説明

8チタン酸カリウム粒子

【課題】発ガン性等に対し疑念のないチタン酸カリウム粒子を提供する。
【解決手段】粒子の長径が2μm未満で長径/短径比が5未満であり、さらに2未満の粒子が90%以上、3未満の粒子が97%以上の個数割合のチタン酸カリウム粒子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック、摩擦材、塗料、潤滑材、耐熱材、断熱材、紙の添加剤等に使用されるチタン酸カリウムに関し、特に衛生面に関わる形状的特性を重視したチタン酸カリウム粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸カリウムは、元来、長さが数μm〜数十μm、径が1μm以下の形状を有し、その形状は一般的に繊維状、針状、ウィスカー等と呼ばれている。その繊維形状を生かし、プラスチック、塗料、摩擦材等の分野で主に補強材として実用化され、広く普及している。しかし、繊維状粉末は、嵩高く、流動性が悪く、扱いにくいという性質がある。さらに繊維状粉末は粉塵が発生しやすく作業環境上の問題もある。
【0003】
アスベストの発ガン性が問題になっているが、その原因は繊維状の形状に関係するとの見方もある。アスベストに限らず、繊維材料について、スタントン(Stanton)の仮説では、繊維の径が0.25μm以下で長さが8μm以上の繊維が催腫瘍性が高いとしている。しかし、工業的に有用な繊維材料は作業環境での規準を設け利用されている。ILO(世界労働機関)では直径が3μm以下、長さが5μm以上かつ長さと直径との比が3以上の繊維を吸入性繊維としている。AIA(国際石綿協会)、DFG(Deutsche Forschungsgemeinschaft:ドイツ調査協会)も同様の繊維を繊維状ダストとして管理するものとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は安全性の観点に立脚して、形状特性の優れた、吸入性繊維の形状、寸法を有しない、チタン酸カリウム粒子を提供することを目的とする。
【0005】
本発明者はこの点に立脚して特願平11−103033号を出願しているが、本発明はさらに安全性の高いチタン酸カリウムに関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために鋭意開発されたもので、粒子の長径が2μm未満であることを特徴とするチタン酸カリウム粒子を提供する。より好ましくは1μm未満である粒子からなるものである。また、このチタン酸カリウムは、長径/短径比が5未満であることを特徴とする。
【0007】
さらに、本発明のチタン酸カリウム粒子の長径/短径比が2未満の粒子が90%以上、3未満の粒子が97%以上の個数割合であるものを提供する。
【0008】
本発明のチタン酸カリウムはK2O・nTiO2(n=1〜12)のものである。上記長径が2μm未満の特性を有する本発明に係るチタン酸カリウム粒子は、焼成によりK2Oを生成するK源として炭酸塩、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩等の1種以上とTiO2や水酸化チタン等の1種以上のTi源の混合物を焼成し、長径が2μm未満の粒子を生成させ、水を加えてスラリー化し、酸を加えて余分のKを溶出して目的組成に変換し、脱水後、熱処理を経て製造することができる。
【0009】
また、K源とTi源にK以外のアルカリ金属(Li,Na,Rb,Cs)の炭酸塩、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化アルカリ等の1種以上を少量添加配合した混合物を焼成し、長径が2μm未満の粒子を生成させることもできる。K以外のアルカリ金属の添加は、焼成時の融点を低下させることで、より低温での合成反応が完結し、繊維状への結晶成長が抑制されるものと思われる。
【0010】
なお、アルカリ金属は、本発明のチタン酸カリウムの結晶構造に若干固溶するが、目的のX線回折図を満足する範囲内で使用される。
【0011】
このようにして得られた長径が短かく、長径/短径比の小さいチタン酸カリウム粒子はX線回折において、回折強度が弱く、半価幅の拡い回折線を示す。このことは結晶性が乏しいことを示しており、繊維状でないことを示している。また、合成条件によっては、粒子が厚さの薄い扁平な形状の粒子が得られる。この扁平な粒子をX線回折するとその回折図の特徴の1つに、(hkl)で示されるミラー指数の(h00)面/(0k0)面の回折強度が3以下であることが認められる。これは、(0k0)の結晶面が配向していることに起因しているものと思われる。従来の繊維状のチタン酸カリウムが、b軸方向に伸長しているのに対し、本発明のチタン酸カリウムは厚さが薄く扁平な粒子が観察されることからもa軸、c軸の2方向への成長が大きいものと考えられる。このようなチタン酸カリウム粒子もまた繊維性がなく安全上好適なものである。
【0012】
なお、本発明のチタン酸カリウム粒子には用途上問題のない範囲のものにはK源との未反応のTiO2やチタン酸カリウムの熱分解で生成したTiO2が少量共存していてもよい。さらに、1次粒子が集合した2次粒子を含んでいてもよい。
【0013】
本発明のチタン酸カリウムは粒子である。又は、扁平で配向し易い特性を持つ。従って均一な摺動面を形成し、ブレーキ材等として優れた摺動特性を有する。また、プラスチック等に配合すれば寸法精度が高く、剛性の向上や表面平滑性の付与等精密成型品等として適している。また、繊維状のチタン酸カリウムに比べ高配合が可能なこと等の特性を生かした補強性を必要としない分野への応用が期待される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば長径が2μm未満のチタン酸カリウム粒子が提供される。この粒子は長径/短径比も小さく、人体への悪影響がないものであり、吸入性繊維を含まないので、安全に各種用途に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例のチタン酸カリウム粒子の10,000倍の顕微鏡写真である。
【図2】従来のチタン酸カリウム粒子の1,500倍の顕微鏡写真である。
【図3】実施例の粒子の長径/短径比の関係を示すグラフである。
【図4】実施例及び従来例のX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
長径/短径比の大きい粒子が、一般的に繊維状、針状、ウィスカー等と表現されているが、従来、長径/短径比の具体的な数値でその定義はされていない。そこで、本発明では安全性と生産性のバランスで長径/短径比を5未満とした。また長径/短径比を3未満、2未満で定義して本発明の粒子形状分布の指標とした。
【0017】
長径2μm未満に注目した理由はマクロ的には繊維による人体への悪影響に対する疑念を回避するためである。例えば、中皮腫患者の肺の中にあった石綿小体をSEM(走査型電子顕微鏡)で見たものが発表されている。中皮腫、肺ガンといった悪性腫瘍と石綿との関係や発ガンのメカニズムは未だ解明されていないが、最もポピュラーな考え方として、次のものがある。石綿が肺胞に到達すると、マクロファージ(貧食細胞)という異物退治の細胞が動員され、石綿を飲み込みタンパク質分解酸素を分泌して無害化しようと働く。ところが、3〜5μmほどのマクロファージはそれより大きな繊維長を有する石綿を飲み込むことができず、逆に膜が破られてしまう。すると、タンパク質分解酸素が周囲に漏れ始めタンパク質を成分とする肺胞細胞を破壊して炎症を生ずると云われている。一方、繊維性の低い粒子はたとえ肺胞に到達しても長径が1μm以下であれば呼気と共に体外に排出されると云われている。従って、本発明では長径が2μm未満、より好ましくは1μm未満のチタン酸カリウムであって、長径/短径比の小さい粒子を提供するものである。
【0018】
従来の繊維状のチタン酸カリウムが呼吸器系などの健康に影響を生ずる可能性については明らかではないが、繊維性が不要な用途に用いる場合には、危険な繊維のサイズとして考えられる吸入性繊維は無いことが望ましい。
【0019】
また、厚さの薄い扁平な形状の粒子から成るチタン酸カリウムも同様に吸入性繊維ではないので好適である。
【0020】
チタン酸カリウムは、高白色度、低モース硬度、低熱伝導率、高屈折率といった物性を持ち、耐熱性、耐薬品性、摺動特性に優れる物質としての特性を有している。従って、補強材としての用途以外に、プラスチック、摩擦材、塗料、紙等への添加剤や潤滑剤、耐熱材、断熱材、電気絶縁材、イオン交換体、触媒等として利用することもできる。更に、繊維状粉末が、嵩高く流動性が悪く扱いにくいのに対し、本発明のチタン酸カリウムは、これらの欠点が改良されている点で、適用範囲は広い。その適用において、目的に沿うよう、カップリング処理等の表面処理を施すこともでき、また、必要に応じ造粒することも可能である。
【0021】
チタン酸カリウム粒子は、プラスチック等に配合することによって、耐摩擦摩耗特性を付与するため、摺動部品等の用途に適している。
【0022】
ブレーキ等の摩擦材に用いた場合には、従来のチタン酸カリウム繊維を用いるよりも、摩擦係数が安定する等のすぐれた摩擦性能を発揮することが見い出されている。
【実施例】
【0023】
2CO3とTiO2に加えて、K以外のアルカリ金属を少量加えた混合物の配合割合、焼成条件を変えることによって、粒子形状や分布の異なる焼成物を得た。次いで、それぞれの焼成物に水を加えてスラリー化し、更にHClを加えてK+イオンを溶出させることによってTiO2/K2Oモル比を調整した後、熱処理を加え、K2O・8TiO2粒子を得た。
【0024】
それぞれ得られたK2O・8TiO2微粒子を化学分析すると、K以外のアルカリ金属量は、R2Oで3wt%以下(R:アルカリ金属)であった。
【0025】
更にK2O・8TiO2微粒子の電子顕微鏡画像を解析処理し、個々の粒子の長径と短径の寸法及び長径/短径比を求め、長径/短径比が3未満と2未満の個数割合、及びそれぞれの最小値、最大値、平均値を調べた。
【0026】
また、水中で超音波分散処理し、フランホーファ回折とミー散乱を測定原理とするレーザ式の粒度分布測定装置により粒度分布を測定し、累積篩下100%径(重量%)と50%径(重量%)を求めた。
【0027】
X線回折測定はDS=1°、SS=1°、RS=0.3mmのスリットを用い、CuKa線で測定した。K2O・8TiO2の(200)/(020)の回折強度比を求めた。結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
実施例1〜3で得られたチタン酸カリウムの粒子形状は、表1に示すように長径は最大で0.74〜1.73μmであり、長径/短径比は最大で2.95〜4.56である。また長径/短径比5未満の粒子の個数割合は100%、3未満の粒子個数割合は98.7〜100%、2未満の粒子個数割合は93.8〜98.0%である。(200)/(020)X線回折強度比は0.65〜2.54であった。
【0030】
図1は実施例1で得られた本発明のチタン酸カリウム粒子の10,000倍の代表的な顕微鏡写真、比較として示した図2は従来のチタン酸カリウムの1,500倍の顕微鏡写真である。図2に示す従来のチタン酸カリウムは、繊維形状を呈しているのに対し、図1に示す実施例の粒子は、長径が1μm以下でその大部分は長径/短径比が2以下である。また、厚さが薄い扁平な粒子形状が観察される。
【0031】
図3は、本発明の実施例1の粒子についてその短径と長径の関係をプロットしたものである。図中に長径/短径比=1,2,3,4,5の線を記入した。長径/短径比が5を越える粒子は皆無である。なお長径5μm以上、短径3μm以下、長径/短径比が3以上の有害繊維とされる領域を併せて示した。
【0032】
図1、図2に示す粒子のX線回折パターンを図4に示した。従来の8チタン酸カリウムは、鋭い回折ピークを示すのに対し本発明の8チタン酸カリウムは低結晶性である。(200)/(020)回折強度比は、従来品では6.3を示したが、実施例1では0.65である。実施例2、3においても(200)/(020)回折強度比は、3以下である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子が厚さの薄い扁平な形状であることを特徴とするチタン酸カリウム粒子。
【請求項2】
X線回折において(h00)面/(0k0)面の回折強度比が3以下であることを特徴とする請求項1記載のチタン酸カリウム粒子。
【請求項3】
K以外のアルカリ金属を含有していることを特徴とする請求項1又は2記載のチタン酸カリウム粒子。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−184921(P2009−184921A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125866(P2009−125866)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【分割の表示】特願平11−225610の分割
【原出願日】平成11年7月6日(1999.7.6)
【出願人】(000200301)JFEミネラル株式会社 (79)
【Fターム(参考)】