説明

4輪駆動車の動力伝達装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【課題を解決するための手段】本発明は、ケーシング内に入力シャフトと後輪用出力シャフトが同一軸線上に軸支され、両シャフトに平行に前輪用出力シャフトシャフトが配置され、入力シャフトからの回転を前輪用出力シャフトには常時伝達し、後輪用出力シャフトには所望時に伝達する4輪駆動車の動力伝達装置において、前記後輪用出力シャフトは、その前端部が前記入力シャフトの後端部の内側に軸支され、その後端部が前記ケーシングに設けられる軸受部に軸支され、前記後輪用出力シャフトには、入力シャフトの回転を駆動結合手段を介して受けて前輪用出力シャフトに伝達する伝達部材が軸支され、該伝達部材は、前記後輪用出力シャフトに対して遊転自在に支持されており、前記入力シャフトの後端が前記ケーシングに対して軸受部を介して軸支されており、前記伝達部材の後方でかつ前記軸受部に隣接した位置に、前記伝達部材と後輪用出力シャフトとを締結して伝達部材の回転を後輪用出力シャフトに伝達する摩擦多板クラッチ機構が設けられていることを特徴とする。
【0002】
【従来の技術】従来、入力シャフトからの回転を前輪用出力シャフト及び後輪用出力シャフトに伝達する動力伝達装置として、例えば、実開平1−149057号公報(実願昭63−46701号)に示されるものがある。この公報の装置は、常時後輪駆動のパートタイマ4WDに対するものであり、すなわち、入力シャフトからの回転は、ハイロー切換機構及び差動機構を介して、後輪用出力シャフトには常時伝達されるが、前輪用出力シャフトには所望時に伝達されるようになっている。ここで、差動機構からの回転を前輪用出力シャフトに所望時に伝達するために、駆動モード切換機構が設けられており、該駆動モード切換機構の切換により、3つのモード、すなわち、差動機構からの回転を前輪用出力シャフトに伝達しない2輪駆動モード、差動機構からの回転を前輪用出力シャフトに伝達するとともに前輪用出力シャフトと後輪用出力シャフトとの差動を許容するセンタデフフリーの4輪駆動モード、差動機構からの回転を前輪用出力シャフトに伝達するとともに前輪用出力シャフトと後輪用出力シャフトとの差動を規制するセンタデフロックの4輪駆動モード、のうちいずれか1つのモードが選択的に得られるようになっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記公報の動力伝達装置は、常時後輪駆動のパートタイム4WD用のものであり、これに対し、常時前輪駆動のパートタイム4WD用の動力伝達装置においては、次のような問題がある。常時前輪駆動のパートタイム4WDにおいて、入力シャフトからの回転は、前輪用出力シャフトには常時伝達されるが、後輪用出力シャフトには所望時に伝達される。そこで、動力伝達装置においては、入力シャフトに該入力シャフトと一体に回転する伝達部材が設けられ、入力シャフト及び伝達部材の回転により、前輪用出力シャフトが常時回転するようにし、一方、伝達部材とこれと同軸上に配置される後輪用出力シャフトとは、クラッチ機構により結合され、該クラッチ機構の締結時に、入力シャフト及び伝達部材の回転が後輪用出力シャフトに伝達されるようになっている。
【0004】この場合において、入力シャフトと後輪用出力シャフトとを動力伝達機構のケーシングで軸支し、この軸受部の間に、前輪用駆動系、後輪駆動系へ伝達される動力の速度を切り換える副変速機すなわちハイロー切換機構、前輪用出力シャフトに動力を伝達する伝達部材および後輪用出力シャフトへの動力伝達を制御するクラッチ機構などが配置される。
【0005】従来の構造では、クラッチ機構がケーシングによる入力シャフトおよび出力シャフトの軸受部からはなれた位置に配置されるため、入力シャフトまたは、出力シャフトの振動あるいは、撓みの影響を受けやすくクラッチ機構の隙間精度が低下するという問題といった精度上の問題、あるいは、適正な作動を確保することが困難であるという性能上の問題の他、耐久性の面でも好ましくない。
【0006】したがって、本発明の目的は、クラッチ機構が後輪用出力シャフトの振動振幅を極力おさえることができ、また、クラッチ機構の精度、耐久性を向上することができる4輪駆動車の動力伝達装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、ケーシング内に入力シャフトと後輪用出力シャフトが同一軸線上に軸支され、両シャフトに平行に前輪用出力シャフトシャフトが配置され、入力シャフトからの回転を前輪用出力シャフトには常時伝達し、後輪用出力シャフトには所望時に伝達する4輪駆動車の動力伝達装置において、前記後輪用出力シャフトは、その前端部が前記入力シャフトの後端部の内側に軸支され、その後端部が前記ケーシングに設けられる軸受部に軸支され、前記後輪用出力シャフトには、入力シャフトの回転を駆動結合手段を介して受けて前輪用出力シャフトに伝達する伝達部材が軸支されると共に該伝達部材の後方でかつ前記軸受部に隣接した位置に、前記伝達部材と後輪用出力シャフトとを締結して伝達部材の回転を後輪用出力シャフトに伝達する摩擦多板クラッチ機構が設けられていることを特徴とする。
【0008】
【作用】本発明において、入力シャフトの回転は、駆動結合手段を介して伝達部材に伝達され、該伝達部材の回転は、前輪用出力シャフトに伝達される。また、伝達部材の回転は、クラッチ機構の締結時には、後輪用出力シャフトに伝達される。なお、本発明において、駆動結合手段は、後輪用出力シャフトに軸支されていてもよい。
【0009】本発明において、駆動結合手段は、ハイロー切換機構であってもよい。また、本発明において、後輪用出力シャフトは、その前端部が入力シャフトの後端部の内側を介して前側軸受部に軸支され、その後端部がクラッチ機構の後方に配置された後側軸受部に軸支されていてもよい。
【0010】
【実施例】以下、図面に基づいて本発明の好適な実施例を説明する。図1には、動力伝達装置の断面が示されている。この動力伝達装置は、パートタイム4WD用のものであり、速度切り換え用副変速機すなわち、ハイロー切換機構を有している。
【0011】図1において、符号10は、ケーシングを示し、該ケーシング10内には、入力シャフト12、前輪用出力シャフト14、後輪用出力シャフト16が軸支されている。入力シャフト12は、軸受部18によりケーシング10に軸支され、エンジン・トランスミッションユニット(図示せず)により回転させられる。前輪用出力シャフト14は、軸受部20、22によりケーシング10に軸支され、前輪用動力伝達装置(図示せず)に回転を伝達する。後輪用出力シャフト16は、その前端部24が入力シャフト12の後端部26の内側を介して軸受部18に軸支され、その後端部28がクラッチ機構30の外筒33の後端から延びる延長部を介して軸受部36に軸支されている。クラッチ機構30の外筒33は、延長部およびこれに形成されたスプラインを介して後輪用出力シャフト16に係合し、この出力シャフト16と一体に回転するようになっている。この後輪用出力シャフト16は、後輪用動力伝達装置(図示せず)に回転を伝達する。
【0012】この構成では、後輪用出力シャフト16は、入力シャフト12の後端に入り込むようにして組み合わされるので、入力シャフト12の後端側で支持されるとともに、軸受部18によってケーシング10にも支持されるので出力シャフト16の振動による撓み量を少なくすることができる。また、クラッチ機構30もその構成部材である外筒33の後端から連続する延長部にによって軸受部36に支持されるので、クラッチ機構30に与える出力シャフト16の振動の影響は少なくなる。
【0013】前記後輪用出力シャフト16において、クラッチ機構30の前方には、スプロケット38が軸支され、一方、前輪用出力シャフト14には、スプロケット40が形成されており、両スプロケット38、40には、チェーン42が巻き掛けられている。それゆえ、スプロケット38の回転は、チェーン42を介してスプロケット40に伝達され、この結果、前輪用出力シャフト14が回転することとなる。
【0014】前記軸受部18とスプロケット38との間には、ハイロー切換機構44が配置されている。ここで、ハイロー切換機構44は、入力シャフト12の回転をその切換により高回転であるいは低回転でスプロケット38に伝達するものである。次に、ハイロー切換機構44について詳細に説明する。符号48は、後輪用出力シャフト16に軸支されたキャリアを示し、該キャリア48のシャフト50には、ピニオンギア52が軸支されている。また、後輪用出力シャフト16には、サンギア54が軸支され、該サンギア54のギア部55は、前記ピニオンギア52に噛合している。また、ケーシング10内には、ケース56が配置され、該ケース56内には、リングギア58が回転自在に配置されており、該リングギア58のギア部59は、前記ピニオンギア52に噛合している。
【0015】前記入力シャフト12の後端外側には、スプライン60が形成され、該スプライン60には、リング体62の内側のスプライン64が常時嵌合している。このリング体62の外側には、作動体66が設けられており、該作動体66の軸方向への移動により、リング体62は、軸方向に移動させられるようになっており、また、リング体62は、作動体66に対して回転可能である。なお、作動体66の外側のスプライン68は、ケース56の内側のスプライン70に常時嵌合しており、また、作動体66が右方に移動すると、該作動体66のスプライン68は前記リングギア58の内側のスプライン72に嵌合するようになっている。更に、リング体62の内側のスプライン64は、前記サンギア54の外側のスプライン74に常時嵌合しており、また、リング体62が右方に移動すると、該リング体62の外側のスプライン76は、前記キャリア48のシャフト50の前端内側のスプライン78との嵌合から外れるようになっている。
【0016】ハイロー切換機構44は、以上のように構成されており、以下、その作用を説明する。図1の状態においては、リング体62の内側のスプライン64は、入力シャフト12のスプライン60及びサンギア54のスプライン74に嵌合し、更に、リング体62の外側のスプライン76は、キャリア48のシャフト50のスプライン78に嵌合している。それゆえ、入力シャフト12は、リング体62を介してキャリア48に直結することとなり、この結果、該キャリア48は、入力シャフト12の回転と同速度で回転する。なお、このとき、作動体66のスプライン68は、ケース56のスプライン70に嵌合しているが、リングギア58のスプライン72との嵌合から外れているので、リングギア58は、空転状態である。
【0017】従って、図1の状態においては、ハイロー切換機構44は、高速回転状態である。また、図1の状態から作動体66及びリング体62が右方に移動すると、リング体62の内側のスプライン64は、入力シャフト12のスプライン及びサンギア54のスプライン74に嵌合したままであるが、該リング体62の外側のスプライン76は、キャリア48のシャフト50のスプライン78との嵌合から外れる。更に、作動体66のスプライン68は、ケース56のスプライン70及びリングギア58のスプライン72に嵌合している。それゆえ、入力シャフト12はリング体62を介して、サンギア54に直結するとともに、リングギア58は、作動体66を介して、ケース56に直結し静止状態である。この結果、サンギア54は、入力シャフト12の回転と同速度で回転するが、リングギア58は、静止状態であるので、ピニオンギア52を介して、キャリア48は、入力シャフト12の回転よりも低速度で回転する。
【0018】従って、図1の状態から作動体66及びリング体62を右方に移動すると、ハイロー切換機構44は、低速回転状態である。次に、クラッチ機構30について説明する。クラッチ機構30は、内筒32、外筒33、内筒32と外筒33との間に介在し、シャフト16の軸方向に重なり合うような状態で配置される複数のクラッチ板34と、クラッチ板34の一方の側に配置される、鉄片126と、クラッチ板34を挟んで鉄片126とは反対側に配置される電磁石128がケーシング110に設けられている。電磁石128が励磁されると、鉄片126が該電磁石128に向かって吸引され、これにより、クラッチ板34が軸方向に移動して内筒32と外筒33とがクラッチ板34を介して係合し、クラッチ機構30は締結状態になる。
【0019】これによって、入力シャフト12の駆動力は、スプロケット38、内筒32、クラッチ板34、外筒33を介してシャフト16に伝達され、後輪駆動系に伝達される。図1において、キャリア48は、連結部材150、152を介して、スプロケット38に直接に結合されている。なお、キャリア48と連結部材150とは、スプライン154により互いに嵌合され、また、連結部材150と連結部材152とは、スプライン156により互いに嵌合され、また、連結部材152とスプロケット38とは、スプライン158により互いに嵌合されている。
【0020】クラッチ機構30は、2WD/4WDの切換機構として機能する。クラッチ機構30の非締結時には、後輪用出力シャフト16は、スプロケット38及び前輪用出力シャフト14に対して自由な状態であり、この結果、入力シャフト12の回転は、ハイロー切換機構44を介して、前輪用出力シャフト14に伝達される(前輪駆動の2WDの状態)。
【0021】一方、クラッチ機構30が締結すると、後輪用出力シャフト16は、スプロケット38及び前輪用出力シャフト14に対して一体的な状態になり、この結果、入力シャフト12の回転は、ハイロー切換機構44を介して、スプロケット38から前輪用出力シャフト14に伝達されるとともに、更に、スプロケット38からクラッチ機構30を介して、後輪用出力シャフト16にも伝達される(4WDの状態)。
【0022】次に、図2には、本発明の第2実施例による動力伝達装置の断面が示されている。図2の動力伝達装置は、図1と同様に、常時前輪駆動のパートタイム4WD用であるが、図1と異なり、ハイロー切換機構を有していない。このため、入力シャフト12は、連結部材144、キャリア48、連結部材150、152を介して、スプロケット38に直接に結合されている。
【0023】図2において、他の構成は、図1と同様であるので、説明を省略する。
【0024】
【発明の効果】本発明によれば、後輪用出力シャフトは、入力シャフト12の後端に入り込むようにして組み合わされているので、入力シャフトの後端側で支持されるとともに、軸受部によってケーシングにも支持されるので振動による撓み量を少なくすることができる。また、クラッチ機構もケーシングの軸受部に近接して配置されるので後輪用出力シャフトの振動の影響を少なくすることができる。したがってクラッチ機構の動作精度、および耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】動力伝達装置の断面図。
【図2】他の動力伝達装置の断面図。
【符号の説明】
10 ケーシング
12 入力シャフト
14 前輪用出力シャフト
16 後輪用出力シャフト
30 クラッチ機構
44 ハイロー切換機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ケーシング内に入力シャフトと後輪用出力シャフトが同一軸線上に軸支され、両シャフトに平行に前輪用出力シャフトシャフトが配置され、入力シャフトからの回転を前輪用出力シャフトには常時伝達し、後輪用出力シャフトには所望時に伝達する4輪駆動車の動力伝達装置において、前記後輪用出力シャフトは、その前端部が前記入力シャフトの後端部の内側に軸支され、その後端部が前記ケーシングに設けられる軸受部に軸支され、前記後輪用出力シャフトには前記入力シャフトの回転を駆動結合手段を介して受けて前輪用出力シャフトに伝達する伝達部材が軸支され、該伝達部材は、前記後輪用出力シャフトに対して遊転自在に支持されており、前記入力シャフトの後端が前記ケーシングに対して軸受部を介して軸支されており、前記伝達部材の後方でかつ前記軸受部に隣接した位置に、前記伝達部材と後輪用出力シャフトとを締結して伝達部材の回転を後輪用出力シャフトに伝達する摩擦多板クラッチ機構が設けられていることを特徴とする4輪駆動車の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【特許番号】特許第3130061号(P3130061)
【登録日】平成12年11月17日(2000.11.17)
【発行日】平成13年1月31日(2001.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−30728
【出願日】平成3年2月26日(1991.2.26)
【公開番号】特開平4−212632
【公開日】平成4年8月4日(1992.8.4)
【審査請求日】平成9年12月10日(1997.12.10)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【参考文献】
【文献】特開 昭63−17119(JP,A)
【文献】特開 昭60−94821(JP,A)
【文献】特開 昭59−166755(JP,A)
【文献】実開 昭63−126655(JP,U)
【文献】実開 昭63−57848(JP,U)