説明

5−アミノレブリン酸塩酸塩の製造方法

【課題】高純度の5−アミノレブリン酸水溶液及び5−アミノレブリン酸塩酸塩の製造方法を提供すること。
【解決手段】pH2.5〜7に調整した5−アミノレブリン酸粗溶液をアンモニウム結合型又は水素イオン結合型の強酸性陽イオン交換樹脂に接触させて当該溶液中の5−アミノレブリン酸を当該陽イオン交換樹脂に吸着させた後、陽イオンを含む水溶液で脱着させ回収する方法であって、脱着液の電気伝導度又はpHの変化を回収の指標にすることを特徴とする5−アミノレブリン酸水溶液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物・発酵、動物・医療、植物等の分野において有用な5−アミノレブリン酸水溶液、及び5−アミノレブリン酸塩酸塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
5−アミノレブリン酸は、微生物分野においては、ビタミンB12生産、ヘム酵素生産、微生物培養、ポルフィリン生産などに、動物分野及び医療分野においては、感染症治療、殺菌、ヘモフィラス診断、誘導体原料、除毛、リウマチ治療、がん治療、血栓治療、癌術中診断、動物細胞培養、ヘム代謝研究、育毛、重金属中毒ポルフィリン症診断、貧血予防などに、農業分野においては植物生長調節、耐塩性などに有用であることが知られている。
【0003】
一方、5−アミノレブリン酸の製造法は、化学合成法と微生物発酵法に大別される。化学合成法としては、原料として馬尿酸(特許文献1参照)、コハク酸モノエステルクロリド(特許文献2参照)、フルフリルアミン(例えば、特許文献3参照)、ヒドロキシメチルフルフラール(特許文献4参照)、オキソ吉草酸メチルエステル(特許文献5参照)、無水コハク酸(特許文献6参照)を使用する方法が報告されている。微生物発酵法においては、微生物触媒として、嫌気性菌、藻類、光合成細菌、各種遺伝子組換え菌などを使用する方法が報告されている。特に、光合成細菌ロドバクター属の微生物を用いた発酵法が代表的である(特許文献7参照)。
【0004】
しかしながら、前述の手法で製造される5−アミノレブリン酸粗溶液は、目的に応じて精製して利用される場合がある。微生物発酵法は5−アミノレブリン酸の安価な工業的製造方法として知られているが、発酵液には糖類、タンパク質、アミノ酸類、有機酸類、金属イオンなど、様々な化合物が共存している。とりわけ、5−アミノレブリン酸に化学的性質が類似しているグリシンなどのアミノ酸は、5−アミノレブリン酸粗溶液からの除去が困難である。また、5−アミノレブリン酸塩酸塩の結晶を製造するには5−アミノレブリン酸塩酸塩の水溶液に貧溶媒を混合し晶析するが、この晶析工程においてはグリシンなどのアミノ酸やその他夾雑物が混合していると5−アミノレブリン酸塩酸塩の結晶成長を阻害する問題点を有する。従って、晶析工程前にこれら夾雑物を除去する必要がある。
【0005】
一方で、5−アミノレブリン酸の塩は極めて高い水溶性を有し、その溶解度は水溶液のpH、温度、水溶液に共存する溶質などによるが、5−アミノレブリン酸塩酸塩の場合で室温にて3M以上である。従って、晶析工程に使用する5−アミノレブリン酸塩酸塩の水溶液は飽和溶解度近くまで高度に濃縮されていることが好ましい。前述のように、5−アミノレブリン酸塩酸塩の結晶を製造するためには、結晶化を妨げる不純物を除去すると共に、脱水により5−アミノレブリン酸塩酸塩を濃縮する必要がある。このような脱水濃縮技術として減圧濃縮機が挙げられるが、工業生産のために大量の5−アミノレブリン酸塩酸塩水溶液を濃縮する場合、5−アミノレブリン酸塩酸塩の水溶液を減圧環境下で長時間加熱する必要があり、装置の運転には加熱と冷却に伴う大きな熱量が要求される。また、5−アミノレブリン酸塩酸塩には塩化物イオンが含まれていることから、減圧濃縮装置の耐圧性能だけでなく耐腐蝕性を考慮する必要がある。従って、減圧濃縮とは異なる5−アミノレブリン酸塩酸塩の水溶液の脱水濃縮技術が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭48−92328号公報
【特許文献2】特開昭62−111954号公報
【特許文献3】特開平2−76841号公報
【特許文献4】特開平6−172281号公報
【特許文献5】特開平7−188133号公報
【特許文献6】特開平9−316041号公報
【特許文献7】特開平11−42083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は5−アミノレブリン酸粗溶液から5−アミノレブリン酸を特異的に分離することによる5−アミノレブリン酸水溶液及び5−アミノレブリン酸塩酸塩の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、5−アミノレブリン酸粗溶液に含まれる5−アミノレブリン酸を陽イオン交換樹脂に吸着させた後に陽イオンを含む水溶液で脱着させるに際し、脱着液の電気伝導度又はpHの変化を回収の指標にすることにより、晶析など実用上許容される程度に共存する化合物を除去し、5−アミノレブリン酸を濃縮した5−アミノレブリン酸水溶液が得られることを見出した。さらに、該脱着液に塩化物イオンを混合し有機溶媒を混合することにより5−アミノレブリン酸塩酸塩の結晶が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、5−アミノレブリン酸粗溶液を陽イオン交換樹脂に接触させて当該溶液中の5−アミノレブリン酸を陽イオン交換樹脂に吸着させた後、陽イオンを含む水溶液で脱着させ回収する方法であって、脱着液の電気伝導度又はpHの変化を回収の指標にすることを特徴とする5−アミノレブリン酸水溶液の製造方法を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、上記の如くして得られた5−アミノレブリン酸水溶液と塩化物イオンとを接触させることを特徴とする5−アミノレブリン酸塩酸塩の製造方法を提供するものである。
【0011】
さらに、本発明は、上記の如くして得られた5−アミノレブリン酸水溶液と塩化物イオンとを接触させ、得られた水溶液にアルコール類又はケトン類の少なくとも1種の有機溶媒を混合することを特徴とする5−アミノレブリン酸塩酸塩結晶の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高純度の5−アミノレブリン酸水溶液及び5−アミノレブリン酸塩酸塩を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】5−アミノレブリン酸を含む粗水溶液のpHと5−アミノレブリン酸のカラム吸着におけるカラム通過液の5−アミノレブリン酸濃度との関係を示す図である。
【図2】5−アミノレブリン酸を含む粗水溶液のpHと5−アミノレブリン酸のカラム脱着におけるカラム通過液の5−アミノレブリン酸濃度との関係を示す図である。
【図3】5−アミノレブリン酸脱着におけるカラム通過液の5−アミノレブリン酸濃度とグリシン濃度との関係を示す図である。
【図4】5−アミノレブリン酸脱着におけるカラム通過液の5−アミノレブリン酸濃度とアンモニア濃度との関係を示す図である。
【図5】5−アミノレブリン酸脱着におけるカラム通過液の5−アミノレブリン酸濃度と電気伝導度又はpHとの関係を示す図である。
【図6】5−アミノレブリン酸脱着におけるカラム通過液の5−アミノレブリン酸濃度と電気伝導度変化率又はpH変化率との関係を示す図である。ここでの電気伝導度変化率又はpH変化率は、カラム容量あたりの変化率として表した。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の5−アミノレブリン酸水溶液及び5−アミノレブリン酸塩酸塩を製造するのに用いる5−アミノレブリン酸粗溶液としては、5−アミノレブリン酸が溶媒に溶解している粗溶液であれば特に制限されず、純度なども制限されない。つまり、特開昭48−92328号公報、特開昭62−111954号公報、特開平2−76841号公報、特開平6−172281号公報、特開平7−188133号公報、特開平11−42083号公報等に記載の方法に準じて化学合成法又は微生物発酵法により製造した、5−アミノレブリン酸粗溶液、それらの精製前の化学合成溶液や発酵液を使用できる。これらの溶液中の5−アミノレブリン酸の濃度は、0.1mM以上、更に0.1mM〜3M、特に1mM〜3Mが好ましい。
【0015】
上記公報等に記載の化学合成法又は微生物発酵法により製造した、5−アミノレブリン酸粗溶液には、糖類、アミノ酸類、有機酸類、アルコール類、金属イオン、タンパク質、ホウ酸、リン酸などが含まれている場合があり、特に、発酵法で製造した5−アミノレブリン酸粗溶液の場合には、グリシンが共存している場合がある。
【0016】
5−アミノレブリン酸の陽イオン交換樹脂への吸着は、5−アミノレブリン酸粗溶液を陽イオン交換樹脂と接触させることにより実施できる。5−アミノレブリン酸粗溶液の溶媒としては5−アミノレブリン酸が溶解すれば特に制限されないが、水、ジメチルスルホキシド、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール等)、アミド類(N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等)、ピリジン類などが挙げられ、水、ジメチルスルホキシド、メタノール及びエタノールが好ましく、水が特に好ましく、2種以上の溶媒を混合して用いてもよい。
【0017】
5−アミノレブリン酸粗溶液のpHは特に制限されないが、pHが0.5〜7であることが好ましく、特に、pHが2.5〜5であることが好適である。このpHを調整するためのpH調整剤としては、塩酸、硫酸、亜硫酸、リン酸、亜リン酸、硝酸、亜硝酸、ホウ酸、有機酸類(フタル酸、クエン酸、コハク酸、酢酸、乳酸、酒石酸、シュウ酸、フタル酸、マレイン酸等)、Tris、MOPS、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニアなどが挙げられ、これらの2種以上を混合して用いてもよい。陽イオン交換樹脂としては、強酸性陽イオン交換樹脂又は弱酸性陽イオン交換樹脂のいずれでもよい。また、キレート樹脂も好適に使用できる。これらのうちで、強酸性陽イオン交換樹脂が好ましい。強酸性陽イオン交換樹脂の種類としては、特に、官能基がスルホン酸基であるポリスチレン系樹脂の強酸性陽イオン交換樹脂が好ましい。官能基に結合しているイオンとしては、水素イオン又はアンモニウムイオンが好ましい。
【0018】
脱着に用いられる陽イオンを含む水溶液としては特に限定されないが、リン酸、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物又は炭酸塩、アンモニア、アミン、アミノ基を有する化合物を水に溶解したものが好ましい。具体的には水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化セシウム、水酸化バリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カリウムナトリウム、炭酸水素カリウム、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミンを水に溶解したものがより好ましく、アンモニアを水に溶解したものが特に好ましい。これらの水溶液は2種以上を組み合わせて使用してもよい。アンモニア水の濃度は、0.01〜10Mが好ましく、0.1〜3Mがさらに好ましく、0.1〜2Mが特に好ましい。
【0019】
陽イオン交換樹脂から脱着する5−アミノレブリン酸を回収する方法としては、5−アミノレブリン酸脱着液のpH又は電気伝導度の変化を指標とすることができる。これらの変化は、カラム容量あたりの変化率として定義され、以下、電気伝導度変化率又はpH変化率とする。
【0020】
5−アミノレブリン酸を吸着したカラムを水洗している定常状態に脱着液を通液した場合、5−アミノレブリン酸の脱着の開始は、電気伝導度の上昇又はpHが中性付近までの上昇により示される。その電気伝導度変化率としては0.1mS/cm/カラム容量以上、pH変化率としては0.1/カラム容量以上を示し、5−アミノレブリン酸水溶液の回収開始の指標として用いることが出来る。より好ましくは、電気伝導度変化率としては0.5mS/cm/カラム容量以上、pH変化率としては0.5/カラム容量以上を指標として用いることが出来る。
【0021】
その後、5−アミノレブリン酸濃度の上昇と共に電気伝導度又はpHはゆるやかに上昇し、これらの変化率は低下するが、この変化を確認しながら5−アミノレブリン酸を回収することができる。
さらに、5−アミノレブリン酸の脱着の終了は、5−アミノレブリン酸回収液についての電気伝導度の急激な上昇又はpHの急激な上昇により示される。その電気伝導度変化率としては2.5mS/cm/カラム容量以上、pH変化率としては0.6/カラム容量以上を示し、5−アミノレブリン酸水溶液の回収終了の指標として用いることが出来る。より好ましくは、電気伝導度変化率としては7mS/cm/カラム容量以上、pH変化率としては1/カラム容量以上を指標として用いることが出来る。
【0022】
これら5−アミノレブリン酸水溶液の回収開始と回収終了の指標を組み合わせて用いることにより5−アミノレブリン酸を回収することができるが、特に、5−アミノレブリン酸の回収開始時に電気伝導度変化率、5−アミノレブリン酸の回収終了時にpH変化率を指標とすることが好適である。
【0023】
上記のようにして、5−アミノレブリン酸水溶液が製造されるが、この水溶液に塩化物イオンを添加することにより、5−アミノレブリン酸塩酸塩が製造できる。塩化物イオンの添加量は、陽イオン交換樹脂に吸着させる5−アミノレブリン酸の量から推定され、陽イオン交換樹脂から脱着される5−アミノレブリン酸量に対して、1〜100倍量(モル比)が好ましく、特に1〜10倍量(モル比)が好ましい。なお、吸着した5−アミノレブリン酸量から推定される5−アミノレブリン酸の脱着量は、陽イオン交換樹脂の種類と容量、脱着液のアンモニア濃度、通液の速度などによっても異なるが、通常、5−アミノレブリン酸の回収率は60〜100%である。
【0024】
塩化物イオン源としては、塩酸、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化亜鉛、塩化コリン、塩化鉄などが挙げられ、2種以上を組み合わせて使用しても良く、特に塩酸が好ましい。また、塩化物イオン源は、上記記載の5−アミノレブリン酸の陽イオン交換樹脂への吸着の際に使用できる溶媒に溶解させて使用することができる。好ましい溶媒は、水である。塩化物イオンの添加の方法は、特に制限されない。
【0025】
この5−アミノレブリン酸回収水溶液を、陽イオン交換樹脂への吸着と、その後に陽イオンを含む水溶液で脱着させることを複数回繰り返すことにより、5−アミノレブリン酸を濃縮することが可能である。5−アミノレブリン酸のカラムへの吸着条件についてはカラムへの吸着率が高いほど、脱着条件については脱着液のイオン濃度が高いほど、5−アミノレブリン酸回収水溶液の5−アミノレブリン酸濃度を高くすることができ、目的に応じて5−アミノレブリン酸回収水溶液の5−アミノレブリン酸濃度を調節することが可能である。このような5−アミノレブリン酸のイオン交換カラム濃縮工程を複数回繰り返す場合において、5−アミノレブリン酸回収水溶液に塩化物イオンを添加することは特に必要でなく、他の酸類を用いても良い。特に、水素イオン型陽イオン交換樹脂を用いる場合においては、これら酸類を添加しなくても良い。
【0026】
ここで5−アミノレブリン酸水溶液は、上記のようにして回収される水溶液を意味しているが、濃縮した水溶液や希釈した水溶液、又pHを上記記載のpH調整剤等により、pH調整した水溶液も含む。
【0027】
5−アミノレブリン酸塩酸塩は、固体でも溶液でもよい。固体とは、結晶を示すが、水和物でもよい。溶液とは、水をはじめとする溶媒に溶解又は分散した状態を示す。又pHを上記記載のpH調整剤等により、pH調整した溶液も含む。5−アミノレブリン酸塩酸塩を結晶として得るには、前記の如くして得られた5−アミノレブリン酸水溶液と塩化物イオンを添加して得られた水溶液に、貧溶媒を添加することにより行われる。
【0028】
貧溶媒としては、5−アミノレブリン酸塩酸塩の結晶が析出するものであれば特に制限されないが、アルコール類(メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール、ノルマルブタノール、イソブタノール等)、エーテル類(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、γ-ブチロラク
トン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、ニトリル類(アセトニトリル、ベンゾニトリル等)などが挙げられるが、アルコール類又はケトン類が好ましく、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ノルマルプロパノール又はアセトンが特に好ましい。2種以上の貧溶媒を混合して用いてもよいが、エタノール、アセトン又はイソプロパノールが特に好ましい。
【0029】
陽イオン交換樹脂から脱着される5−アミノレブリン酸水溶液と塩酸の混合時の温度は、該混合液が固化しない状態において、−20〜60℃が好ましい。必要に応じて脱水濃縮してもよく、エバポレーターを用いることができる。また、析出した5−アミノレブリン酸塩酸塩結晶の採取は濾過により行うのが好ましい。
【実施例】
【0030】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0031】
実施例1
強酸性陽イオン交換樹脂(ダウケミカル社製、Dowex−50)の10mLをエンプティカラムに充填し、2M塩酸水溶液及び2Mアンモニア水溶液を通液しアンモニウムイオンを結合したイオン交換カラムを調製した。
一方で、特開平11−42083号と同様の方法によりグリシンが共存する5−アミノレブリン酸発酵液(25mM 5−アミノレブリン酸、11mM グリシン)を作製し、濃硫酸にてpH2.0、pH3.0、pH4.0、pH5.0の4種類を調製した。これら発酵液50mLを前述のアンモニウムイオン型イオン交換カラムに送液した。
イオン交換カラムを通過した液について回収し、イオン交換カラムに対する5−アミノレブリン酸及びグリシンの吸着特性を薄層クロマトグラフィーにて観察した。薄相クロマトグラフィーの条件としては、固相としてシリカゲル薄層プレート、移動相としてエタノールと水を70:30で混和したものを用いた。展開後はニンヒドリンをスプレーし、アミノ酸を検出した。この定性試験の結果を表1に示した。
【0032】
【表1】

【0033】
実施例2
強酸性陽イオン交換樹脂(ダウケミカル社製、Dowex−50)の10mLをエンプティカラムに充填し、2M塩酸水溶液及び2Mアンモニア水溶液を通液しアンモニウムイオンを結合したイオン交換カラムを調製した。
一方で、特開平11−42083号と同様の方法によりグリシンを夾雑物として含有する5−アミノレブリン酸発酵液(25mM 5−アミノレブリン酸、6.7mM グリシン)を作製し、濃硫酸にてpH2.0 、pH3.0、pH4.0、pH4.4、pH4.6、pH4.8、pH5.0の7種類を調製した。これら発酵液50mLを前述のアンモニウムイオン型イオン交換カラムに送液した。カラムを通過した液について回収し、5−アミノレブリン酸の吸着率を測定した。この結果を表2に示したが、5−アミノレブリン酸の水溶液のpHが4.0以下の条件において、5−アミノレブリン酸がアンモニウムイオン型イオン交換カラムに効率的に吸着した。
【0034】
【表2】

【0035】
実施例3
強酸性陽イオン交換樹脂(オルガノ社製、Amberlite IR−120B)の10mLをエンプティカラムに充填し、2M塩酸水溶液及び2Mアンモニア水溶液を通液しアンモニウムイオンを結合したイオン交換カラムを調製した。
一方で、特開平11−42083号と同様の方法により5−アミノレブリン酸発酵液(25mM 5−アミノレブリン、6.7mM グリシン)を作製し、濃硫酸にてpH3.0、pH3.5、pH4.0の3種類を調製した。これら発酵液100mLを前述のアンモニウムイオン型イオン交換カラムに送液し、続いて、イオン交換水100mLを通液した。この操作の際、カラムを通過した液について1カラム容量毎に回収し、5−アミノレブリン酸濃度を測定した。この結果を図1に示した。
次いで、0.3Mアンモニア水溶液を用いてカラムに吸着した5−アミノレブリン酸を脱着させた。この操作の際、カラムを通過する液を0.5カラム容量毎に回収し、5−アミノレブリン酸濃度を測定した。この結果を図2に示した。得られた全てのフラクションについて、実施例1記載の薄相クロマトグラフィー法により分析を行ったが、グリシンを検出しなかった。
以上の結果を5−アミノレブリン酸の回収率として表3にまとめた。その結果、5−アミノレブリン酸発酵液のpHが3.0〜4.0の範囲において、イオン交換カラムを用いて5−アミノレブリン酸を精製及び濃縮することができ、5−アミノレブリン酸水溶液を得た。
【0036】
【表3】

【0037】
実施例4
強酸性陽イオン交換樹脂(オルガノ社製、Amberlite IR−120B)の10mLをエンプティカラムに充填し、2M塩酸水溶液及び2Mアンモニア水溶液を通液しアンモニウムイオンを結合したイオン交換カラムを調製した。
一方で、特開平11−42083号と同様の方法によりグリシンが共存する5−アミノレブリン酸発酵液(27mM 5−アミノレブリン酸、20mMグリシン)を作製し、濃硫酸にてpH3.5又はpH4.0の2種類を調製した。これら発酵液160mLを前述のアンモニウムイオン型イオン交換カラムに送液した。
次いで、0.3Mアンモニア水溶液を用いてカラムに吸着した5−アミノレブリン酸を脱着させた。この操作の際、カラムを通過した液について1カラム容量毎に回収し、5−アミノレブリン酸とグリシンの濃度を測定した。その結果を図3に示した。発酵液に含まれていた20mMのグリシンは、イオン交換カラム精製後の5−アミノレブリン酸回収液には観察されなかった。
【0038】
実施例5
強酸性陽イオン交換樹脂(オルガノ社製、Amberlite IR−120B)の170mLをエンプティカラムに充填し、2M塩酸水溶液を通液し水素イオンを結合したイオン交換カラムを調製した。
一方で、実施例3と同様の手法により5−アミノレブリン酸発酵液から5−アミノレブリン酸水溶液を調製し、濃硫酸を添加することによりpH4.0に調整した。この5−アミノレブリン酸水溶液(109mM 5−アミノレブリン酸)2000mLを前述の水素イオン型陽イオン交換カラムに送液し、続いてイオン交換水を通液した。
次いで、1Mアンモニア水溶液を用いてカラムに吸着した5−アミノレブリン酸を脱着させた。この操作の際、カラムを通過した液について0.5カラム容量毎に回収し、5−アミノレブリン酸とアンモニアの濃度を測定した。その結果を図4に示した。1Mアンモニア水溶液の通液に従って5−アミノレブリン酸濃度が上昇し、1Mアンモニア水溶液の通液が2.5カラム容量に達する付近では5−アミノレブリン酸濃度が460mMまで濃縮された。この時不純物であるアンモニウムイオンの混入は、1mM以下であった。その後、5−アミノレブリン酸の脱着の終了に伴い、アンモニア濃度が上昇した。
【0039】
実施例6
強酸性陽イオン交換樹脂(オルガノ社製、Amberlite IR−120B)の10mLをエンプティカラムに充填し、2M塩酸水溶液を通液し水素イオンを結合したイオン交換カラムを調製した。
一方で、実施例3と同様の手法により5−アミノレブリン酸発酵液から5−アミノレブリン酸水溶液(pH6.6)を調製した。この水溶液を2分し、一方に濃硫酸を添加することによりpH3.2に調整した。これらの5−アミノレブリン酸水溶液(92mM 5−アミノレブリン酸)130mLを前述の水素イオン型陽イオン交換カラムに送液し、続いてイオン交換水を通液した。次いで、0.5Mアンモニア水溶液を用いてカラムに吸着した5−アミノレブリン酸を脱着させた。
これらの結果を表4に示した。pH6.6とpH3.2の5−アミノレブリン酸水溶液に関して、両者共にカラム吸着工程においてカラム通過液には5−アミノレブリン酸を検出せず、5−アミノレブリン酸が効率的に吸着したことが示された。また、5−アミノレブリン酸の回収率は98.0〜99.1%であった。
【0040】
【表4】

【0041】
実施例7
強酸性陽イオン交換樹脂(三菱化学社製、SK−1B(H))の50Lをエンプティカラムに充填し、2M塩酸水溶液及び2Mアンモニア水溶液を通液しアンモニウムイオンを結合したイオン交換カラムを調製した。
一方で、特開平11−42083号と同様の方法により5−アミノレブリン酸発酵液(24mM 5−アミノレブリン酸)を作製し、濃硫酸にてpH4.0に調製した。この発酵液280Lを前述のアンモニウムイオン型イオン交換カラムに送液し、続いて、イオン交換水を通液した。
次いで、0.3Mアンモニア水溶液を用いてカラムに吸着した5−アミノレブリン酸を脱着させた。この操作の際、カラムを通過する液を0.2カラム容量毎に回収し、5−アミノレブリン酸濃度、電気伝導度、pHを測定した。これらの結果を図5に示すが、5−アミノレブリン酸の脱着の開始時は、電気伝導度が上昇すると共にpHも6.8付近まで上昇した。その後、5−アミノレブリン酸濃度が上昇するが電気伝導度とpHには大きな変化はなかった。さらに、5−アミノレブリン酸の脱着の終了時は、電気伝導度が急激に上昇しpHも急激に上昇した。これら変化を変化率として、図6に示した。
【0042】
実施例8
実施例5と同様の手法により5−アミノレブリン酸水溶液を作製し、5−アミノレブリン酸量に対して2倍量(モル比)の塩酸を添加した。次いで、エバポレーターにて濃縮し、5−アミノレブリン酸塩酸塩の水溶液(3M 5−アミノレブリン酸)を調製した。該5−アミノレブリン酸塩酸塩溶液を表5記載の貧溶媒に滴下し、析出した5−アミノレブリン酸塩酸塩の結晶を濾紙にて回収し、風乾後重量を測定した。
【0043】
【表5】

【0044】
実施例9
強酸性陽イオン交換樹脂(三菱化学社製、SK−1B(H))の140mLをエンプティカラムに充填し、1M塩化アンモニウム水溶液を通液しアンモニウムイオンを結合したイオン交換カラムを調製した。
一方で、特開平11−42083号と同様の方法により5−アミノレブリン酸発酵液(60mM 5−アミノレブリン酸)を作製し、濃硫酸を添加しpH3.5に調整した。この発酵液280mLを前述のアンモニウムイオン型陽イオン交換カラムに送液し、続いてイオン交換水を通液しカラムを洗浄した。次いで、0.3Mアンモニア水溶液を用いてカラムに吸着した5−アミノレブリン酸を脱着させた。カラムの通過液の電気伝導度とpHを測定し、電気伝導度が定常状態での0.0mS/cmから1.0mS/cmに上昇した時点で通過液の回収を開始した。これは電気伝導度変化率として、1.0mS/cm/カラム容量であった。また、pHが定常状態でのpH5.5からpH9.2に達したところで通過液の回収を終了した。これはpH変化率として、3.7/カラム容量であった。この回収液に、5−アミノレブリン酸量に対して等量(モル比)の濃塩酸を混合した。この回収液は390mLであり、5−アミノレブリン酸塩酸塩濃度としては42mM、pHは3.7であった。
【0045】
強酸性陽イオン交換樹脂(三菱化学社製、SK−1B(H))の20mLをエンプティカラムに充填し、1M塩酸水溶液を通液し水素イオンを結合したイオン交換カラムを調製した。次いで、前述のカラム通過液の回収液(5−アミノレブリン酸水溶液)を前述の水素イオン型イオン交換カラムに送液した。次いで、0.5Mアンモニア水溶液を用いてカラムに吸着した5−アミノレブリン酸を脱着させた。カラムの通過液の電気伝導度とpHを測定し、電気伝導度が定常状態での0.0mS/cmから1.0mS/cmに上昇した時点で通過液の回収を開始した。これは電気伝導度変化率として、1.0mS/cm/カラム容量であった。また、pHが定常状態でのpH4.5からpH7.0に達したところで通過液の回収を終了した。これはpH変化率として、2.5/カラム容量であった。この回収液(269mM 5−アミノレブリン酸、42mL)に濃塩酸を加え、pH0.8とした。
【0046】
この5−アミノレブリン酸塩酸塩の水溶液に活性炭0.5gを混合し30分間撹拌した。膜濾過により粉末活性炭を除去した後、5−アミノレブリン酸塩酸塩の水溶液の容量が1mLになるまでエバポレーターにて脱水濃縮した。この5−アミノレブリン酸濃縮液をイソプロパノール20mLに混合し、5−アミノレブリン酸塩酸塩を析出させ、真空乾燥した。最終的に1.47gの5−アミノレブリン酸塩酸塩を得、その純度は99.2%であった。
【0047】
以上のように、1段目のイオン交換カラム工程では5−アミノレブリン酸水溶液が390mL得られたが、この5−アミノレブリン酸水溶液を1mLまで脱水濃縮するにあたり、エバポレーターを用いた場合389mLの脱水が必要であった。しかしながら、イオン交換カラム工程を再度繰り返した結果、348mLの脱水により5−アミノレブリン酸水溶液を42mLまで濃縮できた。この結果、エバポレーターに求められる脱水量は41mLに減少した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH2.5〜7に調整した5−アミノレブリン酸粗溶液をアンモニウム結合型又は水素イオン結合型の強酸性陽イオン交換樹脂に接触させて当該溶液中の5−アミノレブリン酸を当該陽イオン交換樹脂に吸着させた後、陽イオンを含む水溶液で脱着させ回収する方法であって、脱着液の電気伝導度又はpHの変化を回収の指標にすることを特徴とする5−アミノレブリン酸水溶液の製造方法。
【請求項2】
脱着液の電気伝導度又はpHの変化が、それぞれ1カラム容量あたり0.5mS/cm以上又はpH0.5以上であることを回収開始の指標とし、それぞれ1カラム容量あたり2.5mS/cm以上又はpH1以上であることを回収終了の指標とすることを特徴とする請求項1に記載の5−アミノレブリン酸水溶液の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法により得られた5−アミノレブリン酸水溶液と塩化物イオンとを接触させることを特徴とする5−アミノレブリン酸塩酸塩の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の方法により得られた5−アミノレブリン酸水溶液と塩化物イオンとを接触させ、得られた水溶液にアルコール類又はケトン類の少なくとも1種の有機溶媒を混合することを特徴とする5−アミノレブリン酸塩酸塩結晶の製造方法。
【請求項5】
有機溶媒がメタノール、エタノール、イソプロパノール、ノルマルプロパノール又はアセトンであることを特徴とする請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
陽イオン交換樹脂がアンモニウムイオン結合型強酸性陽イオン交換樹脂であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項7】
5−アミノレブリン酸粗溶液に含まれる5−アミノレブリン酸の前記陽イオン交換樹脂への吸着と、その後に陽イオンを含む水溶液で脱着させる操作を複数回繰り返すことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項8】
陽イオンがアンモニウムイオンであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項9】
5−アミノレブリン酸粗溶液が、5−アミノレブリン酸発酵液であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項10】
5−アミノレブリン酸醗酵液が、グリシン含有5−アミノレブリン酸発酵液であることを特徴とする請求項9記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−121918(P2012−121918A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−51387(P2012−51387)
【出願日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【分割の表示】特願2005−273398(P2005−273398)の分割
【原出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(000105567)コスモ石油株式会社 (443)
【Fターム(参考)】