)中、Arは置換基を有していてもよい芳香族化合物残基を表わす。すなわち、Arは前述の置換基を有していてもよい芳香族化合物に対応した構造となる。
芳香族化合物残基の芳香環は、単環であっても2つ以上の芳香環からなる縮合環であってもよい。また、芳香環は、環構造を形成する原子が炭素原子のみである芳香族炭化水素環であってもよいし、環構造中に炭素原子以外の元素を含む複素芳香族環であってもよいが、炭素原子のみからなる芳香族炭化水素環であることが好ましい。
芳香族炭化水素環としては、具体的にはベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等が挙げられるが、ベンゼン環、ナフタレン環がより好ましく、ベンゼン環がさらに好ましい。
【0022】
芳香族化合物残基は置換基を有していても良い。この置換基としては、例えば炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、炭素数1〜4のアルキルチオ基、水酸基等が好ましい。また、前記置換基は可能であればさらに置換されていてもよく、環状構造を有していてもよい。
Arとしては、ベンゼン、フルオロベンゼン、クロロベンゼン、トルエン、フェノール、p-キシレン、メシチレン、メトキシベンゼン、エトキシベンセンからなる群より選択される化合物の芳香環上の水素原子を1つ除いた基を好ましく例示することができ、より具体的かつより好ましくは、前記化合物の芳香環における水素原子の結合した炭素原子のうち、最も電子密度が高い炭素原子に結合した水素原子を1つ除いた基が挙げられる。
【0023】
一般式(3)中、R1は前述のものと同義である。
以下、一般式(3)で表わされる化合物の好ましい化合物例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
【化6】

【0025】
次に、本発明の製造方法の好ましい実施形態について詳述する。
まず、一般式(1)で表わされる化合物は、例えばT. W. Greene著、Protective Groups In Organaic Synthesis, JOHN WILEY & SONS 等に記載の方法に従い、3−ブテン−1−オールのO−アルキルエーテル化により製造することができる。
次に、この一般式(1)で表わされる化合物と、置換基を有していてもよい芳香族化合物とを、一般式(2)で表わされる金属ハロゲン化物の存在下に反応する。以下、この反応を「本発明に係る反応」という。
置換基を有していてもよい芳香族化合物の使用量は、一般式(1)で表わされる化合物に対して1.0〜100倍モルの範囲であることが好ましく、より好ましくは1.2〜50倍モル、さらに好ましくは1.2〜10倍モルの範囲である。
【0026】
一般式(2)で表わされる金属ハロゲン化物としては、先に説明した通り塩化亜鉛、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、塩化アンチモン(V)、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、塩化チタン(IV)、塩化錫(IV)等を挙げることができる。
これらの中でも、容易に入手でき、コスト面でも有利で、工業的にも良く用いられている塩化亜鉛、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、塩化鉄(III)、塩化チタン(IV)が好ましい。また、反応速度、反応率等の向上を目的に、塩化チタン(IV)と塩化アルミニウム、塩化鉄(III)と塩化アルミニウムのように複数の金属ハロゲン化物を併用することも好ましく使用される。
【0027】
一般式(2)で表わされる金属ハロゲン化物の使用量は、通常、一般式(1)で表わされる化合物に対して0.5〜10倍モルの範囲である。10倍モル以上であっても、目的物の生成率及び生成速度向上にはそれほど影響しないが、あまり過剰に金属ハロゲン化物を使用すると後の後処理、除去操作が煩雑になり、コストアップ、生産性の低下、廃棄物量の増大につながるため、工業スケールでの製造ではかえって障害となる。また、0.5倍モル以下であると、収率が低下することがある。
金属ハロゲン化物の使用量の好ましい範囲としては、0.5〜5倍モルであり、より好ましい範囲としては0.8〜2.5倍モルである。
【0028】
金属ハロゲン化物は最初から全量を使用してもよいし、複数回に分けて(例えば1.0倍モルずつを2回、等)使用しても良い。また、反応初期に1倍モルの塩化チタン(IV)を使用し、その後1倍モルの塩化アルミニウムを使用する等の態様も可能である。
【0029】
本発明に係る反応においては、溶媒を用いることもできる。
使用しうる反応溶媒としては、反応基質/反応中間体/反応生成物の析出等で攪拌不能になる等の工程操作上の問題等を引き起こさず、反応の進行を妨げず、かつ副反応を引き起こす等の悪影響を与えない限り特に制限はない。具体的には、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン等の脂肪族塩素系溶剤;ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、ペンタンに代表される脂肪族系炭化水素溶剤;シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル系溶剤等が挙げられる。これらの溶剤は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、反応に関与する置換基を有していてもよい芳香族化合物そのものを溶媒として使用することも可能である。
以上説明した中でも、本発明の好ましい実施形態は、脂肪族塩素系溶剤および/または脂肪族系炭化水素溶剤を用いる方法、あるいは置換基を有していてもよい芳香族化合物そのものを溶媒として使用する方法である。
【0030】
本発明に係る反応では、各原料の添加順序には特に制限はないが、置換基を有していてもよい芳香族化合物と一般式(2)で表わされる金属ハロゲン化物、及び必要に応じて溶媒を仕込み、これに一般式(1)で表わされる化合物を徐々に添加するのが好ましい。一般式(1)で表わされる化合物は、溶媒で希釈して使用してもよい。
【0031】
本発明に係る反応における反応温度は、通常−10〜100℃の範囲である。反応温度は、好ましくは−5〜50℃、より好ましくは−5〜30℃の範囲である。
反応時間は仕込み量、反応温度により異なり、通常0.5〜20時間であり、3〜10時間の範囲が好ましい。
また本発明の製造方法においては、反応初期の反応温度を低く設定し、反応後期は徐々に反応系を昇温するのが好ましい。反応の進行は、例えばガスクロマトグラフィー等で追跡することが可能であり、最適な反応条件を設定することができる。
本発明に係る反応では特に不活性な雰囲気は不要であるが、窒素またはアルゴン気流下で反応を行なってもよい。
【0032】
本発明に係る反応の後処理は、水、希塩酸等の鉱酸、あるいはメタノール等の低級アルコールの添加で反応を停止することで行なう。
反応を停止したのちの反応混合物は抽出、液液分離等に代表される化学工学的に常套の手段を適用することができ、有機層を濃縮ののち必要に応じてクロマトグラフィー、蒸留等の手法で精製することで一般式(3)で表わされる4−アリールテトラヒドロピラン化合物を得ることができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
本発明の製造方法において、目的物の純度検定に使用したガスクロマトグラフィー分析条件例を以下に示す。
カラム: DB-1301(島津製作所)、0.25mmφ×0.25μm×30m
カラム条件: 40℃(10分)−昇温 10℃/分−240℃(10分)
キャリアガス:He、流量 0.8mL/分、 入り口圧:78KPa、スプリット比:20
注入部温度:280℃、
検出部温度:300℃
【0035】
実施例1 例示化合物(5)の合成
塩化チタン(IV)9.5gのトルエン(120mL)溶液に、窒素気流下に氷冷しながら4−[(2−メトキシエトキシ)メトキシ]−1−ブテン8.0gを滴下した。反応混合物を氷冷しながら4時間、さらに室温で一夜攪拌した。メタノール20mL、3N−塩酸100mLを加えた後に分液操作により有機相を取り出し、水洗、無水硫酸マグネシウムで乾燥後濃縮した。残渣をクロマトグラフィーで精製し、目的とする例示化合物(5)を7.2g得た(収率82%、ガスクロマトグラフィー純度98%)。
【0036】
実施例2 例示化合物(6)の合成
4−[1−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]−1−ブテンを原料として用い、トルエンを溶媒として実施例1と同様な操作を行ない、例示化合物(6)を収率64%で得た。
【0037】
実施例3 例示化合物(7)の合成
4−[(2−メトキシエトキシ)メトキシ]−1−ブテンを原料として用い、クロロベンゼンを溶媒として実施例1と同様な操作を行ない、例示化合物(7)を収率72%で得た。
【0038】
実施例4 例示化合物(8)の合成
4−[(2−メトキシエトキシ)メトキシ]−1−ブテンを原料として用い、p−キシレンを溶媒として実施例1と同様な操作を行ない、例示化合物(8)を収率69%で得た。
【0039】
実施例5 例示化合物(9)の合成
4−[(2−メトキシエトキシ)メトキシ]−1−ブテンを原料として用い、ベンゼンを溶媒として実施例1と同様な操作を行ない、例示化合物(9)を収率76%で得た。
【0040】
実施例6 例示化合物(10)の合成
塩化チタン(IV)9.5 gと2,6−ジメチルフェノール18.3 gの塩化メチレン(120mL)溶液に、窒素気流下で氷冷しながら4−[(2−メトキシエトキシ)メトキシ]−1−ブテン8.0 gを滴下した。反応混合物を氷冷しながら3時間、さらに室温で一夜攪拌した。メタノール20mL、3N−塩酸100mLを加えた後に分液操作により有機相を取り出し、水洗、無水硫酸マグネシウムで乾燥後濃縮した。残渣をクロマトグラフィーで精製し、目的とする例示化合物(10)を5.6 g得た(収率54%)。
【0041】
実施例7 例示化合物(5)の合成
実施例1において、塩化チタン(IV)9.5gを塩化アルミニウム10.0gに変更した以外は同様な操作を行ない、目的物5.3gを得た(収率60%,ガスクロマトグラフィー純度96%)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
置換基を有していてもよい芳香族化合物と下記一般式(1)で表わされる化合物を、下記一般式(2)で表わされる金属ハロゲン化物の存在下に反応することを特徴とする下記一般式(3)で表わされる4−アリールテトラヒドロピラン化合物の製造方法。
【化1】

[一般式(1)中、R1は水素原子または炭化水素基を表わす。R2は置換基を有していてもよいアルキル基を表わす。
一般式(2)中、Mは金属原子を表わす。Xはハロゲン原子を表わし、nは1以上5以下の整数を表わす。
一般式(3)中、Arは置換基を有していてもよい芳香族化合物残基を表す。R1は一般式(1)のR1と同義である。]
【請求項2】
前記一般式(2)で表わされる金属ハロゲン化物が、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、塩化アンチモン(V)、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、塩化チタン(IV)、塩化錫(IV)からなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。